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光インターコネクトとSerDes|光通信・フォトニクス 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

光インターコネクトとSerDes
― 速さを倍にすると、銅線は半分しか届かない

チップとチップを結ぶ信号は、いまも多くが銅の配線を走っています。 その送受信を受け持つ回路が SerDes(シリアライザ/デシリアライザ)です。 IEEE のイーサネット規格では、1レーンの速さを 100 Gb/s から 200 Gb/s に倍にしたとき、 銅ケーブルの到達目標は2 m から1 mへ半分になりました。 NVIDIA の GB200 NVL72 は、72個の GPU をラックの中で銅のケーブルで結んでいます。 光がどこから必要になるのか——その境目は、銅と樹脂の損失が決めています。

構成:IEEE 802.3 の目標文書、OIF の実装合意・発表、LPO MSA の仕様書、NVIDIA の公式製品ページと技術ブログを一次情報として使用/最終更新 2026年9月

暗い背景の中で、細い銀色の被覆ケーブルが多数平行に束ねられ、緩やかに曲がりながら奥へ伸びている様子の概念イメージ
概念図(AI生成イメージ)。「チップどうしを結ぶ多数の電気配線」という状況を雰囲気として表現したものです。特定の製品のケーブル・本数・構造を示すものではありません。
この記事の構成
  1. SerDesと光インターコネクトとは何か(3行でつかむ)
  2. SerDesの仕事 ― 並列を直列に、そして傷んだ波形を読み解く
  3. なぜ銅は高い周波数で損をするのか
  4. 本稿の計算:損失の予算を「振幅の残り」で並べる
  5. 本稿の計算:レーン速度を倍にすると何が起きたか
  6. スケールアップ網 ― NVLink はラックの中を銅で結ぶ
  7. 素材技術者の視点①:損失の予算は、樹脂と銅箔で使い切られる
  8. 素材技術者の視点②:「銅で届く範囲」は材料が決める境界線
  9. 課題
  10. 用語集/参考資料/出典対応表
本記事の表記ルール

事実=規格・標準化団体の公開文書、企業の公式発表に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=策定中・計画中であり、確定や実績が確認できていない事項
このほか、物理の一般的な説明や材料設計上の読み取りは「解説」として区別しています。

1. SerDesと光インターコネクトとは何か(3行でつかむ)

  • SerDes:チップ内部の幅の広い並列データを、少数の高速な直列信号に変えて送り(シリアライズ)、受け取った直列信号を並列に戻す(デシリアライズ)送受信回路です。高速で走らせるほど配線で波形が崩れるので、それを補正する回路も含みます(解説)
  • 光インターコネクト:チップ間・装置間の信号の一部を光に置き換えてつなぐことです。電気の損失が大きくなる距離から先を、光が受け持ちます(解説)
  • 境目はどこか:IEEE P802.3dj の目標は、1レーン200 Gb/s で銅の同軸ケーブル(twin-axial)で少なくとも1.0 m、光ではシングルモードファイバで少なくとも500 m・2 kmなどを掲げています事実。数 m 以内は銅、それより先は光という分担が、規格の目標値にそのまま表れています(本記事による解説)
本シリーズの他の記事との関係

電気の区間を短くするために光を近づける方式は「Co-packaged Optics」編と「NPOとLPO」編で、 前面パネルに挿す光モジュールは「光トランシーバー」編で扱いました。 この記事は、その議論の前提になっている「電気の配線は、なぜ・どこまでしか届かないのか」を扱います。 PAM4 などの信号方式は「光変調と変調方式」編で扱っています。

2. SerDesの仕事 ― 並列を直列に、そして傷んだ波形を読み解く

SerDes の仕事(模式図) 送信側で直列にまとめ、配線で崩れた波形を受信側で読み解いて並列に戻す 並列 データ 送信 直列化 送り出し補正 受信 等化・判定 並列に戻す 並列 データ 配線(パッケージ・基板・コネクタ・ケーブル) 高い周波数ほど減衰し、波形が鈍る 出たときの波形 届いたときの波形 配線の損失が大きいほど、SerDes の補正回路は大きく・電力を食うようになる ※ 原理を示す模式図です。補正の方式(送信側の強調、受信側の等化、A/D 変換とデジタル処理など)は実装によって異なります。 ※ LPO MSA の仕様書は、ホスト側を「DSP based SerDes」とし、その補正能力を線形の光リンクに使うことを前提にしています。 ※ 最下段の一文は本記事による一般的な整理です。
図1 概念図(ベクター作図)。SerDes の一般的な働きを示す模式図です。ホスト側が DSP ベースの SerDes であることは LPO MSA の仕様書[参考資料5]によります。回路ブロックの分け方・波形の形は模式的なもので、特定の回路を示すものではありません。

並列の配線を何十本も引くより、少数の配線を高速で走らせるほうが、チップの端子数も配線の面積も節約できます。 その代わり、高速の信号は配線の中で減衰し、前後の記号と混ざり合います。 SerDes は、送り出すときに高い周波数を強調し、受け取ったときに崩れた波形を等化して、1記号ずつ判定し直します(解説)。 NVIDIA は、GPU 間通信の進歩を「high-speed low-power SerDes」(高速・低電力の SerDes)の革新が牽引していると述べています事実。

3. なぜ銅は高い周波数で損をするのか

電気の配線で信号が弱まる主な原因は2つです(解説)。

  • 導体損失:周波数が高くなると、電流は導体の表面近くだけを流れるようになります(表皮効果)。流れる断面が実質的に細くなるので抵抗が増え、銅の表面の凹凸があると電流の道のりがさらに長くなります
  • 誘電損失:配線を支える絶縁体(基板の樹脂やケーブルの被覆材)の分子が、高い周波数の電界に追従しきれずにエネルギーを熱として失います。損失の大きさは材料の誘電正接(Df、tanδ)と周波数に比例して増えます

どちらも周波数とともに増えるため、同じ配線でも、速く走らせるほど損失は大きくなり、同じ損失に収めるには配線を短くするしかありません(解説)。 規格が損失を「〇〇 GHz で △△ dB」という形で決めているのはこのためです。

4. 本稿の計算:損失の予算を「振幅の残り」で並べる

規格・実装合意は、用途ごとに許される損失の上限を決めています。1レーン約100 Gb/s(ナイキスト周波数 約26.56 GHz)の世代で並べると、次のようになります。

用途損失の上限(文書の記載)周波数出典
チップ間・チップと光エンジンの間(XSR+)bump-to-bump で 13 dB までナイキスト周波数OIF CEI-112G-XSR+-PAM4
LPO のホスト〜モジュール間の電気チャネル16 dB(線形仕様の13 dB から拡張)26.56 GHzLPO MSA 100G-DR-LPO
LPO の ASIC ダイ〜モジュールのダイ20 dB 以下を想定—LPO MSA 100G-DR-LPO
バックプレーン(100 Gb/s/レーン)28 dB 以下26.56 GHzIEEE 802.3ck・802.3df の目標
バックプレーン(200 Gb/s/レーン)ダイ間で 40 dB 以下53.125 GHzIEEE P802.3dj の目標

すべて事実(OIF 発表[参考資料4]、LPO MSA 仕様書[参考資料5]、IEEE 802.3ck 目標[参考資料1]、802.3df 目標[参考資料2]、P802.3dj 目標[参考資料3])。「—」は周波数の記載を本稿で確認していない欄です。

損失の上限を「届く振幅の割合」に直す(本稿の計算) 振幅の残り = 10^(−dB/20)。棒の長さは残る振幅に比例(100% = 400 px) 13 dB XSR+(チップ〜光エンジン) 16 dB LPO の電気チャネル 20 dB LPO のダイ〜ダイ 28 dB バックプレーン 100G 40 dB バックプレーン 200G 約22% 約16% 10% 約4% 1% ※ 13・16・20・28・40 dB は OIF、LPO MSA、IEEE 802.3ck/802.3df/P802.3dj の文書の値です。周波数は用途により異なります。 ※ 振幅の割合への換算は本記事の計算です。電力(振幅の2乗)で見ると 28 dB は約0.16%、40 dB は0.01% です。 ※ 規格ごとに損失の測り方(どこからどこまでか)が異なるため、厳密な横並びの比較ではありません。 ※ 40 dB は 53.125 GHz、それ以外は約 26.56 GHz(ナイキスト)での値です。
図2 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。損失の上限は OIF[参考資料4]、LPO MSA[参考資料5]、IEEE[参考資料1・2・3]の文書の値です。振幅・電力の割合は本記事の換算で、公表値ではありません。損失の測定区間が文書ごとに異なるため、厳密な比較ではありません。

バックプレーンの200 Gb/s では、送り出した振幅の1%しか届かない条件で動くことが目標になっています本稿の計算。 SerDes は、その1%の信号から、4段の PAM4 のどの段かを判定しなければなりません(本記事による解説)。

5. 本稿の計算:レーン速度を倍にすると何が起きたか

1レーン 100 Gb/s → 200 Gb/s で、IEEE の目標はこう変わった 損失を測る周波数 バックプレーンの損失上限 銅ケーブルの到達目標 26.56 GHz ↓ 53.125 GHz 2倍 28 dB ↓ 40 dB 振幅の残りは 約4% → 1% 2 m ↓ 1.0 m 半分 許す損失を 12 dB 増やしても、銅ケーブルの到達目標は半分になった ※ 100 Gb/s の値は IEEE 802.3ck(2018年3月採択)と 802.3df の目標、200 Gb/s の値は P802.3dj の目標(2024年3月版)によります。 ※ 「2倍」「半分」「約4%→1%」「12 dB」は本記事の計算です。到達目標は「少なくとも」の値で、実際の製品の到達距離ではありません。
図3 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。周波数・損失上限・到達目標は IEEE 802.3ck[参考資料1]、802.3df[参考資料2]、P802.3dj[参考資料3]の目標文書の値です。倍率・差・割合は本記事の計算で、公表値ではありません。
本稿の計算:数字の読み方
  • 周波数:53.125 ÷ 26.56 ≒ 2.0倍。レーン速度を倍にすると、損失を評価する周波数も倍になります本稿の計算
  • 損失の予算:40 − 28 = 12 dBの上積み。振幅に直すと約4.0%(28 dB)から1.0%(40 dB)へ、許容される残りが4分の1になります本稿の計算
  • 銅ケーブル:到達目標は「少なくとも2 m」から「少なくとも1.0 m」へ半分本稿の計算

前提と限界:規格の目標値は「少なくともこの距離・この損失で動くこと」を定めたもので、到達距離の上限や製品の実測値ではありません。

SerDes が4倍弱い信号を読めるように進化しても、銅ケーブルの長さは半分になった——これが、光が求められている理由の核心です(本記事による解説)。 レーン速度がさらに倍になれば、同じ関係が繰り返される可能性があります。

6. スケールアップ網 ― NVLink はラックの中を銅で結ぶ

AI 向けの計算機では、GPU どうしを結ぶ網が2種類あります。 ラック程度の範囲の GPU を1つの大きな計算機のように密に結ぶスケールアップ網と、それを多数束ねてデータセンター全体を結ぶスケールアウト網です(解説)。 NVIDIA の NVLink は前者の代表で、同社は「scale-up networking fabric」と説明しています事実。

NVLink の世代GPU あたりの帯域GPU あたりの最大リンク数GPU ドメイン合計帯域対応プラットフォーム
第4世代900 GB/s1887.2 TB/sHopper
第5世代1,800 GB/s188/72130 TB/s(NVL72)Blackwell
第6世代3,000 GB/s368/72216 TB/s(NVL72)Vera Rubin

すべて事実(NVIDIA NVLink 製品ページの仕様表[参考資料6])。同ページは仕様を「Preliminary specifications; may be subject to change」(暫定で変更の可能性あり)としています。

NVIDIA の技術ブログは、GB200 NVL72 の構成をこう説明しています事実。

  • 18台の計算ノードを、9台の NVLink スイッチトレイとケーブルカートリッジで相互接続する
  • 各スイッチトレイは100 GB の NVLink ポートを144個持ち、9台で72個の GPU それぞれの18本の NVLink ポートをすべてつなぐ
  • GPU を「a copper cable cartridge」(銅ケーブルのカートリッジ)で高密度に相互接続し、液冷を採用している
GB200 NVL72:ラックの中の NVLink を数える(本稿の計算) … … 計算ノード 18台 スイッチトレイ 9台 銅ケーブル GPU 側:72個 × 18ポート = 1,296 スイッチ側:9台 × 144ポート = 1,296 → 数が一致し、全ポートが1対1でつながる GPU あたり:18 × 100 GB/s = 1.8 TB/s ラック全体:72 × 1.8 TB/s ≒ 130 TB/s ビットに直すと GPU あたり 14.4 Tb/s (双方向の合計。片方向ではその半分の 7.2 Tb/s) これを 1,296 本の銅の NVLink が運ぶ ※ 18台・9台・144ポート・18ポート/GPU・銅ケーブル・1.8 TB/s・130 TB/s は NVIDIA の技術ブログと製品ページによります。 ※ 掛け算と一致の確認、ビットへの換算(1 B=8 bit)は本記事の計算です。 ※ 左の配線図は模式で、実際のケーブルの本数・経路・トレイの配置を示すものではありません。 ※ 1本のNVLinkポートの中の電気レーンの数と速さは、本稿で確認した NVIDIA の資料に記載がないため扱っていません。
図4 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。構成と帯域の値は NVIDIA の技術ブログ[参考資料7]と NVLink 製品ページ[参考資料6]によります。ポート数の掛け算、帯域の掛け算、ビットへの換算は本記事の計算です。配線図は模式で、実際の構造を示すものではありません。

ここで注目したいのは、GPU あたり双方向 14.4 Tb/s(片方向 7.2 Tb/s。1.6 Tb/s の光モジュール4.5本分に相当、本稿の計算)という帯域を、NVIDIA がラックの中では銅で運ぶ設計を選んでいることです。 第5章で見たとおり、銅は短い距離なら今も最も手軽な媒体です。 ラック1台の中に72個の GPU を詰め込み、液冷で冷やしているのは、裏返せば銅が届く距離の中に全部を収めるためとも読めます(本記事による解説)。

7. 素材技術者の視点①:損失の予算は、樹脂と銅箔で使い切られる

基板の配線の断面(模式図):損失はどこで生まれるか グラウンド層(銅) グラウンド層(銅) 絶縁樹脂(誘電体) 銅箔の表面の凹凸 差動の信号配線(2本1組) 導体損失 高周波の電流は表面に集まる → 銅の表面の凹凸が効く 周波数とともに増える 誘電損失 樹脂の分子が電界に遅れて追従 → 誘電正接(Df)が効く 周波数にほぼ比例して増える ※ 一般的な伝送線路の物理にもとづく模式図です(解説)。層の厚み・配線幅・凹凸の大きさは誇張しています。 ※ 実際の基板の層構成、ガラスクロスの有無、樹脂の種類は製品により異なります。 ※ LPO MSA の仕様書は、ASIC パッケージ・ホスト基板・モジュール基板それぞれの損失を推奨範囲に収めることを求めています。 ※ 損失の内訳の数値は、本稿で確認した一次情報に記載がないため示していません。
図5 概念図(ベクター作図)。一般的な伝送線路の物理にもとづく本記事の模式図です。各区間の損失を推奨範囲に収めることは LPO MSA の仕様書[参考資料5]によります。層構成・寸法・凹凸の大きさは誇張した模式で、特定の基板の断面ではありません。
素材技術者の読みどころ:「28 dB」「40 dB」は、材料に配られる予算

規格が決めているのは、送信チップのダイから受信チップのダイまで、あるいは端子から端子までの損失の合計です事実。 その内訳は、チップのパッケージ基板、プリント基板の配線、コネクタ、ケーブル——すべてが同じ予算を分け合います。 LPO MSA の仕様書が、ASIC パッケージ・ホスト基板・モジュール基板それぞれの損失の推奨範囲を図で示しているのは、その配分の一例です事実。

配線の長さが決まっていれば、損失を下げる手段は材料しか残りません(本記事による解説)。

  • 誘電正接の小さい樹脂:誘電損失を下げる。ただし低 Df の樹脂は、一般に銅との密着や耐熱、加工性とのトレードオフを抱える
  • 表面の平滑な銅箔:導体損失を下げる。しかし銅箔の凹凸は、もともと樹脂との密着(アンカー効果)のためのもの。平滑にするほど、別の方法で密着を確保しなければならない
  • ケーブルの誘電体:銅ケーブルでも同じ。導体の外側を包む絶縁材料の損失が、到達距離を決める

レーン速度が倍になるたびに、同じ長さの配線でも損失は増えます。 規格が損失の上限を 28 dB から 40 dB に広げても、その増分を SerDes の進化だけで吸収することはできず、 材料の低損失化が、1世代ごとに「前提」として組み込まれていく—— 高速基板材料の開発が世代ごとに求められる構造は、ここにあります(本記事による解説)。

8. 素材技術者の視点②:「銅で届く範囲」は材料が決める境界線

素材技術者の読みどころ:銅と光の境目は、固定ではなく「材料の出来」で動く

IEEE の目標では、1レーン200 Gb/s の銅ケーブルは「少なくとも1.0 m」です事実。 一方、NVIDIA は GB200 NVL72 でラックの中を銅ケーブルのカートリッジで結び事実、 スケールアウト網には InfiniBand や Ethernet の光ネットワークを組み合わせています(GB300 NVL72 の製品ページは Quantum-X800 InfiniBand・Spectrum-X Ethernet・ConnectX-8 SuperNIC との組み合わせを記載)事実。

つまり現在の境目は、「ラックの中は銅、ラックの外は光」に近いところにあります(本記事による解説)。 この境目の位置は、次の3つの綱引きで決まります。

  • 銅の側:ケーブル・基板・コネクタの材料の損失と、SerDes の補正能力
  • 光の側:光モジュール(光エンジン)の電力とコスト、そして信頼性(「光トランシーバー」編・「Co-packaged Optics」編)
  • 実装の側:どれだけ高密度に詰めて、冷やせるか(NVL72 は液冷)

低損失の樹脂や平滑な銅箔が1世代分進めば、銅はもう少し遠くまで届き、光に置き換わる時期は後ろにずれます。 逆に光エンジンの電力とコストが下がれば、境目はラックの中へ入ってきます。 光通信の材料と、高速基板の材料は、同じ境界線を反対側から押し合っている—— 素材メーカーにとっては、両方に関わりうるということでもあります(本記事による解説)。

9. 課題

(1) 200 Gb/s/レーンの規格は策定の途中

IEEE P802.3dj は、本稿の調査時点で正式承認を一次情報で確認できていません(「光トランシーバー」編を参照)未確定/将来。 さらに先の1レーン400 Gb/s 級について、P802.3dj タスクフォースの資料には400 Gb/s 信号の検討開始(CFI)が予定として記されています事実。 そのとき銅で何 m 届くのか、あるいは届かないのかは、本稿の調査時点では決まっていません未確定/将来。

(2) スケールアップ網の広がり

NVIDIA の技術ブログは、第5世代 NVLink が最大576個の GPUを1つの NVLink ドメインに接続できるとしています事実。 ラックを越えてスケールアップ網を広げるとき、その区間を何で結ぶのかについては、本稿で確認した NVIDIA の資料には具体的な記載がありませんでした。 スケールアップ網の光化の時期と方式は、本稿の調査時点では確認できていません未確定/将来。

(3) 本稿で扱わなかったこと

SerDes の消費電力(pJ/bit)、基板材料ごとの損失(dB/インチ)、NVLink の1ポートあたりの電気レーン数と速さは、 本稿で開いて確認できた一次情報に記載がなかった、または比較可能な形でそろわなかったため記載していません。

この記事のまとめ
  • SerDes は、並列を直列に変えて送り、崩れた波形を読み解く送受信回路です(解説)
  • 銅の損失は、導体(表皮効果・表面の凹凸)と誘電体(誘電正接)で生まれ、周波数とともに増えます(解説)
  • 1レーン 100 → 200 Gb/s で、評価周波数は2倍、損失予算は 28 → 40 dB、銅ケーブルの到達目標は 2 m → 1.0 m事実
  • 40 dB は、送った振幅の1%しか届かない条件です本稿の計算
  • GB200 NVL72 は、72 GPU を銅ケーブルのカートリッジで結び、GPU あたり 1.8 TB/s(14.4 Tb/s)を運びます事実(ビット換算は本稿の計算)
  • 銅と光の境目は、低損失の樹脂・平滑な銅箔と、光エンジンの電力・コストの綱引きで動きます(本記事による解説)

10. 用語集

SerDes
シリアライザ/デシリアライザ。並列データを高速な直列信号に変えて送受信する回路。
レーン
1組の差動配線で運ぶ1本の信号の流れ。
ナイキスト周波数
ボーレートの半分の周波数。損失の規格値を決める基準になる。
挿入損失
配線を通る間に信号が弱まる量(dB)。20 dB で振幅は10分の1。
等化
配線で失われた高周波成分を補い、崩れた波形を元に近づけること。
表皮効果
高い周波数の電流が導体の表面近くに集中して流れる現象。
誘電正接(Df)
絶縁材料が電界のエネルギーを熱として失う度合い。小さいほど低損失。
バックプレーン
装置の中でボードどうしをつなぐ基板の配線。
twin-axial ケーブル
2本の導体を1組として誘電体とシールドで包んだ、高速差動信号用の銅ケーブル。
XSR
Extra Short Reach。チップ間やチップと光エンジンの間の、ごく短い電気接続の規格区分(OIF)。
スケールアップ網
少数〜数十個の GPU を1つの計算機のように密に結ぶ網。NVLink など。
スケールアウト網
多数のサーバーやラックを結ぶ網。InfiniBand や Ethernet。
NVLink
NVIDIA の GPU 間接続。NVLink Switch によりラック内の全 GPU を相互接続する。

11. 参考資料(一次情報)

  1. IEEE 802.3「IEEE 802.3ck 100 Gb/s per Electrical Lane Objectives」2018年3月(PDF) — ieee802.org
  2. IEEE 802.3「Adopted IEEE P802.3df Objectives」2022年11月17日(PDF) — ieee802.org
  3. IEEE 802.3「Adopted IEEE P802.3dj Objectives」2024年3月14日(PDF) — ieee802.org
  4. OIF「OIF Unveils CEI-112G-XSR+-PAM4 Extended Extra Short Reach Implementation Agreement ...」2024年1月 — oiforum.com
  5. LPO MSA「100G-DR-LPO Revision 1.0」2025年3月(PDF) — lpo-msa.org
  6. NVIDIA「NVLink & NVLink Switch」製品ページ(仕様表) — nvidia.com
  7. NVIDIA「NVIDIA GB200 NVL72 Delivers Trillion-Parameter LLM Training and Real-Time Inference」技術ブログ — developer.nvidia.com
  8. NVIDIA「GB300 NVL72」製品ページ — nvidia.com
  9. IEEE P802.3dj Task Force「Timeline Consideration」2025年12月9日(PDF) — ieee802.org

12. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
1レーン100 Gb/s の電気バックプレーンで挿入損失28 dB 以下(26.56 GHz)、同軸銅ケーブルで少なくとも2 m を目標とすること(2018年3月採択)IEEE 802.3ck 目標文書出典1 https://www.ieee802.org/3/ck/P802_3ck_Objectives_2018mar.pdf事実
800 Gb/s(8レーン)の電気バックプレーンで28 dB 以下(26.56 GHz)、同軸銅ケーブルで少なくとも2 m を目標とすることIEEE P802.3df 目標文書出典2 https://www.ieee802.org/3/df/proj_doc/objectives_P802d3df_221117.pdf事実
1レーン200 Gb/s でダイ間挿入損失40 dB 以下(53.125 GHz)、同軸銅ケーブルで少なくとも1.0 m、SMF で少なくとも500 m・2 km などを目標とすることIEEE P802.3dj 目標文書出典3 https://www.ieee802.org/3/dj/projdoc/objectives_P802d3dj_240314.pdf事実
CEI-112G-XSR+-PAM4 がダイ間・ダイと光エンジン間の112 Gb/s PAM4 電気インターフェースで、ナイキスト周波数での bump-to-bump 挿入損失13 dB まで、36〜58 Gsym/s を規定し、MCM・CPO・NPO を対象とすることOIF 発表(2024年1月)出典4 https://www.oiforum.com/oif-unveils-cei-112g-xsr-pam4-extended-extra-short-reach-implementation-agreement-paving-the-way-for-advanced-interconnectivity/事実
LPO の電気チャネル損失上限を13 dB から16 dB に拡張(26.56 GHz)、ASIC ダイ〜モジュールダイ20 dB 以下を想定、各区間の損失の推奨範囲を示すこと。ホストが DSP ベースの SerDes であることLPO MSA 100G-DR-LPO 仕様書出典5 https://www.lpo-msa.org/files/live/sites/lpomsa/files/specs/LPO_MSA_Specification_v1p0_final.pdf事実
NVLink が「scale-up networking fabric」であること。世代ごとの GPU あたり帯域(900/1,800/3,000 GB/s)、最大リンク数(18/18/36)、GPU ドメイン、合計帯域(7.2 TB/s/130 TB/s/216 TB/s)、対応プラットフォーム。仕様が暫定で変更の可能性があることNVIDIA NVLink 製品ページ出典6 https://www.nvidia.com/en-us/data-center/nvlink/事実
GB200 NVL72 が18台の計算ノードを9台の NVLink スイッチトレイとケーブルカートリッジで相互接続すること。各スイッチトレイが100 GB の NVLink ポートを144個持ち、72 GPU それぞれの18ポートをつなぐこと。「a copper cable cartridge」で高密度に相互接続し液冷を用いること。1.8 TB/s(双方向)/GPU。第5世代 NVLink が最大576 GPU を1ドメインに接続できること。「high-speed low-power SerDes」の革新が GPU 間通信を牽引してきたことNVIDIA 技術ブログ出典7 https://developer.nvidia.com/blog/nvidia-gb200-nvl72-delivers-trillion-parameter-llm-training-and-real-time-inference/事実
GB300 NVL72 が Quantum-X800 InfiniBand・Spectrum-X Ethernet・ConnectX-8 SuperNIC と組み合わされることNVIDIA GB300 NVL72 製品ページ出典8 https://www.nvidia.com/en-us/data-center/gb300-nvl72/事実
P802.3dj タスクフォース資料に 400 Gb/s 信号の CFI が予定として記載されていることIEEE P802.3dj タスクフォース資料出典9 https://www.ieee802.org/3/dj/public/25_1209/dambrosia_3dj_01b_251209.pdf事実
13・16・20・28・40 dB の振幅比(約22%・約16%・10%・約4%・1%)と電力比。53.125÷26.56≒2.0、40−28=12 dB、許容される振幅の残りが4分の1、到達目標が半分。72×18=1,296、9×144=1,296、18×100 GB/s=1.8 TB/s、72×1.8≒130 TB/s、1.8 TB/s=14.4 Tb/s(片方向7.2 Tb/s)、片方向7.2÷1.6=4.5 で 1.6 Tb/s の光モジュール4.5本分本稿の計算。規格の損失は測定区間が異なり厳密な比較ではない。1 B=8 bit とした本稿の計算
P802.3dj の正式承認、1レーン400 Gb/s 級での銅の到達距離、スケールアップ網の光化の時期と方式策定中・検討段階であり、本稿の調査時点で確定していない見通しの事項未確定/将来
SerDes の働き、導体損失(表皮効果・表面の凹凸)と誘電損失(誘電正接)の説明、スケールアップ網とスケールアウト網の区別。規格の損失予算を材料に配られる予算と読む整理、低 Df 樹脂と平滑銅箔のトレードオフ、「ラックの中は銅、外は光」に近いという読み取り、銅と光の境目が材料と光エンジンの綱引きで動くという整理。NVL72 の高密度化・液冷を銅の届く範囲に収めるためと読む解釈一般的な物理の説明と、公開資料にもとづく本記事の整理・解説。各社・各団体が表明した見解ではない解説
SerDes の消費電力、基板材料ごとの損失値、NVLink の1ポートあたりの電気レーン数と速さ本稿で確認できた一次情報に記載がない、または比較可能な形でそろわなかったため記載していない解説
図1・図5が説明のための作図であること、図2・図3・図4が本稿の計算を含む作図であること。ヒーロー画像がAI生成イメージであること本記事による注記解説

最終更新:2026年9月26日/出典は一次情報(IEEE 802.3 の目標文書・タスクフォース資料、OIF の発表、LPO MSA の仕様書、NVIDIA の公式製品ページと技術ブログ)に限定しています。 物理の一般的な説明や材料設計上の読み取りを含むため、それらは「解説」として出典付きの事実と区別しています。 SerDes の消費電力、基板材料ごとの損失値、NVLink のレーン構成は、公開された一次情報で確認できなかったため記載していません。 NVIDIA の仕様表は同社が暫定としている値です。 図はすべて説明用の図です。図1・図5はベクター作図、図2・図3・図4は本稿の計算を含むベクター作図、ヒーロー画像はAI生成イメージであり、いずれも実際の製品の構造・配線・寸法を示すものではありません。