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NPOとLPO|光通信・フォトニクス 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

NPOとLPO
― 「箱をやめる」前に、「箱の中身を減らす」「箱を近づける」

光モジュールの電力を下げる道は、CPO(チップと同じパッケージに光を入れる)だけではありません。 LPOは、プラガブルの形はそのままに、モジュールの中のDSP(デジタル信号処理チップ)を取り除く方式です。 NPOは、光エンジンをチップのすぐ隣にソケットで載せ、壊れたら外せるようにした方式です。 どちらも、電力を下げる代わりに別の場所へ負担を移す技術です。その負担の行き先に、材料の問題があります。

構成:LPO MSA の仕様書・公式サイト、OIF の Co-Packaging Framework Document と発表資料を一次情報として使用/最終更新 2026年9月

暗い基板の上で、中央の大きな正方形のチップの周囲に小さな直方体のブロックが少し間隔を空けて並び、そこから細い光ファイバが伸びている概念イメージ
概念図(AI生成イメージ)。「チップの近くに光のブロックを置く」という状況を雰囲気として表現したものです。実際の NPO/LPO 製品の構造・個数・寸法・配置を示すものではありません。
この記事の構成
  1. NPOとLPOとは何か(3行でつかむ)
  2. 4つの方式を並べる ― DSPはどこにあり、電気はどこまで走るか
  3. 本稿の計算:光モジュールは装置の電力のどれだけを食っていたか
  4. LPOの中身 ― DSPを抜くと、何が起きるか
  5. 素材技術者の視点①:LPOでは「基板の損失」が光リンクの一部になる
  6. NPOの中身 ― ソケットで載せる光エンジン
  7. 素材技術者の視点②:はんだか、ソケットか ― リフローに耐えない光部品
  8. CPOとの違いを1枚で
  9. 課題
  10. 用語集/参考資料/出典対応表
本記事の表記ルール

事実=仕様書・標準化団体の公開文書に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=策定中・計画中であり、確定や実績が確認できていない事項
このほか、構造の整理や材料設計上の読み取りは「解説」として区別しています。

1. NPOとLPOとは何か(3行でつかむ)

  • LPO(Linear Pluggable Optics、リニア駆動のプラガブル光モジュール):LPO MSA は、LPO を「a low-power pluggable module that does not incorporate a DSP chip」(DSPチップを内蔵しない低電力のプラガブルモジュール)と定義しています事実。信号処理は、スイッチやNICのチップ側に任せます
  • NPO(Near-Package Optics、近接実装光学):OIF の文書は、パッケージ済みのASICと光エンジンを共通の基板にソケットで取り付け、組立や手直しのときに付け外しできるようにした配置を「socketed, “near-package optics” (NPO)」と呼んでいます事実
  • 共通の狙い:どちらも、光モジュール(光エンジン)の電力・コスト・遅延を下げることです。ただし下げ方が違います。LPO は部品を減らし、NPO は電気で走る距離を縮めます(本記事による整理)
本シリーズの他の記事との関係

「前面パネルに挿す箱」そのものは「光トランシーバー」編で、 光エンジンをASICと同じパッケージに入れる方式は「Co-packaged Optics」編で扱いました。 この記事は、その中間にある2つの選択肢を扱います。 電気配線の損失がなぜ距離とともに増えるのかは「光インターコネクトとSerDes」編、 PAM4 などの変調方式は「光変調と変調方式」編で詳しく扱います。

2. 4つの方式を並べる ― DSPはどこにあり、電気はどこまで走るか

プラガブル、LPO、NPO、CPO の違いは、2つの問いで整理できます。 (1) 信号を整えるDSPがどこにあるか、(2) チップから光に変わるまで、電気がどこまで走るかです(本記事による整理)。

4つの方式:DSPの位置と、電気で走る区間(模式図) 青=スイッチのチップ(ASIC)/橙=DSP/緑=光に変える部分/灰の線=電気で走る区間 従来の プラガブル LPO NPO CPO ASIC ASIC ASIC ASIC DSP 光 光(線形) 光 光 前面パネル に挿す 前面パネル に挿す 共通の基板にソケットで取り付け (付け外しできる) ASICと同じパッケージ(点線)に入れる (「Co-packaged Optics」編) 長い電気区間(基板・コネクタ) 長い電気区間。補正はASIC側が担う ※ LPO の定義は LPO MSA、NPO の定義は OIF の文書によります。4方式を1枚に並べたのは本記事による整理で、長さの比は模式です。
図1 概念図(ベクター作図)。LPO が DSP を内蔵しないプラガブルであることは LPO MSA[参考資料2]、NPO がソケットで共通基板に取り付ける配置であることは OIF の Co-Packaging Framework Document[参考資料5]によります。4方式を並べた構成、電気区間の長さの比、部品の大きさは本記事による模式で、実際の寸法や構造を示すものではありません。

この整理で見ると、LPO は「距離はそのまま、部品を減らす」、NPO は「部品はそのまま、距離を縮める(ただし外せる)」、 CPO は「距離を最短にし、外せなくなる」方式です。 どれが正解というより、電力・保守性・既存設備との互換性のどれを優先するかで選ばれます(本記事による解説)。

3. 本稿の計算:光モジュールは装置の電力のどれだけを食っていたか

なぜ光モジュールの電力がそこまで問題になるのか。 OIF の Co-Packaging Framework Document(2022年)は、当時の典型的な1Uのデータセンター用スイッチ(容量12.8 Tb/s、400G の QSFP-DD ポート32個)の電力を表にしています事実。

項目(OIF の表の記載)電力
12.8 Tb/s のスイッチチップ(NPU)432 W
400G の光モジュール32ポート(1個12 W)384 W
典型的な消費電力(ファン・電源・一般的な光モジュールを含む)900 W
最大消費電力(最大トラフィック・最高周囲温度・最大ファン速度)1,500 W

すべて事実(OIF「Co-Packaging Framework Document」Table 5[参考資料5])。2022年時点の「典型的な」例として示されたもので、特定製品の実測値ではありません。

12.8 Tb/s スイッチ:チップと光モジュールの電力(本稿の計算) 横棒の長さは電力に比例(816 W を 600 px とした) チップ 432 W(約53%) 光モジュール 384 W(約47%) 約47% チップ+光モジュールのうち光の割合 384 ÷ (432 + 384) 30 pJ/bit 400G モジュール1個あたり 12 W ÷ 400 Gb/s ※ 432 W・384 W・12 W は OIF Co-Packaging Framework Document(2022年)Table 5 の「典型的な」値です。 ※ 約47%・約53%・30 pJ/bit は本記事の計算です。ファン・電源など他の電力は含めていません。
図2 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。電力の値は OIF Co-Packaging Framework Document の Table 5[参考資料5]によります。割合(約47%)と 30 pJ/bit は本記事が算出したもので、公表値ではありません。ファン・電源などの電力を除き、チップと光モジュールの2つだけで比べています。

同じ文書は、共同実装される高密度な光エンジンのエネルギー効率を5〜15 pJ/bit程度と見込み、 データセンターのスイッチ用途では≤15 pJ/bを必要条件の欄に掲げています事実。 第3章の 30 pJ/bit(本稿の計算)と比べると、光の変換にかかるエネルギーを半分以下にしたいという問題設定が読み取れます。 ただし OIF の値はエンジン側の電気インターフェース・CDR・光部品・光源を含みスイッチ側を除く、という条件つきで、 第3章の値とは勘定の範囲が一致しません(本記事による解説)。

4. LPOの中身 ― DSPを抜くと、何が起きるか

LPO MSA は2025年3月、1レーン100 Gb/s の仕様「100G-DR-LPO」を公開しました事実。 その骨子は次のとおりです。

項目100G-DR-LPO 仕様書(Rev 1.0)の記載
光の信号1レーン 100 Gb/s、53.125 GBd の PAM4、公称波長1310 nm、シングルモードファイバで0.5〜500 m
リンクの構成1・2・4・8レーン(n00G-DRn-LPO)。形は QSFP・QSFP-DD・OSFP を例示(形は問わない)
役割分担モジュールはアナログ信号をそのまま送受信。誤り訂正(FEC)、リタイミング、D/A・A/D変換はホスト側が行う
誤り率生のビット誤り率2.0 × 10⁻⁴以下。RS(544,514) FEC で訂正後10⁻¹³以下を想定
電気の損失予算OIF CEI-112G-LINEAR-PAM4 の最大チャネル損失を13 dB から16 dB へ3 dB拡張(26.56 GHz で測定)。ASICのダイからモジュールのダイまでの挿入損失は20 dB 以下と想定
補正ホストが光送信波形を線形化する非線形補償(NLC)を持ってもよい

すべて事実(LPO MSA「100G-DR-LPO Specification Revision 1.0」[参考資料1])。光のインターフェースは 400GBASE-DR4 に「similar but not identical」とされています。

LPO MSA の FAQ は、仕組みをこう説明しています。 最近のスイッチやNICのASICは「extremely capable transmitters and receivers」(きわめて高性能な送受信回路)を持っているが、 DSP入りのモジュールにつなぐとその能力は使い切られない。 LPO にすると、リンク全体がひと続きの線形なチャネルになり、ASIC の等化能力をすべて使える、というものです事実。

光エンジンとチップのつなぎ方 ― OIF が整理した4つの型(模式図) 橙=信号を打ち直す回路(リタイム)/緑=線形に増幅するだけの回路 リタイム Re-timed 線形増幅 Linear amplified 半リタイム Half-retimed 直接駆動 Direct drive ASIC ASIC ASIC ASIC 送受とも打直し 送受とも線形 片方 片方 最小限 光エンジン側で信号を整え直す。ASIC 側の負担は小さい 基板上の距離はおよそ50 mm を想定(XSR) CDR/DSP を省き電力を削減。ASIC がリンク全体を補正 = LPO の考え方 送信か受信の片方だけ打ち直し、もう片方は線形 = LRO/OIF の RTLR の考え方 ASIC が変調器やレーザーを直接駆動できる振幅を持つ エンジンには線形の光チャネルに必要な機能だけを残す ※ 4つの型と説明は OIF Co-Packaging Framework Document の図5〜図8と本文、対応づけは LPO MSA の FAQ と OIF の発表によります。
図3 概念図(ベクター作図)。4つの型と各説明は OIF Co-Packaging Framework Document[参考資料5]によります。線形増幅と LPO、半リタイムと LRO/RTLR の対応づけは、LPO MSA の FAQ[参考資料2]と OIF の発表[参考資料6]の記述にもとづく本記事の整理です。回路ブロックの大きさ・配置は模式的なものです。

OIF はこの「線形増幅」型について、DSP を省いて電力を減らす代わりに、PAM4 のような変調では駆動信号が振幅の潰れのない線形なものでなければならないこと、 そして ASIC の送受信回路がSerDes の送信から受信までリンク全体を補正しなければならないことを指摘しています事実。 また OIF は2025年11月、送信側だけを打ち直し受信側は線形にする「半リタイム」型の実装合意(EEI-112G-RTLR)を公開し、 光モジュールから受信用DSPを不要にすると説明しています事実。

5. 素材技術者の視点①:LPOでは「基板の損失」が光リンクの一部になる

損失の dB は、振幅がどれだけ残るかに直すと実感できる(本稿の計算) 振幅の残り = 10^(−損失dB/20)。棒の長さは残る振幅に比例(100% を 400 px とした) 13 dB(OIF の線形仕様) チャネル損失の上限 16 dB(LPO MSA) 3 dB 拡張した上限 20 dB(想定) ASICダイ〜モジュールダイ 約22% 約16% 10% ダイからダイまでで、送り出した振幅の約10分の1しか残らない その残りを、DSPのないモジュールがそのまま光に変える ― 補正は両端のASICが受け持つ ※ 13 dB・16 dB(26.56 GHz)と 20 dB は LPO MSA「100G-DR-LPO」仕様書 Rev 1.0 の記載です。 ※ 振幅の割合への換算は本記事の計算です。電力(振幅の2乗)で見ると 16 dB は約2.5%、20 dB は1% にあたります。 ※ 実際の信号品質は損失だけでなく反射・クロストーク・雑音で決まります。
図4 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。13 dB・16 dB・20 dB は LPO MSA の 100G-DR-LPO 仕様書[参考資料1]の記載です。振幅の割合(約22%・約16%・10%)とその下の一文は本記事による換算・解説で、公表値ではありません。
素材技術者の読みどころ:DSPを抜くと、基板材料が「光リンクの部品」になる

DSP 入りのモジュールでは、ホストの基板で傷んだ電気信号はモジュールの入口でいったん打ち直されます。 基板の損失は、ホストとモジュールの間の短い区間で閉じた問題でした。

LPO ではそうはいきません。 LPO MSA の FAQ が言うとおり、リンクは「a seamless linear channel」(継ぎ目のない線形チャネル)になります事実。 送信側 ASIC のパッケージ、ホストの基板、モジュールの基板、光の区間、相手側の基板とパッケージ—— すべての劣化が足し合わされたまま、受信側 ASIC に届くことになります(本記事による解説)。

だから仕様書は、ASIC パッケージ・ホスト基板・モジュール基板(ACカップリングのコンデンサを含む)の損失を、 図で示した範囲に収めることを推奨しています事実。 LPO MSA の FAQ も、LPO に対応するシステムには「capable ASICs and well-designed transmission lines」 (高性能な ASIC と、よく設計された伝送線路)が必要だとしています事実。

  • 基板の誘電損失:樹脂の誘電正接が小さいほど、高周波での損失は小さい
  • 導体損失:銅箔の表面粗さが小さいほど、表皮効果による損失は小さい
  • ばらつき:DSP が打ち直してくれない以上、ロットごとの損失のばらつきは、そのままリンクの余裕を削る

低損失の基板材料や平滑な銅箔は、LPO では「光モジュールの電力を下げるための材料」になります。 モジュールから抜いた DSP の仕事を、ASIC と基板材料が分担している——というのが、この方式の材料側から見た本質です(本記事による解説)。 もうひとつ、仕様書にある非線形補償(NLC)は、光送信器の出力波形が線形でないことを前提にした仕組みです事実。 変調器やレーザーの線形性という物性そのものが、リンクの性能を左右するということでもあります(本記事による解説)。

6. NPOの中身 ― ソケットで載せる光エンジン

OIF の Co-Packaging Framework Document は、ASIC と光エンジン(または電気エンジン)を高性能な基板の上に載せた構成をCo-Packaging Assembly(CPA)と呼び、 そこに部品をはんだで固定するかソケットで取り付けるかの両方を想定しています事実。 このうち、パッケージ済みの ASIC と光エンジンを共通の基板にソケットで取り付けたものが NPO です事実。

NPO の構成(断面の模式図) ASIC パッケージと光エンジンが、共通の基板にソケットで取り付けられる ASIC ダイ ASIC のパッケージ基板 光エンジン 共通の基板(CPA 基板) ソケット(黄土色) 押さえ金具(四隅をボルトで締める) 光ファイバ 短い電気区間 ※ NPO の定義、ソケットの押さえに四隅のボルトを使うこと、リタイム型で基板上およそ50 mm を想定することは OIF の文書によります。 ※ 層の構成・厚み・部品の大きさの比は本記事による模式で、実際の構造ではありません。 ※ 光エンジンの内部(電気IC・光IC・レーザーの配置)は描いていません。「Co-packaged Optics」編・「シリコンフォトニクス」編を参照。
図5 概念図(ベクター作図)。NPO の定義とソケットの押さえ方は OIF Co-Packaging Framework Document[参考資料5]によります。断面の層構成、部品の大きさと間隔、ファイバの取り出し方は模式的なもので、実際の製品構造を示すものではありません。

ソケットで取り付ける場合、OIF は「a mechanical compression mechanism」(機械的な圧縮機構)でソケットのインターポーザを押し付けて電気的な接触をとる必要があり、 その機構はソケットの四隅をボルトで締める形が一般的だとしています事実。 押さえ金具は基板の面積を消費し、実装密度を制限しうる、とも述べています事実。

光エンジンの発熱密度

OIF は、3.2 Tb/s の光エンジンが10 pJ/bitなら32 Wを消費し、その大きさが20 × 20 mm²程度だとすると 発熱密度は8 W/cm²になり、「much higher than what the optical industry is accustomed to」(光産業がこれまで慣れてきた水準よりはるかに高い)と述べています事実。 検算:3.2 × 10¹² bit/s × 10 × 10⁻¹² J/bit = 32 W、32 W ÷ (2 cm × 2 cm) = 8 W/cm²本稿の計算。 NPO でも CPO でも、チップのすぐ隣に、この密度の熱源が並ぶことになります(本記事による解説)。

7. 素材技術者の視点②:はんだか、ソケットか ― リフローに耐えない光部品

暗い基板の上で、小さな無地の直方体のブロックが、四隅を留めた簡素な金属の枠で上から静かに押さえられている様子を斜め上から見た概念イメージ
図6 概念図(AI生成イメージ)。「部品をはんだで固定せず、四隅から押さえ付けて取り付ける」という状況を雰囲気として表現したものです。実際のソケット・押さえ金具・光エンジンの形状や寸法を示すものではありません。

OIF は、光エンジンをはんだリフローで固定する方式とソケットで取り付ける方式の損得を表にしています事実。

観点はんだリフローソケット
部品への要求リフローに耐える部品が必要。光エンジンの表面実装が可能になる載せるだけ。リフローを通せない用途にも広げられる
電気性能最適に近くできる非常によくできる
占有面積最も高密度押さえ金具・保持機構が必要
手直し限られ、歩留まり損失になる可能。ただし現場ではアクセスが限られる
多数のエンジン/複雑な実装搭載数が多いと統合の歩留まり損失複雑な構成を可能にする
熱従来の方法が使える保持金具とともに取り付ける

すべて事実(OIF Co-Packaging Framework Document Table 4[参考資料5]の記載を本記事が日本語に要約)。

素材技術者の読みどころ:「リフローに耐える光部品」は、それ自体が材料の難題

表の1行目がいちばん重い行です。 はんだで固定するなら、光エンジンはリフロー炉の温度を通らなければなりません。 ところが光エンジンには、光ファイバ、ファイバを位置決めして固定する接着剤、レンズ、光を通す樹脂などが含まれます。 「Co-packaged Optics」編でも触れたとおり、AGC は光配線用導波路の特長に「リフロー互換性」を挙げています[参考資料8]事実。

  • 接着剤:リフローの熱で軟化・膨張すれば、ファイバの位置が µm 単位でずれ、結合損失が増える
  • 光を通す樹脂:熱で黄変・劣化すれば、透過率が落ちる
  • 多数の部品:OIF は、エンジンの搭載数が多いと統合の歩留まり損失になると書いている事実

ソケットは、この問題を材料で解かずに、工程で回避する方法です。 光エンジンはリフローを通らずに後から載せられ、不良なら外せます(本記事による解説)。

ただし、その代わりに別の材料問題が生まれます。 四隅のボルトで押さえ付ける圧縮型の接点は、何百・何千という接点を均一な力で押し続けなければなりません。 基板の反り、ばねの応力緩和、接点めっきの摩耗——半導体の検査用ソケットや CPU ソケットで蓄積されてきた課題が、 光エンジンの取り付けにそのまま持ち込まれます。 そして押さえ金具のすぐ脇には、8 W/cm² 級の熱源と、汚れを嫌う光ファイバの出口があります(本記事による解説)。

OIF は、前面パネルの奥にある光コネクタについて、組立後にしか検査されない「single-mate」(一度しか嵌合しない)の状況では、 清掃して挿し直せる通常のコネクタより損失の割り当てを多めに見込む必要があるとも述べています事実。 付け外しできる構造は、清浄さを保つ材料と工程とセットで初めて意味を持ちます(本記事による解説)。

8. CPOとの違いを1枚で

観点従来プラガブルLPONPOCPO
光エンジンの位置前面パネル前面パネルASIC の隣(共通基板)ASIC と同じパッケージ
モジュール内の DSPありなし(ASIC が補正)構成による構成による
交換抜き差しで交換抜き差しで交換ソケットから外せるレーザー以外は困難
電気で走る区間長い長い短い最短
標準化の状況(本稿の確認範囲)QSFP-DD・OSFP の MSALPO MSA の仕様(100 Gb/s/レーン)OIF 文書に定義。独立した仕様は未確認OIF の実装合意(「Co-packaged Optics」編)

「光エンジンの位置」「交換」「DSP」は LPO MSA[参考資料1・2]、OIF[参考資料5]、本シリーズ「Co-packaged Optics」編の記載にもとづく本記事の整理です。NPO・CPO の DSP の有無は電気インターフェースの型(図3)で変わるため「構成による」としています。「電気で走る区間」の長短は相対的な比較で、数値ではありません。

9. 課題

(1) LPOは「相手を選ぶ」

LPO MSA の FAQ は、LPO モジュールと DSP 入りモジュールの相互接続について、 可能ではあるが「engineered link」(個別に作り込んだリンク)とみなされ、MSA 仕様の範囲外だとしています事実。 また LPO には、補正能力の高い ASIC と、よく設計された伝送線路が前提として必要です事実。 既存の装置に挿せば省電力になる、というものではありません(本記事による解説)。

(2) 200 Gb/s/レーンのLPOは、これから

LPO MSA は、100 Gb/s/レーンの 100G-DR-LPO(2025年3月)と 400G-FR4-LPO(2025年9月、1対のSMFで少なくとも500 m)を公開したうえで、 200 Gb/s/レーンの線形実装に取り組み始めたと発表しています事実。 レーン速度が倍になれば、第5章で見た基板の損失はさらに厳しくなります。 200 Gb/s/レーンで LPO が成立するかどうかは、本稿の調査時点では確定していません未確定/将来。

(3) NPOの独立した規格は確認できなかった

NPO は OIF の Co-Packaging Framework Document に配置の一形態として定義されていますが事実、 ソケットの形状や光エンジンの外形を定めた NPO 専用の実装合意は、本稿の調査範囲では確認できませんでした。 NPO の製品化や量産の状況についても、一次情報で確認できた範囲がないため記載していません未確定/将来。

(4) 省電力の数値は「比較条件」とセットで読む

LPO の省電力効果については、報道や解説記事でさまざまな割合が紹介されていますが、 LPO MSA 自身の公開資料では「Significantly lower power consumption」という定性的な表現にとどまっています事実。 本稿では、比較条件が確認できない削減率は記載していません。

この記事のまとめ
  • LPOは、DSPを内蔵しないプラガブル光モジュールです。補正はスイッチやNICのASICが担います事実
  • NPOは、ASICと光エンジンを共通基板にソケットで取り付ける配置です。付け外しができます事実
  • OIF の2022年の例では、チップと光モジュールの電力のうち光が約47%、400G モジュールは約30 pJ/bit でした本稿の計算
  • LPO の電気損失の上限は16 dB。ダイからダイまで20 dB で、振幅は約10分の1になります本稿の計算
  • LPO では基板材料の損失が光リンクの一部になり、NPO ではリフローを避ける代わりに圧縮接点と清浄性が問われます(本記事による解説)
  • 200 Gb/s/レーンの LPO と、NPO の独立した規格は、本稿の調査時点で確認できていません未確定/将来

10. 用語集

LPO
Linear Pluggable Optics。DSP を内蔵せず、信号を線形に光へ変えるプラガブル光モジュール。
LRO
Linear Receive Optics。受信側だけを線形にする半リタイム型の構成。
NPO
Near-Package Optics。ASIC と光エンジンを共通の基板にソケットで取り付ける配置。
CPO
Co-Packaged Optics。光エンジンを ASIC と同じパッケージに入れる実装。
DSP
デジタル信号処理チップ。電気信号をデジタル化して波形の補正や打ち直しを行う。
リタイム
劣化した信号のタイミングを取り直し、きれいな信号として送り直すこと。
等化
伝送路で失われた高周波成分を補い、波形を元に近づける処理。
SerDes
チップの並列データを高速な直列信号に変換して送受信する回路。
挿入損失(dB)
伝送路を通る間に信号が弱まる量。20 dB で振幅は10分の1。
FEC
誤り訂正符号。余分な符号を付けて、受信側で誤りを訂正する。
CPA
Co-Packaging Assembly。ASIC とエンジンを共通の基板に載せた組立体(OIF の用語)。
リフロー
はんだを溶かして部品を基板に接合する加熱工程。
LGA
ランド・グリッド・アレイ。はんだ球の代わりに平らな電極を押し当てて接続する形式。

11. 参考資料(一次情報)

  1. LPO MSA「100G-DR-LPO Revision 1.0 ― Specification for 100 Gb/s per Lane Linear Pluggable Optics Single-Mode Optical Fiber Transmission」2025年3月(PDF) — lpo-msa.org
  2. LPO MSA「Frequently Asked Questions」 — lpo-msa.org
  3. LPO MSA「LPO MSA Announces Release of Specification for Linear Pluggable Optical Modules」2025年3月25日 — lpo-msa.org
  4. LPO MSA「LPO MSA Announces Release of 400G-FR4-LPO Specification for Linear Pluggable Optical Modules」2025年9月25日 — lpo-msa.org
  5. OIF「Co-Packaging Framework Document(OIF-Co-Packaging-FD-01.0)」2022年2月3日(PDF) — oiforum.com
  6. OIF「OIF Publishes Implementation Agreement for 112 Gb/s Retimed Transmitter Linear Receiver (RTLR) Electrical and Optical Interface Advancing Energy Efficiency」2025年11月18日 — oiforum.com
  7. LPO MSA 公式サイト(Overview/LPO Benefits) — lpo-msa.org
  8. AGC「CES 2026|半導体ソリューション」 — agc.com

12. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
100G-DR-LPO が 100 Gb/s/レーン・53.125 GBd PAM4、公称1310 nm、SMF で0.5〜500 m、1・2・4・8レーンであること。QSFP・QSFP-DD・OSFP を例示する形状非依存の仕様であること。モジュールはアナログ信号を送受信し、FEC・リタイミング・D/A・A/D 変換はホストが行うこと。光インターフェースが 400GBASE-DR4 に「similar but not identical」。生の BER 2.0×10⁻⁴、RS(544,514) FEC で10⁻¹³。OIF CEI-112G-LINEAR-PAM4 の最大チャネル損失を13 dB から16 dB に3 dB 拡張(26.56 GHz)。ASIC ダイからモジュールダイまでの挿入損失20 dB 以下を想定し、各区間の損失範囲を推奨していること。ホスト側の非線形補償(NLC)の規定。改訂1.0 が2025年3月19日LPO MSA 100G-DR-LPO 仕様書 Rev 1.0出典1 https://www.lpo-msa.org/files/live/sites/lpomsa/files/specs/LPO_MSA_Specification_v1p0_final.pdf事実
LPO が「a low-power pluggable module that does not incorporate a DSP chip」であること。ASIC が「extremely capable transmitters and receivers」を持ち、LPO ではリンクが「a seamless linear channel」になり ASIC の等化能力を使えること。システムに「capable ASICs and well-designed transmission lines」が必要なこと。DSP 入りモジュールとの相互接続は「engineered link」で MSA の範囲外であること。LRO などの半線形構成も扱うこと。OIF CEI-112G-LINEAR-PAM4 を基礎にすることLPO MSA FAQ出典2 https://www.lpo-msa.org/home/faqs.html事実
2025年3月25日に 100G-DR-LPO 仕様の完成を発表したこと。50社で構成されること。200 Gb/s/レーンに目を向けていることLPO MSA 発表(2025年3月25日)出典3 https://www.lpo-msa.org/news/lpo-msa-announces-release-of-specification-for-linear-pluggable-optica事実
2025年9月25日に 400G-FR4-LPO 仕様(1対の SMF で少なくとも500 m、4波長)を発表し、200 Gb/s/レーンの線形実装の取り組みを始めたことLPO MSA 発表(2025年9月25日)出典4 https://www.lpo-msa.org/news/lpo-msa-announces-release-of-400g-fr4-lpo-specification-for-linear-plu事実
ASIC と光エンジンを共通基板にソケットで取り付けた配置を「socketed, “near-package optics” (NPO)」と呼ぶこと。CPA にはんだ固定とソケット取り付けの両方を想定すること。Table 5 の12.8 Tb/s スイッチの電力(NPU 432 W、400G 光モジュール32個×12 W=384 W、典型900 W、最大1,500 W)。エネルギー効率5〜15 pJ/bit の見込みとデータセンタースイッチ用途の ≤15 pJ/b(エンジン側の電気I/F・CDR・光部品・光源を含みスイッチ側を除く)。リタイム・線形増幅・半リタイム・直接駆動の4つの型と、線形増幅で駆動信号の線形性と ASIC によるリンク全体の補正が必要になること。リタイム型で基板上およそ50 mm を想定すること。3.2T エンジン・10 pJ/bit で32 W、20×20 mm² で8 W/cm²、「much higher than what the optical industry is accustomed to」。ソケットの圧縮機構と四隅のボルト。Table 4 のはんだリフローとソケットの比較。「single-mate」の光コネクタで損失の割り当てを多く見込む必要があることOIF Co-Packaging Framework Document(2022年2月3日)出典5 https://www.oiforum.com/wp-content/uploads/OIF-Co-Packaging-FD-01.0.pdf事実
OIF が2025年11月18日に EEI-112G-RTLR(リタイム送信・線形受信)の実装合意を公開し、光モジュールの受信用 DSP を不要にすると説明していることOIF 発表(2025年11月18日)出典6 https://www.oiforum.com/oif-publishes-implementation-agreement-for-112-gb-s-retimed-transmitter-linear-receiver-rtlr-electrical-and-optical-interface-advancing-energy-efficiency/事実
LPO MSA の公式サイトが利点を「Significantly lower power consumption」と定性的に示し、DSP 機能を除くことで省電力を得るとしていることLPO MSA 公式サイト出典7 https://www.lpo-msa.org/事実
AGC が光配線用導波路の特長として「高透過率(Oバンド/Cバンド)」「リフロー互換性/高出力レーザーへの耐久性」を挙げていることAGC「CES 2026|半導体ソリューション」出典8 https://www.agc.com/ces/semiconductor.html事実
384÷(432+384)≒47%、432÷816≒53%、12 W÷400 Gb/s=30 pJ/bit。16 dB・13 dB・20 dB を振幅比(約16%・約22%・10%)と電力比(約2.5%・1%)に換算。3.2 Tb/s×10 pJ/bit=32 W、32 W÷4 cm²=8 W/cm² の検算本稿の計算。OIF の Table 5 は2022年時点の「典型的な」例であり、ファン・電源の電力は除いた。OIF の pJ/b 値とは勘定の範囲が異なる本稿の計算
200 Gb/s/レーンの LPO が成立するかどうか。NPO の製品化・量産状況LPO MSA は取り組み開始を発表した段階であり、成立は見通しにとどまる。NPO は本稿の調査範囲で一次情報を確認できなかった未確定/将来
NPO 専用の実装合意(ソケット形状・エンジン外形)の存在本稿の調査範囲では確認できなかったため記載していない解説
4方式を「DSP の位置」と「電気で走る区間」で整理したこと。LPO=部品を減らす、NPO=距離を縮める、という整理。線形増幅型と LPO、半リタイム型と LRO/RTLR の対応づけ。LPO で基板材料の損失が光リンクの一部になるという読み取り(誘電損失・導体損失・ばらつき)。ソケットはリフロー耐性の問題を工程で回避する方法だという読み取りと、圧縮接点・応力緩和・清浄性の課題。第8章の比較表の整理公開文書にもとづく本記事の整理・解説。各団体が表明した見解ではない解説
報道等で紹介される LPO の省電力の割合比較条件を一次情報で確認できないため本稿では記載していない解説
図1・図3・図5が説明のための作図であること、図2・図4が本稿の計算を含む作図であること。ヒーロー画像と図6がAI生成イメージであること本記事による注記解説

最終更新:2026年9月25日/出典は一次情報(LPO MSA の仕様書・公式サイト・発表、OIF の Framework Document と発表)に限定しています。 構造の整理や材料設計上の読み取りを含むため、それらは「解説」として出典付きの事実と区別しています。 LPO の省電力の具体的な割合、NPO 専用の規格、NPO の製品化状況、200 Gb/s/レーンの LPO の成否は、公開された一次情報で確認できなかったため記載していません。 OIF の Framework Document は2022年時点の文書であり、電力の例はその時点の「典型的な」値です。 図はすべて説明用の図です。図1・図3・図5はベクター作図、図2・図4は本稿の計算を含むベクター作図、ヒーロー画像と図6はAI生成イメージであり、いずれも実際の製品の構造・寸法を示すものではありません。