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NSF(米国国立科学財団) 機関解説

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INSTITUTION PROFILE / マテリアルインフォマティクス

NSF(米国国立科学財団)
― 大学の材料・データ研究に「助成金を出す」米国の資金機関

NSFは米国の独立した連邦機関で、使命を主に助成金によって果たすと自ら説明しています。 自前で大きな研究所を運営してMIを進めるのではなく、大学や研究機関の研究チームを審査で選んで支えます。 MIに関わる代表的な制度が、理論・計算・実験をつないで材料を設計する研究を支えるDMREFです。 本稿では、NSFがマテリアルインフォマティクス(MI)にどこまで影響を持つのかに絞って整理します。

構成:NSFの公式サイト、DMREFとMIPの公募文書、2027会計年度の議会向け予算要求書、MGI戦略計画(2021年)、大統領府の発表を一次情報として使用/確認日 2026年10月22日

研究への資金支援、大学等での実施、データの再利用という異なる役割です。採択と技術の成功は同じではありません。
概念画像(ImageGen生成)。研究への資金支援、大学等での実施、データの再利用という異なる役割です。採択と技術の成功は同じではありません。実在の製品・施設・測定結果ではありません。拡大模型、線・矢印・色は説明用です。
この記事でわかること
  1. 30秒でわかるNSF
  2. どんな機関か ― 影響力の「型」
  3. MIで何をしているか
  4. 影響力の範囲(権限と地域)
  5. 助成の流れと連携先
  6. 今後の見通し
  7. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるNSF

正式名称米国国立科学財団英文 National Science Foundation(NSF)
国・地域米国本部はバージニア州アレクサンドリア
機関の種類独立した連邦機関省の一部ではない。予算を決めるのは議会
設立1950年国立科学財団法(公法81-507)に大統領が署名
人数規模連邦職員 約1,580名(FTE)2025会計年度の現行計画。ほかに外部から一時的に来る研究者が約290名。2027会計年度の計画は合計1,458名で、約22%減
予算87.5億ドル2026会計年度の成立額(裁量的予算、全分野、米ドル)。2025会計年度は88.26億ドル
MIへの関与の形研究チームへの助成(DMREFなど)共同利用の施設(MIP)の整備も支援
影響が及ぶ範囲米国の大学・研究機関海外とは、相手国の機関が資金を出す形で連携
まず押さえるべき1点

NSFはMIの方針を決める機関ではなく、研究チームの提案を審査して助成する機関です。 MGIの全体の方向は省庁横断の小委員会が調整し、NSFは共同議長の1つです 事実。 DMREFは、NSF自身が「MGIの小委員会に応える、NSFの主要なプログラム」と説明しています 事実。 影響力の源は、大学の研究者が応募する研究テーマと、育てる人材を支える資金にあります。 ただし、予算の額を決めるのは議会であり、2027会計年度の要求は大きく減っています(第4章)。

2. どんな機関か ― 影響力の「型」

MIの記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分で新材料を売るわけではありません。 その代わりに、どういう経路で研究に影響を与えるかで4つの型に分けられます。 NSFは1つ目の「資金を出す」型です。

マテリアルインフォマティクスを動かす「機関」の4つの型 機関は自分で材料を作るとは限らない。どの経路で研究に影響を与えるかで4つに分かれる 資金を出す 政策・規制を決める 標準・基準をつくる 場をつくる 研究開発に予算を配る 戦略・補助金・法律 標準参照データ・計測法 会議・コミュニティ NSF/DOE/NEDO 経済産業省/欧州委員会 NIST MGI/MaRDA 何を研究させるか 何を重点にするか 何を基準データにするか 誰が誰に会うか 届く範囲=自国の予算 届く範囲=自国・自地域 届く範囲=使う人次第 届く範囲=参加者 NSFは「資金を出す」型。大学などの研究チームに助成し、研究の中身は審査で選ばれる 同じMIでも、どの型の機関かによって影響の届き方がまったく違う
図1 マテリアルインフォマティクスに関わる機関の4つの型と、NSFの位置。区分は本稿によるもので、機関名は例示です 本稿の計算。

同じ「資金を出す」型でも、DOEは国立研究所を持ち、NSFは主に大学などへの助成で動きます。 NSFは「大学への基礎研究の連邦支援の約25%を担う」と説明しています 事実。

3. マテリアルインフォマティクスで何をしているか

NSFのMIへの関わり方は、おもに次のとおりです。確認日は2026年10月22日です。

取り組み中身規模・条件区分
DMREF
(材料の設計の研究チームへの助成)
実験・計算・理論を「循環させる」研究チームを支援。データ科学と機械学習の活用、材料データの共有、人材育成も掲げる。公募文書はNSF 25-508(2024年11月4日公開)1件あたり150万〜200万ドル(4年)、採択は20〜25件を見込む。研究者2名以上のチーム。「資金が使えれば奇数年に隔年で公募」と記載事実
MIP
(材料の共同利用施設の整備)
合成・解析・計算を一体で行う中規模の施設を支援する制度。公募文書はNSF 25-521(2024年12月12日公開)。第3回は2025年で、合金・アモルファス・複合材料が対象これまでの公募は2015年と2019年。第3回の選定結果は確認できなかった事実未確定/将来
材料研究の基盤的な助成数理物理科学局の材料研究部門が、材料の基礎研究(理論・計算・データ活用の手法を含む)を支援。材料研究の拠点(MRSEC)も支えるMI専用の額は確認できなかった事実
Genesis Missionへの参加2027会計年度の要求書は、AIによる科学の発見、自律実験システム、データ基盤の整備を支えると記載。2026年7月の大統領府の発表では、AI駆動の自律実験室の課題にNSFが加わる金額は確認できなかった(要求書に独立した額の記載なし)事実
MGIの調整への参加2021年の小委員会の共同議長の1つ。MIP事業をMGI戦略計画で紹介–事実
素材技術者の視点:DMREFの「循環」とは

DMREFは、応募の条件として理論が計算を導き、計算が実験を導き、実験の結果が理論を導くという「閉じた循環」を研究に含めることを求めています 事実。 MIの失敗の多くは、計算だけで終わる、または実験の結果が計算に戻らない、というところから生まれます。 この条件は、計算の予測を実験で確かめるところまでを研究の単位にする仕組みと読めます。 ただし、採択されたチームの成果は、論文や公開データで一つずつ確かめる必要があります。 DMREFという制度に採択されたこと自体は、材料の性能を保証するものではありません。

4. 影響力の範囲(権限と地域)

観点NSFが持っているもの持っていないもの
権限公募の内容を研究コミュニティと共に決め、審査で採択を決める権限。審査員は年間約5万人が協力する。研究課題の方向づけは、外部から来る一時的なプログラム担当者(ローテーター)も担うMGIの方針を決める権限(調整は省庁横断の小委員会)。予算の額を決める権限(議会)。規制や標準を決める権限。自前の国立研究所を運営する役割(NSFの公式説明は助成が中心)
地域米国の大学・研究機関に届く助成。DMREFには海外の機関(イスラエル、インド、カナダ、ドイツ)との連携の枠がある海外の研究者に直接資金を出す権限。連携相手の研究者は、相手国の機関が資金を出す(NSFの提案書には載せない)
資金DMREFは1件150万〜200万ドル(4年)。MIPなどの施設整備の助成MI専用の資金の総額(公表値は確認できなかった)
規模連邦職員 約1,580名(FTE、2025会計年度の現行計画)。予算 87.5億ドル(2026会計年度の成立額)MI分野だけの人員・予算の公表値
数字の読み方の注意

87.5億ドルはNSF全分野(生命科学、地球科学、教育、極地など)の2026会計年度の成立額です。MI専用の額ではありません 事実。 2027会計年度の数字は要求であり、成立した額ではありません。 要求書では、NSFの裁量的予算の合計が39.6億ドルで、2025会計年度の現行計画(88.26億ドル)から55.1%減です。 材料研究を持つ数理物理科学局は5.15億ドルの要求で、2025会計年度の現行計画(15.48億ドル)から66.7%減です 未確定/将来。 議会が最終的に決めるため、実際の額は変わります。

5. 助成の流れと連携先

NSFのMI関連の助成の流れ(米国) 予算は議会が決め、MGIの調整は省庁横断の小委員会が行い、NSFは助成を担当する 議会 歳出法で予算を決める(要求と成立を区別) NSTC MGI小委員会(SMGI) 共同議長は国防総省・NSF・OSTP(2021年) 国立科学財団(NSF) 助成金を出し、審査で採択を決める DMREF 研究チームへの助成 MIP 共同利用の中規模施設 他機関・他国との連携 提案の共有や共同公募 対象と規模 大学などの研究チーム 理論・計算・実験を循環 1件 150万〜200万ドル(4年) 中身 合成・解析・計算を一体で 外部の研究者も使える 2025年は合金など3分野 連携先(公募文書に記載) 米国:DOE、NIST、国防系 海外:イスラエル、インド カナダ、ドイツ
図2 NSFのMI関連の助成の流れ。出典:NSFの公募文書(DMREF、MIP)、2027会計年度の予算要求書、MGI戦略計画(2021年)。連携先はDMREFの公募文書に記載された名称で、実際の連携の有無や規模は確認できていません 本稿の計算。

DMREFの公募文書は、提出された提案を他の機関と共有する場合があると記しています 事実。 連携先として、米国空軍研究所(AFRL)、DOEの省エネルギー・再生可能エネルギー局、海軍研究局、NIST、陸軍の研究機関が挙げられています。 海外では、イスラエル・米国二国間科学財団、インド科学技術省、カナダ自然科学・工学研究評議会、ドイツ研究振興協会が挙げられています。 DOEとNISTの役割は、それぞれの機関解説で扱います。

6. 今後の見通し

読み取れること根拠となる一次情報区分
2027会計年度の予算要求は、NSF全体を55.1%、数理物理科学局を66.7%減らす内容。最終額は議会が決める2027会計年度の予算要求書の概要表。要求であり成立額ではない未確定/将来
DMREFの次の公募(公募文書は奇数年の隔年と記載)が2027年に実施されるかは確認できなかったDMREF NSF 25-508。「資金が使えれば」という条件つき未確定/将来
MIPの第3回(2025年、合金・アモルファス・複合材料)の選定結果は確認できなかったMIPの公募文書 NSF 25-521未確定/将来
要求書がGenesis Missionへの貢献として自律実験とAI用データの整備を挙げているため、NSFのMI支援は「AIによる科学」の枠へ重心が移る可能性がある2027会計年度の予算要求書(Genesis Missionの項目)。2026年7月の大統領府の発表推測

7. 用語集

DMREF
Designing Materials to Revolutionize and Engineer our Future。実験・計算・理論を循環させて材料を設計する研究チームを支援するNSFのプログラム。
MIP(Materials Innovation Platforms)
材料の合成・解析・計算を一体で行い、外部の研究者も使える中規模の施設を整える制度。
MRSEC
材料研究科学工学センター。大学を拠点に、材料の難しい課題に学際的に取り組む研究拠点。
MGI戦略計画
材料ゲノム・イニシアチブの5年ごとの計画。2021年版は「基盤の統合」「データの活用」「人材の育成」を3つの目標とする。
ローテーター
大学などから一時的にNSFに来て、プログラム担当者として公募の方向づけや審査を担う研究者。
要求/成立/現行計画
要求は政府が議会に出す案、成立は議会が決めた額、現行計画は実行中の年の計画額。本稿は要求と成立を区別して書く。
FTE
常勤換算の人数。非常勤を含めて、フルタイムの何人分かで数える。

8. 出典

  1. NSF About NSF(独立した連邦機関、助成が中心、大学の基礎研究への連邦支援の約25%、審査の仕組み)。 https://www.nsf.gov/about
  2. NSF History(1950年に国立科学財団法で設立)。 https://www.nsf.gov/about/history
  3. NSF Budget, Performance and Financial Reporting(2025会計年度の概要:歳出88.26億ドル、採択8,377件、審査43,532件)。 https://www.nsf.gov/about/budget
  4. NSF FY 2027 Budget Request to Congress(2025会計年度の現行計画、2026会計年度の成立額、2027会計年度の要求、人員、Genesis Missionへの言及)。 https://nsf-gov-resources.nsf.gov/files/FY-2027-NSF-Budget-Request-to-Congress.pdf
  5. NSF Designing Materials to Revolutionize and Engineer our Future(DMREF)NSF 25-508(2024年11月4日公開)。 https://www.nsf.gov/funding/opportunities/dmref-designing-materials-revolutionize-engineer-our-future
  6. NSF Materials Innovation Platforms(MIP)NSF 25-521(2024年12月12日公開)。 https://www.nsf.gov/funding/opportunities/mip-materials-innovation-platforms
  7. NSF Division of Materials Research(材料研究のプログラム)。 https://www.nsf.gov/mps/dmr
  8. NSTC SMGI Materials Genome Initiative Strategic Plan(2021年11月。小委員会の共同議長、NSFのMIP事業の記述)。 https://www.mgi.gov/sites/mgi/files/MGI-2021-Strategic-Plan.pdf
  9. 大統領府 「Trump Administration Announces More Than $5 Billion for the Genesis Mission」(2026年7月)。 https://www.whitehouse.gov/releases/2026/07/45502/

9. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
独立した連邦機関、助成が中心、大学の基礎研究への連邦支援の約25%、審査員が年間約5万人、ローテーターの仕組み、本部の所在地事実出典1 https://www.nsf.gov/about
1950年の国立科学財団法(公法81-507)で設立事実出典2 https://www.nsf.gov/about/history
2025会計年度の歳出88.26億ドル、採択8,377件、審査43,532件、資金を受けた機関1,621事実出典3 https://www.nsf.gov/about/budget
2025会計年度の現行計画88.26億ドル、2026会計年度の成立額87.5億ドル、2027会計年度の要求39.6億ドル(55.1%減)、数理物理科学局の要求5.15億ドル(66.7%減)、人員(連邦職員1,583名→1,308名、一時的な研究者287名→150名、合計1,870名→1,458名)、Genesis Missionへの貢献の記述、MRSEC事実出典4 https://nsf-gov-resources.nsf.gov/files/FY-2027-NSF-Budget-Request-to-Congress.pdf
DMREFの内容(循環の条件、MGI小委員会に応える主要プログラム、4つの局、1件150万〜200万ドル・4年、20〜25件、隔年公募、連携先)事実出典5 https://www.nsf.gov/funding/opportunities/dmref-designing-materials-revolutionize-engineer-our-future
MIPの内容(中規模の施設、2015年と2019年の公募、第3回は2025年に合金・アモルファス・複合材料)事実出典6 https://www.nsf.gov/funding/opportunities/mip-materials-innovation-platforms
数理物理科学局の材料研究のプログラム事実出典7 https://www.nsf.gov/mps/dmr
2021年の小委員会の共同議長(国防総省・NSF・OSTP)、MIP事業の紹介事実出典8 https://www.mgi.gov/sites/mgi/files/MGI-2021-Strategic-Plan.pdf
自律実験室の課題にNSFが加わること、2026年7月事実出典9 https://www.whitehouse.gov/releases/2026/07/45502/
連邦職員約1,580名の表記(1,583名の丸め)と、約22%減(合計1,870名から1,458名)本稿の計算出典4の値を本稿が丸め・計算
機関の4つの型の区分本稿の計算本稿による整理
MI専用の予算・人員、Genesisへの個別の金額、MIP第3回の選定結果、DMREF次回公募の実施未確定/将来出典1〜9に記載なし。本稿では推計しない
第6章の見通し(NSFのMI支援が「AIによる科学」へ移る可能性)推測出典4・9からの本稿の解釈

最終更新:2026年10月22日/Troy Technical
本稿の数値はNSFと大統領府の公式サイト、NSFの議会向け予算要求書に基づきます。「要求」と書いた数字は成立した額ではありません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。