INSTITUTION PROFILE / マテリアルインフォマティクス
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
― 日本のマテリアルインフォマティクスの研究開発を「実行する」国の機関
NEDOは経済産業省が所管する国立研究開発法人で、自分では材料を研究しません。 役割は、国の研究開発予算を使って公募し、採択した企業・大学・研究機関のプロジェクトを管理・評価することです。 マテリアルインフォマティクス(MI。AIやデータで材料開発を速くする方法)では、2016年度から2022年度の「超超プロジェクト」が代表例です。 本稿では、NEDOがMIにどこまで影響を持ち、何を決められないのかに絞って整理します。
- 30秒でわかるNEDO
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- MIで何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 関わっている組織と体制
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかる新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
新エネルギー・産業技術総合開発機構英文 New Energy and Industrial Technology Development Organization
NEDOは、日本のMIの研究開発を実行する側で、方針を決める側ではありません。 最大の実績は「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」(超超プロジェクト、2016〜2022年度)で、 有機系の機能性材料について、試作回数と開発期間を従来の1/20に縮めることを目標にしました。 NEDOの外部有識者による評価は、この目標を「おおむね達成」としつつ、適用できる範囲は限定的だったとしています 事実。 一方、2026年10月22日の時点で、NEDOの2026年度の「材料・製造」分野の公募一覧には該当する公募がありません 事実。 次の大きなMI事業として、経済産業省は令和9年度に新規70億円をNEDO経由で実施する形で要求していますが、成立前です 未確定/将来。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
MIの記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では材料を開発しません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。 NEDOは、このうち「資金を出す」型です。
NEDOの強みは、国の予算を実際のプロジェクトに変える実務です。 何を研究するかの大枠は、国が先に示します。 たとえば超超プロジェクトの評価資料は、国の科学技術基本計画や「機能性材料分野の技術戦略」の中に、この事業が位置づけられていたことを示しています 事実。
3. MIで何をしているか
公表資料で確認できるNEDOのMI関連の事業は、次のとおりです 事実。
| 事業 | 期間・予算 | 中身 | 主な担い手 |
|---|---|---|---|
| 超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト (超超プロジェクト) | 2016〜2022年度 費用の総額 138億円(7年間・推定) | 有機系機能性材料を対象に、計算科学(シミュレーション)、高速な試作プロセス、先端の計測を組み合わせてデータをつくり、AIに学習させる。目標は試作回数・開発期間を従来の1/20に。2019年度から、高分子の論文から物性データを自動で取り出すAIツールの開発も追加 | 産総研と先端素材高速開発技術研究組合(企業18社)が集中研(つくば)で実施。大学等10機関が参加(2022年3月時点) |
| 航空機エンジン向け材料開発・評価システム基盤整備事業 | 2021〜2025年度 2025年度予算 7.0億円 | 研究開発項目の1つで、MIを使って、必要な特性をもつ合金を探す方法を開発する。製造プロセスの高度化、認証に耐える材料データベースの整備も含む | NEDOの航空・宇宙部が担当。実施者の一覧は本稿では確認していない |
| 燃料電池・水電解材料のMI (現在の事業名は「水素利用拡大に向けた共通基盤強化のための研究開発事業」の中) | NIMSの担当分は2020年8月〜2025年3月(予定)。2026年7月の成果報告会でも継続して報告 | 燃料電池の実験データを共通の形式で集めるデータベースとウェブアプリを開発。2026年4月13日時点で28,850ファイルが蓄積。AIで提案した分子を実験で確かめた例も報告 | NIMS、北海道大学、京都大学、名古屋大学、豊田工業大学、早稲田大学 |
| 水電解水素製造向けのMIの調査研究 | 2022年度 | 水電解の触媒や膜の開発にMIをどう使えるかの調査。公募に1件の提案があり、実施予定先は北海道大学 | 北海道大学 |
「開発期間が1/20」という数字は、あらゆる材料が20倍速く作れるという意味ではありません。 プロジェクトの資料では、出口となる5つのモデル材料(有機系機能性材料)で、試作回数・開発期間を従来の概ね1/20以下にできたと報告しています 事実。 これはNEDOが評価委員会に出した成果の説明です。 外部有識者の総合評価は、「おおむね達成」と認める一方で、「適応範囲は限定的」とし、データプラットフォームは「包括的なデータベースとはなっていない」と指摘しています 事実。 材料メーカーから見ると、自社の材料系にそのまま当てはまるかは、個別に確かめる必要があるということです。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | NEDOが持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 研究開発の事業を公募し、実施者を決め、進み具合を管理し、外部有識者の評価を受ける。データ基盤を事業の中で整備させる(超超プロジェクトでは5つのデータプラットフォームを整備) | MIの政策や戦略を決める権限(経済産業省、内閣府など)。国際規格を決める権限。予算を成立させる権限 |
| 地域 | 日本の予算による事業。採択先は国内の国研・大学・企業が中心 | 海外の企業や他国の政策に直接及ぼす権限 |
| 企業への影響 | 共同で研究する企業に、基盤技術とデータ、評価の場を提供する。超超プロジェクトでは企業18社が組合員として参加 | 参加しない企業に、成果の利用を義務づける権限 |
| 規模 | 職員1,640名。予算5,052億円+基金11兆3,668億円(全分野の合計) | MIだけに使われる予算の総額は公表されていない。超超プロジェクトの138億円は7年間の推定額 |
11兆円を超える基金は、NEDOの全分野の合計で、半導体やポスト5Gの基金が大半を占めます (ポスト5G 3兆5,887億円、グリーンイノベーション 2兆7,564億円、特定半導体 2兆1,706億円など) 事実。 MIに使われる金額はこれよりずっと小さく、MIだけの総額は公表されていません 未確定/将来。 また、超超プロジェクトの「138億円」は、7年間の推定の総額で、実際の支出額ではありません。
5. 関わっている組織と体制
超超プロジェクトでは、産総研のプロジェクトリーダーのもと、産総研と先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)が、つくばの集中研で研究を進めました 事実。 組合員は、コニカミノルタ、東ソー、東レ、日本ゼオンなど18社です。 2019年度の公募では2国研・3大学・6企業が実施者に採択され、 体制図には本シリーズで扱う三井化学の名前も載っています(担当した役割までは図から読み取れませんでした) 事実。 成果の一例として、NEDOは2022年6月、産総研、ADMAT、日本ゼオンと共同で、複数のAIを組み合わせて複雑な材料の特性を予測する技術を発表しました。 この発表では、従来のAIでは扱えなかった材料系で、予測にかかる時間を2万分の1以下にできるとしています 事実。 これはNEDOと参加機関の発表で、他の材料系にも当てはまるかは確認されていません 未確定/将来。
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 経済産業省の令和9年度の新規事業(70億円)が成立すれば、NEDOが実施する形になる。成立するかは決まっていない | 経済産業省の概算要求のPR資料に、国→NEDO→国研・大学・民間企業等のスキームが書かれている。概算要求は成立前 | 未確定/将来 |
| 航空機エンジン向け材料の事業は2025年度までの計画で、後継の事業は確認できなかった | 事業ページの事業期間(2021〜2025年度) | 未確定/将来 |
| 新規事業の「秘匿計算」は、超超プロジェクトで扱った「データを秘匿したまま共用する」課題の延長線上にある | 超超プロジェクトの事後評価資料は「企業にとって材料データは他社に見せたくない」という課題と、秘匿共用技術の開発を挙げている。概算要求のPR資料も、競合企業間の安全なデータ連携を目的に挙げる。ただし、要求資料は超超プロジェクトとの関係を書いていない | 推測 |
| 2026年度にMI専用の新規公募がないため、NEDOの新しいMI事業は令和9年度予算の結果に左右される | 2026年度の「材料・製造」公募一覧に該当なし(2026年10月22日確認)。上の要求 | 推測 |
7. 用語集
- 国立研究開発法人
- 国の研究開発を担う法人。省庁そのものではなく、主務大臣の監督のもとで業務を行う。
- マテリアルインフォマティクス(MI)
- 材料の実験やシミュレーションのデータを情報科学の方法で解析し、新材料の探索を効率的・高速に行う取り組み。
- プロセスインフォマティクス
- 試作から工業的なスケールアップまでの製造プロセスを、データ科学と組み合わせて解析する取り組み。
- 技術研究組合(ADMAT)
- 企業などが共同で研究開発を行うための組合。超超プロジェクトでは、先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)に企業18社が加わった。
- データプラットフォーム
- 研究で得たデータを蓄積し、AIなどで使えるようにする仕組み。超超プロジェクトでは目的別に5つが整備された。
- 事後評価
- プロジェクトの終了後に、NEDOが外部有識者の委員会で成果を評価する手続き。
8. 出典
- NEDO 機構概要(名称・本部所在地・設立・主務大臣・職員数・予算・基金事業予算の内訳。2026年4月15日更新)。 https://www.nedo.go.jp/introducing/kihon.html
- NEDO 事業紹介「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」(事業期間2016〜2022年度、プロジェクトコードP16010、PL、2019年度からの論文データ抽出AIツール)。 https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100119.html
- NEDO 「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」事後評価 プロジェクトの概要(公開)(2022年6月20日。費用総額138億円〔7年間推定〕、1/20の目標と成果、実施体制、秘匿共用技術、政策的位置づけ)。 https://www.nedo.go.jp/content/100947917.pdf
- NEDO 「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」事後評価報告書(案)概要(第70回研究評価委員会 資料3-4、2022年10月。総合評価)。 https://www.nedo.go.jp/content/100953390.pdf
- NEDO ニュースリリース「複数のAIを活用し、複雑な材料データからさまざまな機能を予測する技術を開発」(2022年6月30日)。 https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101554.html
- NEDO 事業紹介「航空機エンジン向け材料開発・評価システム基盤整備事業」(事業期間2021〜2025年度、2025年度予算7.0億円、MIによる合金探索)。 https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100196.html
- NEDO NEDOエネルギー・地球環境分野成果報告会2026 発表No.a-05「DXおよびマテリアルズ・インフォマティクスを用いた燃料電池・水電解材料の研究開発」(2026年7月22日)。 https://www.nedo.go.jp/content/800068477.pdf
- NEDO NEDO水素・燃料電池成果報告会2023 発表No.A1-10「マテリアルズ・インフォマティクスによる燃料電池材料の研究開発」(2023年7月13日。期間2020年8月〜2025年3月予定)。 https://www.nedo.go.jp/hydrogen2023/pdf/A1-10.pdf
- NEDO 「プロセスインフォマティクスへの拡張性を考慮したマテリアルズインフォマティクスに関する調査研究」に係る実施体制の決定について(2022年9月14日)。 https://www.nedo.go.jp/koubo/SE3_100001_00029.html
- NEDO 2026年度 材料・製造 公募一覧(「この分野に該当する公募がありません」。2026年10月22日に確認)。 https://www.nedo.go.jp/koubo/2026_list_05_02.html
- 経済産業省 令和9年度概算要求のPR資料(一般会計)。「AI・秘匿計算技術等を活用した高機能複合新素材開発事業」70億円(新規)、国→NEDO→国研・大学・民間企業等のスキーム。 https://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2027/pr/pdf/pr_ippan.pdf
9. 主張と出典の対応表
| 本文の主張 | 区分 | 出典 |
|---|---|---|
| 正式名称、本部、設立、主務大臣、職員数1,640名、予算5,052億円、基金事業予算11兆3,668億円とその内訳 | 事実 | 出典1 https://www.nedo.go.jp/introducing/kihon.html |
| 超超プロジェクトの事業期間(2016〜2022年度)、プロジェクトリーダー、2019年度からのAIツール開発の追加 | 事実 | 出典2 https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100119.html |
| 費用総額138億円(7年間推定)、1/20の目標、モデル材料での達成の報告、実施体制(企業18社・大学等10機関)、2019年度公募の採択数、秘匿共用技術、政策的位置づけ | 事実 | 出典3 https://www.nedo.go.jp/content/100947917.pdf |
| 外部有識者の総合評価(おおむね達成、適応範囲は限定的、データベースは包括的でない) | 事実 | 出典4 https://www.nedo.go.jp/content/100953390.pdf |
| 複数のAIによる特性予測技術の発表(予測時間が2万分の1以下)、参加機関 | 事実 | 出典5 https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101554.html |
| 航空機エンジン向け材料の事業期間・2025年度予算7.0億円・MIによる合金探索 | 事実 | 出典6 https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100196.html |
| 燃料電池・水電解材料のMIの2026年時点の報告内容(データ28,850ファイル、実施機関) | 事実 | 出典7 https://www.nedo.go.jp/content/800068477.pdf |
| NIMS担当分の期間(2020年8月〜2025年3月予定) | 事実 | 出典8 https://www.nedo.go.jp/hydrogen2023/pdf/A1-10.pdf |
| 水電解向けMI調査研究の実施体制の決定(2022年度、北海道大学、提案1件) | 事実 | 出典9 https://www.nedo.go.jp/koubo/SE3_100001_00029.html |
| 2026年度の「材料・製造」分野に該当する公募がないこと | 事実 | 出典10 https://www.nedo.go.jp/koubo/2026_list_05_02.html |
| 経済産業省の令和9年度概算要求(70億円・NEDO経由のスキーム) | 事実 | 出典11 https://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2027/pr/pdf/pr_ippan.pdf |
| 機関の4つの型の区分、図2の担い手の整理 | 本稿の計算 | 本稿による整理 |
| MIだけに使われる予算の総額、令和9年度の要求の成立、航空機エンジン向け材料の後継事業、他の材料系への適用 | 未確定/将来 | 出典1〜11に記載なし、または成立前。本稿では推計しない |
| 第6章の推測2項目(秘匿計算が超超プロジェクトの課題の延長線上にあること、NEDOの新規MI事業が令和9年度予算に左右されること) | 推測 | 出典3・10・11の記述からの本稿の解釈 |
最終更新:2026年10月22日/Troy Technical
本稿の数値はNEDOの公式サイト・評価資料・ニュースリリース、成果報告会資料、経済産業省の概算要求資料に基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。
