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経済産業省 機関解説

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INSTITUTION PROFILE / マテリアルインフォマティクス

経済産業省
― 日本のマテリアルインフォマティクスの「方針」と「予算要求」を決める官庁

マテリアルインフォマティクス(MI)は、AIやデータを使って新しい材料の開発を速くする方法です。 経済産業省は日本の産業政策を担う官庁で、自分では材料を研究しません。 役割は、MIをどの方向へ進めるかの方針を示し、そのための予算を要求することです。 実際の研究開発は、所管するNEDOなどを通じて企業・大学・研究機関が行います。 本稿では、経済産業省がMIにどこまで影響を持ち、何を決められないのかに絞って整理します。

構成:経済産業省設置法、令和9年度概算要求の公表資料、日本成長戦略の官民投資ロードマップ、内閣府のマテリアル革新力強化戦略と推進方策の提言を一次情報として使用/確認日 2026年10月22日

政策・制度と、研究現場の測定・計算を分けて示す概念です。戦略の目標は、そのまま達成した成果ではありません。
概念画像(ImageGen生成)。政策・制度と、研究現場の測定・計算を分けて示す概念です。戦略の目標は、そのまま達成した成果ではありません。実在の製品・施設・測定結果ではありません。拡大模型、線・矢印・色は説明用です。
この記事でわかること
  1. 30秒でわかる経済産業省
  2. どんな機関か ― 影響力の「型」
  3. MIで何をしているか
  4. 影響力の範囲(権限と地域)
  5. 関わっている組織とお金の流れ
  6. 今後の見通し
  7. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかる経済産業省

正式名称経済産業省英文 Ministry of Economy, Trade and Industry(METI)
国日本東京都千代田区霞が関
機関の種類国の行政機関(省)根拠法は経済産業省設置法(平成11年法律第99号)
人数規模総定員 8,068人令和8年度末の見込み。令和7年度末は8,013人
予算規模3兆693億円令和8年度当初予算の「経済産業省関連合計」(一般会計・特別会計の合計)
MIに関わる所管法人NEDO・産総研どちらも経済産業省所管の独立行政法人(国立研究開発法人)
MIへの関与の形方針づくりと予算要求令和9年度概算要求に新規事業70億円(成立前)
影響が及ぶ範囲日本の国内国際標準の提案は、まだ有識者の提言の段階
まず押さえるべき1点

経済産業省は、MIの方針と予算要求を出す側ですが、方針を一人で決める官庁でも、予算を成立させる機関でもありません。 2026年8月31日に公表された令和9年度の概算要求で、経済産業省は「AI・秘匿計算技術等を活用した高機能複合新素材開発事業」を70億円(新規)で要求しました。 事業は国がNEDOに交付金を出し、NEDOが企業・大学などに委託する形で、令和9年度から令和14年度までの6年間を予定しています 事実。 ただし、これは要求の段階で、予算として成立したものではありません 未確定/将来。 また、大きな方針(日本成長戦略の官民投資ロードマップ)は内閣の日本成長戦略本部が決め、事業はその方針に基づくと要求資料に書かれています 事実。

2. どんな機関か ― 影響力の「型」

MIの記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では材料を開発しません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。 経済産業省は、このうち「政策・規制を決める」型です。

マテリアルインフォマティクスを動かす「機関」の4つの型 機関は自分では材料を開発しない。どの経路で業界に影響を与えるかで4つに分かれる 資金を出す 政策・規制を決める 標準を決める 場をつくる 研究開発に予算を配る 戦略・予算要求・法律 データ・測定の基準 研究拠点・データ基盤 NEDO/JST/DOE 経済産業省/欧州委員会 NIST NIMS 何を研究させるか 何を重点にするか どう測り、どう比べるか データと人が集まる 届く範囲=自国の予算 届く範囲=自国の政策 届く範囲=参照する人 届く範囲=利用者 経済産業省は「政策・規制を決める」型。方針と予算要求を出すが、予算の成立は国会、実務はNEDOが担う 同じMIでも、どの型の機関かによって影響の届き方がまったく違う
図1 MIに関わる機関の4つの型と、経済産業省の位置。区分は本稿によるもので、機関名は本シリーズで扱う機関から例示しています 本稿の計算。経済産業省は予算を「要求する」側なので、資金の型には入れていません。

経済産業省が決めるのは「何に力を入れ、いくら要求するか」です。 予算を決めるのは国会で、研究テーマを選んで資金を配る実務は、NEDOなどの所管法人が担います。 方針を示す力は強い一方で、資金の最終決定や研究の中身には直接関わりません。

3. MIで何をしているか

経済産業省のMI関連の動きとして、公表資料で確認できたのは次の3つです 事実。

取り組み時期・規模中身区分
官民投資ロードマップ「AI等を活用した複合新素材」
(日本成長戦略本部が決定)
2026年7月21日決定
2040年度までの官民投資額 5.2兆円(想定)
新素材の開発速度を従来の10倍にするしくみをつくる。素材開発向けの基盤モデルやAIエージェント、データセット、秘匿計算の基盤などに投資する。経済波及効果は14.4兆円と想定決定は内閣。金額は想定
令和9年度概算要求
AI・秘匿計算技術等を活用した高機能複合新素材開発事業
70億円(新規)
令和9〜14年度の6年間
製造産業局素材産業課
会社をまたいでデータをAIで解析できる秘匿計算の基盤づくり、計測・分析機器やシミュレータの連携、ポスト5G/6G向け材料などの研究データを集めてAIが使える形に整える作業、知財管理やデータの扱いのルールづくり。NEDOを通じて実施する要求のみ。成立前
国際標準化(提案)令和8年6月12日の提言
実施主体・時期は未定
有識者会議の提言の工程表が、複合新素材の品質などの標準化整備と、秘匿計算によるデータ連携ルール形成の担当に「経」(経済産業省と読める)を挙げている。工程表は「関係省庁・関係機関への提案」と書かれている提案。決定ではない
素材技術者の視点:なぜ「秘匿計算」なのか

材料の会社は、配合や条件のデータを競合に見せたくありません。 ところがAIは、データが多いほど精度が上がります。 そこで、データの中身を相手に見せないまま、複数の会社のデータをまとめてAIで解析する技術(秘匿計算)に期待が集まっています。 要求資料はこれを「競合他社間や川上・川下企業間で安全なデータ連携・AI解析を可能とする」ためと説明しています 事実。 材料メーカーから見ると、うまくいけば「自社のデータを出さずに、業界全体のデータの恩恵を受ける」道が開けますが、 実際に動くかどうかは、これから基盤をつくる段階で、まだ確認されていません 未確定/将来。

4. 影響力の範囲(権限と地域)

観点経済産業省が持っているもの持っていないもの
権限鉱工業の科学技術に関する総合的な政策、研究開発の助成、成果の普及などを担う(設置法第4条)。予算を要求し、事業の方針を示す予算を成立させる権限(国会が決める)。国全体のマテリアル戦略を決める権限(内閣府の会議が決定)。官民投資ロードマップの決定(日本成長戦略本部)
資金NEDOなど所管法人への交付金の原資を要求できる採択先を選ぶ作業(本事業はNEDOに委ねる形で要求されており、採択の方法は要求資料に記載がない)
地域日本の政策と予算。事業の担い手は「国研、大学、民間企業等」と書かれている他国の政策や、海外企業への義務づけ。国際標準は提案できても決められない
所管する機関NEDO、産業技術総合研究所(産総研)を所管する独立行政法人として持つNIMS・JSTは経済産業省の所管法人一覧に載っていない(本シリーズの別記事で扱う)
規模省全体の総定員は8,068人(令和8年度末)MI担当の人数は公表資料で確認できなかった
数字の読み方の注意

この記事には似た金額がいくつも出てきますが、意味がすべて違います。 70億円は令和9年度に1年分として要求した額で、成立前です。 5.2兆円は2040年度までの官民を合わせた投資の想定額で、政府予算ではありません。 14.4兆円はその投資が経済全体に及ぼす波及効果の想定で、売上や利益ではありません。 4兆円以上は要求資料が長期の目標として挙げた、高機能複合素材市場での売上です。 いずれもこれから先の想定や目標です 未確定/将来。

5. 関わっている組織とお金の流れ

MIの方針と予算はどう流れるか(日本・令和9年度概算要求の段階) 方針は内閣・内閣府、要求は経済産業省、実務はNEDO。予算の成立は国会 日本成長戦略本部(内閣) 官民投資ロードマップ(2026年7月21日決定) 内閣府 統合イノベーション戦略推進会議 マテリアル革新力強化戦略(2025年6月) 方針 方針 経済産業省(製造産業局 素材産業課) 方針に基づき、事業を70億円(新規)で要求 交付金(成立すれば) 所管 NEDO(所管法人) 交付金を受け、国研・大学・企業等に委託 産総研(所管法人) この事業での役割は要求資料に記載なし 委託先:国研、大学、民間企業等 採択企業は未決定 (予算の成立後に決まる) NIMS・JST(別記事で扱う) 経済産業省の所管法人の一覧に 載っていない機関
図2 MIに関する方針と予算の流れ(令和9年度概算要求の段階)。出典:令和9年度概算要求のPR資料、日本成長戦略の官民投資ロードマップ、経済産業省所管法人の一覧。矢印は「方針→要求→交付金→委託」の向きで、予算が成立すればこの形になる、という要求資料の記述に基づきます 本稿の計算。

要求資料に書かれた事業の形は、「国がNEDOに交付金を出し、NEDOが国研、大学、民間企業等に委託する」というものです 事実。 つまり経済産業省は、どの企業が参加するかを直接決めません。 採択先は予算が成立してからNEDOが選ぶため、現時点で参加企業は決まっていません 未確定/将来。 このため本稿では、特定の企業名を挙げていません(要求資料に企業名がないため)。

6. 今後の見通し

読み取れること根拠となる一次情報区分
令和9年度の70億円がそのまま成立するかは決まっていない概算要求は予算編成の前段階の要求。令和9年度予算の成立は2026年10月22日の時点で確認できない未確定/将来
事業が成立すれば、6年間で開発速度10倍、実材料の上市15件、売上4兆円以上を目指す要求資料の成果目標(短期・中期・長期)未確定/将来
実際のテーマと参加企業は、NEDOの公募で決まる流れになる要求資料のスキーム(国→NEDO→国研・大学・民間企業等)推測
MIの方針は、経済産業省だけでなく内閣、内閣府、文部科学省と分担する形が続く提言の工程表が、担当を「内」「文」「経」などで分けている(記号の意味は文書中に定義が見当たらない)推測

7. 用語集

マテリアルインフォマティクス(MI)
材料のデータをAIや統計で解析し、新しい材料の探索や設計を速くする方法。
秘匿計算
データの中身を相手に見せないまま、複数の組織のデータをまとめて解析できるようにする技術の総称。
AI-Ready化
集めたデータを、AIがそのまま使える形(形式の統一や注釈の付与など)に整えること。
概算要求
各省庁が翌年度の予算について財務省に出す要求。これが国会で決まる予算になるまでには、予算編成と国会の審議がある。
官民投資ロードマップ
日本成長戦略の17の分野ごとに、国と民間がどれだけ投資するかの想定と、そのための政策をまとめた文書。
国立研究開発法人
国の研究開発を担う法人。省庁そのものではなく、主務大臣の監督のもとで業務を行う。

8. 出典

  1. e-Gov法令検索 経済産業省設置法(平成11年法律第99号)。第3条(任務)、第4条第1項第21〜24号(鉱工業の科学技術に関する所掌事務)。 https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000099
  2. 経済産業省 令和9年度概算要求・税制改正要望について(2026年8月31日公表、2026年9月29日更新)。 https://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2027/index.html
  3. 経済産業省 令和9年度 経済産業省関係 概算要求等概要(経済産業省関連合計の要求額・令和8年度当初予算額。別紙2「AI・秘匿計算技術等を活用した高機能複合新素材開発事業」7,000,000千円)。 https://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2027/pdf/01.pdf
  4. 経済産業省 令和9年度概算要求のPR資料(一般会計)。「AI・秘匿計算技術等を活用した高機能複合新素材開発事業」令和9年度概算要求額70億円(新規)、製造産業局素材産業課、事業目的・成果目標・事業期間・事業スキーム。 https://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2027/pr/pdf/pr_ippan.pdf
  5. 内閣官房 日本成長戦略本部/日本成長戦略会議(日本成長戦略の閣議決定と官民投資ロードマップの本部決定。いずれも2026年7月21日)。 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/index.html
  6. 日本成長戦略本部 戦略17分野における「主要な製品・技術等」の官民投資ロードマップ(マテリアル(重要鉱物・部素材)⑥AI等を活用した複合新素材)。 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/pdf/rm2026.pdf
  7. 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局 マテリアル革新力強化戦略(概要)(令和7年6月4日、統合イノベーション戦略推進会議決定)。 https://www8.cao.go.jp/cstp/material/material_2025_gaiyo.pdf
  8. 内閣府 有識者会議「マテリアル戦略」 マテリアル革新力強化戦略推進方策〈提言〉(令和8年6月12日)。工程表は「関係省庁・関係機関への提案として作成」。 https://www8.cao.go.jp/cstp/material/material_2026_suishin.pdf
  9. 経済産業省 令和8年度 主な機構・定員について(令和7年12月。総定員は令和7年度末8,013人から令和8年度末8,068人)。 https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2026/pdf/05.pdf
  10. 経済産業省 経済産業省所管法人(所管する独立行政法人の一覧。2025年10月6日更新)。 https://www.meti.go.jp/intro/index_houjin.html

9. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
経済産業省設置法が根拠法であること、鉱工業の科学技術に関する政策・研究開発の助成などを所掌すること事実出典1 https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000099
令和9年度概算要求の公表日(2026年8月31日)事実出典2 https://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2027/index.html
経済産業省関連合計(令和8年度当初予算 3兆693億円)、事業の要求額7,000,000千円(70億円)事実出典3 https://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2027/pdf/01.pdf
70億円(新規)、令和9〜14年度の6年間、素材産業課、成果目標(10倍・上市15件・売上4兆円以上)、国→NEDO→国研・大学・民間企業等のスキーム、ロードマップと内閣府戦略に基づくこと事実出典4 https://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2027/pr/pdf/pr_ippan.pdf
日本成長戦略の閣議決定と官民投資ロードマップの本部決定(2026年7月21日)事実出典5 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/index.html
「AI等を活用した複合新素材」の官民投資額5.2兆円(2040年度まで)、経済波及効果14.4兆円、開発速度10倍の目標、投資内容と政策パッケージ事実(金額は想定)出典6 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/pdf/rm2026.pdf
マテリアル革新力強化戦略(2025年6月)がデータ基盤を軸とするマテリアルDXの推進を掲げること事実出典7 https://www8.cao.go.jp/cstp/material/material_2025_gaiyo.pdf
提言(2026年6月12日)の工程表での標準化・秘匿計算ルールの担当表記と、「提案として作成」の注記事実出典8 https://www8.cao.go.jp/cstp/material/material_2026_suishin.pdf
総定員 令和7年度末8,013人・令和8年度末8,068人事実出典9 https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2026/pdf/05.pdf
NEDO・産総研が経済産業省所管の独立行政法人であること、NIMS・JSTが一覧にないこと事実出典10 https://www.meti.go.jp/intro/index_houjin.html
機関の4つの型の区分、図2の整理本稿の計算本稿による整理
秘匿計算・AI-Ready化・概算要求などの用語の説明事実本稿の解説(出典4の用語に基づく一般的な説明)
令和9年度予算の成立、70億円がそのまま成立するか、成果目標の達成未確定/将来出典4は要求と目標。成立は確認できない(本稿では推計しない)
採択先の企業、MI担当の職員数、産総研のこの事業での役割未確定/将来出典4・9に記載なし。本稿では推計しない
第6章の推測2項目(NEDOの公募で決まる流れ、省庁分担が続く形)推測出典4のスキームと出典8の担当表記からの本稿の解釈

最終更新:2026年10月22日/Troy Technical
本稿の数値は経済産業省・内閣官房・内閣府の公表資料に基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。令和9年度の要求は成立前で、今後変わる可能性があります。