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シュレディンガー 企業解説

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COMPANY PROFILE / マテリアルインフォマティクス

シュレディンガー
― 物理計算に機械学習を足す材料向けソフト。ただし事業の大半は創薬

Schrödingerは、分子の振る舞いを量子力学や分子動力学で計算するソフトウェアを、製薬会社と材料メーカーに売る米国の上場企業です。材料向けの製品(Materials Science Suite)を持ち、機械学習で原子間の力を速く正確に出す「機械学習力場」を開発し、2026年10月には電池の電解液についてNatureに論文が出たと発表しました。

一方、会社全体では創薬が中心です。Form 10-Kの図から読み取ると、材料向けの契約額(ACV)は2025年で約1,710万US$、全体の約9%にとどまります(本稿の計算)。本稿は材料向けの事業と研究に絞って、会社が示す性能の主張と、実験で確かめられた範囲を分けて整理します。

構成:Schrödingerの米国SEC提出書類(2026年2月提出のForm 10-K、同年8月提出のForm 10-Q)、公式ニュースリリース、公式サイト、プレプリントを一次情報として使用/最終更新 2026年10月22日

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるSchrödingerと、マテリアルインフォマティクスでの立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. マテリアルインフォマティクスの世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模(材料向けを中心に)
  5. マテリアルインフォマティクスにかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社はマテリアルインフォマティクスで何を目指しているか
  9. マテリアルインフォマティクス分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集
  13. 出典
  14. 主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるシュレディンガーと、マテリアルインフォマティクスでの立ち位置

正式名称Schrödinger, Inc.SEC提出書類の登録名は Schrodinger, Inc.
本社米国ニューヨーク1540 Broadway(Form 10-Kの記載)
上場Nasdaq: SDGR2020年2月6日から
MIでの類型MIソフト・材料AI
(主)
従:機械学習力場(基盤モデル型の部品)
材料向けの契約額約1,710万US$(2025年)ACV全体198.5百万US$の約9%(本稿の計算)
材料向けの主な製品Materials Science SuiteMS Maestro・LiveDesign・Desmond・Jaguarなど
機械学習力場MPNICEなどプレプリントで、同等の精度のモデルより5〜20倍速いと主張
新しいAIBunsen(早期提供)2026年7月発表。製品版は2026年末までの見込み
まず押さえるべき1点

マテリアルインフォマティクス(MI)とは、材料のデータを集め、AIや計算で性質を予測・設計し、実験で確かめるという流れで新しい材料を探す方法です。Schrödingerは、この流れのうち「予測・設計」を、物理の計算(量子力学・分子動力学)で行うソフトを売る会社で、近年は機械学習を使って計算を速くしています 事実。データから統計的に学ぶ「データ駆動型」のMIと違い、原子や分子の物理法則に基づく計算が土台にある点が特徴です。

ただし、材料向けは会社の事業のごく一部です。契約額の約9%で、売上・研究開発費の大半は創薬向けです 本稿の計算。「材料科学ソフトが事業の中心」という見方は、公式の数字では当てはまりません。

2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:社名はSchrödinger, Inc.(ö にウムラウト)。ただし米国SECの提出書類では登録名が Schrodinger, Inc.(ウムラウトなし)です。同じ会社です。日本語では「シュレーディンガー」と書かれることが多く、量子力学の「シュレーディンガー方程式」の名前に由来する社名です(由来は公式資料で確認していません)。

公式サイト:https://www.schrodinger.com/

3. マテリアルインフォマティクスの世界で、この会社はどこにいるか

マテリアルインフォマティクスに関わる企業の4つの類型 同じ「MIの会社」でも、データ→設計→実験のどこを担うかで、強みと課題が違う 基盤モデル・計算基盤 MIソフト・材料AI 自動実験・ロボット 応用する側 データと計算でAIを作る 解析ソフトと材料AI ロボットで実験を回す 電池・化学・半導体など Google DeepMind/Microsoft Meta/NVIDIA Citrine/Schrödinger Preferred Networks/CuspAI Chemspeed/Radical AI Periodic Labs/Lila Sciences SES AI/Mitsui Chemicals Applied Materials 大規模な計算と人材 使いやすさとデータ 実験を回す速度 実際の材料と市場 実験での検証は他者頼み 顧客のデータ次第 設備費と再現性 内製の人材とデータ不足 Schrödingerは左から2番目の「MIソフト・材料AI」。物理の計算ソフトに機械学習を組み合わせる 強みは使いやすさと実績ある計算手法、課題は材料向けの採用がまだ初期という点(10-Kの記載)
図1 マテリアルインフォマティクスに関わる企業の4類型と、Schrödingerの位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。Schrödingerが材料向けの計算ソフトを売っていることは、Form 10-Kと公式サイトの記載に基づきます。

MIの会社は、同じ「AI」でもデータ集め→予測・設計→実験で確かめるのどこを担うかで性格が変わります。Schrödingerの位置を、この流れの上に置くと次のとおりです。

SchrödingerはMIの流れのどこを担うか 主な担当は「物理計算と機械学習による予測・設計」。実験は顧客や共同研究先が行う ① データを集める ② 予測・設計する ③ 実験で確かめる 計算でデータを作る 量子力学の計算結果を 機械学習力場の 学習に使う (顧客データも利用) 物理計算+機械学習 Jaguar(量子力学) Desmond(分子動力学) 機械学習力場/Formulation ML Bunsen(早期提供) 自社の実験設備は 確認できなかった Nature論文では 共同研究先が 実験データを提供 Schrödingerの主な担当は「② 予測・設計」。③ は顧客や共同研究先 データを機械で集める事業ではなく、計算でデータを作る点が、他のMI企業と異なる 主に担う 一部・確認できた範囲
図解 SchrödingerがMIの流れのどこを担うか。区分は本稿が公開資料から整理したもの 本稿の計算。製品は出典6・7、論文の内容は出典4による。

量子力学の計算は本シリーズの技術解説「密度汎関数理論の基礎」「量子化学・材料シミュレーション」を、分子動力学は「分子動力学」、機械学習力場は「機械学習原子間ポテンシャル」を参照してください。

4. 会社の規模(材料向けを中心に)

会社全体の規模と、材料向けの数字を分けて示します 事実。

指標(百万US$)2024年12月期2025年12月期
売上高(全体)207.5255.9
 うちソフトウェア180.4199.5
 うち創薬27.256.4
研究開発費(全体)201.8173.1
営業損失209.3166.9
ACV(年間契約額、全体)190.8198.5
項目内容
従業員(2026年2月3日)常勤850人(うち博士号363人。米国587人、米国外263人)
本社所在地米国ニューヨーク(1540 Broadway)
上場市場Nasdaq Global Select Market(SDGR)。2020年2月6日から
事業の区分ソフトウェアと創薬の2つ。ソフトウェアは、創薬向けと材料科学向けの両方を含む

材料向けの数字(ACVの内訳)

会社は2025年から、ACV(年間契約額)を業種別に開示するようになりました。材料向けの数字はForm 10-Kに載った図から読み取れます。

ACVの業種別内訳(百万US$)2024年2025年2025年の全体に占める割合(本稿の計算)
材料(Materials)14.917.1約8.6%
上位20の製薬会社70.080.8約40.7%
その他のライフサイエンス92.490.4約45.5%
寄付(Contribution)13.510.2約5.1%
合計190.8198.5100%

出典:出典2・1。割合は本稿が計算しました 本稿の計算。材料向けは2024年から2025年で約15%増(14.9→17.1)、全体は約4%増(190.8→198.5)です。

ここで注意

材料向けのACVは、創薬と材料の両方を買う顧客の分を、会社の内部判断で振り分けた数字です(10-Kの記載)。ACVは売上そのものではなく、売上の予測でもありません。「寄付」は、Gates VenturesとBill & Melinda Gates Foundationからの助成で、ソフトの契約とは別に扱われています。材料向けの売上・研究開発費・利益は開示されていません 未確定/将来。

5. マテリアルインフォマティクスにかけているリソース

材料向けの人員・予算は非公表ですが、公式資料から何を投じているかは読み取れます。確認できなかった項目は「記載なし」と書きます。

リソースの種類内容区分
人従業員は全体で常勤850人(博士363人)。材料向けの専任人数は非公表。10-Kは「材料科学の各分野に専門家のチームを増やしている」と記載。材料科学担当の上級副社長として Mat Halls 氏が2026年のニュースリリースに登場事実(人数は非公表)
金研究開発費は全体で173.1百万US$(2025年)。創薬のプログラム費用と、計算基盤の開発費が合算されており、材料向けの内訳は非公表。外部資金として、Gates Venturesと2020年6月に電池の原子レベルのシミュレーション手法開発の3年契約を結び、2023年8月に増額して3年延長事実(材料向けの内訳は非公表)
外部への出資・買収・合弁・事業売却10-Kに、材料向けの出資・買収・合弁・売却の記載は見当たらなかった確認できず
大学・研究機関・公的資金との連携Columbia UniversityとNew York Structural Biology Centerとの共同研究(Nature論文、2026年10月)。共同創業者の Richard Friesner 氏はColumbia大学の教授。Copernic Catalystsとの触媒の共同研究(2023年)。DOE・NSF・NEDOなどの公的資金は、本稿が確認した資料には記載なし事実(公的資金は確認できず)

主要な製品・モデルの状況

会社の公式資料で確認できた範囲です。性能の数字は会社・研究チームの主張で、本稿は再現・検証していません。

名称種別内容(公表された仕様・対象・条件)公開の形・ライセンス段階日付出典
Materials Science Suite材料向けの計算ソフト一式MS Maestro(画面)、MS LiveDesign、Desmond(分子動力学)、Jaguar(量子力学)、Formulation ML(配合と性質の関係を学ぶ自動機械学習)など。応用は有機エレクトロニクス、高分子、日用品、触媒、薄膜、電池、金属・セラミックスなど商用。計算の量に応じたライセンス(10-Kの記載)提供2026-3版が最新(日付の記載なし)出典6・7・1
機械学習力場(MPNICE)機械学習原子間ポテンシャル原子の電荷を反復して予測し、長距離の相互作用も扱う。プレプリントは、同等の精度のモデルより推論が5〜20倍速いと報告。有機系の液体・固体の実験値と照合し、無機結晶用のモデルも学習。学習に使っていない約500のPt・Ir有機金属錯体の気相構造も予測できたと報告論文は公開。製品での提供形態は公式資料で確認できなかった研究(プレプリント)2025年5月(v2は同年8月)出典8
Materials Science Suite 2026-3最新版のリリースBunsen(ベータ)、基盤の機械学習力場のカスタム拡張、粗視化モデルから全原子への変換、固体向け機械学習の特徴量、結晶構造予測の拡張商用提供日付の記載なし出典7
Bunsenエージェント型AI(共同研究者)科学的な目的を理解し、計算の戦略を立て、検証された物理計算を実行し、結果を解釈する。NVIDIAとGoogle Cloudが計算基盤を提供商用。「スループット課金」の方針を会社が説明早期提供(製品版は2026年末までの見込み)2026年7月27日発表出典5・3

6. これまでの取り組み

時期できごと意味
2020年2月Nasdaqに上場創薬ソフトと材料ソフトの両方を売る会社として
2020年6月Gates Venturesと、電池の性能向上のための原子レベルのシミュレーション手法の3年契約外部資金による材料研究の始まり
2023年Copernic Catalystsと、e燃料・基礎化学品向けの持続可能な触媒の共同研究触媒の分野での共同研究
2023年8月Gates Venturesとの契約を、規模を増やして3年延長電池向けの研究を継続
2025年5月MPNICE(機械学習力場)のプレプリントを公開物理計算を機械学習で速くする研究
2025年度10-Kで業種別のACVを開示(材料は17.1百万US$)材料向けの規模が初めて数字で確認できるようになった
2026年2月25日Form 10-Kを提出材料科学の事業の記述(応用分野、Gates Ventures、Copernic)
2026年7月27日Bunsenの早期提供を発表物理計算を自然言語で動かすAI
2026年10月14日リチウムイオン電池の電解液に関する研究のNature掲載を発表(Columbia大学ほかとの共同)機械学習力場を使った研究成果。論文本体は本稿では未確認

7. 今後の計画

Bunsenの製品版2026年末までに
公開の見込み
10-Qの記載。会社の予定
材料向けの目標確認できなかった材料向けの売上・契約額の数値目標の記載なし
Gates Venturesとの研究継続中2026年10月の発表が「継続中」と記載。契約期間の更新は未確認
機械学習力場の製品化確認できなかったMPNICEの製品提供の予定の記載なし

10-Qは、Bunsenの商用版を「2026年末までに公開する見込み」と書いています 未確定/将来。会社の予定であり、達成の事実ではありません。

確認できなかったこと

次はいずれも、本稿が確認した公式資料に記載がありません 未確定/将来。

材料向けの売上・利益・研究開発費/材料向けの数値目標/MPNICEなどの製品での提供形態/Nature論文の本文の詳細(本稿は会社のニュースリリースに基づく)。「材料向けが○年に○倍になる」といった報道ベースの話は、本稿では採用しません。

8. この会社はマテリアルインフォマティクスで何を目指しているか

ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
材料向けは、創薬と同じ物理計算の基盤を横に広げた事業10-Kが「薬の分子と材料を決める物理は同じなので、計算基盤を材料科学へ広げた」と説明事実
純粋にデータから学ぶのでなく、物理計算を機械学習で速める方向ニュースリリースが「量子の精度と大規模シミュレーションの二者択一をなくす」と説明。Bunsenも「検証された物理計算を実行する」と説明推測
材料向けの採用はまだ初期と会社自身が見ている10-Kが「材料科学の産業は、計算手法の可能性を認識し始めたばかり」と記載事実
外部の助成(Gates Ventures)に支えられた電池研究が、材料向けの技術を前に進めている2020年から続く契約と、2026年のNature論文の発表推測
AIで物理計算の使い手を広げる狙いBunsenの発表が「計算化学者でない研究者にも高度な手法を使えるようにする」と説明推測
推測の根拠を1つだけ詳しく

10-Kは、同じ会社の製品を「薬の分子」と「材料」の両方に使うと書き、材料向けの契約額(17.1百万US$)は、創薬向けの契約額の合計(上位20製薬会社80.8+その他90.4=171.2百万US$)の約10分の1です 本稿の計算。一方、Nature論文やBunsenの発表は、電池や分子発見という材料・創薬で共通に使える技術を前面に出しています。ここから、会社は材料向けを独立した事業として育てるより、共通の計算技術の応用先の一つとして広げていると本稿は読みます 未確定/将来。

9. マテリアルインフォマティクス分野の提携マッピング

Schrödingerを中心とした材料分野の提携関係 Form 10-K・ニュースリリースに記載のある関係のみ。報道ベースの関係は含まない Schrödinger MIソフト Columbia大学ほか Nature論文の共同研究 NYSBCと(2026年10月) Copernic Catalysts 持続可能な触媒の 共同研究(2023年) ソフトの顧客 航空宇宙・半導体・ ディスプレイ・化学など Gates Ventures 電池研究の資金 (2020年〜、2023年に延長) NVIDIA Bunsenの計算基盤・ BioNeMo連携(2026年7月) Google Cloud Blackwell GPUの計算を 初期顧客に提供(2026年7月) 競合:BIOVIA・Materials Design 共同開発・導入の相手 データ・計算の提供 資金の提供元
図2 Schrödingerを中心とした材料分野の提携関係。出典:Form 10-K、2026年のニュースリリース。下の枠は提携ではなく、10-Kが材料科学の競合として挙げる会社です。NVIDIA・Google Cloudの関係は、主に創薬を含むBunsen向けの発表です。

10. 提供している技術・製品・サービス

物理の計算と、機械学習力場

材料の性質を計算で予測する方法には、精度と規模のトレードオフがあります。量子力学の計算(Jaguarなど)は電子の振る舞いから正確に求められますが、扱える原子の数が少なく時間がかかります。分子動力学(Desmondなど)は、原子の間の力(力場)を使って多数の原子を長い時間動かせますが、力場の精度が結果を左右します。機械学習力場は、量子力学の計算結果を学習して力場を作ることで、「量子に近い精度を、分子動力学の規模で」得ることをねらいます(会社の説明)。

量子計算で学習→大規模シミュレーション→実験と照合 手順は機械学習力場の一般的な作り方。④と「最大40%」は2026年10月14日のニュースリリース ① 量子計算 量子化学の計算で 電解液の分子の エネルギーや力を 求める ② 力場を学習 計算結果から 機械学習力場を 作り、量子に近い 精度をねらう ③ 大規模計算 電解液を大規模に 分子動力学で シミュレーション (クラスターを観察) ④ 実験と照合 NMR・密度・粘度・ イオン伝導率・拡散 係数と「よく一致」 と会社が説明 主張:標準的な電解液で、リチウムイオンの最大40%が複数でクラスターを作る(会社・研究チームの主張) 最大40%という数字の条件(組成・濃度・温度)はニュースリリースに記載がなく、本稿では確認できなかった
図解 機械学習力場を使う研究の一般的な流れ(Schrödingerの社内手順を示すものではない)。④と「最大40%」は2026年10月14日のニュースリリース。論文本体は本稿では未確認。クラスターは、溶媒のエチレンカーボネートに囲まれた、陰イオンを含まない複数のリチウムイオンの集まり。計算は会社と共同研究先(Columbia大学ほか)が行い、実験との一致も同じ研究チームの報告で、独立した第三者による検証は確認できなかった。

ニュースリリースによれば、この研究は、溶媒(エチレンカーボネート)に囲まれたリチウムイオンが、陰イオンなしで複数集まるという、これまで認識されていなかった構造を示したと言います 事実(研究チームの主張)。量子化学の計算では、これらのクラスターは還元されやすく、負極の保護膜(SEI)の形成の中間体になりうるとされています(示唆)。

素材技術者の視点:機械学習力場の読みどころ

この例で素材技術者に関わる点は3つです 事実。(1) 計算の精度の確かめ方:ニュースリリースは、NMRスペクトル、密度、粘度、イオン伝導率、拡散係数との一致を挙げています。自社の材料でも、これらの実測値が機械学習力場の評価の基準になります。(2) 適用範囲:共同創業者のコメントは「複雑な化学系の多くが予測可能になる」と述べますが、これは見通しで、確認された範囲は電解液の例です。自社の系(高分子、触媒、固体など)にそのまま当てはまるとは限りません。

(3) 量子計算が土台:機械学習力場は、量子計算のデータで学習するため、学習に使った化学の範囲の外では精度が落ちる可能性があります(一般的な性質。会社の資料で個別には確認していません)。また、プレプリントの「5〜20倍速い」は、同等の精度のモデルとの比較で、比較対象・条件は論文で確認する必要があります。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
材料向けは事業のごく一部ACVの約9%。事業の成長や損益は、創薬向けの契約と創薬事業に大きく左右される本稿の計算
材料業界の採用が初期10-Kが「材料科学の産業は計算手法の可能性を認識し始めたばかりで、採用される保証はない」と記載事実
競合の存在10-Kは材料科学の競合として、BIOVIAとMaterials Designを挙げる事実
内訳の根拠が内部判断材料のACVは、創薬と材料の両方を買う顧客を会社の内部判断で振り分けた数字事実
性能の数字が会社・研究チームの主張Nature論文の「最大40%」、MPNICEの「5〜20倍速い」は、条件が限られ、独立した検証は確認できなかった事実
新製品が早期の段階Bunsenは早期提供で、製品版は「2026年末までの見込み」未確定/将来
事業全体の損益2025年は営業損失166.9百万US$(2024年は209.3百万US$)事実
外部助成への依存電池研究は、Gates Venturesの資金に支えられている。2026年10月の発表は「継続中」と書くが、2026年8月以降の契約条件は確認できなかった推測

12. 用語集

マテリアルインフォマティクス(MI)
材料のデータとAI・計算を使い、新しい材料を探す方法。データ→予測・設計→実験の流れで進める。
量子力学の計算
電子の振る舞いから、分子や材料のエネルギーや性質を求める計算。正確だが重い。
分子動力学
原子を力の法則に従って動かし、多数の原子の長い時間の動きをシミュレーションする方法。
力場
原子の間に働く力を、位置から求めるための式やモデル。
機械学習力場
量子計算のデータで学習し、原子間の力を速く正確に出す機械学習モデル。
電解液
電池の中でイオンを運ぶ液体。リチウムイオン電池では、塩を有機溶媒に溶かしたものを使う。
SEI
負極の表面にできる保護膜。電池の寿命や安全性を左右する。
ACV
年間契約額。売上そのものではない。
NMR
核磁気共鳴。分子の周りの環境を調べる測定法。
エージェント型AI
目標を理解し、手順を考えて、道具を使って実行するAI。
スループット課金
計算の量(処理量)に応じて料金を決める方式。
Form 10-K/10-Q
米国上場企業がSECに提出する年次・四半期報告書。
物理に基づく計算とデータの模型を、候補の比較に使う概念です。計算の仮定と、実測による確認が必要です。
図3 概念画像(ImageGen生成)。物理に基づく計算とデータの模型を、候補の比較に使う概念です。計算の仮定と、実測による確認が必要です。実在の製品・施設・測定結果ではありません。拡大模型、線・矢印・色は説明用です。

13. 出典

  1. Schrödinger Form 10-K(2025年12月期、2026年2月25日提出)。事業の概要、材料科学向けソフト、売上・研究開発費・従業員数、リスク要因。登録名は “Schrodinger, Inc.”。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1490978/000149097826000010/sdgr-20251231.htm
  2. Schrödinger 上記Form 10-Kに掲載の図 “ACV by Customer and Industry Cohort”(2025年・2024年の業種別・顧客別のACV)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1490978/000149097826000010/sdgr-20251231_g2.jpg
  3. Schrödinger Form 10-Q(2026年6月期、2026年8月5日提出)。Bunsenの状況、材料科学の競合。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1490978/000149097826000068/sdgr-20260630.htm
  4. Schrödinger ニュースリリース(2026年10月14日)“Schrödinger Research Published in Nature Reveals New Insights into Lithium-Ion Battery Chemistry”。 https://s203.q4cdn.com/609444515/files/doc_news/2026/10/14/Schrdinger-Research-Published-in-Nature-Reveals-New-Insights-into-Lithium-Ion-Battery-Chemistry.pdf
  5. Schrödinger ニュースリリース(2026年7月27日)“Schrödinger Introduces Bunsen, an AI Co-Scientist for Molecular Discovery”。 https://s203.q4cdn.com/609444515/files/doc_news/Schrdinger-Introduces-Bunsen-an-AI-Co-Scientist-for-Molecular-Discovery-2026.pdf
  6. Schrödinger 公式サイト 材料科学のページ。製品名・応用分野。 https://www.schrodinger.com/materials-science
  7. Schrödinger 公式サイト リリースノート。Materials Science Suite 2026-3の機能。 https://www.schrodinger.com/release-notes
  8. Weber ほか “Efficient Long-Range Machine Learning Force Fields for Liquid and Materials Properties”, arXiv:2505.06462(2025年5月、v2は同年8月)。MPNICE。 https://arxiv.org/abs/2505.06462
  9. Schrödinger 公式サイト(ロゴの取得元・会社概要の確認用)。 https://www.schrodinger.com/

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
正式名称、本社所在地、上場市場(2020年2月6日から)、従業員850人事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1490978/000149097826000010/sdgr-20251231.htm
売上高・ソフトウェアと創薬の内訳・研究開発費・営業損失(2024・2025年)事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1490978/000149097826000010/sdgr-20251231.htm
ACVの内訳(材料17.1、上位20製薬会社80.8、その他ライフサイエンス90.4、寄付10.2、合計198.5百万US$。2024年は14.9・70.0・92.4・13.5・190.8)事実出典2 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1490978/000149097826000010/sdgr-20251231_g2.jpg
材料向けの契約額が約8.6%(2025年)、約7.8%(2024年)、増加率の比較本稿の計算本稿による計算(出典2の数字から)
材料科学向けの応用分野、Gates Venturesとの契約(2020年6月・2023年8月)、Copernic Catalystsとの共同研究事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1490978/000149097826000010/sdgr-20251231.htm
材料科学の競合(BIOVIA・Materials Design)、材料業界の採用が初期という記載事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1490978/000149097826000010/sdgr-20251231.htm 出典3 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1490978/000149097826000068/sdgr-20260630.htm
Materials Science Suiteの製品名・応用分野事実出典6 https://www.schrodinger.com/materials-science
Materials Science Suite 2026-3の機能(Bunsenベータ・機械学習力場の拡張ほか)事実出典7 https://www.schrodinger.com/release-notes
MPNICEの内容と性能の主張(プレプリント)事実出典8 https://arxiv.org/abs/2505.06462
Bunsenの発表(2026年7月27日)、NVIDIA・Google Cloudとの協業、スループット課金の説明事実出典5 https://s203.q4cdn.com/609444515/files/doc_news/Schrdinger-Introduces-Bunsen-an-AI-Co-Scientist-for-Molecular-Discovery-2026.pdf
Bunsenの商用版を2026年末までに公開する見込みという記載未確定/将来出典3 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1490978/000149097826000068/sdgr-20260630.htm
電解液研究のNature掲載発表(2026年10月14日)、リチウムイオンのクラスター、実験との照合項目、Gates Ventures資金(会社の主張)事実出典4 https://s203.q4cdn.com/609444515/files/doc_news/2026/10/14/Schrdinger-Research-Published-in-Nature-Reveals-New-Insights-into-Lithium-Ion-Battery-Chemistry.pdf
MIの3段階(データ→予測・設計→実験)のどこを担うかの整理本稿の計算本稿による整理(公開資料に基づく)
材料向けの売上・利益・研究開発費・専任人員数未確定/将来いずれも確認できなかった。本稿では推計もしない(本稿で確認した出典に記載なし)
材料向けの出資・買収・合弁・公的資金(DOE・NSF・NEDOなど)未確定/将来本稿が確認した出典1に記載なし。存在しないとも断定しない
Nature論文の本文の詳細、MPNICEの製品での提供形態、材料向けの数値目標未確定/将来確認できなかった。本稿では推定しない
物理計算を機械学習で速める方向という読み推測ニュースリリースとBunsenの説明からの本稿の解釈
材料向けを共通技術の応用先の一つとして広げているという読み推測10-Kと2026年の発表からの本稿の解釈
電池研究が材料向けの技術を前に進めているという読み推測Gates Venturesの契約と発表からの本稿の解釈
計算の使い手を広げる狙いという読み推測Bunsenの説明からの本稿の解釈
外部助成への依存というリスク推測契約の記載からの本稿の解釈

最終更新:2026年10月22日/Troy Technical
本稿の数値は、Schrödingerの米国SEC提出書類(Form 10-K・10-Q)、公式ニュースリリース、公式サイト、プレプリントに基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「会社・研究チームの主張」とした数字は、本稿が再現・検証したものではありません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。