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Google ディープマインド 企業解説 企業解説

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COMPANY PROFILE / マテリアルインフォマティクス

Google ディープマインド
― 結晶の安定性をAIで予測し、「新材料220万種」を発表した計算側の研究組織

Google DeepMindは、Alphabet(Googleの親会社)のAI研究部門です。材料の分野では、2023年にGNoMEという深層学習モデルで 「220万の新しい結晶構造を、計算上安定と予測した」と発表し、大きな注目を集めました。 ただし、この数字は計算機の中の予測であり、実験で作ったものの数ではありません。 この発表には、他の研究者からの批判と、共同研究先(A-Lab)の論文の訂正(2026年1月)も続いています。 本稿では、会社の主張・計算上の予測・実験での確認・批判を分けて、一次資料で確認できた範囲だけを書きます。

構成:Alphabetの10-K(2025年12月期)、Google DeepMindの公式ブログ・GitHub、Nature掲載論文と訂正、批判論文、英国政府の覚書などを一次情報として使用/確認日 2026年10月22日

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるGoogle DeepMindと、マテリアルインフォマティクスでの立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. マテリアルインフォマティクスの世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模(Alphabet全体は簡潔に)
  5. マテリアルインフォマティクスにかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社はマテリアルインフォマティクスで何を目指しているか
  9. マテリアルインフォマティクス分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス(GNoMEの数字の読み方と批判)
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるGoogle ディープマインドと、マテリアルインフォマティクスでの立ち位置

マテリアルインフォマティクス(MI)とは、材料のデータと計算・AIを使って、新しい材料を効率よく探す取り組みです。 流れは大きく「データ → 予測・設計 → 実験で確かめる」の3段階です。 Google DeepMindが担っているのは、このうち主に「予測・設計」の段階です。

正式名称Google DeepMindAlphabet Inc.の一部。単独の提出書類はない
親会社・本社Alphabet Inc.
米国カリフォルニア州
Mountain View。Nasdaq(GOOGL・GOOG)上場
この分野での区分基盤モデル・計算基盤
(主たる類型)
従たる類型として自動実験室を計画中(未確定)
代表的な成果GNoME(2023年11月)結晶の安定性を予測するグラフニューラルネットワーク
会社の主張する数字220万の結晶構造を予測
うち38万が最安定
計算(DFT)で安定と評価したもの。実験での確認ではない
実験での確認736件が
独立に実験で実現
外部の研究者が別の研究で得た構造との一致(論文の記載)
公開とライセンスコードはApache-2.0
データはCC BY-NC 4.0
データは非商用利用向け(GitHubの記載)
計画2026年に英国で
自動実験室を設立
2025年12月の発表。稼働の確認はできなかった(未確定)
まず押さえるべき1点

「AIが220万種の新材料を発見」という見出しの「発見」は、計算機の中で『安定と予測された結晶構造』の数です 事実。 安定かどうかは、第一原理計算(DFT)という物理に基づく計算で評価されました。 実際に作って測った数ではありません。 会社自身も、論文の中で「合成可能性(本当に作れるか)」は今後の課題と書いています。 その一方で、736件は外部の研究者が別途、実験で得た構造と一致したと報告されています。 この記事では、計算上の予測と実験での確認を、常に分けて書きます。

2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:本稿の「Google DeepMind」は、Alphabet傘下のAI研究組織を指します。 Alphabet Inc.(親会社・SEC提出書類の提出者)、Google LLC(Googleの事業会社)、 Google Research(別の研究組織。GNoME論文には1名の共著者が所属)とは区別して書きます。 10-Kに書かれているのはAlphabet全体の数字で、Google DeepMind単独の数字ではありません。

公式サイト:https://deepmind.google/

3. マテリアルインフォマティクスの世界で、この会社はどこにいるか

マテリアルインフォマティクスに関わる企業の4つの類型 同じ「MIの会社」でも、データ→設計→実験のどこを担うかで、強みと課題が違う 基盤モデル・計算基盤 MIソフト・材料AI 自動実験・ロボット 応用する側 データと計算でAIを作る 解析ソフトと材料AI ロボットで実験を回す 電池・化学・半導体など Google DeepMind/Microsoft Meta/NVIDIA Citrine/Schrödinger Preferred Networks/CuspAI Chemspeed/Radical AI Periodic Labs/Lila Sciences SES AI/Mitsui Chemicals Applied Materials 大規模な計算と人材 使いやすさとデータ 実験を回す速度 実際の材料と市場 実験での検証は他者頼み 顧客のデータ次第 設備費と再現性 内製の人材とデータ不足 Google DeepMindは左端の「基盤モデル・計算基盤」にいて、予測と計算を担う 実験での確認は主に外部(Berkeley Labなど)が担い、自前の自動実験室は2026年の計画(未確定)
図1 マテリアルインフォマティクスに関わる企業の4類型と、Google DeepMindの位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。Google DeepMindが基盤モデルとデータ(GNoME)を公開し、実験の側と分担していることは、第5章・第10章の公式資料の記載に基づきます。

図1のとおり、Google DeepMindは「基盤モデル・計算基盤」の類型です。 MIの流れ(データ → 予測・設計 → 実験)のうち、データ(既存の公開データベース)と計算の力でAIを作り、予測を出すことが中心です。 GNoMEの学習データは、Materials Projectという公開の材料データベースから取られています 事実。 実験で確かめる部分は、共同研究先のBerkeley Lab(米国ローレンス・バークレー国立研究所)のA-Labや、外部の研究グループが担ってきました。

専門用語をやさしく:基盤モデル・計算基盤とは

基盤モデルは、大量のデータで学習して、さまざまな用途に使い回せるAIモデルのことです。 材料では「原子の並びから、その結晶がどれだけ安定か」を答えるモデルがその例です。 計算基盤は、そのモデルを作るための大量の計算機の力を指します。 GNoMEでは、後で出てくるDFT計算を「数億回規模」で行ったと論文に書かれています。 技術の細部は、本シリーズの技術解説『グラフニューラルネットワーク』『結晶構造予測と安定性』『高スループット計算』で説明しています。

4. 会社の規模(Alphabet全体は簡潔に)

Google DeepMindは、Alphabetの一部です。SEC(米国証券取引委員会)に提出される書類はAlphabet全体のもので、 Google DeepMind単独の売上・人員・予算は開示されていません 未確定/将来。 会社全体の規模だけを示します 事実。

指標(Alphabet全体・百万米ドル)2023年2024年2025年
売上高(Total revenues)307,394350,018402,836
研究開発費(Research and development)45,42749,32661,087
設備投資(Purchases of property and equipment)32,25152,53591,447
項目内容
従業員数(2025年12月31日、Alphabet全体)190,820人
本社Mountain View, California(米国)
上場Nasdaq Global Select Market(Class A:GOOGL、Class C:GOOG)
Google DeepMindの記載10-K・直近の10-Q(2026年6月期)には、Google DeepMind・GNoME・材料科学の記載を確認できなかった
ここで注意

上の数字はAlphabet全体のものです。研究開発費の約611億ドル(2025年)のうち、 Google DeepMindや材料向けの研究がいくらかは開示されていません。 Alphabet 10-Kの本文では、AIへの投資や、Other Bets(Waymo、創薬AIのIsomorphic Labsなど)には触れていますが、 材料AIには触れていません。会社の規模と、材料AIにかけている規模は別物です。

5. マテリアルインフォマティクスにかけているリソース

金額や人数は非公表ですが、公式資料から確認できたこと・できなかったことを4つの観点で整理します。

観点確認できた内容区分
人GNoME論文の著者6人のうち5人がGoogle DeepMind(Mountain View)、1人がGoogle Research所属。A-Lab論文には、Google DeepMind(ロンドン)の2人が共著者として入っている。材料AIに携わる人数の総数は非公表事実/非公表
金材料AI向けの研究開発費・設備投資・計算資源の額は開示なし。英国の自動実験室についても、金額・人員は公式資料に記載がない確認できなかった
外部への出資・買収・合弁・売却材料AIに関する出資・買収・合弁・売却は確認できなかった。Alphabetは、創薬AIのIsomorphic Labsを10-Kで「Other Bets」として挙げているが、材料ではなく創薬の会社確認できなかった
大学・研究機関・公的資金との連携(1) Berkeley Lab(A-Lab):論文を同日(2023年11月29日)にNatureに発表。(2) Materials Project:GNoME由来の材料データを提供。(3) 英国政府(DSIT):2025年12月の覚書で、自動実験室の立ち上げを支援。(4) 米国エネルギー省(DOE):Genesis Missionの支援として、新材料探索を含む共同研究を「探索する」と記載(具体的な契約は確認できなかった)。公的な研究資金の受領は確認できなかった事実/確認できなかった

主要なモデル・データ・設備の状況

名称種別主要な仕様・条件公開の形とライセンス段階・日付
GNoME(モデル)グラフニューラルネットワーク(結晶のエネルギー・安定性の予測)GitHubで公開のモデルは、Materials Projectの2018年スナップショットで学習し、エネルギー誤差21 meV/atom(README)。論文の最終モデルは11 meV/atom・安定予測の的中率80%超(論文)モデル定義とColabのコードを公開(Apache-2.0)。学習済みの重みの公開は、GitHubのREADMEからは確認できなかった公開(2023年11月)
GNoME(データ)計算で安定と評価された結晶構造のデータベース約38.1万件(最安定側)。2024年8月に、凸包から1 meV/atom以内のものも含め52万件超へ拡張(GitHub記載)。DFTはVASP、PBE汎関数が基本CC BY-NC 4.0(非商用)。「理論計算のみ、慎重に使うこと」との免責あり公開(2023年11月〜2024年8月)
NequIP(JAX実装)機械学習原子間ポテンシャルの構造GNoMEのデータで学習した原子間ポテンシャルに使用(論文)。元の構造はBatznerら(2022)JAX実装と基本設定を公開(Apache-2.0)公開(2023年11月)
DM21ニューラルネットワーク型の密度汎関数化学の大部分で当時の最高水準の精度と主張(Science、2021年)。コードを公開公式ブログに「コードをオープンソースで公開」と記載。ライセンスは本稿では確認していない公開(2021年12月)
自動実験室(英国)Gemini連携のロボット合成・評価設備「1日に数百種の材料を合成・評価する」と説明。場所・稼働日・設備の詳細は確認できなかった非該当計画(2026年に設立予定と発表)
素材技術者の視点:データの「誰が・どの条件で」を見る

GNoMEのデータは、学習も評価もDFTの計算結果が基準です 事実。 DFTの安定性は絶対零度(0 K)での、ある汎関数による計算値であり、実際の温度・雰囲気・不純物・欠陥・原子の入れ替わり(乱れ)は入っていません。 素材技術者が候補を見るときは、(1) 凸包からの距離(どれだけ安定側か)、(2) 乱れの影響を受けにくい組成か、 (3) 狙う機能(イオン伝導、超伝導など)の予測が別途あるか、を確認するのが現実的です。 データがCC BY-NC 4.0(非商用)である点は、企業の研究で使う前に必ず確認が必要です。

6. これまでの取り組み

時期できごと意味
2021年12月ニューラルネットワーク型の密度汎関数DM21をScience誌で発表(公式ブログ)DFTの精度を上げる研究。材料・化学の計算の土台に関わる
2023年11月29日GNoMEをNature誌で発表。220万の結晶構造を「安定」と予測、38.1万が更新された凸包上。公式ブログで公表会社の主張。計算上の予測が中心
2023年11月29日Berkeley LabのA-Lab論文が同日にNature誌で発表。GNoME等の計算を使って合成目標を選び、自動合成予測を実験で確かめる側の取り組み(外部の研究グループの論文)
2024年3月Leemanらが、A-Lab論文を検討した批判論文をPRX Energy誌に発表実験の解析と新規性に疑問を呈した
2024年4月CheethamとSeshadriが、GNoME論文を検討した論文をChemistry of Materials誌に発表新規性・信頼性・有用性に疑問を呈した
2024年8月GitHubでデータを拡張(凸包から1 meV/atom以内を含む52万件超)データの文脈を広げた
2024年12月〜2026年6月Materials ProjectにGNoME由来の材料が、より精度の高いr2SCAN計算つきで順次追加。2026年6月の更新で合計11.7万件公開データベースへの取り込みが進行(Materials Projectの変更履歴)
2025年12月10日英国政府との提携を発表。2026年に英国で最初の自動実験室を設立する計画予測だけでなく、合成・測定まで自前で持つ方向(計画)
2025年12月11日英国政府(DSIT)との覚書が公表。有効期間36か月自動実験室の立ち上げ支援を含む
2025年12月18日米国DOEのGenesis Missionを支援すると発表。新材料探索を含む共同研究を探索する具体的な契約は確認できなかった
2026年1月19日A-Lab論文の著者訂正(Nature)。成功数を「36種/57目標」に更新、新規性の表現を訂正第10章で詳しく説明

7. 今後の計画

英国の自動実験室2026年に設立公式ブログの計画。1日に数百種を合成・評価(目標)
対象の材料超伝導体、電池、
太陽電池、半導体
公式ブログが例として挙げたもの。成果の約束ではない
米国DOEとの共同研究探索する新材料探索を含む領域。内容・時期は未公表
GNoMEの公開物追加予定の項目ありGitHubのREADMEが挙げる未完了項目(確認日時点)

これらはすべて会社の計画・目標であり、達成された事実ではありません 未確定/将来。 英国の自動実験室は、2025年12月の発表では「2026年に設立する」とされています。 本稿の確認日(2026年10月22日)に、公式資料で稼働や最初の成果を確認することはできませんでした。

確認できなかったこと

次はいずれも公式資料に記載がありませんでした 未確定/将来。

自動実験室の所在地/稼働開始日/設備の構成(装置の種類・台数)/投資額・人員/最初に狙う材料の具体名。 GNoMEの後継モデルや、材料向けの新しい公開物についても、公式資料では確認できませんでした。

8. この会社はマテリアルインフォマティクスで何を目指しているか

ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
目標は「予測だけ」から「予測+自前の実験」への拡張2025年12月に、Geminiと一体で動く自動実験室を英国に作ると発表。GNoMEは計算のみで、実験は外部(A-Labなど)が担当していた推測
材料探索を、Geminiなどの汎用AIの応用先の一つと位置づけている実験室を「Geminiと完全に統合」と説明。AlphaEvolveについてDOE向けブログが「材料科学にも変革をもたらしうる」と述べている推測
データは公開して研究コミュニティに使ってもらう方針だが、商用は制限GNoMEデータをMaterials Projectに提供し、GitHubで公開。ライセンスはCC BY-NC 4.0事実(公開の方針)/推測(商用制限の狙い)
材料AIは、Alphabet全体の中で比較的小さな取り組みとみられる10-Kに材料の記載がない。一方でAIの記載は大きい推測
推測の根拠を1つだけ詳しく

GNoME論文は、結論部分で合成可能性(実際に作れるか)が未解決の課題だと書いています 事実。 一方、2025年12月の発表は、自動実験室が「1日に数百種の材料を合成・評価する」ことで、 「変革的な新材料を見つけるまでの期間を大きく縮める」と説明しています。 ここから、会社は予測の次のボトルネックである『作って測る』部分を自前で持つ必要を認識している、と本稿は読みます 未確定/将来。

9. マテリアルインフォマティクス分野の提携マッピング

Google DeepMindを中心としたマテリアルインフォマティクスの関係 公式資料・論文に記載のある関係のみ。報道ベースの関係は含まない Google DeepMind Berkeley Lab(A-Lab) 自動合成の論文を共同発表(2023年) 英国政府(DSIT) 覚書:自動実験室の立ち上げ支援 Materials Project GNoME由来の材料を登録(2024年〜) 米国エネルギー省(DOE) 共同研究を検討(将来・内容未公表) Alphabet Inc.(親会社) 共同研究・協力の相手 データを提供・登録する相手 将来の計画(点線) 親会社(灰色の破線)
図2 Google DeepMindを中心としたマテリアルインフォマティクス分野の関係。出典:公式ブログ、Nature掲載論文、英国政府の覚書、Materials Projectの変更履歴。図に含めたのは公式資料に記載のある関係だけです。米国DOEとの関係は「共同研究を探索する」という記載にとどまり、具体的な契約は確認できませんでした 未確定/将来。

10. 提供している技術・製品・サービス

Google DeepMindが材料向けに公開しているのは、モデルの設計・データ・Colabのコードです。 有料のサービスや製品は、材料向けでは確認できませんでした。ここではGNoMEの仕組み、数字の条件、批判と再評価を順に説明します。

GNoMEの流れ(図解)

GNoMEが「安定な結晶」を探す流れ ①〜④はすべて計算機の中の作業。実際に作って測る⑤は、別の段階 ①候補をつくる 既知の結晶の元素を 置き換える(構造系) 化学式から始める (組成系) ②AIで絞り込む グラフニューラル ネットワークが 安定性を予測する ③DFTで検証 第一原理計算で 本当に安定かを 確かめる(計算) ④学習に戻す 結果を訓練データに 加えて再学習 (6回繰り返し) ⑤実験で合成して確かめる(GNoME論文の中心ではない) A-Labなど外部の実験室や、736件の外部の実験結果との照合が担当。自前の自動実験室は2026年の計画(未確定)
図解 GNoMEが安定な結晶を探す流れ(論文の記載に基づく概念図)。①〜④を6回繰り返して、計算上の候補を増やしました。実際に合成できるかの確認は、この流れの外にあります。

論文によれば、GNoMEは候補を作る方法を2つ持っています。 (1) 構造系:既知の結晶の元素を置き換えて候補を作る(置き換え確率を調整し、「対称性を考えた部分置換」という手法を追加)。 (2) 組成系:構造を決めず、化学式の候補から始める。 どちらも、AIで絞ってからDFTで確かめ、その結果を学習に戻す「能動学習」を6回繰り返しました 事実。

数字の読み方:何を、どの条件で測った数字か

数字(会社・論文の主張)条件・定義性格
220万の結晶構造2021年3月時点のMaterials Project・OQMDなどのスナップショットに対して「安定」とDFTで評価された構造。論文の表現は「previous workに対して安定」計算上の予測
38.1万(更新された凸包上)、総計42.1万競合する構造が互いに凸包を押し下げるため、最安定側として残った数。以前の安定結晶は約4.8万(2023年7月の外部データ)計算上の予測
エネルギー予測誤差 11 meV/atom評価の分割は、組成の文字列のハッシュで学習85%/試験15%に分け、同じ組成が両方に入らないようにしている。初期モデルは21 meV/atomモデルの精度(計算同士の比較)
安定予測の的中率 80%超(構造系)/33%(組成のみ・100回あたり)先行研究では1%と論文が記載。ブログでは「Matbench Discoveryでの的中率が約50%から80%へ」とも説明モデルの効率(計算同士の比較)
736件が独立に実験で実現ICSD(実験構造のデータベース、2023年1月に照会)との構造一致。組成が一致した4,235件のうち、構造を読み込めた4,180件を比較。論文は「下限値の可能性が高い」と記載。184件はプロジェクト開始後の新規発見実験での確認(ただし外部の研究による)
84%が高精度計算でも安定二元・三元の結晶に対し、より精度の高いr2SCAN汎関数で再計算計算上の予測(別の汎関数での検証)
「新材料」とは何か:言葉の注意

「220万の新しい結晶」には、既知の構造と同じ型の組成違いが多く含まれます。論文自身も、新規な構造の型(プロトタイプ)は約4.55万と数えています 事実。 材料科学では、「新材料」を新しい組成とみる立場と、新しい構造型とみる立場があります。 どちらの意味で使っているかを確認しないと、数字を比べられません。

批判と再評価(中立に併記)

資料対象内容の要点(各資料の記載)
Cheetham・Seshadri(Chem. Mater.、2024年4月)GNoME論文「新規性・信頼性・有用性」の3つを満たす化合物の証拠が乏しいと指摘。手法には可能性があるとしつつ、合成と結晶学の専門知識を取り入れる必要を述べる
Leemanら(PRX Energy、2024年3月)A-Lab論文(GNoME等から選んだ目標の自動合成)報告された43の生成物を検討し、新材料の発見はなかったと結論。自動のリートベルト解析はまだ信頼できず、原子の入れ替わり(乱れ)が軽視されていると指摘。成功した材料の3分の2は、既知の「乱れ版」の可能性が高いと主張
A-Lab論文の著者訂正(Nature、2026年1月19日)A-Lab論文著者は、新規性の主張は「予測プラットフォームにとって新しい」という意味で、必ずしも科学として新しいことではなかったと説明。回折の再解析で、40件の報告のうち36件でプラットフォームの結論が正しく、4件は不確定とした。成功数は「36種/57目標」に更新、1化合物を議論から除外
GNoME論文の本文GNoME論文合成可能性、競合する多形、動的安定性などが未解決の課題と記載。将来の発見で凸包から外れうるとも記載(少なくとも5,000件の既存の「安定」材料を凸包から押し出したとも書く)

これらは評価の分かれる問題であり、本稿はどちらが正しいかを決めません。確認できる事実は次のとおりです。 (1) A-Lab論文は、自動合成について著者自身が数字と表現を訂正した。 (2) 公式ブログには、確認日時点で「41種の新材料」という記載が残っている。論文本体の数字(36種/57目標)と異なるため、ブログの数字は古い版のものとして読む必要がある。 (3) GNoME論文本体については、今回確認した範囲で、著者による訂正は見つからなかった。

素材技術者の視点:GNoMEの候補をどう使うか

この取り組みで、素材技術者に直接関わるのは次の3点です 事実。

(1) 候補リストとして使う。データは「作れる候補」ではなく「計算上安定そうな構造の一覧」です。 実験で作るには、前駆体、焼成温度、雰囲気、混合の均一さなど、計算に入っていない条件を詰める必要があります。 A-Lab論文は、57目標のうち合成できなかった17件の原因を、反応の遅さ(11件)、前駆体の揮発、非晶質化、計算の不正確さに分けて報告しています。予測が「安定」でも、作れるとは限りません。

(2) 乱れに注意。批判論文が指摘したように、AIが出す構造は「各原子が決まった位置にいる」秩序構造です。 実際の材料では原子が入れ替わった固溶体になることがあり、同じ組成でも別の物質になります。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
「新材料」の主張への疑義外部の2件の査読論文が新規性や実験解析に疑問を呈し、A-Lab論文は著者訂正に至った。GNoME論文自体の訂正は確認できなかったが、新規性の定義が議論の的になっている事実
実験での確認が外部頼みGNoMEの検証は、既存のデータベースとの照合と、外部の実験に依存している。自前の実験室は計画段階事実
データの商用利用制限GNoMEのデータはCC BY-NC 4.0(非商用)。企業が製品開発に使うには別途の確認が必要事実
自動実験室の立ち上がりが未確認2026年設立の計画だが、稼働を公式資料で確認できなかった。計画どおりに進むかは不明未確定/将来
材料AIの継続投資が外から見えないAlphabetの開示に材料AIの記載はなく、投資額・人員は非公表。事業としての位置づけは外部から確認できない推測
計算の前提による限界0 Kでの秩序構造のDFT計算が基準で、温度・乱れ・欠陥・界面は評価に入っていない事実

12. 用語集

マテリアルインフォマティクス(MI)
材料のデータと計算・AIで、新しい材料を効率よく探す取り組み。
GNoME
Graph Networks for Materials Exploration。結晶の安定性を予測するGoogle DeepMindのモデルと、その成果のデータベース。
グラフニューラルネットワーク
原子を点、結合を線とみなした「グラフ」を入力にするAI。結晶の予測に向く。
DFT(密度汎関数理論)
電子の振る舞いから、原子の並びのエネルギーを計算する物理計算の方法。正確だが時間がかかる。
凸包(convex hull)
ある元素の組合せで「最も安定な組み合わせ」を結んだ線。この線より上の物質は、分解したほうが安定とみなされる。
能動学習
AIが予測し、計算で確かめた結果を学習に戻して、少ない計算で精度を上げる繰り返しの方法。
A-Lab
米国ローレンス・バークレー国立研究所の、ロボットで粉末材料を自動合成する実験室。Google DeepMindの会社の設備ではない。
ICSD
実験で確かめられた無機結晶の構造データベース。
Materials Project
計算で求めた材料のデータを公開している米国の大規模データベース。
機械学習原子間ポテンシャル
原子の間に働く力をAIで素早く計算する方法。分子動力学シミュレーションに使う。
CC BY-NC 4.0
出典を示せば自由に使えるが、商用は不可、というライセンス。
10-K
米国上場企業がSECに提出する年次報告書。
計算で候補の構造を絞る段階と、実験で存在を確かめる段階を分けています。予測した件数は、そのまま合成した件数ではありません。
図3 概念画像(ImageGen生成)。計算で候補の構造を絞る段階と、実験で存在を確かめる段階を分けています。予測した件数は、そのまま合成した件数ではありません。実在の製品・施設・測定結果ではありません。拡大模型、線・矢印・色は説明用です。

13. 出典

  1. Alphabet Inc. Form 10-K for the fiscal year ended December 31, 2025(米国SEC提出、2026年2月5日)。会社全体の売上・研究開発費・設備投資・従業員数、事業内容、Other Betsの記載。Google DeepMind・GNoME・材料科学の記載がないことの確認にも使用。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1652044/000165204426000018/goog-20251231.htm
  2. Google DeepMind Millions of new materials discovered with deep learning(公式ブログ、2023年11月29日)。GNoMEの概要、220万・38万の数字、736件の独立した実験的実現、A-Labの記述。 https://deepmind.google/blog/millions-of-new-materials-discovered-with-deep-learning/
  3. Nature Merchant, A. et al. “Scaling deep learning for materials discovery”, Nature 624, 80–85(2023年11月29日、DOI 10.1038/s41586-023-06735-9、CC BY 4.0)。手法・評価条件・検証の詳細。 https://www.nature.com/articles/s41586-023-06735-9
  4. Google DeepMind(GitHub) google-deepmind/materials_discovery のREADME・DATASET.md。公開物の内容、ライセンス(コードApache-2.0、データCC BY-NC 4.0)、2024年8月のデータ拡張。 https://github.com/google-deepmind/materials_discovery
  5. Nature Szymanski, N. J. et al. “An autonomous laboratory for the accelerated synthesis of inorganic materials”, Nature 624, 86–91(2023年11月29日、DOI 10.1038/s41586-023-06734-w。2026年1月19日の訂正反映版を確認)。 https://www.nature.com/articles/s41586-023-06734-w
  6. Nature Author Correction: An autonomous laboratory for the accelerated synthesis of inorganic materials, Nature 650, E1(2026年1月19日)。新規性の表現の訂正、結果の再解析、成功数の更新。 https://www.nature.com/articles/s41586-025-09992-y
  7. Chemistry of Materials(ACS) Cheetham, A. K.; Seshadri, R. “Artificial Intelligence Driving Materials Discovery? Perspective on the Article: Scaling Deep Learning for Materials Discovery”(2024年4月8日、DOI 10.1021/acs.chemmater.4c00643)。書誌情報はCrossref APIで確認。 https://doi.org/10.1021/acs.chemmater.4c00643
  8. PRX Energy(APS) Leeman, J. et al. “Challenges in High-Throughput Inorganic Materials Prediction and Autonomous Synthesis”, PRX Energy 3, 011002(2024年3月7日、DOI 10.1103/PRXEnergy.3.011002)。 https://doi.org/10.1103/PRXEnergy.3.011002
  9. Google DeepMind Our partnership with the UK government(公式ブログ、2025年12月10日)。英国での自動材料実験室の計画。 https://deepmind.google/blog/strengthening-our-partnership-with-the-uk-government-to-support-prosperity-and-security-in-the-ai-era/
  10. GOV.UK Memorandum of Understanding between the UK and Google DeepMind on AI opportunities and security(2025年12月11日公表)。自動研究開発・実験施設の立ち上げ支援、有効期間36か月。 https://www.gov.uk/government/publications/memorandum-of-understanding-between-the-uk-and-google-deepmind-on-ai-opportunities-and-security/memorandum-of-understanding-between-the-uk-and-google-deepmind-on-ai-opportunities-and-security
  11. Google DeepMind Google DeepMind supports the U.S. Department of Energy on Genesis(公式ブログ、2025年12月18日)。全米17の国立研究所への提供プログラムと、新材料探索を含む共同研究の検討。 https://deepmind.google/blog/google-deepmind-supports-us-department-of-energy-on-genesis/
  12. Materials Project Database Versions(変更履歴)。GNoME由来の材料の追加状況(2024年12月〜2026年6月)とBY-NCライセンスの注記。 https://docs.materialsproject.org/changes/database-versions
  13. Google DeepMind Simulating matter on the quantum scale with AI(公式ブログ、2021年12月)。密度汎関数DM21(Science誌、DOI 10.1126/science.abj6511)の概要。 https://deepmind.google/blog/simulating-matter-on-the-quantum-scale-with-ai/
  14. Google DeepMind 公式サイト(ロゴの取得元:サイトのナビゲーション用ロゴ画像)。 https://deepmind.google/

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
Google DeepMindはAlphabetの一部で、10-K・直近10-Qに同名・GNoME・材料科学の記載がないこと事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1652044/000165204426000018/goog-20251231.htm
Alphabetの売上高・研究開発費・設備投資(2023〜2025年)と従業員190,820人、本社、上場事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1652044/000165204426000018/goog-20251231.htm
Google DeepMind単独の売上・人員・予算が開示されていないこと未確定/将来10-Kに記載なし 出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1652044/000165204426000018/goog-20251231.htm
GNoMEの概要:220万の結晶、うち38万が最安定、52,000の層状化合物、528のリチウムイオン伝導体候補事実出典2 https://deepmind.google/blog/millions-of-new-materials-discovered-with-deep-learning/
736件が外部チームの実験で独立に実現されたとの記載事実出典2・3 https://deepmind.google/blog/millions-of-new-materials-discovered-with-deep-learning/
エネルギー予測誤差11 meV/atom、的中率80%超(構造)・33%(組成のみ)、先行研究1%事実出典3 https://www.nature.com/articles/s41586-023-06735-9
組成ハッシュによる学習85%・試験15%の分割、同じ組成が重複しないこと事実出典3 https://www.nature.com/articles/s41586-023-06735-9
能動学習を6回繰り返して38.1万の安定結晶を得たこと、新規プロトタイプ約4.55万事実出典3 https://www.nature.com/articles/s41586-023-06735-9
ICSDとの照合:組成一致4,235件・構造を読めた4,180件・一致736件・うち184件は開始後の新規事実出典3 https://www.nature.com/articles/s41586-023-06735-9
r2SCAN再計算で二元・三元の84%が安定を維持事実出典3 https://www.nature.com/articles/s41586-023-06735-9
合成可能性・多形・動的安定性が未解決の課題であること、少なくとも5,000件の既存の安定材料を押し出したこと事実出典3 https://www.nature.com/articles/s41586-023-06735-9
GNoME論文の著者所属(Google DeepMind 5名・Google Research 1名)事実出典3 https://www.nature.com/articles/s41586-023-06735-9
GNoMEの学習はMaterials Projectの2018年スナップショット、モデル定義・Colabの公開、重みの公開はREADMEから確認できなかったこと事実出典4 https://github.com/google-deepmind/materials_discovery
コードApache-2.0、データCC BY-NC 4.0、理論計算のみの免責、2024年8月の52万件超への拡張事実出典4 https://github.com/google-deepmind/materials_discovery
Materials ProjectへのGNoME由来材料の追加(2024年12月〜2026年6月、合計11.7万件、BY-NC)事実出典12 https://docs.materialsproject.org/changes/database-versions
A-Lab論文:17日間の連続運転で57目標のうち36種を合成(訂正版)事実出典5 https://www.nature.com/articles/s41586-023-06734-w
A-Lab論文の著者訂正(2026年1月19日):新規性の表現、4化合物の除外、36種/57目標への更新事実出典6 https://www.nature.com/articles/s41586-025-09992-y
A-Lab論文の共著者にGoogle DeepMind(ロンドン)の2名が含まれること事実出典6 https://www.nature.com/articles/s41586-025-09992-y
公式ブログに「41種の新材料」の記載が残っていること(確認日時点)事実出典2 https://deepmind.google/blog/millions-of-new-materials-discovered-with-deep-learning/
Cheetham・Seshadriによる、新規性・信頼性・有用性への疑問事実出典7 https://doi.org/10.1021/acs.chemmater.4c00643
Leemanらによる、A-Lab論文への批判(新材料の発見はなかったとの結論、乱れの軽視)事実出典8 https://doi.org/10.1103/PRXEnergy.3.011002
DM21:ニューラルネットワーク型の密度汎関数(2021年12月)事実出典13 https://deepmind.google/blog/simulating-matter-on-the-quantum-scale-with-ai/
英国での自動実験室の計画(2026年設立、1日に数百種の合成・評価、対象材料の例)未確定/将来出典9 https://deepmind.google/blog/strengthening-our-partnership-with-the-uk-government-to-support-prosperity-and-security-in-the-ai-era/
英国政府(DSIT)との覚書:自動R&D・実験施設の立ち上げ支援、36か月事実出典10 https://www.gov.uk/government/publications/memorandum-of-understanding-between-the-uk-and-google-deepmind-on-ai-opportunities-and-security/memorandum-of-understanding-between-the-uk-and-google-deepmind-on-ai-opportunities-and-security
DOEのGenesis Mission支援:17の国立研究所への提供、新材料探索を含む共同研究の検討、AlphaEvolveの可能性への言及事実出典11 https://deepmind.google/blog/google-deepmind-supports-us-department-of-energy-on-genesis/
自動実験室の所在地・稼働日・設備・投資額・人員、GNoMEの後継モデル未確定/将来公式資料に記載なし。本稿では推定しない 出典9 https://deepmind.google/blog/strengthening-our-partnership-with-the-uk-government-to-support-prosperity-and-security-in-the-ai-era/
材料AIへの出資・買収・合弁・売却、公的な研究資金の受領未確定/将来確認できなかった。存在しないとも断定しない 出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1652044/000165204426000018/goog-20251231.htm
ロゴ画像(公式サイトのナビゲーション用ロゴ)事実出典14 https://deepmind.google/
基盤モデル・計算基盤という類型の区分と、図1・図2の整理本稿の計算本稿による整理。企業名は本シリーズで扱う企業から例示
予測の次の課題である「作って測る」を自前で持とうとしているという読み推測自動実験室の発表とGNoME論文の結論からの本稿の解釈
材料AIはAlphabet全体の中で比較的小さな取り組みとみられるという読み推測10-Kに材料の記載がないことからの本稿の解釈
商用利用を制限する狙い(CC BY-NC)の読み推測ライセンスの種類からの本稿の解釈

最終更新:2026年10月22日/Troy Technical
本稿の数値は、Alphabetが米国証券取引委員会(SEC)に提出した10-K、Google DeepMindの公式資料、Nature等の査読論文、公的機関の公表資料に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。「新材料○万種」などの数字は会社・研究グループの主張として書いており、計算上の予測と実験での確認を区別しています。株価・評価額・投資判断には触れていません。