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ENEOS 企業解説

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COMPANY PROFILE / マテリアルインフォマティクス

ENEOS
― エネルギー・素材の大手が、原子レベルのAIシミュレータ「Matlantis」を共同開発し、自社で使い、外にも提供している

ENEOSホールディングスは、石油製品・電力・機能材などを手がける日本のエネルギー・素材の大手です。 マテリアルインフォマティクス(MI:データと計算で材料の候補や条件を絞り込む手法)の視点で見ると、 2019年からPreferred Networks(PFN)と共同で、機械学習を使った汎用の原子レベルシミュレータ「Matlantis」を開発し、 自社の触媒・潤滑油・ポリマーの開発に使い、同じソフトをMatlantis株式会社(旧PFCC)を通じて外部にも提供している点が特徴です。 本稿は会社全体の事業を簡潔にとどめ、材料・化学でのMI活用に絞ります。

構成:ENEOS統合レポート2026、公式ニュースリリース、Matlantis株式会社の公式ページと講演資料、Nature Communicationsの論文を一次情報として使用/確認日 2026年10月22日(この分野は変化が速いため、企業構造・出資には確認日を付けています)

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるENEOSと、マテリアルインフォマティクスでの立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. マテリアルインフォマティクスの世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模(会社全体は簡潔に)
  5. マテリアルインフォマティクスにかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社はマテリアルインフォマティクスで何を目指しているか
  9. マテリアルインフォマティクス分野の提携マッピング
  10. MIの使われ方と、関わる技術
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるENEOSと、マテリアルインフォマティクスでの立ち位置

正式名称ENEOSホールディングス株式会社英文名 ENEOS Holdings, Inc.。2010年4月1日設立
本店東京都千代田区
大手町一丁目1番2号
代表取締役 社長執行役員:宮田 知秀(統合レポート2026)
上場東京証券取引所
証券コード 5020
IR資料の掲載先とコードによる
この分野での区分主:応用する側
従:MIソフト会社への出資
MIソフトの提供主体は別法人のMatlantis社
MIの中核MatlantisPFNと共同開発した原子レベルのAIシミュレータ
全社の技術戦略での位置5つの強み分野の1つ2025年の技術の棚卸しで設定(統合レポート2026)
売上高(2025年度)11兆7,655億円会社全体。MIに関わる売上は非公表
研究開発費(2025年度)156億円会社全体。MIの分は非公表
まず押さえるべき1点

ENEOSのMIは、「自分で使う」と「作った会社に出資して外へ広げる」の二段構えです。 統合レポート2026のCTOメッセージは、Matlantisを「素材や触媒の開発に活用している」と述べたうえで、 「自社内にとどめるべきものではないとの考えからSaaS事業として公開し、化学、自動車、半導体など様々な産業の企業に利用されている」と書いています 事実。 ただし、SaaSを運営しているのはENEOSではなく、別法人のMatlantis株式会社です。 ENEOSは同社の株主の1社で、現在の持分比率は開示されていません。 また、「採用企業が150社・研究機関を超える」といった数字はMatlantis社の表記であり、ENEOSの数字ではありません。

2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:本稿が扱うのは持株会社のENEOSホールディングス株式会社(ENEOS Holdings, Inc.)です。 石油製品を売る事業会社のENEOS株式会社、素材の株式会社ENEOSマテリアルは、いずれも別法人です。 また、MatlantisのSaaSを提供するMatlantis株式会社(Matlantis Corporation)は、2025年7月に旧称の Preferred Computational Chemistry(PFCC)から社名を変えた別法人です(設立時はPFNが51%の過半を持っていました)。 ロゴは公式サイトのヘッダーに掲載されているものです。

公式サイト:https://www.hd.eneos.co.jp/

3. マテリアルインフォマティクスの世界で、この会社はどこにいるか

MIは、過去のデータと計算から「有望そうな材料の候補や条件」を絞り込み、実験で確かめる流れです (シリーズの技術解説「マテリアルインフォマティクス概論」を参照)。MIに関わる会社は、この流れのどこを担うかで4つに分かれます。

マテリアルインフォマティクスに関わる企業の4つの類型 同じ「MIの会社」でも、データ→設計→実験のどこを担うかで、強みと課題が違う 基盤モデル・計算基盤 MIソフト・材料AI 自動実験・ロボット 応用する側 データと計算でAIを作る 解析ソフトと材料AI ロボットで実験を回す 電池・化学・半導体など Google DeepMind/Microsoft Meta/NVIDIA Citrine/Schrödinger Preferred Networks/CuspAI Chemspeed/Radical AI Periodic Labs/Lila Sciences SES AI/Mitsui Chemicals Applied Materials 大規模な計算と人材 使いやすさとデータ 実験を回す速度 実際の材料と市場 実験での検証は他者頼み 顧客のデータ次第 設備費と再現性 内製の人材とデータ不足 ENEOSは『応用する側(エネルギー・素材)』が主で、MIソフトの会社Matlantisの株主でもある Matlantisを自社の触媒・潤滑油・ポリマーの開発に使い、同じソフトを外部へ提供する会社へ出資している
図1 マテリアルインフォマティクスに関わる企業の4類型と、ENEOSの位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。MIソフトの提供主体はMatlantis株式会社で、ENEOSホールディングスとは別法人です。ENEOS自身がMIソフトを売っているわけではありません。

ENEOSは、自社の触媒・潤滑油・ポリマーの開発にMIを使う「応用する側」が主です。 同時に、Matlantisを共同で作ったことで、MIのソフト・材料AIの側にも関わっています。 MIの流れでいえば、PFNが担うAIと計算基盤に、ENEOSが持つ化学の知識とノウハウを組み合わせてシミュレータを作り(予測・設計)、 自社の研究所で実験と組み合わせて使う形です。2021年の共同リリースでは、PFCCの社長が、Matlantisを 「PFNの深層学習などのAI技術と計算機インフラ、ENEOSの化学領域の知識やノウハウの粋を集めて開発した」と説明しています。

4. 会社の規模(会社全体は簡潔に)

ENEOSホールディングスは大企業なので、会社全体の規模だけを簡潔に示します 事実。MIだけの数字は開示されていません。

指標(2025年度=2025年4月〜2026年3月)数値備考
売上高11兆7,655億円JX金属の持分法適用会社化を主因に前年度から減少(金属事業は非継続事業に分類)
連結従業員数34,099名―
研究開発費156億円主な内訳は石油製品ほか100億円、機能材33億円
研究開発費の売上高に対する割合約0.13%本稿の計算(156億円÷11兆7,655億円)
特許登録件数5,290件―
デジタル人材認定者2,660名社内の認定制度による(全社)
ここで注意

上の数字は会社全体のもので、売上の大半は石油製品やエネルギーです。 MIにいくら使っているか、何人が専任かは開示されていません 未確定/将来。 研究開発費が売上高の約0.13%にとどまる(本稿の計算)のは、売上に占める素材・化学の割合が小さいことも映していて、 MIへの投資が小さいことを直接意味するわけではありません。この分野の記事を読むときは、 会社の規模と、MIにかけている規模は別物だと意識してください。

5. マテリアルインフォマティクスにかけているリソース

人・金・外部への出資・大学や公的機関との連携を、一次情報で確認できたか/できなかったかで示します。「記載なし」も成果です。

リソースの種類内容区分
人(全社)連結従業員34,099名。デジタル人材認定者2,660名。研究所から独立したAIイノベーション部が、社内業務の効率化を含むAI活用を推進している事実
人(MI)中央技術研究所デジタル研究所の所長(井深 丈氏)が、Matlantisの開発者とユーザーの両方の立場から講演している(講演要旨)。MI専任の人数は非公表事実/非公表
金研究開発費156億円(全社)。Matlantisへの出資額・MIの投資額は非公表。設立時のPFCCの資本金は3億1,000万円(2021年)非公表
計算資源Matlantisの学習には、PFNのスーパーコンピュータで物理シミュレーションした大量の原子構造データが使われた(2021年の共同リリース)。ENEOS自身の計算資源の規模は非公表事実/非公表
外部への出資・合弁Matlantis株式会社(旧PFCC):2021年6月の設立時はPFN 51%・ENEOS 49%。2024年6月に三菱商事が株主に加わり、現在の株主はPFN・ENEOSホールディングス・三菱商事。現在の持分比率は非公表事実
共同開発Preferred Networksと2019年6月にMI分野で戦略的協業を開始し、汎用原子シミュレータを共同開発事実
大学・研究機関・公的資金との連携講演要旨は、Matlantisを大学や他社との外部連携にも活用していると述べるが、相手の名前は書かれていない。統合レポートは「GI基金活用件数5件」を挙げるが、MI向けとは書かれていない確認できず(相手は非公表)

主要なモデル・製品の状況

Matlantisの提供主体はMatlantis社です。同社の公式ページと、ENEOS・PFNの共同リリースで確認できた範囲を示します。

名称種別主な仕様(公表された範囲)公開の形・ライセンス段階・日付出典
Matlantis汎用の原子レベルシミュレータ(クラウドのSaaS)学習済み深層学習モデル・物性計算ライブラリ・計算環境をパッケージで提供。2021年の提供開始時は55元素に対応し、DFTで数時間〜数か月かかる計算を数秒単位で行えると説明商用の契約制。ライセンス条件は確認できなかった2021年7月6日に提供開始共同リリース
PFP(PreFerred Potential)汎用の機械学習ポテンシャル(Matlantisの中核モデル)2022年の論文は45元素の任意の組み合わせを扱えると報告。Matlantis社は、PFP v7(2024年9月)で天然に存在する全96元素に対応、PFP v8(2025年7月)でr²SCANの学習データを使い精度が最大2倍と表記モデルは商用サービスの内部。論文は公開提供(更新を継続)Nature Communications、Matlantis社の会社概要
LightPFP大規模計算向けの機能最大のシミュレーション原子数を10倍以上に拡大(Matlantis社の表記)Matlantisの機能2025年1月に公開Matlantis社の会社概要
素材技術者の視点:Matlantisは「何を速くするソフト」か

Matlantisの中身(PFP)は、DFTの計算結果を大量に学習した機械学習ポテンシャルです。 機械学習ポテンシャルは、原子の配置からエネルギーと力を高速に出す近似器で、DFTの代わりに使うと計算を大幅に速くできます (シリーズの技術解説「機械学習原子間ポテンシャル」を参照)。速くなる代わりに、学習データの範囲の外では精度が落ちることがあります 未確定/将来。2022年の論文は、リチウム拡散・金属有機構造体への吸着・合金の秩序無秩序転移・触媒の探索の4つの例で、 量的に良好な結果を報告しています(論文が選んだ例の範囲で、比較の相手は例ごとに異なります)。一方、「数万倍」という速度は会社の発表の数字で、 比較した計算条件はリリースに書かれていません。自社の材料系に使うときは、既知のDFTや実測のデータで、まず小さく精度を確かめるのが近道です。

6. これまでの取り組み

時期できごと意味
2017年経営統合によって現在のENEOSグループの母体が発足。研究のポートフォリオを見直した研究体制の組み替え(統合レポート2026)
2019年6月PFNとENEOSがMI分野で戦略的協業を開始し、汎用原子シミュレータの共同開発に着手MatlantisのMIの出発点
2021年6月1日PFCCを設立(資本金3億1,000万円、PFN 51%・ENEOS 49%)共同開発した成果の事業化の器
2021年7月6日Matlantisをクラウドサービスとして提供開始MIのコアツールを外部へ
2022年5月30日PFPの論文がNature Communicationsに掲載(著者にENEOS中央技術研究所の所属を含む)中核モデルの学術的な公表
2023年1月・2024年1月CESに出展し、Matlantisを展示海外での事業パートナーシップを探る
2023年7月第3回Matlantis User ConferenceでENEOSが潤滑油の事例を発表自社での活用例の公表
2024年6月三菱商事がMatlantis社の株主に加わる海外展開の加速(Matlantis社の説明)
2024年9月PFP v7で96元素に対応。ENEOSデジタル研究所長がMatlantis User Conference 2024で講演開発者・ユーザー双方の立場で発信
2025年グループ横断で技術を棚卸しし、MIを含む5つを「強みのある分野」に設定MIが全社の技術戦略の柱の1つに
2025年7月PFCCがMatlantis株式会社に社名変更。PFP v8を公開事業主体の名称がサービス名に

7. 今後の計画

ENEOSがMIについて示した固有の数値目標・時期の計画は、確認した資料にありません 未確定/将来。次は会社の方針です。

技術開発の注力テーマ機能材・潤滑油の高付加価値化
AI技術の活用
低炭素・脱炭素エネルギー
統合レポート2026に記載
開発投資の方針厳選しつつ、将来の源泉となる技術の準備は止めないCTOメッセージ。金額・時期は記載なし
MIでの数値目標記載なし開発期間の短縮や売上への寄与の目標も確認できず
Matlantis機能拡張を継続ENEOS講演要旨に「現在も開発を継続」とある。計画の詳細は非公表
確認できなかったこと

MIで開発したと会社が明言する製品の名称/MIによる開発期間の短縮の実績/MI専任の人員・投資額/Matlantis社での現在のENEOS持分比率/ Matlantisの予測を実験で確かめた結果の数値(潤滑油の事例を含む)/外部連携の相手。報道ベースの数字は採用しません。

8. この会社はマテリアルインフォマティクスで何を目指しているか

ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
MIを全社の技術戦略の柱の1つにしている統合レポート2026が、2025年の技術の棚卸しでMIを含む5つを強みのある分野に設定したと書く事実
自社の道具を外に開いて、利用者を増やす方針CTOメッセージが「自社内にとどめるべきものではないとの考えからSaaS事業として公開した」と書く事実(会社の説明)
ENEOSは開発者と利用者の両方の立場に立ち続ける講演要旨が「共同開発者とユーザーの視点」の両方から語ると明記し、シミュレータ開発の継続と材料開発での実用を並べる事実
Matlantis社への関与は、設立時より薄くなった可能性2024年6月に三菱商事が株主に加わり、現在の持分比率が非公表。設立時はENEOSが49%推測
推測の根拠を1つだけ詳しく

設立時(2021年6月)のPFCCは、PFN 51%・ENEOS 49%の2社でした。その後、2024年6月に三菱商事が株主に加わっており、 株主が2社から3社に増えたことは確かです 事実。 ただし、増資の形か持分の移動かは、確認した資料に書かれておらず、現在のENEOSの持分比率は分かりません。 比率が下がった可能性はありますが、変わっていないかもしれません 未確定/将来。ENEOSがMatlantisの事業にどれだけ影響力を持つかは、この記事では判断できません。

9. マテリアルインフォマティクス分野の提携マッピング

ENEOSを中心としたMI関連の関係 ENEOS・Matlantis社の公式資料に記載のある関係のみ。現在の出資比率は非公表 ENEOS エネルギー・素材 Preferred Networks Matlantisを共同開発(2019年〜) Matlantis株式会社 出資(設立時49%)/利用 三菱商事 Matlantis社の株主(2024年6月〜) 大学・他社との外部連携 Matlantisの活用(相手は非公表) 共同開発の相手 出資・合弁 間接的な関係・相手は非公表
図2 ENEOSを中心としたMI関連の関係。出典:Matlantis社の会社概要ページ、2021年7月の共同リリース、ENEOS統合レポート2026、Matlantis User Conference 2024の講演要旨。2021年の設立時の出資比率はPFN 51%・ENEOS 49%で、現在の比率は開示されていません。三菱商事はMatlantis社の株主であり、ENEOSとの直接の取引は確認していません。

10. MIの使われ方と、関わる技術

ENEOSがMatlantisを使っていると述べる分野は、触媒・潤滑油・ポリマーです(講演要旨)。統合レポートも「素材や触媒の開発に活用」と書きます。 このうち、具体的な内容が公に確認できるのは潤滑油の事例です。

分野MIの使われ方(会社の説明)公開されている具体例
触媒Matlantisを触媒の開発に活用(統合レポート、講演要旨)。石油精製では、市販の触媒では対応できない高度な運転のために自社開発触媒を使う場合がある(これはMIとは別の話)確認できなかった
潤滑油基油と添加剤の相互作用をシミュレーションで調べ、設計指針を導く。CES 2023ではEV用潤滑油と並べてMatlantisを展示下の図解(2023年7月の発表の抜粋)
ポリマーMatlantisをポリマーの開発に適用(講演要旨)確認できなかった
外部連携大学や他社との外部連携にMatlantisを活用(講演要旨)相手は非公表
ENEOSの事例:金属加工用の潤滑油で、シミュレーションから設計指針を導く ENEOSの発表(2023年7月)を引用したMatlantis社の講演資料(2024年2月)を、本稿が図にしたもの 1 実験の事実 2 計算で追う 3 設計指針 4 絞り込み 5 実験で確認 基油の種類で 加工しやすさ が変わる 添加剤の拡散・ 吸着を2種の 基油中で追跡 吸着を妨げない 疎な油膜をつくる 基油を使う 油膜の疎密の データを生成し、 機械学習で検討 入手可能な 化合物3つを 社内で実証へ 計算が出したのは「指針」と「候補」。実験で確かめる段階は2023年7月時点で始まったところ 実験で確認できたかどうか、摩擦が実際にどれだけ下がったかの数字は、確認した資料に記載なし
図解 ENEOSが紹介した潤滑油の事例の流れ。Matlantis社の講演資料(2024年2月1日)に引用されたENEOSの発表の抜粋を本稿が整理したもので 本稿の計算、成果は会社の発表であり、第三者による検証や結果の数値は確認できていません。
素材技術者の視点:潤滑油の事例から学べること

この事例のポイントは、計算の結果を、実験の事実の説明と、設計の指針に変えていることです 事実。金属加工で、基油の種類によって加工しやすさが違うという実験の事実があり、 それがなぜかをMatlantisで追い、「添加剤の吸着を妨げない、疎な油膜をつくる基油を使うべし」という指針を出しています。 次に、指針に合う候補を絞り込むために、計算の速さを活かして油膜の疎密のデータを作り、機械学習で絞り込む案を示しています。 この順序(現象の説明→指針→候補の絞り込み→実験)は、MIを自社で使う場面でも参考になります。 ただし、資料に書かれているのは2023年7月時点の「実験で確かめる段階に入った」ところまでで、 実験の結果や、摩擦がどれだけ下がったかの数字は確認できません 未確定/将来。 また、この資料はENEOSの発表をMatlantis社が自社の講演で引用したものです。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
成果が外から確かめにくいMIで開発した製品名・開発期間の短縮の実績・売上への寄与が開示されていない。潤滑油の事例も、実験の結果の数字は公開資料で確認できない未確定/将来
数字の出どころの区別「数万倍」の速度、「150社・研究機関超」という採用実績は、Matlantis社・PFCCの発表で、ENEOSが検証した数字ではない事実
利益相反の可能性PFPの論文は、著者の一部がPFNとENEOSの従業員であること、PFCCがMatlantisをSaaSとして提供していることを、利益相反の開示として記している。研究と事業が近い関係にある事実
モデルの適用範囲機械学習ポテンシャルは、学習データの範囲の外で精度が落ちることがある。Matlantisの精度は、使う材料系と条件で確かめる必要がある推測
持分と影響力が不透明Matlantis社の現在のENEOS持分比率が非公表で、ENEOSの影響力や、事業の成否がENEOSの業績に与える影響を、外部から測れない推測
事業環境の変動CTOメッセージは、過去5年で脱炭素の潮流が大きく振れたこと、開発投資は厳選することを述べる。MIへの配分がどう変わるかは書かれていない事実(MIへの影響は推測)

12. 用語集

マテリアルインフォマティクス(MI)
データと計算を使って、有望な材料の候補や条件を絞り込み、実験で確かめる手法。
Matlantis
PFNとENEOSが共同開発した、汎用の原子レベルのシミュレータ。クラウドで提供される。
PFP(PreFerred Potential)
Matlantisの中核の機械学習ポテンシャル。原子の配置からエネルギーと力を高速に出す。
機械学習ポテンシャル
DFTなどの計算結果を学習して、原子間の力を近似するモデル。DFTより桁違いに速い。
DFT(密度汎関数理論)
物質の電子状態を計算する標準的な方法。精度は高いが計算に時間がかかる。
SaaS
ソフトウェアをインターネット経由で、利用者が使う分だけ契約して使う提供形態。
基油・添加剤
潤滑油の主成分が基油。性能を高めるために少量混ぜる成分が添加剤。
持株会社
グループ会社の株式を持ち、経営を統括する会社。ENEOSホールディングスがこれにあたる。
PFN(Preferred Networks)
深層学習などを手がける日本の企業。Matlantisの共同開発者で、Matlantis社の株主。
GI基金
グリーンイノベーション基金。脱炭素の技術開発を支援する日本の公的な基金。
配合を変えた試料を作り、性質を測って次の条件選びにつなぐ概念です。実際の同社の装置・製品・実測値ではありません。
図3 概念画像(ImageGen生成)。配合を変えた試料を作り、性質を測って次の条件選びにつなぐ概念です。実際の同社の装置・製品・実測値ではありません。実在の製品・施設・測定結果ではありません。拡大模型、線・矢印・色は説明用です。

13. 出典

  1. ENEOSホールディングス ENEOS REPORT 統合レポート2026(2025年4月1日〜2026年3月31日の年度)。CTOメッセージ(MIを含む5つの強み分野、Matlantisの自社利用とSaaS公開、AIイノベーション部)、売上高・従業員数・研究開発費・特許件数・デジタル人材、会社概要。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/5020/ir_material_for_fiscal_ym3/213225/00.pdf
  2. Preferred Computational Chemistry・Preferred Networks・ENEOS 「PFCC、新物質開発や材料探索を高速化する汎用原子レベルシミュレータMatlantisをクラウドサービスとして提供開始」(共同ニュースリリース、2021年7月6日)。PFCCの設立と出資比率、Matlantisの特長(対応55元素、DFTとの速度比較)。 https://www.eneos.co.jp/newsrelease/20210706_01_01_1170836.pdf
  3. Matlantis株式会社 公式サイト「会社概要」(日本語版)。株主構成(Preferred Networks・ENEOSホールディングス・三菱商事)、2019年からの沿革、社名変更(2025年7月)。 https://matlantis.com/ja/company/profile/
  4. Matlantis Corporation Official website, “Company Profile”(英語版)。同上。 https://matlantis.com/en/company/profile/
  5. ENEOS(Matlantis User Conference 2024) 井深 丈(ENEOS中央技術研究所デジタル研究所長)「ENEOSにおける材料開発のDX ~Matlantis共同開発者とユーザーの視点から~」講演要旨。ENEOSグループ内での触媒・潤滑油・ポリマーの材料開発への適用、外部連携。 https://matlantis.com/wp-content/uploads/2024/09/MatlantisUserConference2024_%E8%AC%9B%E6%BC%94%E8%A6%81%E6%97%A8.pdf
  6. Takamoto, S. et al. “Towards universal neural network potential for material discovery applicable to arbitrary combination of 45 elements”, Nature Communications 13, 2991(2022年5月30日)。DOI 10.1038/s41467-022-30687-9。著者にENEOS中央技術研究所の所属が含まれる。 https://www.nature.com/articles/s41467-022-30687-9
  7. ENEOS 「CES 2023への出展について」(ニュースリリース、2022年12月27日)。MatlantisをEV用潤滑油などと並べて展示すると記載。 https://www.eneos.co.jp/information/upload_pdf/20221227_01_01_1170836.pdf
  8. ENEOS 「今年もCES 2024に出展します!」(ニュースリリース、2024年1月5日)。Matlantisの製品を引き続き出展。 https://www.eneos.co.jp/information/upload_pdf/20240105_01_01_0906370.pdf
  9. Matlantis社(旧PFCC) 名児耶 彰洋「汎用原子レベルシミュレータMatlantis 計算材料科学のMI活用と課題」(nano tech 2024の特別シンポジウム講演資料、2024年2月1日)。ENEOSが第3回Matlantis User Conferenceで発表した潤滑油の研究の抜粋を含む。 https://matlantis.com/wp-content/uploads/2025/07/20240201_Matlantis%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E8%A8%88%E7%AE%97%E6%9D%90%E6%96%99%E5%8C%96%E5%AD%A6%E3%81%AEMI%E6%B4%BB%E7%94%A8%E3%81%A8%E8%AA%B2%E9%A1%8C_%E5%85%AC%E9%96%8B%E7%89%88.pdf
  10. Matlantis Corporation 公式サイト(英語)トップページ。Matlantisの説明と、同社が示す採用実績(150社・研究機関超)の表記。 https://matlantis.com/en/

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
正式名称、本店所在地(東京都千代田区大手町一丁目1番2号)、設立(2010年4月1日)、代表取締役 社長執行役員事実出典1 https://ssl4.eir-parts.net/doc/5020/ir_material_for_fiscal_ym3/213225/00.pdf
2025年度の売上高 11兆7,655億円、連結従業員 34,099名、研究開発費 156億円(石油製品ほか100億円・機能材33億円が主な内訳)事実出典1 https://ssl4.eir-parts.net/doc/5020/ir_material_for_fiscal_ym3/213225/00.pdf
特許登録 5,290件、デジタル人材認定者 2,660名事実出典1 https://ssl4.eir-parts.net/doc/5020/ir_material_for_fiscal_ym3/213225/00.pdf
研究開発費が売上高に占める割合 約0.13%本稿の計算本稿による割り算(156億円÷11兆7,655億円)。
2025年にグループ横断で技術を棚卸しし、MIを含む5つを強みのある分野に設定したこと事実出典1 https://ssl4.eir-parts.net/doc/5020/ir_material_for_fiscal_ym3/213225/00.pdf
MatlantisをPreferred Networksとの協業で開発し、素材や触媒の開発に活用し、自社内にとどめずSaaS事業として公開していること事実出典1 https://ssl4.eir-parts.net/doc/5020/ir_material_for_fiscal_ym3/213225/00.pdf
研究所から独立したAIイノベーション部が、社内業務の効率化を含むAI活用を推進していること事実出典1 https://ssl4.eir-parts.net/doc/5020/ir_material_for_fiscal_ym3/213225/00.pdf
技術開発の注力テーマ(機能材・潤滑油の高付加価値化/AI技術の活用/低炭素・脱炭素エネルギー分野)事実出典1 https://ssl4.eir-parts.net/doc/5020/ir_material_for_fiscal_ym3/213225/00.pdf
2019年6月にPFNとENEOSがMI分野で戦略的協業を開始し、汎用原子シミュレータの共同開発に着手事実出典3・4 https://matlantis.com/ja/company/profile/ https://matlantis.com/en/company/profile/
2021年6月1日にPFCCを設立(資本金3億1,000万円、PFN 51%・ENEOS 49%)事実出典2・3 https://www.eneos.co.jp/newsrelease/20210706_01_01_1170836.pdf https://matlantis.com/ja/company/profile/
2021年7月6日にMatlantisをクラウドサービスとして提供開始(55元素に対応、DFTで数時間〜数か月かかる計算が数秒単位、計算速度は従来の数万倍:会社の発表)事実出典2 https://www.eneos.co.jp/newsrelease/20210706_01_01_1170836.pdf
2024年6月に三菱商事が株主に加わり、2025年7月にMatlantis株式会社へ社名変更。現在の株主はPFN・ENEOSホールディングス・三菱商事事実出典3・4 https://matlantis.com/ja/company/profile/ https://matlantis.com/en/company/profile/
Matlantis社が「150社・研究機関超に選ばれている」と表記していること(同社の主張)事実出典10 https://matlantis.com/en/
PFPの論文(Nature Communications、2022年):45元素の任意の組み合わせを扱える汎用の機械学習ポテンシャル。著者にENEOS中央技術研究所の所属が含まれる事実出典6 https://www.nature.com/articles/s41467-022-30687-9
ENEOSグループ内の触媒・潤滑油・ポリマーの材料開発へのMatlantisの適用、大学や他社との外部連携(講演要旨)事実出典5 https://matlantis.com/wp-content/uploads/2024/09/MatlantisUserConference2024_%E8%AC%9B%E6%BC%94%E8%A6%81%E6%97%A8.pdf
CES 2023・2024でMatlantisを展示したこと事実出典7・8 https://www.eneos.co.jp/information/upload_pdf/20221227_01_01_1170836.pdf https://www.eneos.co.jp/information/upload_pdf/20240105_01_01_0906370.pdf
潤滑油の事例:基油の違いと添加剤の吸着を計算で追い、設計指針を導き、入手可能な化合物3つを提案して社内で実験実証に入った(2023年7月時点)事実出典9 https://matlantis.com/wp-content/uploads/2025/07/20240201_Matlantis%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E8%A8%88%E7%AE%97%E6%9D%90%E6%96%99%E5%8C%96%E5%AD%A6%E3%81%AEMI%E6%B4%BB%E7%94%A8%E3%81%A8%E8%AA%B2%E9%A1%8C_%E5%85%AC%E9%96%8B%E7%89%88.pdf
潤滑油の事例で、実験で確かめた結果と摩擦低減の数値未確定/将来確認した資料に記載なし。本稿では推計もしない。
MI専任の人員・投資額、Matlantis社の現在のENEOS持分比率、ENEOS単独のMI成果の数値未確定/将来確認した資料に記載なし。本稿では推計もしない。
大学・公的機関とのMI共同研究の相手や、MI向けの公的資金未確定/将来確認した資料に記載なし。本稿では存在しないとも断定しない。
類型の区分(主:応用する側、従:MIソフトの会社への出資)本稿の計算本稿による整理。
会社の狙いに関する読み(第8章の4点のうち推測としたもの)推測統合レポート・Matlantis社の公式ページの記述からの本稿の解釈。
リスクの整理のうち、書類に直接の記載がない項目推測統合レポート・各公式ページの記述からの本稿の解釈。

最終更新:2026年10月22日/Troy Technical
本稿の数値はすべて、ENEOSホールディングスの統合レポートと公式リリース、Matlantis社の公式ページ・資料、査読論文に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。Matlantisの性能や採用実績の数字は、提供主体(Matlantis社・旧PFCC)の発表であり、第三者による検証を確認できていません。