主要成果
Kavli Instituteの研究チームは、細胞外L-乳酸のin vivoマルチプレックスイメージングを可能にする、画期的なカルシウム非依存性バイオセンサー「eLACCO3」および「R-eLACCO3」を開発しました。これらの新規蛍光性細胞表面乳酸バイオセンサーは、Ca2+濃度に依存しない安定した応答と、従来のセンサーと比較して培養細胞における応答および回復速度の大幅な向上を実現しており、生体内の複雑な代謝ダイナミクスの理解を深めるための強力なツールとなります。
技術・臨床詳細
開発された「eLACCO3」およびその赤色シフトバージョンである「R-eLACCO3」は、細胞外空間に存在するL-乳酸を特異的に検出するために設計された蛍光バイオセンサーです。最も重要な技術的特徴は、そのカルシウム非依存性です。従来の多くの蛍光バイオセンサーは細胞内カルシウム濃度変動の影響を受けやすく、乳酸などの特定の代謝物のダイナミクスを正確に分離して測定することが困難でした。eLACCO3は、この課題を克服し、細胞の生理学的状態が変化しても乳酸濃度のみを信頼性高く報告します。さらに、培養細胞を用いた評価では、これらのセンサーが極めて速い応答速度と回復速度を示すことが確認されています。これにより、乳酸濃度の急激な変化や一時的な変動もリアルタイムで捉えることが可能となります。また、緑色と赤色の2種類のバイオセンサーが利用可能であるため、異なる細胞タイプや脳領域における乳酸ダイナミクスを同時にモニタリングする「マルチプレックスイメージング」が可能になります。これは、例えば、グルコース代謝と乳酸代謝の連携や、神経細胞とグリア細胞間の代謝物輸送など、細胞間相互作用の研究において特に有用です。in vivoでの多重測定能力は、脳活動、エネルギー代謝、疾患進行における乳酸の役割を、より包括的に理解するための新たな窓を開きます。
背景・業界文脈
乳酸は、かつては単なる代謝老廃物と考えられていましたが、近年、細胞間のシグナル分子、エネルギー基質、および神経活動の調節因子としての重要な役割が明らかになっています。特に脳では、神経活動亢進時にグリア細胞が産生した乳酸が神経細胞に供給される「アストロサイト-ニューロン乳酸シャトル」仮説が提唱されており、記憶形成、学習、さらには神経変性疾患(例:アルツハイマー病、パーキンソン病)や脳卒中における病態生理学への関与が示唆されています。しかし、生体内で細胞外乳酸ダイナミクスをリアルタイムかつ高解像度で追跡する技術は限られていました。本バイオセンサーの開発は、この研究ギャップを埋め、乳酸の役割に関する新たな知見をもたらすことが期待されます。
今後の展望
eLACCO3およびR-eLACCO3バイオセンサーは、神経科学、がん研究、運動生理学など、乳酸が重要な役割を果たす幅広い研究分野に大きな影響を与えるでしょう。特に、脳スライス、培養細胞、そして最終的には生きた動物モデルにおける乳酸ダイナミクスの高精度なin vivoイメージングは、疾患メカニズムの解明や新規治療標的の同定に貢献すると期待されます。将来的には、これらのセンサー技術は、より高度な遺伝子コード化型バイオセンサーやウェアラブルデバイスへの統合も検討され、基礎研究から臨床診断への応用へとその範囲を拡大する可能性を秘めています。
元記事: https://preprints.kavlimeetings.org/2026/10/05/all/neuro/ucsd-salk/265018/
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