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NIH|創薬・DDS 機関解説

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INSTITUTION PROFILE / 創薬・DDS

NIH
― 米国の創薬研究の「源流」に予算を配る巨大な研究機関

NIH(米国国立衛生研究所)は米国保健福祉省(HHS)の一機関で、薬を承認する権限は持っていません。 役割は議会が決めた医学研究の予算を大学・病院・企業などに配り、自らも研究所と研究病院で研究することです。 新薬の多くは、NIHの資金で進んだ基礎研究や、NIHのがん研究所が支える臨床試験網を経て生まれます。 本稿では、NIHが創薬・DDSにどこまで影響を持つのかに絞り、がん研究のNCIと橋渡し研究のNCATSを中心に整理します。

構成:米国の2026年度歳出法(P.L. 119-75)の本文、NCI・NCATS・NIH所内研究プログラムの公式ページ、NIH財団(FNIH)の事業ページを一次情報として使用/最終更新 2026年9月

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるNIH
  2. どんな機関か ― 影響力の「型」
  3. 創薬・DDSで何をしているか
  4. 影響力の範囲(権限と地域)
  5. 関わっている企業・組織
  6. 今後の見通し
  7. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるNIH

正式名称National Institutes of Health日本語では米国国立衛生研究所
国米国保健福祉省(HHS)を構成する11機関の一つ
機関の種類連邦政府の研究・助成機関薬の承認審査はしない(承認はFDA)
組織研究所・センターの集合体2026年度歳出法では24の研究所・センターに個別の予算
人数規模NCIだけで約3,500人所内研究は主任研究者 約1,200人・ポスドク4,000人超。NIH全体の職員数は本稿で未確認
予算(2026年度)約472億ドル歳出法のNIH項目の合計(ARPA-Hを除く)。本稿の計算
創薬・DDSへの関与研究資金の配分+自前の研究規制やガイドラインを決める権限はない
影響が及ぶ範囲米国の予算が中心助成先は米国内が中心だが海外の機関も含む
まず押さえるべき1点

NIHの予算は、議会が歳出法で研究所・センターごとに金額を決めます。 2026年度の歳出法(2026年2月3日成立)は、国立がん研究所(NCI)に73億5,216万ドル、 橋渡し研究を担うNCATSに9億4,232万ドルを割り当てています 事実。 NIHは「何を承認するか」を決める機関ではなく、どの研究に資金を出すかを審査して決める機関です。 それでも創薬への影響が大きいのは、米国の医学研究の資金の大きな流れがNIHを通るからです。

2. どんな機関か ― 影響力の「型」

創薬・DDSの記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では薬を売りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。

創薬・DDSを動かす「機関」の4つの型 機関は自分では薬を売らない。どの経路で業界に影響を与えるかで4つに分かれる 資金を出す 政策・規制を決める 標準を決める 場をつくる 研究開発に予算を配る 承認審査・ガイダンス 技術ガイドラインの調和 学会・臨床データ発表 NIH FDA/EMA/PMDA/NMPA ICH AACR/ASCO 何を研究させるか 何を売ってよいか どう試験し、どう申請するか どのデータを誰が見るか 届く範囲=自国の予算 届く範囲=自国の市場 届く範囲=加盟当局 届く範囲=参加者 NIHは左端の「資金を出す」型。予算の大枠を決めるのは議会で、NIHは審査して配る 自前の研究所と研究病院も持つが、薬を承認する権限はFDAにあり、NIHにはない
図1 創薬・DDSに関わる機関の4つの型と、NIHの位置。区分は本稿によるもので、機関名は本シリーズで扱う8機関から例示しています 本稿の計算。NIHは資金配分に加えて所内研究も行いますが、4つの型のうち該当するのは「資金を出す」型です。

3. 創薬・DDSで何をしているか

NIHの創薬への関わり方は、がん研究のNCI、基礎研究を薬の候補に橋渡しするNCATS、 そして企業と共同で資金を出す官民連携の3つに分けると見通しがよくなります 事実。

組織・事業2026年度の規模中身創薬・DDSとの関係
NCI(国立がん研究所)73億5,216万ドル
職員 約3,500人
自らを「世界最大のがん研究の資金提供者」と位置づける。74のNCI指定がんセンターと5,000超の助成先を支え、全米約3,100施設の臨床試験を調整・支援。予算の約18%が所内研究抗がん剤の臨床試験網と、がんの基礎・前臨床研究の資金源
NCATS(先進トランスレーショナル科学センター)9億4,232万ドル
うちCTSA 6億2,956万ドル以上、CAN 7,500万ドル
2011年設立。研究成果を治療法に変える「橋渡し」を担う。CTSAは60超の医療機関のネットワークに資金を出すTRND(希少疾患の候補をFDAへの治験届=IND申請まで進める)、BrIDGs(前臨床の後期開発)、ASPIRE(分子の探索・設計・試験)など
所内研究プログラム(IRP)主任研究者 約1,200人
ポスドク 4,000人超
基礎・橋渡し・臨床研究を所内で行う。240床の研究病院を持つNIHが「資金を配る」だけでなく自ら研究する部分
官民連携(FNIHが運営)AMP:12事業・総投資10億ドル
PACT:5年間・2億2,000万ドル
NIH、FDA、製薬企業、非営利団体が共同で資金を出し、競争前の段階の成果を公開する標的の選び方、バイオマーカー、遺伝子治療の開発手順など業界共通の土台
創薬の視点:NIHの資金は「どの段階」に効くか

NIHの資金の大半は、標的の発見や病気の仕組みの解明といった上流の研究に向かいます。 NCATSのTRNDやBrIDGsは、その先の前臨床からIND申請までを支える数少ない公的な仕組みで、 企業が採算を見込みにくい希少疾患の候補を「企業が引き受けられる段階」まで進めることを目的にしています。 NCATSは、TRNDの支援した遺伝子治療(AADC欠損症)が2024年にFDAの承認を得たと公表しています 事実。 一方、承認に向けた後期の臨床試験や製造は、原則として企業の負担です。

4. 影響力の範囲(権限と地域)

観点NIHが持っているもの持っていないもの
権限研究資金を公募し、ピアレビューで審査し、配分する権限。所内の研究所・研究病院で研究する権限薬の承認・安全対策・表示を決める権限(FDAの権限)。国際的なガイドラインを決める権限
地域米国の歳出法による予算。NCIの助成先には米国内だけでなく海外の機関も含まれる他国の政策や承認制度に直接影響する権限
対象大学・医療機関・研究所・民間企業への助成と契約。FNIHを通じた企業との共同事業企業に特定の薬の開発や製造を義務づける権限
規模2026年度 約472億ドル(歳出法のNIH項目の合計)創薬・DDSだけに使われる予算の総額は公表されていない
数字の読み方の注意

約472億ドルは、2026年度歳出法の「National Institutes of Health」の見出しの下にある28の金額 (24の研究所・センター、所長室、施設整備、21世紀治療法のイノベーション勘定など)を本稿が足し合わせたもので、 同じ見出しの下にあるARPA-H(15億ドル)は含めていません 本稿の計算。 NIHが公表する「プログラム・レベル」の総額は、他の法律による資金を含むため、この合計と一致しない可能性があります。 NIHの予算局のページは本稿の作成時に取得できず、公式の総額は確認できていません 未確定/将来。

5. 関わっている企業・組織

NIHの創薬関連の資金はどう流れるか(米国・2026年度) 議会が研究所ごとに予算を決め、NIHが審査して配る。企業とはFNIHを通じて共同事業を組む 米国議会 歳出法で研究所ごとの予算を決定 NIH 公募・審査・配分・所内研究 NCI(国立がん研究所) 2026年度 73.5億ドル NCATS(橋渡し研究) 2026年度 9.4億ドル FNIHが運営する官民連携 NIH・FDA・企業が共同で出資 支える先 NCI指定がんセンター 74 助成先 5,000超 臨床試験 約3,100施設 主な事業 TRND:IND申請まで支援 BrIDGs:前臨床の後期開発 CTSA:60超の医療機関 参加企業(抜粋) PACT:Pfizer/GSK/Sanofi BMS/Gilead/Boehringer BGTC:Pfizer/Novartis/武田
図2 NIHの創薬関連の資金の流れ。出典:2026年度歳出法(P.L. 119-75)、NCIとNCATSの公式ページ、FNIHの事業ページ。参加企業は、PACTとBGTCのページに掲載された企業のうち本シリーズの企業解説の候補にあたるものを本稿が抜粋しました 本稿の計算。官民連携の資金にはNIHの予算だけでなく企業の拠出も含まれます。

官民連携の中身

事業中身(FNIHの表記に基づく)本シリーズとの関係
AMP(Accelerating Medicines Partnership)病気の仕組みの理解と標的の選択を改善する官民連携。12事業、総投資10億ドル、ライフサイエンス企業36社・非営利35団体・NIHの16研究所等が参加。データは公開が原則個別の企業の開発ではなく、標的選びの「共通の土台」
PACT(がん免疫療法のバイオマーカー)がん研究の「ムーンショット」の一環。NIH・FNIH・製薬12社による5年間・総額2億2,000万ドルの共同研究。FDAは助言役Pfizer・GSK・Sanofi・Bristol Myers Squibb・Gilead Sciences・Boehringer Ingelheim・Novartisなどがロゴで掲載
BGTC(AMPの遺伝子治療事業)超希少疾患向けAAV遺伝子治療の開発手順・規制文書のひな形・製造工程の標準化。NCATSが主導の一角を担うPfizer・Novartis(研究所)・武田薬品などが民間パートナーとして掲載

※FNIH(NIH財団)はNIHとは別の非営利法人で、官民連携の運営を担います。企業ごとの拠出額は、上記のページには載っていません。

6. 今後の見通し

読み取れること根拠となる一次情報区分
NCATSの組織と予算は、今後も見直しの対象になり続ける2026年度予算案はNCATSを一般医科学研究所(NIGMS)に統合する案だったが、成立した歳出法はNCATSに9億4,232万ドルを計上。2027年度予算案はNCATSに約8.7億ドルを提案(NCATSの予算ページ)推測
前臨床の研究で、動物実験に代わるヒト由来のモデル(オルガノイド、計算モデルなど)の比重が増すNCIは、2025年に発表されたNIHの方針に沿って動物の使用を減らし、ヒトに基づく研究を重視すると公表推測
希少疾患の遺伝子治療では、個別の薬ではなく共通の開発手順づくりにNIHの影響が出るBGTCは規制文書のひな形と製造工程の標準化を目標に掲げ、FDAも参加している推測

7. 用語集

歳出法
米国議会が毎会計年度(10月〜翌9月)の政府の支出額を決める法律。NIHは研究所・センターごとに金額が書かれる。
NCATS
先進トランスレーショナル科学センター。基礎研究の成果を治療法に変える過程を速めることを目的に2011年に設立。
IND申請
米国で人を対象にした臨床試験を始める前にFDAへ出す治験届。TRNDはこの段階までの前臨床開発を支援する。
ピアレビュー
外部の研究者が研究計画を審査する仕組み。NIHの助成の採否はこの審査を経て決まる。
FNIH
NIH財団。NIHとは別の非営利法人で、企業や財団と組む官民連携(AMP、PACTなど)を運営する。

8. 出典

  1. 米国政府出版局(GovInfo) Public Law 119-75「Consolidated Appropriations Act, 2026」本文(NIHの研究所・センター別の歳出額、NCATSのCAN・CTSAの内訳、ARPA-H)。 https://www.govinfo.gov/content/pkg/PLAW-119publ75/html/PLAW-119publ75.htm
  2. 米国政府出版局(GovInfo) Public Law 119-75 の書誌情報(成立日2026年2月3日、法案番号H.R. 7148)。 https://www.govinfo.gov/app/details/PLAW-119publ75
  3. NCI Budget and Appropriations(2026年度の予算73.5億ドル、所内研究が予算の約18%、NIHの動物実験削減の方針への対応)。 https://www.cancer.gov/about-nci/budget
  4. NCI Overview and Mission(職員 約3,500人、HHSの11機関の一つとしてのNIH、74の指定がんセンター、5,000超の助成先、約3,100の臨床試験施設、米国内外への助成)。 https://www.cancer.gov/about-nci/overview
  5. NCATS Budget(2026年度の歳出法による予算、2026年度予算案のNIGMSへの統合案、2027年度予算案)。 https://ncats.nih.gov/about/budget
  6. NCATS NCATS Overview(使命、2011年の設立)。 https://ncats.nih.gov/about/ncats-overview
  7. NCATS Research Activities(ASPIRE、BrIDGs、CTSA〔60超の医療機関〕などの事業一覧)。 https://ncats.nih.gov/research/research-activities
  8. NCATS Therapeutics for Rare and Neglected Diseases (TRND)(IND申請を目標とする前臨床開発の支援、AADC欠損症の遺伝子治療のFDA承認への貢献)。 https://ncats.nih.gov/research/research-activities/trnd
  9. NIH所内研究プログラム What Is the IRP?(主任研究者 約1,200人、ポスドク4,000人超、240床の研究病院。2022年1月更新)。 https://irp.nih.gov/about-us/what-is-the-irp
  10. FNIH Accelerating Medicines Partnership (AMP)(12事業、総投資10億ドル、企業36社、非営利35団体、NIHの16研究所等)。 https://fnih.org/our-programs/accelerating-medicines-partnership-amp/
  11. FNIH Partnership for Accelerating Cancer Therapies (PACT)(5年間・2億2,000万ドル、製薬12社、FDAは助言役、参加企業のロゴ)。 https://fnih.org/our-programs/partnership-for-accelerating-cancer-therapies-pact/
  12. FNIH AMP Bespoke Gene Therapy Consortium: Partners(民間・公的パートナーの一覧)。 https://fnih.org/our-programs/accelerating-medicines-partnership-amp/bespoke-gene-therapy-consortium-bgtc/bgtc-partners/
  13. NCATS Bespoke Gene Therapy Consortium (BGTC)(AMPの一部としての位置づけ、NIH・FDA・企業の官民連携、2021年10月の開始)。 https://ncats.nih.gov/research/research-activities/BGTC

9. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
2026年度歳出法でNCIに73億5,216万ドル、NCATSに9億4,232万ドル(うちCAN 7,500万ドル、CTSA 6億2,956万ドル以上)、ARPA-Hに15億ドル事実出典1 https://www.govinfo.gov/content/pkg/PLAW-119publ75/html/PLAW-119publ75.htm
歳出法の成立日2026年2月3日事実出典2 https://www.govinfo.gov/app/details/PLAW-119publ75
NCIの所内研究が予算の約18%、NIHの方針に沿った動物実験の削減事実出典3 https://www.cancer.gov/about-nci/budget
NCIの職員約3,500人、NIHはHHSの11機関の一つ、74の指定がんセンター、5,000超の助成先、約3,100の臨床試験施設、海外への助成事実出典4 https://www.cancer.gov/about-nci/overview
NCATSの2026年度予算案(NIGMSへの統合案)と2027年度予算案事実出典5 https://ncats.nih.gov/about/budget
NCATSの2011年の設立事実出典6 https://ncats.nih.gov/about/ncats-overview
ASPIRE・BrIDGs・CTSA(60超の医療機関)の内容事実出典7 https://ncats.nih.gov/research/research-activities
TRNDがIND申請までの前臨床開発を支援し、AADC欠損症の遺伝子治療の承認に貢献事実出典8 https://ncats.nih.gov/research/research-activities/trnd
所内研究の主任研究者約1,200人・ポスドク4,000人超・240床の研究病院事実出典9 https://irp.nih.gov/about-us/what-is-the-irp
AMPの12事業・総投資10億ドル・企業36社・非営利35団体・NIHの16研究所等事実出典10 https://fnih.org/our-programs/accelerating-medicines-partnership-amp/
PACTの5年間・2億2,000万ドル・製薬12社・FDAの助言役、参加企業事実出典11 https://fnih.org/our-programs/partnership-for-accelerating-cancer-therapies-pact/
BGTCの民間パートナー(Pfizer・Novartis・武田薬品など)事実出典12 https://fnih.org/our-programs/accelerating-medicines-partnership-amp/bespoke-gene-therapy-consortium-bgtc/bgtc-partners/
BGTCがAMPの一部で、NIH・FDA・企業の官民連携として2021年10月に始まった事実出典13 https://ncats.nih.gov/research/research-activities/BGTC
2026年度のNIH予算 約472億ドル(歳出法のNIH項目28件の合計、ARPA-Hを除く)、24の研究所・センター本稿の計算出典1の金額を本稿が合計
機関の4つの型の区分、図2の企業の抜粋本稿の計算本稿による整理
NIHの公式のプログラム・レベル総額、NIH全体の職員数、創薬・DDSだけに使われる予算額未確定/将来NIHの予算局ページは本稿の作成時に取得できず。本稿では推計しない
第6章の見通し3項目推測出典3・5・12・13からの本稿の解釈

最終更新:2026年9月26日/Troy Technical
本稿の数値は米国の歳出法、NIHの研究所・センターの公式サイト、FNIHの事業ページに基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。本稿は医療上の助言ではありません。