COMPANY PROFILE / 創薬・DDS
薬明康徳(WuXi AppTec)
― 低分子・ペプチド・核酸を「研究から量産まで」請け負う化学の受託大手と、米国の規制
WuXi AppTec(薬明康徳)は中国・上海に本部を置く医薬品の受託研究・開発・製造会社です。 自社では新薬を持たず、世界の製薬会社・バイオテックから候補化合物の合成、前臨床の試験、原薬と製剤の製造を請け負っています。 同社はこれを研究(R)から開発(D)・製造(M)までつなぐ「CRDMO」と呼んでいます。 創薬・DDSの視点で重要なのは、オリゴヌクレオチド(核酸)とペプチドを扱う「TIDES」事業が2025年に売上113.7億元(前年比+96.0%)へ急拡大し、 固相ペプチド合成の反応槽を合計100,000L超まで増やしたことです。 一方で2026年6月、米国防総省は同社を「中国軍事企業」リスト(1260Hリスト)に載せ、同社はこれを誤りとして提訴し、8月に仮差止めを得ました。 2025年12月に成立した米国の生物技術企業との調達を制限する法律(国防授権法第851条、いわゆるBIOSECURE法)は、このリストと連動する仕組みで、2026年9月時点では調達禁止はまだ始まっていません。
- 30秒でわかるWuXi AppTecと、創薬・DDSでの立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- 創薬・DDSの世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模
- 創薬・DDSにかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画と、米国のBIOSECURE法の扱い
- この会社は創薬・DDSで何を目指しているか
- 創薬・DDS分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるWuXi AppTecと、創薬・DDSでの立ち位置
香港 2359いずれも2018年に上場
(CRDMO)自社の医薬品は持たない
オリゴヌクレオチドペプチドと核酸は「TIDES」事業
合計100,000L超2025年9月に泰興の増設が完了
→ 仮差止めを取得2026年6月指定、8月に連邦地裁が仮差止め
創薬・DDSに関わる企業は、大きく製薬企業・創薬バイオテック・受託開発製造(研究)の3種類に分かれます。 WuXi AppTecは受託研究・開発・製造で、しかも化学(低分子・ペプチド・核酸)に強い受託企業です 事実。 2025年の継続事業の売上434.2億元のうち、合成化学の「WuXi Chemistry」が364.7億元を占めます。 抗体を細胞で作るロンザやサムスンバイオロジクスとは得意分野が違い、同社の強みは化合物をたくさん作り、その中から育った候補を量産まで引き受ける流れにあります。 年次報告書によると2025年だけで42万を超える新しい化合物を合成して顧客に納め、310の分子が研究段階から開発段階へ移りました。 本シリーズの技術解説「創薬モダリティ」「ペプチド医薬とGLP-1」「核酸医薬」「CDMO」とあわせて読むと位置づけがつかみやすくなります。
2. ロゴと社名の表記について

WuXi AppTecのロゴは同社の商標です。本稿では生成画像による再現を行わず、
公式サイトのページ上部に表示されているロゴ(白抜きのSVG)を img/wuxi_apptec_logo.svg として設置し、暗い背景の上に表示しています。
表記の注意:中国語の社名は「薬明康徳」(簡体字では药明康德)で、日本語では「ウーシー・アップテック」とも表記されます。 抗体の受託を行う WuXi Biologics(薬明生物)、ADCの受託を行う WuXi XDC は別の会社で、WuXi AppTecの子会社ではありません (WuXi XDCにはWuXi AppTecが18.55%を出資する関連会社の関係)。 「WuXi」とつく会社が複数あるので、本稿ではWuXi AppTecとほかの会社を区別して書きます。
公式サイト:https://www.wuxiapptec.com/3. 創薬・DDSの世界で、この会社はどこにいるか
類型は受託研究・開発・製造(CRDMO)です。事業は3つの部門に分かれます 事実。
| 部門 | 中身 | 創薬・DDSとの関係 |
|---|---|---|
| WuXi Chemistry | 低分子の探索合成(R)、低分子の開発・製造(D&M)、TIDES(オリゴヌクレオチドとペプチド) | 本稿の中心。原薬と製剤、ペプチド・核酸・化学結合体の受託 |
| WuXi Testing | 薬の安全性評価、薬物動態(DMPK)、生体試料の分析 | 核酸・結合体・多重特異性抗体・ペプチドの評価。新しいモダリティが売上の35%超(2026年上期) |
| WuXi Biology | 試験管内と動物での薬効評価による創薬支援 | 新しいモダリティ(核酸・抗体結合体・ペプチドなど)が売上の35%超(2026年上期) |
4. 会社の規模
2025年までに細胞・遺伝子治療の受託(WuXi ATU)と、臨床試験の受託(WuXi Clinical・WuXi MedKey)を売却しており、下の表では継続事業を中心に示します 事実。
| 指標(百万元) | 2024年12月期 | 2025年12月期 | 2026年上期 |
|---|---|---|---|
| 売上高(合計) | 39,241.4 | 45,456.2 | 28,897.5 |
| うち継続事業 | 35,766.7 | 43,420.8 | 28,897.5 |
| WuXi Chemistry | 29,052.4 | 36,465.8 | 24,986.0 |
| うち TIDES(ペプチド・核酸) | ― | 11,370 | 7,260 |
| うち 低分子の開発・製造 | ― | 19,920 | 14,990 |
| WuXi Testing | 3,860.6 | 4,041.7 | 2,480.6 |
| WuXi Biology | 2,543.9 | 2,677.2 | 1,391.9 |
| 研究開発費(継続事業) | 1,115.3 | 1,054.2 | 605.0 |
| 設備投資 | 4,003.5 | 5,538.2 | 2,961.6 |
| 項目 | 数値 | 補足 |
|---|---|---|
| 株主に帰属する純利益 | 191.9億元 | 2025年、前年比+105.2%。事業売却などの利益を含む |
| 従業員 | 35,584人 | 2026年6月30日。2025年末は33,834人 |
| 受注残(継続事業) | 664.3億元 | 2026年6月30日、前年比+25.2% |
| 最大の顧客への依存 | 37.92% | 2025年の売上に占める最大顧客の比率。上位5社で48.11% |
| 米国の顧客からの売上 | 222.8億元 | 2026年上期。継続事業の約77%(本稿の計算) |
| 2026年の見通し | 売上585〜605億元 | 2026年8月に引き上げ(当初は513〜530億元)。継続事業は+35〜39% |
最大の顧客1社で売上の37.92%を占めています 事実。 年次報告書は顧客の社名も、その顧客にどの品目を供給しているかも開示していません 未確定/将来。 この集中度とTIDESの成長を結びつけて特定の薬を推測することは、一次情報の範囲を超えるため本稿では行いません。 また、TIDESの売上には年間の数字しかなく、ペプチドと核酸の内訳は開示されていません。
5. 創薬・DDSにかけているリソース
| リソースの種類 | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人 | 従業員35,584人(2026年6月末)。TIDESやペプチドの担当人数は開示なし | 事実 |
| 設備(ペプチド) | 固相ペプチド合成の反応槽の総容量が100,000L超。泰興(江蘇省)のペプチド設備の建設を2025年9月に予定より早く完了 | 事実 |
| 設備(低分子原薬) | 低分子原薬の反応槽の総容量が4,000kL超(2025年末)。常州・泰興・金山の原薬拠点が2025年に米FDAの立入検査を指摘事項なしで通過 | 事実 |
| 金(設備投資) | 2025年の設備投資55.4億元。2026年の設備投資見通しを75〜85億元に引き上げ(当初65〜75億元)。常州の新拠点を前倒しで着工 | 事実 |
| 金(研究開発費) | 継続事業で10.5億元(2025年)。受託企業の研究開発費で、新薬の研究開発費ではない | 事実 |
| 資金調達 | 2025年8月に新H株を発行し手取り約76.5億香港ドル。約90%を世界での拡大と設備建設に充てると説明 | 事実 |
| 出資 | ADCの受託会社 WuXi XDC Cayman に出資(持分は2024年末30.33%→2025年末18.55%に低下。一部売却と相手側の増資による希薄化) | 事実 |
| 売却(選択と集中) | 細胞・遺伝子治療の受託(WuXi ATUの米英事業と中国事業)、臨床試験の受託(WuXi Clinical・WuXi MedKey、2025年12月にHillhouseへ)を売却 | 事実 |
| 公的資金 | 各国からの研究開発補助金などで、設備に関するもの9.47億元を繰延収益として計上(2025年末残高)。TIDES向けかどうかは不明 | 事実 |
| 技術の導入(ライセンス) | ペプチド・核酸の技術を外部から導入したという記載は年次報告書・中間報告書にない | 確認できず |
| 大学・研究機関との連携 | ペプチド・核酸に関する大学との共同研究は年次報告書・中間報告書に記載なし | 確認できず |
年次報告書は、TIDESの技術として薄膜蒸発、限外ろ過(TFF)/沈殿、連続フロー精製を挙げています 事実。 ペプチドは樹脂の粒の上でアミノ酸を1つずつつなぐ固相合成、核酸も固体の担体の上で塩基を1つずつつなぐ方法が一般的で、 どちらも1回の反応ごとに大量の溶媒で洗うのが特徴です。 そのため、合成した後に溶媒をどう速く除くか(薄膜蒸発)、目的の長さの分子だけをどう取り出すか(ろ過・沈殿・クロマトグラフィー)が、 生産量とコストを直接決めます。 反応槽の容量(100,000L超)が注目されがちですが、材料・プロセスの立場からは、合成用の樹脂・保護基つきアミノ酸・溶媒の調達と回収、精製用の充填剤の確保が律速になりやすい領域です。 同社がどの溶媒・樹脂を使っているかは開示されておらず、ここは本稿による一般的な説明です。
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 2000年12月 | 前身の無錫薬明康徳組合化学(WuXi PharmaTech)を設立 | 化合物合成の受託から出発 |
| 2018年 | 5月に上海、12月に香港に上場 | A株とH株の二重上場 |
| 2024年9月9日 | 米下院がBIOSECURE法案(H.R. 8333)を可決。法案は「懸念のある生物技術企業」としてBGI・MGI・Complete Genomics・WuXi AppTec・WuXi Biologicsを名指ししていた | この法案は第118議会の会期中に成立せず |
| 2024年 | TIDESの新しい設備が順次稼働を開始 | 2025年のTIDES売上倍増の土台 |
| 2025年 | TIDESの売上が113.7億元(+96.0%)。TIDESの顧客は+25%、分子数は+45% | ペプチド・核酸が主要事業の1つに |
| 2025年8月 | 新H株の発行で約76.5億香港ドルを調達 | 設備拡大の資金 |
| 2025年9月 | 泰興のペプチド設備を前倒しで完成。固相ペプチド合成の反応槽が合計100,000L超に | ペプチドの量産能力を拡大 |
| 2025年10月9日 | 米上院の本会議で、ハガティ議員がBIOSECURE法を国防授権法案に加える修正案への賛成を求める演説 | 「biotechnology companies of concern(懸念のある生物技術企業)」への政府資金を止める趣旨 |
| 2025年12月15日 | 臨床試験受託のWuXi ClinicalとWuXi MedKeyのHillhouseへの売却が完了 | 化学を中心とするCRDMOへの集中 |
| 2025年12月18日 | 2026会計年度国防授権法(Public Law 119-60)が成立。第851条が、懸念のある生物技術企業からの政府調達を禁じる。条文に特定の社名はない | 対象は国防総省の1260Hリストと、行政管理予算局(OMB)が作るリストで決まる仕組み |
| 2026年6月8日 | 米国防総省が1260Hリスト(中国軍事企業)にWuXi AppTecを追加(連邦官報は6月10日付) | 同社は6月9日に「明らかな誤り」と公表 |
| 2026年6月11日 | コロンビア特別区連邦地裁に国防総省を提訴。指定の無効・取り消しとリストからの削除を求める | 法的手段で争う |
| 2026年8月7日 | 連邦地裁が同社の申し立てを認め、仮差止めを命じる(同社の8月9日の開示) | 裁判の間、指定による直接の不利益から守られる |
| 2026年8月 | 2026年の売上見通しを585〜605億元へ引き上げ。TIDESは通年で約+45%を見込む | 規制の逆風下でも受注は伸びている |
| 2026年8月24日 | WuXi Biologyの化合物ライブラリー(DEL)の基盤で不正アクセスが発生したと開示。封じ込め済みで通常業務に影響なしと説明 | 顧客データの管理が改めて問われる |
7. 今後の計画と、米国のBIOSECURE法の扱い
会社はこれらの見通しを「将来に関する記述」とし、前提として国際的な地政学環境、立法による制限、司法手続きなどのリスクを明記しています 事実。
米国のBIOSECURE法(国防授権法第851条)は、いまどうなっているか
米議会の一次資料と法令の本文で確認できた範囲を、確定していることと確定していないことに分けて示します。
| 項目 | 一次資料で確認できた内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 成立した法律 | 2026会計年度国防授権法(Public Law 119-60、法案番号 S. 1071)。2025年12月18日成立。第851条「特定の生物技術提供者との契約の禁止」 | 事実 |
| 社名の記載 | 第851条に特定の会社名はない。2024年に下院を通過したH.R. 8333はWuXi AppTecを名指ししていたが、この法案は成立していない | 事実 |
| 何が禁止されるか | 連邦政府の機関が、懸念のある生物技術企業の機器・サービスを調達すること、それらを使う事業者と契約すること、補助金や融資の資金でそれらを使うこと | 事実 |
| 「懸念のある企業」の決め方 | (A) 国防総省の1260Hリストに載り、かつ生物技術の機器・サービスに関わるとOMBの手続きで判断された企業、(B) OMBの手続きで外国の敵対国の支配下などと判断された企業、(C) それらの子会社・親会社など | 事実 |
| 手続きの期限 | OMBは法の成立から1年以内に対象企業のリストを公表。その180日以内に指針、指針から1年以内に連邦調達規則(FAR)を改正 | 事実 |
| 禁止が始まる時期 | 1260Hリスト経由の企業については、FAR改正の60日後から(それ以外は90日後)。施行日より前に結ばれた契約に基づく機器・サービスには、FAR改正から5年間、一部の禁止を適用しない経過措置がある | 事実 |
| WuXi AppTecの1260H指定 | 2026年6月10日付の連邦官報で指定を告示。国防総省は根拠を「国有資産監督管理委員会(SASAC)に間接的に所有され、国防科技工業局(SASTIND)と人民解放軍に間接的に関係する」と記載。同社は「軍や政府に所有・支配されておらず、軍にサービスも提供していない」と反論して提訴し、8月7日に連邦地裁が仮差止めを命じたと開示 | 事実 |
| OMBのリスト | 2026年9月26日時点で、連邦官報にOMBの「懸念のある生物技術企業」リストは見当たらない(本稿の検索による)。期限は2026年12月18日 | 未確定/将来 |
| WuXi AppTecが対象になるか | OMBのリスト、仮差止めの効力が第851条の手続きに及ぶか、訴訟の最終的な結論は、いずれも確定していない | 未確定/将来 |
| 禁止の開始 | FARの改正が済んでいないため、2026年9月時点で調達禁止は始まっていない。開始時期は手続きの進み方しだい | 未確定/将来 |
次はいずれも一次資料で確認できませんでした 未確定/将来。
連邦地裁の仮差止めの具体的な範囲(裁判所の命令文そのもの。本稿は同社の開示で確認)/国防総省の控訴の有無/ OMBが作るリストにどの企業が載るか/TIDESのペプチドと核酸の売上の内訳と生産能力の稼働率/ 常州の新拠点の投資額と生産能力。 「BIOSECURE法でWuXi AppTecとの取引が○年から禁止される」といった断定的な説明は、2026年9月時点の法令と手続きの状況からは言えません。
8. この会社は創薬・DDSで何を目指しているか
ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 化学(低分子・ペプチド・核酸)の受託に経営資源を集める | 年次報告書が「中核のCRDMO戦略への集中」を掲げ、細胞・遺伝子治療と臨床試験の受託を売却した | 事実 |
| ペプチド・核酸を低分子に続く第2の柱にする | TIDESの売上が2025年に倍増し、固相合成の設備を100,000L超へ拡大。2026年も約+45%を見込む | 推測 |
| 研究の段階で顧客とつながり、育った分子を量産まで持ち上がる | 「分子を追う(follow the molecule)」戦略、研究から開発へ移った分子数(2025年310)、開発・製造のパイプライン3,731分子(2026年6月末) | 推測 |
| ADCは自社では持たず、関連会社を通じて関わる | ADCの受託会社WuXi XDCへの持分を30.33%から18.55%へ下げている | 推測 |
| 米国の規制には法的手段で対抗しつつ、事業は続ける | 1260H指定を提訴し仮差止めを取得。同じ期間に売上見通しと設備投資計画を引き上げた | 事実 |
| 製剤では溶けにくい薬と注射剤に広げる | 年次報告書が、経口製剤から無菌注射剤への拡大、噴霧乾燥・ホットメルト押出・脂質ナノ粒子の研究を挙げている | 事実 |
2026年6月に1260Hリストへ載せられた後も、同社は8月に売上見通しを513〜530億元から585〜605億元へ、設備投資を65〜75億元から75〜85億元へ引き上げました 事実。 2026年上期の売上の約77%は米国の顧客向けです 本稿の計算。 本稿はこれを、顧客が「規制の結論が出るまでは、すでに進んでいる分子の供給を止めない」判断をしていることの表れと読みます 未確定/将来。 第851条には、施行日より前に結ばれた契約について、FAR改正から5年間は一部の禁止を適用しない経過措置もあります 事実。 ただし、OMBのリストや訴訟の結論しだいで新規の受注の流れが変わる可能性は残っており、顧客側の判断を示す一次資料は本稿では確認できていません。
9. 創薬・DDS分野の提携マッピング
10. 提供している技術・製品・サービス
| 分野 | 内容 | 規模・実績 |
|---|---|---|
| ペプチド・核酸(TIDES) | オリゴヌクレオチド、ペプチド、それらの化学結合体の探索・CMC研究・製造を一貫して受託。薄膜蒸発、TFF/沈殿、連続フロー精製 | 固相ペプチド合成の反応槽が合計100,000L超 |
| 低分子の原薬 | フロー化学、酵素触媒、結晶化、粒子設計の工程研究。高薬理活性の薬の原薬から製剤まで | 反応槽の総容量4,000kL超。パイプライン3,731分子(うち商用95、第III相94) |
| 製剤 | 経口製剤から無菌注射剤へ拡大。溶けにくい薬の製剤化(噴霧乾燥、ホットメルト押出)、脂質ナノ粒子の研究 | 規模は開示なし |
| 探索合成 | 新規化合物の合成・納品 | 過去12か月で44万超(2026年6月末時点) |
| 試験・評価 | 安全性評価、薬物動態(DMPK)、生体試料分析。核酸とペプチドの代謝物同定を効率化するソフトを自社開発 | 蘇州・上海の施設が米FDA・PMDAなどの査察を通過 |
| 創薬支援 | 試験管内・動物での薬効評価、DNAコード化ライブラリー(DEL)による化合物探索 | 新規顧客の20%超をこの部門が獲得 |
同社の開示には、低分子の原薬の反応槽が4,000kL超(400万L超)、固相ペプチド合成の反応槽が100,000L超という2つの数字が並びます 事実。 数字だけを比べると低分子のほうが40倍大きく見えますが、両者は装置の種類が違うので単純には比べられません。 低分子の反応槽は液体どうしを混ぜて反応させる釜で、ペプチドの固相合成の反応槽は樹脂の粒を入れて、試薬と洗浄用の溶媒を何度も出し入れする容器です。 固相合成では、樹脂の膨潤のしかた、ろ過のしやすさ、洗浄の回数が1バッチあたりの時間と溶媒の使用量を決めます。 「100,000L」は同社がペプチドに本格的に設備を割いていることを示す数字ですが、生産できるペプチドの量(kg)とは直接対応しないことに注意してください。 同社はペプチドの年間生産量を開示していません 未確定/将来。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 米国の規制 | 1260H指定をめぐる訴訟の結論、OMBのリストへの掲載の有無、FAR改正後の調達禁止の範囲が、いずれも確定していない | 未確定/将来 |
| 米国の顧客への依存 | 2026年上期の売上の約77%が米国の顧客向け(222.8億元/288.98億元) | 本稿の計算 |
| 大口顧客への依存 | 2025年は最大の顧客1社で売上の37.92%、上位5社で48.11% | 事実 |
| 情報セキュリティ | 2026年8月、WuXi Biologyの化合物ライブラリー基盤で不正アクセス。同社は封じ込め済み、データの公開や悪用の証拠はないと説明 | 事実 |
| 為替 | 売上の大半が米ドル建てで、人民元高になると元建ての売上が減る、と会社自身が記載 | 事実 |
| 急拡大の反動 | 設備を前倒しで増やしている。大口顧客の需要や規制の結論が想定と異なれば、稼働率が下がる可能性 | 推測 |
12. 用語集
- CRDMO
- Contract Research, Development and Manufacturing Organization。研究・開発・製造をまとめて請け負う会社。
- TIDES
- オリゴヌクレオチド(核酸)とペプチドを扱うWuXi AppTecの事業の名称。
- 固相ペプチド合成
- 樹脂の粒にアミノ酸を1つずつ結合させてペプチドを組み立てる方法。反応のたびに溶媒で洗浄する。
- オリゴヌクレオチド
- 塩基が数十個つながった短い核酸。アンチセンスやsiRNAなどの核酸医薬の本体。
- 1260Hリスト
- 米国防総省が法律に基づき毎年公表する「米国で活動する中国軍事企業」のリスト。
- BIOSECURE法
- 懸念のある生物技術企業からの米政府調達を制限する法案の通称。本稿では、同じ仕組みで2025年12月に成立した国防授権法第851条をこの名前で呼ぶ。
- FAR
- Federal Acquisition Regulation。米連邦政府の調達のルールを定めた規則。
- 仮差止め
- 裁判の結論が出るまでの間、相手方の行為の実行を一時的に止める裁判所の命令。
AI生成による概念図13. 出典
- WuXi AppTec Co., Ltd. 2025 Annual Report(香港取引所提出、2026年4月1日)。事業の概要、部門別・地域別の売上、TIDESの売上と固相合成の設備、低分子の設備と査察、研究開発費、設備投資、従業員数、最大顧客の比率、H株の発行、WuXi XDCの持分、事業売却、政府補助金、製剤とTIDESの技術、会社の沿革と上場。 https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2026/0401/2026040101920.pdf
- WuXi AppTec Co., Ltd. Interim Report 2026(香港取引所提出、2026年9月4日)。2026年上期の部門別・地域別の売上、TIDESの売上と見通し、低分子のパイプライン、2026年の見通しと設備投資の引き上げ、従業員数、研究開発費、1260H指定と訴訟の経過、リスク要因。 https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2026/0904/2026090400640.pdf
- WuXi AppTec Co., Ltd. Voluntary Announcement(2026年6月9日)。国防総省の1260Hリストへの指定と、同社の反論。 https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2026/0609/2026060900095.pdf
- WuXi AppTec Co., Ltd. Voluntary Announcement — Litigation(2026年6月11日)。コロンビア特別区連邦地裁への提訴と請求の内容。 https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2026/0611/2026061101697.pdf
- WuXi AppTec Co., Ltd. Announcement for Preliminary Injunction(2026年8月9日)。仮差止めの申し立て(6月29日)、審理(7月22日)、仮差止めの決定(8月7日)。 https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2026/0809/2026080900009.pdf
- WuXi AppTec Co., Ltd. Voluntary Announcement(2026年8月24日)。WuXi BiologyのDEL基盤での不正アクセス。 https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2026/0824/2026082401999.pdf
- 米国防総省(連邦官報) Notice of Availability of Designation of Chinese Military Companies(FR Doc. 2026-11571、2026年6月10日)。1260Hリストへの追加(WuXi AppTecを含む)と指定の根拠、再審査の手続き。 https://www.federalregister.gov/documents/2026/06/10/2026-11571/notice-of-availability-of-designation-of-chinese-military-companies
- 米国議会(GovInfo) Public Law 119-60, National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2026(S. 1071、2025年12月18日成立)第851条。禁止の内容、懸念のある生物技術企業の定義、OMBのリスト・指針・FAR改正の期限、施行時期、経過措置。 https://www.govinfo.gov/content/pkg/PLAW-119publ60/html/PLAW-119publ60.htm
- 米国議会(GovInfo) Congressional Record, Senate, October 9, 2025(S7062)。ハガティ上院議員によるBIOSECURE法の修正案(Hagerty-Peters amendment)への賛成演説。 https://www.govinfo.gov/content/pkg/CREC-2025-10-09/html/CREC-2025-10-09-pt1-PgS7062-3.htm
- 米国議会(GovInfo) H.R. 8333, BIOSECURE Act(第118議会、下院可決版)。懸念のある生物技術企業としてWuXi AppTecなどを名指ししていた条文。 https://www.govinfo.gov/content/pkg/BILLS-118hr8333eh/html/BILLS-118hr8333eh.htm
- WuXi AppTec Co., Ltd. 公式サイト(ロゴ画像の取得元)。 https://www.wuxiapptec.com/
14. 主張と出典の対応表
| 本文の主張 | 区分 | 出典 |
|---|---|---|
| 正式名称、前身の設立(2000年12月)、本部と登記上の本店、上海・香港への上場(2018年) | 事実 | 出典1 https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2026/0401/2026040101920.pdf |
| 部門別の売上(2024〜2025年)、合計と継続事業の売上、純利益、研究開発費、設備投資、従業員33,834人 | 事実 | 出典1 https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2026/0401/2026040101920.pdf |
| TIDESの売上113.7億元(+96.0%)、顧客+25%・分子数+45%、固相ペプチド合成の反応槽100,000L超、泰興の完成(2025年9月) | 事実 | 出典1 https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2026/0401/2026040101920.pdf |
| 低分子原薬の反応槽4,000kL超、FDA査察、42万超の化合物、研究から開発へ310分子、低分子の開発・製造の売上199.2億元 | 事実 | 出典1 https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2026/0401/2026040101920.pdf |
| 地域別の売上(2025年、米国の顧客312.5億元)、最大顧客37.92%・上位5社48.11% | 事実 | 出典1 https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2026/0401/2026040101920.pdf |
| WuXi XDCの持分(30.33%→18.55%)、WuXi ATUと臨床試験受託の売却、H株の発行(約76.5億香港ドル)、政府補助金の繰延収益 | 事実 | 出典1 https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2026/0401/2026040101920.pdf |
| TIDESと製剤の技術(薄膜蒸発、TFF/沈殿、連続フロー精製、噴霧乾燥、ホットメルト押出、脂質ナノ粒子)、中核のCRDMOへの集中 | 事実 | 出典1 https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2026/0401/2026040101920.pdf |
| 2026年上期の売上・部門別売上・TIDES72.6億元(+44.3%)・パイプライン3,731分子・受注残664.3億元・従業員35,584人・研究開発費・設備投資 | 事実 | 出典2 https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2026/0904/2026090400640.pdf |
| 2026年の売上・設備投資・調整後FCFの見通しの引き上げ、TIDESの通期見通し約+45%、見通しの前提となるリスク | 事実 | 出典2 https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2026/0904/2026090400640.pdf |
| 2026年上期の米国の顧客からの売上222.8億元 | 事実 | 出典2 https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2026/0904/2026090400640.pdf |
| 米国の顧客の比率(2025年約72%、2026年上期約77%) | 本稿の計算 | 出典1・2の数値を本稿が割り算したもの |
| 1260Hリストへの指定と国防総省が示した根拠、同社の反論 | 事実 | 出典3・7 https://www.federalregister.gov/documents/2026/06/10/2026-11571/notice-of-availability-of-designation-of-chinese-military-companies |
| 連邦地裁への提訴(2026年6月11日)と請求の内容 | 事実 | 出典4 https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2026/0611/2026061101697.pdf |
| 仮差止めの申し立て・審理・決定(2026年8月7日) | 事実 | 出典5 https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2026/0809/2026080900009.pdf |
| DEL基盤での不正アクセスと同社の説明 | 事実 | 出典6 https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2026/0824/2026082401999.pdf |
| 国防授権法第851条の成立日、禁止の内容、懸念企業の定義(1260Hリストとの連動)、OMB・FARの期限、施行時期(60日後・90日後)、5年の経過措置、社名の記載がないこと | 事実 | 出典8 https://www.govinfo.gov/content/pkg/PLAW-119publ60/html/PLAW-119publ60.htm |
| 上院でのBIOSECURE法の修正案の説明(2025年10月9日) | 事実 | 出典9 https://www.govinfo.gov/content/pkg/CREC-2025-10-09/html/CREC-2025-10-09-pt1-PgS7062-3.htm |
| H.R. 8333がWuXi AppTecを名指ししていたこと | 事実 | 出典10 https://www.govinfo.gov/content/pkg/BILLS-118hr8333eh/html/BILLS-118hr8333eh.htm |
| 国防授権法第851条を「BIOSECURE法」として扱うこと | 本稿の計算 | 本稿による整理。出典9の修正案と出典8の条文が同じ用語・仕組みであることからの対応づけ |
| 創薬・DDSの3類型の区分(製薬/創薬バイオテック/受託開発製造) | 本稿の計算 | 本稿による整理。企業名は本シリーズで扱う企業から例示 |
| OMBのリストが2026年9月26日時点で連邦官報に見当たらないこと | 未確定/将来 | 本稿による連邦官報の検索結果。官報以外での公表の有無は確認できていない |
| WuXi AppTecが第851条の対象になるか、仮差止めの効力の範囲、訴訟の結論、調達禁止の開始時期 | 未確定/将来 | 出典2・5・8の時点では確定していない。本稿では見通しを断定しない https://www.govinfo.gov/content/pkg/PLAW-119publ60/html/PLAW-119publ60.htm |
| 最大顧客の社名と供給品目、TIDESのペプチドと核酸の内訳、ペプチドの年間生産量、常州の新拠点の投資額と能力 | 未確定/将来 | 出典1・2に記載なし。本稿では推定しない https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2026/0904/2026090400640.pdf |
| ペプチド・核酸の技術導入、大学との共同研究 | 未確定/将来 | 出典1・2に記載なし。本稿では存在しないとも断定しない https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2026/0401/2026040101920.pdf |
| ペプチド・核酸を第2の柱にする、育った分子を量産まで持ち上がる、ADCには関連会社を通じて関わるという読み | 推測 | TIDESの成長・戦略の記述・WuXi XDCの持分の変化からの本稿の解釈 |
| 顧客が規制の結論まで供給を止めない判断をしているという読み | 推測 | 見通しの引き上げと経過措置からの本稿の解釈。顧客側の一次資料は確認できていない |
| 固相合成と反応槽容量の意味に関する説明、急拡大の反動リスク | 推測 | 一般的な技術解説と設備計画からの本稿の解釈 |
最終更新:2026年9月26日/Troy Technical
本稿の数値はすべてWuXi AppTec Co., Ltd.が香港取引所に提出した年次報告書・中間報告書・開示文書、米国の連邦官報、法令と議会の公式記録(GovInfo)に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社や米国政府の公表内容ではありません。法令の説明は2026年9月26日時点の条文と公表資料に基づくもので、法的助言ではありません。本稿は企業の事業内容を説明するもので、特定の医薬品の使用や効果を勧めるものではありません。