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Eli Lilly|創薬・DDS 企業解説

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COMPANY PROFILE / 創薬・DDS

イーライリリー
― ペプチド注射から「飲むGLP-1」、そして核酸・遺伝子編集へ。製造まで自前で広げる製薬企業

イーライリリー(Eli Lilly and Company)は、2025年の売上高651億ドルのうち56%をMounjaroとZepbound(いずれも有効成分はチルゼパチド)が占めた製薬企業です。 注射で使うペプチド医薬で急成長したうえで、2026年4月にはペプチドではない低分子の経口GLP-1受容体作動薬(Foundayo、一般名オルフォルグリプロン)が米国で承認されました。 さらにsiRNA(核酸医薬)、遺伝子編集、体内でCAR-T細胞をつくる技術(in vivo CAR-T)を買収や自社開発で取り込み、 米国内に10か所の製造拠点を発表しています。 本稿では会社全体の規模は簡潔にとどめ、どのモダリティに何を投じ、誰と組み、何を目指しているかに絞ります。

構成:イーライリリーが米国SECに提出した2025年12月期 Form 10-K(2026年2月12日提出)と2026年6月期 Form 10-Q(2026年8月5日提出)、同社の公式リリース、ClinicalTrials.govを一次情報として使用/最終更新 2026年9月

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるイーライリリーと、創薬・DDSでの立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. 創薬・DDSの世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模(簡潔に)
  5. 創薬・DDSにかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社は創薬・DDSで何を目指しているか
  9. 創薬・DDS分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるイーライリリーと、創薬・DDSでの立ち位置

正式名称Eli Lilly and Company1876年創業、1901年インディアナ州で法人化
本社米国インディアナ州
インディアナポリス
Lilly Corporate Center
上場NYSE: LLY米国企業。年次報告はForm 10-K
この分野での区分製薬企業探索から製造・販売まで自社で担う
中心のモダリティペプチド(GLP-1系)
と低分子
核酸・遺伝子編集・ADCへ拡大中
2025年の売上高US$65,179百万うちMounjaro・Zepboundで56%
2025年の研究開発費US$13,337百万ほかに買収した開発品の費用 US$2,910百万
米国の製造拠点2020年以降に
10か所を発表
原薬5・注射剤とデバイス4・遺伝子医薬1
まず押さえるべき1点

イーライリリーは製薬企業ですが、創薬・DDSの観点で注目すべきは同じ標的(GLP-1受容体)に対して、注射のペプチドと飲む低分子の両方を持った点です 事実。 2026年9月のリリースで同社は、Foundayoについて「ペプチドではなく低分子であり、低分子はより確立した技術で製造できるため規模を拡大しやすい」と説明しています。 つまりこの会社の戦略は、薬の効き方だけでなく「どうやって大量につくるか」という製造の選択と一体になっています。 その延長で、テキサス州ヒューストンに65億ドルの原薬工場を建て、オルフォルグリプロンに加えてオリゴヌクレオチド(核酸医薬)もつくると発表しました。

2. ロゴと社名の表記について

イーライリリーのロゴは同社の商標です。本稿では生成画像による再現を行わず、 同社の公式投資家向けサイトに掲載されているロゴ(SVG)を img/eli_lilly_logo.svg として設置しています。

表記の注意:法人名は Eli Lilly and Company、自社の製品・リリースでは「Lilly」と略します。 日本では子会社の日本イーライリリー株式会社が事業を行っていますが、本稿は米国本社の開示に基づきます。 製品名(Mounjaro、Zepbound、Foundayo)と一般名(チルゼパチド、オルフォルグリプロン)を区別して表記します。 なお、同じ有効成分チルゼパチドが、糖尿病ではMounjaro、米国などの肥満症ではZepboundという別の製品名で販売されています。

公式サイト:https://www.lilly.com/

3. 創薬・DDSの世界で、この会社はどこにいるか

創薬・DDSに関わる企業の3つの類型 同じ「薬の会社」でも、薬づくりのどこを担うかがまったく違う 製薬企業 創薬バイオテック 受託開発製造・研究 探索から承認・販売まで自社で担う 新しいモダリティや手法で候補を作る 他社の薬の開発・製造を請け負う Eli Lilly/Novo Nordisk 第一三共/Pfizer ほか Alnylam/Arvinas Moderna/Insilico ほか Lonza/Samsung Biologics WuXi AppTec ほか 後期臨床と販売網の資金力 特定の技術基盤の深さ 設備と規制対応の量産力 特許切れで売上が急減しうる 後期開発の資金を提携に頼る 顧客の開発中止・政策の影響 イーライリリーは左端の製薬企業。ペプチドと低分子を軸に、核酸・遺伝子編集を買収で加えた 原薬・注射剤・デバイス・遺伝子医薬の工場を自社で建て、製造能力そのものを競争力にしようとしている
図1 創薬・DDSに関わる企業の3類型と、イーライリリーの位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。探索から製造・販売までを自社で行うことは10-Kの事業説明に、製造拠点の構成は2026年9月21日の同社リリースに基づきます。

モダリティ(薬の種類)で見ると、イーライリリーの現在の売上の中心はペプチド医薬(チルゼパチド)で、 そこに低分子(オルフォルグリプロン、がん領域の低分子薬)と抗体医薬(ドナネマブ、ミリキズマブなど)が並びます 事実。 開発段階では、siRNA(レポディシラン、フェーズ3)、抗体薬物複合体(ADC)(ソフェタバート・ミピテカン、フェーズ3)、 遺伝子治療(Ixo-vec、フェーズ3)、遺伝子編集(Verve買収で取得したVERVE-102)、 in vivo CAR-T(Kelonia・Orna由来)と、モダリティの幅が急速に広がっています。 それぞれの技術の仕組みは、本シリーズの技術解説「ペプチド医薬とGLP-1」「核酸医薬」「抗体医薬とADC」「CAR-T細胞」で扱っています。

4. 会社の規模(簡潔に)

会社全体の規模だけを押さえます。金額はすべて米ドル(百万ドル)で、会計年度は暦年です 事実。

指標2024年12月期2025年12月期2026年1〜6月
売上高(US$百万)45,04365,17942,773
うちMounjaro(US$百万)11,54022,96518,605
うちZepbound(US$百万)4,92613,5429,088
研究開発費(US$百万)10,99113,3377,329
買収した開発品の費用(acquired IPR&D、US$百万)3,2802,910約3,400
設備投資(有形固定資産の取得、US$百万)5,0587,8415,259
従業員(年末)―約50,000人―
ここで注意

MounjaroとZepboundは2025年の売上高の56%、2026年1〜6月では65%を占めると会社自身が開示しています 事実。 研究開発費は売上高の約20.5%、設備投資は約12.0%にあたります(2025年、本稿の計算)本稿の計算。 一方で会社は、研究開発費をプロジェクト別・前臨床と臨床別・疾患領域別には開示できないと10-Kに明記しています。 したがって「核酸医薬にいくら」「遺伝子編集にいくら」といったモダリティ別の投資額は公表されていません 未確定/将来。

5. 創薬・DDSにかけているリソース

手順として見るべき4点(人・金・外部からの取り込み・大学や公的機関との連携)を、10-K・10-Q・公式リリースで確認できたかどうかで整理します。

リソースの種類内容区分
人(研究)2025年末に研究開発に従事する人員は約12,000人(全従業員約50,000人のうち)。研究施設は主に米国で、インディアナ州の自社施設と、カリフォルニア・マサチューセッツ・コロラド・ニューヨーク各州の賃借拠点事実
人(製造)ヒューストン新工場で600人超の雇用を見込む。地元のサンジャシント・カレッジに人材育成支援として1,250万ドルを拠出事実
金(研究開発)研究開発費 US$13,337百万(2025年)。モダリティ別の内訳は非開示事実
金(製造設備)設備投資 US$7.8十億(2025年)。「近い将来、設備投資は大幅に増える」と10-Kに記載。米国での生産回帰に総額500億ドルを投じると公式リリースで説明事実
金(外部製造の契約)開発品向けの製造受託・資材供給契約で、所定量を購入しない場合に最大約100億ドルを支払う可能性(契約期間は最長8年程度)事実
外部からの導入・買収中外製薬からオルフォルグリプロンを導入(2018年)。Verve(遺伝子編集)、POINT(放射性医薬品)、Kelonia・Orna(in vivo CAR-T)、Emergence(ADC)などを買収・資産取得事実
ベンチャー投資ベンチャーキャピタル・ファンドへの未払込の出資約束が約9億200万ドル(2025年末)。投資先の内訳は非開示事実
AI・計算資源NVIDIAと組み、1,000基超のB300 GPUを持つ自社保有のスーパーコンピューターを構築。自社データで学習したAIモデルを外部のバイオ企業に提供する「Lilly TuneLab」を開始事実
大学・研究機関との連携10-Kは「大学などの学術機関と協力している」と一般的に記載するのみで、個別の共同研究先・金額は記載なし確認できず
公的資金創薬・DDSに関する政府の研究助成・補助金の受領は、確認した一次資料に記載なし確認できず

6. これまでの取り組み

時期できごと創薬・DDSでの意味
2018年中外製薬が発見したオルフォルグリプロンの全世界での開発・販売権を導入低分子の経口GLP-1受容体作動薬を外部から獲得
2023年8月Emergence Therapeutics(Nectin-4を標的とするADC、前臨床)、Versanis(抗体)などを資産取得ADCの品揃えを外から補強
2023年11月8日FDAがZepbound(チルゼパチド)注射剤を肥満症の慢性体重管理で承認(米国・新規承認)GIPとGLP-1の2つの受容体に作用するペプチド医薬が肥満症に拡大
2023年12月POINT Biopharmaを買収(約10億ドル)放射性医薬品の探索・開発・製造能力を取得
2024年5月ウィスコンシン州の製造拠点を9億2,500万ドルで取得注射剤の製造網を拡大
2025年3月30日siRNAレポディシランのフェーズ2(ALPACA)結果を公表核酸医薬をフェーズ3(ACCLAIM-Lp(a))へ
2025年7月25日Verve Therapeuticsの買収を完了(純額5億4,900万ドル+条件付き対価)心血管疾患向けの遺伝子編集(VERVE-102、PCSK9を標的)を取得
2025年9月9日AI創薬プラットフォームLilly TuneLabを公開10億ドル超をかけて得た薬物動態・安全性データで学習したモデルを外部に提供
2025年10月28日NVIDIAと製薬会社所有として最大級のスーパーコンピューターを構築すると発表分子の探索・最適化・検証と、製造のデジタルツインに利用
2026年2月23日FDAがZepboundの4回分入りKwikPenを承認(ラベル拡大)1本で1か月分を投与できる注射デバイス
2026年4月1日FDAがFoundayo(オルフォルグリプロン)を肥満症で承認(米国・新規承認)ペプチドではない低分子の経口GLP-1受容体作動薬
2026年3〜6月Ventyx(経口の炎症治療薬)、Orna(ORN-252、in vivo CAR-T)、Ajax(経口JAK2阻害薬)、Centessa、Kelonia(KLN-1010、in vivo CAR-T)を買収・資産取得体内でCAR-T細胞をつくる新しいモダリティに2社で参入
2026年9月21日テキサス州ヒューストンで65億ドルの原薬工場に着工オルフォルグリプロンなどの低分子と、オリゴヌクレオチドを製造する計画

主要な臨床試験(承認の根拠と進行中の試験)

試験名(NCT番号)フェーズ・対象主要評価項目公表された結果(比較対照・時点)
ATTAIN-1(NCT05869903)フェーズ3。糖尿病のない肥満症、または合併症のある過体重の成人3,127人72週時点の体重のベースラインからの変化率最高用量で治療を続けた人は平均12.4%減(プラセボ0.9%減)。治療継続の有無を問わない解析では11.1%減(プラセボ2.1%減)。いずれも72週
SURMOUNT-1フェーズ3。糖尿病のない肥満症などの成人2,539人体重の変化チルゼパチド15mgで72週時点に平均20.9%減(プラセボ3.1%減)
ALPACAフェーズ2。Lp(a)が高い成人320人Lp(a)の変化レポディシラン400mgで、投与後60〜180日の平均がベースラインから93.9%低下。プラセボ対照
ACCLAIM-Lp(a)(NCT06292013)フェーズ3。Lp(a)が高い成人(推定17,300人)。2024年3月開始心血管死・心筋梗塞・脳梗塞・緊急冠血行再建の複合(MACE-4)の初回発生までの時間進行中(募集は終了)。完了予定2029年3月 未確定/将来

試験結果は会社の公式発表とClinicalTrials.govの登録内容に基づきます。本稿は特定の薬を勧めるものではなく、他社の薬との優劣も論じません。治療については医師にご相談ください。

7. 今後の計画

オルフォルグリプロン2027年に
全世界展開を目標
40か国超で審査中(2026年9月時点)
オルフォルグリプロン(2型糖尿病)米・EU・日本で申請承認時期は未確定
レタトルチドフェーズ3で
主要評価項目を達成
肥満症・2型糖尿病。申請時期は非開示
ヒューストン原薬工場65億ドル・600人超稼働時期はリリースに記載なし

10-Qは、2026年に入ってからの主な開発の進展として、オルフォルグリプロンの承認と2型糖尿病での申請、 レタトルチドのフェーズ3で肥満症と2型糖尿病の主要評価項目を達成したこと、 エロラリンチド(肥満症など)とブレニパチド(大うつ病)のフェーズ3開始、 ADCソフェタバート・ミピテカンのプラチナ感受性卵巣がんでのフェーズ3開始を挙げています 事実。 いずれも承認の見込みは 未確定/将来 です。

確認できなかったこと

次はいずれも確認した一次資料に記載がありません 未確定/将来。

モダリティ別(ペプチド・低分子・核酸・遺伝子編集・in vivo CAR-T)の研究開発費/ ヒューストン工場の稼働開始時期と生産能力/オリゴヌクレオチドの製造品目/ レタトルチドの申請時期/VERVE-102やKLN-1010の次の臨床段階と時期。 報道や調査会社による売上予測・市場規模は、本稿では採用しません。

8. この会社は創薬・DDSで何を目指しているか

ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
GLP-1系の需要を、注射のペプチドだけでなく、つくりやすい低分子でも取りにいくHouston着工リリースの「低分子はより確立した技術で製造でき、規模を拡大しやすい」という説明と、2027年の全世界展開目標推測
次の柱として「1回の治療で長く効く」モダリティ(siRNA・遺伝子編集)を心血管領域で育てるVerve買収時の「一度の治療で生涯のリスク低減を」という発言、年2回程度の投与間隔を試したレポディシランのフェーズ2設計推測
細胞治療は、体外で細胞を培養する方式ではなく体内でCAR-T細胞をつくる方式から入る2026年に買収・資産取得したKelonia・Ornaがいずれもin vivo CAR-Tで、体外培養型のCAR-T企業の買収は確認した資料にない推測
製造能力を内製し、モダリティごとに専用の工場を持つ米国10拠点を「原薬5・注射剤とデバイス4・遺伝子医薬1」に分けて公表事実
AIを自社の探索に使うだけでなく、外部のバイオ企業との関係づくりにも使うTuneLabで、利用する企業が学習データを提供する見返りにモデルを使える仕組みを採用推測
推測の根拠を1つだけ詳しく

ヒューストン工場の説明で、会社は「オルフォルグリプロン」と並べてオリゴヌクレオチドを挙げ、 米国10拠点のうち1か所(Lebanon Advanced Therapies)を遺伝子医薬専用としています 事実。 一方、10-Kのパイプライン表でフェーズ3にある核酸医薬はレポディシラン(siRNA)で、その大規模なアウトカム試験(ACCLAIM-Lp(a))の完了予定は2029年3月です。 承認前の段階で核酸の原薬製造能力を先に用意していることになり、 核酸医薬を一品目ではなく今後のモダリティの柱の一つとして位置づけていると本稿は読みます 未確定/将来。

9. 創薬・DDS分野の提携マッピング

イーライリリーを中心とした創薬・DDSの提携と買収 10-K・10-Q・公式リリースに記載のある関係のみ。報道ベースの関係は含まない 導入・共同開発 買収・資産取得 AI・人材などの協力 Lilly 製薬企業 中外製薬 orforglipronを導入(2018年) Boehringer Ingelheim Jardianceなどを共同で開発・販売 NVIDIA AIスーパーコンピューター構築 Verve Therapeutics 遺伝子編集(2025年7月買収) Kelonia・Orna in vivo CAR-T(2026年) POINT・Emergence 放射性医薬品・ADC(2023年) サンジャシント・カレッジ 化学合成の製造人材育成
図2 イーライリリーを中心とした創薬・DDSの提携と買収。出典:2025年12月期 Form 10-K、2026年6月期 Form 10-Q、公式リリース。図に含めたのは一次資料に記載がある関係だけです。製造受託先(CDMO)については10-Kに「第三者を利用している」との記載はあるものの社名の開示がないため、図に含めていません。

10. 提供している技術・製品・サービス

モダリティ・技術代表的な品目・取り組み段階
ペプチド医薬(注射)チルゼパチド(Mounjaro・Zepbound)。GIPとGLP-1の2つの受容体に作用。レタトルチド、エロラリンチドなども開発中承認済み/フェーズ3
低分子(経口GLP-1)オルフォルグリプロン(Foundayo)。1日1回、食事や水の制限なく服用する低分子(非ペプチド)米国で承認(2026年4月1日)
核酸医薬(siRNA)レポディシラン。Lp(a)の構成成分apo(a)の産生を抑えるフェーズ3
遺伝子編集VERVE-102(PCSK9を標的とする編集薬)。Verve買収で取得開発中(段階は本稿で未確認)
in vivo CAR-TKLN-1010(Kelonia)、ORN-252(Orna、CD19を標的、自己免疫疾患)取得時点でフェーズ1(ORN-252)
抗体薬物複合体(ADC)ソフェタバート・ミピテカン(葉酸受容体αを標的)。FDAの画期的治療薬指定フェーズ3
遺伝子治療Ixo-vec(滲出型加齢黄斑変性)。Adverum Biotechnologiesの買収で取得フェーズ3
注射デバイスKwikPen(Zepbound用は4回分・1か月分)、単回用バイアル。10-Kはデバイス製造を自社の製造工程の一部として記載販売中
AI創薬サービスLilly TuneLab。薬物動態・安全性・前臨床の自社データで学習したモデルを、連合学習で外部に提供2025年9月公開
素材技術者の視点:ペプチドから低分子へ、そして核酸へ――製造で効く材料が入れ替わる

同じGLP-1受容体を狙う薬でも、ペプチドの注射剤と低分子の錠剤では、製造で重要になる材料と工程がまったく違います。 会社は「低分子はより確立した技術で製造でき、規模を拡大しやすい」と述べ、ヒューストン工場を化学合成による原薬製造と位置づけ、 人材育成の対象も「高度な化学合成製造」としています 事実。 注射剤側では、Zepboundに1本で4回分を投与できるKwikPenが加わり、10-Kはデバイスの製造・組立を自社と第三者の両方で行うと書いています。 ペン型注射器は、薬液に触れるカートリッジやゴム栓の材料が、たんぱく質・ペプチドの吸着や溶出物の管理に直結する部品です(解説)。

さらに同じヒューストン工場でオリゴヌクレオチドも製造すると発表しています。 核酸医薬は一般に、固相担体の上で1塩基ずつ化学合成し、化学修飾と精製を重ねてつくられます(本シリーズの技術解説「核酸医薬」で扱う内容で、同社の具体的な工程は非開示)。 化学合成の設備と人材を、低分子と核酸で共用しようとしている点が、材料・プロセスの側から見たこの工場の特徴です 未確定/将来。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
売上の集中MounjaroとZepboundで2026年1〜6月の売上高の65%。インクレチン薬の数量の変動が業績に「不釣り合いに大きな影響」を与えうると会社自身が記載事実
価格と保険償還米国政府との薬価合意(メディケア向け割引など)、インフレ抑制法による政府の価格設定(Jardiance、2028年からTrulicity・Verzenio)事実
過剰な設備投資需要を読み違えれば工場が不要になりうる、製造契約で最大約100億ドルの支払い義務が生じうると10-Kに記載事実
新しいモダリティの開発期間「新しいモダリティは開発がより難しく、長くかかることがある」と10-Kに記載。遺伝子編集・in vivo CAR-Tはいずれも初期段階事実
買収した開発品の失敗2026年1〜6月だけで約34億ドルの買収開発品費用を計上。取得した候補が製品になる保証はないと会社が明記事実
調剤薬・偽造品インクレチン薬の偽造品・大量調剤品の流通が安全性と売上を損なうおそれ事実
供給網の中国依存業界全体として一部を中国の供給業者に依存。BIOSECURE法などの規制動向の影響事実
低分子化で製造の優位が薄れる低分子は製造しやすい反面、他社も参入しやすい。ペプチド製造の規模がもつ参入障壁が効きにくくなる可能性推測

12. 用語集

モダリティ
薬の種類・形式のこと。低分子、抗体、ペプチド、核酸、細胞、遺伝子治療などに分かれる。
GLP-1受容体作動薬
インスリン分泌や食欲に関わるホルモンGLP-1の受容体を刺激する薬。糖尿病・肥満症に使われる。
GIP
GLP-1と同じく食後に腸から出るホルモン。チルゼパチドはGIPとGLP-1の両方の受容体に作用する。
ペプチド医薬
アミノ酸が数個〜数十個つながった分子の薬。胃で分解されやすく、多くは注射で投与する。
低分子医薬
分子量の小さい化学合成の薬。錠剤にしやすく、製造方法も確立している。
siRNA
短い二本鎖RNAで、特定のたんぱく質の設計図(mRNA)を分解させ、その産生を抑える核酸医薬。
オリゴヌクレオチド
核酸(塩基)が数十個程度つながった短い鎖。siRNAやアンチセンスなど核酸医薬の本体。
in vivo CAR-T
患者の体内で直接T細胞にCAR(がん細胞などを見分ける受容体)をもたせる方式。体外で細胞を培養しない。
ADC
抗体薬物複合体。抗体に薬物をリンカーでつなぎ、標的の細胞に薬物を届ける。
原薬(API)
薬の有効成分そのもの。製剤(錠剤・注射剤)に加工する前の段階。
acquired IPR&D
買収・導入した開発中の薬の対価のうち、費用として計上される部分。
Form 10-K/10-Q
米国上場企業がSECに提出する年次報告書と四半期報告書。法的責任を伴う。
概念図:注射のペプチド・飲む低分子・核酸と遺伝子編集へ、モダリティと工場を広げる製薬企業AI生成による概念図
図3 イーライリリーの創薬・DDSへの取り組み方の概念図(AI生成による概念図。実際の設備や製品を写したものではありません)。

13. 出典

  1. Eli Lilly and Company Form 10-K for the fiscal year ended December 31, 2025(米国SEC提出、2026年2月12日)。事業概要・製品一覧・研究開発体制と人員・製造拠点・パイプライン表・製品別売上・研究開発費・設備投資・製造契約の支払い義務・ベンチャー投資・提携(中外製薬、Boehringer Ingelheim)・買収(Verve、POINT、ウィスコンシン工場、資産取得)・リスク。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000013/lly-20251231.htm
  2. Eli Lilly and Company Form 10-Q for the quarterly period ended June 30, 2026(米国SEC提出、2026年8月5日)。2026年1〜6月の売上高・製品別売上・研究開発費・設備投資、Kelonia・Centessa・Ventyxの買収、Orna・Ajaxの資産取得、パイプラインの進展。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000081/lly-20260630.htm
  3. Eli Lilly and Company FDA approves Lilly's Foundayo (orforglipron)…(2026年4月1日)。FDA承認、ATTAIN-1の結果、低分子(非ペプチド)であること、中外製薬からの導入。 https://investor.lilly.com/news-releases/news-release-details/fda-approves-lillys-foundayotm-orforglipron-only-glp-1-pill
  4. Eli Lilly and Company Lilly breaks ground in Houston, one of ten U.S. manufacturing sites announced since 2020(2026年9月21日)。65億ドルの原薬工場、オリゴヌクレオチドの製造、米国10拠点の内訳、500億ドルの国内生産投資、サンジャシント・カレッジとの人材育成、2027年の全世界展開目標。 https://investor.lilly.com/news-releases/news-release-details/lilly-breaks-ground-houston-one-ten-us-manufacturing-sites
  5. Eli Lilly and Company Lilly completes acquisition of Verve Therapeutics…(2025年7月25日)。Verve買収の完了と遺伝子編集事業の位置づけ。 https://investor.lilly.com/news-releases/news-release-details/lilly-completes-acquisition-verve-therapeutics-advance-one-time
  6. Eli Lilly and Company Lilly launches TuneLab platform…(2025年9月9日)。AI創薬プラットフォームの内容と連合学習の仕組み。 https://investor.lilly.com/news-releases/news-release-details/lilly-launches-tunelab-platform-give-biotechnology-companies
  7. Eli Lilly and Company Lilly partners with NVIDIA to build the industry's most powerful AI supercomputer…(2025年10月28日)。B300 GPU 1,000基超のスーパーコンピューター、探索と製造への利用。 https://investor.lilly.com/news-releases/news-release-details/lilly-partners-nvidia-build-industrys-most-powerful-ai
  8. Eli Lilly and Company Lilly's lepodisiran reduced levels of … lipoprotein(a)…(2025年3月30日)。siRNAであること、フェーズ2 ALPACAの設計と結果。 https://investor.lilly.com/news-releases/news-release-details/lillys-lepodisiran-reduced-levels-genetically-inherited-heart
  9. Eli Lilly and Company FDA Approves Lilly's Zepbound (tirzepatide) for Chronic Weight Management…(2023年11月8日)。FDA承認とGIP・GLP-1への作用。 https://investor.lilly.com/news-releases/news-release-details/fda-approves-lillys-zepboundtm-tirzepatide-chronic-weight
  10. Eli Lilly and Company Zepbound (tirzepatide) … now available in multi-dose KwikPen(2026年2月23日)。4回分入りKwikPenのラベル拡大、SURMOUNT-1の結果。 https://investor.lilly.com/news-releases/news-release-details/zepbound-tirzepatide-most-prescribed-weight-management
  11. ClinicalTrials.gov NCT06292013(ACCLAIM-Lp(a))。フェーズ3の対象・推定登録数・主要評価項目・完了予定。 https://clinicaltrials.gov/study/NCT06292013
  12. ClinicalTrials.gov NCT05869903(ATTAIN-1)。フェーズ3の対象・登録数・主要評価項目。 https://clinicaltrials.gov/study/NCT05869903
  13. Eli Lilly and Company 公式サイト(会社概要とロゴの確認用)。 https://www.lilly.com/

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
正式名称、創業・法人化の年、本社所在地、上場市場事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000013/lly-20251231.htm
2024〜2025年の売上高・製品別売上・研究開発費・acquired IPR&D・設備投資、従業員約50,000人と研究開発人員約12,000人事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000013/lly-20251231.htm
MounjaroとZepboundが2025年売上高の56%事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000013/lly-20251231.htm
2026年1〜6月の売上高・製品別売上・研究開発費・設備投資、MounjaroとZepboundが65%事実出典2 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000081/lly-20260630.htm
研究開発費が売上高の約20.5%、設備投資が約12.0%(2025年)本稿の計算本稿の計算(出典1の数値から算出) https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000013/lly-20251231.htm
研究開発費をプロジェクト別などに開示できないとの記載事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000013/lly-20251231.htm
研究拠点の所在地、製造拠点の新設先、デバイス製造を自社と第三者で行うこと事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000013/lly-20251231.htm
製造契約で最大約100億ドルの支払い義務、ベンチャー・ファンドへの未払込約束約9億200万ドル事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000013/lly-20251231.htm
中外製薬からのオルフォルグリプロン導入、Boehringer IngelheimとのJardiance提携事実出典1・3 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000013/lly-20251231.htm
Verve・POINT・ウィスコンシン工場の買収、Emergence・Versanisなどの資産取得事実出典1・5 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000013/lly-20251231.htm
Kelonia・Centessa・Ventyxの買収、Orna・Ajaxの資産取得と各候補の内容事実出典2 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000081/lly-20260630.htm
パイプライン(レポディシラン、ソフェタバート・ミピテカン、Ixo-vec、レタトルチドなど)の段階事実出典1・2 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000081/lly-20260630.htm
Foundayoの米国承認(2026年4月1日)、低分子であること、ATTAIN-1の結果事実出典3・12 https://investor.lilly.com/news-releases/news-release-details/fda-approves-lillys-foundayotm-orforglipron-only-glp-1-pill
ヒューストン工場(65億ドル・600人超・オリゴヌクレオチド)、米国10拠点の内訳、500億ドル、人材育成1,250万ドル、2027年の全世界展開目標事実出典4 https://investor.lilly.com/news-releases/news-release-details/lilly-breaks-ground-houston-one-ten-us-manufacturing-sites
TuneLabの内容(10億ドル超のデータ、連合学習)事実出典6 https://investor.lilly.com/news-releases/news-release-details/lilly-launches-tunelab-platform-give-biotechnology-companies
NVIDIAとのスーパーコンピューター構築事実出典7 https://investor.lilly.com/news-releases/news-release-details/lilly-partners-nvidia-build-industrys-most-powerful-ai
レポディシランがsiRNAであること、ALPACAの設計と結果事実出典8 https://investor.lilly.com/news-releases/news-release-details/lillys-lepodisiran-reduced-levels-genetically-inherited-heart
ACCLAIM-Lp(a)の対象・推定登録数・主要評価項目・完了予定事実出典11 https://clinicaltrials.gov/study/NCT06292013
Zepboundの米国承認(2023年11月8日)とGIP・GLP-1への作用事実出典9 https://investor.lilly.com/news-releases/news-release-details/fda-approves-lillys-zepboundtm-tirzepatide-chronic-weight
4回分入りKwikPenの承認、SURMOUNT-1の結果事実出典10 https://investor.lilly.com/news-releases/news-release-details/zepbound-tirzepatide-most-prescribed-weight-management
創薬・DDSの3類型の区分(製薬企業/創薬バイオテック/受託開発製造・研究)本稿の計算本稿による整理。企業名は本シリーズの企業から例示
モダリティ別の研究開発費、ヒューストン工場の稼働時期と生産能力、レタトルチドの申請時期未確定/将来いずれも確認した一次資料に記載なし。本稿では推計しない https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000081/lly-20260630.htm
大学との個別の共同研究、公的資金の受領未確定/将来出典1に個別の記載なし。本稿では存在しないとも断定しない https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000013/lly-20251231.htm
ペン型注射器の部材が吸着・溶出物の管理に関わるという説明、核酸の固相合成の一般的な説明未確定/将来一般的な技術の解説であり、同社の工程の開示ではない
注射のペプチドに加え、製造しやすい低分子でも需要を取りにいくという読み推測出典4の製造に関する説明からの本稿の解釈
「1回の治療で長く効く」モダリティを心血管領域で育てるという読み推測出典5・8の記述からの本稿の解釈
細胞治療は体内でCAR-T細胞をつくる方式から入るという読み推測出典2の買収内容からの本稿の解釈
AIを外部のバイオ企業との関係づくりにも使うという読み推測出典6の仕組みからの本稿の解釈
核酸医薬を今後の柱の一つと位置づけているという読み、化学合成設備を低分子と核酸で共用するという読み推測出典4の工場計画と出典11の試験日程からの本稿の解釈
低分子化で製造の優位が薄れるリスク推測出典4の説明からの本稿の解釈

最終更新:2026年9月26日/Troy Technical
本稿の数値はすべてイーライリリーが米国証券取引委員会(SEC)に提出した法定開示書類、同社の公式リリース、ClinicalTrials.govの登録情報に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。本稿は医療上の助言ではなく、特定の薬の使用を勧めるものでもありません。