COMPANY PROFILE / 創薬・DDS
アストラゼネカ
― ADC・放射性医薬品・細胞治療・核酸を、提携と買収で1社にそろえた多モダリティ製薬企業
アストラゼネカは、創薬・DDSの主要なモダリティをほぼすべて自社のパイプラインに持っている数少ない製薬企業です。 抗体薬物複合体(ADC)は第一三共との提携と自社品、放射性医薬品は2024年のFusion買収、細胞治療はGracellとEsoBiotecの買収、核酸医薬はIonisとの提携で手に入れました。 2025年12月期の総売上高は587億3,900万ドル、研究開発費は142億3,200万ドルです。 本稿では会社全体は簡潔にとどめ、どのモダリティを誰から得て、どこに製造投資をしているかに絞ります。
- 30秒でわかるアストラゼネカと、創薬・DDSでの立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- 創薬・DDSの世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模(会社全体は簡潔に)
- 創薬・DDSにかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社は創薬・DDSで何を目指しているか
- 創薬・DDS分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるアストラゼネカと、創薬・DDSでの立ち位置
(多モダリティ)低分子・抗体から細胞治療・核酸まで
ダトロウェイ第一三共と共同開発・共同販売
創薬・DDSに関わる企業は、大きく製薬企業・創薬バイオテック・受託開発製造(CDMO/CRO)の3種類に分かれます。 アストラゼネカはこのうち製薬企業ですが、特徴は新しいモダリティを「作る」より先に「取りに行く」速さです 事実。 2025年12月期の20-Fに載る開発品一覧には、トポイソメラーゼI阻害剤を載せたADC(TOP1i ADC)、アクチニウムを使う放射性医薬品(ラジオコンジュゲート)、CAR-T・TCR-Tの細胞治療、T細胞エンゲージャー、siRNA、リガンド結合型アンチセンス、AAV遺伝子治療が並んでいます。 その多くは、第一三共(ADC)、Fusion(放射性医薬品)、Gracell・EsoBiotec(細胞治療)、Ionis(アンチセンス)といった外部の技術の持ち主との提携や買収から来ています。
本稿は企業の技術戦略と事業を解説するもので、医療上の助言ではありません。 特定の薬の使用を勧めたり、他社の薬と効き目を比べたりする意図はありません。 臨床試験の結果は、会社が公表した数字を比較対照・評価時点とともに紹介するにとどめます。 治療については必ず医師にご相談ください。
2. ロゴと社名の表記について
AstraZenecaのロゴは同社の商標です。本稿では生成画像による再現を行わず、
公式サイトから取得した画像を img/astrazeneca_logo.png として設置しています。
表記の注意:法定開示上の社名は AstraZeneca PLC、日本語では「アストラゼネカ」と表記されます。 日本法人のアストラゼネカ株式会社は子会社です。 希少疾患事業は2021年に買収したAlexion(アレクシオン)のブランドで運営されており、20-Fの開発品一覧でもALXNで始まる番号がつきます。
公式サイト:https://www.astrazeneca.com/3. 創薬・DDSの世界で、この会社はどこにいるか
本シリーズの技術解説『創薬モダリティ』で並べたモダリティの多くが、1社の開発品一覧にそろっているのがこの会社です。 ただし「そろっている」ことと「すべてが自社発」であることは別で、本稿ではどのモダリティをどこから得たかを区別して書きます。
4. 会社の規模(会社全体は簡潔に)
| 指標(百万ドル) | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 | 2026年上半期 |
|---|---|---|---|---|
| 総売上高(Total Revenue) | 45,811 | 54,073 | 58,739 | 30,672 |
| 研究開発費 | 10,935 | 13,583 | 14,232 | 7,545 |
| 営業利益 | 8,193 | 10,003 | 13,743 | 7,410 |
| 有形固定資産の取得(キャッシュ・フロー) | 1,361 | 1,924 | 2,810 | ― |
| 従業員(月平均、継続事業) | 86,400人 | 92,900人 | 95,100人 | ― |
上の数字は会社全体のものです。アストラゼネカは研究開発費のモダリティ別の内訳を開示していません 未確定/将来。 2025年の従業員は英国10,600人、英国以外の欧州26,900人、南北アメリカ25,200人、アジア・アフリカ・オセアニア32,400人(いずれも月平均)で、 研究者の人数や、細胞治療・放射性医薬品などの部門別の人数は書かれていません。 2026年上半期の設備投資(有形固定資産とソフトウェア関連の無形資産)は15億1,300万ドルで、会社は増加の理由を「複数の大型製造プロジェクトへの投資」と説明しています 事実。
5. 創薬・DDSにかけているリソース
| リソースの種類 | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人(研究拠点・人員) | 従業員の月平均95,100人(2025年)。本社は英国ケンブリッジ。米国ではメリーランド州ゲイサーズバーグの研究開発拠点の拡張と、マサチューセッツ州ケンブリッジ(ケンドール・スクエア)の新研究開発センターを計画。研究者数・モダリティ別の人員は非開示 | 事実 |
| 金(研究開発費) | 2025年12月期 142億3,200万ドル(総売上高の約24.2%)。2026年上半期は75億4,500万ドル。モダリティ別内訳は非開示 | 事実 |
| 金(製造設備・米国) | 2030年までに米国で500億ドルを製造と研究開発に投資する計画(2025年7月)。中核はバージニア州の新しい原薬工場で、低分子・ペプチド・オリゴヌクレオチドを製造する予定。ほかに細胞治療の次世代製造施設(メリーランド州ロックビル、カリフォルニア州ターザナ)を含む。2025年11月にはメリーランド州で20億ドルの投資(フレデリックのバイオ医薬品工場の商用能力をほぼ倍増、ゲイサーズバーグに治験薬製造施設)を発表 | 事実 |
| 金(製造・研究・中国) | 2030年までに中国で150億ドルを製造と研究開発に投資する計画(2026年1月)。細胞治療と放射性医薬品の能力を大きく強化すると説明 | 事実 |
| 買収 | Gracell(CAR-T、2024年2月完了、対価の公正価値10億3,700万ドル)、Fusion Pharmaceuticals(アクチニウム系放射性医薬品、2024年6月完了、同21億9,500万ドル)、EsoBiotec(体内で免疫細胞を改変するレンチウイルス基盤、2025年、最大10億ドル) | 事実 |
| 導入(ライセンスイン)・提携 | 第一三共(ADC 2品目)、Ionis(アンチセンスのeplontersen)、Eccogene(経口の低分子GLP-1受容体作動薬、2023年)、CSPC(AIを使う低分子探索=契約一時金1億1,000万ドル、2025年/AIを使うペプチド探索と月1回投与技術を含む肥満・糖尿病の8プログラム=契約一時金12億ドル、2026年)、Dizal(経口EGFR阻害剤Zegfrovy、2026年) | 事実 |
| 大学・研究機関・公的資金 | 創薬・DDSに関する大学との共同研究や公的資金の受け入れは、本稿で確認した20-F・6-Kには具体的な記載がない | 確認できず |
20-Fの注記は、買収したものの中身を会計上どう評価したかを書いています 事実。 Fusionでは無形資産13億2,600万ドルのうち、前立腺がん向けのFPI-2265に8億4,800万ドル、AZD2068に3億1,300万ドルが割り当てられ、 会社は買収で「アクチニウム系放射性医薬品の研究開発・製造・サプライチェーンの能力」を得たと説明しています。 EsoBiotecは、価値のほぼすべてがENaBLプラットフォーム(4億4,100万ドル)という単一の資産に集中しているとして、企業結合ではなく「資産の取得」として処理されました。 つまりEsoBiotecは技術基盤そのものを買った案件です。 一方、Fusionから得たFPI-2059は2024年に「ポートフォリオの優先順位の判断」で全額(1億6,500万ドル)減損されており、買った候補のすべてが残るわけではありません。
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 2019年3月 | 第一三共とエンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)のグローバル提携(第一三共に最大69億ドル) | 日本を除き利益と費用を折半。ADCの製造・供給は第一三共 |
| 2020年7月 | 第一三共とダトロウェイ(ダトポタマブ デルクステカン)のグローバル提携(最大60億ドル) | 第一三共との2本目のADC提携 |
| 2021年7月 | Alexionの買収を完了 | 希少疾患の事業基盤。20-Fの開発品一覧にはALXN番号のsiRNA・AAV遺伝子治療も並ぶ |
| 2021年12月 | Ionisとeplontersen(リガンド結合型アンチセンス)の共同開発・販売契約 | 肝臓を狙う核酸医薬を導入。米国は共同、その他地域(中南米を除く)はアストラゼネカが担う |
| 2023年11月 | Eccogeneから経口GLP-1受容体作動薬ECC5004を導入 | 注射でなく飲み薬の低分子で肥満・代謝疾患を狙う |
| 2023年12月 | 米国FDAがWainua(eplontersen)を承認(遺伝性ATTRアミロイドーシスのポリニューロパチー) | 核酸医薬として最初の承認。自己注射器で投与 |
| 2024年2月 | Gracellの買収を完了 | CAR-TのAZD0120と、製造時間を短縮するFasTCAR製造基盤を取得 |
| 2024年6月 | Fusion Pharmaceuticalsの買収を完了 | アクチニウム系放射性医薬品の開発・製造・供給網を取得 |
| 2025年3〜5月 | EsoBiotecの買収を発表し完了 | 体外で細胞を加工せず、静脈注射で体内のT細胞を改変するin vivo細胞治療へ |
| 2025年6月 | CSPCとAIを使う低分子創薬の研究提携 | 中国の研究拠点でAI創薬を活用 |
| 2025年7月 | 米国に500億ドルの投資計画。バージニア州に低分子・ペプチド・オリゴヌクレオチドの原薬工場 | 同社として過去最大の単一施設投資と説明 |
| 2025年11月 | メリーランド州に20億ドルの製造投資 | フレデリックのバイオ医薬品工場の能力をほぼ倍増(2029年稼働予定) |
| 2025年12月 | 米国でエンハーツ+ペルツズマブがHER2陽性転移性乳がんの1次治療で承認 | 転移がんの最初の治療ラインへ |
| 2026年1月 | 中国に150億ドルの投資計画。CSPCと肥満・糖尿病で8プログラムの提携 | 細胞治療・放射性医薬品の能力を中国でも強化 |
| 2026年5月 | 米国でダトロウェイがトリプルネガティブ乳がんの1次治療で承認。エンハーツがHER2陽性早期乳がんの2つの適応で承認 | ADCの適応が早期・1次治療へ広がる |
| 2026年7月 | 自社保有のADC sonesitatug vedotin(CLDN18.2)の第3相CLARITY-Gastric01で主要評価項目の一部を達成と発表。同月、DizalからZegfrovyの全世界の権利を導入 | 会社は「完全自社保有のADCポートフォリオとして最初のピボタル試験の結果」と位置づけ |
主な臨床試験(会社が公表した結果)
| 試験(NCT番号) | フェーズ・対象 | 主要評価項目 | 会社が公表した結果(比較対照・評価時点) |
|---|---|---|---|
| DESTINY-Breast09(NCT04784715) | 第3相。HER2陽性転移性乳がんの1次治療(エンハーツ+ペルツズマブ) | 無増悪生存期間(PFS、盲検下独立中央判定) | THP療法と比べ病勢進行または死亡のリスクを44%低減、PFS中央値は3年超(THPは約2年)。2025年のASCOで発表された解析 |
| TROPION-Breast02(NCT05374512) | 第3相。免疫療法の対象とならない転移性トリプルネガティブ乳がんの1次治療(ダトロウェイ) | PFS、全生存期間(OS) | 化学療法と比べOS中央値が5.0か月改善(ハザード比0.79、95%信頼区間0.64〜0.98)、病勢進行または死亡のリスクを43%低減(ハザード比0.57)。2025年のESMOで発表された解析 |
| CLARITY-Gastric01(NCT06346392) | 第3相。CLDN18.2陽性の進行胃がん等の2次治療以降(sonesitatug vedotin) | 3次治療以降のOSと全体のPFS(二重の主要評価項目) | 担当医選択の治療と比べ、3次治療以降のOSで統計学的に有意な改善。全体のPFSは改善傾向だが有意差に届かず。数値は2026年7月時点で未公表(学会で発表予定と会社が説明) |
| NEURO-TTRansform(NCT04136184) | 第3相。遺伝性ATTRアミロイドーシスのポリニューロパチー(eplontersen) | 血清TTR濃度、mNIS+7 | 35週時点の中間解析で主要評価項目の改善を示し、米国承認の根拠となった(比較の詳細はJAMA掲載論文) |
| CARDIO-TTRansform(NCT04136171) | 第3相。ATTRアミロイドーシスの心筋症(eplontersen) | 心血管死と心血管イベントの複合 | 主要評価項目を達成せず(2026年上半期決算で公表) |
7. 今後の計画
(2030年まで)製造と研究開発。細胞治療の製造施設を含む
(2030年まで)細胞治療・放射性医薬品の能力強化
オリゴヌクレオチドバージニア州。経口GLP-1などの原薬
会社は中国への投資で「細胞治療の研究・開発・製造を一貫して持つ最初のグローバル製薬企業になる」と述べ、 パートナーとしてAbelZeta、CSPC、Harbour BioMed、Jacobio、Syneron Bioの名前を挙げています 事実。 米国では、バージニア州の新工場を「減量・代謝疾患のポートフォリオ(経口GLP-1、baxdrostat、経口PCSK9など)」の原薬に充てるとしています。
次はいずれも本稿で確認した一次資料に記載がありません 未確定/将来。
500億ドル・150億ドルのうちモダリティ別・施設別の金額(バージニア新工場は「数十億ドル規模」とだけ記載)/各工場の生産能力/CLARITY-Gastric01の具体的な数値/ in vivo細胞治療(ENaBL)の対象疾患と臨床段階/大学・公的機関との創薬共同研究。 「アストラゼネカのADC市場シェア○%」といった調査会社の推計は採用しません。
8. この会社は創薬・DDSで何を目指しているか
ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| ADCでは第一三共との提携品に加え、自社保有のADCを育てたい | 20-Fの開発品一覧に、第一三共品以外のTOP1i ADC(STEAP2、CLDN18.2、CD22、B7-H4)やMMAE ADC(CLDN18.2、GPRC5D)が並ぶ。sone-veの結果を会社自身が「完全自社保有のADCポートフォリオとして最初のピボタル試験の結果」と表現 | 推測 |
| 細胞治療では「作る手間」を減らす方向に賭けている | Gracellは「製造時間を大幅に短縮する」FasTCAR基盤、EsoBiotecは「数週間かかる工程を、静脈注射で数分に」するin vivo基盤として買収された | 推測 |
| 核酸・ペプチドの原薬製造を自社に取り込む | バージニア州の新工場で低分子・ペプチド・オリゴヌクレオチドを製造すると明記。過去最大の単一施設投資 | 推測 |
| 新しいモダリティの供給源として中国を重視している | Gracell(中国と米国で事業)の買収、CSPC・Dizalとの提携、中国への150億ドル投資で細胞治療・放射性医薬品を強化 | 事実 |
| 放射性医薬品は製造と供給網ごと手に入れた | 20-FがFusion買収の意義として「アクチニウム系放射性医薬品の研究開発・製造・サプライチェーンの能力」を挙げている | 事実 |
エンハーツは第一三共との提携品で、アストラゼネカの2026年上半期の製品収益17億1,900万ドルのうち10億5,800万ドルは「アライアンス収益」(第一三共が計上する売上からの取り分)です 事実。 ADCの製造と供給は第一三共が担う契約で、利益は折半です。 つまりアストラゼネカにとってエンハーツは大きな柱である一方、製造の主導権も利益の半分も自社にない製品です。 2026年7月のsone-veの発表で、会社がわざわざ「完全自社保有(wholly owned)」と書いたのは、 ADCで提携に頼らない収益源を持つことを重視している表れだと本稿は読みます 未確定/将来。 ただし会社はADCの製造体制を自社で持つかどうかは明らかにしておらず、これは本稿の解釈にとどまります。
9. 創薬・DDS分野の提携マッピング
10. 提供している技術・製品・サービス
| モダリティ | 主な品目(20-F・6-Kの記載) | 状況・取得元 |
|---|---|---|
| ADC(TOP1i) | エンハーツ(HER2)、ダトロウェイ(TROP2) | 承認済み。第一三共との提携品。2026年上半期のアストラゼネカの製品収益はエンハーツ17億1,900万ドル、ダトロウェイ9,800万ドル |
| ADC(自社保有) | sonesitatug vedotin(CLDN18.2、MMAE)、puxitatug samrotecan(B7-H4、TOP1i)、AZD0516(STEAP2)、AZD4360(CLDN18.2)、AZD4512(CD22)、AZD0305(GPRC5D、MMAE) | 開発中(sone-veは第3相。ほかの段階は20-Fの開発品一覧を参照) |
| 放射性医薬品 | FPI-2265(PSMA)、AZD2068(EGFR/cMET)、AZD2284(STEAP2)。いずれもアクチニウム | 開発中。Fusionの買収で取得 |
| 細胞治療 | AZD0120(BCMA/CD19 CAR-T。多発性骨髄腫、全身性エリテマトーデスなど)、AZD0754(STEAP2 CAR-T)、AZD0240(KRAS G12D TCR-T)、ENaBLプラットフォーム | 開発中。Gracell・EsoBiotecの買収などで取得 |
| 核酸 | Wainua(eplontersen、リガンド結合型アンチセンス)、ALXN2030(補体C3を標的とするsiRNA)、AZD6912(siRNA) | Wainuaは承認済み(Ionisとの提携品)、ほかは開発中 |
| 遺伝子治療 | ALXN2350(AAV、BAG3関連拡張型心筋症) | 開発中 |
| 経口の低分子・ペプチド(代謝) | 経口GLP-1受容体作動薬(Eccogene由来)、CSPC由来の月1回投与の注射剤プログラム | 開発中 |
放射性医薬品では、薬の中身より供給網が難所です。アクチニウム225のような放射性同位体は時間とともに減衰するため、 同位体の確保、抗体や低分子に金属を固定するキレート剤との結合、そして患者のもとへ届くまでの時間管理が一体で求められます。 20-FがFusion買収の意義として、開発品だけでなく「製造とサプライチェーンの能力」を明記しているのはこのためです 事実。 中国への投資で放射性医薬品の能力を強化するとしているのも、同じ課題への備えと本稿は読みます 未確定/将来。
核酸医薬のWainuaは「リガンド結合型」「肝臓を狙う」アンチセンスと説明されています 事実。 リガンドの種類は本稿で確認したリリースには書かれていませんが、核酸を特定の臓器に届けるための化学修飾と結合技術がDDSの核心になる点は、本シリーズの技術解説『核酸医薬』で扱った通りです。 バージニア州の新工場がペプチドとオリゴヌクレオチドの原薬を作る計画であることは、固相合成の樹脂・保護基・溶媒、精製用のクロマトグラフィー樹脂といった資材の需要が、同社の中で大きく伸びうることを意味します 未確定/将来。
細胞治療では、患者から採った細胞を体外で加工する従来方式から、ウイルスベクターを静脈注射して体内で細胞を改変するin vivo方式(EsoBiotec)へ軸足を広げています。 これが実用化すれば、細胞培養用の培地・バッグ・閉鎖系装置の比重が下がり、レンチウイルスベクターの製造と精製の比重が上がります。本シリーズの技術解説『ウイルスベクター』『CAR-T細胞』も参照してください。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 主力品の特許切れと価格政策 | 2026年上半期決算は、Farxigaの米国での独占販売期間終了と中国の集中購買(VBP)を減収要因として挙げている | 事実 |
| ADCの柱が提携品 | エンハーツとダトロウェイは第一三共との提携品で、製造・供給は第一三共、利益は折半。20-Fの特許表ではエンハーツの特許満了は2033〜2035年(国・地域で異なる) | 事実 |
| 買った技術が育たない可能性 | Fusion由来のFPI-2059は2024年に全額減損。2025年には開発品の減損が計2億1,000万ドル | 事実 |
| 核酸医薬の適応拡大の失敗 | Wainuaの心筋症を対象としたCARDIO-TTRansform試験は主要評価項目を達成しなかった | 事実 |
| 大型設備投資の回収 | 米国500億ドル・中国150億ドルという投資計画は、2030年の売上800億ドルという目標を前提にしている。目標は会社の見通しであり未確定 | 未確定/将来 |
| 地政学 | 米国と中国の両方で大型投資と提携を進めており、両国の政策変更の影響を同時に受けうる | 推測 |
12. 用語集
- ADC(抗体薬物複合体)
- 抗体に、リンカーを介して強い薬物を結合させた薬。TOP1iはトポイソメラーゼI阻害剤、MMAEは微小管阻害剤のペイロード。
- 放射性医薬品(ラジオコンジュゲート)
- がん細胞に結合する分子に放射性同位体を結合させ、細胞の近くで放射線を出させる薬。
- アクチニウム225
- アルファ線を出す放射性同位体。飛ぶ距離が短く、近くの細胞に強く作用するとされる。
- CAR-T
- 患者のT細胞に、がんの目印を見分ける受容体(CAR)を組み込んで戻す細胞治療。
- in vivo細胞治療
- 細胞を体外に取り出さず、ベクターを投与して体内で免疫細胞を改変する方式。
- アンチセンス
- 標的のRNAに結合してタンパク質の産生を減らす、短い一本鎖の核酸医薬。
- siRNA
- 二本鎖の短いRNAで、標的のmRNAを分解させてタンパク質の産生を抑える核酸医薬。
- アライアンス収益
- 提携相手が計上する売上から、契約に基づいて受け取る取り分。
AI生成による概念図13. 出典
- AstraZeneca PLC Form 20-F for the fiscal year ended December 31, 2025(米国SEC提出、2026年2月24日)。総売上高・研究開発費・営業利益・設備投資・従業員数、Gracell・Fusion・EsoBiotecの買収と会計処理、減損、開発品一覧、特許満了年。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/901832/000110465926019130/azn-20251231x20f.htm
- AstraZeneca PLC Form 6-K「H1 and Q2 2026 results」(米国SEC提出、2026年7月27日)。2026年上半期の総売上高・研究開発費・製品別収益・設備投資、臨床試験の結果一覧。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/901832/000110465926086846/azn-20260630x6k.htm
- AstraZeneca PLC Form 6-K「AstraZeneca plans to invest $50bn in the US」(2025年7月22日)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/901832/000165495425008260/a9509r.htm
- AstraZeneca PLC Form 6-K「AstraZeneca manufacturing investment in Maryland」(2025年11月24日)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/901832/000165495425013401/a6308i.htm
- AstraZeneca PLC Form 6-K「AstraZeneca invests $15bn in China through 2030」(2026年1月29日)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/901832/000165495426000688/a9169q.htm
- AstraZeneca PLC Form 6-K「AstraZeneca enters into collaboration with CSPC」(2025年6月13日)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/901832/000165495425006914/a6592m.htm
- AstraZeneca PLC Form 6-K「AstraZeneca agrees obesity and T2D deal with CSPC」(2026年1月30日)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/901832/000165495426000730/a0031r.htm
- AstraZeneca PLC Form 6-K「AstraZeneca licenses novel EGFR inhibitor」(2026年7月14日)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/901832/000165495426006637/a2449m.htm
- AstraZeneca PLC Form 6-K「AstraZeneca to acquire EsoBiotec」(2025年3月17日)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/901832/000165495425002837/a9028a.htm
- AstraZeneca PLC Form 6-K「AstraZeneca acquires Gracell」(2023年12月27日)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/901832/000165495423015982/a8499x.htm
- AstraZeneca PLC Form 6-K「AstraZeneca, Ionis to collaborate on eplontersen」(2021年12月7日)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/901832/000165495421012879/a8026u.htm
- AstraZeneca PLC Form 6-K「Wainua (eplontersen) granted first US FDA approval」(2023年12月22日)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/901832/000165495423015901/a7568x.htm
- AstraZeneca PLC Form 6-K「Agreement with Eccogene for clinical stage GLP-1RA」(2023年11月9日)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/901832/000165495423013971/a8748s.htm
- AstraZeneca PLC Form 6-K「Datroway approved in US for 1L triple-negative BC」(2026年5月26日)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/901832/000165495426005309/a6573f.htm
- AstraZeneca PLC Form 6-K「Enhertu approved in US for 1L HER2+ metastatic BC」(2025年12月16日)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/901832/000165495425013970/a6719l.htm
- AstraZeneca PLC Form 6-K「Sone-Ve improved survival in gastric cancers」(2026年7月27日)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/901832/000165495426006895/a9459n.htm
- 第一三共 プレスリリース「トラスツズマブ デルクステカン(DS-8201)に関するアストラゼネカとのグローバル開発及び販売提携のお知らせ」(2019年3月29日)。 https://www.daiichisankyo.co.jp/media/press_release/detail/index_5623.html
- 第一三共 プレスリリース「DS-1062に関するアストラゼネカとのグローバル開発及び販売提携のお知らせ」(2020年7月27日)。 https://www.daiichisankyo.co.jp/media/press_release/detail/index_5545.html
- ClinicalTrials.gov DESTINY-Breast09(NCT04784715)。 https://clinicaltrials.gov/study/NCT04784715
- ClinicalTrials.gov TROPION-Breast02(NCT05374512)。 https://clinicaltrials.gov/study/NCT05374512
- ClinicalTrials.gov CLARITY-Gastric01(NCT06346392)。 https://clinicaltrials.gov/study/NCT06346392
- ClinicalTrials.gov NEURO-TTRansform(NCT04136184)。 https://clinicaltrials.gov/study/NCT04136184
- ClinicalTrials.gov CARDIO-TTRansform(NCT04136171)。 https://clinicaltrials.gov/study/NCT04136171
- AstraZeneca PLC 公式サイト(社名表記とロゴ画像の取得元)。 https://www.astrazeneca.com/
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年9月26日/Troy Technical
本稿の数値はすべてAstraZeneca PLCが米国証券取引委員会(SEC)に提出した法定開示書類(20-F・6-K)、第一三共のプレスリリース、ClinicalTrials.govの登録情報に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。本稿は医療上の助言ではありません。