INSTITUTION PROFILE / ドローン・ロボティクス
NIST(米国国立標準技術研究所)
― ロボットとドローンの「ものさし」をつくる政府の研究所
NISTは米国商務省の研究機関で、規則をつくったり、機体を認証したりする官庁ではありません。 ロボットやドローンについては、性能を公平に比べるための試験方法と評価指標を研究し、 民間の規格団体を通じて標準にしてもらうのが主な役割です。 ドローンの飛行ルールや機体の認証は別の機関(米国ではFAA)の仕事で、NISTは決めません。 本稿では、NISTが何を決められて、何を決められないかに絞って整理します。
- 30秒でわかるNIST
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- ドローン・ロボティクスで何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 関わっている組織 ― 試験方法が「ものさし」になるまで
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるNIST
ボルダー 560名連邦職員。FY2024。ほかに客員研究員などが多数。全体の総数は確認できなかった
NISTがつくるのは「規則」ではなく「ものさし」です。 たとえばドローンの操縦者に「決められた障害物の間を安定して飛べるか」を試す装置・手順・採点方法をつくります。 ところが、どの機体を飛ばしてよいか、何点で合格かは、NISTは決めません。 NIST自身も、試験方法は「ロボットの能力を客観的に測るために合意された方法」であって、 機体の仕様書(標準のロボット)をつくることとは別のものだと説明しています 事実。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
ドローン・ロボティクスの記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では機体やロボットを作りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。
NISTは「規格・標準をつくる」型です。ただし、規格を自分で発行するのではありません。 試験方法と測定の根拠を研究し、規格団体の委員会に持ち込み、関係者の合意を経て規格にしてもらいます 事実。
米国では、国の機関は民間の合意規格を使うことが方針とされています(National Technology Transfer and Advancement Act と行政管理予算局の通達A-119)。 規格そのものに法的拘束力はなく、法令・調達・訓練が引用して初めて、事実上の基準として働きます 事実。
3. ドローン・ロボティクスで何をしているか
NISTの担当は、工学研究所(Engineering Laboratory)の知能システム部門(Intelligent Systems Division)です。 中心になるのは「ロボット・自律システムの測定科学プログラム」(Measurement Science for Robotics and Autonomous Systems、略称MSRAS)です。 NISTのプログラム責任者の説明資料(2026年6月)によると、対象は製造業、公共安全(空・陸・水中)、公道の自動運転車の3分野で、 機体としては固定のロボットアーム、移動ロボット、ドローン、水中ロボット、ヒューマノイドなどを挙げています 事実。
| 領域 | NISTがしていること | 規格・利用との関係 | 確認できた状態 |
|---|---|---|---|
| 災害対応ロボットの標準試験方法 (地上・空・水中) | 消防・爆発物処理などの現場で求められる能力(移動、作業、センサー、通信、操縦者の技能など)を測る試験装置・手順・採点方法をつくる。NISTのページは50を超える試験方法と説明 | 米国の規格団体ASTM Internationalの委員会E54.09で規格化を進めている。主な資金は米国国土安全保障省(DHS)の科学技術部門 | NISTのページ(2024年8月16日更新) |
| 小型ドローン(sUAS)の試験方法 | 網で囲った屋内外の場所で、決められた位置への移動、周回、近接点検などを測る。約20の試験方法を開発中とNISTは説明 | そのうち10の試験方法(機動とペイロードの機能)が、公共安全用ドローンの規格NFPA 2400の「操縦者の技能要件」に採用された。NISTが主要な規格委員会として挙げるのはASTMのF38(無人航空機) | NISTのページ(2024年10月3日更新) |
| ドローン操縦者の訓練・技能確認での利用 | 試験方法を使った講習の実施団体と、試験の運営者(プロクター)が各地にいる | NISTの資料は、NFPA・APSA・LEDAなどが採用し、数千人の操縦者の認定に使われたと記す。「1000+ Test Proctors」「200+ in FY2025」という数字も載るが、単位の説明は資料にない | NISTの説明資料(2026年6月) |
| 製造用ロボットの性能測定 | 敏しょうさ(段取り替えの速さ)、つかむ・操る性能、認識性能、人との協働などの指標・データセット・競技会を整備する | 組立タスクボードがNVIDIAやGoogle DeepMindなどで再現されていると資料は記す。協働ロボットの安全機能の測定でISOの技術仕様書ISO/TS 15066に貢献したと記す | NISTの説明資料(2026年6月) |
| 国際規格づくりへの参加 | ISO/TC 299の作業グループ(WG3:産業の安全、WG8:人とロボットの物理的接触の生体力学データ、WG4:サービスロボットの性能)に技術面で参加。名称はISOのページの表記 | 資料の表記では、ASTM E54.09とNFPA 2400は「リーダーシップ(L)」、ISO/TC 299は「技術参加(T)」。ISO側の規格づくりを主導しているとは書かれていない | NISTの説明資料(2026年6月) |
※「50を超える」「約20」「10」の数字は、NISTのページが更新された時点(2024年)のものです。2026年6月の説明資料は、緊急対応ロボットのプロジェクトについて「20を超える公表済みの標準」とも書いており、数え方(試験方法か、公表された規格か)は資料に説明がありません。両者を足し合わせたり、同じ単位とみなしたりしないでください。
NISTの試験方法は、「どう測るか」(装置・手順・採点)を決めるものです。 「何点なら買ってよいか」「どの飛行に使ってよいか」は、決めません。 NISTのページも、標準試験方法を使って機体を選ぶ基準にするかどうかは使う側のコミュニティが決めると書いています。 メーカー側から見ると、NISTの試験は「公開された共通のものさし」で、規制の合否ではなく、 購入側が機体を比べ、操縦者を訓練するための物差しとして使われます。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | NISTが持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 試験方法・評価指標・データセットの研究と公開。規格団体の委員会での提案と主導(ASTM E54.09、NFPA 2400に関わる活動)。試験施設と競技会の運営 | 規制を課す権限(NISTは非規制の機関)。機体の認証、飛行の許可(米国ではFAA)。電波の割り当てと機器の認可(FCC)。規格の発行(ASTM、NFPA、ISOが担う) |
| 地域 | 米国政府の研究機関として、米国内の消防・警察などの調達や訓練に直結する。試験方法は世界の数十組織が再現して使っているとNISTは説明 | 他国の法令や認証制度を決める権限。海外でどの程度使われているかの一覧 |
| 強制力 | なし。規格に採用されるか、調達仕様や訓練が引用して初めて効力を持つ | 試験への合格を義務づける権限。試験を受けない機体を排除する権限 |
| 規模 | 連邦職員はゲイザースバーグ2,800名超とボルダー560名(FY2024)。ロボティクス・プログラムの資料は、10を超える規格団体、20を超える委員会、80を超える公表済みの標準に関わると記す | ドローン・ロボティクスだけに使われる予算や人員の数。NISTは2025年5月までに420名の職員減があり、影響を評価中としている |
NISTの試験法を「使っている」「採用している」という記述は、NISTの資料に書かれた採用側の例です。 試験を受けた機体が安全・高性能であることや、ある機体がNISTに「認定」されたことを意味しません。 NISTが機体の認定制度を運営しているという記載は、本稿が確認したNISTの資料にはありません。 ドローンの飛行規則・機体の認証は、本シリーズのFAAやEASA、国土交通省の解説を参照してください。
5. 関わっている組織 ― 試験方法が「ものさし」になるまで
NISTの試験方法が現場で使われるまでの流れを、NISTの公式ページに書かれている関係だけで描きます。
| 組織 | NISTの資料に書かれた関係 |
|---|---|
| 米国国土安全保障省(DHS)科学技術部門 | 災害対応ロボットの試験方法の作業を主に資金面で支援。司法省なども大きな支援を行った |
| ASTM International(委員会E54.09、F38) | E54.09で試験方法の規格化を進める。F38は小型ドローンの主要な規格委員会としてNISTが挙げる |
| NFPA(全米防火協会) | 公共安全用ドローンの規格NFPA 2400が、NISTの10の試験方法を操縦者の技能要件に採用 |
| APSA・LEDA | NISTの資料は、NFPAとともにドローン試験の採用団体として挙げ、月次の講習の主催団体にAPSAとLEDAを含める |
| ISO/TC 299 | NISTは産業用ロボットの安全などのワーキンググループに技術面で参加(第3章) |
| 企業(Amazon Robotics、NVIDIAなど) | 競技会ARIACの成果の活用(Amazon Robotics)や、組立タスクボードの再現(NVIDIA)をNISTの資料が記す。NISTが企業の機体を推奨・認定する関係ではない |
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| NISTは「触覚センサーの性能」「モバイルマニピュレータの性能」「ヒューマノイドの基準ベンチマーク」「ドローン操縦者の認定」などを今後の活動として挙げている。成果物の形式・時期・規格になるかどうかは書かれていない | NISTの説明資料(2026年6月)の「Current & Future Activities」の項目名 | 未確定/将来 |
| 2025年の職員減が、ロボティクスを含む各プログラムにどう影響するかは、NIST自身が評価中で、結論は公表されていない | NISTの予算説明資料(2025年6月) | 未確定/将来 |
| ヒューマノイドの評価指標は、NISTの研究・ベンチマーク段階から始まり、規格になるまでにはASTMやISOの合意手続きが必要なので、実際の規格になるまでには時間がかかる | NISTの資料は、ヒューマノイドのベンチマークを今後の活動に挙げ、ISO 25785-1を作業原案(WD)と表記している。ISO自身のページ(2026年10月25日確認)では、委員会原案(CD)の段階。いずれにせよ発行前 | 推測 |
| ドローン操縦者の技能確認での試験方法の利用は、認定制度の整備とともに広がる可能性がある | 資料は、すでにNFPA・APSA・LEDAが採用していると記し、「ドローン操縦者の認定(credentialing)」を今後の項目に挙げる | 推測 |
7. 用語集
- 非規制(non-regulatory)の機関
- 法律に基づいて企業に義務を課したり、許可・認証を出したりしない機関。NISTは研究と標準づくりの支援を担当する。
- 標準試験方法
- ロボットの能力を同じやり方で測るための、試験装置・手順・採点方法・失敗の扱いをまとめた取り決め。「標準のロボット」(仕様)とは別のもの。
- sUAS(小型無人航空機システム)
- small unmanned aircraft system。操縦者が地上から遠隔で飛ばす小型のドローンとその装備一式。
- ASTM International
- 米国に本部がある民間の規格団体。関係者の合意で規格をつくる。本稿はASTMのサイトは参照していない。
- NFPA
- 全米防火協会(National Fire Protection Association)。消防などに関する規格をつくる民間団体。
- 合意規格(voluntary consensus standard)
- 法律ではなく、関係者の自主的な合意でつくる規格。法令や調達が引用すると、事実上の基準になる。
8. 出典
- NIST About NIST(設立年、商務省の一部であること、使命、本部所在地)。確認日2026年10月25日。 https://www.nist.gov/about-nist
- NIST Our Leadership Team(「NISTは米国商務省の中の非規制の機関」との記載)。 https://www.nist.gov/director/leadership
- NIST NIST in Maryland(ゲイザースバーグの連邦職員2,800名超、FY2024の総予算の記載)。 https://www.nist.gov/states/maryland
- NIST NIST in Colorado(ボルダーの職員560名、FY2024)。 https://www.nist.gov/states/colorado
- NIST Budget Update(2025年6月11日。2025年5月時点で職員を420名減らし、影響を評価中との記載)。 https://www.nist.gov/document/budget-updates-and-discussion-june-2025
- NIST Intelligent Systems Division(工学研究所の知能システム部門の使命と主要プログラム)。 https://www.nist.gov/el/intelligent-systems-division-73500
- NIST Measurement Science for Robotics and Autonomous Systems Program(プログラムの目的と成果物)。 https://www.nist.gov/programs-projects/measurement-science-robotics-and-autonomous-systems-program
- NIST Standard Test Methods for Response Robots(災害対応ロボットの標準試験方法、ASTM E54.09での規格化、資金提供元。2024年8月16日更新)。 https://www.nist.gov/el/intelligent-systems-division-73500/standard-test-methods-response-robots
- NIST Standard Test Methods for Response Robots: Aerial Systems(Background。50を超える試験方法、約20のsUAS試験方法、NFPA 2400への採用、標準試験方法と標準のロボットの違い。2024年10月3日更新)。 https://www.nist.gov/el/intelligent-systems-division-73500/standard-test-methods-response-robots/aerial-systems/aerial
- NIST Robotics update(ロボティクス・プログラムの説明資料。プログラム責任者による。ファイル名の表記は2026年6月。3分野、ドローン試験の採用団体、参加する規格委員会、今後の活動)。 https://www.nist.gov/document/robotics-update-vcat-62026
- ISO ISO/TC 299 Robotics(作業グループの名称。策定中の規格一覧にISO 25785-1が委員会原案〔CD〕の段階として載る)。 https://www.iso.org/committee/5915511.html
- NIST Standards.gov: What We Do(連邦政府の標準政策。National Technology Transfer and Advancement Actと行政管理予算局通達A-119が合意規格の利用を促す)。 https://www.nist.gov/standardsgov/what-we-do
9. 主張と出典の対応表
| 本文の主張 | 区分 | 出典 |
|---|---|---|
| 設立1901年、商務省の一部、本部所在地、規格・測定科学の推進という使命 | 事実 | 出典1 https://www.nist.gov/about-nist |
| NISTは非規制の機関 | 事実 | 出典2 https://www.nist.gov/director/leadership |
| ゲイザースバーグの連邦職員2,800名超、FY2024の総予算約10億ドルの記載 | 事実 | 出典3 https://www.nist.gov/states/maryland |
| ボルダーの職員560名 | 事実 | 出典4 https://www.nist.gov/states/colorado |
| 2025年5月までの職員420名減と、影響を評価中であること | 事実 | 出典5 https://www.nist.gov/document/budget-updates-and-discussion-june-2025 |
| 担当部署(工学研究所の知能システム部門) | 事実 | 出典6 https://www.nist.gov/el/intelligent-systems-division-73500 |
| MSRASプログラムの目的と成果物(指標・情報モデル・データセット・試験方法・手順) | 事実 | 出典7 https://www.nist.gov/programs-projects/measurement-science-robotics-and-autonomous-systems-program |
| 災害対応ロボットの標準試験方法、ASTM E54.09での規格化、DHS科学技術部門の資金提供 | 事実 | 出典8 https://www.nist.gov/el/intelligent-systems-division-73500/standard-test-methods-response-robots |
| 50を超える試験方法、約20のsUAS試験方法、10の試験方法のNFPA 2400への採用、ASTM F38、標準試験方法と標準のロボットの違い、合格基準は使う側が決めること | 事実 | 出典9 https://www.nist.gov/el/intelligent-systems-division-73500/standard-test-methods-response-robots/aerial-systems/aerial |
| 3分野(製造・公共安全・自動運転車)、ドローン試験を採用する団体(NFPA、APSA、LEDA)、参加する規格委員会(ISO/TC 299など)、NVIDIAなどでの組立タスクボードの再現、今後の活動の項目名 | 事実 | 出典10 https://www.nist.gov/document/robotics-update-vcat-62026 |
| ISO/TC 299の作業グループの名称、ISO 25785-1の段階(委員会原案) | 事実 | 出典11 https://www.iso.org/committee/5915511.html |
| 連邦政府が合意規格の利用を促す方針、規格に法的拘束力がないこと | 事実 | 出典12 https://www.nist.gov/standardsgov/what-we-do |
| 機関の4つの型の区分、図2の「決められないこと」の整理 | 本稿の計算 | 本稿による整理(出典2、9、12と本シリーズのFAA・FCCの担当範囲に基づく) |
| 今後の活動項目の成果物の形式・時期、職員減の影響 | 未確定/将来 | 出典5、10に記載なし。本稿では推定しない |
| 第6章の見通し2項目(ヒューマノイド、操縦者認定) | 推測 | 出典10の分類と採用団体の記載からの本稿の解釈 |
最終更新:2026年10月25日/Troy Technical
本稿の数値はNISTの公式ページと、NISTが公開した説明資料に基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。NISTの資料の数値は、更新日により数え方が異なることがあります。
