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iPS細胞|細胞培養技術 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

iPS細胞
― 4つの遺伝子で「振り出しに戻す」技術が、製品になるまで

2006年にマウスで、2007年にヒトで報告された人工多能性幹細胞です。 2026年3月6日、iPS細胞からつくった再生医療等製品2品目が、日本で「条件及び期限付承認」を受けました。 この記事では、基礎(多能性・初期化)から作製・培養・品質評価、iPS細胞ストック、疾患ごとの臨床段階、 そして足場材料・大量培養・凍結保存・輸送という素材技術者に近い論点までを、一次情報に沿って整理します。

構成:原著論文(Cell 2006・2007ほか)、nobelprize.org、京都大学CiRA・CiRA財団、PMDA・厚生労働省、実施機関の公式発表を一次情報として使用/最終更新 2026年9月

暗い背景の上に置かれた、ふたをした無地の透明な浅い円形容器の中に、淡いピンク色の液体が薄く張られている概念イメージ
概念図(AI生成イメージ)。「細胞を液体の中で育てる」という状況を雰囲気として表現したものです。実際の培養容器・培地・細胞・製品を示すものではありません。
この記事の構成
  1. iPS細胞とは何か(3行でつかむ)
  2. 多能性とは何か ― ES細胞との違い(倫理・免疫)
  3. 山中4因子と「初期化」― 2006年・2007年の原著論文
  4. 作製方法の変遷 ― ゲノムに組み込まない方法へ
  5. 培養方法の変遷 ― フィーダー細胞から、足場タンパク質へ
  6. 品質評価 ― 何を見て「使える株」を選ぶのか
  7. iPS細胞ストック ― HLAホモ接合体ドナーという考え方
  8. 再生医療への応用 ― 疾患ごとの臨床段階
  9. 承認された2品目を「製造と物流」の目で読む
  10. 創薬・病態研究への応用 ― 疾患iPS細胞
  11. 課題 ― 腫瘍化・コスト・ばらつき・スケールアップ
  12. 素材技術者の視点:大量培養・凍結保存・輸送
  13. 用語集/参考資料/出典対応表
本記事の表記ルール

事実=公表資料・査読論文に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・予定であり、実績や結果が確認できていない事項
このほか、構造の整理や材料・工程上の読み取りは「解説」として区別しています。

医療に関する記述についてのお断り

本記事は技術解説であり、治療の推奨や医療上の助言ではありません。臨床試験の結果は、論文や規制当局の資料に書かれている範囲だけを紹介しています。 いずれも少数例の試験であり、有効性が確立したことを意味するものではありません。個別の治療については、必ず医療機関にご相談ください。

1. iPS細胞とは何か(3行でつかむ)

  • 何か:皮膚や血液などの体細胞に少数の因子を入れて培養し、さまざまな細胞に分化できる能力と、ほぼ無限に増える能力をもたせた多能性幹細胞です。英語の induced pluripotent stem cell の頭文字から「iPS細胞」と呼ばれます事実
  • どこが画期的か:それまで代表的な多能性幹細胞だったES細胞は、発生初期の胚から作ります。iPS細胞は採取しやすい体細胞から作れるため、胚を使う倫理上の問題を避けられ、患者本人の細胞から作ることもできます事実
  • いまどこまで来たか:2026年3月6日、iPS細胞由来の心筋細胞シートとドパミン神経前駆細胞が、日本で「条件及び期限付承認」を取得しました事実。ただし期限付きの承認であり、期限内に改めて承認を取る必要があります
この記事でいちばん大事な一行

iPS細胞の研究は「どうやって作るか」から始まり、いまは「どうやって同じ品質で大量に作り、生きたまま患者に届けるか」に重心が移っています。 承認された製品のひとつは有効期間が31時間で、手術の都度製造するとされています事実。 細胞そのものの科学に加えて、培養・保存・輸送という「工程と物流」が、実用化の律速になりつつあります(本記事による解説)。

2. 多能性とは何か ― ES細胞との違い(倫理・免疫)

多能性(pluripotency)とは、体をつくる3つの胚葉(外胚葉・中胚葉・内胚葉)のどの系統の細胞にもなれる性質のことです。 私たちの体の細胞の多くは、発生の途中で役割が決まり、ふつうは元に戻りません。 多能性幹細胞は、その「役割が決まる前」の状態を保ったまま増え続けることができます(本記事による解説)。

CiRAは、ES細胞(胚性幹細胞)とiPS細胞の違いを次のように説明しています事実。

項目ES細胞iPS細胞
作り方受精後6、7日目の胚盤胞から細胞を取り出し、培養して作る皮膚や血液など、採取しやすい体細胞から作る
倫理面不妊治療で使われず廃棄予定の受精卵を用いるが、発生初期の胚を破壊して作るため抵抗感をもつ人が少なくなく、厳しい規制をかける国も少なくない胚を用いない
免疫(拒絶反応)患者由来のES細胞を作ることは技術的に困難で、他人のES細胞から作った細胞を移植すると拒絶反応が起こるという問題がある患者自身の細胞から作製でき、移植した場合に拒絶反応が起こりにくいと考えられる

すべて事実(CiRA「iPS細胞に関するよくある質問」[参考資料4])。

ただし、後で見るとおり、実際に承認や治験に進んでいる製品の多くは、患者本人ではなく「他人(健常ドナー)」のiPS細胞から作られています。 自分の細胞で作れるという利点と、製造にかかる時間・費用とのあいだで、現実的な折り合いがつけられているということです(第7章・第9章)。

3. 山中4因子と「初期化」― 2006年・2007年の原著論文

体細胞を多能性の状態に戻すことを初期化(リプログラミング)と呼びます。 それまで初期化は、体細胞の核を卵子に移す方法や、ES細胞と融合させる方法で知られていましたが、 何が初期化を引き起こしているのかはほとんど分かっていませんでした事実。

2006年:マウスで、4つの因子だけで多能性幹細胞ができた

京都大学の高橋和利・山中伸弥は2006年、Cell誌に「マウスの胚または成体の線維芽細胞に Oct3/4、Sox2、c-Myc、Klf4 の4因子を導入し、ES細胞の培養条件で培養することで、多能性幹細胞を誘導した」と報告しました事実。 論文は、候補の一つだった Nanog が「不要だった(dispensable)」と述べ、この細胞をiPS(induced pluripotent stem)細胞と名づけています事実。

同論文によると、この細胞はES細胞と同様の形態と増殖特性を示し、ES細胞のマーカー遺伝子を発現しました。 ヌードマウスの皮下に移植すると三胚葉すべての組織を含む腫瘍ができ、胚盤胞に注入するとマウスの胚発生に寄与しました事実。

2007年:ヒトの成人皮膚細胞でも、同じ4因子で

翌2007年、高橋らは同じくCell誌に、成人のヒト皮膚線維芽細胞から、同じ4因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)でiPS細胞を作製したと報告しました事実。 ヒトiPS細胞は、形態・増殖・表面抗原・遺伝子発現・多能性関連遺伝子のエピジェネティックな状態・テロメラーゼ活性においてヒトES細胞と類似し、 試験管内とテラトーマで三胚葉の細胞に分化しました事実。

iPS細胞ができるまで(概念図) 体細胞に4つの因子を入れて培養すると、ES細胞に似た多能性幹細胞に戻る ① 体細胞 皮膚の線維芽細胞 血液の細胞など 役割がすでに 決まった細胞 ② 4因子を導入 Oct3/4 Sox2 Klf4 c-Myc ES細胞の条件で培養 ③ iPS細胞 ES細胞に似た 形と増え方 未分化のまま 増え続ける 外胚葉系 例:神経・網膜の細胞 中胚葉系 例:心筋・血液の細胞 内胚葉系 例:膵島・肝臓の細胞 ※ 4因子と培養条件は Takahashi & Yamanaka 2006[参考資料1]、ヒトでの作製は Takahashi et al. 2007[参考資料2]によります。 ※ 三胚葉への分化は両論文に記載があります。右端の細胞の例は本記事が挙げたもので、論文の実験内容ではありません。 ※ 図は模式です。細胞の形・大きさ・培養期間を示すものではありません。 ※ 現在の臨床用の作製では、c-Myc の代わりに L-Myc を使うなど、因子と導入方法が改良されています(第4章)。
図1 概念図(ベクター作図)。4因子と三胚葉への分化は原著論文[参考資料1・2]によります。右端の細胞の例は本記事による例示で、論文で分化させた細胞の一覧ではありません。細胞の形・大きさ・期間はすべて模式です。

2012年:ノーベル生理学・医学賞

2012年のノーベル生理学・医学賞は、ジョン・B・ガードンと山中伸弥に授与されました。 授賞理由は「成熟した細胞が初期化され多能性をもちうることの発見」(for the discovery that mature cells can be reprogrammed to become pluripotent)です事実。 ノーベル財団の発表は、ガードンが1962年にカエルで「細胞の特殊化は可逆的である」ことを示し、 その40年以上後の2006年に山中がマウスの成熟細胞を初期化する方法を発見した、と説明しています事実。

4. 作製方法の変遷 ― ゲノムに組み込まない方法へ

2006年の最初の方法では、4因子をレトロウイルス・ベクターで細胞に導入していました事実。 CiRAは、レトロウイルスやレンチウイルスをベクターとして用いるとウイルスが細胞のゲノムDNAにランダムに組み込まれ、 もともとある遺伝子が失われたり活性化されたりして、細胞が腫瘍化する危険性があったと説明しています事実。 また、4因子のひとつc-Mycはがん原遺伝子として知られ、腫瘍を引き起こす可能性が指摘されてきました事実。

そこで、臨床応用に向けて、ゲノムに組み込まれない導入方法が開発されてきました。

方法何を使うか一次情報の記載
レトロウイルス・ベクターゲノムに組み込まれるウイルス2006年のマウスiPS細胞の作製に使用。ゲノムへのランダムな組み込みによる腫瘍化の危険性があった(CiRA)
エピソーマル・プラスミド自律的に複製する環状DNA(プラスミド)p53の抑制と、形質転換を起こさない L-Myc を使い、エピソーマル・プラスミドでヒトiPS細胞を作製。多くのiPS細胞は導入遺伝子が組み込まれていなかった(Okita et al., Nat Methods 2011)
センダイウイルス・ベクター宿主ゲノムに組み込まれないRNAウイルス宿主ゲノムを改変するリスクのないRNAウイルスで、導入遺伝子は細胞分裂とともに減少し、抗体を使った選別で除去できた(Fusaki et al., Proc Jpn Acad Ser B 2009)

すべて事実(CiRA[参考資料4]、Okita et al.[参考資料5]、Fusaki et al.[参考資料6])。

「組み込む」導入と「組み込まない」導入(概念図) 灰色の帯=細胞のゲノムDNA/赤=導入した遺伝子 組み込み型(レトロウイルスなど) 導入遺伝子がゲノムの中に入る 入る場所はランダム 周りの遺伝子を壊したり 活性化したりするおそれ 分裂しても残り続ける 非組み込み型(エピソーマル・センダイ) 導入遺伝子はゲノムの外に置かれる 導入直後 分裂を重ねた後 分裂とともに減る。残っていないかを試験で確認 ※ 組み込み型の危険性は CiRA[参考資料4]、エピソーマルは Okita et al.[参考資料5]、センダイは Fusaki et al.[参考資料6]によります。 ※ エピソーマル・ベクターが残っていないかは品質試験で確認されます。CiRA財団ではストック株の除外理由の上位でした(第6章)。 ※ 図は模式です。DNAの長さ・導入位置・コピー数・減少の速さを示すものではありません。
図2 概念図(ベクター作図)。各方法の特徴は CiRA[参考資料4]、Okita et al.[参考資料5]、Fusaki et al.[参考資料6]の記述によります。帯や円の長さ・大きさ・配置は模式で、実際のDNA構造や導入量を示すものではありません。2つに分けて描いたのは本記事による整理です。

実際に承認された製品でも、この流れが確認できます。 PMDAの承認品目一覧は、アムシェプリ(ラグネプロセル)を「健康成人の末梢血単核球にエピソーマルベクターにより遺伝子導入を行い作製したiPS細胞」から作った製品と記載しています事実。 出発材料が皮膚ではなく血液であることも、採取のしやすさという点で注目に値します(本記事による解説)。

5. 培養方法の変遷 ― フィーダー細胞から、足場タンパク質へ

ヒトの多能性幹細胞は、長いあいだフィーダー細胞(マウス由来の線維芽細胞などを培養皿に敷き、その上で幹細胞を育てる支持細胞)や、 動物由来の成分を含む基材の上で培養されてきました。 医療に使うには、GMPに準拠した管理された条件で細胞を作る必要があり、従来の培養系には解決すべき課題がありました事実。

ラミニンE8断片 ― 「最小限の接着部分」だけを切り出す

2012年、宮崎らは、インテグリン結合活性をもつ最小の断片であるラミニンのE8断片(LM-E8)の組換えタンパク質が、 ヒトES細胞・iPS細胞の接着をマトリゲルや全長のラミニンよりも高めることを報告しました事実。 LM-E8は、組成が明らかでゼノフリー(動物由来成分を含まない)の培地で、単一細胞にばらして継代しても長期の自己複製を支えました。 ES細胞は30継代後も正常な核型を保っていました事実。

ラミニン511-E8 + ゼノフリー培地 ― iPS細胞の「樹立」までフィーダーなしで

2014年、中川らは、組換えラミニン511のE8断片を足場とし、完全ゼノフリーの培地(StemFit)と組み合わせる培養系を報告しました事実。 この系では、細胞を単一細胞にばらして長期間安定して継代でき、核型異常は見られませんでした。 さらに、ヒトの初代線維芽細胞や血液細胞から、フィーダーフリーかつゼノフリーの条件でiPS細胞を樹立できました事実。

培養皿の断面で見る:フィーダー培養とフィーダーフリー培養(概念図) 下から順に:培養皿の底面 → 足場 → iPS細胞。上には培地が満たされている フィーダー培養(従来) フィーダーフリー培養 培地 ゼノフリー培地 iPS細胞のコロニー iPS細胞 灰色=フィーダー細胞(支持細胞)の層 橙の薄層=ラミニンE8断片のコート ※ ラミニンE8断片は Miyazaki et al.[参考資料7]、ラミニン511-E8とゼノフリー培地での樹立・維持は Nakagawa et al.[参考資料8]によります。 ※ フィーダー細胞の種類や、従来法の具体的な構成は研究室によって異なります。左図は一般的な構成を模式化したものです。 ※ 層の厚み・細胞の大きさ・コロニーの形はすべて模式で、実寸の比率ではありません。
図3 概念図(ベクター作図)。フィーダーフリー培養の構成は Miyazaki et al.[参考資料7]、Nakagawa et al.[参考資料8]によります。層の厚み・細胞の大きさ・形はすべて模式で、実際の断面像ではありません。左右2つに分けて描いたのは本記事による整理です。
素材技術者の視点①:足場は「接着剤」ではなく「情報を渡す界面」

宮崎らの論文で重要なのは、ラミニンの全長ではなく、インテグリン結合活性をもつ「最小の断片」を使った方が、 接着がマトリゲルや全長のラミニンよりも高まったという点です事実。

材料の言葉に置き換えると、これは「表面を覆う量」よりも「表面が細胞に何を提示しているか」が効いているということです。 細胞は、培養皿の表面に並んだタンパク質の特定の部位を、受容体(インテグリン)で「読んで」接着しています。 足場材料は、細胞に信号を渡す機能性界面として設計する対象になります(本記事による解説)。

もう一つの利点は組成が明らかなことです。マトリゲルのような動物由来の抽出物とちがい、 組換えタンパク質の断片ならロット間の差を管理しやすく、ゼノフリーにできる。 GMPで製造する医療用の細胞では、この「何が入っているか説明できる」ことが決定的に重要です(本記事による解説)。

さらに、単一細胞にばらして継代できることは、工程の自動化・計数・播種密度の管理に直結します。 コロニーを手で切り分ける操作は、熟練に依存し、ばらつきの原因になりやすいからです(本記事による解説)。 合成高分子の表面で同じ機能を出せるか、コーティングの均一性をどう保証するか——ここに素材側の仕事があります。

6. 品質評価 ― 何を見て「使える株」を選ぶのか

iPS細胞は、作れば同じものができるわけではありません。 京都大学iPS細胞研究財団(CiRA財団)は、臨床用のiPS細胞ストックを構築した10年間の成果を2022年にMed誌で報告し、 品質評価で「選ばれなかった株」の理由まで公開しています事実。

評価の観点CiRA財団の報告(除外・注意の理由として挙げられたもの)
導入ベクターの残存樹立に必要なエピソーマルベクターの残存。一次ストック(PCS)でのスクリーニングで最も顕著な除外理由だった。単一細胞クローニングの導入(Method2)で残存レベルが明らかに低下
ゲノム変異ゲノム解析で判明したがん関連遺伝子のSNV/indel、CNV(コピー数の変化)と構造異常。11番染色体に特徴的な構造変異が検出され、樹立・培養法に改善の余地があることが示唆された
未分化マーカーSSEA-4 と TRA-2-49 は問題なかったが、TRA-1-60 の低発現のため積極的に選択されなかった株があった
核型1名のドナーから作製した一次ストックの4割近くに核型異常が検出された。他のドナーではほとんど検出されず、ドナー細胞の加齢の影響などの可能性が示唆された
汚染検査無菌試験を含む汚染検査などの規格試験で除外された株はなかった

すべて事実(CiRA財団 お知らせ[参考資料9]、Yoshida et al., Med 2023[参考資料10])。

「作った株」が「使える株」になるまで(本記事による整理) CiRA財団の臨床用iPS細胞ストックの品質評価から、主な関門を抜き出したもの 樹立 HLAホモ接合体 ドナーの血液 からiPS細胞を 多数作る ベクター残存 エピソーマル ベクターが 残っていないか 最も顕著な除外理由 ゲノム がん関連遺伝子 の変異、CNV、 構造異常、核型 未分化性 未分化マーカー の発現、三胚葉 への分化能 ストック 7名のドナー から選んだ 27株 日本人の約40%に適合 無菌試験を含む汚染検査で除外された株は、なかったと報告されています ※ 除外理由とその頻度、7名・27株・約40%は CiRA財団[参考資料9]および Yoshida et al., Med 2023[参考資料10]によります。 ※ 関門の順番と4つへのまとめ方は本記事による整理で、実際の試験の実施順ではありません。 ※ 「日本人の約40%に適合」は HLA-A、-B、-DR の3座についての適合です。
図4 概念図(ベクター作図)。各関門の内容は CiRA財団[参考資料9]と Yoshida et al.[参考資料10]の記述によります。関門の順番と4つへの整理は本記事によるもので、実際の試験工程の順序を示すものではありません。

なお、承認された心筋細胞シート(リハート)の審査について、厚生労働省の資料は、 製造過程の各段階で腫瘍化にかかわるゲノム変異が起きていないこと、未分化細胞が混入していないことを確認し、 未分化iPS細胞が理論上存在しない規格値を出荷の要件として設定していると説明しています事実。 品質評価は「出発株を選ぶ」段階だけでなく、最終製品の出荷判定まで続いています。

7. iPS細胞ストック ― HLAホモ接合体ドナーという考え方

移植で拒絶反応を最も起こしにくいのは、患者本人の細胞から作ったiPS細胞です。 しかしCiRA財団は、患者ごとの細胞製造・品質試験には時間とコストがかかることを課題として挙げています事実。 その解決策の一つが、あらかじめ作って品質を確認しておく「再生医療用iPS細胞ストック」です。

HLAとは

HLA(ヒト白血球抗原)は、ほぼすべての細胞がもち、自分と他人、異常な細胞を見分ける目印になっている分子です事実。 CiRA財団のストックは、免疫拒絶で重要な HLA-A、-B、-DR の3座について、日本人に多い型をホモ接合体(父母から同じ型を受け継いでいる状態)でもつドナーから作られています事実。

なぜ「HLAホモ接合体」のドナーなのか(概念図) 色つきの帯=HLAの型の組(ハプロタイプ)。人は父母から1組ずつ、計2組を受け継ぐ ドナー(ホモ接合体) 青と青:同じ型を2組 このドナーの細胞が もつ目印は「青」だけ → 青をもつ人に適合しやすい 患者側(ヘテロ接合体が多い) 青+橙:適合 青+緑:適合 青+紫:適合 橙+緑:不適合 ドナーが「青+橙」のヘテロ接合体だと、 患者も青と橙の両方をもっていないと 適合しない → 対象が大きく狭まる ※ HLA-A、-B、-DR の3座をホモ接合体でもつドナーからストックを作るという考え方は CiRA財団[参考資料9]によります。 ※ 図は1組の型を1色で表した単純化です。実際の適合判定は座ごとに行われ、ここでいう「適合」は拒絶反応が起きないことを意味しません。 ※ 患者の型の例と「適合/不適合」の描き分けは本記事による例示です。
図5 概念図(ベクター作図)。HLAホモ接合体ドナーからストックを作るという方針は CiRA財団[参考資料9・11]によります。色分けと患者の例は本記事による単純化で、実際のHLA適合判定の方法を示すものではありません。「適合」は拒絶反応が起きないことを保証するものではなく、承認製品でも免疫抑制剤が使われています(第9章)。
項目CiRA財団の公表内容
開始2013年、AMEDの委託を受けCiRAが開始。2020年4月にCiRA財団に継承
構築したストック日本人の保有頻度上位4位までのHLA型をホモ接合体でもつドナー計7名の末梢血またはさい帯血から樹立し、品質試験の結果選択した27株。日本人の約40%に適合(HLA-A、-B、-DR の3座)
臨床での使用2015年8月に最初の臨床用iPS細胞を出荷。10以上の臨床試験(再生医療等安全性確保法下の臨床研究を含む)で使用され、2022年時点で移植細胞を原因とする有害事象は報告されていない
ドナー募集の終了(2025年2月)約90名が候補として同意し、最終的にHLA型上位20位、計37名のHLAホモドナーから血液の提供を受けた(日本人の約60%をカバーする数)。うち日本人の約40%をカバーするストックを製造・提供。2023年には米国での治験も開始。提供された血液は液体窒素タンクで保管
次の世代HLA型をゲノム編集した「HLAゲノム編集iPS細胞ストック」、患者本人の細胞から作る「マイiPS細胞」の研究開発を進めている

すべて事実(CiRA財団[参考資料9・11])。ドナー数・株数・カバー率は発表時点のものです。

8. 再生医療への応用 ― 疾患ごとの臨床段階

ここでは、iPS細胞由来の細胞を患者に移植する取り組みを、規制上の段階で区別して整理します。 日本では、医療機関が行う「臨床研究」(再生医療等安全性確保法の手続き)と、 製品として承認を得るための「治験」(医薬品医療機器等法=薬機法の手続き)が別の枠組みで動いています(厚生労働省の説明にもとづく本記事の整理)。

段階の読み方(本記事での用語)
  • 臨床研究:再生医療等安全性確保法のもとで医療機関が実施する研究。製品の承認申請には直結しない
  • 治験:薬機法のもとで、承認申請に使うデータを集める臨床試験
  • 承認申請:企業などが厚生労働大臣に製造販売承認を申請した段階
  • 条件及び期限付承認:再生医療等製品に設けられた仕組み。有効性が推定され安全性が確認されたとして、条件と期限を付けて承認される。期限内に改めて承認申請を行う必要がある

確認できなかった段階は、表の中で「確認できず」と書き、未確定/将来として扱います。

疾患(移植する細胞)臨床研究治験承認申請承認
加齢黄斑変性など
(網膜色素上皮=RPE)
あり。2014年に患者自身のiPS細胞由来RPEシートを1例に移植(NEJM 2017)。他家(HLA適合)iPS細胞由来RPE細胞懸濁液の臨床研究(神戸市立医療センター中央市民病院ほか、2017年に1例目を移植)。5例の1年間の結果を報告(J Clin Med 2020)準備完了を公表。他家iPS細胞由来RPE細胞(HLCR011)の網膜色素上皮裂孔を対象とするフェーズ1/2試験(2023年6月、住友ファーマ)。登録・結果は確認できず確認できず確認できず
パーキンソン病
(ドパミン神経前駆細胞)
―あり。京都大学病院の医師主導治験(フェーズ1/2、7例、jRCT2090220384、Nature 2025)2025年8月5日(住友ファーマ)2026年3月6日 条件及び期限付承認(アムシェプリ、期限7年)
重症心不全
(心筋細胞シート)
―あり。医師主導治験(移植8例)2025年4月4日(クオリプス)2026年3月6日 条件及び期限付承認(リハート、期限7年)
角膜上皮幹細胞疲弊症
(角膜上皮細胞シート)
あり。他家iPS細胞由来の角膜上皮細胞シートを4例4眼に移植(Lancet 2024)確認できず(論文は「より大規模な臨床試験を計画」と記載)確認できず確認できず
脊髄損傷(亜急性期)
(神経前駆細胞)
あり。2020〜2025年、4例に移植(慶應義塾大学、Nature Medicine 2026)確認できず確認できず確認できず
1型糖尿病
(膵島細胞シート)
―あり。京都大学病院の医師主導治験(jRCT2053240146)。2025年2月に1例目を移植確認できず確認できず

「あり」「日付」は事実(各出典は下の本文と監査表)。「確認できず」は、本稿の調査時点(2026年9月)で一次情報を確認できなかったことを意味し、未確定/将来です。「―」はその段階を経ていない、または本稿の対象外であることを示します。

疾患ごとに、どの段階まで確認できたか(2026年9月時点・本記事による整理) 塗りつぶし=一次情報で確認できた段階/点線枠=確認できなかった段階/空欄=経ていない 臨床研究 治験 承認申請 承認 加齢黄斑変性など(RPE) パーキンソン病 重症心不全(心筋シート) 角膜上皮幹細胞疲弊症 脊髄損傷(亜急性期) 1型糖尿病(膵島シート) 2014年〜 準備完了を公表 医師主導治験 2025年8月 2026年3月 条件付 医師主導治験 2025年4月 2026年3月 条件付 2019年〜 2020〜2025年 2025年2月 1例目 ※ 「条件付」は条件及び期限付承認(期限7年)で、期限内に改めて承認申請が必要です。各日付と段階の出典は本文の表と監査表のとおりです。 ※ 点線枠は「一次情報を確認できなかった」ことを示し、その段階に進んでいないと断定するものではありません。
図6 概念図(ベクター作図)。各段階と日付は PMDA[参考資料17]、厚生労働省[参考資料18]、各実施機関の発表と論文[参考資料12〜16・22〜24・31・32]によります。点線枠は本稿の調査範囲で一次情報を確認できなかった段階で、その段階が存在しないことを意味しません。6疾患を選んだのは本記事によるもので、iPS細胞を使ったすべての臨床の取り組みを網羅したものではありません。

(1) 加齢黄斑変性など ― 網膜色素上皮(RPE)

iPS細胞由来の組織をヒトに移植した最初の報告です。 2017年のNEJM論文によると、滲出型加齢黄斑変性の患者2名の皮膚線維芽細胞からiPS細胞を作りRPE細胞に分化させ、 そのうち1名に自家(患者本人の)iPS細胞由来RPE細胞シートを網膜下に移植しました事実。 論文は、移植1年後にシートは保たれ、最高矯正視力は改善も悪化もしなかった、嚢胞様黄斑浮腫がみられた、と記載しています事実。

続いて、神戸市立医療センター中央市民病院などの4機関は、他家iPS細胞由来RPE細胞懸濁液を移植する臨床研究を行い、2017年に1例目の移植を実施しました事実。2020年の論文は、iPS細胞バンクで作られたHLAホモ接合体のiPS細胞由来RPE細胞を、HLAが適合する患者5例に移植した結果を報告しています。 免疫抑制剤の全身投与は行わず局所ステロイドを用い、1年間の観察で移植片の異常増殖はなく、1例で軽度の免疫拒絶が疑われ局所ステロイドで対処したとされています事実。 住友ファーマは2023年6月、他家iPS細胞由来RPE細胞(HLCR011)の網膜色素上皮裂孔を対象とするフェーズ1/2試験(治験)の開始準備が整ったと発表しました事実。 この治験の登録・結果、承認申請の有無は、本稿の調査範囲では確認できませんでした未確定/将来。

(2) パーキンソン病 ― ドパミン神経前駆細胞

京都大学医学部附属病院のフェーズ1/2試験では、50〜69歳の7名が、iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞の両側移植を受けました(jRCT2090220384)事実。 Nature誌の論文は、重篤な有害事象はなく、軽度〜中等度の有害事象が73件あったこと、MRIで移植片の過剰増殖はみられなかったことを報告しています。 有効性評価の対象となった6名のうち、運動症状スコア(MDS-UPDRS part III)はオフ時で4名、オン時で5名が改善したとしています事実。 使われたのはHLAホモ接合体の他家iPS細胞由来の細胞で、免疫抑制はタクロリムス単独でした事実。

この結果にもとづき、住友ファーマが2025年8月5日に承認申請し、2026年3月6日に条件及び期限付承認(販売名アムシェプリ、一般的名称ラグネプロセル)を取得しました事実。 住友ファーマは本製品を「iPS細胞由来の再生・細胞医薬品として世界初の製品」としています事実。 厚生労働省の資料では、期限は7年、製造販売後臨床試験の目標症例数は35例(65歳以下30例・65歳超5例)とされています事実。 同資料は、非盲検非対照の試験であり、定位脳手術を受けたこと自体によるプラセボ効果が一定程度存在する可能性は否定できない、とも記載しています事実。

(3) 重症心不全 ― 心筋細胞シート

クオリプスが申請したヒト(同種)iPS細胞由来心筋細胞シート(販売名リハート)は、2025年4月4日に申請され、2026年3月6日に条件及び期限付承認を取得しました(期限7年)事実。 効能は「薬物治療や侵襲的治療を含む標準治療で効果不十分な虚血性心筋症による重症心不全の治療」です事実。

厚生労働省の資料によると、臨床試験は非盲検・非対照で、移植症例数は8例です。 主要評価項目(移植後26週の心エコーによる左室駆出率の改善)は8例中2例で、 副次評価項目を含めて「有効性を推定できる一定の基準を満たしている」と判断されました事実。 また、本品は移植後に心筋として収縮するわけではなく、分泌されるサイトカイン等による血管誘導などを通じて効果を発揮すると想定されていること、 動物試験では移植後3か月程度で消失することが判明していることも記載されています事実。 製造販売後の使用成績調査の目標症例数は75例です事実。

(4) 角膜 ― 角膜上皮細胞シート

大阪大学のグループは2024年、角膜上皮幹細胞疲弊症の患者4例4眼に、他家iPS細胞由来の角膜上皮細胞シートを移植した結果をLancet誌に報告しました(患者の登録期間は2019年6月〜2020年11月)。 HLAは不一致で、2例は低用量シクロスポリンを使用、2例は使用しませんでした事実。 2年間の観察期間中、腫瘍形成や臨床的な拒絶反応などの重篤な有害事象は起きなかったとされています事実。 論文は「より大規模な臨床試験が計画されている」としていますが、その治験の開始は本稿の調査範囲では確認できませんでした未確定/将来。

(5) 脊髄損傷 ― 神経前駆細胞

慶應義塾大学は、亜急性期の脊髄完全損傷の患者を対象とする臨床研究で、2020年から2025年にかけて4症例に移植を行いました(再生医療等提供計画 jRCTa031190228)事実。 2026年7月の発表では、移植後最長4年間の追跡で、移植細胞に起因する腫瘍形成や重篤な有害事象は認められなかったとしています事実。 同時に、症例数が4例と少なく対照群を設けていないことから、有効性は今後別の臨床試験で検証する必要があると明記しています事実。

(6) 1型糖尿病 ― 膵島細胞シート

京都大学医学部附属病院は、同種iPS細胞由来膵島細胞シート(OZTx-410)の医師主導治験(jRCT2053240146)で、2025年2月に1例目の移植を行ったと発表しました事実。 治験の目的はヒトでの安全性の評価で、経過観察は最大5年間とされています事実。 シートには、CiRA財団の「再生医療用iPS細胞ストック」から分化させた膵島細胞(iPICs)が均等に分散した薄層として含まれます事実。

9. 承認された2品目を「製造と物流」の目で読む

承認された2品目は、どちらも健常ドナー由来(他家)のiPS細胞から作られています。 それでも、届け方はまったく違います。ここに、細胞製品に特有の工程と物流の難しさが凝縮されています。

項目アムシェプリ(パーキンソン病)リハート(重症心不全)
細胞の形ドパミン神経前駆細胞の細胞塊を含む懸濁液。1容器(1mL)あたり1×10⁶個相当心筋細胞を1枚あたり3.3×10⁷個となるようシート状に形成し、ゼラチンとHBSS(+)から成るゲルに包埋
保存状態非凍結状態の製品。有効期間31時間。手術の都度製造凍結細胞を解凍・培養してシート化し、冷凍せずにシートの形状を保ったまま輸送。独自の輸送液で常温で2日程度輸送できるとされる
移植定位脳手術で両側の被殻へ。片側あたり5.4×10⁶個を目標心臓表面に移植
免疫抑制タクロリムス。投与開始後1年を目安に、以後12週間かけて漸減・中止(必要に応じ延長)移植後90日間、3剤(プレドニゾロン、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル)
製造拠点S-RACMOが製造。施設「SMaRT」(大阪府吹田市)クオリプスの商業用細胞培養加工施設「CLiC-1」(大阪府箕面市)
保険償還価格55,306,737円(18瓶1組、令和8年5月20日収載予定の資料)53,200,000円(令和8年9月1日収載予定の資料)

すべて事実(PMDA承認品目一覧[参考資料17]、厚生労働省[参考資料18・20・21]、住友ファーマ[参考資料16]、クオリプス[参考資料19])。常温で2日程度という輸送条件はクオリプス自身の説明です。

生きた細胞を、どうやって患者に届けるか(本記事による整理) 公表資料で確認できた3つの方式。どれが優れているかを示すものではありません A. 凍結して保管 脊髄損傷の臨床研究 分化させた細胞を凍結保管 移植予定日の4日前に融解 回復培養してから移植 時間の余裕は大きい 融解後の回復工程が要る B. 非凍結・短時間 アムシェプリ 非凍結状態の細胞塊 手術の都度製造 31時間 有効期間 製造と手術の日程を合わせる C. 非凍結・ゲル包埋 リハート ゼラチンとHBSS(+)の ゲルに包埋したシート 常温 約2日 輸送できるとされる期間 独自の輸送液による(企業説明) ※ 出典:A は慶應義塾大学[参考資料23]、B は厚労省[参考資料18]・住友ファーマ[16]、C は PMDA[17]・クオリプス[19]。 ※ Cの「常温で2日程度」はクオリプス自身の説明で、規制当局の資料では確認していません。 ※ 3方式への整理は本記事によるもので、製品間の優劣や、治療効果の差を示すものではありません。
図7 概念図(ベクター作図)。各方式の内容は慶應義塾大学[参考資料23]、厚生労働省[参考資料18]、住友ファーマ[参考資料16]、PMDA[参考資料17]、クオリプス[参考資料19]によります。3方式に整理したのは本記事によるもので、優劣を示すものではありません。
本稿の計算:細胞の「量」と「価格」の桁

公表値から、いくつか換算してみます本稿の計算。

  • アムシェプリの移植細胞数(目標):片側 5.4×10⁶個 × 両側 = 1.08×10⁷個
  • アムシェプリ1組に含まれる細胞数:18瓶 × 1×10⁶個 = 1.8×10⁷個。目標移植数との比は 1.08 ÷ 1.8 = 0.6
  • 浮遊培養の報告との比較:Kwok らは、使い捨てバイオリアクターで1.6×10⁷個のiPS細胞を14日で2×10⁹個に増やしたと報告しています事実。2×10⁹ ÷ 3.3×10⁷(リハート1枚の心筋細胞数)= 約61

前提と限界:1組の細胞数と目標移植数の比(0.6)が何を意味するか(調製ロス、予備、濃度調整など)は、本稿が参照した資料では確認できませんでした。 「約61」は未分化のiPS細胞の数と心筋細胞の数を単純に割ったもので、分化の収率・純化・シート化の歩留まりを一切考慮していません。 1回の培養で61枚のシートが作れるという意味ではありません。桁の感覚をつかむための計算です。

1回の移植に使う細胞は「千万個」の桁(本稿の計算を含む) 1.08×10⁷ アムシェプリの移植目標 5.4×10⁶個 × 両側 本稿の計算 3.3×10⁷ リハート1枚の心筋細胞 PMDA承認品目一覧の記載 公表値 2×10⁹ 浮遊培養で14日間に得た 未分化iPS細胞(論文値) 公表値 2×10⁹ ÷ 3.3×10⁷ = 約61(分化・純化の収率は考慮していない) ※ 5.4×10⁶個・両側は厚生労働省資料[参考資料18・21]、3.3×10⁷個は PMDA[参考資料17]、2×10⁹個は Kwok et al.[参考資料27]によります。 ※ 1.08×10⁷と約61は本記事が算出した値です。未分化iPS細胞と分化後の細胞を同列に比べており、製造能力の見積もりではありません。 ※ Kwok らの報告は論文の実験条件によるもので、承認製品の製造工程を示すものではありません。
図8 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。5.4×10⁶個は厚生労働省[参考資料18・21]、3.3×10⁷個は PMDA[参考資料17]、2×10⁹個は Kwok et al.[参考資料27]の公表値です。1.08×10⁷と約61は本記事が算出した値で、公表値ではありません。分化・純化・シート化の歩留まりを考慮しておらず、製造能力の見積もりではありません。
素材技術者の視点②:「31時間」と「常温2日」は、材料とパッケージの問題でもある

アムシェプリの有効期間31時間と手術の都度製造という記載事実は、 厚生労働省の資料にある「患者毎にiPSの分化誘導段階から製造を始めるため供給に限界がある」という一文事実とつながっています。 他人の細胞から作る「作り置き型」の製品でありながら、最後の工程は患者ごとの予約生産になっている、ということです(本記事による解説)。

一方、リハートは細胞シートをゼラチンとHBSS(+)のゲルに包埋しています事実。 クオリプスは、輸送液の独自技術で常温で2日程度シートの形状を保って輸送でき、大阪から東京の医療機関まで新幹線などで運べると説明しています事実。

ここから読めるのは、細胞製品の「使える時間」を決めているのは、細胞だけではないということです。

  • 包埋材料:ゲルは、薄く壊れやすい細胞シートを機械的に支え、形を保つ役割を担っているように読めます
  • 保存液・輸送液:浸透圧・pH・栄養・温度変化への緩衝が、生存時間を左右します
  • 容器:細胞が壁面に付着しない表面、溶出物の少なさ、ガス透過性、振動や温度の管理

凍結すれば時間の余裕は生まれますが、融解後に回復培養が必要になる場合があります(脊髄損傷の臨床研究では移植4日前に融解して回復培養)事実。 非凍結で届けるなら、包埋材・保存液・容器という「材料の組み合わせ」で数十時間〜数日を稼ぐことになります。 どちらを選ぶかは、細胞の種類と製品の形で変わります(本記事による解説)。

10. 創薬・病態研究への応用 ― 疾患iPS細胞

iPS細胞のもう一つの大きな使い道は、移植ではなく「試験管の中の患者の細胞」として使うことです。 CiRAは、難治性疾患の患者の体細胞からiPS細胞を作り、神経・心筋・肝臓・膵臓などの患部の細胞に分化させて、 病気の原因を解明する研究が期待されていると説明しています事実。 脳の神経細胞のように、患者から直接取り出すことが難しい細胞を、患者と同じ遺伝情報をもったまま何度でも作れる点が強みです(本記事による解説)。

  • CiRAが挙げる創薬治験:2017年に進行性骨化性線維異形成症(FOP)の候補薬の治験、2019年に筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者を対象とした創薬治験、2020年に家族性アルツハイマー病患者を対象とした創薬治験が開始された事実
  • ALSとロピニロール:慶應義塾大学のグループは、iPS細胞を用いた創薬で見出されたロピニロールのフェーズ1/2a試験を報告しました。孤発性ALSの患者20名が24週間の二重盲検期間に参加し、有害事象は両群で同程度でした。二重盲検期間の機能評価スケール(ALSFRS-R)の低下はプラセボ群と差がなかった一方、非盲検の延長期間では低下の抑制がみられたとしています。論文自身が、症例数が少なく延長期間の脱落が多いことを限界として挙げ、さらなる検証が必要としています事実

この用途では、移植用ほどの細胞量や無菌性は要りませんが、同じ条件で繰り返し分化させられる再現性と、 多数の化合物を並べて評価できる形式(多ウェルのプレートなど)への適合が求められます(本記事による解説)。

11. 課題 ― 腫瘍化・コスト・ばらつき・スケールアップ

(1) 腫瘍化リスク

CiRAは、iPS細胞の腫瘍化について2つのメカニズムが考えられてきたと説明しています事実。

  • 初期化因子とゲノムの傷:導入した初期化因子が再活性化すること、あるいは因子を導入する過程でゲノムに傷がつくこと。c-MycからL-Mycへの変更、ゲノムに組み込まないベクターへの変更で対応してきた
  • 未分化細胞の残存:目的の細胞に分化しきれていない細胞が残ると、テラトーマ(奇形腫)を形成するおそれがある。分化させ、未分化な細胞を取り除いてから移植することが必要

承認製品では、前述のとおり未分化iPS細胞が理論上存在しない規格値を出荷要件とし、移植後もMRIやCTで経過を追う計画が示されています事実。 長期の安全性は、条件及び期限付承認の期間中の調査で引き続き確認されることになります未確定/将来。

(2) 製造コスト

保険償還価格は、アムシェプリが55,306,737円、リハートが53,200,000円で、いずれも原価計算方式で算定されています事実。 つまり、製造原価の積み上げが価格の基礎になっています。CiRA財団も、患者ごとに作る場合の時間と費用を課題として挙げています事実。 原価のうち何が大きいのか(人件費、施設、培地・試薬、品質試験など)の内訳は、本稿が参照した公開資料では確認できませんでした。

(3) 品質のばらつき

第6章のとおり、同じ方法で作っても、ベクター残存、ゲノム変異、核型異常、未分化マーカーの発現で株ごとに差が出ます。 とくに1名のドナー由来の一次ストックの4割近くに核型異常がみられ、ドナー細胞の加齢の影響などの可能性が示唆されたという報告は、 出発材料(ドナー)そのものが品質のばらつきの源になりうることを示しています事実。

(4) スケールアップ

Otsujiらは、治療や創薬に使うには大規模な細胞生産が必要だが、従来の接着培養をスケールアップすると、均一な高品質を低コストで保つのが難しいと指摘しています事実。 浮遊培養は接着面を必要とせずスケールアップしやすい一方、細胞凝集塊どうしの自然な融合、分散・再凝集による継代の難しさ、 撹拌によるせん断力が多能性幹細胞を傷つけることが課題として挙げられています事実。

12. 素材技術者の視点:大量培養・凍結保存・輸送

「面」で増やすか、「体積」で増やすか(概念図) 接着培養は培養面積に比例、浮遊培養は容器の体積で増やす 接着培養:容器の数を増やす 培養面を何枚も並べる・積み重ねる 操作の回数と容器の数が増えていく 足場のコートの均一性が効く 浮遊培養:槽の体積を大きくする 細胞の 凝集塊 撹拌翼 凝集塊の大きさ・融合・せん断力が課題 液の性質と撹拌の設計が効く ※ 接着培養の拡大の難しさと浮遊培養の課題は Otsuji et al.[参考資料28]、使い捨て槽での浮遊培養は Kwok et al.[参考資料27]によります。 ※ 図は模式で、容器の形状・撹拌翼・凝集塊の大きさや数を示すものではありません。 ※ 左右2つへの整理と、下段の「効く点」は本記事による読み取りです。
図9 概念図(ベクター作図)。接着培養・浮遊培養の特徴は Otsuji et al.[参考資料28]と Kwok et al.[参考資料27]によります。容器・撹拌翼・凝集塊はすべて模式です。下段の「効く点」は本記事による読み取りで、論文の結論ではありません。
淡いピンク色の液体の中に、半透明の小さな球がまばらに浮かんでいる抽象的な概念イメージ
図10 概念図(AI生成イメージ)。「細胞の凝集塊を液の中で浮かせて育てる」という状況を雰囲気として表現したものです。実際の細胞・凝集塊の大きさや形・顕微鏡像・培養装置を示すものではありません。
素材技術者の視点③:大量培養・凍結・輸送で、材料がかかわる場所

(1) 大量培養:液と撹拌の設計

Kwok らは、使い捨てバイオリアクターで、平均直径で約200〜320µmの凝集塊としてiPS細胞を増やし、 40日以上未分化性を保ったまま浮遊培養できたと報告しています事実。 Otsuji らは、機能性高分子を含む3次元の球状培養系で、凝集塊の融合やせん断による損傷といった浮遊培養の主要な問題を解決できる可能性を示しました事実。

ここで材料が効くのは、培地そのものの物性です。凝集塊が沈まず、くっつき合わず、しかも撹拌で傷つかない—— そのために液の粘弾性や、細胞と相互作用しない高分子の設計が工程の性能を決めます。 また、使い捨ての培養バッグ・容器は樹脂製品であり、溶出物・吸着・ガス透過性が品質管理の対象になります(本記事による解説)。 京都大学病院の膵島細胞シートの治験製品の製造にも、使い捨ての連続培養システムが使われていると装置メーカーが発表しています事実。

(2) 凍結保存:凍結保護剤と、融解後の回復

ジメチルスルホキシド(DMSO)は、凍結保存の初期から多くの動物細胞で使われてきた凍結保護剤で、 細胞移植で数十年使われてきた一方、細胞への影響や患者での毒性が議論され、より毒性の低い代替物の探索が続いています事実。 iPS細胞ストックのドナー血液も液体窒素タンクで保管されています事実。 凍結保護剤・凍結容器・冷却速度の管理は、「生きたまま止めて、生きたまま戻す」ための材料とプロセスの問題です(本記事による解説)。 承認されたiPS細胞製品の凍結保護剤の種類と濃度は、本稿が参照した資料では確認できませんでした。

(3) 輸送:時間を稼ぐのは材料の組み合わせ

第9章で見たとおり、非凍結で届ける製品では、包埋ゲル・輸送液・容器の組み合わせが使える時間を決めます。 医薬品の輸送では「温度」が主な管理項目ですが、生きた細胞ではそれに加えて、酸素と栄養、老廃物、振動、形状の保持までが品質にかかわります(本記事による解説)。

この記事のまとめ
  • iPS細胞は、4因子(Oct3/4・Sox2・Klf4・c-Myc)で体細胞を多能性の状態に戻した細胞です。マウスは2006年、ヒトは2007年に報告されました事実
  • 作製はゲノムに組み込まない方法へ、培養はフィーダーからラミニンE8断片などの足場へと変わってきました事実
  • CiRA財団のストックは7名のドナー・27株で、日本人の約40%に適合します(HLA-A、-B、-DR)事実
  • 2026年3月6日、心筋細胞シートとドパミン神経前駆細胞が条件及び期限付承認を取得しました。期限は7年で、本承認ではありません事実
  • 角膜・脊髄損傷・1型糖尿病・RPEは、臨床研究または治験の段階で、承認申請は確認できませんでした未確定/将来
  • 実用化の律速は「作る」から「同じ品質で大量に作り、生きたまま届ける」へ。足場・培地・容器・保存液という材料が、その中心にあります(本記事による解説)

13. 用語集

iPS細胞(人工多能性幹細胞)
体細胞に少数の因子を導入して、多能性と自己複製能をもたせた細胞。
ES細胞(胚性幹細胞)
受精後6、7日目の胚盤胞から作る多能性幹細胞。
多能性
外胚葉・中胚葉・内胚葉のどの系統の細胞にもなれる性質。
初期化(リプログラミング)
役割が決まった細胞を、多能性をもつ状態に戻すこと。
山中4因子
Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc。2006年・2007年の論文で使われた4つの転写因子。
エピソーマル・プラスミド
ゲノムに組み込まれず、細胞内で自律的に複製する環状DNA。
センダイウイルス・ベクター
宿主ゲノムに組み込まれないRNAウイルスを使った遺伝子導入の道具。
フィーダー細胞
幹細胞を育てるために培養皿に敷く支持細胞。
ラミニンE8断片
ラミニンのうち、インテグリン結合活性をもつ最小の断片。足場として使う。
ゼノフリー
動物(異種)由来の成分を含まないこと。
核型
細胞の染色体一式の本数と構造。異常があると品質上の問題になる。
未分化マーカー
未分化の幹細胞で高く発現する分子。SSEA-4、TRA-1-60 など。
HLA
ヒト白血球抗原。自分と他人を見分ける目印で、移植の拒絶反応にかかわる。
ホモ接合体
父母から同じ型を受け継いでいる状態。HLAホモのドナーは適合する人が多い。
テラトーマ
未分化な細胞が残った場合などにできる奇形腫(良性腫瘍)。
条件及び期限付承認
再生医療等製品で、条件と期限を付けて与えられる承認。期限内に改めて申請が必要。
臨床研究/治験
臨床研究は再生医療等安全性確保法、治験は薬機法のもとで行う臨床試験。
DMSO
ジメチルスルホキシド。細胞の凍結保存で広く使われる凍結保護剤。

14. 参考資料(一次情報)

  1. Takahashi K, Yamanaka S.「Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors」Cell 126(4):663-676, 2006 — doi.org
  2. Takahashi K, et al.「Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors」Cell 131(5):861-872, 2007 — doi.org
  3. Nobel Assembly at Karolinska Institutet「The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2012 — Press release」2012年10月8日 — nobelprize.org
  4. 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)「iPS細胞に関するよくある質問」 — cira.kyoto-u.ac.jp
  5. Okita K, et al.「A more efficient method to generate integration-free human iPS cells」Nat Methods 8(5):409-412, 2011 — doi.org
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  9. 京都大学iPS細胞研究財団「iPS細胞ストックプロジェクト 10年のまとめ論文公開」2022年11月17日 — cira-foundation.or.jp
  10. Yoshida S, et al.「A clinical-grade HLA haplobank of human induced pluripotent stem cells matching approximately 40% of the Japanese population」Med 4(1):51-66.e10, 2023 — doi.org
  11. 京都大学iPS細胞研究財団「医療用iPS細胞ストックプロジェクト HLA型ホモ接合体ドナーのリクルート終了について」2025年2月3日 — cira-foundation.or.jp
  12. Mandai M, et al.「Autologous induced stem-cell-derived retinal cells for macular degeneration」N Engl J Med 376(11):1038-1046, 2017 — doi.org
  13. 住友ファーマ「他家iPS細胞由来網膜色素上皮細胞のフェーズ1/2試験の開始について」2023年6月23日 — sumitomo-pharma.co.jp
  14. Sawamoto N, et al.「Phase I/II trial of iPS-cell-derived dopaminergic cells for Parkinson's disease」Nature 641:971-977, 2025 — doi.org
  15. Morizane A, et al.「Control of immune response in an iPSC-based allogeneic cell therapy clinical trial for Parkinson's disease」Cell Stem Cell 32(9):1346-1355.e3, 2025 — doi.org
  16. 住友ファーマ「日本における非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞『アムシェプリ』の製造販売承認取得に関するお知らせ」2026年3月6日 — sumitomo-pharma.co.jp
  17. 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「2025年度承認品目一覧(再生医療等製品)」(PDF) — pmda.go.jp
  18. 厚生労働省 医薬局 医療機器審査管理課「再生医療等製品3品目の条件及び期限付き承認について」中医協 総-11 参考2、令和8年4月8日(PDF) — mhlw.go.jp
  19. クオリプス「リハート®(iPS細胞由来心筋シート)」製品ページ — cuorips.co.jp
  20. 厚生労働省「再生医療等製品の保険適用について(令和8年9月1日収載予定)」中医協 総-2、令和8年7月22日(PDF) — mhlw.go.jp
  21. 厚生労働省「新再生医療等製品一覧表(令和8年5月20日収載予定)」中医協 総-5、令和8年5月13日(PDF) — mhlw.go.jp
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  24. 京都大学医学部附属病院「『iPS細胞由来膵島細胞シート移植に関する医師主導治験』における第一症例目の移植実施について」2025年4月15日 — kuhp.kyoto-u.ac.jp
  25. 佐竹マルチミクス「京都大学医学部附属病院『iPS細胞由来膵島細胞シート移植に関する医師主導治験』における当社培養装置の活用について」2025年4月17日 — prtimes.jp
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  29. Awan M, et al.「Dimethyl sulfoxide: a central player since the dawn of cryobiology, is efficacy balanced by toxicity?」Regen Med 15(3):1463-1491, 2020 — doi.org
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  31. Sugita S, et al.「HLA-matched allogeneic iPS cells-derived RPE transplantation for macular degeneration」J Clin Med 9(7):2217, 2020 — doi.org
  32. 神戸市立医療センター中央市民病院「滲出型加齢黄斑変性に対するiPS細胞由来網膜色素上皮細胞に関する臨床研究」 — chuo.kcho.jp

15. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
マウスの胚または成体の線維芽細胞に Oct3/4、Sox2、c-Myc、Klf4 の4因子を導入し、ES細胞の培養条件で多能性幹細胞を誘導したこと。Nanog が不要だったこと。iPS細胞と名づけたこと。ES細胞と同様の形態・増殖特性とマーカー遺伝子の発現、ヌードマウス皮下で三胚葉の組織を含む腫瘍、胚盤胞注入で胚発生に寄与したこと。それまで初期化を引き起こす因子がほとんど分かっていなかったことTakahashi & Yamanaka, Cell 2006[参考資料 1]https://doi.org/10.1016/j.cell.2006.07.024事実
成人ヒト皮膚線維芽細胞から同じ4因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)でiPS細胞を作製したこと。形態・増殖・表面抗原・遺伝子発現・エピジェネティックな状態・テロメラーゼ活性がヒトES細胞と類似し、試験管内とテラトーマで三胚葉に分化したことTakahashi et al., Cell 2007[参考資料 2]https://doi.org/10.1016/j.cell.2007.11.019事実
2012年のノーベル生理学・医学賞がガードンと山中に「成熟した細胞が初期化され多能性をもちうることの発見」に対して授与されたこと。ガードンの1962年の実験、山中の2006年の発見の説明ノーベル賞 プレスリリース[参考資料 3]https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2012/press-release/事実
iPS細胞が体細胞から作られ、ほぼ無限に増殖し多様な細胞に分化する能力をもつこと。ES細胞が胚盤胞から作られ胚を破壊するため抵抗感や規制があること、他人のES細胞由来細胞では拒絶反応が起こること、iPS細胞は患者自身の細胞から作れ拒絶反応が起こりにくいと考えられること。2006年の作製にレトロウイルス・ベクターを使ったこと、ゲノムへのランダムな組み込みによる腫瘍化の危険性、c-Mycががん原遺伝子として知られること、L-Mycへの変更とエピソーマル・プラスミドへの変更。腫瘍化の2つのメカニズム、未分化細胞を除いてから移植する必要。2014年に自家iPS細胞由来RPEの臨床研究が始まったこと。疾患iPS細胞による病態研究、FOP(2017年)・ALS(2019年)・家族性アルツハイマー病(2020年)の創薬治験の開始CiRA「iPS細胞に関するよくある質問」[参考資料 4]https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/faq/faq_ips.html事実
p53の抑制と非形質転換性のL-Mycを使い、エピソーマル・プラスミドでヒトiPS細胞を作製し、多くは導入遺伝子が組み込まれていなかったことOkita et al., Nat Methods 2011[参考資料 5]https://doi.org/10.1038/nmeth.1591事実
センダイウイルスが宿主ゲノムを改変するリスクのないRNAウイルスであり、導入遺伝子が細胞分裂とともに減少し、抗体を使った選別で除去できたことFusaki et al., Proc Jpn Acad Ser B 2009[参考資料 6]https://doi.org/10.2183/pjab.85.348事実
ラミニンE8断片がインテグリン結合活性をもつ最小の断片であり、マトリゲルや全長ラミニンより接着を高めたこと。ゼノフリー培地で単一細胞継代による長期自己複製を支え、ES細胞が30継代後も正常核型だったことMiyazaki et al., Nat Commun 2012[参考資料 7]https://doi.org/10.1038/ncomms2231事実
医療応用にはGMPに準拠した条件での製造が必要で、従来の培養系に課題があったこと。組換えラミニン511-E8と完全ゼノフリー培地(StemFit)で長期・単一細胞継代が可能で核型異常がなかったこと。線維芽細胞と血液細胞からフィーダーフリー・ゼノフリーでiPS細胞を樹立できたことNakagawa et al., Sci Rep 2014[参考資料 8]https://doi.org/10.1038/srep03594事実
ストックが7名・27株で日本人の約40%に適合(HLA-A、-B、-DR)すること。2013年開始・2020年4月に財団へ継承。2015年8月に最初の出荷、10以上の臨床試験で使用され移植細胞を原因とする有害事象は報告されていないこと。患者ごとの製造・品質試験に時間とコストがかかること。除外理由(エピソーマルベクター残存が最も顕著、がん関連遺伝子のSNV/indel、CNV・構造異常、11番染色体の構造変異、TRA-1-60 低発現、1名のドナーのPCSの4割近くの核型異常、汚染検査での除外なし)。HLAの説明CiRA財団 お知らせ(2022年11月17日)[参考資料 9]https://www.cira-foundation.or.jp/j/news/2022/11/17-000302.html事実
上記ストックの品質評価データと構築方法の原著論文Yoshida et al., Med 2023[参考資料 10]https://doi.org/10.1016/j.medj.2022.10.003事実
ドナー募集の終了(約90名が同意、HLA型上位20位・37名、日本人の約60%をカバーする数)。日本人の約40%をカバーするストックを製造・提供。2023年に米国での治験開始。液体窒素タンクでの血液保管。HLAゲノム編集ストックとマイiPS細胞の研究開発CiRA財団 お知らせ(2025年2月3日)[参考資料 11]https://www.cira-foundation.or.jp/j/news/2025/02/03-001045.html事実
滲出型加齢黄斑変性の患者2名からiPS細胞を作り、1名に自家iPS細胞由来RPEシートを移植したこと。1年後にシートが保たれ、最高矯正視力は改善も悪化もせず、嚢胞様黄斑浮腫がみられたことMandai et al., N Engl J Med 2017[参考資料 12]https://doi.org/10.1056/NEJMoa1608368事実
HLAホモ接合体iPS細胞由来RPEをHLA適合の患者5例に移植し、局所ステロイドを用い、1年間で移植片の異常増殖がなく、1例で軽度の免疫拒絶が疑われ局所ステロイドで対処したことSugita et al., J Clin Med 2020[参考資料 31]https://doi.org/10.3390/jcm9072217事実
神戸市立医療センター中央市民病院など4機関による「滲出型加齢黄斑変性に対する他家iPS細胞由来網膜色素上皮細胞懸濁液移植に関する臨床研究」と、2017年の1例目の移植手術の実施神戸市立医療センター中央市民病院 臨床研究ページ[参考資料 32]https://chuo.kcho.jp/department/ophthalmology_amd/事実
他家iPS細胞由来RPE細胞(HLCR011)の網膜色素上皮裂孔を対象とするフェーズ1/2試験について、2023年6月にPMDAの30日調査が完了し開始準備が整ったこと。CiRA財団のストック(QHJIドナー由来)を使用すること住友ファーマ ニュースリリース(2023年6月23日)[参考資料 13]https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/20230623.html事実
京都大学病院のフェーズ1/2試験(jRCT2090220384)で50〜69歳の7名が両側移植を受けたこと。重篤な有害事象なし、軽度〜中等度の有害事象73件、移植片の過剰増殖なし。有効性評価6名のうちオフ時4名・オン時5名でMDS-UPDRS part III が改善したこと。他家iPS細胞由来であることSawamoto et al., Nature 2025[参考資料 14]https://doi.org/10.1038/s41586-025-08700-0事実
パーキンソン病の治験で、HLAホモ接合体のiPS細胞由来の細胞を用い、免疫抑制はタクロリムス単独だったことMorizane et al., Cell Stem Cell 2025[参考資料 15]https://doi.org/10.1016/j.stem.2025.07.012事実
アムシェプリが2026年3月6日に条件及び期限付承認を取得し、2025年8月5日に申請されたこと。「iPS細胞由来の再生・細胞医薬品として世界初の製品」であること。非凍結状態の製品であること。S-RACMOが製造し「SMaRT」(大阪府吹田市)で製造されること。CiRA財団のストックを原材料とすること住友ファーマ ニュースリリース(2026年3月6日)[参考資料 16]https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/20260306.html事実
アムシェプリとリハートの承認日(2026年3月6日)と「条件及び期限付承認」であること。アムシェプリが健康成人の末梢血単核球にエピソーマルベクターで遺伝子導入して作製したiPS細胞から分化・凝集させたドパミン神経前駆細胞塊であること。リハートが1枚あたり3.3×10⁷個の心筋細胞をシート状に形成し、ゼラチンとHBSS(+)のゲルに包埋したものであることPMDA 2025年度承認品目一覧[参考資料 17]https://www.pmda.go.jp/files/000280052.pdf事実
リハート:申請日2025年4月4日、期限7年、移植症例8例、主要評価項目の改善が8例中2例、有効性を推定できる一定の基準を満たすと判断、心筋として収縮するわけではなく分泌因子で作用すると想定、動物で3か月程度で消失、未分化iPS細胞が理論上存在しない規格値を出荷要件とし各段階でゲノム変異と未分化細胞の混入を確認、90日間3剤の免疫抑制、使用成績調査の目標75例。アムシェプリ:申請日2025年8月5日、期限7年、有効期間31時間、手術の都度製造、患者毎に分化誘導段階から製造するため供給に限界、移植症例7例・有効性解析6例、製造販売後臨床試験の目標35例(65歳以下30例・65歳超5例)、プラセボ効果の可能性は否定できないとの記載厚生労働省 中医協資料(令和8年4月8日)[参考資料 18]https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001687611.pdf事実
リハートの効能、2026年3月の承認、凍結細胞を解凍・培養してシート化し冷凍せずに輸送すること、輸送液の独自技術で常温で2日程度輸送できること、大阪府箕面市のCLiC-1から東京の医療機関へ輸送可能なこと。2020年1月から医師主導治験を実施してきたことクオリプス 製品ページ(企業自身の説明)[参考資料 19]https://www.cuorips.co.jp/riheart事実
リハートの保険償還価格が53,200,000円(原価計算方式)で令和8年9月1日収載予定とされたこと厚生労働省 中医協資料(令和8年7月22日)[参考資料 20]https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001726219.pdf事実
アムシェプリの薬価が18瓶1組で55,306,737円(原価計算方式)で令和8年5月20日収載予定とされたこと。1容器1mLあたり1×10⁶個相当、片側5.4×10⁶個を目標に両側被殻へ移植、タクロリムスを1年を目安に投与し12週間で漸減厚生労働省 中医協資料(令和8年5月13日)[参考資料 21]https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001699508.pdf事実
角膜上皮幹細胞疲弊症の4例4眼に他家iPS細胞由来角膜上皮細胞シートを移植、HLA不一致、2例に低用量シクロスポリン、2年間で腫瘍形成や臨床的拒絶などの重篤な有害事象なし、より大規模な臨床試験が計画されていることSoma et al., Lancet 2024[参考資料 22]https://doi.org/10.1016/S0140-6736(24)01764-1事実
脊髄損傷の臨床研究で2020〜2025年に4症例へ移植(jRCTa031190228)、最長4年の追跡で移植細胞起因の腫瘍形成や重篤な有害事象なし、症例数が少なく対照群がないため有効性は別の試験で検証が必要。CiRAのストック由来の細胞を凍結保管し、移植4日前に融解して回復培養したこと慶應義塾大学 プレスリリース(2026年7月22日)[参考資料 23]https://www.keio.ac.jp/fixed-files/20260722-press-02-u6somxpr.pdf事実
1型糖尿病の医師主導治験(jRCT2053240146)で2025年2月に1例目に同種iPS細胞由来膵島細胞シート(OZTx-410)を移植、目的は安全性評価、経過観察最大5年、CiRA財団のストック由来のiPICsを均等に分散した薄層シート京都大学医学部附属病院 プレスリリース(2025年4月15日)[参考資料 24]https://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/press/20250415.html事実
膵島細胞シートの治験製品の製造に、同社の使い捨て連続培養システムが活用されたこと佐竹マルチミクス プレスリリース(装置メーカー自身の発表)[参考資料 25]https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000099032.html事実
ロピニロールのフェーズ1/2a試験(孤発性ALS 20名、24週の二重盲検期間、有害事象は同程度、二重盲検期間のALSFRS-R低下はプラセボと差なし、延長期間で低下抑制、症例数と脱落の限界)Morimoto et al., Cell Stem Cell 2023[参考資料 26]https://doi.org/10.1016/j.stem.2023.04.017事実
使い捨てバイオリアクターで1.6×10⁷個を14日で2×10⁹個に増やしたこと、凝集塊の直径(324±71µm、198±58µm)、40日以上の浮遊培養で未分化性を維持したことKwok et al., J Tissue Eng Regen Med 2018[参考資料 27]https://doi.org/10.1002/term.2435事実
接着培養のスケールアップで均一な高品質を低コストで保つのが難しいこと、浮遊培養の課題(凝集塊の融合、継代、せん断力)、機能性高分子を含む3次元球状培養系の提案Otsuji et al., Stem Cell Reports 2014[参考資料 28]https://doi.org/10.1016/j.stemcr.2014.03.012事実
DMSOが凍結保存の初期から多くの動物細胞で使われてきた凍結保護剤であり、毒性が議論され代替物の探索が続いていることAwan et al., Regen Med 2020[参考資料 29]https://doi.org/10.2217/rme-2019-0145事実
再生医療等安全性確保法が平成26年11月に薬機法の改正と併せて施行され、再生医療等の提供の手続きや細胞培養加工の外部委託のルールを定めていること厚生労働省「再生医療について」[参考資料 30]https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/saisei_iryou/index.html事実
アムシェプリの移植目標を1.08×10⁷個、1組の細胞数を1.8×10⁷個、その比を0.6としたこと。2×10⁹ ÷ 3.3×10⁷ = 約61 としたこと本稿の計算。1組の細胞数と移植数の差の理由は確認していない。約61は未分化iPS細胞と分化後の心筋細胞を単純に割ったもので、分化・純化・シート化の歩留まりを考慮しておらず、製造能力の見積もりではない本稿の計算
他家RPE(HLCR011)治験の登録・結果、角膜の大規模試験、脊髄損傷・1型糖尿病・RPEの承認申請、条件及び期限付承認された2品目の本承認と長期安全性本稿の調査時点(2026年9月)で一次情報を確認できなかった、または今後の調査・申請で判断される事項である未確定/将来
承認製品の製造原価の内訳、アムシェプリ1組と移植数の差の理由、承認製品で使われる凍結保護剤の種類と濃度本稿が参照した公開資料では確認できなかったため記載していない(解説)解説
臨床研究と治験の区別を表に整理したこと。足場が「情報を渡す界面」であるという読み取り、組成が明らかなことの意義、単一細胞継代と自動化の関係。他家でも最終工程が患者ごとの予約生産になっているという読み取り。包埋材・保存液・容器が使える時間を決めるという整理。浮遊培養で培地の物性や容器の樹脂が効くという読み取り。創薬用途で再現性と多ウェル形式が求められるという整理。実用化の律速が工程と物流に移りつつあるという読み取り公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各機関・企業が表明した見解ではない解説
図1〜図9が実際の観察像・設計図ではなく説明のための作図であること。ヒーロー画像と図10がAI生成イメージであること。図6で6疾患を選んだこと本記事による注記解説

最終更新:2026年9月23日/出典は一次情報(原著論文、nobelprize.org、京都大学CiRA・CiRA財団、PMDA・厚生労働省の公表資料、実施機関と企業の公式発表)に限定しています。 構造の整理や材料・工程上の読み取りを含むため、それらは「解説」として出典付きの事実と区別しています。 臨床試験の結果は論文・当局資料の記載の範囲にとどめており、治療効果を保証するものではありません。 他家RPE治験の進捗、角膜・脊髄損傷・1型糖尿病・RPEの承認申請、承認2品目の本承認、製造原価の内訳、承認製品の凍結保護剤については、公開された一次情報で確認できなかったため記載していません。 図はすべて説明用の概念図です。図1〜図9はベクター作図、ヒーロー画像と図10はAI生成イメージであり、いずれも実際の細胞・顕微鏡像・製品・装置を示すものではありません。