INSTITUTION PROFILE / 細胞培養技術
厚生労働省
― 日本で細胞製品を「売ってよいか」「いくらで払うか」を決める省
厚生労働省は、医療・年金・介護・雇用を受け持つ日本の中央省庁です。 細胞培養技術に関わるのはその一部ですが、再生医療等製品の承認、医療機関が行う再生医療のルール、公的医療保険で払う価格の3つを握っています。 審査の実務はPMDA、研究費を配る実務はAMEDが担うため、本稿では厚生労働省が自分で持つ権限を、PMDAとの分担をはっきりさせながら整理します。
- 30秒でわかる厚生労働省
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- 細胞培養技術で何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 2つの法律の流れと価格が決まった製品
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかる厚生労働省
法律上、承認や許可を出すのは厚生労働大臣です。 薬機法は、厚生労働大臣が再生医療等製品の審査と製造所の調査をPMDAに行わせることができ、 その場合はPMDAの結果を考慮して大臣が承認すると定めています(第23条の27)。 再生医療等安全性確保法も、細胞加工施設の許可のための調査と立入検査をPMDAに行わせることができると定めています(第38条・第53条) 事実。 つまり「調べるのはPMDA、決めるのは厚生労働省」という分担です。 一方、医療機関からの再生医療の計画の受理と保険で払う価格は、PMDAの業務ではなく厚生労働省の側にあります。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
細胞培養技術の記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では細胞も製品も作りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。
3. 細胞培養技術で何をしているか
厚生労働省が細胞培養技術に対して持つ仕組みは、次の4つです 事実。
| 仕組み | 厚生労働省がすること | 数字・例 |
|---|---|---|
| 薬機法 (再生医療等製品) | 製造販売の承認、製造販売業・製造業の許可、日本に輸出する海外の製造業者の認定。品質が均一でない製品には、薬事審議会の意見を聴いて条件と7年以内の期限を付けた承認を出せる | 2026年3月6日、iPS細胞由来の2品目(アムシェプリ、リハート)に条件及び期限付承認 |
| 再生医療等安全性確保法 (医療機関の再生医療) | 医療機関が再生医療等(承認品を承認どおりに使う場合を除く)を行うときの提供計画の受理。計画は事前に認定再生医療等委員会の審査を経る。医療機関向けに細胞を加工する施設の許可・届出・海外施設の認定 | 2026年6月30日現在、提供計画は治療6,743件・研究85件。細胞加工施設は許可85・届出3,586、海外の認定19 |
| 保険で払う価格 | 承認された再生医療等製品を「医薬品の例」か「医療機器の例」かで扱いを決め、中央社会保険医療協議会(中医協)の審議を経て価格を決める | アムシェプリは医薬品の例で55,306,737円(18瓶1組)、リハートは医療機器の例で53,200,000円 |
| 研究資金 | AMEDを通して研究費を配る。AMEDの対象経費のうち厚生労働省の分を予算に計上する | 令和8年度のAMED対象経費1,238億円のうち厚生労働省分481億円(全分野) |
企業が製品として売る細胞は薬機法、医療機関が患者ごとに用意する細胞は再生医療等安全性確保法の対象です。 後者で細胞を加工する施設は、2026年6月30日現在で許可と届出を合わせて3,671あり、うち3,586は届出です 事実。 届出の施設は、病院・診療所に置かれた施設や、薬機法の製造業許可を持つ製造所などに限られます(同法第40条)。 培地や装置のメーカーから見ると、承認品を作る少数の製造所と、医療機関に付属する多数の加工施設という、規制の違う2つの顧客層があることになります 本稿の計算。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
PMDAとの権限の分担
| 手続き | 厚生労働省(厚生労働大臣) | PMDA |
|---|---|---|
| 再生医療等製品の承認 | 承認を与える(条件及び期限付承認を含む) | 審査を行い、結果を大臣に通知する |
| 製造所の基準への適合 | 製造業の許可、海外製造業者の認定 | GCTP調査(書面・実地、国内外) |
| 細胞加工施設(安確法) | 製造の許可、海外施設の認定 | 許可のための構造設備の調査、立入検査 |
| 医療機関の再生医療 | 提供計画の受理、医療機関への立入検査 | 法律上の委任規定は製造施設の調査・検査に限られる |
| 保険で払う価格 | 中医協の審議を経て決める | 業務に含まれない |
権限と地域
| 観点 | 厚生労働省が持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 承認・許可・認定、医療機関の再生医療の計画の受理と立入検査、保険の価格、研究予算 | 他の国での承認や価格を決める権限 |
| 地域 | 日本の医療。ただし、日本向けに作る海外の製造業者の認定と、日本の再生医療に使う細胞を海外で加工する施設の認定を通じて海外にも及ぶ(海外の認定施設19:韓国13、台湾3、中国1、オーストリア1、ギリシャ1) | 日本に売らない海外企業への権限 |
| 国際的なつながり | PIC/Sに、PMDAと合わせて1つの参加当局として2014年7月に加盟 | 国際的な指針を単独で決める権限 |
| 規模 | 定員33,093人、一般会計35兆433億円(令和8年度) | 細胞培養技術の担当だけの人数と予算は公表資料に独立した数字がない |
定員33,093人と一般会計35兆433億円は、年金・医療・介護・雇用などを含む省全体の数字です 事実。 令和8年度予算案の概要で再生医療に触れているのは、「研究開発環境の整備、創薬シーズ・医療機器の実用化支援」71億円の中の 「再生・細胞医療・遺伝子治療の実用化の促進」などの項目で、細胞培養技術だけの金額は示されていません 未確定/将来。
5. 2つの法律の流れと価格が決まった製品
2026年に保険の価格が決まった細胞加工製品
| 製品(企業) | 承認 | 保険での扱いと価格 | このシリーズとの関係 |
|---|---|---|---|
| アムシェプリ(住友ファーマ) | 2026年3月6日 条件及び期限付承認 | 医薬品の例。55,306,737円(18瓶1組)、2026年5月20日収載予定として中医協に提示 | 住友ファーマの企業解説 |
| リハート(クオリプス) | 2026年3月6日 条件及び期限付承認 | 医療機器の例。53,200,000円、2026年9月1日収載予定として中医協に提示 | 本シリーズでは扱っていない |
| アクーゴ脳内移植用注(サンバイオ) | 2024年7月31日 条件及び期限付承認 | 医薬品の例。72,716,528円(1回分)、2026年5月20日収載予定として中医協に提示 | 本シリーズでは扱っていない |
| アロステムシート(イシンファーマ) | 2026年4月3日 承認 | 医薬品の例。182,096円(5cm×5cm 1枚) | 本シリーズでは扱っていない |
※条件及び期限付承認の段階でも保険の価格が付きます。算定方式は4品目とも原価計算方式です。
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 医療機関で行う再生医療への監視が強まる方向にある | 厚生労働省は2026年7月31日に再生医療等の適切な提供に係る自己点検を依頼し、2026年9月2日に再生医療等情報提供・通報窓口を開設した | 推測 |
| 再生医療等安全性確保法の対象は細胞を使う医療だけでなく、遺伝子治療にも広がり、届出や計画の構成が変わっていく | 2025年5月31日の改正法の施行で、細胞加工物を用いない遺伝子治療(in vivo遺伝子治療)などが対象に加わった | 推測 |
7. 用語集
- 薬機法
- 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律。企業が売る医薬品・医療機器・再生医療等製品の承認や製造のルールを定める。
- 再生医療等安全性確保法
- 医療機関が行う再生医療等(承認された製品を承認どおりに使う場合を除く)の手続きと、細胞を加工する施設のルールを定める法律。2014年11月施行。
- 認定再生医療等委員会
- 厚生労働大臣の認定を受けた委員会。医療機関の提供計画を審査し、提供の可否について意見を述べる。
- 中央社会保険医療協議会(中医協)
- 厚生労働省の審議会。再生医療等製品を保険の対象とするか、いくらで払うかを審議する。
8. 出典
- e-Gov法令検索 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(第23条の20〜第23条の27)。 https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000145
- e-Gov法令検索 再生医療等の安全性の確保等に関する法律(第4条 提供計画、第24条 立入検査、第35条 製造の許可、第38条 機構による調査、第39条 外国の施設の認定、第40条 届出、第53条 機構による立入検査)。 https://laws.e-gov.go.jp/law/425AC0000000085
- e-Gov法令検索 行政機関職員定員令(厚生労働省の定員33,093人。2026年7月31日施行の改正を反映)。 https://laws.e-gov.go.jp/law/344CO0000000121
- 厚生労働省 再生・細胞医療・遺伝子治療について(法の施行と2025年5月31日の改正、更新情報、担当部署、本省所在地)。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/saisei_iryou/index.html
- 厚生労働省 再生医療等安全性確保法の施行状況について(2026年6月30日現在。委員会・細胞加工施設・提供計画の件数、海外の認定施設の国・地域別内訳)。 https://www.mhlw.go.jp/content/001590173.pdf
- 厚生労働省 令和8年度予算案の概要(一般会計35兆433億円、研究開発環境の整備71億円の内訳項目)。予算案は案のとおり成立。 https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/26syokanyosan/dl/01-01.pdf
- 内閣官房 健康・医療戦略推進事務局 令和8年度医療分野の研究開発関連予算のポイント(AMED対象経費1,238億円、うち厚生労働省481億円)。 https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/kenkouiryou/iyakuhin/iyakuhinkyougikai_dai2/sanko3.pdf
- 中央社会保険医療協議会 総-11-1 再生医療等製品の医療保険上の取扱いについて(一覧)(2026年4月8日。リハートは医療機器、アムシェプリは医薬品として扱う案)。 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001687603.pdf
- 中央社会保険医療協議会 総-5 再生医療等製品の保険適用について(2026年5月13日。アクーゴ、アムシェプリの価格と算定方式)。 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001699508.pdf
- 中央社会保険医療協議会 総-3 再生医療等製品の保険適用について(2026年7月8日。アロステムシートの価格と算定方式)。 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001719808.pdf
- 中央社会保険医療協議会 総-2 再生医療等製品の保険適用について(2026年7月22日。リハートの価格と算定方式)。 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001726219.pdf
- 中央社会保険医療協議会 再生医療等製品の医療保険上の取扱いについて(2022年1月26日。2014年11月5日の了承事項:医薬品の例か医療機器の例かを判断し、中医協総会で収載を審議)。 https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000887194.pdf
- PMDA 2025年度承認品目一覧(再生医療等製品)。アムシェプリ・リハートの条件及び期限付承認。 https://www.pmda.go.jp/files/000280052.pdf
- PIC/S Members(日本は厚生労働省とPMDAで1参加当局、2014年7月加盟)。 https://picscheme.org/en/members
9. 主張と出典の対応表
| 本文の主張 | 区分 | 出典 |
|---|---|---|
| 承認・許可・外国製造業者の認定は厚生労働大臣、審査と調査をPMDAに行わせることができ大臣はその結果を考慮する、条件及び期限付承認(薬事審議会の意見、7年以内・延長3年以内、再申請義務) | 事実 | 出典1 https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000145 |
| 提供計画の提出と認定再生医療等委員会の意見、医療機関への立入検査、細胞加工施設の許可・届出・海外施設の認定、PMDAへの調査・立入検査の委任が製造施設に限られること | 事実 | 出典2 https://laws.e-gov.go.jp/law/425AC0000000085 |
| 厚生労働省の定員33,093人 | 事実 | 出典3 https://laws.e-gov.go.jp/law/344CO0000000121 |
| 2014年11月の法施行、2025年5月31日の改正法施行(in vivo遺伝子治療の追加)、2026年7月31日の自己点検依頼、2026年9月2日の通報窓口開設、本省所在地 | 事実 | 出典4 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/saisei_iryou/index.html |
| 提供計画 治療6,743件・研究85件、細胞加工施設 許可85・届出3,586・合計3,671、海外の認定19(韓国13、台湾3、中国1、オーストリア1、ギリシャ1) | 事実 | 出典5 https://www.mhlw.go.jp/content/001590173.pdf |
| 一般会計35兆433億円(令和8年度)、研究開発環境の整備71億円とその内訳項目 | 事実 | 出典6 https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/26syokanyosan/dl/01-01.pdf |
| AMED対象経費1,238億円、うち厚生労働省481億円 | 事実 | 出典7 https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/kenkouiryou/iyakuhin/iyakuhinkyougikai_dai2/sanko3.pdf |
| リハートは医療機器、アムシェプリ・アクーゴ・アロステムシートは医薬品として扱う案、アクーゴの条件及び期限付承認(2024年7月31日) | 事実 | 出典8 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001687603.pdf |
| アムシェプリ55,306,737円・アクーゴ72,716,528円、2026年5月20日収載予定、原価計算方式 | 事実 | 出典9 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001699508.pdf |
| アロステムシート182,096円、原価計算方式 | 事実 | 出典10 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001719808.pdf |
| リハート53,200,000円、2026年9月1日収載予定、原価計算方式 | 事実 | 出典11 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001726219.pdf |
| 再生医療等製品を医薬品の例か医療機器の例かで扱い、中医協総会で収載を審議する取扱い | 事実 | 出典12 https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000887194.pdf |
| アムシェプリ・リハートの条件及び期限付承認(2026年3月6日) | 事実 | 出典13 https://www.pmda.go.jp/files/000280052.pdf |
| PIC/Sへの加盟(PMDAと合わせて1参加当局、2014年7月)、英文名称 | 事実 | 出典14 https://picscheme.org/en/members |
| 機関の4つの型の区分、図2の2つの道への整理 | 本稿の計算 | 本稿による整理 |
| 培地・装置メーカーにとって規制の違う2つの顧客層がある | 本稿の計算 | 出典2・5からの本稿の解釈 |
| 細胞培養技術の担当だけの人数と予算 | 未確定/将来 | 出典3・6に独立した数字なし。本稿では推計しない |
| 第6章の見通し2項目 | 推測 | 出典1・4の制度と動きからの本稿の解釈 |
最終更新:2026年9月24日/Troy Technical
本稿の数値は、e-Gov法令検索の条文、厚生労働省と内閣官房の公表資料、中央社会保険医療協議会の資料、PMDAの承認品目一覧に基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。