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Sumitomo Pharma|細胞培養技術 企業解説

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COMPANY PROFILE / 細胞培養技術

住友ファーマ
― iPS細胞から作ったパーキンソン病の細胞製品「アムシェプリ」の承認取得者になった製薬会社

住友ファーマは、他人(健康な人)のiPS細胞から作ったドパミン神経前駆細胞「アムシェプリ®」について、 2026年3月6日に条件及び期限付承認を取得し、同年5月20日に薬価基準に収載されました(算定薬価は18瓶1組55,306,737円)。 ただし、研究開発は住友化学との合弁会社RACTHERA、製造は同じく合弁の受託製造会社S-RACMOが担い、住友ファーマは承認の取得者として販売を担当する分担です。 本稿は、iPS細胞・再生医療の分野とも共通で使う記事として、細胞培養で作る製品に何を投じ、誰と組み、どこまで進んでいるかを一次情報だけで整理します。

構成:住友ファーマ 2026年3月期 有価証券報告書(2026年6月23日提出)、決算短信・補足資料・説明資料(2026年5月13日、7月31日)、「Boost 2028」説明会資料(2026年3月2日)、承認時の発表と記者会見資料(2026年3月6日)、PMDAの承認品目一覧、中央社会保険医療協議会の資料、厚生労働省の薬価基準収載品目リスト、米国FDAの承認情報を一次情報として使用/最終更新 2026年9月

この記事でわかること
  1. 30秒でわかる住友ファーマと、細胞培養技術での立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. 細胞培養技術の世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模(医薬品事業は簡潔に)
  5. 細胞培養にかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社は細胞培養技術で何を目指しているか
  9. 細胞培養分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかる住友ファーマと、細胞培養技術での立ち位置

正式名称住友ファーマ株式会社英文名 Sumitomo Pharma Co., Ltd.
本社大阪市中央区親会社は住友化学(議決権45.84%以上)
上場東証プライム 4506国際会計基準(IFRS)で開示
この分野での区分細胞治療・再生医療
(承認取得者・販売)
研究開発と製造は合弁会社が担う
承認品アムシェプリ®
(ラグネプロセル)
他家iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞
承認の種類条件及び期限付承認
(2026年3月6日)
PMDAの2025年度承認品目一覧で確認
薬価18瓶1組
55,306,737円
2026年5月20日収載。原価計算方式
米国の細胞製品リサイミック培養ヒト胸腺組織。2021年10月にFDA承認
まず押さえるべき1点

細胞培養技術に関わる企業は、受託開発製造(CDMO)・装置や消耗品や培地のサプライヤー・細胞治療や再生医療の開発企業の3種類に分けられます。 住友ファーマは細胞治療・再生医療の類型に属し、「細胞培養」の2つの意味のうち②細胞そのものが製品になる側に関わっています 事実。 ただし、自社だけで完結しているわけではありません。2025年2月に再生・細胞医薬事業を会社分割してRACTHERAに移し、その株式の66.6%を親会社の住友化学に譲渡しました。 いま住友ファーマは、RACTHERAとS-RACMO(再生・細胞医薬のCDMO)の株式をそれぞれ33.4%持つ立場で、アムシェプリについては承認を取得した製造販売業者として販売を担います。 CDMOの類型に当たる仕事は、持分法適用会社のS-RACMOが行っています。

2. ロゴと社名の表記について

住友ファーマのロゴは同社の商標です。本稿では生成画像による再現を行わず、 公式サイトで使われているブランドマーク(SVG)を img/sumitomo_pharma_logo.svg として設置しています。

表記の注意:法人名は「住友ファーマ株式会社」、英文名は Sumitomo Pharma Co., Ltd. です。 2022年4月に「大日本住友製薬」から社名を変更しています。 RACTHERA(ラクセラ)とS-RACMOはどちらも住友化学との合弁会社で、住友ファーマの連結子会社ではなく持分法適用関連会社です。 米国での販売会社は Sumitomo Pharma America, Inc.(SMPA)です。

公式サイト:https://www.sumitomo-pharma.co.jp/

3. 細胞培養技術の世界で、この会社はどこにいるか

細胞培養技術に関わる企業の3つの類型 同じ「細胞を培養する会社」でも、何を売っているかがまったく違う 受託開発製造(CDMO) 装置・消耗品・培地 細胞治療・再生医療 他社の薬を受託して培養・製造 培養に使う道具と材料を売る 細胞そのものを製品にする Lonza/Samsung Biologics AGC Biologics/WuXi ほか Thermo Fisher/Cytiva/Sartorius Merck/味の素/Corning ほか 住友ファーマ/タカラバイオ Allogene/ReproCELL ほか 設備と実績で受注を集める どの薬が成功しても売れる 承認されれば独自の製品になる 設備が埋まらないと赤字 顧客の投資が冷えると落ちる 承認と製造コストの壁が高い 住友ファーマは右端(iPS細胞由来製品アムシェプリの承認取得者・販売者)にいる 研究開発はRACTHERA、製造は受託会社S-RACMOが担い、どちらも住友化学との合弁(持分33.4%)
図1 細胞培養技術に関わる企業の3類型と、住友ファーマの位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う20社から例示しています 本稿の計算。RACTHERA・S-RACMOの位置づけと持分33.4%は2026年3月期有価証券報告書、販売と製造の分担は2026年3月6日の承認時の発表に基づきます。

4. 会社の規模(医薬品事業は簡潔に)

医薬品事業全体は本稿の主題ではないので、規模だけを押さえます 事実。

指標(連結・IFRS)2025年3月期2026年3月期2027年3月期(会社予想)
売上収益(百万円)398,832453,294540,000
コア営業利益(百万円)43,153105,90891,000
研究開発費(億円)―440―
従業員数(人)3,8323,123―

細胞培養で作る製品にかかわる数字

項目数値出所
リサイミック(米国)売上収益2025年3月期68億円 → 2026年3月期63億円(2027年3月期予想54億円)2025年度決算補足資料
アムシェプリの売上2026年3月期はなし承認は2026年3月6日、1例目の移植は2026年秋の予定
アムシェプリのピーク時予測10年度に133人・74億円中医協資料の「収載希望者(住友ファーマ)による市場規模予測」未確定/将来
RACTHERA株式売却の対価受領済み1,998百万円、開発マイルストン最大3,996百万円、販売マイルストン最大154,512百万円有価証券報告書(条件付対価契約)。承認で666百万円を2026年6月に受領予定と記載
ここで注意

住友ファーマは研究開発費をグローバルに管理しており、再生・細胞医薬に使った研究開発費はセグメントにも品目にも配分して開示されていません。 また、RACTHERAとS-RACMOは持分法適用会社のため、両社の売上・損益・人員は住友ファーマの連結数値に含まれません 事実。 上の表の「販売マイルストン最大154,512百万円」は、条件がすべて満たされた場合の上限で、受け取れることが決まった金額ではありません。

5. 細胞培養にかけているリソース

リソース一次情報で確認できた内容確認
人(組織・拠点・人数)連結3,123人(2026年3月31日)。研究開発はRACTHERA(東京都中央区)、製造はS-RACMOの商業用製造施設「SMaRT」(大阪府吹田市、2018年竣工)。会社は「非自己iPS細胞由来の再生・細胞医薬品専用の商業用製造施設としては世界初」と説明。米国でリサイミックの自社製造施設を立ち上げ準備中。再生・細胞医薬の専任人数は非公表一部確認
金(研究開発費・設備投資)2026年4月の公募増資の手取概算96,956百万円のうち10,000百万円を「再生・細胞医薬事業の成長を目的とした投融資資金」に2029年3月末までに充当予定。Boost 2028では2026〜2028年度の設備投資・投融資約500億円に「RACTHERA社、S-RACMO社への投融資」を含むと記載。再生・細胞医薬の研究開発費そのものは非公表一部確認
外部への出資・買収RACTHERA・S-RACMOへの出資(各33.4%)。2025年2月に再生・細胞医薬事業をRACTHERAへ会社分割し、同社株式の66.6%を住友化学に譲渡確認できた
大学・研究機関との連携京都大学iPS細胞研究所(ドパミン神経前駆細胞)、京都大学医学部附属病院(医師主導治験・製造販売後臨床試験)、カリフォルニア大学サンディエゴ校(米国の医師主導治験)、マサチューセッツ眼科耳鼻科病院(網膜シート)、京都大学iPS細胞研究財団(iPS細胞ストックの提供)。網膜シートの製法は理化学研究所との共同研究(終了済み)で確立確認できた
素材技術者の視点:「他家なのに1ロット1患者」という製造の現状

アムシェプリは健康な人のiPS細胞ストックから作る他家製品で、原理的には1回の製造で多くの患者分を作れます。 ところが承認時の記者会見資料には、製造について「1ロット1患者から1ロット多患者への一変申請」を今後の課題として挙げています 事実。 アムシェプリは非凍結の細胞で、米国の企業治験では凍結細胞(開発コードDSP-1083)が使われています(有価証券報告書)。 非凍結のままでは製造してから移植までの時間に制約があるため、患者の手術日に合わせてロットを作る形になりやすい、というのが材料側から見た構図です 未確定/将来。 凍結保存しても細胞の生存率と機能を保てるようになれば、1ロットを多数の患者に配れるようになり、製造コストが大きく下がります。 他家細胞製品の採算は、培養の技術と同じくらい凍結・解凍・輸送の技術に左右されます。本シリーズの技術解説『iPS細胞』『GMP』もあわせて参照してください。

6. これまでの取り組み

時期できごと意味
2012年再生・細胞医薬事業への本格参入を決断(記者会見資料の年表)山中教授のノーベル賞受賞と同じ年
2017年2月パーキンソン病を対象に再生医療等製品の先駆け審査指定優先審査の対象に
2018年商業用製造施設「SMaRT」竣工。8月に京都大学医学部附属病院で医師主導治験を開始製造拠点と臨床試験の両方が動き出す
2021年10月8日米国でリサイミック(培養ヒト胸腺組織)がFDAの承認を取得(申請者はEnzyvant Therapeutics GmbH)米国で細胞・組織製品の販売を開始(2022年3月〜)
2025年2月再生・細胞医薬事業をRACTHERAに会社分割し、株式の66.6%を住友化学に譲渡事業の主導権が住友化学グループ側へ
2025年4月京都大学の医師主導治験の結果がNature誌に掲載承認申請の根拠データ
2025年8月5日製造販売承認を申請―
2025年12月希少疾病用再生医療等製品に指定薬価の市場性加算の根拠にもなった
2026年3月6日アムシェプリが条件及び期限付承認を取得(2月19日の薬事審議会の部会で了承)同日にクオリプスのiPS細胞由来心筋細胞シート「リハート」も条件及び期限付承認(PMDA一覧)
2026年3月網膜シート(DSP-3077)が米国FDAのオーファンドラッグ指定米国開発の後押し
2026年4月公募増資。手取のうち100億円を再生・細胞医薬事業への投融資に充てる計画資金の使途として明示
2026年5月13日/20日中医協が保険適用を了承し、5月20日に薬価収載(原価計算方式、市場性加算(I)10%・先駆加算10%)保険診療で使える状態に
2026年7月製造販売後臨床試験(フェーズ4)で京都大学医学部附属病院と契約し、jRCTで情報を公開して被験者登録を開始本承認に向けた試験の開始
2026年7月21日タカラバイオが、GMP細胞加工受託事業のS-RACMOへの承継について住友化学・住友ファーマ・S-RACMOと基本合意したと発表S-RACMOの受託能力が拡大する見込み
2026年8月13日米国で網膜シート(DSP-3077)のフェーズ1/2試験の最初の被験者に移植SMaRTで製造した細胞を米国の試験で使用

7. 今後の計画

フェーズ4試験の規模30例+5例18〜65歳30例、完了後に65歳超5例。7施設の予定、移植後2年追跡
移植のスケジュール2026年秋に1例目2027年度10例程度、2028年度10〜20例程度
本承認期限内(7年以内)に
改めて申請
2029年頃まではフェーズ4の患者だけに移植
米国フェーズ1/2UCSDの医師主導治験(非凍結)と企業治験(凍結)

記者会見資料によれば、フェーズ4試験の患者への移植が終わった後に施設と患者の範囲を拡大し、あわせて製造も「1ロット1患者から1ロット多患者」に切り替える承認事項一部変更申請を行う計画です 未確定/将来。 網膜関連では、網膜色素上皮細胞(HLCR011、日本、網膜色素上皮裂孔)と網膜シート(DSP-3077、米国、網膜色素変性、12名予定)のフェーズ1/2試験を進めています。

確認できなかったこと

次はいずれも一次情報に記載がありません 未確定/将来。

アムシェプリの本承認の目標年(「7年以内」以上の具体的な時期)/1ロット多患者への切り替え時期/ SMaRTの年間製造能力/RACTHERAとS-RACMOの売上・損益・人員/米国での承認申請の時期/ 再生・細胞医薬に投じた研究開発費の累計額。

8. この会社は細胞培養技術で何を目指しているか

ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
再生・細胞医薬の主導権は住友化学グループ側に移り、住友ファーマは承認取得者・販売者としての役割に絞られたRACTHERA株式の66.6%を住友化学へ譲渡、RACTHERA・S-RACMOとも持分33.4%。販売は住友ファーマ、製造はS-RACMOと明記推測
アムシェプリは2029年頃まで大きな売上にならないフェーズ4の移植計画は2028年度までで累計20〜30例程度。フェーズ4完了までは参加患者にしか移植しない推測
住友ファーマにとっての経済的な見返りの一部は、販売マイルストンと持分法の利益として入る設計RACTHERA売却の条件付対価に販売マイルストン最大154,512百万円の記載推測
会社全体の優先順位はがん領域が上で、再生・細胞医薬は外部資金と合弁で進める有価証券報告書で「がん2品目に資源を集中」と記載。公募増資の使途はがん領域300億円、再生・細胞医薬100億円事実
S-RACMOは自社グループ品以外の受託も広げる方向タカラバイオのGMP細胞加工受託(CAR-Tなど)の承継を協議し基本合意推測
推測の根拠を1つだけ詳しく

中医協の資料に載っている住友ファーマ自身の市場規模予測は、ピーク時(10年度)に133人・74億円です 事実。 一方、承認時の記者会見資料では、フェーズ4試験は30例+5例、2028年度までの移植予定は累計20〜30例程度で、 「2026年から2029年頃までは、Phase 4試験に参加される患者さんのみに移植」と書かれています。 薬価55,306,737円に年10〜20例を掛けると、年5.5億〜11億円程度の規模にとどまります 本稿の計算。 つまりアムシェプリは、承認・薬価収載が済んだ現在も「売上を立てる段階」ではなく「本承認のためのデータを集める段階」にあり、 売上が本格化するのは本承認と1ロット多患者への切り替えの後だと本稿は読みます 未確定/将来。

9. 細胞培養分野の提携マッピング

住友ファーマを中心とした細胞培養分野の提携関係 有価証券報告書・決算補足資料・同社発表に記載のある関係のみ。報道ベースの関係は含まない 住友ファーマ 承認取得・販売 京都大学(CiRA・附属病院) ドパミン神経前駆細胞の治験 UCSD(米国) パーキンソン病の医師主導治験 ヘリオス 網膜色素上皮細胞HLCR011 Mass Eye and Ear(米国) 網膜シートDSP-3077 エーザイ 製造工程で細胞純化技術を活用 住友化学 親会社。両合弁の出資者 RACTHERA(持分33.4%) 再生・細胞医薬の研究開発 S-RACMO(持分33.4%) CDMO。SMaRTで製造 京都大学iPS細胞研究財団 原材料のiPS細胞ストック タカラバイオ 細胞加工受託をS-RACMOへ承継 共同研究・共同開発・技術の導入 原材料の供給・事業の承継 出資・合弁(グループ内) タカラバイオとの関係は同社の2026年7月21日の発表による。承継の当事者はS-RACMOで、最終契約は未締結
図2 住友ファーマを中心とした細胞培養分野の提携関係。出典:2026年3月期有価証券報告書、2025年度決算補足資料(研究開発の連携先)、2026年3月6日・8月13日の発表、タカラバイオの2026年7月21日の発表。理化学研究所との網膜シートの共同研究はすでに終了しているため図から外しています。

10. 提供している技術・製品・サービス

品目中身段階
アムシェプリ®(ラグネプロセル)健康成人の末梢血単核球にエピソーマルベクターで遺伝子導入して作ったiPS細胞を培養し、分化・凝集させたドパミン神経前駆細胞塊(PMDA一覧)。1チューブ1mLに1×106個。定位脳手術で両側の被殻に移植(片側5.4×106個が目標)日本で条件及び期限付承認(2026年3月6日)、2026年5月20日薬価収載
CT1-DAP001/DSP-1083(米国)同じドパミン神経前駆細胞。非凍結(CT1-DAP001)はUCSDの医師主導治験、凍結(DSP-1083)は企業治験フェーズ1/2
HLCR011他家iPS細胞由来網膜色素上皮細胞(ヘリオスと連携)日本でフェーズ1/2(網膜色素上皮裂孔)
DSP-3077他家iPS細胞由来網膜シート(立体網膜)。自己組織化培養法(SFEBq法)が基盤米国でフェーズ1/2(網膜色素変性、2026年8月に最初の移植)
リサイミック(米国)小児先天性無胸腺症向け培養ヒト胸腺組織。FDAの承認内容は「先天性無胸腺症の小児患者の免疫再構築」米国で販売中(2021年10月FDA承認)
素材技術者の視点:網膜シートは「形を培養する」技術

DSP-3077は、多能性幹細胞から立体構造をもつ神経組織を分化させる自己組織化培養法(SFEBq法)を基に作られ、 「多層の網膜組織構造をもち、光受容細胞である視細胞の前駆細胞を豊富に含有」すると会社は説明しています 事実。 平らな容器で細胞を増やす通常の培養と違い、細胞が自分で層構造を組み上げる条件を整える培養で、形のそろった組織を安定して作ることが製造上の難所になります。 同社はこの製法を理化学研究所との共同研究で改良・確立し、現在はSMaRTで製造した製品を米国の試験に使っています。 ドパミン神経前駆細胞が「細胞の懸濁液」なのに対して、網膜シートは「組織」を製品にするという点で、細胞培養の技術的な難しさの種類が違います。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
本承認に至らない可能性条件及び期限付承認は、期限内に改めて申請して承認を得ないと失効する制度。会社も「7年以内に改めて申請し、承認取得することが必要」と説明未確定/将来
有効性データの限定中医協の資料は先駆加算について「条件及び期限付き承認であり、有効性を示すデータは限られていることから、限定的な評価とした」と記載。委員からも対象症例が少なく有効性が限定的との発言があった事実
製造コストと供給体制現在は1ロット1患者の製造。1ロット多患者への切り替えは今後の一部変更申請が前提事実
事業の主導権が合弁側にあるRACTHERA・S-RACMOとも住友ファーマの持分は33.4%。研究開発と製造の意思決定は合弁会社と住友化学グループの判断に左右される推測
第三者レポート2026年8月、空売りポジションを持つと開示した米Gotham City Researchがアムシェプリにも触れたレポートを公表。会社は「承認審査に用いられた資料の信頼性については当社で確認」し、規制当局の審査を経て承認を得たとの見解を公表事実
社内の資源配分会社は「がん2品目に資源を集中」と明記しており、再生・細胞医薬への配分は公募増資の使途でも100億円と、がん領域(300億円)より小さい事実

12. 用語集

iPS細胞
体の細胞から作る、さまざまな細胞に変われる幹細胞。本シリーズの技術解説『iPS細胞』で詳しく説明しています。
他家(非自己)
患者本人ではなく、健康な提供者の細胞を使うこと。アムシェプリは京都大学iPS細胞研究財団のiPS細胞ストックが原材料。
ドパミン神経前駆細胞
ドパミンを作る神経細胞になる手前の細胞。パーキンソン病ではドパミン神経細胞が失われる。
条件及び期限付承認
再生医療等製品で、有効性が推定され安全性が確認されれば、条件と期限(7年以内)を付けて早期に承認する日本の制度。
製造販売後臨床試験(フェーズ4)
承認後に行う臨床試験。アムシェプリでは本承認に向けて有効性を検証する承認条件になっている。
薬価収載
公的医療保険で使える価格(薬価)が決まり、薬価基準に載ること。
原価計算方式
似た既存品がない場合に、製造原価・営業利益・流通経費などを積み上げて薬価を決める方式。
持分法適用関連会社
連結子会社ではないが、議決権の20%以上を持つなどして重要な影響を与える会社。利益は持分に応じて取り込む。
CDMO
医薬品の製法開発と製造を受託する事業。本シリーズの技術解説『CDMO』で詳しく説明しています。
自己組織化培養(SFEBq法)
多能性幹細胞を浮遊状態で凝集させ、細胞自身に立体的な組織を作らせる培養法。
概念図:iPS細胞ストックから、研究開発の合弁・製造の合弁を経て、承認取得者が病院に届けるまでの分業
図3 住友ファーマと合弁会社によるiPS細胞由来製品の分業の概念図(AI生成による概念図。実際の設備や製品を写したものではありません)。

13. 出典

  1. 住友ファーマ 有価証券報告書 第206期(2025年4月1日〜2026年3月31日、2026年6月23日提出)。沿革(RACTHERAへの会社分割)、関係会社の状況(持分33.4%)、研究開発活動、従業員数、親会社の議決権比率、公募増資の資金使途、条件付対価契約。 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/ir/library/securities_report/assets/pdf/securities_report_20260623.pdf
  2. 住友ファーマ 2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)(2026年5月13日)。売上収益・コア営業利益・2027年3月期予想・リサイミックの米国製造施設の立ち上げ準備。 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/assets/pdf/br20260513_1.pdf
  3. 住友ファーマ 2025年度(2026年3月期)決算(IFRS)補足資料(2026年5月13日)。製品別売上収益(リサイミック)、再生・細胞医薬の連携先。 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/assets/pdf/br20260513_2.pdf
  4. 住友ファーマ 2026年度(2027年3月期)第1四半期決算説明会資料(2026年7月31日)。アムシェプリの製造販売後臨床試験のスケジュールと施設の準備状況。 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/assets/pdf/ir20260731.pdf
  5. 住友ファーマ 日本における非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞「アムシェプリ」の製造販売承認取得に関するお知らせ(2026年3月6日)。 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/20260306.html
  6. 住友ファーマ 記者会見説明資料(「アムシェプリ」条件及び期限付承認取得記者会見、2026年3月6日)。開発の年表、フェーズ4試験の設計、施設・患者の拡大計画、1ロット多患者への一変申請。 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/assets/pdf/pr20260306.pdf
  7. 住友ファーマ Boost 2028 ―力強い住友ファーマの加速― 説明会資料(2026年3月2日)。キャピタルアロケーション、薬事審議会部会での了承日、再生・細胞医薬の体制。 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/assets/pdf/ir20260302.pdf
  8. 住友ファーマ 米国における「他家iPS細胞由来網膜シート(立体網膜)を用いた網膜色素変性治療」フェーズ1/2試験における最初の被験者への移植のお知らせ(2026年8月13日)。 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/20260813-1.html
  9. 住友ファーマ 当社に関するレポートについて(Gotham City Research社の2026年8月7日付レポートに対する当社の見解、2026年8月12日)。 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/20260812-1.html
  10. 医薬品医療機器総合機構(PMDA) 2025年度承認品目一覧(再生医療等製品)。アムシェプリとリハートの承認日・承認の種類・製品の説明。 https://www.pmda.go.jp/files/000280052.pdf
  11. 厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第650回)資料 総-5「再生医療等製品の保険適用について」(2026年5月13日)。算定薬価・算定方式・加算・市場規模予測・収載予定日。 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001699508.pdf
  12. 厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会 第650回議事録(2026年5月13日)。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_73716.html
  13. 厚生労働省 薬価基準収載品目リスト(注射薬、令和8年5月20日以降)。アムシェプリの収載年月日。 https://www.mhlw.go.jp/topics/2026/04/dl/tp20260520-01_05.pdf
  14. 米国食品医薬品局(FDA) RETHYMIC の承認情報(承認日、適応、申請者)。 https://www.fda.gov/vaccines-blood-biologics/rethymic
  15. タカラバイオ GMP細胞加工受託事業の承継に関する基本合意書締結について(2026年7月21日)。 https://www.takara-bio.co.jp/ja/news/newsr_26m721hyti.html
  16. 住友ファーマ 公式サイト(ロゴの確認用)。 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
正式名称・本店所在地・2022年4月の商号変更・上場市場・親会社の議決権比率(2026年3月末51.81%、提出日現在45.84%以上)事実出典1 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/ir/library/securities_report/assets/pdf/securities_report_20260623.pdf
RACTHERAへの会社分割と66.6%の住友化学への譲渡、RACTHERA・S-RACMOの持分33.4%と事業内容事実出典1 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/ir/library/securities_report/assets/pdf/securities_report_20260623.pdf
売上収益・コア営業利益・2027年3月期予想事実出典2 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/assets/pdf/br20260513_1.pdf
研究開発費440億円、従業員数、研究開発費をセグメントに配分していないこと事実出典1 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/ir/library/securities_report/assets/pdf/securities_report_20260623.pdf
リサイミックの売上収益と予想、再生・細胞医薬の連携先(CiRA、UCSD、ヘリオス、Mass Eye and Ear)事実出典3 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/assets/pdf/br20260513_2.pdf
リサイミックのFDA承認(2021年10月8日、適応、申請者)事実出典14 https://www.fda.gov/vaccines-blood-biologics/rethymic
アムシェプリの承認(条件及び期限付、2026年3月6日)、販売と製造の分担、SMaRT、iPS細胞ストックとエーザイの技術事実出典5 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/20260306.html
アムシェプリ・リハートの承認日と承認の種類、アムシェプリの製法の説明事実出典10 https://www.pmda.go.jp/files/000280052.pdf
算定薬価55,306,737円(18瓶1組)、原価計算方式、加算、収載予定日、市場規模予測(10年度133人・74億円)、先駆加算を限定的な評価としたこと事実出典11 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001699508.pdf
中医協委員の有効性が限定的との発言、リハートは医療材料として対応事実出典12 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_73716.html
2026年5月20日の薬価基準収載事実出典13 https://www.mhlw.go.jp/topics/2026/04/dl/tp20260520-01_05.pdf
開発の年表(2012年参入決断、2017年先駆け指定、2018年SMaRT竣工・治験開始)、フェーズ4試験の設計、1ロット多患者への一変申請の計画事実出典6 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/assets/pdf/pr20260306.pdf
フェーズ4の移植スケジュール(2026年秋に1例目、2027年度10例程度、2028年度10〜20例程度)と京都大学病院との契約事実出典4 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/assets/pdf/ir20260731.pdf
薬事審議会部会での了承(2026年2月19日)、設備投資・投融資約500億円にRACTHERA・S-RACMOへの投融資を含むこと事実出典7 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/assets/pdf/ir20260302.pdf
公募増資の資金使途(再生・細胞医薬100億円、がん領域300億円)とRACTHERA売却の条件付対価事実出典1 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/ir/library/securities_report/assets/pdf/securities_report_20260623.pdf
網膜シートDSP-3077の米国試験(最初の移植、12名予定)、SFEBq法、理研との共同研究(終了)、FDAオーファン指定事実出典8 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/20260813-1.html
第三者レポートと会社の見解事実出典9 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/20260812-1.html
タカラバイオのGMP細胞加工受託のS-RACMOへの承継の基本合意事実出典15 https://www.takara-bio.co.jp/ja/news/newsr_26m721hyti.html
本承認の目標年、1ロット多患者への切り替え時期、SMaRTの製造能力、合弁会社の損益・人員、再生・細胞医薬の研究開発費未確定/将来一次情報に記載なし。本稿では推計しない https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/assets/pdf/pr20260306.pdf
薬価×年10〜20例で年5.5億〜11億円程度という規模感本稿の計算出典4・11の数値から本稿が計算
細胞培養技術の3類型の区分と、住友ファーマの類型本稿の計算本稿による整理。企業名は本シリーズの20社から例示
主導権が住友化学グループ側に移ったという読み、合弁側に主導権があるリスク推測持分構成と分担からの本稿の解釈
2029年頃まで大きな売上にならないという読み推測フェーズ4の移植計画からの本稿の解釈
経済的な見返りが販売マイルストンと持分法利益で入る設計という読み推測条件付対価契約の記載からの本稿の解釈
S-RACMOがグループ外の受託も広げるという読み推測タカラバイオとの基本合意からの本稿の解釈
非凍結の細胞では1ロット1患者になりやすいという読み推測記者会見資料と有価証券報告書の記載からの本稿の解釈

最終更新:2026年9月23日/Troy Technical
本稿の数値はすべて住友ファーマの有価証券報告書、決算短信、決算補足資料、説明会資料、同社発表、PMDAの承認品目一覧、中央社会保険医療協議会の資料と議事録、厚生労働省の薬価基準収載品目リスト、米国FDAの承認情報に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。市場規模予測は中医協資料に記載された住友ファーマ自身の予測で、確定した数値ではありません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。