主要成果
IIT Bombayの研究チームは、血液一滴から重症貧血および鎌状赤血球症を検出できる低コストなスクリーニング手法を開発した。臨床試験において、ヘモグロビン濃度が8 g/dL未満の重症貧血患者を95.1%の精度で正しく識別し、非罹患者については86%の精度で判定した。また、マハラシュトラ州およびインド中部の部族地域で実施した394人を対象とするフィールド試験では、鎌状赤血球症の分類において約95%の正解率を記録した。
技術・詳細
本技術は、血液をガラススライドに塗抹した際に、血液の粘性(厚み)によって塗抹距離が変化するという物理的特性に基づいている。手動の塗抹は作業者によるばらつきが大きいため、チームは特許取得済みの自動塗抹デバイスを開発し、一定の速度と圧力でサンプルを広げる仕組みを構築した。粘性が高い血液は短く厚い塗抹となり、粘性が低い血液はより遠くまで広がる。
疾患ごとの判定メカニズムは以下の通りである:
- 貧血:赤血球濃度とヘモグロビンが低下するため血液の粘性が下がり、塗抹距離が伸びる。また、乾燥後の塗抹色の解析による画像ベースの手法を併用し、1,000人以上の患者で±0.5 g/dLの誤差範囲内でヘモグロビン量を推定した。
- 鎌状赤血球症:低酸素状態で赤血球が硬化・変形する特性を利用する。安価な化学物質を用いてサンプルから酸素を除去する前後の塗抹距離を比較することで、健康な人と鎌状赤血球形質保持者、および患者を区別する。
さらに、ヒドロキシ尿素による治療を受けている患者では、脱酸素後の血液粘性の増加率が約125%から70%に低下したことが確認されており、治療反応の追跡への応用も期待される。
背景・業界の文脈
通常、貧血の診断には全血算(CBC)が、鎌状赤血球症の確定診断には高速液体クロマトグラフィー(HPLC)やヘモグロビン電気泳動などの高度な検査が必要であり、結果が出るまで1〜3日以上かかる。また、これらの検査は設備が整った研究所に依存している。対して本キットは、ピペット、ガラススライド、低コストな試薬、脱酸素用のバイアル、および定規や画像デバイスのみで構成される。この簡便さは、インド政府が推進する「国家鎌状赤血球貧血根絶ミッション」や「Anaemia Mukt Bharat(貧血のないインド)」といった、農村部や部族居住区への大規模な普及を優先する公衆衛生戦略に合致している。
今後の展望
本技術は、IIT Bombayでインキュベートされたメドテック・スタートアップのRheoheme Private Limitedにライセンス供与された。現在は、ジャバルプルにあるICMR国立部族健康研究所(旧NIRTH)およびAIIMS Nagpurと協力して規制当局の承認申請を進めている。また、血液凝固時間や血糖値の測定へのプラットフォーム拡張も検討されている。一方で、集団による遺伝的な粘性反応の違いや、粘性と貧血の相関が崩れるハイパービスコシティ症候群などの稀なケースを見逃す可能性などの限界も指摘されており、広範な臨床利用には規制当局の承認が必要となる。
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