主要成果
アンモニアの電気化学的分解(クラッキング)において、触媒の劣化を抑制し、長期間の安定稼働を可能にする自己再生型白金触媒が開発されました。この新しいPt/Fe-NC触媒は、高い電流密度である1.5 A cm−2の条件下で500時間の連続水素製造を維持することに成功しました。また、より低い電流密度である10 mA cm−2の条件下では、パルス電解、断続的な酸洗浄、およびアンモニアの補充を組み合わせることで、2,000時間以上の水素製造を継続できたことが報告されています。
技術・詳細
開発された触媒は、原子レベルで分散した鉄(Fe)サイトを含む窒素ドープカーボン(NC)を担体とし、その上に白金(Pt)ナノ粒子を担持させた構造をしています。この構成により、以下の2つの課題を同時に解決しています。
- 活性の向上:担体から白金への電子移動が起こることで、白金自体の酸化が抑制されるとともに、アンモニア酸化反応における律速段階である脱水素化ステップが加速されます。これにより、白金1グラムあたり733 Aという高い質量活性を達成しました。
- 自己再生機能:従来の白金触媒では、活性部位に窒素種が結合して触媒毒となる「窒素被毒」が大きな課題でした。本触媒の鉄-窒素-カーボン基質は、水が介在する経路を促進し、吸着した有害な窒素種を反応性の高いNH含有中間体へと還元(水素化)させます。これらが二量化して表面から離脱することで、触媒がin situで再生されます。
研究チームは、触媒構造、被毒メカニズム、白金の酸化状態の役割、および再生経路のオペランド分光法を用いた特性評価を行い、この統合的な設計を実証しました。
背景・業界の文脈
水素はクリーンエネルギーとして期待されていますが、貯蔵と輸送に課題があります。アンモニアは水素の優れたキャリア(運搬体)であり、容易に貯蔵・輸送が可能です。アンモニアを電気化学的に分解して水素を取り出す手法は、分散型の水素製造を実現する持続可能なルートとして注目されています。しかし、従来のアノード側アンモニア酸化反応に用いられる白金ベースの触媒は、「白金自体の酸化」と「窒素種による被毒」という2つの経路で活性を失うため、実用化には高い耐久性が求められていました。
今後の展望
本研究の結果は、再生可能エネルギーを輸送可能なベクトルとしてアンモニアを利用する「水素経済」の進展に寄与する可能性があります。ただし、今回の性能数値およびメカニズムの主張は著者らによる測定結果に基づいたものであり、論文はサブスクリプション形式のペイウォール後にあるため、実際の電解槽ハードウェアにおいて長期的にどのように機能するかを確立するには、独立した第三者による再現性の検証が必要であるとされています。
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