COMPANY PROFILE / ドローン・ロボティクス
エニーボティクス
― 「認証済み」の範囲を読む。脚型の点検ロボットを防爆区域に入れる会社
ANYbotics(スイス・チューリッヒ)は、四本脚で歩く点検ロボット「ANYmal」を作る非上場の会社です。階段を上り、プラントの中を自分で巡回して、カメラやセンサーで設備の状態を記録します。この会社の特色は、爆発のおそれがある場所(防爆区域)で使えるモデル ANYmal X を持つことです。会社はATEX・IECEx の Zone 1で認証されたと説明し、認証機関の Bureau Veritas も IECEx 認証の実施を発表しています。ただし範囲は、区域・ガス・温度で区切られ、IECEx の公開データベースで本稿が確認できた証明書は、2022年のユニット検証2件(4台分)でした。本稿は、会社の公式資料・認証機関・取引先の発表・公開データベースだけで、確認できたことと確認できなかったことを整理します。
- 30秒でわかるANYbotics と、ドローン・ロボティクスでの立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- ドローン・ロボティクスの世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模(財務は非公表)
- ロボット・ドローンにかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社はロボット・ドローンで何を目指しているか
- ロボット・ドローン分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス(防爆認証の範囲)
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるエニーボティクス と、ドローン・ロボティクスでの立ち位置
チューリッヒHagenholzstrasse 83a。ほかにサンフランシスコ、2026年6月にバルセロナ
(主)従:部品・基盤ソフト(運用ソフトShift)
ANYmal XD は標準型、X は防爆型(会社の説明)
Zone 1・IIBANYmal X。0〜40℃、IP67(会社の仕様書)。範囲は第10章
ANYbotics は、四本脚で歩く点検ロボット(脚型ロボット)の会社です。ガスや油を扱うプラントの中を、決められた順路で自分で歩き、カメラ・赤外線カメラ・マイクなどで設備の状態を記録します(会社の説明)。 事実
この会社の最大の特色は、爆発性のガスが出るおそれのある場所(防爆区域)で使えるモデル、ANYmal X を持つことです。会社の仕様書は、ATEX(EUの防爆機器の指令)と IECEx(国際的な防爆認証制度)のZone 1で認証されたと書きます 事実。ただし範囲は、① Zone 1(Zone 0 は含まない)② ガスグループ IIB(水素・アセチレンの IIC は含まない)③ 温度等級 T4(表面温度135℃以下)④ 周囲温度0〜40℃で区切られています。標準型の ANYmal D は、防爆型として説明されていません。
さらに本稿は、IECEx の公開データベースを自分で検索しました。見つかった証明書は2022年の「ユニット検証」2件(4台分)で、申請者は PETRONAS の研究子会社です(第10章)。「認証済み」という言葉が、どこまでの範囲を指すのかを、この記事の中心に置きます。
2026年2月6日にISO/IEC 27001(情報セキュリティ)の認証を取得、2月10日に横河電機とソフトの連携で提携、6月16日にバルセロナ拠点を開設、10月1日に運用ソフトShiftを発表しました 事実。
一方、2026年2月の会社資料は「ANYmal X はプロトタイプでの導入を重ねており、正式発売は2026年内」と書き、10月25日時点の製品ページも「2026年版の仕様は近日公開」と表示しています 未確定/将来。2022年に発表された ANYmal X と、2026年に正式発売される ANYmal X が同じ仕様・同じ認証範囲かは、確認できませんでした。
2. ロゴと社名の表記について
ロゴは同社の商標です。本稿では生成画像による再現を行わず、公式サイトのヘッダーから取得した画像(暗い背景用の白抜き版)を img/anybotics_logo.png として、暗い色の枠に置いています。
表記の注意:社名は ANYbotics(先頭の ANY が大文字)、製品名は ANYmal(ANYmal D、ANYmal X)です。法人としての表記は公式リリースや IECEx 証明書にある ANYbotics AG(スイスの株式会社)です。公式サイトの会社ページには「14年」、2026年9月の文書には「16年」と、年数の書き方が異なる箇所があります(本稿では創業年の2016年を使います)。
公式サイト:https://www.anybotics.com/3. ドローン・ロボティクスの世界で、この会社はどこにいるか
作るのは①脚型の点検ロボット(ANYmal D・ANYmal X)と、②ロボットの運用と点検データを扱うソフト(Shift)です。売る相手は、石油・ガス、化学、電力、金属・鉱業などの「プロセス産業」のプラントを運営する会社です(会社の説明)。工場の生産ラインで同じ動きを繰り返す産業用ロボットとは違い、人が歩いて行う見回りを肩代わりするロボットです。
本シリーズの技術解説『脚型ロボットと点検ロボット』も、あわせて参照してください。
点検ロボットの仕事の流れ
4. 会社の規模(財務は非公表。確認できる範囲で見る)
ANYbotics は非上場で、売上・利益・従業員の総数を公式資料で公表していません。報道や調査会社の推計は使わない方針のため、本稿は「公表されている数字」だけを並べます 事実。
| 項目 | 確認できた内容 | 日付 | 区分 |
|---|---|---|---|
| 売上・利益 | 公式サイト・公式リリースに記載なし | ― | 確認できず |
| 専門人材 | 「専門家200人以上がイノベーションに専念」、35か国籍 | 2024年12月12日 | 事実(会社) |
| 累計調達額 | 追加6,000万ドルを調達し、累計1.3億ドル超 | 2024年12月12日 | 事実(会社) |
| 生産台数 | ANYmal の100台目を生産・納入(組立は Zollner と共同)。それ以降の累計台数の公表は確認できず | 2023年12月20日 | 事実(会社) |
| 稼働の規模 | 「月に数十万回の自律点検」「Shiftは200超のロボット導入で稼働」。第三者の検証は確認できず | 2026年9〜10月 | 事実(会社の主張) |
| 拠点 | チューリッヒ(本社)、サンフランシスコ、バルセロナ(3つ目) | 2026年6月16日 | 事実(会社) |
財務が見えない会社は、次の3点で読むと外しにくくなります 本稿の計算。
(1) 資金の出どころ=専門の投資家に加え、石油・ガス業界とつながる投資家(Aramco Ventures、Climate Investment など)が名を連ねる。(2) 顧客の動き=試験(Equinor、BASF)→購入・評価(Petrobras)と段階が追える。(3) 認証の範囲=「認証済み」の中身(区域・ガス・温度・対象の個体)が公開資料でどこまで確認できるか。本稿は(3)を最も重く見ます。
5. ロボット・ドローンにかけているリソース
会社の規模が見えにくいため、「人・金・外部への出資や買収・大学や公的機関との連携」の4点を、確認できたか/できなかったかで整理します。「記載なし」も成果として書きます。
| リソースの種類 | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人 | 専門家200人以上、35か国籍(2024年12月)。拠点はチューリッヒ・サンフランシスコ・バルセロナ。経営陣は CEO の Péter Fankhauser(共同創業者)ほか | 事実 |
| 金(研究開発費・調達) | 研究開発費の金額は非公表。調達は、2024年12月に6,000万ドル(Qualcomm Ventures と Supernova Invest が主導、TDK Ventures ほかが参加)、累計1.3億ドル超。2025年9月に Climate Investment が戦略投資家として参加(金額の記載なし) | 事実 |
| 外部への出資・買収・合弁 | ANYbotics から他社への出資・買収は確認できず。共同開発は PETRONAS(2019年から共同研究開発、2022年に商用化契約)。ソフト連携は横河電機(2026年2月)、GE Vernova(2025年12月)、SLB(長期の優先パートナーシップ) | 事実/確認できず |
| 大学・研究機関・公的機関 | 出自は ETH Zurich。共同創業者の Marco Hutter 氏は同大学の准教授、Roland Siegwart 氏は同大学の教授(会社ページ)。研究用の ANYmal を25の大学・研究機関に納入(会社の主張)。論文2件(2016年 IROS、2019年 Science Robotics)あり。NASA・DARPAなど公的機関との契約は確認できず | 事実/確認できず |
主要な機体・製品の状況
性能値はすべてメーカー公称です。ANYmal D と ANYmal X の数値は、測り方・装備が異なるため、並べて優劣を決める材料にはなりません。
| 名称 | 種別 | 主要な仕様(メーカー公称) | 導入・運用の実績(日付つき) | 規制上の承認の範囲 | 段階 |
|---|---|---|---|---|---|
| ANYmal D | 四脚の点検ロボット(防爆ではない) | 通常の歩行速度0.75 m/s、1回の充電で約2 km(90〜120分)、IP67、追加ペイロード10 kg。熱画像カメラは-40〜550℃(公式ページ) | Equinor の二酸化炭素回収・貯留施設に導入(2025年6月) | CE・FCC・Anatel適合(会社)。防爆の認証は記載なし | 提供 |
| ANYmal X | 防爆型の点検ロボット | 重量60.1 kg(検査ペイロード・ガスセンサー込み)、歩行速度は最大1.0 m/s(推奨0.5 m/s)、電池932.4 Wh、稼働60〜120分、周囲温度0〜40℃、IP67(2025年2月保存の仕様書) | Equinor の試験施設で5週間・30回超の自律点検(2023年)、BASF で評価(2023年)、Petrobras が6台を約400万ドルで購入(2023年11月発表) | IECEx・ATEX の Zone 1・IIB(会社)。公開データベースで確認できたのは4台分のユニット証明(第10章) | 2022年発表。2026年内に「正式発売」と会社が説明(未確定/将来) |
| Shift(運用ソフト) | 点検データと運用のプラットフォーム | Fleet・Insight・Connect・Maps の4モジュール。クラウドで提供、顧客のクラウドやオンプレミスにも対応(会社) | 200超のロボット導入で稼働、Vigier Cement では16か月で33,000回超の自律点検を実行と会社は説明(2026年10月。機種の記載なし) | ISO/IEC 27001 認証取得(2026年2月、会社) | 提供(2026年10月発表) |
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 2009〜2010年 | 共同創業者らが ETH Zurich で電動の脚型ロボットを研究(会社ページは2009年、2026年の文書は2010年と書く) | 大学の研究が出発点。2016年論文でANYmalを発表 |
| 2016年 | ANYbotics を創業(会社)。ANYmal の論文を IROS で発表 | 研究を産業用に移す会社になる |
| 2018年 | ETH が深層強化学習で歩行を制御する研究を発表(2019年 Science Robotics) | 歩行の制御を学習で作る方式の出発点。2021年以降の ANYmal はこの方式を使うと会社は説明 |
| 2019年 | PETRONAS と ANYmal X の共同研究開発を開始(PETRONAS) | 防爆型の開発のきっかけ |
| 2020年9月 | maxon と提携。アクチュエータの開発・生産を maxon が担当、1台に12個 | 小ロットから量産への移行 |
| 2022年3月22日 | ANYmal X を発表。PETRONAS と商用化の契約 | 防爆型の登場 |
| 2022年8月・9月 | IECEx のユニット検証証明を2件(計4台分)発行。申請者は PETRONAS RESEARCH SDN. BHD. | 認証の公開記録 |
| 2022年10月20日 | 汎用の高機動ロボットを兵器化しないとの公開書簡に署名 | 用途の方針 |
| 2023年6〜8月 | Equinor の K-Lab で5週間の試験、BASF で評価 | 防爆区域での実地確認 |
| 2023年11〜12月 | Petrobras が ANYmal X を6台購入と発表。ANYmal の100台目を生産 | 購入と量産の両方の記録 |
| 2024年12月12日 | 追加6,000万ドルを調達(累計1.3億ドル超) | 米国での拡大 |
| 2025年6月・9月・12月 | Northern Lights(ANYmal D)、Climate Investment の参加、GE Vernova との連携 | 産業の幅が広がる |
| 2026年2月 | ISO/IEC 27001 取得(6日)、横河電機と提携(10日)。ANYmal X の正式発売は2026年内と会社が説明 | ソフトと情報セキュリティを強める |
| 2026年3月〜10月 | CRO に Thierry Obédé 氏(3月)、バルセロナ拠点(6月)、Shift 発表(10月1日) | ロボット単体から運用の提供へ |
7. 今後の計画
以上はすべて会社の計画・目標で、達成の事実ではありません 未確定/将来。
次はいずれも、公式資料・公開データベースで確認できませんでした 未確定/将来。
ANYmal X の2026年版の仕様・重量・認証範囲/ATEX の型式審査証明書の番号と認証機関/IECEx の型式(機種全体)を対象とする証明書/販売価格・売上・利益/累計の出荷台数と稼働台数/「予約600台超」「300台超の導入意向」といった会社の数字の第三者による検証/PETRONAS が2025年までに行った導入の実績。
8. この会社はロボット・ドローンで何を目指しているか
会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| ロボット単体の販売から、点検の運用(ロボット+ソフト)の提供へ軸足を移そうとしている | Shift の発表(フリート運用、異常を作業指示に変える)、2026年3月に保全ソフト企業出身の CRO を任命、会社自身が「物理AI・産業AI・ワークフロー連携の全部を持つ」と述べる(2026年9月) | 推測 |
| 防爆型は石油・ガス・化学が中心、標準型は電力・金属・セメントなどに広げている | ANYmal X の試験・購入先は Equinor・BASF・Petrobras・PETRONAS。Shift の事例は Vigier Cement(セメント)、Steelmet(金属)、Kanadevia Inova(廃棄物発電) | 推測 |
| 防爆区域に入れる点検ロボットを認証で差別化する領域と見ている | 会社と認証機関 Bureau Veritas の双方が「世界初」と表現。ただし「世界で唯一」が今後も成り立つかは確認できない | 推測 |
| ANYmal X を世代更新して再発売しようとしている | 2022年から納入・予約受付があるのに、2026年に「正式発売」とし、製品ページも「2026年版の仕様は近日公開」と表示。会社は理由を説明していない | 推測 |
| 他社ロボットも含めた運用の司令塔になることを目指す | Shift を他社ロボットに対応させる計画(2026年10月)。会社の目標なので 未確定/将来 | 事実(会社の目標) |
| 兵器化に反対する立場を公に取っている | 2022年10月の公開書簡、会社ページの記載 | 事実 |
ANYmal X は2022年3月に発表され、同年に認証作業が行われ、2022年末に受注を開始、2023年には6台の購入が発表されました 事実。それでも2026年2月の資料は、「ANYmal X はプロトタイプで導入を重ねており、2026年内に正式発売」と書きます。本稿は、これを新しい世代の機体(2026年版)への切り替えを指す可能性があると読みます 推測。
根拠は、製品ページが2025年の仕様書を差し替える形で「2026年版の仕様は近日公開」と表示していること、2025年9月の会社資料が ANYmal X を「forthcoming(これから出る)」と書いていることです。ただし会社はこの理由を説明していないため、初期型の認証が新世代にそのまま当てはまるかは確認できません 未確定/将来。
9. ロボット・ドローン分野の提携マッピング
10. 提供している技術・製品・サービス
防爆認証の範囲をていねいに読む
| 項目 | 確認できた内容 | 読み方 | 区分 |
|---|---|---|---|
| IECEx の表示 | Ex db eb ib op is pxb sb IIB T4 Gb(証明書・仕様書) | 複数の保護方式の組合せ。Zone 1 向け(Gb) | 事実 |
| ATEX の表示 | II 2G IIB T4(仕様書) | II=鉱山以外、2=カテゴリー2(EU指令:爆発性雰囲気が時々生じる場所向け)、G=ガス、IIB・T4 は上と同じ | 事実/解説 |
| 区域 | Zone 1 で使えると会社が説明。Zone 0 は対象外 | Zone 1=通常の運転中に爆発性ガスが時々生じる場所(解説) | 事実/解説 |
| ガスグループ | IIB。仕様書の例示ガスは、アセトン・アンモニア・ブタン・プロパン・メタン・トルエン・キシレン・エチレン・エタノールなど | IECEx 資料では、IIC の代表は水素・アセチレン・二硫化炭素(最も着火しやすい)。IIC のガスがある場所は対象外 | 事実/解説 |
| 温度等級 | T4 | 表面温度135℃以下(IECEx 資料) | 事実 |
| 周囲温度 | 0〜40℃(仕様書) | 寒冷地・高温の場所は範囲外。証明書の表示欄には温度の記載が見当たらない | 事実 |
| 保護の仕組み | 本体を窒素で満たして圧力を保つ(pxb)、移動用モーターは耐圧防爆容器(d)、接続口とWi-Fiは本質安全(i)、外殻と脚は導電性 | 本体の中に可燃ガスを入れない設計。圧力が下がると危険区域から退出する安全機能がある(証明書の記述) | 事実 |
| 使用条件 | 使う前に窒素のパージの手順を守る/危険区域では充電しない/純正の充電アダプタだけを使う/高所からの落下を避ける(証明書の特定使用条件) | 「認証済み」でも、運用のルールを守る前提 | 事実 |
本稿は2026年10月25日に、IECEx の公開証明書データベースで「ANYmal」を検索しました。見つかったのは、ユニット検証(Unit Verification)の証明書2件と試験報告書2件です 事実。
ユニット検証とは、証明書が「シリアル番号で指定した個体」だけを対象にする方式です。EPS 22.0047X(2022年8月13日)は ANYmal X の2台(シリアル番号 …002・…003)、EPS 22.0071X(2022年9月19日)は別の2台(…004・…005)が対象で、申請者は PETRONAS RESEARCH SDN. BHD.、製造者は ANYbotics AG、発行は Bureau Veritas の機関です。証明書は、品質評価報告(QAR)は適用されないと明記しています。
会社の仕様書は「ATEX・IECEx の Zone 1 で認証」と書きますが、本稿が公開データベースで確認できたのは上の4台分で、機種全体(型式)を対象とする証明書は検索では見つかりませんでした。ATEX については公開のデータベースがなく、証明書の番号と認証機関を確認できませんでした。存在しないと断定するものではなく、検索語(「ANYbotics」では該当なし、「ANYmal」で4件)や公開範囲の限界かもしれません 未確定/将来。量産機に、どの範囲の認証が及ぶかは、顧客が会社に証明書の写しを確認する必要がある点です(法的助言ではありません)。
防爆というと頑丈な金属容器を思い浮かべますが、ANYmal X は本体を窒素で満たして外より少し高い圧力に保つ(内圧防爆)という方法を主に使います。圧力のかかった窒素が内側から押すので、外の可燃ガスが入り込めません。そのため、ふた・つなぎ目・ケーブルの貫通部のシール材が漏れを抑える鍵になります(シールの材質は仕様書に記載なし)。
静電気も点火源になるため、証明書は外殻と脚を「導電性にして電気をためない」と書きます。また温度等級 T4 は、モーターや電池が出す熱で表面が135℃を超えないことを求めます。駆動部は maxon が開発・生産するアクチュエータ(1台に12個)で、移動用モーターは耐圧防爆の容器に入れています。電池は交換式のリチウムイオン(932.4 Wh)で、輸送の安全試験 UN 38.3 に適合と仕様書にありますが、これは輸送の試験であり、防爆の認証とは別です。なお、危険区域では電池を充電しない条件が付いています。
ロボットの歩き方:学習で作る制御
ANYmal の歩行は、2019年の Science Robotics 論文(ETH Zurich の研究者ら)が示した強化学習の方法を土台にしています。強化学習とは、コンピュータ上の模擬環境で何度も試行して「転ばずに歩く」制御を覚えさせる方法です。会社は2021年以降の ANYmal がこの方式を使うと説明します 事実。詳しくは、本シリーズの技術解説『模倣学習と強化学習』を参照してください。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 認証の範囲が限られる | Zone 1・IIB・T4・0〜40℃に限られる。Zone 0、水素・アセチレンのある場所、温度範囲外では使えない | 事実 |
| 認証の「対象」が公開記録では4台分 | IECEx データベースで確認できたのはユニット検証2件(4台)。機種全体の証明書は確認できず、ATEX も確認できなかった | 事実/確認できず |
| 2026年版の仕様が未公開 | 正式発売は2026年内と会社が説明するが、10月25日時点で仕様は未公開。認証の引き継ぎも確認できない | 事実/未確定/将来 |
| 財務が見えない | 売上・利益・出荷台数が非公表。会社の数字(予約600台超、月数十万回の点検)は第三者検証が確認できない | 事実 |
| 顧客が特定の業界に偏る可能性 | 防爆型の導入・試験先は石油・ガス、化学が中心。標準型は電力・金属などへ広がるが、割合は非公表 | 推測 |
| 部品・組立の外部依存 | 駆動部は maxon、組立は Zollner と共同(会社の発表)。供給の不具合や価格の影響を受けうる | 推測 |
| サイバー・データの責任 | 点検データを扱うため、情報セキュリティが重要。ISO/IEC 27001 を取得(2026年2月) | 事実 |
12. 用語集
- 脚型ロボット
- 脚で歩くロボット。階段や不整地に強い。車輪型より複雑で高価になりやすい。
- 点検ロボット
- 人の代わりに設備を見回り、状態を記録するロボット。
- 防爆(Ex)
- 爆発性のガスがあっても、機器が点火源にならないようにする設計・認証の考え方。
- ATEX
- EUの防爆機器の指令(2014/34/EU)に基づく表示。
- IECEx
- 国際電気標準会議(IEC)の防爆機器の認証制度。証明書はオンラインで公開される。
- Zone 0/1/2
- 爆発性のガスが「常にある/通常の運転中に時々ある/通常はまれ」場所の区分(解説)。Zone 1 は中間。
- ガスグループ IIA/IIB/IIC
- ガスの着火しやすさの区分。IIC が最も着火しやすい(水素・アセチレンなど)。
- 温度等級 T4
- 機器の表面温度が135℃を超えない等級。
- 機器保護レベル Gb
- Zone 1 で使える機器のレベル(Zone 0 は Ga、Zone 2 は Gc)。
- 内圧防爆(p)
- 容器の中を外より高い圧力の保護ガスで満たし、可燃ガスが入らないようにする方式。
- 耐圧防爆(d)
- 容器が内部の爆発に耐え、炎を外に出さない方式。
- 本質安全(i)
- 回路のエネルギーを小さくして、火花や熱が点火源にならないようにする方式。
- ユニット検証
- シリアル番号で指定した個体だけを対象にする認証(型式全体の認証とは別)。
- IP67
- 粉じんが入らず、一時的な水没にも耐える保護等級。
- 強化学習
- 模擬環境で試行を重ね、うまくいく動きを学ぶ方法。
- Shift
- ANYbotics の運用プラットフォーム。ロボットの運用と点検データを作業指示につなぐ。
13. 出典
- ANYbotics 製品ページ「ANYmal X」(2026年10月25日確認)。「ATEX & IECEx certified up to Zone 1 IIB」、IP67、検査ペイロード、「2026 ANYmal X specifications coming soon」の表示。 https://www.anybotics.com/robotics/anymal-x/
- ANYbotics 製品ページ「ANYmal」(2026年10月25日確認)。ANYmal D の公称値(通常歩行速度0.75 m/s、1回の充電で約2 km〔90〜120分〕、IP67、追加ペイロード10 kg、熱画像カメラ-40〜550℃)、CE・FCC・Anatel適合。 https://www.anybotics.com/robotics/anymal/
- ANYbotics 「ANYmal X Technical Specifications」(Internet Archive 保存版、2025年2月7日取得。公式サイトの現行URLは2026年10月25日時点で見つからず、同サイトは「2026年版の仕様は近日公開」と表示)。IECEx・ATEX表示、0〜40℃、IP67、重量60.1 kg、歩行速度、電池932.4 Wh、稼働時間、例示ガス。 http://web.archive.org/web/20250207051131/http://anybotics.com/anymal-x-technical-specifications.pdf
- ANYbotics プレスリリース「ANYmal X — The World’s First Ex-Proof Legged Robot」(2022年3月22日)。ANYmal X の発表、PETRONASとの商用化契約、早期導入プログラム。 https://www.anybotics.com/news/anymal-x-the-worlds-first-ex-proof-legged-robot/
- IECEx(国際電気標準会議の防爆認証制度) 公開証明書データベース:証明書 IECEx EPS 22.0047X(ユニット検証、2022年8月13日発行、状態 Current、2026年10月25日閲覧)。申請者 PETRONAS RESEARCH SDN. BHD.、製造者 ANYbotics AG、機種 ANYmal X type AM-XD100A、シリアル番号 1´000´001´002・1´000´001´003、表示 Ex db eb ib op is pxb sb IIB T4 Gb、発行機関 Bureau Veritas Consumer Products Services Germany GmbH、特定使用条件あり。 https://www.iecex-certs.com/#/deliverables/CERT/1533689/view
- IECEx(国際電気標準会議の防爆認証制度) 公開証明書データベース:証明書 IECEx EPS 22.0071X(ユニット検証、2022年9月19日発行、状態 Current、2026年10月25日閲覧)。シリアル番号 1´000´001´004・1´000´001´005。それ以外は上と同じ。 https://www.iecex-certs.com/#/deliverables/CERT/1564136/view
- Bureau Veritas 発表「Bureau Veritas unlocks milestone in inspection expertise with world’s first Ex-certified legged robot」(2023年6月15日)。認証作業を2022年にマレーシアとドイツのチームが完了したこと、IECEx認証であること。 https://marine-offshore.bureauveritas.com/newsroom/bureau-veritas-unlocks-milestone-inspection-expertise-worlds-first-ex-certified-legged
- PETRONAS メディアリリース「PETRONAS Partners With ANYbotics AG To Commercialise ANYmal X」(2022年3月23日)。2019年からの共同研究開発、商用化契約、2025年までの導入拡大。 https://www.petronas.com/media/media-releases/petronas-partners-anybotics-ag-commercialise-anymal-x
- ANYbotics・横河電機 プレスリリース「Yokogawa and ANYbotics to Integrate OpreX Robot Management Core Software with ANYmal Robotic Inspection Solutions」(2026年2月10日)。提携、ANYmal D と ANYmal X の説明、「ANYmal X はプロトタイプでの導入を重ね、2026年内に正式発売」との記載。 https://www.anybotics.com/news/yokogawa-and-anybotics-to-integrate-oprex-robot-management-core-software-with-anymal-robotic-inspection-solutions/
- ANYbotics プレスリリース「ANYbotics Launches Shift」(2026年10月1日)。運用プラットフォームShiftの4モジュール、200超のロボット導入での稼働、Vigier Cementでの自律点検33,000回超、Data NavigatorからShiftへの移行、他社ロボット対応の計画。 https://www.anybotics.com/news/shift-launch/
- ANYbotics プレスリリース「ANYbotics Raises Additional $60 Million to Drive U.S. Expansion」(2024年12月12日)。追加調達6,000万ドル、累計1.3億ドル超、主導投資家、専門家200人超・35か国籍。 https://www.anybotics.com/news/anybotics-raises-additional-60-million-to-drive-u-s-expansion/
- ANYbotics 発表「ANYbotics Welcomes Climate Investment as Strategic Investor」(ページ表示日 2025年9月22日)。戦略投資家としての参加(金額の記載なし)、既存投資家の列挙。 https://www.anybotics.com/news/anybotics-climate-investment-strategic-investor/
- ANYbotics プレスリリース「Petrobras and ANYbotics Join Efforts to Automate Offshore FPSO Inspections」(2023年11月20日付)。ANYmal X 6台・400万ドル、FPSO P-74での試験、「予約600台超」との会社の記載。 https://www.anybotics.com/news/petrobras-and-anybotics-join-efforts-to-automate-offshore-fpso-inspections/
- ANYbotics 事例「ANYmal X completes Five-Week Test Program at Equinor Lab」(2023年6月1日)。Equinor の K-Lab(ノルウェー・カルストー)での5週間・30回超の自律点検ミッション。 https://www.anybotics.com/news/anymal-x-completes-five-week-test-program-at-equinor-lab/
- ANYbotics 事例「ANYmal X Tested for Autonomous Robot Inspections in Ex-zones at BASF」(2023年8月4日)。ルートヴィヒスハーフェンでの評価、1ミッション約20分・20点検点。 https://www.anybotics.com/news/anymal-x-basf-ludwigshafen-deployment/
- ANYbotics 事例「ANYmal deployed at Northern Lights CCS Facility」(2025年6月23日)。Equinorの二酸化炭素回収・貯留施設でのANYmal D の導入。 https://www.anybotics.com/news/equinor-deploys-anymal-at-northern-lights-ccs-facility/
- ANYbotics・maxon 発表「ANYbotics and maxon Enter into a Strategic Partnership」(2020年9月15日)。maxon がANYmal用アクチュエータの開発・生産を担い、1台に12個を使うこと。 https://www.anybotics.com/news/anybotics-and-maxon-enter-into-a-strategic-partnership/
- ANYbotics 発表「ANYbotics Celebrates 100th ANYmal Milestone」(2023年12月20日)。ANYmal 100台目の生産、Zollnerとの組立。 https://www.anybotics.com/news/anybotics-celebrates-100th-anymal-milestones/
- ANYbotics 発表「ANYbotics Opens New Office in Barcelona」(2026年6月16日)。バルセロナが3つ目の拠点。 https://www.anybotics.com/news/barcelona-office-opening/
- ANYbotics 発表「ANYbotics Achieves ISO 27001 Certification」(2026年2月6日)。情報セキュリティ管理(ISO/IEC 27001)の認証取得。 https://www.anybotics.com/news/anybotics-achieves-iso-27001-certification/
- ANYbotics 「ANYbotics Manifesto: Building the Autonomous Workforce for the Process Industry」(ページ表示日 2026年9月9日)。沿革、研究の出自、強化学習の歩行制御、月間の自律点検数(会社の主張)。同ページの市場規模・損失額の数字は第三者推計のため本稿では採用しない。 https://www.anybotics.com/news/anybotics-manifesto/
- ANYbotics 会社ページ(2026年10月25日確認)。創業2016年、ETHチューリッヒ発、経営陣・取締役、兵器化への不支持。 https://www.anybotics.com/about-us/company/
- ANYbotics 公開書簡「General Purpose Robots Should Not Be Weaponized」(2022年10月20日)。汎用の高機動ロボットを兵器化しないという誓約。 https://www.anybotics.com/news/general-purpose-robots-should-not-be-weaponized/
- 欧州連合 指令 2014/34/EU(爆発性雰囲気で使う機器の指令、ATEX指令)。附属書I:機器グループとカテゴリーの区分(カテゴリー2は爆発性雰囲気が「時々生じる」場所向け)。 https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:32014L0034
- IECEx 会議資料「Overview of Explosion Protection Techniques」(BARTEC、IECEx 2018 国際会議)。保護方式の記号(d・p・e・i・op)、ガスグループ(IIC・IIB・IIA)の代表ガス、温度等級(T4=135℃)、機器保護レベル(Gb=Zone 1)。 https://www.iecex.com/assets/Uploads/D2S2-Ex-Protection-Techniques-BARTEC.pdf
- Hutter ほか 論文「ANYmal – a highly mobile and dynamic quadrupedal robot」(IEEE/RSJ IROS 2016)。DOI 10.1109/IROS.2016.7758092(Crossrefで確認)。 https://doi.org/10.1109/IROS.2016.7758092
- Hwangbo ほか 論文「Learning agile and dynamic motor skills for legged robots」(Science Robotics、2019年1月30日)。DOI 10.1126/scirobotics.aau5872(Crossrefで確認)。 https://doi.org/10.1126/scirobotics.aau5872
- ANYbotics 発表「ANYbotics Partners With SLB to Advance Autonomous Robotics Operations in Oil & Gas」(ページ表示日 2024年10月28日)。SLBとの長期の優先パートナーシップ。 https://www.anybotics.com/news/anybotics-partners-with-slb-to-advance-autonomous-robotics-operations-in-oil-gas/
- ANYbotics 事例「ANYbotics & GE Vernova: Advancing Energy Inspections」(2025年12月9日)。GE Vernova の資産管理ソフトとの連携。 https://www.anybotics.com/news/anybotics-ge-vernova-ai-robotic-energy-inspections/
- ANYbotics 公式サイト(社名・住所・ロゴ画像の取得元)。 https://www.anybotics.com/
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月25日/Troy Technical
本稿は、ANYbotics の公式資料、認証機関・取引先の発表、IECEx の公開データベース、EU指令、査読論文に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません(会社の文書にある市場規模・損失額の数字は、出所が第三者の推計のため採用していません)。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。法的助言・投資助言ではありません。
