INSTITUTION PROFILE / マテリアルインフォマティクス
物質・材料研究機構(NIMS)
― 日本のマテリアルインフォマティクスの「データと研究の拠点」
NIMSは、茨城県つくば市にある日本の国立研究開発法人で、材料の基礎研究を行う研究所です。 マテリアルインフォマティクス(MI。AIやデータで材料開発を速くする方法)では、材料データベースを運営し、データを集める拠点になっている点が特徴です。 一方で、国の政策や補助金を決める官庁ではありません。 本稿では、NIMSがMIにどこまで影響を持ち、何を決められないのかに絞って整理します。
- 30秒でわかるNIMS
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- MIで何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 関わっている組織とお金の流れ
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかる物質・材料研究機構(NIMS)
物質・材料研究機構英文 National Institute for Materials Science(NIMS)
NIMSは、MIの「データを集めて貸す側」で、ルールや予算を決める側ではありません。 高分子データベースPoLyInfoなどの材料データベースを運営し、2026年9月30日時点で、PoLyInfoの公開データだけで約35.8万データ点(約1.5万件の文献)があります 事実。 国の計画の中では、NIMSは「マテリアルDXプラットフォーム」(材料データを全国で集めて使う仕組み)のデータ中核拠点とされ、 文部科学省の事業では全国の先端共用設備のデータを集めるセンターハブを務めています 事実。 ただし、この仕組みは国の取り組みで、NIMSはその中核を担う側です。MIの政策や補助金を決める立場ではなく、自分の運営費も国から受ける側です。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
MIの記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では材料を開発しません(NIMSは研究所なので材料の研究はしますが、製品を作って売る立場ではありません)。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。 NIMSは、このうち「場をつくる」型、つまり研究とデータの拠点にあたります。
NIMSが運営するデータ基盤の使い方や公開の範囲は、NIMS自身が決められます。 一方で、それが日本全体の公式な標準になるかどうかは、NIMSでは決められません。 NIMSの年度計画も、データごとの特性に応じて共用範囲を定めると書いており、公開の程度はデータによって違います 事実。
3. MIで何をしているか
公表資料で確認できるNIMSのMI関連の活動は、次のとおりです 事実。
| 活動 | 規模・時点 | 中身 | 区分 |
|---|---|---|---|
| 高分子データベース PoLyInfo (MatNaviの一部) | 2026年9月30日時点 単独重合体16,064件、共重合体5,638件、ブレンド1,978件、複合材料2,153件。データ点357,812、文献15,365件 | 高分子の材料設計に必要な物性・化学構造・加工法・測定条件などを、主に学術論文から集めたデータベース。数字は検索・閲覧できる公開データのみ。未公開データを含むデータセットは有料 | 事実 |
| データ基盤のサービス群 DICE (MatNavi、MDR、RDE、pinax、M-DaC、MIntなど) | MatNaviは十数種類のデータベース。ユーザ登録と利用申請が必要で、無償(無機材料のAtomWork-Advは有償) | MDRは材料の論文・データの公開用リポジトリ。RDEは実験データを装置から自動で集めて構造化する。pinaxは予測モデルの開発を支える。データの大量ダウンロードとスクレイピングは禁止 | 事実 |
| 全国のデータを集める役割 | 令和8年度(2026年度)の年度計画で、全国的な先端共用設備と連携した集約・蓄積サービスの本格運用を始める計画 | 文部科学省の「マテリアル先端リサーチインフラ」ではセンターハブ、「データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト」ではデータ連携部会の中核機関。標準的なデータ記述方式の管理・提供も計画に含む | 計画 未確定/将来 |
| AI・自動実験を使った材料探索の研究 | 2025年11月、12月に研究成果を発表 | 組成が連続的に変わる薄膜を自動で作って測り、AI(ベイズ最適化)が次の条件を選ぶ「自律材料探索」で、巨大な異常ホール効果を示す磁性材料を発見(NIMS主導のオープンソース「NIMO」に実装)。複数の自律AIシステムを連携させる技術も、シミュレーションで有効性を確認 | 事実(後者は実験でなくシミュレーション) |
PoLyInfoの主なデータ源は高分子の学術論文です 事実。 つまり、異なる研究室が異なる条件で測った値が混ざっています。 約36万のデータ点は、機械学習の学習データとしては貴重ですが、同じ装置・同じ条件で測った均質なデータではありません。 自社の材料でMIを使うときは、公開データを「出発点」として使い、自社の測定条件のデータで確かめるのが基本です。 データの質と量の考え方は、本シリーズの技術解説(材料データベースとFAIR原則、小データ機械学習)も参照してください。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | NIMSが持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 自らのデータ基盤の使い方を決める権限(登録、利用約款、ダウンロードの制限、有償データセットの提供)。自分の研究テーマを中長期計画の中で決める権限 | MIの政策や補助金を決める権限(文部科学省、内閣府、経済産業省など)。公的な規格や標準を決める権限。全国の機関にデータ形式を義務づける権限 |
| 地域 | 日本の研究者・企業が中心の利用者。海外の大学との連携もある | 海外の利用者数や、他国の政策への影響は、公表資料で確認できなかった |
| 資金 | 国から運営費交付金(令和7年度は168.86億円)を受け、文部科学省や独立行政法人などから受託収入(同96.65億円)を得ている | 他の機関に研究費を配る権限(NIMSは受け取る側) |
| 規模 | 常勤職員1,045人(2026年3月31日)。令和7年度の収入決算額346.83億円 | MI専任の人数・予算は公表資料で確認できなかった |
この記事の「約35.8万データ点」は、PoLyInfoの公開データの数で、NIMSの全データの量ではありません。 また、「346.83億円」はNIMS全体(MI以外の研究も含む)の収入の決算額で、MIだけの予算ではありません。 なお、NIMSの公式サイトの法人概要には「役職員数」の欄がありますが、2026年10月22日の確認時点では数値が表示されていませんでした。 そのため、人数は令和7年度の事業報告書の常勤職員数を使っています 事実。
5. 関わっている組織とお金の流れ
NIMSの研究には、国の研究費制度が使われています。 たとえば2025年11月の成果は、JSTの戦略的創造研究推進事業(CREST、さきがけ、ERATO)の一環として行われました 事実。 また、NEDOの燃料電池・水電解材料のMIの事業では、NIMSが北海道大学などとともに実施機関になっています 事実。
企業との関係では、IBM(日本アイ・ビー・エム)と2026年7月1日に覚書(MOU)を結びました。 基盤モデルや大規模言語モデルなどのAI、量子計算の応用、データ統合と研究基盤づくりを検討する内容で、 具体的なプロジェクトはこれから構想を作る段階です 事実 未確定/将来。
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 令和8年度に、全国の先端共用設備のデータを集めるサービスを本格運用する計画 | 令和8年度年度計画(2026年3月策定) | 未確定/将来 |
| 内閣府の有識者会議は、NIMS・産総研のハブ機能の強化や、AI駆動の材料開発拠点の形成を提言している。実現するかは未定 | マテリアル革新力強化戦略推進方策の提言(2026年6月12日)。工程表は「関係省庁・関係機関への提案」と書かれている | 未確定/将来 |
| IBMとの協業が、具体的な共同プロジェクトに進むかは決まっていない | NIMSとIBMのプレスリリース(2026年7月1日)。覚書は将来の検討を目的としている | 未確定/将来 |
| NIMSのデータ記述方式が事実上の共通形式として広がるかは、参加する機関の数と国の制度設計に左右される | 年度計画は、全国の大学・公的研究機関のデータ再利用のためにRDEを運用し、標準的なデータ記述方式を管理・提供するとしている。公的な標準とするかどうかは、NIMSの資料に書かれていない | 推測 |
7. 用語集
- 特定国立研究開発法人
- 国立研究開発法人のうち、世界最高水準の研究成果を目指す特別の法律に基づく法人。NIMSは2016年10月に移行した。
- マテリアルDXプラットフォーム
- 材料の研究データを全国で集めて使うための仕組み。NIMSは中核となるデータ拠点を担う。
- DICE
- NIMSの材料データ基盤のサービス群の名称。MatNavi、MDR、RDEなどを含む。
- MatNavi/PoLyInfo
- NIMSの材料データベース群と、その中の高分子データベース。
- MDR
- 材料の研究データと論文を公開するNIMSのリポジトリ(データの保管・公開の場)。
- マテリアル先端リサーチインフラ
- 文部科学省の事業で整備する、全国の大学・研究機関の先端装置の共用の仕組み。NIMSがセンターハブを務める。
8. 出典
- NIMS 法人概要・NIMSビジョン(組織名称・英語名称・所在地・研究拠点。2026年8月6日更新)。 https://www.nims.go.jp/nims/profile.html
- NIMS 沿革(2001年の発足、2015年4月の国立研究開発法人への移行、2016年10月の特定国立研究開発法人への移行)。 https://www.nims.go.jp/nims/history.html
- 文部科学省 国立研究開発法人物質・材料研究機構が達成すべき業務運営に関する目標(中長期目標)(令和5年2月27日、令和7年2月27日改正。期間は令和5年4月〜令和12年3月)。 https://www.nims.go.jp/nims/disclosure/hdfqf100000016uy-att/NIMSmed-longterma5mokuhyo.pdf
- NIMS 令和8年度 年度計画(令和8年3月。データ中核拠点、センターハブ、データ連携部会、共用範囲、MOP)。 https://www.nims.go.jp/nims/disclosure/hdfqf100000016uy-att/nendokeikakuR8.pdf
- NIMS 令和7年度 事業報告書(常勤職員数、収入の決算額と内訳)。 https://www.nims.go.jp/nims/disclosure/hdfqf100000016uy-att/hdfqf1000000172d.pdf
- NIMS 高分子データベース PoLyInfo(2026年9月30日時点の公開データ件数、データ源、利用条件)。 https://polymer.nims.go.jp/
- NIMS DICE(材料研究のためのデジタルエコシステム。サービス群の紹介)。 https://dice.nims.go.jp/
- NIMS NIMS 物質・材料データベース(MatNavi)(利用手続き、データの大量ダウンロード・スクレイピングの禁止)。 https://mits.nims.go.jp/
- NIMS MDR: NIMS Materials Data Repository(MDRについて)。 https://mdr.nims.go.jp/page/about
- NIMS・日本アイ・ビー・エム プレスリリース「NIMSとIBM、生成AIを活用した次世代材料研究基盤の構築に向けた協業に合意」(2026年7月1日)。 https://www.nims.go.jp/press/2026/07/202607010.html
- NIMS プレスリリース「組成傾斜薄膜に対応したAIベース自律材料探索システムを開発」(2025年11月20日。JST CREST・さきがけ・ERATOの一環)。 https://www.nims.go.jp/press/2025/11/202511200.html
- NIMS・筑波大学・JST プレスリリース「複数の自律自動AIシステムが自発的に連携して材料研究を推進」(2025年12月10日)。 https://www.nims.go.jp/press/2025/12/202512100.html
- 内閣府 有識者会議「マテリアル戦略」 マテリアル革新力強化戦略推進方策〈提言〉(令和8年6月12日)。 https://www8.cao.go.jp/cstp/material/material_2026_suishin.pdf
- NEDO NEDOエネルギー・地球環境分野成果報告会2026 発表No.a-05(NIMSを含む実施機関、2026年7月22日)。 https://www.nedo.go.jp/content/800068477.pdf
9. 主張と出典の対応表
| 本文の主張 | 区分 | 出典 |
|---|---|---|
| 正式名称、英語名称、所在地(つくば市の3地区) | 事実 | 出典1 https://www.nims.go.jp/nims/profile.html |
| 2001年の発足、2015年4月の国立研究開発法人への移行、2016年10月の特定国立研究開発法人への移行 | 事実 | 出典2 https://www.nims.go.jp/nims/history.html |
| 文部科学省が中長期目標を定めること、期間、データ中核拠点の位置づけ、MatNaviが世界最大級の材料データベースと位置づけられていること | 事実 | 出典3 https://www.nims.go.jp/nims/disclosure/hdfqf100000016uy-att/NIMSmed-longterma5mokuhyo.pdf |
| センターハブ、データ連携部会の中核機関、共用範囲、標準的なデータ記述方式の管理、令和8年度の本格運用、MOP | 事実(令和8年度の運用開始は計画) | 出典4 https://www.nims.go.jp/nims/disclosure/hdfqf100000016uy-att/nendokeikakuR8.pdf |
| 常勤職員1,045人(令和7年度末)、収入の決算額34,683百万円、運営費交付金16,886百万円、受託収入9,665百万円 | 事実 | 出典5 https://www.nims.go.jp/nims/disclosure/hdfqf100000016uy-att/hdfqf1000000172d.pdf |
| PoLyInfoの公開データ件数(2026年9月30日時点)、主なデータ源、有償データセット | 事実 | 出典6 https://polymer.nims.go.jp/ |
| DICEのサービス群(MatNavi、AtomWork-Adv、RDE、pinax、MDR、M-DaC、MInt)と、MatNaviの十数種類のデータベース | 事実 | 出典7 https://dice.nims.go.jp/ |
| MatNaviの利用手続きと、大量ダウンロード・スクレイピングの禁止 | 事実 | 出典8 https://mits.nims.go.jp/ |
| MDRの概要 | 事実 | 出典9 https://mdr.nims.go.jp/page/about |
| IBMとの覚書(2026年7月1日)の内容と、具体的なプロジェクトが構想策定の段階であること | 事実 | 出典10 https://www.nims.go.jp/press/2026/07/202607010.html |
| 組成傾斜薄膜の自律材料探索(NIMO)とJSTの事業の一環であること | 事実 | 出典11 https://www.nims.go.jp/press/2025/11/202511200.html |
| 自律自動AIネットワーク技術(シミュレーションでの実証) | 事実 | 出典12 https://www.nims.go.jp/press/2025/12/202512100.html |
| 提言(2026年6月12日)のNIMS・産総研のハブ機能強化と、工程表が提案であること | 事実(提案) | 出典13 https://www8.cao.go.jp/cstp/material/material_2026_suishin.pdf |
| NEDO事業でNIMSが実施機関に入っていること | 事実 | 出典14 https://www.nedo.go.jp/content/800068477.pdf |
| 機関の4つの型の区分、図2の整理 | 本稿の計算 | 本稿による整理 |
| 特定国立研究開発法人・DICE・MDRなどの用語の説明、論文由来データの注意点 | 事実 | 本稿の解説(出典1〜9に基づく一般的な説明) |
| MI専任の人数・予算、海外の利用者数、役職員数(公式サイトの欄が空欄) | 未確定/将来 | 出典1〜14に記載なし。本稿では推計しない |
| 令和8年度の本格運用、提言の実現、IBMとの具体的なプロジェクト | 未確定/将来 | 出典4・10・13は計画・提案・覚書であり、実現の見通しは本稿では推計しない |
| 第6章の推測1項目(データ記述方式が事実上の共通形式として広がるか) | 推測 | 出典4の記述からの本稿の解釈 |
最終更新:2026年10月22日/Troy Technical
本稿の数値はNIMSの公式サイト・計画・報告書・プレスリリース、文部科学省の中長期目標、内閣府の提言に基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。
