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科学技術振興機構(JST) 機関解説

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INSTITUTION PROFILE / マテリアルインフォマティクス

科学技術振興機構(JST)
― 日本の材料×データ科学の基礎研究に「お金を配る」国の機関

JSTは文部科学省が所管する国立研究開発法人で、自分では材料を研究しません。 役割は、国が定めた方針のもとで研究領域を設計し、研究者を公募して選び、研究費を配ることです。 マテリアルインフォマティクス(MI。AIやデータで材料開発を速くする方法)では、JSTの研究資金で多くの研究が進んできました。 本稿では、JSTがMIにどこまで影響を持ち、何を決められないのかに絞って整理します。

構成:JSTの2026年度概要、CREST・さきがけの研究領域ページ、研究開発戦略センター(CRDS)の戦略プロポーザル、AI for Science革新的研究推進事業のプレス発表、内閣府の推進方策の提言を一次情報として使用/確認日 2026年10月22日

研究の支援と、実際に研究を行う組織の役割を分けて示しています。実在のJSTの装置・施設ではありません。
概念画像(ImageGen生成)。研究の支援と、実際に研究を行う組織の役割を分けて示しています。実在のJSTの装置・施設ではありません。実在の製品・施設・測定結果ではありません。拡大模型、線・矢印・色は説明用です。
この記事でわかること
  1. 30秒でわかるJST
  2. どんな機関か ― 影響力の「型」
  3. MIで何をしているか
  4. 影響力の範囲(権限と地域)
  5. お金と方針の流れ
  6. 今後の見通し
  7. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかる科学技術振興機構(JST)

正式名称国立研究開発法人
科学技術振興機構
英文 Japan Science and Technology Agency(JST)
国日本本部は埼玉県川口市。東京本部(サイエンスプラザなど)もある
機関の種類国立研究開発法人所管は文部科学省。政府の省庁ではない
設立1996年日本科学技術情報センター(1957年設立)と新技術事業団(前身は1961年設立)が統合。2015年に国立研究開発法人へ
人数規模常勤職員 1,608人2026年4月現在
予算規模収入 1,078億円2026年度予算額(運営費交付金は1,010億円)。支出は3,124億円で、約3分の2は基金残高からの支出
MIへの関与の形研究資金の配分とシンクタンクCREST・さきがけで研究を支援。MIに限った予算額は公表されていない
影響が及ぶ範囲日本の研究者が中心国際共同研究の事業もあるが、MIに限ったものではない
まず押さえるべき1点

JSTは、何を研究するかの大枠を決める側ではなく、決まった大枠のもとで研究費を配る側です。 JST自身の概要資料は、文部科学省が毎年戦略目標を定め、JSTはその下で研究領域を設計する、と説明しています 事実。 それでもMIへの影響は小さくありません。 2015年度以降、MIや「実験と理論・計算・データ科学の融合」を掲げる研究領域が、さきがけとCRESTで続けて設けられてきたからです 事実。 また、シンクタンクの研究開発戦略センター(CRDS)は、2013年にMIの推進を提案する文書を出しています 事実。

2. どんな機関か ― 影響力の「型」

MIの記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では材料を開発しません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。 JSTは、このうち「資金を出す」型です。

マテリアルインフォマティクスを動かす「機関」の4つの型 機関は自分では材料を開発しない。どの経路で業界に影響を与えるかで4つに分かれる 資金を出す 政策・規制を決める 標準を決める 場をつくる 研究開発に予算を配る 戦略・予算要求・法律 データ・測定の基準 研究拠点・データ基盤 NEDO/JST/DOE 経済産業省/欧州委員会 NIST NIMS 何を研究させるか 何を重点にするか どう測り、どう比べるか データと人が集まる 届く範囲=自国の予算 届く範囲=自国の政策 届く範囲=参照する人 届く範囲=利用者 JSTは「資金を出す」型。戦略目標は文部科学省が定め、JSTは領域を設計して研究費を配る 同じMIでも、どの型の機関かによって影響の届き方がまったく違う
図1 MIに関わる機関の4つの型と、JSTの位置。区分は本稿によるもので、機関名は本シリーズで扱う機関から例示しています 本稿の計算。米国エネルギー省(DOE)は研究資金と政策の両方を持つため、政策の型にも入りますが、ここでは資金の型にだけ例示しています。

JSTが決めるのは、決まった戦略目標のもとで、どんな研究領域を設計し、誰を研究総括にして、どの提案を採るかです。 研究総括はJSTが任命し、領域の運営方針と採択の選考を担います 事実。 戦略目標そのものを決める権限は、JSTにはありません。

3. MIで何をしているか

公表資料で確認できるJSTのMI関連の取り組みは、次のとおりです 事実。

取り組み時期中身区分
CRDS 戦略プロポーザル
「データ科学との連携・融合による新世代物質・材料設計研究の促進(マテリアルズ・インフォマティクス)」
2013年8月先端物質が実用化されるまで10〜30年かかる状況を挙げ、データ駆動型の研究、オープンなプラットフォーム、データ統合・研究開発センターの設立などを国に提案した提案
(決定ではない)
さきがけ「マテリアルズインフォ」
(理論・実験・計算科学とデータ科学が連携・融合した先進的MIのための基盤技術の構築)
2015〜2021年度
研究総括 常行 真司
若手研究者の個人型研究。MIの基盤技術を支援事実(終了)
CREST「革新材料開発」
(実験と理論・計算・データ科学を融合した材料開発の革新)
2017〜2025年度
研究総括 細野 秀雄
文部科学省の戦略目標「実験とデータ科学等の融合による革新的材料開発手法の構築」のもと、実験系を軸に理論・計算・データ系の研究者でチームを組む事実(終了)
CREST「未踏物質探索」
(未踏探索空間における革新的物質の開発)
2021年度〜
研究総括 北川 宏
多元素・複合・準安定の物質を、計算科学・データ科学・高スループット評価などで効率よく探す手法の開発を目指す事実(継続中)
さきがけ「研究開発プロセス革新」
(AI・ロボットによる研究開発プロセス革新のための基盤構築と実践活用)
2024年度〜
研究総括 竹内 一郎
戦略目標「自律駆動による研究革新」のもと、AIとロボットで研究のやり方そのものを変える基盤技術を支援。対象に材料科学も含む事実(継続中)
AI for Science革新的研究推進事業(ARiSE)2026年。選定課題の発表は9月29日文部科学省のAI for Scienceの戦略方針に基づく事業。応募は戦略ターゲット型70件、国際・融合型133件で、採択は12件と19件。材料に限った事業ではない事実(課題は2026年10月以降に開始)
素材技術者の視点:JSTのお金は「基礎研究」に向く

JSTのCRESTやさきがけは、新しい手法や基盤技術をつくる基礎研究に研究費を出す制度です。 たとえばCRESTは、1チームあたり総額1.5億〜5億円で、最長5.5年とされています 事実。 企業が自社の材料を開発するための資金ではなく、企業が将来使えるかもしれない手法の種をつくる資金だと考えると分かりやすいです。 実際、CREST「未踏物質探索」の領域アドバイザーには産業界の研究者も入っており、産業界の視点が取り込まれる仕組みはありますが、 個々の企業の製品開発を直接支える制度ではありません。

4. 影響力の範囲(権限と地域)

観点JSTが持っているもの持っていないもの
権限研究領域を設計し、研究総括を任命し、公募・採択・評価を行う権限。CRDSによる戦略提案を出す権限戦略目標を定める権限(文部科学省)。MIの政策や補助金の全体を決める権限。規格や標準を決める権限
地域日本の大学・研究機関・企業の研究者への研究費。海外の研究機関の研究者への研究費提供は、CRESTでは原則として想定されておらず、例外的に認められる場合がある(CRESTガイド)他国の政策への影響。海外の研究者に自動的に研究費を出す権限
データ基盤JSTの事業で整備された研究成果や論文の情報基盤(MIに限らない)材料データベースの運営(NIMSなどが運営)。MI専用のデータ基盤は、JSTの概要資料では確認できなかった
規模常勤職員1,608人。2026年度の収入1,078億円、支出3,124億円(全分野の合計)MIだけの予算額は公表されていない
数字の読み方の注意

JSTの支出3,124億円は、材料以外も含む全分野(基礎研究、産学連携、人材育成など)の合計で、MIの金額ではありません。 また、支出予算の約3分の2は基金の残高から出るもので、毎年国から受け取る額とは別です 事実。 CRESTの「1.5億〜5億円」は1チームあたりの総額で、領域全体の予算ではありません。 MI関連の領域に使われた総額は、公表資料からは確認できませんでした 未確定/将来。

5. お金と方針の流れ

MIの研究費と方針はどう流れるか(日本) 文部科学省が戦略目標を定め、JSTが研究領域を設計し、研究チームが研究する 文部科学省 毎年、戦略目標を定める JST 領域の設計・総括の任命・採択・評価 CREST・さきがけの研究領域 研究総括が課題を選ぶ CRDS(シンクタンク) 戦略を調べ、国に提案する MI関連の領域の例 さきがけ マテリアルズインフォ(2015〜2021) CREST 革新材料開発(2017〜2025) CREST 未踏物質探索(2021〜) 提案の例 2013年8月 MIの推進を国に提案 (データ駆動型研究・オープンな プラットフォーム・センター設立)
図2 MIの研究費と方針の流れ(JSTの戦略的創造研究推進事業)。出典:JSTの2026年度概要、CREST・さきがけの研究領域ページ、CRDSの戦略プロポーザル、NIMSのプレスリリース(2025年11月20日)。矢印は資料に書かれた関係の向きです 本稿の計算。

流れは、文部科学省が戦略目標を定め、JSTが研究領域を設計し、研究総括が課題を選び、大学や研究機関のチームが研究する、というものです 事実。 研究の成果の一例として、NIMSが2025年11月に発表した自律材料探索の研究は、JSTのCREST、さきがけ、ERATOの一環として行われました 事実。 内閣府の有識者会議(2026年6月)の提言の工程表には、JSTの既存事業である「AI for Science革新的研究推進事業」と「先端研究基盤刷新事業」が、MIを支える施策として挙げられています。 ただし工程表は「関係省庁・関係機関への提案」で、決定ではありません 事実 未確定/将来。

6. 今後の見通し

読み取れること根拠となる一次情報区分
ARiSEの新規課題(戦略ターゲット型12件、国際・融合型19件)は、契約が整い次第、2026年10月以降に開始される。材料を対象にした課題が含まれるかは本稿では確認していないJSTの公募ページとプレス発表(2026年9月29日)未確定/将来
CREST「未踏物質探索」とさきがけ「研究開発プロセス革新」は継続中。終了の年は研究領域ページに記載がない研究領域ページ(活動期間「2021〜」「2024〜」)未確定/将来
JSTがMIに特化した新しい研究領域を作るかどうかは、文部科学省が今後どんな戦略目標を定めるかに左右されるJSTの概要資料は、戦略目標を文部科学省が毎年定め、JSTはその下で領域を設計すると説明している推測

7. 用語集

戦略目標
文部科学省が毎年定める、研究の大きな目標。JSTはこの下で研究領域を設計する。
研究領域・研究総括
戦略目標の達成に向けた研究のまとまりを「研究領域」、その責任者を「研究総括」という。研究総括はJSTが任命する。
CREST/さきがけ/ERATO
JSTの戦略的創造研究推進事業のプログラム。CRESTはチーム型、さきがけは若手の個人型、ERATOは卓越した研究者が率いる総括実施型。
CRDS(研究開発戦略センター)
JSTのシンクタンク。研究の方向性を調べ、国に戦略を提案する。
AI for Science
研究活動でAIを活用して、科学の進展を加速する取り組み。ARiSEはその旗艦事業と位置づけられている。
国立研究開発法人
国の研究開発を担う法人。省庁そのものではなく、主務大臣の監督のもとで業務を行う。

8. 出典

  1. JST 2026年度 概要(2026年8月。正式名称・英語名称・常勤職員数・設立・所管・2026年度予算額・戦略的創造研究推進事業の仕組み・CRESTの研究費と期間・ARiSE・EPOCH)。 https://www.jst.go.jp/pr/intro/outline.pdf
  2. JST 交通アクセス(本部は川口センタービル、東京本部はサイエンスプラザなど)。 https://www.jst.go.jp/koutsu.html
  3. JST 戦略的創造研究推進事業 CREST 研究領域の紹介(進行中・終了した領域の一覧)。 https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/research_area/index.html
  4. JST CREST [革新材料開発] 実験と理論・計算・データ科学を融合した材料開発の革新(戦略目標・研究総括・概要)。 https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/research_area/ongoing/bunyah29-3.html
  5. JST CREST [未踏物質探索] 未踏探索空間における革新的物質の開発(戦略目標・研究総括・概要・領域アドバイザー)。 https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/research_area/ongoing/bunya2021-4.html
  6. JST さきがけ 研究領域の紹介([マテリアルズインフォ]の活動期間2015〜2021年度・研究総括)。 https://www.jst.go.jp/kisoken/presto/research_area/index.html
  7. JST さきがけ [研究開発プロセス革新] AI・ロボットによる研究開発プロセス革新のための基盤構築と実践活用(戦略目標・研究総括・概要)。 https://www.jst.go.jp/kisoken/presto/research_area/bunya2024-1.html
  8. JST 研究開発戦略センター(CRDS) 戦略プロポーザル「データ科学との連携・融合による新世代物質・材料設計研究の促進(マテリアルズ・インフォマティクス)」(CRDS-FY2013-SP-01、2013年8月)。 https://www.jst.go.jp/crds/report/CRDS-FY2013-SP-01.html
  9. JST プレス発表「AI for Science革新的研究推進事業 新規採択課題を決定」(2026年9月29日)。応募数・採択数、文部科学省の戦略方針(2026年3月31日決定)との関係。 https://www.jst.go.jp/pr/info/info1875/index.html
  10. JST ARiSE 公募ページ(募集期間・スケジュール、研究開発課題の開始は2026年10月以降)。 https://www.jst.go.jp/program/arise/koubo.html
  11. JST CREST ガイド(研究者向けハンドブック)2026年8月(海外研究機関の研究者の参加の扱い)。 https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/manual/guide_crest.pdf
  12. NIMS プレスリリース「組成傾斜薄膜に対応したAIベース自律材料探索システムを開発」(2025年11月20日。JST CREST・さきがけ・ERATOの一環)。 https://www.nims.go.jp/press/2025/11/202511200.html
  13. 内閣府 有識者会議「マテリアル戦略」 マテリアル革新力強化戦略推進方策〈提言〉(令和8年6月12日)。工程表は「関係省庁・関係機関への提案として作成」。 https://www8.cao.go.jp/cstp/material/material_2026_suishin.pdf

9. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
正式名称、英語名称、常勤職員1,608人、設立(1996年)と沿革、文部科学省所管、2026年度予算額(収入1,078億円、運営費交付金1,010億円、支出3,124億円、約3分の2が基金残高)事実出典1 https://www.jst.go.jp/pr/intro/outline.pdf
文部科学省が毎年戦略目標を定め、JSTが研究領域を設計し、研究総括をJSTが任命すること。CRESTの研究費(1チーム総額1.5億〜5億円)と期間(最長5.5年)事実出典1 https://www.jst.go.jp/pr/intro/outline.pdf
本部(川口センタービル)と東京本部の所在地事実出典2 https://www.jst.go.jp/koutsu.html
CRESTの研究領域の一覧([革新材料開発]は2017〜2025年度、[未踏物質探索]は2021年度〜)事実出典3 https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/research_area/index.html
[革新材料開発]の戦略目標・研究総括・概要事実出典4 https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/research_area/ongoing/bunyah29-3.html
[未踏物質探索]の戦略目標・研究総括・概要、領域アドバイザーに産業界の研究者が入っていること事実出典5 https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/research_area/ongoing/bunya2021-4.html
さきがけ[マテリアルズインフォ]の活動期間(2015〜2021年度)と研究総括事実出典6 https://www.jst.go.jp/kisoken/presto/research_area/index.html
さきがけ[研究開発プロセス革新]の戦略目標・研究総括・概要(2024年度発足)事実出典7 https://www.jst.go.jp/kisoken/presto/research_area/bunya2024-1.html
CRDSの2013年のMI提案の内容事実(提案)出典8 https://www.jst.go.jp/crds/report/CRDS-FY2013-SP-01.html
ARiSEの応募数(70件・133件)と採択数(12件・19件)、2026年9月29日の発表、文部科学省の戦略方針との関係事実出典9 https://www.jst.go.jp/pr/info/info1875/index.html
ARiSEの課題の開始は2026年10月以降事実(開始は計画)出典10 https://www.jst.go.jp/program/arise/koubo.html
CRESTでは海外研究機関の研究者への研究費提供を原則想定せず、例外的に認める場合があること事実出典11 https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/manual/guide_crest.pdf
NIMSの2025年11月の成果がJSTの事業の一環であること事実出典12 https://www.nims.go.jp/press/2025/11/202511200.html
提言の工程表にARiSEと先端研究基盤刷新事業が挙げられていること、工程表が提案であること事実(提案)出典13 https://www8.cao.go.jp/cstp/material/material_2026_suishin.pdf
機関の4つの型の区分、図2の整理本稿の計算本稿による整理
戦略目標・研究総括・CRDSなどの用語の説明事実本稿の解説(出典1・4・5・7に基づく一般的な説明)
MIだけの予算額、MI関連領域に使われた総額、ARiSEの採択課題に材料の課題が含まれるか、領域の終了年未確定/将来出典1〜13に記載なし。本稿では推計しない
第6章の推測1項目(MI特化の領域が今後作られるかは戦略目標に左右される)推測出典1の仕組みの説明からの本稿の解釈

最終更新:2026年10月22日/Troy Technical
本稿の数値はJSTの公式サイト・2026年度概要・プレス発表、CRDSの文書、NIMSのプレスリリース、内閣府の提言に基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。