COMPANY PROFILE / マテリアルインフォマティクス
ラディカルAI
― AIが提案した合金を、自前の自動実験室で作って測る。その「実験で確かめる」部分に軸足を置く新興企業
Radical AI(ラディカル・エーアイ)は、AIで材料の候補を絞り込み、ロボットを備えた実験室でその候補を実際に作って測ることを事業の中心に置く米国ニューヨークの非上場企業です。 公式サイトには、AIの予測を実験で確かめた結果が、うまくいった例も、うまくいかなかった例も書かれています。 本稿は、会社自身の発表、米国政府機関・州政府の公表文、論文とモデル・コードの公開ページだけを使い、会社の主張と、第三者や論文で確認できる事実を分けて整理します。
- 30秒でわかるRadical AIと、マテリアルインフォマティクスでの立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- マテリアルインフォマティクスの世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模
- マテリアルインフォマティクスにかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社はマテリアルインフォマティクスで何を目指しているか
- マテリアルインフォマティクス分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるラディカルAIと、マテリアルインフォマティクスでの立ち位置
MIソフト・材料AI(従)本稿の区分。本稿の計算
(高エントロピー合金など)州の発表は「無機材料に専念」と記載
MATRIX/LitXBenchコード・データはMITなどで公開
マテリアルインフォマティクス(MI)は、データを集め、AIで材料を予測・設計し、実験で確かめるという流れで新しい材料を探す方法です。 この会社が他のMI企業と違うのは、最後の「実験で確かめる」部分を自社の自動実験室で持ち、その実験結果を次の予測に戻す輪を、会社の事業の中心に置いていることです 事実。 会社は「シミュレーションだけでは不十分で、実験で証明された試料が重要だ」と書いています。 一方で、実験室が1日に処理できる数は限られており、AIが出す候補の数のほうがはるかに多いという課題も、会社自身が認めています。 本稿では、この「予測を実験でどこまで確かめられたか」を中心に読みます。
2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:法人名は Radical AI, Inc.、日本語では「ラディカル・エーアイ」と書きます。 公式サイトの見出しのロゴは「RADICAL」という文字に四角い点を添えた図案で、「AI」の文字は含まれていません(本稿の画像は、公式サイトのページに埋め込まれたロゴの図形をそのまま取り出したものです)。 名前が似た別の企業や研究所と混同しないよう、本稿では「Radical AI」と表記します。
公式サイト:https://www.radical-ai.com/3. マテリアルインフォマティクスの世界で、この会社はどこにいるか
まず、MIの会社を4つの類型に分けて、Radical AIの位置を確認します。 「基盤モデル」とは、大量のデータで事前に学習させた、いろいろな用途に使い回せるAIのことです。
次に、MIの流れ(データ → 予測・設計 → 実験で確かめる → 結果を戻す)のどこをRadical AIが担っているかを、会社の説明をもとに示します。
4. 会社の規模
非上場のため、法定の財務書類はありません。確認できる範囲だけを示します 事実。
| 項目 | 内容 | 出所と区分 |
|---|---|---|
| 創業 | 2024年に創業 | ニューヨーク州の発表文(2026年1月27日)。会社の公式サイトに創業日の記載は確認できなかった |
| 本社 | ニューヨーク市。ブルックリン・ネイビーヤードの Building 20 に、新しい本社兼研究施設を整備する計画 | 同上。整備中であり、完成・稼働の日付は確認できなかった |
| 従業員 | 約34人(科学者・技術者など)。新施設で115人の雇用を見込む | 同上。115人は計画値で 未確定/将来 |
| 売上 | 非公表 | 公式資料に記載なし。本稿では推計しない |
| 資金調達 | シード5,500万米ドル(2025年7月18日に発表) | 会社の公式発表。評価額は公式資料に記載がなく、本稿では扱わない |
| 上場 | 非上場 | 公式サイトの表記に株式の記載なし |
従業員数は2026年1月時点の約34人で、その後の増減は公表されていません。 また、投資家名(RTX Ventures、NVentures〔NVIDIAの投資部門〕ほか)が載っているのは、ニューヨーク州発表文の末尾の会社紹介欄です。 会社自身のシード発表(2025年7月18日)には投資家名の記載はありませんでした。 州の発表文の会社紹介欄は、会社が用意した文面と思われますが、その点は確認できていません 未確定/将来。
5. マテリアルインフォマティクスにかけているリソース
MIにかけているリソースを、人・金・外部への出資や買収・大学や公的機関との連携の4点で確認します。 Radical AIは材料AIに特化した会社なので、会社全体の数字がそのままMIにかけている規模になります。
| 項目 | 確認できた内容 | 状況 |
|---|---|---|
| 人 | 約34人(2026年1月)。研究者のほか、ソフトウェア技術者・機械学習の専門家・機械設計者が同じチームにいると、会社のブログに書かれている。新施設で115人の雇用を見込む(計画) | 事実(計画は 未確定/将来) |
| 金(調達) | シード5,500万米ドル(2025年7月)。米空軍のAFWERXから、高エントロピー合金の開発で1,197,902米ドルの契約(Direct-to-Phase II、2025年8月) | 事実 |
| 金(設備) | 新実験室は総額400万米ドルの事業で、ニューヨーク州の「Excelsior Jobs Program」の税額控除を最大200万米ドル受ける見込み(成果に応じて支払われる条件付き)。計算資源への投資額は公表なし | 事実(税額控除は 未確定/将来) |
| 外部への出資・買収・合弁・売却 | 公式資料に記載なし | 確認できず |
| 大学・研究機関・公的資金との連携 | 米エネルギー省(DOE)と覚書(2025年12月)、サンディア国立研究所と水素分離材料の共同研究(2026年9月)、パデュー大学の応用研究機関(Purdue Applied Research Institute)による試験(2026年8月)、米空軍AFWERXの契約 | 事実 |
主要なモデル・ソフト・設備の状況
名称、種別、仕様、公開の形、段階、日付を、会社の公式資料と公開ページで確認できた範囲で並べます。条件の違う数字を並べて優劣をつけることはしません。
| 名称 | 種別 | 主要な仕様(会社の主張を含む) | 公開の形とライセンス | 段階・日付 |
|---|---|---|---|---|
| TorchSim | 原子シミュレーションエンジン(PyTorch製) | 分子動力学(NVE・NVT・NPT)と構造最適化を、多数の系に同時に流す。会社は「ASE比100倍、DFT比1億倍」と主張(ブログに条件の記載なし) | オープンソース、MIT。公開先は現在 TorchSim という別のGitHub組織 | 公開。2025年4月4日(論文は2025年8月) |
| EGIP | 機械学習原子間ポテンシャル(第1世代) | GemNet系の構造を刈り込み、力を直接予測。会社は、Matbench Discoveryの熱伝導率の課題で最良、eSENに比べ速度3.5倍・扱える原子数12倍と主張 | 重み・コードの公開は確認できなかった | 発表のみ。2025年4月24日 |
| MATRIX/MATRIX-PT | 材料科学の推論を測るベンチマーク/視覚言語モデルの追加学習用アダプタ | データは学習11,331件・検証1,688件・テスト470件。アダプタはQwen2-VL-7B向けLoRA。論文の主張:画像つきの追加学習で、実験の解釈が10〜25%、テキストだけの推論が5〜16%向上 | データはMIT、アダプタはApache-2.0(Hugging Face) | 公開。2026年1月30日(論文) |
| LitXBench/LitXAlloy | 論文から実験データを取り出す精度を測るベンチマーク | 合金論文19本から1,426件の測定値を人手で整理。論文の主張:先端の言語モデルは既存の多段抽出手法を最大0.37(F1)上回る | コードはMIT(GitHub)、PyPIでも配布 | 公開。2026年4月 |
| Antimatter | 社内の材料AIエンジン | 会社の説明:数十万本の論文を読み、数十億の組成を絞り込む。仕様・評価は確認できなかった | 非公開(外部提供の記載なし) | 運用中(会社の説明)。2026年10月20日 |
| 自動実験室(ニューヨーク) | 合成・測定・解析を連結した自動実験室 | 約9か月の運用でSEM画像1万枚超、硬さを500試料超で測定(会社の説明)。新実験室は1日約100件の実験を計画 | 自社運用 | 稼働中(2026年6月の説明)。新実験室は整備中 |
TorchSimの「DFT比1億倍」のような数字は、比べる対象と条件(原子数、使う機械学習ポテンシャル、精度の基準)が違えば意味が変わります。 DFT(密度汎関数理論)は、電子の状態から材料の性質を計算する精密な方法で、計算が非常に重い代わりに信頼されています。 機械学習ポテンシャルは、その結果を学習して近似する軽い代用品です。 速くなったことと、実際の材料の予測が正確になったことは別なので、本稿ではこの倍率を会社の主張として扱い、評価の優劣には使いません 未確定/将来。
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 2024年 | 創業(ニューヨーク州の発表文) | 創業日の詳細は確認できず |
| 2025年1月10日 | 公式ニュース欄に「Announcing Radical AI」を掲載 | 外部SNS投稿へのリンクで、本文は確認できなかった |
| 2025年4月4日 | TorchSimをオープンソースで公開 | 自社の予測計算の一部を外部に公開。自動実験室と組み合わせて使うと説明 |
| 2025年4月24日 | EGIP(機械学習ポテンシャル)を発表 | 熱伝導率などの予測で速度と精度の両立を主張 |
| 2025年5月29日 | ホワイトハウス科学技術政策局(OSTP)に、国家AI研究開発戦略計画への意見を提出 | AIによる材料開発・国のデータ基盤・試作製造施設を提案 |
| 2025年7月18日 | シード5,500万米ドルの調達を発表 | 投資家名は州発表文の会社紹介欄にのみ記載 |
| 2025年8月 | TorchSimの論文を公開(8日)。米空軍AFWERXから1,197,902米ドルの契約(25日) | 極超音速飛行向けの高エントロピー合金の開発が目的 |
| 2025年12月20日 | 米エネルギー省と覚書(MoU) | 具体的な案件を話し合う枠組みであり、契約や資金の提供ではない |
| 2026年1月27日 | ニューヨーク州が新実験室の計画を発表 | 総額400万米ドル、約100実験/日、115人雇用の計画 |
| 2026年1月〜4月 | MATRIX(1月30日論文)、LitXBench(4月8日論文)などを公開 | 材料向けAIの評価用データと文献取り込みの評価を公開 |
| 2026年6月9日 | SEM画像の自動解析を説明(約9か月で1万枚超の画像) | 組織の計測を自動化し、焼きなまし時間の決定に使う計画 |
| 2026年8月7日 | 合金「RAI-939」の比較試験の結果を発表 | パデュー大学の応用研究機関による試験。第10章で詳しく扱う |
| 2026年8月26日 | Makinoと、試料切り出しの治具を共同開発したと発表 | 5試料を同時に切り出す |
| 2026年9月23日 | 電子物性モデルの予測6件と実験の結果を発表 | 6件すべてが目標に到達、別のモデルは未達 |
| 2026年9月29日 | サンディア国立研究所と水素精製材料の共同研究を発表 | 結果の発表は今後 |
| 2026年10月20日 | TIME誌の「Best Inventions of 2026」に選ばれたと会社が発表 | 会社の発表。評価の根拠は誌面で確認していない |
7. 今後の計画
なお、ニューヨーク州の発表文は、新実験室の高スループットな方式が「従来の材料発見を370倍に加速する」と書いていますが、何と比べた倍率かの記載はなく、本稿では会社・州の説明として扱います 未確定/将来。
次はいずれも公式資料に記載がありません 未確定/将来。
新実験室の稼働開始日/現在の実験室の1日あたりの処理数/顧客との契約と売上/RAI-939の組成と製造条件の詳細/AFWERX契約の成果の発表予定/DOEとの覚書に基づく具体的な案件/AIが提案した材料の製品化の時期。 会社は「材料を産業界に売る」と述べていますが(TorchSimの発表文)、その実績は確認できませんでした。
8. この会社はマテリアルインフォマティクスで何を目指しているか
ここは会社が直接は述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| ソフトの販売より、材料そのものの開発と供給を収益の柱にしたい | TorchSimの発表文に「産業界に材料を売る」、州の発表文に「新しい材料を開発・試験・商用化する」とある。ソフトの販売価格やライセンス販売の記載はない | 推測 |
| 当面は高融点・高エントロピー合金など、作って測るのが速い無機材料に集中している | 州の発表文は「無機材料に専念」、AFWERX契約は高エントロピー合金、RAI-939と電子物性の例も無機材料。ボタン状の試料を作って切り出す工程が記載されている | 推測 |
| 入口は国の機関と防衛・宇宙・半導体などの需要 | AFWERX契約、DOEとの覚書、サンディアとの共同研究、OSTPへの意見提出。シード投資家に防衛系の企業が含まれる(州発表文) | 推測 |
| 差別化の源泉を自前の実験データに置いている | 計算ツール(TorchSim)や評価データ(MATRIX)は公開する一方、学習データは「独自(proprietary)」と書き、Antimatterは非公開 | 推測 |
| AIの予測が外れた事例も公開する方針 | 2026年9月の電子物性モデルの記事で、未達の例(脆くて切り出せない試料、予測より低い測定値)を書いている | 事実 |
「当面は高融点合金に集中している」という読みの根拠は、実験の組み立て方にあります。 2026年6月の記事によると、実験室は合金の試料を最高1,500℃で熱処理して元素を混ぜ、その組織を顕微鏡で撮ります。 2026年8月の記事では、ボタン状の試料を放電加工機で切り出して強度や酸化への強さを測っています 事実。 こうした「溶かして固めて切って測る」作業は、薬の合成や薄膜の作製に比べて装置を共通化しやすく、同じ流れを何度も回せます。 ここから、会社がまず金属・合金で「回す速さ」を磨いていると読むのが自然だと本稿は考えます 未確定/将来。
9. マテリアルインフォマティクス分野の提携マッピング
10. 提供している技術・製品・サービス
Radical AIが外部に提供している製品やサービスの価格・契約形態は公表されていません 未確定/将来。 公表されているのは、公開ソフトとデータ、そして自社の自動実験室で作った材料の試験結果です。 本シリーズの技術解説「機械学習原子間ポテンシャル」「自律実験室」「クローズドループ最適化」「ベイズ最適化と能動学習」も合わせて参照してください。
(1) 材料の試験結果:合金「RAI-939」
| 項目 | 会社の発表内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 対象 | 航空宇宙用の既存合金「C103」の代替を狙った新しい合金。C103はアポロ計画の時代から使われ、高温で劣化しやすく、コーティングと交換が必要で、入手に長い待ち時間があると会社は説明 | 会社の主張 |
| 作り方 | 16週間で、AIが立てた仮説と自動実験室により300種を超える新しい材料を作製。この分野で20年以上かけて実験的に調べられた合金は3,493種だったと会社は記載 | 会社の主張 |
| 試験 | パデュー大学の応用研究機関が、トーチ試験(飛行環境を模擬し2,500℃超まで加熱できる)で比較。RAI-939は1分間の試験で質量が0.25%増加、C103は32%減少。会社はこれを「環境耐性が125倍」と表現 | 会社の発表(試験所長の談話つき) |
| 条件 | 試験片の大きさ、雰囲気、温度の時間変化、組成と製造条件は発表文に記載なし。「125倍」の算出方法も書かれていない | 確認できず |
| 次の段階 | より大きな試験片の製作と、製造方法に近い品質管理データの取得を目指す | 未確定/将来 |
この結果は会社のブログ上の発表であり、査読を受けた論文は確認できませんでした。 「質量が増えた」「質量が減った」は、高温で酸化が進む向きと、材料が失われる向きの違いを表します。 ただし1回・1分・条件非公開の比較から、実際の使用での寿命や信頼性を言うことはできません。 独立した追試や、第三者による詳細な報告が出るまでは、有望な初期結果として読むのが妥当です。
(2) 電子物性モデル:予測6件、実験で6件が目標に到達
2026年9月の記事は、成功と失敗の両方を書いている点が特徴です 事実。
| 項目 | 会社の記述 |
|---|---|
| うまくいったモデル | 約7週間で、モデルの作成、数百万種の材料のスクリーニング、合成、第三者による測定まで実施。モデルが提案した6種の材料は、6種とも電子特性の目標に到達した。そのうち1つは予想外の元素を含み、会社自身がモデルの誤りを疑った |
| うまくいかなかったモデル | 別の電子物性モデルは同じ成功に至らず。狙った試料のうち2つは脆くて測定用の大きさに切り出せなかった。測定値が予測を下回った例もあり、モデルの改良が必要と書いている |
| 測定 | 研磨・劈開(へきかい)後の試料を原子間力顕微鏡で測定 |
| 公開されていない点 | 目標とした物性の種類と数値、材料の組成は記載なし |
(3) 公開しているソフトとデータ
TorchSimは、原子の動きをコンピュータで追う「分子動力学」などを、GPUの上で多数の系に同時に流せるようにしたソフトです。 MATRIXは、材料科学の問いにAIがどこまで答えられるかを測る問題集で、顕微鏡画像やX線回折のグラフを読む問題を含みます。 LitXBenchは、論文から実験の条件と結果を機械に取り出させる精度を測る問題集です。 いずれも公開ページでライセンスを確認しました(第5章の表)。
Radical AIの記事から、材料の技術者が参考にできる点は3つあります 事実。
(1) 計算の結果を、実験で測れる量に寄せている。 2026年3月の記事は、合金の融点・延性・降伏応力などを、混合則(成分の平均で性質を決める簡単な近似)ではなく、構造を考慮した計算で求めると説明しています。 元素がランダムに並ぶと仮定せず、特定の隣り合わせを好む「短距離秩序」を考慮するという考え方です。 また硬さは、実験で測りやすく降伏強度と相関するため、500試料以上を測ってモデルの調整に使うと書かれています。
(2) 測定の手間を、自動化で減らしている。 顕微鏡画像から枝状結晶(デンドライト)の間隔を測る作業は、専門家で1枚約15分、同じ作業を2人で行うと測定値が±16%ずれうると会社は書き、自動化で1枚約1秒としています。 この間隔は熱処理(焼きなまし)に必要な時間を決める目安になります。
(3) 計算と実験の件数の差を認めている。 計算が出す候補は、実験室で作れる数をはるかに上回ります。 会社はこの差を「次に解く問題」と位置づけ、実験で外れた結果も学習に使うと書いています。 材料側から見ると、予測の確からしさ(不確かさ)をどう扱うかが、この方式の実用の鍵になります。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 成果の外部検証が少ない | RAI-939の結果はブログ上の発表で、査読論文・試験条件・組成が公開されていない。電子物性の例も、目標の中身が非公開 | 事実 |
| 実験室の処理能力 | AIの候補数に対して、実験で確かめられる数が少ない(会社自身が指摘)。新実験室の約100件/日は計画値で、稼働時期は未確認 | 事実(計画は 未確定/将来) |
| 計算の予測が外れる | 2026年9月の記事で、別のモデルが目標に届かなかったこと、予測より低い測定値があったことを会社が認めている | 事実 |
| 材料の実用化までの距離 | 会社は「材料を売る」と述べるが、顧客・売上・量産の実績は確認できない。小さな試験片から実用部材までには、大型化と品質管理の段階がある | 推測 |
| 公的資金・防衛需要への依存 | 公表されている契約・協力の相手は、国の機関が中心。民間顧客の公表は確認できない | 推測 |
| オープンソースの扱い | TorchSimは公開先が別のGitHub組織に移っており、会社との関係の現状は公式資料で確認できなかった | 未確定/将来 |
| 誇大な表現への注意 | 「125倍」「1億倍」「370倍」などの倍率は、比べる対象と条件が示されない、または会社の主張。本稿では優劣の根拠にしない | 事実 |
12. 用語集
- マテリアルインフォマティクス(MI)
- データとAIを使って、新しい材料を効率よく探す方法。データ→予測・設計→実験で確かめる、の流れで進める。
- 自己駆動ラボ(自律実験室)
- AIが次の実験を決め、ロボットや自動装置が材料を作って測り、その結果をAIに戻す実験室。
- 高エントロピー合金
- 複数の金属元素をほぼ同じ割合で混ぜた合金。組成の組み合わせが非常に多く、探索の対象になりやすい。
- 機械学習原子間ポテンシャル(MLIP)
- 原子どうしに働く力を、機械学習で素早く近似する模型。精密な計算(DFT)の結果を学習して作る。
- DFT
- 密度汎関数理論。電子の状態から材料の性質を計算する精密な方法。計算が重い。
- 混合則
- 合金の性質を、成分の割合で平均して見積もる簡単な近似。実際の組織の影響を無視する。
- ベンチマーク
- 手法の性能を同じ条件で比べるための問題集と採点方法。何を測っているかを必ず確認する。
- SEM
- 走査電子顕微鏡。試料の表面や断面の組織を拡大して撮る装置。
- C103
- 航空宇宙で使われてきた高温用の合金の名前(会社の発表で比較対象とされた)。一般にはニオブ基の合金として知られる(解説)。
- ASE/GemNet
- ASEは原子シミュレーションで広く使われるPythonの標準的な道具、GemNetは原子間の力を学習するニューラルネットワークの設計の名前。
- 覚書(MoU)
- 将来の協力の枠組みを定める文書。法的な拘束力や資金の提供を含むとは限らない。
- SBIR
- 米国の中小企業革新研究プログラム。政府機関が小さな企業の研究開発に資金を出す仕組み。
13. 出典
- Radical AI 公式サイト(トップ・Vision)。会社の説明、ニュース一覧、ロゴ。2026年10月22日確認。 https://www.radical-ai.com/
- Radical AI Radical AI announces $55M in new funding(2025年7月18日)。シード5,500万米ドルの公式発表。 https://www.radical-ai.com/news/series-seed
- Radical AI Introducing TorchSim(2025年4月4日)。オープンソースの原子シミュレーションエンジンの発表と、会社が示す速度の主張。 https://www.radical-ai.com/news/introducing-torchsim
- Radical AI EGIP: Another step forward in ML-first materials(2025年4月24日)。第1世代の機械学習原子間ポテンシャルの発表。 https://www.radical-ai.com/news/EGIP
- Radical AI Beyond Composition: Computing What Materials Will Actually Do(2026年3月9日)。構造を考慮した物性計算の方法。 https://www.radical-ai.com/news/beyond-composition-computing-what-materials-will-actually-do
- Radical AI Confirming Superior Performance of Materials Discovered in Radical AI Self-Driving Labs(2026年8月7日)。合金RAI-939のトーチ試験。 https://www.radical-ai.com/news/purdue-applied-research-institute-confirms-superior-performance-of-radical-ai-materials
- Radical AI 6 Predictions, 6 Validated Materials(2026年9月23日)。電子物性モデルの予測6件と実験の結果。 https://www.radical-ai.com/news/6-predictions-6-validated-materials-enabling-frontier-electronic-property-materials
- Radical AI Automated Microstructure Analysis Moves Different(2026年6月9日)。SEM画像から組織を自動計測する仕組み。 https://www.radical-ai.com/news/scale-speed-precision-automated-microstructure-analysis-moves-different
- Radical AI Radical AI Awarded U.S. Air Force Contract(2025年8月25日)。AFWERXの契約金額と目的。 https://www.radical-ai.com/news/radical-ai-awarded-us-air-force-contract
- Radical AI Radical AI Signs Memorandum of Understanding with the U.S. Department of Energy(2025年12月20日)。 https://www.radical-ai.com/news/radical-ai-signs-memorandum-of-understanding-with-the-us-department-of-energy
- Radical AI Radical AI's Proposal to the White House OSTP(2025年6月30日)。国家AI研究開発戦略計画への意見提出。 https://www.radical-ai.com/news/RFI
- Radical AI Sandia National Laboratories Partners With Radical AI(2026年9月29日)。水素分離材料の共同研究の発表。 https://www.radical-ai.com/news/sandia-national-laboratories-partners-with-radical-ai-to-discover-new-materials-for-hydrogen
- Radical AI Breaking the Bottleneck: Radical AI Automated Sample Prep with Makino(2026年8月26日)。試料切り出し治具の共同開発。 https://www.radical-ai.com/news/breaking-the-bottleneck-radical-ai-automated-sample-preparation-with-makino
- Radical AI Radical AI's self-driving lab named one of TIME's Best Inventions of 2026(2026年10月20日)。自社による仕組みの説明(Antimatter)。 https://www.radical-ai.com/news/radical-ai-self-driving-lab-named-one-of-time-best-inventions-of-2026
- Radical AI A Benchmark for Extracting Experiments from Literature(2026年4月13日)。LitXBench/LitXAlloyの発表と、文献の取り込み規模の説明。 https://www.radical-ai.com/news/litxbench-a-benchmark-for-extracting-experiments-from-materials-literature
- Radical AI Leveraging Experimental Data Beyond Language: A Multimodal Benchmark(2026年2月10日)。MATRIXの発表。 https://www.radical-ai.com/news/leveraging-experimental-data-beyond-language-a-multimodal-benchmark
- ニューヨーク州 Governor Hochul Celebrates Radical AI Establishing New York's First Fully Autonomous Materials Science Labs at the Brooklyn Navy Yard(2026年1月27日)。創業年、従業員数、新実験室の計画、会社紹介欄のシード投資家名。 https://www.governor.ny.gov/news/governor-hochul-celebrates-radical-ai-establishing-new-yorks-first-fully-autonomous-materials
- 論文(arXiv) TorchSim: An efficient atomistic simulation engine in PyTorch(2025年8月8日投稿、arXiv:2508.06628)。 https://arxiv.org/abs/2508.06628
- GitHub TorchSim/torch-sim(旧 Radical-AI/torch-sim から移転。MITライセンス)。2026年10月22日確認。 https://github.com/TorchSim/torch-sim
- 論文(arXiv) MATRIX: A Multimodal Benchmark and Post-Training Framework for Materials Science(2026年1月30日投稿、arXiv:2602.00376)。 https://arxiv.org/abs/2602.00376
- Hugging Face radical-ai/MATRIX(データセット。MITライセンス。学習11,331件・検証1,688件・テスト470件)。 https://huggingface.co/datasets/radical-ai/MATRIX
- Hugging Face radical-ai/MATRIX-PT(Qwen2-VL-7B向けLoRAアダプタ。Apache-2.0)。 https://huggingface.co/radical-ai/MATRIX-PT
- 論文(arXiv) LitXBench: A Benchmark for Extracting Experiments from Scientific Literature(2026年4月8日初版、arXiv:2604.07649)。 https://arxiv.org/abs/2604.07649
- GitHub Radical-AI/litxbench(MITライセンス)。2026年10月22日確認。 https://github.com/Radical-AI/litxbench
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月22日/Troy Technical
本稿の数値は、Radical AIの公式発表、ニューヨーク州の発表文、論文、GitHubとHugging Faceの公開ページに基づきます。調査会社の推計値・報道だけの数値は使用していません。成果の数値(125倍、1億倍、6件中6件など)は会社の主張であり、第三者による検証が確認できたものではありません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。
