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オービタル・インダストリーズ(旧 オービタル・マテリアルズ) 企業解説

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COMPANY PROFILE / マテリアルインフォマティクス

オービタル・インダストリーズ(旧 オービタル・マテリアルズ)
― 材料AIモデル「Orb」をオープンに公開しつつ、自社の冷却液・データセンター製品づくりの道具に使う

Orbital Industriesは、2022年に英国で設立された会社で、2024年まではOrbital Materialsという名前で知られていました。原子のふるまいを高速に予測するAIモデルOrbをApache-2.0のオープンな形で公開している一方、会社自身は「AI Industrial」を名乗り、AIで材料・機器設計・製造を一体で進めて自社の製品(データセンター向けの冷却液やモジュール型データセンター)をつくる事業に重心を置いています。2026年8月には、その社内ソフトウェアCurieOSを、BASFの触媒部門(BASF ECMS)にライセンスしました。本稿は、材料AIとしての側面を中心に、公式資料の範囲で整理します。

構成:Orbital Industriesの公式サイトと公式記事、GitHub、arXiv論文、英国Companies Houseを一次情報として使用/確認日 2026年10月22日

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるOrbital Industriesと、MIでの立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. MIの世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模
  5. MIにかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社はMIで何を目指しているか
  9. MI分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるオービタル・インダストリーズと、マテリアルインフォマティクスでの立ち位置

現在の名称Orbital Industries旧 Orbital Materials。変更の時期は公式資料で確認できず
登記上の名称ORBITAL MATERIALS LTD英国の私的有限会社。2022年9月2日設立(Companies House)
拠点ロンドン、サンフランシスコ2026年5月の発表。以前は米国ニュージャージー州プリンストンに研究施設
この分野での区分基盤モデル・計算基盤(主)
応用する側(従)
本稿の分類。図1を参照
中核のモデルOrb/OrbMolApache-2.0で公開された原子シミュレーション用AI
社内ソフトCurieOS2026年8月にBASF ECMSへライセンス
最新の資金調達シリーズB 5,000万ドル2026年5月28日。Pluralが主導(会社発表)
従業員約50人2026年5月の発表(ロンドンとサンフランシスコ)
まず押さえるべき1点

この会社は、材料AIモデルを公開して広める一方で、自社の製品を作って売ることを事業の中心にしています 事実。CEOは2025年1月のブログで「先端材料は製品ではなく機能であり、材料を発見するAIを持つだけでは利益を得にくい。発見した材料を製品に組み込んで価値を取る」という考えを述べ、「独立したベンチマークで評価されたAIモデルを社内で材料発見に使い、その材料を自社設計のハードウェアに組み込む」と説明しています。

つまり、同じ「MIの会社」でも、モデルやソフトを主な商品にする会社とは性格が違います。ただし、製品の売上や契約は公式資料では確認できません(第4章)。

2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:現在の公式サイトの名称はOrbital Industriesです。2024年までの発表ではOrbital Materials(公式サイトのドメインは orbitalmaterials.com で、現在は orbitalindustries.com へ転送)でした。一方、英国の登記簿の名称は2026年10月22日の確認時点でORBITAL MATERIALS LTDのままです。ロゴは公式サイトに埋め込まれたSVGから取り出し、色を黒に固定したものです。

公式サイト:https://www.orbitalindustries.com/
名前何か補足
Orbital Industries現在のブランド・会社の呼び名旧 Orbital Materials
ORBITAL MATERIALS LTD英国の登記上の法人名会社番号14332843。登記簿は2026年10月22日に確認
Orbital ITデータセンター向けの自社ブランド2026年5月27日に開始(冷却・モジュール型データセンター)
Orb/OrbMolAIモデルの名前(Orbは結晶など、OrbMolは分子向け)オープンに公開
LINUS社内の基盤モデルの名前(Orbはこれを調整したもの)2024年の発表の記載。非公開
CurieOS科学・工学向けのAIエージェント基盤ソフト2026年8月にBASF ECMSへライセンス

3. マテリアルインフォマティクスの世界で、この会社はどこにいるか

マテリアルインフォマティクス(MI)の流れ(データ→予測・設計→計算で絞る→実験で確かめる)のうち、Orbitalは「原子のふるまいを高速に予測するAIモデル」(予測の道具)を自社で作り、公開しています。さらに、その結果を自社の冷却液や機器の開発(実験と製造)に使う点が特徴です。

マテリアルインフォマティクスに関わる企業の4つの類型 同じ「MIの会社」でも、データ→設計→実験のどこを担うかで、強みと課題が違う 基盤モデル・計算基盤 MIソフト・材料AI 自動実験・ロボット 応用する側 データと計算でAIを作る 解析ソフトと材料AI ロボットで実験を回す 電池・化学・半導体など Google DeepMind/Microsoft Meta/NVIDIA Citrine/Schrödinger Preferred Networks/CuspAI Chemspeed/Radical AI Periodic Labs/Lila Sciences SES AI/Mitsui Chemicals Applied Materials 大規模な計算と人材 使いやすさとデータ 実験を回す速度 実際の材料と市場 実験での検証は他者頼み 顧客のデータ次第 設備費と再現性 内製の人材とデータ不足 Orbitalの主たる類型は「基盤モデル・計算基盤」(Orb)。従たる類型は、自社製品を作る「応用する側」 Orbを公開しつつ、冷却液などの自社製品の開発とCurieOSのライセンスに使っている(会社の説明)
図1 マテリアルインフォマティクスに関わる企業の4類型と、Orbital Industriesの位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。Orbを公開していること、自社製品の開発にAIを使っていることは公式資料の記載に基づきます。

次の図解は、会社が説明する「材料→機器設計→製造」を一つの輪にする考え方と、各部分を支える仕組みを示したものです。

材料・機器設計・製造を「一つの輪」にする考え方 会社の公式説明(CurieOSの紹介記事など)を本稿が図にしたもの ① 材料を探す Orbで原子の動きを計算し 候補の材料を絞り込む ② 機器を設計する 流体の計算などで 冷却板や配管を設計する ③ 作って納める 工場で製造し 試験・納入する CurieOS:要件が変わると、材料の計算・設計・試験計画がまとめて更新される(会社の説明) Orb(公開) Orbital IT:自社ブランドとして販売(データセンター向け) ②③は材料とは別の工学・製造の領域で、本稿のMIの範囲は①(と、それを支えるモデル)が中心
図解 材料・機器設計・製造を一つの輪にする考え方。会社は、要件(たとえばGPUの発熱量)が変わったとき、材料探索から試験計画までが数日で更新される、と説明しています(会社の説明で、第三者による確認ではありません)。

4. 会社の規模

売上・利益は確認できた範囲では公表されていません。登記簿と会社の発表から確認できる項目を示します 事実。

項目内容出所
法人ORBITAL MATERIALS LTD(英国の私的有限会社、番号14332843)。状態は「活動中」。事業分類は自然科学・工学の研究開発英国Companies House
設立2022年9月2日(会社は「2022年末に発足」と説明)Companies House/公式記事
登記上の所在地10 John Street, London, WC1N 2EB(英国)Companies House
拠点ロンドン、サンフランシスコ。2024年の発表では米国ニュージャージー州プリンストンに材料の研究施設(2024年第1四半期に開設)と記載公式発表
従業員数約50人(2026年5月の発表)公式プレスリリース
売上・利益非公表―
上場非上場―
資金調達(公式)シリーズB 5,000万ドル(2026年5月28日、Plural主導)。NVentures(NVIDIA)は2024年10月に出資(金額は非公表)公式プレスリリース
ここで注意

2026年5月の発表は、データセンターの市場規模などの数字も載せていますが、その出所は示されていないため、本稿では採用していません。シリーズBより前の資金調達の公式発表は、確認できませんでした。

5. マテリアルインフォマティクスにかけているリソース

観点確認できた内容区分
人従業員は約50人(2026年5月)。共同創業者はCEOのJonathan Godwin(元DeepMindで5年間、材料等のAIに従事と記載)、CTOのJames Gin-Pollock、COOのDaniel Miodovnik。MI専任の人数は非公表事実
金(研究開発費)MI向けの研究開発費・設備投資額は非公表非公表
金(資金調達)シリーズB 5,000万ドル(Plural主導。NVentures、Radical Ventures、Compound、Fly Venturesが参加)。2024年10月のNVenturesからの出資額は非公表事実
外部への出資・買収Orbital Industriesが他社へ出資・買収した記載は確認できなかった確認できず
大学・研究機関・公的資金OrbMolの主著者は同社のインターンとして研究した人物(公式記事の注記)。公開データセットOMol25を学習に利用。Orbは外部の対話ツールRowanでも使える。DOE・NSFなど公的資金の記載は確認できなかった事実
クラウド・計算資源AWSと複数年の提携(モデルの事前学習にSageMaker HyperPod、Trainiumの評価)。NVIDIAのALCHEMIのツールを推論の高速化に利用(OrbMol-v2の記事)事実

主要なモデル・製品・設備の状況

名称種別主要な仕様(会社公表)公開の形・ライセンス段階・日付
Orb v1・v2結晶向けの原子間ポテンシャルv1:当時のGoogle・Microsoftのモデルより高精度と会社が説明(2024年9月。比較条件は発表本文に記載なし)。v2は論文(arXiv)2024年9月のブログは「非商用・スタートアップは無償」の許諾と説明。現在のGitHubはApache-2.0公開(2024年9月/10月)
Orb-v3結晶向け(精度と速度の異なる複数モデル)疎なグラフの直接モデル(orb-v3-direct-20)はMACE-MPA-0比で10倍速く、メモリは5分の1(会社の説明)コードと重みをApache-2.0で公開公開(論文2025年4月、解説2025年9月4日)
OrbMol分子向け(電荷・スピンを入力可能)OMol25(1億件超のDFT計算)で学習Apache-2.0。周期系(結晶)の十分な検証はされていないと注記公開(2025年8月27日)
OrbMol-v2分子向け(長距離の静電相互作用を追加)GSCDBの正規化誤差比(NER)1.62。次点のMLIPより21%高精度と会社が説明(条件は第10章)Apache-2.0で公開公開(2026年5月〜6月2日)
LINUS社内の基盤モデルOrbはこれを調整したものと会社が説明非公開2024年の説明のみ
CurieOS科学・工学向けのAIエージェント基盤共有データ層(コンテキストグラフ)、ワークフロー、アプリを一体で提供。AIの提供元は選べると説明商用ライセンス。BASF ECMSが導入2026年8月5日・11日の発表。「選んだ提携先」から開放
実験設備会社自身の実験室・製造2024年の発表にプリンストンの材料研究施設(2024年第1四半期開設)の記載。規模・現在の稼働状況は確認できなかった―確認できず
素材技術者の視点:オープンなモデルを自分で使うときの注意

Orbのコードと重みは公開されていて、自社の計算機で動かして自社の系で試せます 事実。公式の注記から、素材技術者が知っておくべき点を挙げます。

①モデルの種類:Orb-v3には、力をエネルギーの微分から求める「保存的」モデルと、直接予測する「直接」モデルなど、精度・速度・メモリの異なる複数があります。公式READMEは、初期の確認には最も精度の高い構成(conservative・120近傍・高精度設定)から始めるよう勧めています。②OrbMolの範囲:OrbMolは学習データに周期系を含まず、周期系での十分な検証はされていないと注記されています。分子の計算向けです。③「100,000原子を1枚のGPUで」という主張:会社は他社が動かせない規模でも動くと述べていますが、比較条件の詳細は発表に示されておらず、本稿では確認できませんでした。大きな系で使う場合は、自分の系で速度とメモリを測ってから判断してください。

6. これまでの取り組み

時期できごと意味
2022年9月ORBITAL MATERIALS LTDを英国で設立(登記簿)会社の出発点
2024年第1四半期プリンストンの材料研究施設を開設(会社の記載)材料を自社で作って試す体制
2024年9月Orbを公開。「GoogleやMicrosoftのモデルより高精度」「大規模計算で5倍速い」と会社が説明(比較条件の詳細は発表本文には示されていない)オープンな材料AIモデルの公開
2024年10月NVentures(NVIDIA)から出資(金額は非公表)。Orb-v2の論文計算資源・チームの強化
2024年12月AWSと複数年の戦略提携。OrbがAWSのSageMaker JumpStartとMarketplaceで一般提供の予定。炭素回収技術を2025年末までに配備・試験する計画と記載クラウドでの提供。計画のその後の公式報告は確認できなかった
2025年1月CEOが「先端材料は製品ではなく機能」と事業の考えをブログで説明事業方針の説明
2025年4月〜9月Orb-v3を公開(Apache-2.0)。8月にOrbMolを公開モデル群の拡充
2026年5月Orbital ITを開始(5月27日)。シリーズB 5,000万ドル(5月28日)データセンター向けの自社製品へ
2026年6月OrbMol-v2を公開。NVIDIAとDSX AI Factoryで協業を発表(6月8日)モデルの更新と製品面の協業
2026年8月BASF ECMSがCurieOSを導入(5日)。CurieOSを紹介する記事を公開(11日)社内ソフトの外部提供の最初の事例

注:公式サイトの過去記事(2024年12月のAWS提携の記事など)は、現在のサイトの名称「Orbital Industries」で表記されています。実際にいつ名称を変えたかは、公式資料で確認できませんでした。2024年9月・10月の記事は当時の社名「Orbital Materials」のままです。

7. 今後の計画

Orbital ITの展開冷却液・モジュール型データセンター導入を拡大すると説明。時期・台数は非公表 未確定/将来
2相直接チップ冷却開発中PFASを含まない誘電体を備える。提供開始の日付は非公表 未確定/将来
CurieOSの提供先選んだ提携先からBASF ECMSに続く提携は未公表 未確定/将来
他の産業分野半導体・重要鉱物・航空宇宙・エネルギー長期の目標として記載 未確定/将来

これらはすべて会社の計画・目標で、実施や成果は確認できていません 事実 未確定/将来。

確認できなかったこと

次はいずれも公式資料に記載がありません 未確定/将来。

売上・契約の金額/2024年に掲げた炭素回収技術の配備・試験の結果/社名を変えた日付/LINUSなど社内モデルの詳細/CurieOSで実際に発見された材料の実測データ(冷却用の誘電体が発見されたとの記載はあるが、測定値は未公表)。

8. この会社はマテリアルインフォマティクスで何を目指しているか

会社が直接述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として根拠とともに書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
材料AIは「売る商品」より「自社製品をつくる道具」と位置づけているCEOの2025年1月のブログ(材料発見AIのライセンスやソフトの席数では事業が成り立ちにくいという見方)。自社の冷却液・データセンターを事業の入口に事実(会社の見解)
Orbを公開し続けるのは、利用者・人材・評価を集めるためApache-2.0での公開、AWS・Rowanなど外部の提供経路、「小さなチームでも競争できる」という趣旨の説明推測
CurieOSは、社内の道具を外へ広げる最初の試み2026年8月にBASF ECMSへライセンスし、他の提携先にも開くと記載。それまで外部提供の記載はなかった推測
NVIDIAのエコシステムに深く寄っているNVentures出資(2024年)、ALCHEMIのツールの利用(OrbMol-v2)、DSX AI Factoryでの協業(2026年)推測
材料探索の相手を産業用の触媒へも広げているBASF ECMSは自動車排ガス触媒の部門。CurieOSを触媒の探索に使う契約事実
推測の根拠を1つだけ詳しく

CEOのブログは、「AI材料発見プラットフォーム」という事業の難しさを述べ、「発見した材料を製品に統合してこそ価値を得る」と結論づけています 事実。この考えは、同社が冷却液(材料)→冷却装置(機器)→モジュール型データセンター(製造)へ、順に事業の範囲を広げていることと整合します。

ただし2026年8月のBASF ECMSとの契約は、CurieOSを外部にライセンスするものです。本稿は、これを「自社製品づくりの道具を外にも提供し始めた」動きと読みます 推測。契約の金額や範囲は公表されておらず、事業全体に占める比重は分かりません。

9. マテリアルインフォマティクス分野の提携マッピング

Orbital Industriesを中心としたMI分野の提携関係 公式サイト・公式記事・GitHubに記載のある関係のみ(確認日 2026年10月22日) Orbital Industries Orbを公開 AWS 複数年の提携・Orbを提供 NVIDIA ALCHEMI・DSX協業・出資 シリーズBの出資者 Plural(主導)・Radical Venturesほか Rowan Orb-v3の提供パートナー (対話的に利用) BASF ECMS CurieOSをライセンス導入 自動車排ガス触媒の探索 公開データセット OMol25など (OrbMolの学習) オープンソース利用者 GitHubで公開 (Apache-2.0) Orbital IT(自社ブランド) データセンター向けの冷却液・ モジュール型データセンター 共同開発・導入 データ・計算・モデルの提供 出資・自社ブランド
図2 Orbital Industriesを中心としたMI分野の提携関係。出典:Orbital Industriesの公式サイト・公式記事、GitHub。図に含めたのは公式に記載がある関係だけです。BASF ECMSの導入は2026年8月の発表で、契約の金額・期間は公表されていません。NVIDIAは出資者でもあり、ソフトウェア(ALCHEMI)の利用先・協業先でもあります。
相手関係区分
AWS2024年12月に複数年の戦略提携。OrbをSageMaker JumpStartとMarketplaceで提供する予定(発表時)。データセンターの炭素除去・冷却の技術を共同で評価事実(提供開始の確認は本稿で未実施)
NVIDIA2024年10月にNVenturesが出資。OrbMol-v2でALCHEMI Toolkit-opsを利用。2026年6月にDSX AI Factoryで協業を発表事実
BASF ECMS2026年8月5日、CurieOSのライセンスを発表。自動車排ガス用の触媒の研究開発に使う事実
RowanOrb-v3を対話的に利用できるサービスの「立ち上げパートナー」事実
Plural 他シリーズBの主導(Plural)。Radical Ventures、Compound、Fly Venturesも参加事実

10. 提供している技術・製品・サービス

公開されているのはOrbシリーズのモデルとコード、そして会社が共同で使う相手を選んで提供するCurieOSです。冷却液などの自社製品は、MIとは別にデータセンター向けの製品として売られます。

項目会社が示す内容条件・注意
Orbの速度・規模「10万原子を1枚のGPUで動かせる唯一のモデルで、他は動かせない」「最も近い他モデルの10倍速い」(BASF ECMS・シリーズBの発表)出所はOrb-v3論文(arXiv:2504.06231)。比較の対象・条件は発表本文に示されず、本稿では確認できなかった。会社の主張
「予測がずれない」独立したベンチマークで、長い計算でも予測がずれたり誤りが出たりしないと説明LAMBench(npj Computational Materials 2026)を引用。本稿は内容を確認していない
Orb-v3:軽量な構成疎なグラフの直接モデルがMACE-MPA-0より10倍速く、メモリは5分の1。SevenNetより40倍速くメモリ40分の1(会社の技術ブログ)同ブログの条件による会社の測定
OrbMol-v2GSCDB(分子DFTの網羅的ベンチマーク)で、単原子を除いた5,152反応の正規化誤差比(NER)が1.62。ハイブリッド汎関数(PBE0、B3LYPなど)を上回り、次点のMLIPより21%高精度。1万原子で比較モデルの約5倍速い(H100 1枚)NER 1.0がDFTの最良の汎関数と同等。単原子を含む課題は除外。会社自身の評価
冷却用の誘電体AIで発見した、PFASを含まない冷却用の液体(Orbital ITの製品の一部)測定値・認証は公表されていない。「開発中」と記載

注:数字はすべて会社の説明です。第三者による再現や、実機での性能の確認は、本稿では確認できませんでした。

素材技術者の視点:材料AIを「使う」立場と「作る」立場

①公開モデルは自分で試せる:Orbは、ASE(原子シミュレーションの標準的なPython環境)の計算機として組み込めるように公開されています(READMEの記載)。自社の構造データで、DFTの結果や既存のモデルと比べる検証に使えます。

②会社の主な用途は触媒と冷却液:BASF ECMSの契約は触媒の探索で、これは本稿の第10章で触れた原子レベルの計算(表面・吸着)と合う用途です。ただしどんな材料が見つかったかはまだ公表されていません。

③「AIが新材料を発見」の読み方:冷却用の誘電体は会社の主張で、計算上の予測と実験での確認が分けて示されていません。製品の性能・認証が公開されるまでは、会社の主張として扱うのが安全です。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
事業の重心がMIの外にある会社の説明では、事業の中心はデータセンター向けのハードウェア。材料AIの公開は続くが、MIの分野での投資の比重は非公表事実
性能の主張の条件が見えにくい「唯一」「10倍」といった比較の対象・条件が発表本文に示されていない事実
過去の計画の追跡2024年に掲げた炭素回収技術の配備・試験の結果は、その後の公式発表では確認できなかった事実
名称・法人の混乱旧称、現称、登記上の名称が別で、変更の日付も不明。資料を探す際に誤読しやすい事実
外部への提供はこれからCurieOSの外部提供はBASF ECMS1社が最初の公表事例で、契約内容は非公表未確定/将来
小規模なチームへの依存従業員は約50人。幅広い領域(材料・機器・製造・ソフト)を同時に進めている推測
オープンな競合の多さ同種のモデルを他社も公開している。差が速度やメモリにあるとすれば、比較条件が重要になる推測

12. 用語集

機械学習原子間ポテンシャル(MLIP)
原子の並びから、原子にかかる力とエネルギーを予測するAIモデル。DFTの代わりに使って速度を上げる。
保存的モデル/直接モデル
力をエネルギーの微分から求める(保存的)か、力を直接予測する(直接)かの違い。後者は速い一方、物理的な整合性に差が出うる。
DFT
密度汎関数理論。物質の性質を量子力学から計算する標準的な方法。精密だが時間がかかる。
Matbench Discovery
結晶の安定性予測でMLIPを比べる公開ベンチマーク。
AI Industrial
会社が自称する分類。AIを材料・設計・製造に組み込み、自社の物理的な製品を作る会社。
CurieOS
会社が開発した、科学・工学向けのAIエージェント基盤ソフト。
誘電体冷却液
電気を通さない冷却用の液体。サーバーのチップを直接冷やすのに使う。
PFAS
分解されにくい人工の有機フッ素化合物の総称。規制が強まっている。
AIで提案した候補を、合成と機能の測定につなぐ概念です。図は同社の材料構造や性能を再現したものではありません。
図3 概念画像(ImageGen生成)。AIで提案した候補を、合成と機能の測定につなぐ概念です。図は同社の材料構造や性能を再現したものではありません。実在の製品・施設・測定結果ではありません。拡大模型、線・矢印・色は説明用です。

13. 出典

  1. Orbital Industries 公式サイト(トップ)。会社の位置づけ「AI Industrial」、CurieOS・Orbital ITへの導線。 https://www.orbitalindustries.com/
  2. Orbital Industries About。事業の説明(材料発見・ハードウェア設計・製造を一つの輪にする)。 https://www.orbitalindustries.com/about
  3. Orbital Industries AI Research。Orbシリーズ、OrbMol、OrbMol-v2の公式記事一覧。 https://www.orbitalindustries.com/ai-research
  4. Orbital Industries プレスリリース「Orbを公開」(2024年9月3日、当時の社名 Orbital Materials)。 https://www.orbitalindustries.com/news/announcements/press-release-orb
  5. Orbital Industries CEOのブログ「Orbをオープンソースで公開」(2024年9月2日)。ライセンスの当時の説明。 https://www.orbitalindustries.com/news/blog/introducing-orb
  6. Orbital Industries プレスリリース「NVentures(NVIDIA)から出資」(2024年10月22日、当時の社名 Orbital Materials)。 https://www.orbitalindustries.com/news/announcements/press-release-orbital-materials-to-advance-materials-and-climate-technologies-with-ai-using-investment-from-nventures
  7. Orbital Industries プレスリリース「AWSと複数年の戦略提携」(2024年12月5日掲載)。Orbのゼネラルアベイラビリティ、SageMaker利用。 https://www.orbitalindustries.com/news/announcements/orbital-materials-and-aws-enter-strategic-partnership-to-develop-technologies-for-data-center-decarbonization-and-efficiency
  8. Orbital Industries 技術ブログ「Orb-v3」(2025年9月4日)。モデル群の位置づけ、Apache-2.0での公開。 https://www.orbitalindustries.com/news/blog/orb-v3-atomistic-simulation-at-scale
  9. arXiv Rhodes et al., “Orb-v3: atomistic simulation at scale”, arXiv:2504.06231(2025年4月)。 https://arxiv.org/abs/2504.06231
  10. Orbital Industries 発表「OrbMol:Orbを分子系へ」(2025年8月27日)。OMol25で学習、Apache-2.0。 https://www.orbitalindustries.com/news/announcements/orbmol-extending-orb-to-molecular-systems
  11. Orbital Industries 技術ブログ「OrbMol-v2」(2026年6月2日)。GSCDBでの評価条件。 https://www.orbitalindustries.com/news/blog/introducing-orbmol-v2
  12. Orbital Industries 発表「Orbital ITを開始」(2026年5月27日)。データセンター向けブランドと製品。 https://www.orbitalindustries.com/news/announcements/introducing-orbital-it
  13. Orbital Industries プレスリリース「シリーズB(5,000万ドル)を調達」(2026年5月28日)。出資者、従業員数、事業の説明。 https://www.orbitalindustries.com/news/press/orbital-industries-series-b-50-million
  14. Orbital Industries プレスリリース「NVIDIAとDSX AI Factoryで協業」(2026年6月8日)。 https://www.orbitalindustries.com/news/press/orbital-industries-partners-nvidia-dsx-ai-factory-infrastructure
  15. Orbital Industries プレスリリース「BASF ECMSがCurieOSを導入」(2026年8月5日)。 https://www.orbitalindustries.com/news/press/basf-ecms-ai-materials-discovery-platform
  16. Orbital Industries 発表「CurieOSの紹介」(2026年8月11日、CTOの記事)。CurieOSの設計と使い方。 https://www.orbitalindustries.com/news/announcements/introducing-curieos
  17. GitHub orbital-materials/orb-modelsのREADME・MODELS・LICENSE(Apache-2.0)。モデル一覧と注意書き。 https://github.com/orbital-materials/orb-models
  18. 英国 Companies House ORBITAL MATERIALS LTD(会社番号 14332843)の公開情報。 https://find-and-update.company-information.service.gov.uk/company/14332843
  19. arXiv Neumann et al., “Orb: A Fast, Scalable Neural Network Potential”, arXiv:2410.22570(2024年10月)。 https://arxiv.org/abs/2410.22570
  20. npj Computational Materials Han et al., “LAMBench: a benchmark for large atomistic models”, 12(2026)。会社がシリーズBの発表で「独立ベンチマーク」として引用。 https://doi.org/10.1038/s41524-025-01929-3
  21. Orbital Industries CEOのブログ「先端材料は製品ではなく機能である」(2025年1月11日)。会社の事業方針の説明。 https://www.orbitalindustries.com/news/blog/advanced-materials-are-features-not-product

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
登記上の名称(ORBITAL MATERIALS LTD)、設立日、所在地、状態事実出典17 https://github.com/orbital-materials/orb-models
現在の名称 Orbital Industries(旧 Orbital Materials)と、変更日が未確認であること事実変更日は公式資料に記載なし。 出典1・2・4・7 https://www.orbitalindustries.com/ https://www.orbitalindustries.com/about https://www.orbitalindustries.com/news/announcements/press-release-orb https://www.orbitalindustries.com/news/announcements/orbital-materials-and-aws-enter-strategic-partnership-to-develop-technologies-for-data-center-decarbonization-and-efficiency
Orbの公開(2024年9月)と当時の説明、ライセンスの説明事実会社の説明。 出典4・5 https://www.orbitalindustries.com/news/announcements/press-release-orb https://www.orbitalindustries.com/news/blog/introducing-orb
NVenturesからの出資(2024年10月、金額非公表)事実出典6 https://www.orbitalindustries.com/news/announcements/press-release-orbital-materials-to-advance-materials-and-climate-technologies-with-ai-using-investment-from-nventures
AWSとの複数年の提携(2024年12月)、炭素回収技術の計画事実会社の計画。 出典7 https://www.orbitalindustries.com/news/announcements/orbital-materials-and-aws-enter-strategic-partnership-to-develop-technologies-for-data-center-decarbonization-and-efficiency
Orb-v3の公開(Apache-2.0)、軽量モデルの速度・メモリの比較事実会社の測定条件。 出典8・9・16 https://www.orbitalindustries.com/news/blog/orb-v3-atomistic-simulation-at-scale https://arxiv.org/abs/2504.06231 https://www.orbitalindustries.com/news/announcements/introducing-curieos
Orb v2の論文事実出典18 https://find-and-update.company-information.service.gov.uk/company/14332843
OrbMol(2025年8月)の学習データ、ライセンス、周期系の注記事実出典10・16 https://www.orbitalindustries.com/news/announcements/orbmol-extending-orb-to-molecular-systems https://www.orbitalindustries.com/news/announcements/introducing-curieos
OrbMol-v2の評価(GSCDB、NER 1.62、5,152反応、H100での速度)事実会社の評価。 出典11 https://www.orbitalindustries.com/news/blog/introducing-orbmol-v2
Orbital ITの開始(2026年5月27日)と製品事実出典12 https://www.orbitalindustries.com/news/announcements/introducing-orbital-it
シリーズB 5,000万ドル、出資者、約50人、拠点事実会社の発表。 出典13 https://www.orbitalindustries.com/news/press/orbital-industries-series-b-50-million
NVIDIAとのDSX協業(2026年6月)事実出典14 https://www.orbitalindustries.com/news/press/orbital-industries-partners-nvidia-dsx-ai-factory-infrastructure
BASF ECMSへのCurieOSのライセンス(2026年8月5日)事実出典15 https://www.orbitalindustries.com/news/press/basf-ecms-ai-materials-discovery-platform
CurieOSの設計と、要件変更が数日で更新されるという説明事実会社の説明。 出典16 https://www.orbitalindustries.com/news/announcements/introducing-curieos
「10万原子を1枚のGPUで」「10倍速い」「予測がずれない」という主張事実会社の主張。条件は発表本文に記載なし。 出典9・13・19 https://arxiv.org/abs/2504.06231 https://www.orbitalindustries.com/news/press/orbital-industries-series-b-50-million https://arxiv.org/abs/2410.22570
CEOの事業方針(先端材料は製品ではなく機能)事実会社の見解。 出典20 https://doi.org/10.1038/s41524-025-01929-3
売上・契約金額・名称変更の日付・炭素回収の結果・実験設備の規模・冷却液の測定値未確定/将来公式資料では確認できなかった。本稿では推計しない 出典1・13 https://www.orbitalindustries.com/ https://www.orbitalindustries.com/news/press/orbital-industries-series-b-50-million
Orbital ITの展開、2相冷却、他の産業分野への拡大、CurieOSの提携先の拡大未確定/将来会社の計画。 出典12・13・16 https://www.orbitalindustries.com/news/announcements/introducing-orbital-it https://www.orbitalindustries.com/news/press/orbital-industries-series-b-50-million https://www.orbitalindustries.com/news/announcements/introducing-curieos
MIの4類型の区分とOrbital Industriesの位置づけ、「一つの輪」の図解本稿の計算本稿による整理
「材料AIは自社製品づくりの道具」「CurieOSは外に広げる最初の試み」「NVIDIAに寄っている」などの読み推測本稿の解釈。根拠は第8章に記載
事業の重心、比較条件の見えにくさ、名称の混乱というリスク推測本稿の解釈。第11章に根拠を記載

最終更新:2026年10月22日/Troy Technical
本稿の事実は、Orbital Industriesの公式サイトと公式記事、GitHub、公開論文、英国Companies Houseに基づきます。調査会社の市場推計や、出所の示されていない市場規模の数字は使用していません。性能・比較の数字は会社の説明で、第三者による検証ではありません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。株価・評価額・投資判断には触れていません。