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メタ 企業解説 企業解説

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COMPANY PROFILE / マテリアルインフォマティクス

メタ
― 触媒・材料・分子の大規模な計算データと「万能」原子モデルUMAを、条件つきで公開している

Metaは、SNSと広告の会社です。その研究組織FAIR(基礎AI研究)の「FAIR Chemistry」チームは、2020年から触媒・材料・分子のDFT計算データを大規模に作り、公開してきました。 2025年には、分子のデータセットOMol25と、これらをまとめて学習した原子のAIモデルUMAを発表しています。 材料向けの事業や製品、実験設備は確認できず、Metaの10-Kにも材料の記載はありません。一方で、公開物には、データがCC BY 4.0、モデルは独自のライセンス(アクセス申請と禁止用途つき)という違いがあります。 本稿では、会社・研究グループの主張、計算上のデータ、実験との比較、外部の評価を分けて、一次資料で確認できた範囲だけを書きます。

構成:Metaの10-K(2025年12月期)、Meta AIの公式ブログ、FAIR ChemistryのGitHubとドキュメント、arXiv論文、Hugging Faceのライセンス、外部の評価論文などを一次情報として使用/確認日 2026年10月22日

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるMetaと、マテリアルインフォマティクスでの立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. マテリアルインフォマティクスの世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模(会社全体は簡潔に)
  5. マテリアルインフォマティクスにかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社はマテリアルインフォマティクスで何を目指しているか
  9. マテリアルインフォマティクス分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス(数字の読み方と外部の評価)
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるメタと、マテリアルインフォマティクスでの立ち位置

マテリアルインフォマティクス(MI)とは、材料のデータと計算・AIを使って、新しい材料を効率よく探す取り組みです。 流れは大きく「データ → 予測・設計 → 実験で確かめる」の3段階です。 Metaが担っているのは、このうち主に「データ」と「予測」の段階で、大量の計算データを作って公開し、そこから学習したモデルを公開することが特徴です。

正式名称Meta Platforms, Inc.米国の上場企業。研究組織はFAIR(Fundamental AI Research)
本社・上場Menlo Park, California
Nasdaq:META
米国カリフォルニア州
この分野での区分基盤モデル・計算基盤データとモデルの公開が中心。実験設備は確認できなかった
主な公開物OC20・OC22・OpenDAC
OMat24・OMol25・UMA
触媒・材料・分子のDFTデータと、それらを学習したモデル
会社の主張する規模OMat24:1.1億超のDFT計算
OMol25:1億超
論文の記載。いずれも計算データで、実験値ではない
モデルUMA(約5億の原子構造で学習)1つのモデルで分子・材料・触媒を扱うと主張(論文)
ライセンスデータ:CC BY 4.0
モデル:独自(FAIR Chemistry License)
モデルはアクセス申請が必要で、禁止用途がある
外部の評価実験値との比較で誤差が大きい例外部の論文(UniFFBench)。第10章
まず押さえるべき1点

MetaのMI関連の「正解」は、すべてDFT(物理に基づく計算)の結果です 事実。 UMAなどのモデルは、「DFTの答えを速く再現する」ように学習されており、実験で測った値を直接学習したものではありません。 このため、モデルの誤差はDFT計算との差で測られることが多く、実験との差は別に確かめる必要があります。 外部の研究者による実験値との比較では、誤差が大きく残るとの報告もあります。 この記事では、会社の主張、DFTとの比較、実験との比較を常に分けて書きます。

2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:本稿の「Meta」は、米国上場のMeta Platforms, Inc.(法人)を指します。 材料・化学のAIを作っているのは、その研究組織FAIR(Fundamental AI Research)のFAIR Chemistryチームです。 Open Catalyst Projectは、MetaとCarnegie Mellon大学の共同研究の名前です。 10-Kに書かれているのは会社全体の数字で、FAIR Chemistry単独の数字ではありません。

公式サイト:https://about.meta.com/(ロゴは公式サイトのヘッダー画像。暗い背景用の白い文字版)

3. マテリアルインフォマティクスの世界で、この会社はどこにいるか

マテリアルインフォマティクスに関わる企業の4つの類型 同じ「MIの会社」でも、データ→設計→実験のどこを担うかで、強みと課題が違う 基盤モデル・計算基盤 MIソフト・材料AI 自動実験・ロボット 応用する側 データと計算でAIを作る 解析ソフトと材料AI ロボットで実験を回す 電池・化学・半導体など Google DeepMind/Microsoft Meta/NVIDIA Citrine/Schrödinger Preferred Networks/CuspAI Chemspeed/Radical AI Periodic Labs/Lila Sciences SES AI/Mitsui Chemicals Applied Materials 大規模な計算と人材 使いやすさとデータ 実験を回す速度 実際の材料と市場 実験での検証は他者頼み 顧客のデータ次第 設備費と再現性 内製の人材とデータ不足 Metaは「基盤モデル・計算基盤」にいて、大量の計算データとモデルを公開している 実験での確認は公式資料に記載がなく、利用者や共同研究先に任されている
図1 マテリアルインフォマティクスに関わる企業の4類型と、Metaの位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。データとモデルの公開が中心で、実験設備の記載がないことは、第5章・第10章の公式資料の記載に基づきます。

図1のとおり、Metaは「基盤モデル・計算基盤」の類型です。 MIの流れ(データ → 予測・設計 → 実験)のうち、大量のDFT計算でデータを作り、公開し、そこから学習したモデルを公開することが中心です。 実験で確かめる部分は、Metaの公式資料では確認できず、利用者や共同研究先に任されています 事実。

専門用語をやさしく:万能(ユニバーサル)原子モデルとは

原子の並びから、その物質のエネルギーや原子に働く力をAIで答えるモデルを機械学習原子間ポテンシャルと言います。 従来は、材料や分子ごとに専用のモデルを作ることが多く、ユニバーサル(万能)モデルは「元素をまたいで、1つのモデルで広く使える」ことを狙います。 UMAは、分子・触媒・無機材料・分子結晶などの異なるデータを、計算の設定(タスク)を選ぶことで1つのモデルに統合しています。 技術の細部は、本シリーズの技術解説『機械学習原子間ポテンシャル』『高スループット計算』『密度汎関数理論の基礎』で説明しています。

4. 会社の規模(会社全体は簡潔に)

Metaは、SNS・広告・VR/ARなどを手がける大企業です。会社全体の規模だけを示します 事実。 材料AIの売上・人員・予算は開示されていません 未確定/将来。

指標(会社全体・百万米ドル)2023年2024年2025年
売上高(Revenue)134,902164,501200,966
研究開発費(Research and development)38,48343,87357,372
設備投資(Purchases of property and equipment)27,04537,25669,691
項目内容
従業員数(2025年12月31日)78,865人
本社1 Meta Way, Menlo Park, California(米国)
上場Nasdaq Global Select Market(META)
AIのオープン化の記載10-Kは「Llamaなどを公開してきた歴史がある」と書く一方、「これまで開発したすべてを公開してきたわけではなく、今後もオープンなモデルと閉じたモデルを組み合わせて学習する」と記載
材料AIの記載10-K(2025年12月期)に、材料・化学・触媒・FAIR Chemistry・UMAの記載を確認できなかった
ここで注意

上の数字は会社全体のものです。研究開発費の約574億ドル(2025年)のうち、材料AIがいくらかは開示されていません。 10-Kは、AIの計算基盤・人材への大規模な投資を書いていますが、材料や化学の研究には触れていません。 会社の規模と、材料AIにかけている規模は別物です。

5. マテリアルインフォマティクスにかけているリソース

金額や人数は非公表ですが、公式資料から確認できたこと・できなかったことを4つの観点で整理します。

観点確認できた内容区分
人UMA論文の著者は18人、OMat24論文は9人(いずれもMeta FAIRの公開と論文が記載)。UMA Nitroなどの改良に貢献した人々の名前が、公式ドキュメントに載っている。FAIR Chemistryの総人数は非公表事実/非公表
金材料AI向けの研究開発費・設備投資の額は開示なし。計算資源については、OMol25の作成に「60億コア時間」の計算が必要だったと公式ブログが記載(会社の主張)確認できなかった(計算量のみ主張あり)
外部への出資・買収・合弁・売却材料AIに関する出資・買収・合弁・売却は確認できなかった確認できなかった
大学・研究機関・公的資金との連携(1) Carnegie Mellon大学:Open Catalyst Projectを2020年10月に共同で開始。(2) 公式ブログは、Berkeley Lab、Princeton大、Genentech、Stanford大、Cambridge大、CMU、NYU、Los Alamos国立研究所、UC Berkeleyとの共同研究の実績を挙げる。(3) Lawrence Livermore国立研究所:高分子など新しい分子クラスへの拡張を協力予定。(4) EPFL(スイス)のCOSMO研究室のデータ(MAD)を、UMAの派生モデルの学習に使用。公的な研究資金の受領は確認できなかった事実/確認できなかった

主要なデータ・モデル・ソフトの状況

名称種別主要な仕様・条件公開の形とライセンス段階・日付
OC20触媒表面の吸着のデータ1,281,040件のDFT緩和(約2.65億件の1点計算)。窒素・炭素・酸素系の吸着種(論文)オープン(ライセンスは本稿では確認していない)公開(2020年10月開始、論文は2021年)
OC22酸化物の電気触媒のデータ酸化物電気触媒に特化(公式サイト)オープン(ライセンスは本稿では確認していない)公開(2022年6月)
OpenDAC 2023空気中のCO2回収用の金属有機構造体(MOF)のデータCO2・H2Oの吸着が中心(公式ドキュメントの注記)オープン(ライセンスは本稿では確認していない)公開(2023年10月)
OMat24無機バルク材料のDFTデータ1.1億超のDFT計算。非平衡(原子を揺らした)構造と緩和構造。PBE/PBE+U、VASP。学習分は約1.008億件データはCC BY 4.0。モデルは別のOMat24 Licenseでアクセス申請が必要公開(2024年10月)。検証セットは2024年12月に重複を修正
OMol25分子のDFTデータ1億超のDFT計算、ωB97M-V/def2-TZVPD、83元素、約8,300万の分子系、最大350原子。「60億コア時間」と主張データはCC BY 4.0。モデルはFAIR Chemistry License v1公開(2025年5月)
UMA万能の原子モデル(機械学習原子間ポテンシャル)約5億の3D原子構造で学習。小型(UMA-S:有効約660万・全体約2.9億パラメータ)と中型(UMA-M:有効約5,000万・全体約14億)。タスクで計算の設定を切り替えるFAIR Chemistry License v1。Hugging Faceでアクセス申請が必要公開(2025年5〜6月)。UMA-1.2は2026年3月。Nitro・新派生モデルは2026年10月
fairchem(ライブラリ)データ・モデルを使うソフトASEから使える計算機(calculator)、複数GPUでの実行、LAMMPS連携MITライセンス(モデルの重みとは別)提供(継続更新)
素材技術者の視点:UMAを自分の研究に使うときの確認点

UMAは、使う前に確認したい点がいくつかあります 事実。

(1) 「タスク」で、どのDFTを真似するかが決まる。無機材料用のomatはPBE/PBE+U(分散力補正なし)、触媒用のoc20はRPBEです。公式ドキュメントは、omatでは「磁性状態を選べない」「訓練データが磁性状態を十分にはカバーしていない」と注記しています。

(2) r²SCAN版は磁性なし。2026年10月に出た派生モデル(r²SCAN)は、すべての系を非磁性として扱うと注意書きがあり、磁性体や凝集エネルギーには使わないよう案内されています。

(3) 利用条件。モデルの利用にはHugging Faceでの申請が必要で、ライセンスは禁止用途として軍事・戦争・原子力産業・米国の国際武器取引規則(ITAR)に関わる用途などを挙げています。論文などで成果を発表するときは、使用の明記も条件です。法的助言ではないので、企業は原文を確認してください。

(4) 必要な計算機。最新の高速化(UMA Nitro)は、Ampere・Hopper・Blackwell世代のNVIDIA GPUを前提としています。

6. これまでの取り組み

時期できごと意味
2020年10月14日MetaとCarnegie Mellon大学がOpen Catalyst Projectを開始。再生可能エネルギーの貯蔵に使う触媒をAIで探すMIの取り組みの出発点
2021年OC20データセットの論文をACS Catalysisに発表。1,281,040件のDFT緩和触媒の大規模データの公開
2022年6月21日OC22(酸化物電気触媒)を公開データの対象を広げた
2023年10月31日OpenDAC(空気中のCO2回収用MOF)を公開新しい材料クラス
2024年10月16日OMat24(無機バルク材料、1.1億超のDFT計算)と、これで学習したモデルをarXivで発表無機材料のデータ。外部のMatbench Discoveryで高い成績と主張
2024年12月20日OMat24の検証セットに重複があったため、修正版を公開(データセットカードの注記)データの訂正
2025年5月14日OMol25(分子)とUMAを発表(公式ブログ)分子・材料・触媒を1つのモデルに統合
2025年6月30日UMA論文をarXivで公開(約5億の構造で学習、パラメータ効率の高い構造)手法・評価の公開
2025年10月複数ノード・複数GPUとLAMMPSでの大規模計算のインターフェースを追加大規模シミュレーションへの対応
2026年3月UMA-1.2を公開。「約50%高速、OMolのテストで約40%高精度」と主張。触媒(酸化物・界面)、分子、高分子へデータを拡張会社の主張。条件は第10章
2026年6月UMAのプレイグラウンド(体験用のデモ)を公開使いやすさの向上
2026年10月UMA Nitro(高速な推論)、UMA-S-1.2.1の派生モデル2種(分子用・r²SCAN材料用)、DFT-D3分散力補正を公開最新の更新(GitHubのREADME)

7. 今後の計画

高分子などへの拡張Lawrence Livermore国立研究所と協力して拡張2025年5月の公式ブログの記載。UMA-1.2で高分子のデータが一部追加済み
データ・モデルの更新継続的に更新GitHubの更新履歴から。次の公開時期は未公表
実験との接続公式資料に記載なし自動実験室や実験データの取り込みの計画は確認できなかった
ライセンスの変更公式資料に記載なし将来の変更の有無は不明

公式資料で確認できる計画は、高分子などへの拡張が中心です 未確定/将来。 会社は、今後も更新を続けると読める形で公開物を出していますが、時期・規模・次のモデル名などの約束は書いていません。

確認できなかったこと

次はいずれも公式資料に記載がありませんでした 未確定/将来。

UMAの次の世代の時期/材料AIへの投資額・人員/自前の実験設備や実験データの取り込み/材料企業との商用契約/ライセンスの今後の変更。

8. この会社はマテリアルインフォマティクスで何を目指しているか

ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
目的は材料企業になることではなく、オープンな研究基盤を作ること(研究コミュニティの標準になること)公式ブログは「広く公開して、オープンな生態系を育てる」と書く。材料向けの製品・価格・営業の記載は確認できない推測
データは自由度が高く、モデルには条件をつけて公開する方針データはCC BY 4.0、モデルは申請制と禁止用途つきのライセンス事実(ライセンスの差)/推測(その狙い)
「1つの万能モデル」を目指しつつ、用途別の派生モデルも出す方向UMA-1.2.1に、分子用・r²SCAN材料用の派生モデルが追加された。派生モデルは元より少ないデータで学習したと注記推測
Metaの中で、材料AIはFAIRの研究テーマの一つで、事業の柱ではない10-Kに記載がなく、AIの記載はLlamaや広告・製品中心推測
推測の根拠を1つだけ詳しく

10-Kは、AIのオープン化について「これまで開発したすべてを公開してきたわけではなく、今後もオープンなモデルと閉じたモデルを組み合わせる」と書いています 事実。 材料AIの公開物でも、データ(CC BY 4.0)と、モデルの重み(独自ライセンス・アクセス申請)で扱いが分かれています。 ここから、Metaはデータの広い公開で研究コミュニティの標準になることを狙いつつ、モデルの使い方には一定の管理を残していると本稿は読みます 未確定/将来。

9. マテリアルインフォマティクス分野の提携マッピング

Metaを中心としたマテリアルインフォマティクスの関係 公式資料・論文に記載のある関係のみ。報道ベースの関係は含まない Meta FAIR Chemistry Carnegie Mellon大学 Open Catalyst Projectを共同で開始 Berkeley Lab ほか 大学・研究所との共同研究の実績 Hugging Face データ・モデルの配布先 Lawrence Livermore国立研 高分子などへの拡張を協力予定 共同研究の相手 データ・モデルの配布先 将来の計画(点線)
図2 Metaを中心としたマテリアルインフォマティクス分野の関係。出典:Open Catalyst Projectの公式サイト、Meta AIの公式ブログ、Hugging Faceのページ。図に含めたのは公式資料に記載のある関係だけです。Lawrence Livermore国立研究所との高分子への拡張は2025年5月の「協力している」との記載で、成果の詳細は確認できませんでした 未確定/将来。

10. 提供している技術・製品・サービス

Metaが材料向けに提供しているのは、オープンなデータ(OC20〜OMat24・OMol25)と、モデル(UMA)、それを使うソフト(fairchem)です。 有料のサービスや製品は確認できませんでした。ここでは、データからモデルまでの流れ、数字の条件、外部の評価を順に説明します。

データからUMAまでの流れ(図解)

データを作り、公開し、1つのモデルにまとめる流れ 「正解」はすべてDFT計算。実験値を直接学習したものではない ①DFTで大量に計算 触媒(OC20など) 無機材料(OMat24) 分子(OMol25)など ②データを公開 データはCC BY 4.0 Hugging Faceなど から入手できる ③UMAに統合 約5億の構造を1つ のモデルで学習。 タスクで設定を選ぶ ④使う側が利用 申請してモデルを 入手し、緩和や 分子動力学を実行 実験で確かめる段階は、この流れの外にある(利用者・共同研究先の担当) 外部の評価(UniFFBench)は、実験値との比較で誤差が残ると報告している
図解 MetaのデータからUMAまでの流れ(公式資料に基づく概念図)。学習と評価の基準はDFT計算で、実験値との比較は利用者側の確認が必要です。

論文によれば、UMAは「線形の専門家の混合(MoLE)」という構造で、モデル全体のパラメータ数を大きくしながら、1つの構造を計算するときに使うパラメータ(有効パラメータ)を小さく保ちます。 例えば中型のUMAは全体で14億パラメータですが、1構造あたりの有効パラメータは約5,000万です 事実。

数字の読み方:何を、どの条件で測った数字か

数字(会社・論文の主張)条件・定義性格
OMat24:1.1億超のDFT計算PBE/PBE+U、VASP。原子を揺らした構造や分子動力学の構造など、平衡からずれた構造を多く含む。学習分は約1.008億件計算データ
基底状態の安定性のF1が0.9超、形成エネルギーの精度20 meV/atom外部のベンチマークMatbench Discoveryで、EquiformerV2モデルについて論文が主張。学習データは、このベンチマークの試験構造と構造型が重ならないように作られている(データセットカード)DFTとの比較(計算同士)
OMol25:1億超のDFT計算、83元素、最大350原子ωB97M-V/def2-TZVPDで計算。約8,300万の分子系。公式ブログは「60億コア時間」と記載計算データ
UMA:約5億の構造で学習、1つのモデルで専用モデルと同等以上論文の主張。評価は複数分野の応用でのDFTとの比較。「微調整なしで、専用モデルと同程度か、より良い」と記載DFTとの比較(計算同士)
UMA-1.2:約50%高速、OMolのテストで約40%高精度GitHubのREADMEの記載。何と比べた数字かの詳細は、本稿では原文の確認が必要会社の主張
UMA Nitro:約6 ns/日(1,000原子)NVIDIA H200 1枚、ASEの分子動力学、シリコン1,000原子のセルでの速度。15,000原子まで対応速度の測定(条件つき)
「精度が高い」とは何を基準にしているか

上の精度は、ほとんどがDFTの答えとの一致度です。DFTには、使う汎関数(PBE、r²SCANなど)による固有の誤差があり、実験値とは一致しないことがあります。 UMAでは、タスクごとに「どのDFTを真似るか」が決まっているので、同じ構造でも、タスクを変えると答えが変わります 事実。 実験値との比較は、別の評価が必要です。

外部の評価と、公式の注意書き(中立に併記)

資料対象内容の要点(各資料の記載)
UniFFBench(arXiv、2025年8月・改訂2026年6月)万能の機械学習力場を、実験値のある約1,500の鉱物の構造で評価(0〜5000 K、0〜1000 GPaを含む)6つのモデル(CHGNet、M3GNet、MACE、MatterSim、SevenNet、Orb)の評価で、計算ベンチマークで良い成績でも実験の複雑さに直面すると失敗する「現実との差」があると報告。追加評価で、UMAとMACE-OMatは、計算が安定して完了する一方、密度の予測誤差(MAPE)が5.34%と6.89%(記載順)で、実用の目安を超えるとしている。査読の有無は確認できなかった
UMAの公式ドキュメントUMAの使用上の制限各タスクの限界を明記。例:omatは磁性状態を選べない、oc20は酸化物や溶媒を含まない、odacはCO2・H2Oの吸着が中心、omolは無機材料には向かない、など
OMat24のデータセットカードデータの誤り検証セットに重複した構造があり、2024年12月20日に修正版を公開したと記載
Metaの対応外部の評価本稿の確認範囲では、UniFFBenchに対する公式な反論は確認できなかった

これらは評価の分かれる問題であり、本稿はどちらが正しいかを決めません。確認できる事実は次のとおりです。 (1) 外部の評価は、実験値との比較で、UMAを含むモデルに大きな誤差が残ると報告している(ただし条件は極端な温度・圧力を含む)。 (2) 公式ドキュメントも、タスクごとの限界を自ら書いている。 (3) UMAはバージョンが短い間隔で更新されており、評価した版と最新版は異なる場合がある。

素材技術者の視点:Metaのデータとモデルの上手な使い方

この取り組みで、素材技術者に直接関わるのは次の3点です 事実。

(1) 「速い下見」に使う。UMAはDFTより桁違いに速いので、候補の絞り込み、構造の緩和、分子動力学の下見に向きます。ただし、実験で使う前に、重要な候補だけをDFTや実験で確かめる前提が現実的です。

(2) 自社の材料系が範囲に入るか。各タスクの制限(磁性、酸化物、溶媒、表面など)を読み、自社の系が訓練データの範囲かを確認します。範囲外の予測は、数字が出ても信頼できないことがあります。

(3) 版を固定して記録する。モデルは頻繁に更新されます(UMA-1.1から1.2、1.2.1へ)。結果を報告するときは、モデル名・版・タスクを書くのが再現性の基本です。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
実験との差モデルの学習・評価の基準はDFT。外部の評価では、実験値との比較で誤差が大きいとの報告がある。Metaの公式な反論は確認できなかった事実
モデルの利用条件の制約モデルはアクセス申請が必要で、軍事・原子力産業などの禁止用途がある。企業や分野によっては使えない可能性がある事実
オープン化の継続が会社の方針次第10-Kは、すべてを公開するわけではなく、今後もオープンと閉じたモデルを組み合わせると書く。材料向けの公開が続く約束は確認できない事実/推測
版の更新で結果が変わるUMAは1年余りで複数回更新され、ライブラリの更新で以前の設定(turbo)が使えなくなるなど、互換性の変更もある(更新履歴)。研究の再現性に注意が必要事実
データの訂正OMat24の検証セットに重複があり、修正版が出た。古い版で評価した結果は比較に注意が必要事実
材料AIの継続投資が外から見えない10-Kに材料AIの記載がなく、投資額・人員は非公表推測
計算の前提による限界基準はPBEやr²SCANなどのDFT。温度・欠陥・界面などの現実の複雑さは、タスクごとの訓練データの範囲に限られる事実

12. 用語集

マテリアルインフォマティクス(MI)
材料のデータと計算・AIで、新しい材料を効率よく探す取り組み。
FAIR Chemistry
Metaの研究組織FAIRの中の、化学・材料のAIを作るチーム。
Open Catalyst Project
MetaとCarnegie Mellon大学が2020年に始めた、触媒をAIで探す共同研究。
OMat24/OMol25
それぞれ無機材料・分子のDFT計算の大規模データ。Metaが公開。
UMA
Universal Model for Atoms。分子・材料・触媒を1つで扱うことを狙う原子のAIモデル。
機械学習原子間ポテンシャル
原子の間に働く力をAIで速く計算する方法。分子動力学に使う。
DFT(密度汎関数理論)
電子の振る舞いから原子の並びのエネルギーを計算する方法。正確だが時間がかかる。
汎関数(PBE、r²SCANなど)
DFTで使う近似式の種類。どれを使うかで結果が少し変わる。
タスク
UMAで、どのDFTの設定を真似るかを選ぶ指定(omat、omol、oc20など)。
Matbench Discovery
外部の団体が運営する、材料の安定性予測を比べるベンチマーク。
CC BY 4.0
出典を示せば商用を含めて使えるライセンス(データに適用)。
10-K
米国上場企業がSECに提出する年次報告書。
原子配置や計算データを使って予測の道具を作る役割です。計算の課題での評価と、実際の触媒の性能は区別します。
図3 概念画像(ImageGen生成)。原子配置や計算データを使って予測の道具を作る役割です。計算の課題での評価と、実際の触媒の性能は区別します。実在の製品・施設・測定結果ではありません。拡大模型、線・矢印・色は説明用です。

13. 出典

  1. Meta Platforms, Inc. Form 10-K for the fiscal year ended December 31, 2025(米国SEC提出、2026年1月29日)。会社全体の売上・研究開発費・設備投資・従業員数、AIのオープン化の方針の記載。材料・化学・触媒の記載がないことの確認にも使用。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1326801/000162828026003942/meta-20251231.htm
  2. Meta AI Sharing new breakthroughs and artifacts supporting molecular property prediction, language processing, and neuroscience(公式ブログ、2025年5月14日)。OMol25とUMAの公開、共同研究先、高分子への拡張の計画。 https://ai.meta.com/blog/meta-fair-science-new-open-source-releases/
  3. Open Catalyst Project Open Catalyst Projectの公式サイト。MetaとCarnegie Mellon大学の共同研究、2020年10月の開始、OC22・OpenDACの公開時期。 https://opencatalystproject.org/
  4. arXiv/ACS Catalysis Chanussot, L. et al. “The Open Catalyst 2020 (OC20) Dataset and Community Challenges”(arXiv:2010.09990、ACS Catalysis 11, 6059–6072、2021年、DOI 10.1021/acscatal.0c04525)。 https://arxiv.org/abs/2010.09990
  5. arXiv Barroso-Luque, L. et al. “Open Materials 2024 (OMat24) Inorganic Materials Dataset and Models”(arXiv:2410.12771、2024年10月16日。2026年5月20日に改訂)。 https://arxiv.org/abs/2410.12771
  6. Hugging Face facebook/OMAT24 のデータセットカード。内容・分割・ライセンス(CC BY 4.0)、検証セットの修正(2024年12月20日)の注記。 https://huggingface.co/datasets/facebook/OMAT24
  7. arXiv Levine, D. S. et al. “The Open Molecules 2025 (OMol25) Dataset, Evaluations, and Models”(arXiv:2505.08762、2025年5月13日。2026年3月4日に改訂)。 https://arxiv.org/abs/2505.08762
  8. Hugging Face facebook/OMol25 のページ。データはCC BY 4.0、モデルはFAIR Chemistry License v1、利用ポリシーの禁止用途。 https://huggingface.co/facebook/OMol25
  9. arXiv Wood, B. M. et al. “UMA: A Family of Universal Models for Atoms”(arXiv:2506.23971、2025年6月30日。2026年3月4日に改訂)。 https://arxiv.org/abs/2506.23971
  10. Hugging Face facebook/UMA のモデルページ。アクセス申請(制限付き公開)、FAIR Chemistry License v1(2025年5月14日更新)と利用ポリシー。 https://huggingface.co/facebook/UMA
  11. Meta FAIR Chemistry(GitHub) facebookresearch/fairchem のREADME。ライブラリのライセンス(MIT)、最新情報(2025年6月〜2026年10月)、モデルの一覧、タスクの説明。 https://github.com/facebookresearch/fairchem
  12. FAIR Chemistry Documentation UMA Models(公式ドキュメント)。UMAのタスクと各タスクの計算レベル・使用上の注意、UMA-S-1.2.1の派生モデルの制限。 https://facebookresearch.github.io/fairchem/uma
  13. arXiv Mannan, S. et al. “UniFFBench: Evaluating Universal Machine Learning Force Fields Against Experimental Measurements”(arXiv:2508.05762、2025年8月7日、2026年6月に改訂。査読の有無は確認できなかった)。外部による評価。 https://arxiv.org/abs/2508.05762
  14. Meta Meta公式サイト(ロゴの取得元:公式サイトのヘッダー画像)。 https://about.meta.com/

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
MetaのFY2023〜2025の売上高・研究開発費・設備投資、従業員78,865人、本社、上場事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1326801/000162828026003942/meta-20251231.htm
10-Kに材料・化学・触媒・FAIR Chemistry・UMAの記載がないこと、AIのオープン化の方針(すべてを公開してきたわけではない)事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1326801/000162828026003942/meta-20251231.htm
材料AI事業の売上・人員・予算が開示されていないこと未確定/将来10-Kに記載なし 出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1326801/000162828026003942/meta-20251231.htm
OMol25とUMAの発表(2025年5月14日)、共同研究先、60億コア時間、LLNLとの拡張協力、オープンな生態系を育てる旨事実出典2 https://ai.meta.com/blog/meta-fair-science-new-open-source-releases/
Open Catalyst ProjectはMetaとCarnegie Mellon大学の共同研究(2020年10月14日開始)、OC22(2022年6月)、OpenDAC(2023年10月)事実出典3 https://opencatalystproject.org/
OC20:1,281,040件のDFT緩和、約2.65億件の1点計算事実出典4 https://arxiv.org/abs/2010.09990
OMat24:1.1億超のDFT計算、EquiformerV2、F1が0.9超・20 meV/atom、Matbench Discoveryでの成績の主張事実出典5 https://arxiv.org/abs/2410.12771
OMat24データセット:学習分約1.008億件、CC BY 4.0、ベンチマークの試験構造との非重複、検証セットの重複修正(2024年12月20日)事実出典6 https://huggingface.co/datasets/facebook/OMAT24
OMol25:1億超のDFT計算、ωB97M-V/def2-TZVPD、83元素、約8,300万の分子系、最大350原子事実出典7 https://arxiv.org/abs/2505.08762
OMol25データのCC BY 4.0、モデルのFAIR Chemistry License v1、禁止用途(軍事・原子力産業・ITARなど)、アクセス申請事実出典8 https://huggingface.co/facebook/OMol25
UMA論文:約5億の構造、微調整なしで専用モデルと同等以上の主張、中型1.4B・有効約50Mパラメータ、MoLE構造事実出典9 https://arxiv.org/abs/2506.23971
UMAのHugging Faceページ:アクセス申請、FAIR Chemistry License v1(2025年5月14日更新)、使用の明記と貿易管理法・利用ポリシーの遵守事実出典10 https://huggingface.co/facebook/UMA
fairchemのMITライセンス、UMA-1.2(2026年3月)、プレイグラウンド(2026年6月)、UMA Nitro・派生モデル・D3補正(2026年10月)、モデル一覧とパラメータ数、速度の測定条件、複数GPU・LAMMPS(2025年10月)事実出典11 https://github.com/facebookresearch/fairchem
UMAのタスクごとの計算レベルと使用上の制限、r²SCAN派生モデルは非磁性、EPFLのMADデータでの学習、派生モデルは少ないデータで学習事実出典12 https://facebookresearch.github.io/fairchem/uma
UniFFBench:約1,500の鉱物、6モデルの評価で「現実との差」、UMAとMACE-OMatの密度誤差5.34%・6.89%事実出典13 https://arxiv.org/abs/2508.05762
ロゴ画像(公式サイトのヘッダー画像、暗い背景用)事実出典14 https://about.meta.com/
次世代UMAの時期、材料AIへの投資額・人員、自前の実験設備、商用契約、ライセンスの今後の変更未確定/将来公式資料に記載なし。本稿では推定しない 出典11 https://github.com/facebookresearch/fairchem
材料AIへの出資・買収・合弁・売却、公的な研究資金の受領未確定/将来確認できなかった。存在しないとも断定しない 出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1326801/000162828026003942/meta-20251231.htm
基盤モデル・計算基盤という類型の区分と、図1・図2の整理本稿の計算本稿による整理。企業名は本シリーズで扱う企業から例示
目的はオープンな研究基盤を作ることという読み推測公式ブログの記述と、製品・価格の記載がないことからの本稿の解釈
データは自由度が高くモデルには条件をつけて公開する方針という読み推測ライセンスの違いからの本稿の解釈
万能モデルを目指しつつ用途別の派生モデルも出す方向という読み推測UMA-1.2.1の派生モデルの追加からの本稿の解釈
材料AIはFAIRの研究テーマの一つで事業の柱ではないという読み推測10-Kに記載がないことからの本稿の解釈

最終更新:2026年10月22日/Troy Technical
本稿の数値は、MetaがSEC(米国証券取引委員会)に提出した10-K、Meta AIの公式ブログ、FAIR ChemistryのGitHubとドキュメント、arXiv等の論文、Hugging Faceのライセンス表示に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。精度などの数字は会社・研究グループの主張として書いており、DFTとの比較と実験との比較を区別しています。ライセンスの説明は公式ページの記載の要約で、法的助言ではありません。株価・評価額・投資判断には触れていません。