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ライラ・サイエンシズ 企業解説

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COMPANY PROFILE / マテリアルインフォマティクス

ライラ・サイエンシズ
― 「科学的超知能」を掲げ、AIと自動化した実験施設で材料・化学・生命科学の発見を狙う。実績と宣伝文句を分けて読む

Lila Sciences(ライラ・サイエンシズ、公式表記は「LILA」)は、AIが仮説を立て、自動化した実験施設が実験を行い、結果から学ぶという流れの全体を担うことを掲げる米国の非上場企業です。 公式サイトは自社の目標を「Scientific Superintelligence(科学的超知能)」と呼んでいますが、これは会社の理念を表す言葉であり、達成された状態を示すものではありません。 材料の分野で一次資料から確認できる具体的な成果は、水素製造向けの触媒の探索(2026年9月)です。 本稿は、会社の公式発表とプレプリント(査読前の論文)だけを使い、理念・主張・確認できた事実を分けて整理します。

構成:Lila Sciences公式サイトの発表(2025年9月〜2026年9月)、arXivのプレプリント(2026年9月24日)を一次情報として使用/確認日 2026年10月22日/最終更新 2026年10月

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるLila Sciencesと、マテリアルインフォマティクスでの立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. マテリアルインフォマティクスの世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模
  5. マテリアルインフォマティクスにかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社はマテリアルインフォマティクスで何を目指しているか
  9. マテリアルインフォマティクス分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるライラ・サイエンシズと、マテリアルインフォマティクスでの立ち位置

正式名称Lila Sciences, Inc.公式サイトの著作権表記。表記は「LILA」とも
拠点サンフランシスコ
ケンブリッジ(米国)
ロンドン
公式サイトの連絡先ページ
上場非上場売上・評価額は非公表
この分野での区分自動実験・ロボット(主)
基盤モデル・計算基盤(従)
本稿の区分。本稿の計算
由来2023年創業
2025年3月に公開
Flagship Pioneeringの中で創業と会社が説明
調達総額5.5億米ドルシード2億+シリーズA3.5億(会社の発表、2025年10月)
材料での主な成果水素製造用の触媒探索
2,942件を3か月で評価
会社の主張。プレプリントあり(査読前)
提供形態Catalyst/CreationAI・実験施設の利用と、発見の受託
まず押さえるべき1点

マテリアルインフォマティクス(MI)は、データを集め、AIで材料を予測・設計し、実験で確かめることで新しい材料を探す方法です。 Lila Sciencesは、その全体を1つの会社が持つことを狙い、さらに材料だけでなく、薬や化学品も含む科学全般を対象にしています 事実。 公式サイトの言葉は大きく、「科学的超知能」「世界で最も先進的な科学のOS」といった表現が並びます。 本稿では、こうした表現は会社の主張・理念として扱い、材料の分野で測定値・件数・条件が書かれた事実(第10章)とは分けて読みます。 会社自身も、水素触媒の成果について「完成した技術ではなく、商用製品でもない」と明記しています。

2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:法人名は Lila Sciences, Inc.、公式サイトの見出しでは「LILA」と大文字で書かれます。 公式サイトのロゴは「L I L A」の4文字を広い間隔で並べた白い文字の図案で、暗い背景で使われているため(社名全体の「Sciences」は含まれません)、本稿でも暗い背景の枠に置いています。 名前が似た別の会社や研究機関と混同しないよう、本稿では「Lila Sciences」と表記します。

公式サイト:https://www.lila.ai/

3. マテリアルインフォマティクスの世界で、この会社はどこにいるか

まず、MIの会社を4つの類型に分けて、Lila Sciencesの位置を確認します。 会社の主張(科学的超知能)と、実際に確認できる事業(AIとラボの連結)を区別するため、類型はあくまで本稿の整理です。

マテリアルインフォマティクスに関わる企業の4つの類型 同じ「MIの会社」でも、データ→設計→実験のどこを担うかで、強みと課題が違う 基盤モデル・計算基盤 MIソフト・材料AI 自動実験・ロボット 応用する側 データと計算でAIを作る 解析ソフトと材料AI ロボットで実験を回す 電池・化学・半導体など Google DeepMind/Microsoft Meta/NVIDIA Citrine/Schrödinger Preferred Networks/CuspAI Chemspeed/Radical AI Periodic Labs/Lila Sciences SES AI/Mitsui Chemicals Applied Materials 大規模な計算と人材 使いやすさとデータ 実験を回す速度 実際の材料と市場 実験での検証は他者頼み 顧客のデータ次第 設備費と再現性 内製の人材とデータ不足 Lila Sciencesは「自動実験・ロボット」が主、「基盤モデル・計算基盤」が従の会社 科学推論AIと自動実験施設を一体で運営すると説明。材料の成果は触媒探索が中心で、一部はプレプリント
図1 マテリアルインフォマティクスに関わる企業の4類型と、Lila Sciencesの位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。Lila Sciencesは、AIと自動化した実験施設(AI Science Factory)を一体で運営し、材料・化学・生命科学に使うと説明しています(左から3番目が主、左端が従)。本稿は材料に関わる部分だけを扱います。

次に、Lila Sciencesが水素用触媒の探索で実際に回した自動実験の輪を、会社の説明をもとに示します。 「PVD(物理気相成長)」は、材料を蒸発させて基板に薄い膜として付ける作り方です。

水素用触媒の探索で回した「実験の輪」 会社の記事とプレプリントをもとに本稿が整理した図。数字は会社の発表 1. 合成 PVDで96種を 並行して作る 組成を確認する 2. 試験前の評価 できた膜の 組成・構造を 測る 3. 酸中の試験 OERの活性と 安定性を 加速条件で測る 4. 試験後の評価 何が劣化し 何が残ったかを 調べる 結果をAIに戻し、次に作る組成の順位表を出す 会社の説明:1日最大100試料、実績は週約240試料。標準的なラボの17倍の速さ(会社の比較) この最初の試みでは、機器の間の試料の運搬は人が行った(完全な自動ではない)
図解 Lila Sciencesが水素用触媒の探索で回した自動実験の輪。会社の記事とプレプリントをもとに本稿が整理したもので、第三者の評価ではありません。

4. 会社の規模

非上場のため、法定の財務書類はありません。確認できる範囲だけを示します 事実。

項目内容出所と区分
創業・公開2023年に創業。Flagship Pioneeringの研究所の中で約3年間準備し、2025年3月に公開したと会社が説明会社の説明(About、シリーズA記事)
拠点サンフランシスコ、ケンブリッジ(マサチューセッツ州)、ロンドン公式サイトの連絡先ページ。本社の所在地は明記なし
従業員非公表。経営陣の氏名と役職はチームページに掲載公式資料に総数の記載なし
売上非公表公式資料に記載なし。本稿では推計しない
資金調達シード2億米ドル、シリーズA 3.5億米ドル、合計5.5億米ドル(2025年10月)会社の公式発表。評価額は公式資料に記載がなく、本稿では扱わない
上場非上場公式サイトに株式の記載なし
ここで注意

シリーズA完了の記事は、記事の見出し付近の日付が2025年10月10日ですが、同じ公式サイトの別の記事は「2025年10月15日に発表」と書いています。 どちらが正しいかは公式資料では確認できませんでした 未確定/将来。 また、公式サイトのニュース一覧には評価額を報じる外部記事へのリンクがありますが、本稿は報道だけの数字は使いません。 シード調達の記事も、サイト上の日付は2025年10月3日ですが、本文は「2025年3月に公開」と書いており、日付が一致しません。

5. マテリアルインフォマティクスにかけているリソース

Lila Sciencesは材料・化学・生命科学を横断する会社で、材料だけにかけている資源は公表されていません。 以下は会社全体の確認できた範囲です。人・金・外部への出資や買収・大学や公的機関との連携の4点で整理します。

項目確認できた内容状況
人経営陣:CEO Geoffrey von Maltzahn、CTO Andrew Beam、物理科学担当CSO Rafael Gómez-Bombarelli(会社の記事ではMIT准教授とも紹介)など。John Gregoireは2026年9月の記事で「最高自律科学責任者」と紹介。総従業員数・材料部門の人数は非公表事実(人数は非公表)
金(調達)シード2億米ドル(Flagship Pioneeringほか)、シリーズA 3.5億米ドル(Braidwell・Collective Globalが共同主導、NVentures、Analog Devices ほか)。合計5.5億米ドル事実(会社の発表)
金(設備・計算)AI Science Factoryを増やすために資金を使うと会社が記載。設備投資額・計算資源の規模は非公表確認できず
外部への出資・買収・合弁・売却公式資料に記載なし(Creationの提供形態に「新会社の立ち上げ」を含むと記載があるが、実際の事例は確認できなかった)確認できず
大学・研究機関・公的資金との連携米エネルギー省(DOE)のGenesis Missionで3件がPhase Iに採択(2026年7月)。相手は、Caltech、ローレンス・バークレー国立研究所(LBNL)、ノースウェスタン大学、アルゴンヌ国立研究所、National Laboratory of the Rockies(NLR)事実(Phase IIは未確定/将来)

主要なモデル・製品・設備の状況

名称、種別、仕様、公開の形、段階、日付を、公式資料で確認できた範囲で並べます。条件の違う数字を並べて優劣をつけることはしません。

名称種別主要な仕様(会社の主張を含む)公開の形段階・日付
Lila Iris科学推論モデル会社の説明では、ベイズ的なモデルと言語モデルを組み合わせ、不確かさと得られる情報のバランスを取る(水素触媒の記事)。性能指標・学習データは確認できなかった。「他のモデルを一貫して上回る」との記載はあるが、データ・条件の記載なし非公開。Catalystで利用可能と説明提供中(会社の説明)。2026年10月
AI Science Factory(AISF)AIと実験機器を統合した自動実験施設水素触媒の探索では、合成→試験前評価→試験→試験後評価の閉ループ。96試料をPVDで並行合成。最大100試料/日、実績は約240試料/週。自動化率は90%超(プレプリント)自社運用。利用はCatalystなどで提供と説明稼働中。完全な自動化は開発中
Catalyst提供形態Lila IrisとAISFへの直接のアクセスと専門家の支援。「ラボを使った分だけ使う(Lab-as-a-Service)」と説明。価格は記載なし商用(契約ベース)提供中(会社の説明)
Creation提供形態顧客の目標に合わせ、発見の全工程をLilaが実行し、検証済みの構造・手順・データを納める。新会社の立ち上げも含むと記載商用(契約ベース)提供中(会社の説明)
OER触媒探索の成果実験結果(材料)2,942触媒を53系・26元素で評価。パラジウム系6ファミリー。先頭候補は酸中で1,000時間超(詳細は第10章)記事とプレプリント発表。2026年9月24〜25日
素材技術者の視点:「1,000時間」は、何を測った時間か

水素を水から作る電解槽では、陽極でOER(酸素発生反応)が起きます。 この反応は強い酸性・高い電位という過酷な環境で進むため、ほとんどの金属が溶けてしまいます。 そのため現在の商用機では、活性と耐久性を両立できるイリジウム酸化物が使われ、イリジウムは産出量が非常に少ない希少な元素です 事実。 探索で難しいのは「活性が高い材料ほど壊れやすい」というトレードオフで、両方を同時に測らないと良し悪しが決まりません。 Lila Sciencesのプレプリントは、1 Mの硫酸中で10 mA/cm²の電流を流す条件で、過電圧(理想より余分にかかる電圧)が0.5 Vを下回り続けた時間を耐久性の指標にしています。 ただし、この条件は小さな薄膜の試験で、実際の電解槽はもっと大きな電流密度で運転されるのが一般的です(本稿の解説)。 会社も、実機に近い形での評価を「今後行う」と書いています。

6. これまでの取り組み

時期できごと意味
2023年創業(About)Flagship Pioneeringの中で準備したと会社が説明
2024年後半〜AISFを作り、電気触媒の実験を自動で行う仕組みの開発を開始水素触媒の記事による
2025年3月公開(ステルスからの登場)。シード2億米ドルを発表サイト上の記事の日付は2025年10月3日で食い違う
2025年9月15日シリーズA 2.35億米ドルを発表Braidwellと Collective Globalが共同主導
2025年10月シリーズAが合計3.5億米ドルで完了、調達総額5.5億米ドル日付は公式サイト内で10日と15日の食い違い
2026年7月22日DOEのGenesis Missionで、3件がPhase Iに採択触媒、ポリエチレンの製造、半導体の電荷輸送。Phase IIは今後の申請
2026年9月24日OER触媒のプレプリントをarXivに投稿査読前。測定値の内訳を確認できる
2026年9月25日水素用触媒の探索結果を会社の記事として公開3か月で2,942触媒を評価、6ファミリーを特定

7. 今後の計画

OER触媒の次の段階実機に近い形での評価長期耐久試験を継続中。時期は記載なし
自動化の拡大試料搬送のロボット化実験室にロボットを組み込み中と会社が記載
他の反応への展開グリーンアンモニア
プラスチック原料
方式は電気触媒・電気合成に使えると会社が説明
Genesis MissionPhase Iの後にPhase II応募の機会であり、採択は未定
確認できなかったこと

次はいずれも公式資料に記載がありません 未確定/将来。

AISFの台数と設置場所ごとの処理能力/材料部門の人員/売上と顧客数/評価額/Lila Irisの性能評価の詳細/OER触媒の実機サイズでの結果と製品化の時期/Phase II採択の見通し/触媒の知的財産の扱い。 会社は「AISFをさらに増やす」と述べていますが、台数・時期は書かれていません。

8. この会社はマテリアルインフォマティクスで何を目指しているか

ここは会社が直接は述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
実験施設を、AIが学ぶための「採点役(検証器)」として位置づけているTechページは、AISFが実験を大規模に回すことで「科学の最大の検証器」になり、AIの強化学習に必要な報酬を与えると書く事実
個別の分野のツールではなく、1つの汎用的な科学AIを目指しているAboutページに「分野ごとの狭いツールではなく、単一の汎用プラットフォームを作る」とある事実
材料分野の最初の実証の題材として、触媒(OER)を選んだのは、実績を作って顧客と国の案件を取る狙いと読める水素触媒の記事は、OERを「物理科学の最初のプロジェクト」と書く。Genesis Missionの3件も触媒・電気化学が中心。提供形態は顧客向けのCatalyst/Creation推測
製品化と量産は、顧客・パートナー側が担う前提に見えるCreationは、検証済みの構造・手順・データを「顧客の開発の流れに組み込める資産」として納めると書く。自社での製造の記載はない推測
材料の成果は、生命科学の成果とは別に判断する必要がある公式サイトの数値(例:「900倍」「100%」)はDNA設計の指標で、材料の指標と混同しやすい。条件の記載は見当たらない推測
推測の根拠を1つだけ詳しく

「触媒を最初の題材に選んだのは、実績づくりの狙いと読める」という推測の根拠は、会社自身の説明の組み立てにあります。 水素触媒の記事は、OERを「非常に野心的」な選択としつつ、組成・合成条件・濃度の組み合わせが膨大で、勝ち負けの基準が明確という、AIの探索に向いた問題だと説明しています 事実。 さらに、Genesis Missionで採択された3件のうち2件が電気触媒・電気化学の課題です。 これらから、会社は「条件を決めれば測れる」触媒の分野で成功例を作り、他の反応や顧客に広げる順序を取っていると本稿は読みます 未確定/将来。

9. マテリアルインフォマティクス分野の提携マッピング

Lila Sciencesを中心とした関係 公式サイトと公式発表に記載のある関係のみ。報道だけの関係は含まない Lila Sciences AIと実験施設 Caltech/LBNL 電気化学の精製(Phase I) Northwestern/Argonne ポリエチレンの製造(Phase I) NLR(国立研究所) 半導体の電荷輸送(Phase I) Flagship Pioneering 創業元・シードの出資 Braidwell/Collective Global シリーズAの共同主導 NVentures ほか NVIDIAの投資部門などが出資 共同の研究課題(DOE Genesis Mission Phase I) 出資者(点線)
図2 Lila Sciencesを中心とした関係。出典:Lila Sciencesの公式発表(シード、シリーズA、Genesis Mission)。図に含めたのは公式資料に記載がある関係だけで、出資者は代表的な名前のみです(全員の一覧は出典の記事を参照)。Phase Iは初期の採択で、Phase IIの採択は未定です。

10. 提供している技術・製品・サービス

価格・契約形態は公表されていません 未確定/将来。 公式サイトは、Catalyst(Lila IrisとAISFの利用)とCreation(発見の受託)の2つを提供形態として示します。 材料に関する具体的な成果として確認できるのは、次の水素用触媒の探索です。 本シリーズの技術解説「自律実験室」「クローズドループ最適化」「触媒への応用」「ベイズ最適化と能動学習」「白金族金属と触媒」も合わせて参照してください。

水素用触媒の探索:会社の主張と、プレプリントで確認できる数字

項目記載内容区分
目的酸性環境での酸素発生反応(OER)に使う、イリジウムとルテニウムを含まない触媒を探す。会社は「50年間、科学者が解けなかった問題」と表現会社の主張
規模3か月で2,942触媒を、53の材料系・26元素で評価。最初のキャンペーンは4か月(基盤の整備中)、2回目は4週間会社の記事・プレプリント
速度最大100試料/日、実績は約240試料/週。標準的なラボの17倍の速さ、試料あたりの人の作業時間は90%以上削減会社の主張(比較の条件は記事に記載なし)
結果(記事)パラジウム系の6つの材料ファミリーが、活性と安定性のバランスが最良の線(パレートフロント)の上か近くに位置。先頭候補は酸中で1,000時間超。会社は「ルテニウムに匹敵」と表現会社の主張
結果(プレプリント)1 M硫酸・10 mA/cm²の条件で、PdOxは約200時間、NiTaPdOxは約470時間で過電圧が0.5 Vを超えた。InMnPdOxは1,000時間にわたり0.5 V未満を維持。論文はこれらを、条件の限られた長期試験の結果として報告プレプリント(査読前)
探索手法逐次学習の手法が、後ろ向きの検証で、方針固定のベイズ最適化や言語モデルの文脈内選択より速く進んだとプレプリントが報告プレプリントの主張
制約自動化率は90%超(人が監督)。最初の試みでは機器間の試料運搬は人が行った。安全確認は人が行った。「完成した技術でも商用製品でもない」と会社が明記事実(会社の記載)
水素用触媒の成果を「3つに分けて」読む 会社の記事とプレプリントをもとに本稿が整理した図 会社の主張 「ルテニウムに匹敵」 「標準ラボの17倍の速さ」 比較の条件の記載なし プレプリントの数字 2,942触媒・53系・26元素 先頭候補は1,000時間超 査読前。薄膜・限られた条件 確認できない点 実機サイズでの性能 独立した再現・追試 製品化の時期 結論:測定値は公開されているが、実用性の判断には実機評価と第三者の検証が要る
図解 水素用触媒の成果の読み方。会社の記事とプレプリントをもとに本稿が整理したものです。
この結果の読み方

この成果は、会社の記事と、査読前のプレプリントに基づきます。 プレプリントには測定条件と時間が書かれており、会社の記事より検証しやすい形です。 ただし、測定は小さな薄膜の試験で、実際の電解槽の条件ではありません。 会社も「商用製品ではない」と明記しています。 本稿は、これを「AIが提案した、これまで有望とされなかった組成が、限られた条件で長く持った」という報告として読みます。 独立した追試や、実機サイズでの結果が出るまでは、実用性の評価はできません。

素材技術者の視点:薄膜の探索結果を、実際の材料へ移すときの問い

この探索の方法から、材料の技術者が参考にできる点は次の3つです 事実。

(1) 活性と耐久性を同時に測っている。 どちらか一方だけなら、良い材料は簡単に見つかります。 会社は、試験後に何が劣化したかを調べる段階まで輪に含めており、測定の設計として参考になります。

(2) AIが「常識に反する組成」を出し、実験で確かめた。 専門家は、パラジウムは酸性のOERには向かないと考えていました。 会社は、実験で確かめなければ「幻覚(AIの誤り)」として切り捨てていただろうと書いています。 予測と実験を同じ場所でつなぐ価値は、こうした場面に出ます。

(3) 薄膜から粉末や電極への移行は別の課題。 PVDで作る薄膜は組成を細かく振れますが、実際の電解槽では粉末や電極の形で使います。 薄膜で得た結果が、同じ組成の粉末で再現するかは、別に確かめる必要があります(本稿の解説)。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
成果の外部検証が少ない材料の成果は会社の記事と査読前のプレプリントのみ。独立した再現・追試は確認できない事実
薄膜から実機への距離小さな薄膜の試験の結果で、実機サイズでの評価は今後。会社自身が商用製品でないと明記事実
自動化が完全ではない最初の試みでは、機器の間の試料運搬は人が行った。ロボット化は開発中事実
理念の言葉と実績の差「科学的超知能」「最も先進的な科学のOS」などは会社の理念。公式サイトの「他を一貫して上回る」にも、データ・条件の記載が見当たらない事実
事業の幅の広さ材料・化学・生命科学・エネルギーなどを同時に扱い、材料に割く資源は公表されていない推測
資金・規模が外から見えない従業員数、設備の台数、売上、評価額が非公表で、進捗を外部から確かめる手段が少ない未確定/将来
公的案件は初期段階Genesis MissionはPhase I。Phase IIは応募の機会であり、採択は未定事実
公式サイト内の日付の食い違いシード・シリーズAの記事の日付が、公式サイト内で一致しない(第4章)事実

12. 用語集

マテリアルインフォマティクス(MI)
データとAIを使って、新しい材料を効率よく探す方法。データ→予測・設計→実験で確かめる、の流れで進める。
AI Science Factory(AISF)
Lila Sciencesの呼び方で、AIと実験機器を一体で動かす自動実験施設。
科学的超知能(Scientific Superintelligence)
会社が自らの目標に使う言葉。人間を超える科学的な推論をAIが行う状態を指す理念で、達成を示すものではない。
OER(酸素発生反応)
水を電気分解するとき、陽極で酸素ができる反応。酸性の電解槽では、高い電位と強い酸で、触媒が溶けやすい。
過電圧
反応を進めるために、理想より余分にかかる電圧。小さいほど効率が良く、時間とともに増えると劣化を意味する。
PVD(物理気相成長)
材料を蒸発させて基板に薄い膜として付ける方法。組成を少しずつ変えた試料を並行して作りやすい。
パレートフロント
2つの性質(ここでは活性と安定性)の両立で、片方を良くするともう片方が悪くなる限界の線。この線上の材料は優劣がつかない。
プレプリント
査読を受ける前に公開される論文の原稿。内容は後で変わることがある。
Genesis Mission
米エネルギー省が進める、AI・スーパーコンピュータ・国立研究所を結びつけて科学研究を加速する取り組み(会社の説明)。
白金族金属
白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウムなどの希少金属の総称。触媒に広く使われる。
実験装置と次の実験を選ぶ仕組みをつなぐ構想です。図は概念で、実在設備の構成や達成した自律性を示しません。
図3 概念画像(ImageGen生成)。実験装置と次の実験を選ぶ仕組みをつなぐ構想です。図は概念で、実在設備の構成や達成した自律性を示しません。実在の製品・施設・測定結果ではありません。拡大模型、線・矢印・色は説明用です。

13. 出典

  1. Lila Sciences 公式サイト(トップ)。会社の説明、提供形態、ニュース一覧。2026年10月22日確認。 https://www.lila.ai/
  2. Lila Sciences Tech(技術)ページ。科学推論モデル、強化学習、AI Science Factoryの説明。 https://www.lila.ai/tech
  3. Lila Sciences About(会社概要)ページ。創業年、理念、運営方針。 https://www.lila.ai/about
  4. Lila Sciences Team(チーム)ページ。経営陣の氏名と役職。 https://www.lila.ai/team
  5. Lila Sciences Contact(連絡先)ページ。拠点(サンフランシスコ、ケンブリッジ、ロンドン)。 https://www.lila.ai/contact
  6. Lila Sciences Catalyst(提供形態)ページ。Lila IrisとAI Science Factoryへのアクセス。 https://www.lila.ai/lila-catalyst
  7. Lila Sciences Creation(提供形態)ページ。発見キャンペーンの受託。 https://www.lila.ai/lila-creation
  8. Lila Sciences Join Our Mission(会社紹介、シード2億米ドル、経営陣。サイト上の日付は2025年10月3日)。 https://www.lila.ai/news/join-our-mission
  9. Lila Sciences Welcoming New Partners in Our Mission to Build Scientific Superintelligence(2025年9月15日)。シリーズA 2.35億米ドル。 https://www.lila.ai/news/series-a-235-million
  10. Lila Sciences Announcing Lila's $350M Series A(サイト上の日付は2025年10月10日)。シリーズA完了、調達総額5.5億米ドル。 https://www.lila.ai/news/announcing-the-close-of-our-series-a
  11. Lila Sciences Powering American Science: LILA to join DOE's Genesis Mission(2026年7月22日)。3件のPhase I採択。 https://www.lila.ai/news/powering-american-science-lila-to-join-does-genesis-mission
  12. Lila Sciences How an AI-run lab cracked open green hydrogen's catalyst problem(2026年9月25日)。OER触媒探索の説明記事。 https://www.lila.ai/news/how-an-ai-run-lab-cracked-open-green-hydrogens-catalyst-problem
  13. 論文(arXiv) AI-guided high-throughput discovery of iridium- and ruthenium-free palladium-oxide catalysts for durable acidic oxygen evolution(2026年9月24日投稿、arXiv:2609.30133。査読前のプレプリント)。 https://arxiv.org/abs/2609.30133

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
社名 Lila Sciences, Inc.、非上場、拠点(サンフランシスコ・ケンブリッジ・ロンドン)事実出典1・5 https://www.lila.ai/ https://www.lila.ai/contact
2023年創業、Flagship Pioneeringの中で準備、2025年3月に公開事実出典3・10 会社の説明 https://www.lila.ai/about https://www.lila.ai/news/announcing-the-close-of-our-series-a
経営陣の氏名と役職(von Maltzahn、Beam、Gómez-Bombarelli ほか)事実出典4・8 https://www.lila.ai/team https://www.lila.ai/news/join-our-mission
シード2億米ドルと出資者の名前事実出典8 https://www.lila.ai/news/join-our-mission
シリーズA 2.35億米ドル(2025年9月15日、Braidwell・Collective Global共同主導)事実出典9 https://www.lila.ai/news/series-a-235-million
シリーズA完了3.5億米ドル、調達総額5.5億米ドル、追加の出資者事実出典10 https://www.lila.ai/news/announcing-the-close-of-our-series-a
シリーズA完了の日付が、公式サイト内で2025年10月10日と15日に分かれていること事実出典10・9 https://www.lila.ai/news/announcing-the-close-of-our-series-a https://www.lila.ai/news/series-a-235-million
シード記事のサイト上の日付(2025年10月3日)と、本文の「2025年3月に公開」の食い違い事実出典8・10 https://www.lila.ai/news/join-our-mission https://www.lila.ai/news/announcing-the-close-of-our-series-a
Genesis Missionで3件のPhase I採択、相手機関、各プロジェクトの狙い事実出典11 会社の発表。目標は会社の計画 https://www.lila.ai/news/powering-american-science-lila-to-join-does-genesis-mission
Phase IIは応募の機会であり、採択は未定であること未確定/将来出典11 会社の記載 https://www.lila.ai/news/powering-american-science-lila-to-join-does-genesis-mission
AISFが実験を大規模に回して検証器になり、強化学習の報酬を与えるという説明事実出典2 https://www.lila.ai/tech
単一の汎用プラットフォームを作るという理念事実出典3 https://www.lila.ai/about
Lila Iris、AISF、Catalyst、Creationの提供形態と説明事実出典6・7・1 https://www.lila.ai/lila-catalyst https://www.lila.ai/lila-creation https://www.lila.ai/
OER触媒探索:2,942触媒、53系、26元素、最大100試料/日、約240試料/週、17倍、人の時間90%以上削減事実出典12・13 会社の主張 https://www.lila.ai/news/how-an-ai-run-lab-cracked-open-green-hydrogens-catalyst-problem https://arxiv.org/abs/2609.30133
パラジウム系6ファミリー、先頭候補の酸中1,000時間超、「ルテニウムに匹敵」事実出典12 会社の主張 https://www.lila.ai/news/how-an-ai-run-lab-cracked-open-green-hydrogens-catalyst-problem
PdOx約200時間、NiTaPdOx約470時間、InMnPdOx 1,000時間超(1 M H2SO4、10 mA/cm2、過電圧0.5 V)事実出典13 プレプリント(査読前) https://arxiv.org/abs/2609.30133
自動化率90%超、人の監督、試料運搬は人が行ったこと、商用製品でないとの会社の明記事実出典12・13 https://www.lila.ai/news/how-an-ai-run-lab-cracked-open-green-hydrogens-catalyst-problem https://arxiv.org/abs/2609.30133
「科学的超知能」「他のモデルを一貫して上回る」などの表現事実出典1・2 会社の主張・理念。データ・条件の記載なし https://www.lila.ai/ https://www.lila.ai/tech
従業員数、設備の台数、売上、評価額、AISFの処理能力未確定/将来出典1 公式資料に記載なし。本稿では推計しない https://www.lila.ai/
OER触媒の実機サイズでの結果と製品化の時期、独立した再現未確定/将来出典12 記載なし。存在しないとも断定しない https://www.lila.ai/news/how-an-ai-run-lab-cracked-open-green-hydrogens-catalyst-problem
4類型のうち主が自動実験・ロボット、従が基盤モデル・計算基盤という区分本稿の計算本稿による整理。会社の自己申告ではない
実験の輪の図解と、成果を3つに分けて読む図解本稿の計算本稿による整理(図解)
薄膜での結果が実機に移るかどうかは別の確認が要るという解説本稿の計算本稿の解説(一般的な知識に基づく)
触媒を最初の題材に選んだのは実績づくりの狙いという読み推測水素触媒の記事とGenesis Missionの内容からの本稿の解釈
製品化と量産は顧客・パートナー側が担う前提に見えるという読み推測Creationの説明からの本稿の解釈
材料の成果は生命科学の成果とは別に判断すべきという読み推測公式サイトの数値の出し方からの本稿の解釈
事業の幅の広さによる材料への資源配分の不明というリスク推測公式資料に材料部門の資源の記載がないことからの本稿の解釈

最終更新:2026年10月22日/Troy Technical
本稿の内容は、Lila Sciencesの公式サイトと公式発表、arXivのプレプリントに基づきます。調査会社の推計値・報道だけの数値は使用していません。「科学的超知能」などの表現は会社の理念であり、成果の数値(17倍、1,000時間超など)は会社の主張です。プレプリントは査読前であり、第三者による検証が確認できたものではありません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。