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カスプAI 企業解説

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COMPANY PROFILE / マテリアルインフォマティクス

カスプAI
― 材料の「検索エンジン」を掲げる英国の新興企業。実験とデータは提携先の「Foundry」で補う

CuspAIは2024年に英国ケンブリッジで設立された、材料設計のAI企業です。条件(性能の要求)を入れると、生成AIと分子シミュレーションで候補の材料を設計する、という仕組みを掲げています。2026年7月には、データ・ラボ・計算機・専門家を束ねる枠組み「AI Materials Foundry」を発表し、同時に4.5億米ドルのシリーズBの調達を発表しました(会社の発表)。本稿では、何が公式資料で確認でき、何がまだ会社の主張にとどまるかを分けて整理します。

構成:CuspAIの公式サイトと公式ブログ、Kemira Oyjのリリース、英国Companies House、arXiv論文、GitHubを一次情報として使用/確認日 2026年10月22日

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるCuspAIと、MIでの立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. MIの世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模
  5. MIにかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社はMIで何を目指しているか
  9. MI分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるカスプAIと、マテリアルインフォマティクスでの立ち位置

正式名称Cusp AI Limited通称 CuspAI。英国の非上場の私的有限会社
所在地英国ケンブリッジ登記上の所在地(Companies House)
設立2024年3月9日登記簿の記載。「ステルス」を出たのは2024年6月の発表
この分野での区分MIソフト・材料AI本稿の分類。図1を参照
創業者Chad Edwards(CEO)
Max Welling(CTO)
公式サイトの記載
資金調達(会社発表)シード3,000万ドル
シリーズA 1億ドル超
シリーズB 4.5億ドル
2024年6月/2025年9月/2026年7月
中核生成AI+分子シミュレーションプラットフォーム自体は非公開
2026年の発表AI Materials Foundry参加企業45社超(会社の発表)
まず押さえるべき1点

CuspAIの強みとして会社が示すのは、「材料の候補を設計する」ところです 事実。一方、設計した材料を実際に合成して測る作業や、学習・評価に使うデータは、提携先のラボ・データ提供者に頼る形で、これを束ねたものがFoundryです。また公式に公開されている成果の多くは「設計した候補の数」で、たとえばKemiraとのPFAS除去材料の事例も、実験での性能確認はこれからの段階です(第10章)。

2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:会社名はCusp AI Limited、ブランド・サイトの表記はCuspAI(cusp.ai)。同社が発表した枠組みの名前はAI Materials Foundryで、会社そのものの名前ではありません。ロゴは公式サイトに埋め込まれたSVGから取り出し、色を黒に固定したものです。

公式サイト:https://cusp.ai/

3. マテリアルインフォマティクスの世界で、この会社はどこにいるか

マテリアルインフォマティクス(MI)は、データ→AIで予測・設計→計算で絞る→実験で確かめるという流れで進みます。CuspAIは、この流れの前半(設計と計算)を自社のプラットフォームで担い、後半の実験とデータの一部を提携先に任せる形です。

マテリアルインフォマティクスに関わる企業の4つの類型 同じ「MIの会社」でも、データ→設計→実験のどこを担うかで、強みと課題が違う 基盤モデル・計算基盤 MIソフト・材料AI 自動実験・ロボット 応用する側 データと計算でAIを作る 解析ソフトと材料AI ロボットで実験を回す 電池・化学・半導体など Google DeepMind/Microsoft Meta/NVIDIA Citrine/Schrödinger Preferred Networks/CuspAI Chemspeed/Radical AI Periodic Labs/Lila Sciences SES AI/Mitsui Chemicals Applied Materials 大規模な計算と人材 使いやすさとデータ 実験を回す速度 実際の材料と市場 実験での検証は他者頼み 顧客のデータ次第 設備費と再現性 内製の人材とデータ不足 CuspAIは「MIソフト・材料AI」。設計と計算を自社で担い、実験・データは提携先と組む(本稿の分類) 設計から合成・実験までの流れを会社は掲げるが、公開された成果の多くは設計した候補の段階(第10章)
図1 マテリアルインフォマティクスに関わる企業の4類型と、CuspAIの位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。CuspAIが設計・シミュレーション・実験室での検証を一連の流れとして示していることは、公式サイトの記載に基づきます。

会社が公式サイトで示している流れを、計算で行う部分と実験が必要な部分に分けて描くと、次のようになります。

CuspAIが示す材料設計の流れ(5段階) 公式サイトの「Our approach」の5段階を、本稿が計算と実験に色分けした図 ① 目標を決める 求める性能と 条件を指定する ② 候補を生成 生成AIが新しい 材料案を出す ③ 物性を計算 高精度の計算で 性質を見積もる ④ 合成・検証 ラボで実際に作り 測って確かめる ⑤ 量産へ拡大 製造できる形に スケールアップする コンピュータの中で行う部分(①〜③)。会社の主な担当 実験・製造が必要な部分(④〜⑤) KemiraのPFAS除去材料の事例(2026年5月)は、③の終わり(約20の優先候補)まで到達し、④に進む段階 ④以降を担うラボの提携先は、FoundryのLab partnersとして公式サイトに掲載されている
図解 CuspAIが示す材料設計の5段階。④以降(合成・検証・量産)は実験設備と時間が必要で、会社は提携先のラボと組むとしています。「③まで」の成果と「④以降の確認」を区別して読むことが、この分野の記事では大切です。

4. 会社の規模

CuspAIは非公開企業で、売上・従業員数は公式資料では確認できませんでした。登記簿と会社の発表から確認できる項目を示します 事実。

項目内容出所
法人Cusp AI Limited(英国の私的有限会社、会社番号15549537)。状態は「活動中」英国Companies House
設立2024年3月9日英国Companies House
登記上の所在地20 Station Road, Cambridge(英国)英国Companies House/公式のプライバシー通知
拠点(会社の記載)ケンブリッジ、アムステルダム、ベルリン、東京。ロンドン(キングスクロス)の開設を2026年1月に予定と記載公式ブログ(2025年12月)
従業員数非公表。「チームの規模と契約額が21か月で20倍」と会社が説明(基準値は非公表)公式ブログ(会社の主張)
売上・利益非公表―
上場非上場―
資金調達(会社発表)シード3,000万ドル(2024年6月)、シリーズA 1億ドル超(2025年9月)、シリーズB 4.5億ドル(2026年7月)公式ブログ
ここで注意

資金調達額は会社の発表で、売上や事業の成熟度を示す数字ではありません。本稿は、報道にある評価額や投資に関する見方には触れません。

5. マテリアルインフォマティクスにかけているリソース

観点確認できた内容区分
人創業者はMax Welling教授(CTO。元Microsoft ResearchおよびQualcomm、アムステルダム大学教授)とChad Edwards博士(CEO)。2025年にAron Walsh教授(Imperial College London)が最高科学責任者に就任。人数は非公表事実
金(研究開発費)MI向けの研究開発費・設備投資額は非公表非公表
金(資金調達)3回の調達は上表のとおり。シリーズBはKleiner PerkinsとNEAが主導し、Bezos Expeditionsなどが参加(会社の発表)。シリーズAはNEAとTemasekが共同主導で、NVIDIAのNVentures、Samsung Ventures、Hyundai Motor Groupが参加事実
外部への出資・買収CuspAIが他社へ出資・他社を買収した記載は確認できなかった確認できず
大学・研究機関・公的資金Meta、Georgia Techとの共同研究(直接空気回収用のMOFのデータセット、第10章)。Topsoe・デンマーク工科大学との触媒研究(2025年のAI in Science Summitで発表と記載)。英国政府の「AI for Science」戦略に名前が挙がり、AIスーパーコンピュータIsambard-AIへ早期にアクセスできる企業の一つと説明(会社の主張)。DOE・NSFなど米国の公的助成の記載は確認できなかった事実

主要なモデル・製品・設備の状況

名称種別主要な仕様(会社公表)公開の形・ライセンス段階・日付
CuspAIプラットフォーム材料設計の「検索エンジン」(生成+シミュレーション+実験の選択)目標の性能から合成可能な候補を生成。従来法より最大10倍速いと会社が説明(シリーズAの発表。比較条件は非公表)非公開。提携先との共同プロジェクトで提供提携先に導入中(2025年〜)
kUPS分子シミュレーションのエンジン(JAXベース)MD・モンテカルロ・構造最適化を共通の形で組み合わせ可能。ある吸着計算で既存ツールRASPA比49倍のスループット(条件は第10章)オープンソース(Apache-2.0)公開(2026年4月)
TojaxPyTorchの関数をJAXに変換するライブラリ学習済みのMACEなどをkUPSへ取り込むオープンソース(Apache-2.0)公開(2026年4月)
ODAC25直接空気回収(DAC)用のMOFのデータセットMOF 15,000種、約6,000万件のDFT単点計算。あわせて学習済みの機械学習ポテンシャルも公開と論文に記載論文で公開と記載。ライセンスは本稿では未確認2025年8月(Meta・Georgia Techとの共同)
AI Materials Foundryデータ・ラボ・計算機・専門家のネットワーク創立参加45社超(会社の発表)。米国の「ファウンドリー」運営の立ち上げも進めると記載参加は会社間の枠組み発表 2026年7月20日。米国での運営は 未確定/将来
実験設備会社自身の実験室自社の実験設備の規模・場所は公式資料で確認できなかった―確認できず
素材技術者の視点:「3,000兆分の1」を選ぶという話

KemiraとのPFAS除去材料の事例では、約300兆の候補構造(金属有機構造体=MOF)を探索し、5,000超の設計を出し、約20に絞った、と説明されています 事実。素材技術者が気にするのは、この絞り込みが計算上の吸着性能の予測に基づくものだという点です。実際の水の中では、競合するイオンや有機物、水中での安定性、再生のしやすさが効いてきます。会社は設計の条件として「水中で安定・合成可能・低コスト」を挙げていますが、候補の実測データは公開されていません。

「何兆の中から選んだ」という数字は探索の広さを示すもので、実際に使えるかどうかを示すものではありません。次の段階(合成と試験)の結果が出るまでは、会社の主張として読むのが安全です。

6. これまでの取り組み

時期できごと意味
2024年3月Cusp AI Limitedを英国で設立(登記簿)会社の出発点
2024年6月シード3,000万ドルを調達(Hoxton Ventures主導)。Metaとオープンサイエンスで連携し、OpenDACの取り組みと組む方針「材料の検索エンジン」を掲げて公に登場
2025年3月アドバイザリーボードを発表(Geoffrey Hintonら)体制の発表
2025年7月Kemiraと戦略的提携。最初のテーマはPFAS除去最初の公表された産業パートナー
2025年8月ODAC25データセット(Meta、Georgia Techと共同)をarXivで公開DAC用MOFのデータを公開
2025年9月シリーズA(1億ドル超)。Hyundai Motor Group、Kemira、Metaとの提携を公表複数分野の提携の公表
2025年Topsoe・デンマーク工科大学との触媒研究、Aron Walsh教授が最高科学責任者に就任触媒と研究体制
2026年4月kUPS・Tojaxをオープンソース公開(Apache-2.0)研究コミュニティ向けの道具の公開
2026年5月KemiraとPFAS除去材料の設計結果を発表(探索300兆、設計5,000超、優先候補約20。6か月)設計段階の成果。実験は次の段階
2026年7月シリーズB(4.5億ドル)とAI Materials Foundryを発表規模の拡大

注:公式ブログの掲載日(Medium)と本文の日付が食い違う記事があり、シード調達の記事は掲載日が2025年1月と表示される一方、本文は2024年6月18日付です。本稿は本文の日付を優先しました。

7. 今後の計画

米国のファウンドリー運営立ち上げ中John Giannandrea氏が支援と記載。時期・規模は非公表 未確定/将来
拠点の拡大米国・アジア・欧州シリーズBの資金で拡大すると会社が説明 未確定/将来
Kemiraとの次段階合成と試験次のプロジェクトも検討中と記載 未確定/将来
半導体分野成果を共有予定2026年に詳細を共有すると記載 未確定/将来

これらはすべて会社の計画・意向で、実施や成果の確認はできていません 事実 未確定/将来。

確認できなかったこと

次はいずれも公式資料に記載がありません 未確定/将来。

自社実験室の設備と規模/プラットフォームを動かすモデルの名称・規模・学習データ/設計した材料の実測データ/契約の金額・件数/Foundry参加企業が実際に提供するもの(コメントは意向の表明)。

8. この会社はマテリアルインフォマティクスで何を目指しているか

会社が直接述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として根拠とともに書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
顧客の課題ごとに設計を請け負う形で成果を出そうとしているKemira(PFAS)、Hyundai、Topsoeなど、個別テーマの提携。「商業パートナーシップで影響を出す」と創業者が説明推測
半導体・先端コンピュート向けに重心を移しつつあるFoundry参加企業にApplied Materials、Lam Research、Tokyo Electron、imec、KIOXIAなど。2025年の総括で「半導体の展開を大幅に拡大」と記載推測
オープンな道具とデータで研究コミュニティを巻き込むkUPS・Tojaxを公開、ODAC25をMetaと共同で公開、Metaとの継続的な連携推測
Foundryは、弱点になりやすい実験とデータを外部で補うための仕組みFoundryがデータ提供者(CCDC、ICSD、Wiley)とラボ(imec、A*STARなど)を明示。「ラボでの検証」を流れに含める推測
設計・計算から実験を含む閉じた輪を運用していると主張「結果をシステムに戻し、次の判断に影響させる」と説明。SkyVaultの炭素回収材料は6か月で設計から実験検証まで(会社の主張。詳細は非公表)事実(主張)
推測の根拠を1つだけ詳しく

Foundryの参加企業のコメントには、半導体関連の製造装置・メモリ・材料メーカーが目立ちます 事実。たとえばTokyo Electronは「現在の業界のビジネスモデルを変えうる」、KIOXIAは「半導体メモリ材料の新しい可能性」と述べています(いずれも参加企業のコメントで、契約内容ではありません)。

シリーズAのときの提携の中心はKemira(水処理)、Hyundai(モビリティ)、Meta(炭素回収)でした。これとの対比から、本稿は半導体分野へ重心が移りつつあると読みます 推測。ただし参加は「意向の表明」であり、どの企業がどの程度の契約を結んだかは公表されていません。

9. マテリアルインフォマティクス分野の提携マッピング

CuspAIを中心としたMI分野の提携関係 公式サイト・公式ブログ・相手企業のリリースに記載のある関係のみ(確認日 2026年10月22日) CuspAI 材料設計AI Meta(FAIR) 共同研究・ODAC25データセット NVIDIA ALCHEMI協業・GPU最適化 主な出資者(会社発表) NEA・Kleiner Perkins・Temasekほか 研究機関・ラボ imec・A*STAR・DTU Georgia Tech(論文) Foundry参加企業(一部) Applied Materials・Lam Research Tokyo Electron・三井化学ほか データ提供者 CCDC・ICSD・Wiley (Foundry) Isambard-AI(英国) 計算資源への 早期アクセス 個別プロジェクトの相手 Kemira(PFAS除去)・Hyundai Topsoe(触媒) 共同開発・導入 データ・計算の提供 出資
図2 CuspAIを中心としたMI分野の提携関係。出典:CuspAI公式サイト・公式ブログ、Kemira Oyjのリリース、arXiv論文。図に含めたのは公式に記載がある関係だけです。Foundry参加企業は「創立参加」の意向表明で、契約の内容や金額は公表されていません。NVIDIAはシリーズAの参加者(NVentures)でもあります。
相手関係区分
Meta(FAIR)2024年6月にオープンサイエンスで連携。炭素回収で協業し、ODAC25(DAC用MOFのデータセット)を共同で公開事実
NVIDIAALCHEMIとの協業、kUPSのGPU最適化に協力。NVIDIAのNVentures はシリーズAに参加事実
KemiraPFAS除去材料の設計(商業パートナーシップ)。2026年5月に設計結果を共同発表事実
Hyundai Motor Group次世代モビリティ向け材料の共同研究。シリーズAにも参加事実
Topsoe・デンマーク工科大学触媒の共同研究(2025年に発表と記載)事実
Foundry参加企業Applied Materials、Lam Research、Tokyo Electron、三井化学、富士フイルム、Resonac、KIOXIA、Henkel、3M、imecなどがコメントまたはロゴを掲載事実(意向)

10. 提供している技術・製品・サービス

CuspAIは、材料の性質の要求(たとえば「特定の分子だけを吸着する」)を入れると、条件を満たす材料の候補を設計して返すことを狙っています。プラットフォーム自体は非公開で、共同プロジェクトの形で提供されます。以下は、公開されている成果と、その条件です。

項目会社が示す内容条件・注意
Kemira:PFAS除去材料探索空間は約300兆のMOF構造。GenX・PFBS・PFOSの3分子について、5,000超の新しい設計と物性データ。約20の優先候補に絞り込み、6か月で到達候補の合成・試験の結果は公開されていない(「次の開発へ進む」段階)。「初の商業パートナーシップ」は会社の主張
SkyVault:炭素回収炭素回収材料が、生成設計から合成、実験での検証まで6か月で進んだ会社の総括の記述。測定値・条件は確認できなかった
速度の主張従来の探索より最大10倍速く、合成可能な候補を出す(シリーズAの発表)比較の基準は非公表
kUPSの性能NVIDIA L4 1枚で、114原子のMOFのMDが標準的なASE経由のMACEの1.8倍。CO2吸着の計算(GCMC)がRASPA(CPU1コア)の49倍2つの作業での会社の測定。ほかの系での性能は未確認
ODAC25MOF 15,000種・約6,000万件のDFT単点計算。CO2・H2O・N2・O2の吸着論文(arXiv)に記載。DACの吸着材探索用データ

注:数字はすべて会社または共同発表者の説明です。独立した第三者による再現や、実験での確認の記載は、本稿では確認できませんでした。

素材技術者の視点:自分の仕事にどう関わるか

①自社のデータをどう使うか:プラットフォームは非公開で、使うには共同プロジェクトを組む形です。自社の実験データや評価基準を渡すことで設計が目標に近づく、という考え方が公式の流れ(②→③→④の往復)に表れています。

②公開のツールは自分で試せる:kUPSは、MDやモンテカルロを一つの枠組みで組み合わせられるオープンソースで、MOFの吸着計算などに使えます(Apache-2.0)。社内の計算環境にあるMACEやUMAなどのモデルを取り込む例も示されています。

③「設計した」と「作れた」の差:生成AIが出す構造は、合成できるかが最大の関門です。会社は「合成可能な候補」を出すとしていますが、その判定基準は公開されていません。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
公表された成果が設計段階Kemiraの例は優先候補の選定までで、実験での性能は未公開。SkyVaultの6か月も詳細が非公開事実
プラットフォームが外から検証できないモデルの名称・規模・学習データ、評価の方法が公開されていない。「最大10倍」の基準も非公表事実
Foundryが意向表明の段階参加企業のコメントは期待の表明で、契約内容や実際に提供されるデータ・ラボの範囲は非公表。米国での運営は立ち上げ中未確定/将来
実験・データを外部に頼るラボ・データは提携先に依存する構造のため、提携先の事情が進捗に影響しうる推測
大型の資金調達に見合う実績の開示契約の金額・件数、売上が非公表。「契約額が20倍」は基準値が不明事実
分野の競争本シリーズで扱う他社(Meta、Orbital Materialsなど)もモデルやデータを公開しており、差が分かりにくい推測

12. 用語集

生成AIによる材料設計
求める性質を条件に、新しい材料の構造案をAIに作らせる方法。作ったものが実際に合成できるかが課題。
MOF(金属有機構造体)
金属と有機分子が作る、すき間の多い結晶。気体や水の中の物質を吸着するのに使われる。
PFAS
分解されにくい人工の有機フッ素化合物の総称。水中から極低濃度で取り除く技術が求められている。
直接空気回収(DAC)
大気中のCO2を直接取り出す技術。吸着材の性能がカギ。
分子シミュレーション
分子の動きや吸着を計算機で再現する方法。MD(分子動力学)やモンテカルロ法など。
DFT
密度汎関数理論。物質の性質を量子力学から計算する標準的な方法で、精密だが時間がかかる。
機械学習ポテンシャル
原子の力とエネルギーを高速に予測するAIモデル。DFTの代わりに使って速度を上げる。
Series A/B
スタートアップの資金調達の段階の呼び方。AからBへ進むほど、後の段階の調達を指す。
目標の機能から候補を提案し、実験で吸着などを確かめる考え方です。図の分子模型は実在の同社材料を示しません。
図3 概念画像(ImageGen生成)。目標の機能から候補を提案し、実験で吸着などを確かめる考え方です。図の分子模型は実在の同社材料を示しません。実在の製品・施設・測定結果ではありません。拡大模型、線・矢印・色は説明用です。

13. 出典

  1. CuspAI 公式サイト。AI Materials Foundry、創業陣・アドバイザー、設計から実験までの流れ、参加企業のコメントとロゴ。 https://cusp.ai/
  2. CuspAI 公式ブログ(Medium)「AI Materials FoundryとシリーズBの4.5億ドルを発表」(2026年7月20日)。 https://medium.com/@CuspAI/launching-our-ai-materials-foundry-and-450-million-series-b-f5603d8259dd
  3. CuspAI 公式ブログ「シリーズA(1億ドル超)を調達」(2025年9月10日)。出資者、提携先(Hyundai、Kemira、Meta)。 https://medium.com/@CuspAI/securing-our-100m-series-a-to-revolutionise-materials-discovery-with-ai-e6705e8c8fd3
  4. CuspAI 公式ブログ「シード3,000万ドルを調達」(本文の日付は2024年6月18日)。創業者、Metaとの連携、事業の説明。 https://medium.com/@CuspAI/cuspai-secures-30m-to-combat-climate-change-with-ai-designed-materials-e334b4caf560
  5. CuspAI 公式ブログ「Kemiraとの提携」(2025年7月)。 https://medium.com/@CuspAI/pioneering-the-future-of-chemicals-using-ai-our-partnership-with-kemira-f5db8c450504
  6. Kemira Oyj/CuspAI Kemiraの取引所リリース(Inderes配信ページ、2026年5月21日)。PFAS除去材料の設計結果(探索空間・設計数・候補数)。 https://www.inderes.fi/en/releases/kemira-oyj-new-ai-designed-materials-show-promising-potential-to-remove-forever-chemicals-from-drinking-water-in-industry-first-breakthrough
  7. CuspAI 公式ブログ「PFAS除去のAI設計材料」(2026年5月21日)。 https://medium.com/@CuspAI/new-ai-designed-materials-show-promising-potential-to-remove-forever-chemicals-from-drinking-42c8ec5afb11
  8. CuspAI 公式技術ブログ「kUPS:AI時代の分子シミュレーションエンジン」(2026年4月23日)。ベンチマーク条件つき。 https://medium.com/@CuspAI/kups-a-molecular-simulation-engine-for-the-ai-era-b213963a2359
  9. GitHub CuspAIのオープンソース組織(cusp-ai-oss)。kUPS、tojax、widomなど、いずれもApache-2.0。 https://github.com/cusp-ai-oss
  10. CuspAI 公式ブログ「A Year at the Cusp: 2025」(2025年12月18日)。2025年の提携・拠点・資金・主張の総括。 https://medium.com/@CuspAI/a-year-at-the-cusp-2025-eab5480ea580
  11. CuspAI 公式ブログ「アドバイザリーボードの発表」(2025年3月5日)。 https://medium.com/@CuspAI/announcing-the-cuspai-advisory-board-2d04a7e2f0df
  12. arXiv Sriram et al., “The Open DAC 2025 Dataset for Sorbent Discovery in Direct Air Capture”, arXiv:2508.03162(2025年8月、v2は同年9月)。 https://arxiv.org/abs/2508.03162
  13. 英国 Companies House Cusp AI Limited(会社番号 15549537)の公開情報。設立日、種別、登記上の所在地。 https://find-and-update.company-information.service.gov.uk/company/15549537

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
法人名・設立日(2024年3月9日)・種別・登記上の所在地事実出典13 https://find-and-update.company-information.service.gov.uk/company/15549537
創業者・経営陣・アドバイザー、Foundryの参加企業とコメント事実会社の記載。 出典1・10・11 https://cusp.ai/ https://medium.com/@CuspAI/a-year-at-the-cusp-2025-eab5480ea580 https://medium.com/@CuspAI/announcing-the-cuspai-advisory-board-2d04a7e2f0df
シード3,000万ドル(2024年6月18日)事実会社の発表。 出典4 https://medium.com/@CuspAI/cuspai-secures-30m-to-combat-climate-change-with-ai-designed-materials-e334b4caf560
シリーズA(1億ドル超、2025年9月)と出資者・提携先事実会社の発表。 出典3 https://medium.com/@CuspAI/securing-our-100m-series-a-to-revolutionise-materials-discovery-with-ai-e6705e8c8fd3
シリーズB 4.5億ドル、Foundry発表(2026年7月20日)、45社超事実会社の発表。 出典2 https://medium.com/@CuspAI/launching-our-ai-materials-foundry-and-450-million-series-b-f5603d8259dd
Kemiraとの提携(2025年7月)事実出典5 https://medium.com/@CuspAI/pioneering-the-future-of-chemicals-using-ai-our-partnership-with-kemira-f5db8c450504
PFAS除去材料の設計結果(探索約300兆、5,000超の設計、優先約20、6か月)事実会社と提携先の発表。実験結果の記載なし。 出典6・7 https://www.inderes.fi/en/releases/kemira-oyj-new-ai-designed-materials-show-promising-potential-to-remove-forever-chemicals-from-drinking-water-in-industry-first-breakthrough https://medium.com/@CuspAI/new-ai-designed-materials-show-promising-potential-to-remove-forever-chemicals-from-drinking-42c8ec5afb11
2025年の総括:拠点、SkyVault、Hyundai・Topsoe・Metaとの展開、チームと契約額の20倍事実会社の主張。基準値は非公表。 出典10 https://medium.com/@CuspAI/a-year-at-the-cusp-2025-eab5480ea580
kUPS・Tojaxの公開、性能(L4 1枚、ASE比1.8倍、RASPA比49倍)事実会社の測定条件。 出典8・9 https://medium.com/@CuspAI/kups-a-molecular-simulation-engine-for-the-ai-era-b213963a2359 https://github.com/cusp-ai-oss
オープンソースの組織とライセンス(Apache-2.0)事実出典9 https://github.com/cusp-ai-oss
ODAC25データセット(MOF 15,000種、約6,000万件のDFT計算)事実出典12 https://arxiv.org/abs/2508.03162
「従来より最大10倍速い」という主張事実会社の主張。基準は非公表。 出典3 https://medium.com/@CuspAI/securing-our-100m-series-a-to-revolutionise-materials-discovery-with-ai-e6705e8c8fd3
売上・従業員数・自社実験設備・モデルの詳細・契約金額未確定/将来公式資料では確認できなかった。本稿では推計しない 出典1・2・10 https://cusp.ai/ https://medium.com/@CuspAI/launching-our-ai-materials-foundry-and-450-million-series-b-f5603d8259dd https://medium.com/@CuspAI/a-year-at-the-cusp-2025-eab5480ea580
米国ファウンドリー運営、拠点拡大、半導体成果の共有未確定/将来会社の計画。 出典2・10 https://medium.com/@CuspAI/launching-our-ai-materials-foundry-and-450-million-series-b-f5603d8259dd https://medium.com/@CuspAI/a-year-at-the-cusp-2025-eab5480ea580
MIの4類型の区分とCuspAIの位置づけ、設計5段階の色分け図本稿の計算本稿による整理
「顧客課題ごとの設計」「半導体への重心移動」「オープンな道具で巻き込む」「Foundryは弱点を補う仕組み」推測本稿の解釈。根拠は第8章に記載
設計段階の成果、非公開のプラットフォーム、意向表明にとどまるFoundryというリスク推測本稿の解釈。第11章に根拠を記載

最終更新:2026年10月22日/Troy Technical
本稿の事実は、CuspAIの公式サイト・公式ブログ、Kemira Oyjのリリース、英国Companies House、公開論文とGitHubに基づきます。調査会社の市場推計や報道だけの数字は使用していません。評価額や投資判断には触れていません。性能・成果の数字は会社または共同発表者の説明で、独立した第三者による検証ではありません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。公式ブログ(Medium)は、機械的なアクセスに403が返るため、本文は同社のRSSで取得して確認しました。