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シトリン・インフォマティクス 企業解説

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COMPANY PROFILE / マテリアルインフォマティクス

シトリン・インフォマティクス
― 材料・化学メーカーが「自社のデータ」でAIを回すためのソフトを売る、MIの老舗

Citrine Informaticsは、米国の非上場企業です。自分で新材料を発見して売る会社ではなく、材料・化学メーカーが自社の実験データを整理し、AIに「次に試す条件」を提案させるための企業向けソフト(SaaS)を提供しています。2013年創業で、マテリアルインフォマティクス(MI)の専業としては古参の一社です。

本稿では、公式サイトとプレスリリース、米国SECへの提出書類(Form D)、公開されているソフトウェアと論文を一次情報として、製品・提携・資金の事実と、会社が示す数字(会社の主張)を分けて整理します。売上や従業員数は確認できませんでした。

構成:Citrine Informaticsの公式サイトとプレスリリース、米国SEC提出書類(Form D)、GitHub、論文を一次情報として使用/最終更新 2026年10月22日

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるCitrine Informaticsと、マテリアルインフォマティクスでの立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. マテリアルインフォマティクスの世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模(非上場。確認できた範囲)
  5. マテリアルインフォマティクスにかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社はマテリアルインフォマティクスで何を目指しているか
  9. マテリアルインフォマティクス分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集
  13. 出典
  14. 主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるシトリン・インフォマティクスと、マテリアルインフォマティクスでの立ち位置

正式名称Citrine Informatics, Inc.米国デラウェア州法人(SEC Form Dの記載)
本社米国カリフォルニア州
レッドウッドシティ
会社ページの記載
上場非上場SECにForm D(私募の届出)を6件提出
MIでの類型MIソフト・材料AI
(主)
顧客のデータで回す企業向けSaaS
創業2013年Greg Mulholland氏とBryce Meredig氏(会社ページ)
主な製品Citrine Platform2026年7月にCatalystとApexを発表
公開しているものGEMD・loloなどデータモデルと機械学習ライブラリをApache-2.0で公開
公的研究への参加ARPA-E・DARPA・NSF・BioMADE2022〜2026年の会社発表
まず押さえるべき1点

マテリアルインフォマティクス(MI)とは、材料のデータを集め、AIや計算で性質を予測・設計し、実験で確かめるという流れで新しい材料を探す方法です。Citrineは、この流れの中で顧客のデータを整理して予測し、次の実験を提案する部分を、ソフトとして売る会社です 事実。材料のデータは顧客のもので、会社が自前で大規模な実験設備を持っているとは、公開資料では確認できません。

性能に関する数字(実験回数の削減率、導入事例の効果など)は、ほぼすべて会社自身の主張で、条件が公開されていないものがあります。会社は月あたり約380案件・550のAIモデル・7万件の実験提案という利用規模も示しています(集計方法は非公開)。本稿では会社の主張と明記し、順位づけはしません。

2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:法人名は Citrine Informatics, Inc.。ブランド名の Citrine Platform、Citrineが開発したデータモデル GEMD(Graphical Expression of Materials Data)と混同しないよう、本稿では「会社」と「製品」を書き分けます。

公式サイト:https://citrine.io/

3. マテリアルインフォマティクスの世界で、この会社はどこにいるか

マテリアルインフォマティクスに関わる企業の4つの類型 同じ「MIの会社」でも、データ→設計→実験のどこを担うかで、強みと課題が違う 基盤モデル・計算基盤 MIソフト・材料AI 自動実験・ロボット 応用する側 データと計算でAIを作る 解析ソフトと材料AI ロボットで実験を回す 電池・化学・半導体など Google DeepMind/Microsoft Meta/NVIDIA Citrine/Schrödinger Preferred Networks/CuspAI Chemspeed/Radical AI Periodic Labs/Lila Sciences SES AI/Mitsui Chemicals Applied Materials 大規模な計算と人材 使いやすさとデータ 実験を回す速度 実際の材料と市場 実験での検証は他者頼み 顧客のデータ次第 設備費と再現性 内製の人材とデータ不足 Citrineは左から2番目の「MIソフト・材料AI」。顧客の実験データを使って予測し、次の実験を提案する 強みは使いやすさとデータ基盤、課題は顧客のデータの量と質に左右される点。自社の実験設備は確認できなかった
図1 マテリアルインフォマティクスに関わる企業の4類型と、Citrineの位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。Citrineが顧客のデータで回すソフトを提供していることは、公式サイトとプレスリリースの記載に基づきます。

MIの会社は、同じ「AI」でもデータ集め→予測・設計→実験で確かめるのどこを担うかで性格が変わります。Citrineの位置を、この流れの上に置くと次のとおりです。

CitrineはMIの流れのどこを担うか 担当は「データの整理」と「予測・次の実験の提案」。実験は顧客や共同研究先が行う ① データを集める ② 予測・設計する ③ 実験で確かめる データ基盤 GEMD(オープンな形式) Omni:データ整理ツール データそのものは 顧客が持つ 予測と実験の提案 Apex:複数のモデルから 最良のものを自動で選択 Catalyst:次の実験を提案 少量・欠けたデータ向け 自社の実験設備は 確認できなかった 共同研究では、大学や 企業が実験を担当 Citrineの担当は「① データの整理」と「② 予測・次の実験の提案」。③ は顧客や共同研究先 顧客のデータが少ない、または偏っていると、予測の質に直結するのが、この類型の弱点 主に担う 担わない/確認できなかった
図解 CitrineがMIの流れのどこを担うか。区分は本稿が公開資料から整理したもの 本稿の計算。製品の内容は出典1・5による。

MIそのものの考え方は、本シリーズの技術解説「マテリアルインフォマティクス概論」を、少ないデータで学習する方法は「小データ機械学習」「ベイズ最適化と能動学習」を参照してください。

4. 会社の規模(非上場。確認できた範囲)

非上場のため、売上や従業員数の法定開示はありません。確認できた範囲だけを示します 事実。

項目確認できた内容出典
創業2013年(Greg Mulholland氏とBryce Meredig氏)出典2
本社米国カリフォルニア州レッドウッドシティ出典2
従業員数確認できなかった(会社ページ・プレスリリースに記載なし)―
売上・ARR(年間経常収益)金額は確認できなかった。成長率や「記録」を述べるプレスリリースはあるが、本稿が確認した範囲では売上・ARRの絶対額は示されていない出典4
投資家13社を会社ページに掲載(Alumni Ventures、DCVC、Innovation Endeavors、Prelude Ventures、Presidio Ventures、Tencent Holdings、Evonik Venture Capitalなど)出典2
認証ISO 27001の認証取得を発表(2023年8月は2013版、2025年2月は2022版)出典4
ここで注意

上の表は、売上や規模を示していません。Citrineの売上、利益、従業員数は非公表で、本稿は推計もしません 未確定/将来。「記録的な四半期」「成長率○%」といった表現は会社の発表で、金額や母数が示されないため、規模の比較には使えません。

5. マテリアルインフォマティクスにかけているリソース

Citrineは材料向けのAIが本業の会社なので、全社の資源がそのままMIに向いています。確認できなかった項目は「記載なし」と書きます。

リソースの種類内容区分
人従業員数は確認できなかった。経営陣は会社ページに掲載(CEOのGreg Mulholland氏ほか)。本社のほか、2020年に東京事務所の開設、2017年にピッツバーグ事務所の開設を発表(現在の拠点一覧は確認できなかった)事実(人数は確認できず)
金研究開発費の記載なし。資金調達は、会社発表でSeries B 2,000万US$(2019年)、Series C 1,600万US$(2023年)。SECのForm Dは下の表のとおり事実(研究開発費は確認できず)
外部への出資・買収・合弁・事業売却出資を受ける側:Evonik Venture Capital(2022年3月)、Universal Materials Incubator(2020年12月)など投資家13社。買収・合弁・事業売却:本稿が確認した資料には記載なし事実(買収などは確認できず)
大学・研究機関・公的資金との連携ARPA-E(2022年に310万US$・3年、PNNL・ノーステキサス大学と。2024年に30万US$)、NSF Convergence Accelerator(2023年、75万US$、MITなどと)、DARPA INTACT(2025年、ミネソタ大学などと。金額は記載なし)、BioMADE(2026年、空軍研究所と。金額は記載なし)、TU Dresden(2023年)事実

SECに提出された資金調達の届出(Form D)

Form Dは、私募で株式などを売るときにSECへ出す届出です。金額は届出の時点の「募集枠」と「販売済み」で、評価額や会社の価値を示すものではなく、会社発表のSeries B・Cと一対一に対応するとも限りません。足し算もできません。

届出日最初の販売日募集枠(US$)販売済み(US$)投資家数提出番号
2016年5月24日2016年5月9日8,757,0498,757,049100001675501-16-000001
2019年7月12日2019年6月28日28,556,98620,948,32280001675501-19-000001
2020年11月3日2020年10月23日20,000,00012,354,37570001168404-20-000017
2022年11月14日2022年10月28日17,633,50712,595,504110001168404-22-000002
2023年9月22日2023年9月15日4,999,9994,999,99920001168404-23-000001
2025年2月7日2025年1月24日6,100,0002,604,98750001168404-25-000001

出典:出典18(各届出の本文は同じ一覧から開けます)。届出の日付と金額はSECの記録どおりで、本稿は解釈を加えていません。

主要な製品・ソフトウェアの状況

会社の公式資料で確認できた範囲です。性能の数字は会社の主張で、本稿は再現・検証していません。

名称種別内容(公表された仕様・対象・条件)公開の形・ライセンス段階日付出典
Citrine Platform企業向けSaaS(データ基盤+AI)材料・化学メーカー向け。コード不要でモデルを作り、解析できるとする(会社の説明)商用。価格・条件は確認できなかった提供一般向け公開 2020年8月4日出典17・1
Apex予測モデルの層複数のモデル構造(グラフニューラルネットワーク、Transformerなど)と事前学習した化学の埋め込みを使い、案件ごとに最良のモデルの結果を返す(会社の説明)。社内ベンチマークで、調整なしのApexが専門家が調整した現行モデルに95%の場合で並ぶか上回る、複雑な最適化で必要な実験を最大50%減らすと主張(方法・データセット・件数は非公開)商用。提供開始日・価格は記載なし発表(提供開始日は確認できなかった)2026年7月7日発表出典5
CatalystAIのワークフロー加速(旧:デジタルアシスタント)目的を言葉で伝えると、データの確認、データセットとモデルの作成、探索範囲の設定、次の実験の提案までを進め、理由も説明するとする。2023年10月には「デジタルアシスタント」として発表されていた商用。提供開始日・価格は記載なし発表(2026年7月に再発表)2023年10月/2026年7月出典5・4
Omni Universal Data Harmonizerデータ整理ツールばらばらな形式のデータをそろえるツール(公式サイトの説明)商用提供日付の記載なし出典1
GEMDデータモデル(材料の履歴を表す形式)材料の原料・加工・測定の履歴を記録する形式。Python実装を公開Apache-2.0公開リポジトリ作成 2019年9月出典20・3
lolo機械学習ライブラリ(Scala)ランダムフォレスト中心。ブートストラップで不確かさの推定を出せるApache-2.0公開リポジトリ作成 2016年11月出典19
MPEAデータセットオープンデータ多主成分合金の機械的性質と観察された相の拡張データセット(リポジトリは2022年にアーカイブ)Apache-2.0公開(更新停止)2022年出典21

6. これまでの取り組み

時期できごと意味
2013年創業(Greg Mulholland氏、Bryce Meredig氏)MI専業としては古い
2016年5月SECにForm Dを初めて提出(875.7万US$)私募による資金調達の記録
2017年7月Lingほかの論文(不確かさの推定つきの実験計画)を発表不確かさを使って次の実験を選ぶ考え方の、会社の研究者による論文
2019年10月Series B 2,000万US$を発表(Prelude Ventures、Innovation Endeavors共同主導)会社の主張として、大手顧客がR&Dの節目に「予定の50〜70%の時間」で到達と記載
2020年8月4日Citrine Platformを一般向けに公開企業向けのAIとデータの基盤として公開
2021年2月25日Siemens Digital Industries Softwareと提携材料のデータ・AIを製品シミュレーションの流れにつなぐ
2022年3月ARPA-Eから310万US$(3年、核廃棄物の保管材料、3月10日)。Evonik Venture Capitalが出資(3月25日)公的資金と、化学メーカー系の投資家の両方
2022年7月SCSKが日本での販売・サポートを開始(Citrine Platformの国内提供は7月8日、発表は25日)日本の顧客は、SCSKを通じてCitrine Platformを利用できる
2022年9月7日Eastmanと複数年の提携2021年の導入から拡大したと発表
2023年1月4日Series C 1,600万US$を発表成長と地理的拡大のための資金(会社の説明)
2023年3月17日NSF Convergence Acceleratorの共同参加(75万US$)MIT・Cornell大学・Swansea大学・Station1と進める、持続可能な材料のプロジェクト(Phase 1)
2024年10月1日ARPA-E CHADWICKで30万US$(核融合炉の第一壁の合金)データがほとんどない領域からの設計をめざす
2025年8月1日DARPA INTACTに参加(セラミックスの靱性)金属のコールドスプレー用モデルを応用
2026年2月9日BioMADEのプロジェクトを開始(微生物でつくるセメント)不確かさを使った実験計画の手法を提供
2026年7月7日CatalystとApexを発表製品群の刷新。提供開始日は記載なし

7. 今後の計画

Catalyst・Apex提供開始日・価格は
記載なし
2026年7月7日に発表、14日にウェビナーで紹介
DARPA INTACT2年間の研究ミネソタ大学が代表。開始・終了日の記載なし
BioMADE期間・金額の記載なし空軍研究所と、微生物でつくるセメントの展開モデル
売上・人員の目標確認できなかった会社の数値目標の記載なし

新製品の発表(Catalyst・Apex)は、発表の段階であり、いつ誰でも使える状態になるかは確認できませんでした 未確定/将来。公的資金のプロジェクトは、いずれも研究の途中で、成果は未確認です。

確認できなかったこと

次はいずれも、本稿が確認した公式資料に記載がありません 未確定/将来。

Catalyst・Apexの一般提供日・価格・ライセンス条件/売上・人員の目標/新たな資金調達の金額と時期(2025年のForm Dは、募集枠610万US$のうち約260万US$の販売済みを示すのみ)/DARPA・BioMADEの金額。報道ベースの評価額や売上推計は、本稿では採用しません。

8. この会社はマテリアルインフォマティクスで何を目指しているか

ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
少量・欠けたデータでも使えるAIを売りにしている公式サイトが「小さく疎なデータ向けの化学を理解したツール」「散らかった既存データで動く」と説明推測
AIの専門家でない材料技術者に使わせる方向Catalystは言葉で目的を伝える形。「コード不要」の説明(公式サイト・プレスリリース)推測
モデルの調整の手間を減らすことに投資しているApexは複数モデルから自動で最良を選ぶ(会社の説明)推測
公的研究プロジェクトで適用領域を広げているARPA-E・DARPA・NSF・BioMADEと、核廃棄物・核融合・セラミックス・セメントなど領域が広い推測
日本・欧州などは提携先を通じて広げているSCSK(日本)、SPROUT Consulting(欧州、2023年のプレスリリース題名)推測
不確かさを使って次の実験を選ぶ考え方が、技術の核2017年の論文、lolo(不確かさつきのランダムフォレスト)、BioMADEの「不確かさに基づく実験計画」の記載事実
推測の根拠を1つだけ詳しく

Apexの説明は、「調整なしのモデルが、専門家が調整したモデルに95%の場合で並ぶか上回る」という社内ベンチマークの数字を掲げています 事実。ここから、Citrineは「専門家がモデルを細かく調整する」使い方から、調整を製品側で自動化する方向へ動いている、と本稿は読みます 未確定/将来。ただし、そのベンチマークの方法・データセット・件数は公開されていないため、数字の意味は外部から確かめられません。

9. マテリアルインフォマティクス分野の提携マッピング

Citrineを中心とした提携・資金の関係 Citrineの公式プレスリリースに記載のある関係のみ。報道ベースの関係は含まない Citrine MIソフト SCSK 日本での販売・サポート (2022年7月) Siemens Digital Industries Software データ・解析と連携(2021年) Eastman 複数年の導入契約 (2022年9月) Evonik Venture Capital 出資 (2022年3月) 米国の公的プログラム ARPA-E・DARPA・NSF BioMADE(2022〜2026年) 大学・国立研究所 PNNL・UNT・MIT・ ミネソタ大学・TU Dresden など 投資家13社(会社ページ。Form D 6件) 共同開発・導入の相手 資金の提供元(出資・公的資金)
図2 Citrineを中心とした提携・資金の関係。出典:Citrineのプレスリリースと会社ページ。顧客や提携先は他にも多数あり(例:LyondellBasell、Sion Power、Synthomer)、ここには関係の種類が分かる代表例だけを示しました。

10. 提供している技術・製品・サービス

「次に何を試すか」をAIが提案する仕組み

材料や配合の開発では、試せる組み合わせが膨大で、実験できる回数は限られます。Citrineの製品は、これまでの実験データでAIを学習させ、「予測が不確かで、試す価値が高い条件」を次の実験として提案するというやり方(逐次学習)を使います。

学習→提案→実験→追加、を繰り返す 考え方は会社の説明と論文による。具体的な性能の数字は会社の主張 ① データを入れる 過去の実験・ 試験の結果を 整理して取り込む (GEMD・Omni) ② モデルを作る データからAIが 性質を予測。 予測の不確かさも 併せて推定 ③ 次の実験を提案 予測が高く、 または不確かな 条件を候補に (Catalyst) ④ 実験して追加 顧客や共同研究先が 実験し、結果を 加えて再び①へ (ループ) 同じ手順を繰り返し、少ない実験回数で目標に近づけるのがねらい(会社の説明) 「最大50%減」は社内ベンチマークの主張で、データセット・件数・対象が公開されていない
図解 逐次学習のループ。Catalyst・Apexの説明(出典5)、BioMADEの発表(出典7)の「不確かさに基づく実験計画」、Lingほかの論文(出典22)に基づく一般的な説明で、Citrineの内部の実装を示すものではない。
素材技術者の視点:自社の少量データで試すときの読みどころ

Citrineの取り組みで素材技術者に関わる点は3つです 事実。(1) データの出発点は自社の実験:配合・加工条件・測定値を、同じ形式で残していることが前提になります。Citrineのデータモデル GEMD は、原料・加工・測定の「履歴」を記録するための形式で、記録の習慣そのものが成果を左右します。(2) 予測の不確かさを使う:Lingらの論文やloloのように、予測の確からしさを一緒に出し、「当たりそうな条件」だけでなく「分からない条件」も試す設計です。

(3) 数字の読み方:「実験を最大50%減らす」「配合期間が6か月から1日」といった会社の数字は、対象とデータが条件つきで、他の案件にそのまま当てはまるとは限りません。自社のデータで小さく試し、何件の実験で目標に届くかを自分で確かめるのが確実です。会社自身も、顧客の事例(DorfnerやHuntsman)を、効果の例として示すにとどまります。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
規模が確認できない非上場で、売上・ARR・従業員数の金額・人数がいずれも確認できない事実
性能の数字が会社の主張Apexの95%・最大50%減などは社内ベンチマークで、方法・データセット・件数が非公開。導入事例の数字も会社の発表事実
顧客のデータ次第この類型の一般的な弱点。データが少ない・偏る場合、予測が当てにならない可能性がある推測
製品の位置づけが変わるCatalystは2023年の「デジタルアシスタント」から、2026年に「AIワークフロー加速」として再発表されており、製品の仕様が変化している事実
新製品の提供時期が不明Catalyst・Apexの一般提供日・価格が未確認未確定/将来
公的プログラムへの依存公的資金(ARPA-E・DARPA・BioMADEなど)の案件が目立つが、全体に占める割合は確認できない推測
資金調達の継続2025年のForm Dは募集枠610万US$のうち約260万US$の販売済みを示すのみ。完了や今後の計画は確認できない未確定/将来

12. 用語集

マテリアルインフォマティクス(MI)
材料のデータとAI・計算を使い、新しい材料を探す方法。データ→予測・設計→実験の流れで進める。
SaaS
ソフトを買い取らず、インターネット経由で利用料を払って使う形態。
逐次学習
実験結果を加えながらモデルを更新し、次に試す条件を選ぶ手法。能動学習やベイズ最適化とも近い。
配合(フォーミュレーション)
複数の原料を混ぜて製品をつくること、またはその組み合わせ。
疎なデータ
件数が少なく、項目に抜けが多いデータ。材料の実験データは多くがこの形。
不確かさ(予測区間)
予測がどれくらい外れうるかの幅。モデルが「自信がない」領域の目印になる。
ランダムフォレスト
多数の決定木の予測を平均する機械学習手法。ばらつきから不確かさを推定しやすい。
GEMD
Citrineのデータモデル。原料・加工・測定の履歴を材料の「系図」として記録する形式。
埋め込み
分子や配合を、AIが扱える数値の並びに変えたもの。
ARPA-E
米国エネルギー省の先進的研究プロジェクト局。エネルギー分野の研究開発に資金を出す。
DARPA
米国国防高等研究計画局。
Form D
米国で私募による証券の販売をSECに届け出る書類。金額は届出の時点のもの。
企業の配合・物性データを整理し、条件選びに使う概念です。データの量だけでなく、測定条件と適用範囲が重要です。
図3 概念画像(ImageGen生成)。企業の配合・物性データを整理し、条件選びに使う概念です。データの量だけでなく、測定条件と適用範囲が重要です。実在の製品・施設・測定結果ではありません。拡大模型、線・矢印・色は説明用です。

13. 出典

  1. Citrine Informatics 公式サイト トップページ(2026年10月22日に確認)。事業の説明、製品名、会社が示す数字、顧客名。 https://citrine.io/
  2. Citrine Informatics 会社ページ。創業年・創業者、本社、投資家13社、経営陣、受賞歴。 https://citrine.io/company/
  3. Citrine Informatics 研究ページ。公開している論文、オープンな材料データ標準・ライブラリへの言及。 https://citrine.io/company/research/
  4. Citrine Informatics プレスリリース一覧(2017〜2026年)。発表の日付と題名の確認用。 https://citrine.io/media-type/press-releases/
  5. Citrine Informatics プレスリリース(2026年7月7日)“Citrine Launches Catalyst and Apex…”。Catalyst・Apexの内容と、会社が示す数字。 https://citrine.io/media-post/citrine-launches-catalyst-and-apex-to-make-ai-easier-for-materials-and-chemicals-experts-to-use-and-trust/
  6. Citrine Informatics プレスリリース(2025年8月1日)DARPA INTACTプログラムへの参加。 https://citrine.io/media-post/citrine-informatics-to-provide-ai-for-darpa-intact-program-revolutionizing-ceramic-toughness/
  7. Citrine Informatics プレスリリース(2026年2月9日)BioMADEのプロジェクト。 https://citrine.io/media-post/citrine-informatics-launches-biomade-project-to-optimize-deployment-of-biologically-produced-cement/
  8. Citrine Informatics プレスリリース(2024年10月1日)ARPA-E CHADWICKプログラムでの30万US$の資金。 https://citrine.io/media-post/citrine-informatics-selected-to-receive-300000-in-federal-funding-for-technology-to-enable-fusion-power-plants/
  9. Citrine Informatics プレスリリース(2023年3月17日)NSF Convergence Accelerator。 https://citrine.io/media-post/citrine-informatics-awarded-a-national-science-foundation-convergence-accelerator-grant-as-a-collaborating-organization/
  10. Citrine Informatics プレスリリース(2022年3月10日)ARPA-E ONWARDSプログラムでの310万US$の資金(3年)。 https://citrine.io/media-post/nuclear-waste-storage/
  11. Citrine Informatics プレスリリース(2023年1月4日)Series C 1,600万US$。 https://citrine.io/media-post/citrine-informatics-raises-series-c-funding-round/
  12. Citrine Informatics プレスリリース(2019年10月10日)Series B 2,000万US$。 https://citrine.io/media-post/citrine-informatics-raises-20m-in-series-b-funding/
  13. Citrine Informatics プレスリリース(2022年3月25日)Evonik Venture Capitalの出資。 https://citrine.io/media-post/citrine-informatics-evonik-venture-capital/
  14. Citrine Informatics プレスリリース(2022年9月7日)Eastmanとの複数年の提携。 https://citrine.io/media-post/eastman-citrine-informatics-announce-partnership-for-accelerated-product-development/
  15. Citrine Informatics プレスリリース(2022年7月25日)SCSKによる日本での販売・サポート。 https://citrine.io/media-post/citrine-scsk-japan-partnership/
  16. Citrine Informatics プレスリリース(2021年2月25日)Siemens Digital Industries Softwareとの提携。 https://citrine.io/media-post/citrine-siemens-digital-industries-partnership-announcement/
  17. Citrine Informatics プレスリリース(2020年8月4日)Citrine Platformの一般向け公開。 https://citrine.io/media-post/public-citrine-platform-launch/
  18. 米国SEC EDGAR 提出書類一覧(Citrine Informatics, Inc.、CIK 0001675501、Form D)。私募の届出(2016・2019・2020・2022・2023・2025年)。 https://www.sec.gov/cgi-bin/browse-edgar?action=getcompany&CIK=0001675501&type=D&dateb=&owner=include&count=40
  19. Citrine Informatics GitHub CitrineInformatics/lolo。ランダムフォレスト中心の機械学習ライブラリ(Scala)。不確かさの推定つき。ライセンス Apache-2.0。 https://github.com/CitrineInformatics/lolo
  20. Citrine Informatics GitHub CitrineInformatics/gemd-python。Citrineのデータモデル GEMD のPython実装。ライセンス Apache-2.0。 https://github.com/CitrineInformatics/gemd-python
  21. Citrine Informatics GitHub CitrineInformatics/MPEA_dataset。多主成分合金の機械的性質と観察された相の拡張データセット(2022年にアーカイブ)。Apache-2.0。 https://github.com/CitrineInformatics/MPEA_dataset
  22. Ling ほか “High-Dimensional Materials and Process Optimization Using Data-Driven Experimental Design with Well-Calibrated Uncertainty Estimates”, Integrating Materials and Manufacturing Innovation(2017年7月5日、DOI 10.1007/s40192-017-0098-z)。 https://doi.org/10.1007/s40192-017-0098-z

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
創業(2013年)、本社所在地、投資家13社、経営陣事実出典2 https://citrine.io/company/
SECへのForm D提出(2016・2019・2020・2022・2023・2025年)と金額・提出番号事実出典18 https://www.sec.gov/cgi-bin/browse-edgar?action=getcompany&CIK=0001675501&type=D&dateb=&owner=include&count=40
Series B 2,000万US$(2019年)、Series C 1,600万US$(2023年)事実出典12 https://citrine.io/media-post/citrine-informatics-raises-20m-in-series-b-funding/ 出典11 https://citrine.io/media-post/citrine-informatics-raises-series-c-funding-round/
Evonik Venture Capitalの出資(2022年3月)事実出典13 https://citrine.io/media-post/citrine-informatics-evonik-venture-capital/
Eastmanとの複数年の提携(2022年9月)事実出典14 https://citrine.io/media-post/eastman-citrine-informatics-announce-partnership-for-accelerated-product-development/
SCSKによる日本での販売(2022年)事実出典15 https://citrine.io/media-post/citrine-scsk-japan-partnership/
Siemens Digital Industries Softwareとの提携(2021年)事実出典16 https://citrine.io/media-post/citrine-siemens-digital-industries-partnership-announcement/
Citrine Platformの一般向け公開(2020年8月4日)事実出典17 https://citrine.io/media-post/public-citrine-platform-launch/
ARPA-E ONWARDS 310万US$(2022年)とARPA-E CHADWICK 30万US$(2024年)事実出典10 https://citrine.io/media-post/nuclear-waste-storage/ 出典8 https://citrine.io/media-post/citrine-informatics-selected-to-receive-300000-in-federal-funding-for-technology-to-enable-fusion-power-plants/
NSF Convergence Accelerator(2023年、75万US$)事実出典9 https://citrine.io/media-post/citrine-informatics-awarded-a-national-science-foundation-convergence-accelerator-grant-as-a-collaborating-organization/
DARPA INTACT(2025年)への参加と役割事実出典6 https://citrine.io/media-post/citrine-informatics-to-provide-ai-for-darpa-intact-program-revolutionizing-ceramic-toughness/
BioMADEのプロジェクト(2026年)への参加と役割事実出典7 https://citrine.io/media-post/citrine-informatics-launches-biomade-project-to-optimize-deployment-of-biologically-produced-cement/
Catalyst・Apexの内容、社内ベンチマーク(95%・最大50%)と月あたりの利用数(会社の主張)事実出典5 https://citrine.io/media-post/citrine-launches-catalyst-and-apex-to-make-ai-easier-for-materials-and-chemicals-experts-to-use-and-trust/ 出典1 https://citrine.io/
Omni Universal Data Harmonizer、顧客事例の数字(会社の主張)事実出典1 https://citrine.io/
GEMD・lolo・MPEAデータセットのライセンス(Apache-2.0)と日付事実出典20 https://github.com/CitrineInformatics/gemd-python 出典19 https://github.com/CitrineInformatics/lolo 出典21 https://github.com/CitrineInformatics/MPEA_dataset
Lingほかの論文(2017年)の題名と掲載誌事実出典22 https://doi.org/10.1007/s40192-017-0098-z
発表の日付と題名(Catalystの2023年発表、ISO 27001認証、SPROUT Consulting、東京・ピッツバーグ事務所など)事実出典4 https://citrine.io/media-type/press-releases/
MIの3段階(データ→予測・設計→実験)のどこを担うかの整理本稿の計算本稿による整理(公開資料に基づく)
売上・ARR・従業員数・研究開発費未確定/将来いずれも確認できなかった。本稿では推計もしない(本稿で確認した出典に記載なし)
買収・合弁・事業売却未確定/将来本稿が確認した資料に記載なし。存在しないとも断定しない
Catalyst・Apexの一般提供日・価格、今後の資金調達、DARPA・BioMADEの金額未確定/将来確認できなかった。本稿では推定しない
少量・欠けたデータを売りにしているという読み推測公式サイトの説明からの本稿の解釈
専門家でない材料技術者に使わせる方向という読み推測Catalystの説明からの本稿の解釈
モデル調整の自動化に投資しているという読み推測Apexの説明からの本稿の解釈
公的研究プロジェクトで適用領域を広げているという読み推測発表の傾向からの本稿の解釈
日本・欧州は提携先経由で広げているという読み推測SCSKなどの発表からの本稿の解釈
顧客データ依存、公的プログラム依存というリスク推測類型の一般的な傾向と発表からの本稿の解釈

最終更新:2026年10月22日/Troy Technical
本稿の数値は、Citrine Informaticsの公式サイトとプレスリリース、米国証券取引委員会(SEC)のForm D、GitHub、論文に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「会社の主張」とした数字は、本稿が再現・検証したものではありません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。