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密度汎関数理論の基礎 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

密度汎関数理論の基礎
― 電子の「密度」から性質を計算する方法の、分かることと分からないこと

材料の計算の論文やデータベースには、「DFT で計算した」と書かれた数字が並びます。DFT(密度汎関数理論)は、材料の電子の振る舞いから、エネルギーや構造、バンド構造などを計算する、最も広く使われる方法です。ただし、計算値は近似を含み、実測と一致するとは限りません。この記事では、DFT の考え方を図で理解し、何が分かり、何が分からないか、近似(汎関数)による誤差の典型例(バンドギャップの過小評価など)、計算条件の読み方、計算のコストと信頼性を、素材技術者の目線で整理します。電子相関そのものや、量子コンピュータとの関係は、本シリーズ「量子化学・材料シミュレーション」編で扱うので、ここでは、DFT に固有の内容に集中します。

構成:Hohenberg・Kohn・Sham の原論文、Kohn のノーベル講演、Perdew らの汎関数の論文、Borlido らのバンドギャップのベンチマーク、Lejaeghere らの再現性の研究、Hegde らのデータベース比較、Materials Project の公式文書を使用/数値例は本稿で計算/確認日 2026年10月23日

原子配置を入力し、電子の状態を近似して計算する模型です。電子密度の面は計算上の表示で、試料を光学撮影したものではありません。
図1 概念画像(ImageGen生成)。原子配置を入力し、電子の状態を近似して計算する模型です。電子密度の面は計算上の表示で、試料を光学撮影したものではありません。実在の製品・施設・測定結果ではありません。拡大模型、線・矢印・色は説明用です。
この記事の構成
  1. 3行でわかる/読む前に/シリーズの中での位置
  2. DFT は何を計算するのか
  3. 何が分かり、何が分からないか
  4. 近似(汎関数)という階段
  5. 誤差の典型例
  6. 計算条件の読み方
  7. コストと規模
  8. 再現性と信頼性
  9. 素材技術者から見て
  10. 限界と、確認できなかったこと/まとめ
  11. 評価・標準の読み方
  12. 用語集
  13. 参考資料(一次情報)
  14. 主張と出典の対応表(監査)
本記事の表記ルール

事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・目標・草案・改訂中・策定中・見通しなど、確定していない事項
このほか、素材技術者向けの読み取りは「解説」として区別しています。推測は太字で示します。計算値は、計算の条件(汎関数・設定)と、実測との差を区別して書きます。

1. 3行でわかる/読む前に/シリーズの中での位置

  • DFT は、「電子の密度」だけから、基底状態のエネルギーが決まる、という定理にもとづく計算法です。多数の電子を1つずつ追う代わりに、電子の密度を繰り返し直して、エネルギー・力・バンド構造を出します事実[参考資料1・2]
  • 理論は厳密でも、実際の計算は「汎関数」の近似を含みます。代表的な誤差が、バンドギャップの過小評価です。472の材料で実験値と比べた研究では、PBE のギャップの平均誤差は約 −1.0 eV(絶対誤差の平均 1.1 eV)、ハイブリッド汎関数の HSE06 は −0.1 eV(0.5 eV)でした事実[参考資料3]
  • 計算値は、「条件つきの値」です。汎関数、擬ポテンシャル、カットオフ、k点、DFT+U の値が違えば、結果も変わります。同じ構造を3つの大きなデータベースで計算しても、バンドギャップの中央値の差は約9%、金属か絶縁体かの判定が最大7%の記録で食い違いました事実[参考資料4]
この記事を読む前に知っておくこと

本シリーズの共通のたとえでは、DFT は「電子の振る舞いから材料の性質を計算する物理シミュレーション」です(近似を含み、実測と一致するとは限りません)。計算は安く速く候補を出し、実験は本当にそうかを確かめ、AI は探す場所を絞る、という分担の中で、DFT は「計算」の担当です。「eV(電子ボルト)」はエネルギーの単位で、1 eV ≒ 96.5 kJ/mol です(標準の換算値)。「基底状態」は、エネルギーが最も低い状態です。

シリーズの中での位置

「量子化学・材料シミュレーション」編(電子相関と、厳密な計算の限界)、「材料データベースとFAIR原則」編(計算データの置き場所)の次に、この記事(DFT 自体の読み方)を読むと流れが分かります。計算を大量に回す「高スループット計算」編、DFT の代わりを学習する「機械学習原子間ポテンシャル」編、DFT の結果を学習データにする「グラフニューラルネットワーク」編につながります。

2. DFT は何を計算するのか

物質の性質は、電子のふるまいで決まります。しかし、電子が多いと、1つずつ追う計算は、とても重くなります(その理由は、本シリーズ「量子化学・材料シミュレーション」編で説明しています)。そこで DFT は、考え方を変えます。

  • 1964年(Hohenberg と Kohn):基底状態のエネルギーは、電子の密度(空間のどこに電子がどれだけいるか)で、完全に決まる事実[参考資料1]。電子を1つずつ追わなくても、「密度の地図」だけで足りる、という定理です事実[参考資料5]。
  • 1965年(Kohn と Sham):実際の「互いに影響し合う電子」の問題を、「互いに影響しない電子が、有効な力の場の中を動く」問題に置きかえる方法を示しました事実[参考資料6]。力の場は、密度で決まります。
①原子配置から出発し、②電子状態を反復して求め、③エネルギーや力などを取り出す概念です。実際の収束条件は元図で確認できます。
図2 概念画像(ImageGen生成)。①原子配置から出発し、②電子状態を反復して求め、③エネルギーや力などを取り出す概念です。実際の収束条件は元図で確認できます。実在の製品・施設・測定結果ではありません。拡大模型、線・矢印・色は説明用です。
元のSVG・数値・出典を確認する
DFT の計算の流れ:電子の「密度」を、無矛盾になるまで繰り返し直す(概念図)① 原子の種類と位置、計算の設定を決める② 電子の密度 n(r) の最初の見当をつける③ その密度から、電子が感じる力の場を作る④ 1電子の方程式(Kohn-Sham)を解く⑤ 新しい密度を作る⑥ 前の密度と同じになったか?いいえ:③へ戻る⑦ はい:エネルギー・力・バンド構造などを出すはいたとえ:群衆の動きを、1人ずつ追う代わりに、「人の混み具合の地図(密度)」から予測する。混み具合が人の動きを決め、人の動きが混み具合を決める。その食い違いがなくなるまで、地図を描き直す。たとえの限界:地図(密度)だけから出る量は厳密に決まるが、実際の計算では「地図から力を出す式」(汎関数)を近似する。この近似が、誤差の主な原因になる(後の章)。

元SVGの説明:概念図(ベクター作図)。DFT の計算の流れ。密度を仮に決め、力の場を作り、方程式を解き、新しい密度が前と同じになるまで繰り返す。

この方法では、力の場が密度で決まり、密度は力の場の中の電子の状態で決まります。そこで、密度を仮に決める → 力の場を作る → 方程式を解く → 新しい密度を作るを、前後の密度が同じになる(無矛盾になる)まで繰り返します。これが「自己無撞着(SCF)の計算」です。Kohn のノーベル講演は、この枠組みを、「密度を基本の変数にすること」「Hohenberg-Kohn の変分原理」「自己無撞着な Kohn-Sham 方程式」の順に説明しています事実[参考資料2]。

つまずきやすいところ:理論は「厳密」なのに、なぜ「近似」なのか

定理は、「正しい汎関数(密度からエネルギーを出す式)が存在する」ことを保証します。しかし、その式の正確な形は、分かっていません。実際の計算では、その式を近似(LDA、GGA など)して使います。誤差の主な原因は、この近似です。この点は、図の最後の「たとえの限界」で触れたとおりで、次の「近似の階段」の章で詳しく説明します。

3. 何が分かり、何が分からないか

DFT の結果を素材の判断に使うには、「何が分かり、何が分からないか」を先に知ることが大切です。

DFT が直接扱える範囲と、扱えない範囲(概念図・目安)扱う大きさ(対数の目安)電子・原子(Å)数十〜数百原子(約1 nm)千原子ほど(数 nm)微細組織(µm)部品・製品(mm〜m)緑:DFT が直接扱う 橙:標準的な計算コストの限界に近い(本文の「コスト」の章) 灰:DFT の外(別の手法・実験)分かること(基底状態)原子配置のエネルギー、安定な構造結合の強さ、生成エネルギー弾性(硬さの目安)、力フォノン(格子振動)反応・拡散の障壁(原子の動き)注意が要ることバンドギャップ(過小評価の傾向)励起状態・光吸収強く相関した電子(磁性酸化物など)ファンデルワールス力(補正が要る)欠陥・界面・表面(大きなセルが要る)直接は分からないこと有限温度の長い時間の振る舞い結晶粒・析出物などの微細組織合成条件・プロセス・不純物の実際材料の寿命・信頼性コストや製造のしやすさ材料の実際の性能は、DFT が直接答えない層(組織・プロセス)で決まることが多い。DFT は「候補の絞り込みと、メカニズムの理解」の道具。
図3 概念図(ベクター作図)。DFT が直接扱える大きさと、分かること・注意が要ること・直接は分からないこと(目安)。
知りたいことDFT で説明
安定な構造・結合の強さ分かる原子配置のエネルギーと力から、構造を最適化できる(Kohn-Sham の枠組みの基本)
生成エネルギー・安定性おおむね分かる(誤差に注意)OQMD の検証では、実験の生成エネルギー1,670件との平均絶対誤差が 0.096 eV/原子。実験どうしの食い違いも 0.082 eV/原子で、誤差の一部は、実験の不確かさによると考察されている事実[参考資料7]
フォノン(格子振動)分かる密度汎関数摂動論で、結晶のフォノンなどを計算する方法が整理されている事実[参考資料8]
反応・拡散の障壁分かる(原子の動き)NEB 法で最小エネルギー経路と鞍点を求める。平面波の DFT での適用例がある事実[参考資料9]
バンドギャップ注意が要る多くの汎関数で過小評価される(次章)
励起状態・光吸収基本形では不得手励起状態の第一原理計算は、基底状態の DFT より大きな計算が必要で、GW 近似や Bethe-Salpeter 方程式などが使われる事実[参考資料10]
有限温度・長時間・微細組織・プロセス直接は分からないDFT は、原子数百〜千個ほどの、基底状態の計算が中心。実際の材料の性能は、組織や不純物、プロセスで決まることが多い(本記事による解説)

表の整理は本稿の計算(整理)。確認日 2026年10月23日。

よくある誤解:「計算で安定と出た材料は、作れる」

DFT の「安定」は、0 K での、その組成の中での比較です(Materials Project の用語集も、凸包は温度の軸を持たず、0 K の予測だと説明しています事実[参考資料11])。合成できるかは、速度論(反応の速さ)、不純物、合成条件にも左右されます。計算は「候補を出す」役で、「本当に作れるか」は実験が確かめます。

4. 近似(汎関数)という階段

実際の DFT 計算の精度を決めるのが、交換相関汎関数(密度からエネルギーの難しい部分を出す式の近似)の選び方です。Perdew は、汎関数の近似を、「ヤコブの梯子」にたとえました。低い段は、その場の密度だけを使い、高い段は、密度から作る、より複雑な量(密度の勾配、軌道など)を入れて、満たせる厳密な条件を増やしていきます事実[参考資料12]。

近似の「階段」:上へ行くほど材料が増え、計算も重くなるのが一般的な傾向(概念図)近似の名前と、使う材料例材料計算での使われ方第4段厳密交換の一部も使う(ハイブリッド)HSE06、PBE0バンドギャップの改善に使われる(Borlido ら)第3段運動エネルギー密度なども使う(meta-GGA)SCAN、r²SCANMaterials Project が再計算を進行中第2段密度とその勾配を使う(GGA)PBE材料データベースで広く使われる第1段その場の密度だけを使う(LDA)LDA最も簡単。ギャップは約40%過小(Perdew と Levy)「段が上=いつも正確」ではない。Perdew は、上の段ほど複雑な材料(密度や軌道から作る量)を入れ、満たせる厳密な条件が増えると説明している。Medvedev らは、近年の一部の汎関数が、経験的なフィットのために、電子の密度の正しさでは後退したと指摘している。目的の物性ごとに、確かめられた汎関数を選ぶ。
図4 概念図(ベクター作図)。汎関数の近似の「階段」。上の段ほど使う量が増え、計算が重くなるのが一般的な傾向。
  • LDA(局所密度近似):その場所の密度だけを使う、最も簡単な近似です(Kohn-Sham の原論文と、Kohn のノーベル講演で説明されています)事実[参考資料2]。
  • GGA(PBE など):密度の勾配も使います。PBE は、パラメータが基本定数だけで決まる、簡単な GGA として導かれました事実[参考資料13]。材料のデータベースで最も広く使われる汎関数の1つです(Materials Project の通常の計算は PBE(GGA)です事実[参考資料14])。
  • meta-GGA(SCAN、r²SCAN):さらに、軌道から作る量を使います。SCAN は、meta-GGA が満たせる17個の厳密な条件をすべて満たす最初の汎関数で、特に格子定数や弱い相互作用で、優れた精度を示すとされます事実[参考資料15]。r²SCAN は、数値的な扱いやすさを改良した rSCAN に、厳密な条件の遵守を戻したものです事実[参考資料16]。
  • ハイブリッド(HSE06、PBE0 など):厳密な交換(Hartree-Fock の交換)の一部を混ぜます。固体や金属では、厳密交換の計算が高価なので、HSE は遮蔽したクーロン相互作用を使って、この負担を避けました事実[参考資料17]。
つまずきやすいところ:どれを選べばよいのか

「いつも最良」の汎関数は、ありません。Haas らは、固体の格子定数について、新しい GGA 系の汎関数が、LDA や PBE を改善することが多いが、「調べたすべての固体で良いものはない」と述べました事実[参考資料18]。Mardirossian と Head-Gordon は、分子のデータベース(約5,000点)で200の汎関数を比べ、推奨を示しましたが、これは分子での結果です事実[参考資料19]。Medvedev らは、近年の一部の汎関数が、エネルギーは良くなっても、電子の密度の正しさでは、2000年代初めから後退したと指摘しています事実[参考資料1]。目的の物性・材料の種類ごとに、確かめられた汎関数を選ぶのが基本です(本記事による解説)。

素材技術者の視点①:論文の「PBE で計算」は、前提の宣言です

汎関数が違えば、同じ材料でも、違う値が出ます。ですから、計算値を比べるときは、同じ汎関数・同じ設定の値どうしで比べるのが原則です。Materials Project は、PBE(GGA)、DFT+U、r²SCAN の計算を混ぜるときのために、エネルギーを補正して、1つの相図に載せる方法を用意しています事実[参考資料20]。これは、「異なる汎関数の値は、そのままでは比べられない」ことの裏返しです。

5. 誤差の典型例

(1) バンドギャップの過小評価

DFT で最もよく知られる誤差が、バンドギャップの過小評価です。Perdew と Levy(1983)は、局所密度近似が、半導体・絶縁体の基本ギャップを約40%過小評価すること、そして、厳密な Kohn-Sham の理論でも、交換相関エネルギーの微分の不連続のために、ギャップは過小になると予想されることを論じました事実[参考資料21]。Sham と Schlüter は、真のギャップには、この不連続による補正が加わることを示しました事実[参考資料22]。

Materials Project の文書は、「Kohn-Sham のエネルギーと、実際の電子のエネルギーの対応が、理論的に正しいのは、最も高い占有状態だけ」だと説明し、LDA や GGA のギャップは、文献では約50%過小、同プロジェクトの内部試験(237化合物)では、平均で約1.6分の1、定数のずれを補正しても、平均絶対誤差が 0.6 eV だと述べています事実[参考資料23]。

バンドギャップは、汎関数によって大きく違う:472材料の実験値との差(Borlido ら 2019)平均の誤差(符号つき)と、絶対誤差の平均(eV)-1.2-0.8-0.400.40.8← 実験より小さい  実験より大きい → (eV)LDA-1.2MAE 1.2PBE-1.0MAE 1.1SCAN-0.7MAE 0.8mBJ-0.2MAE 0.5HSE06-0.1MAE 0.5PBE0+0.5MAE 0.8読み方棒:平均の誤差(実験との差の平均)。左向き=過小評価。赤い数字:絶対誤差の平均(MAE)。偽の金属(ギャップが 0.01 eV 未満と計算された絶縁体・半導体)LDA: 35 / 472PBE: 31 / 472SCAN: 19 / 472mBJ: 11 / 472HSE06: 10 / 472PBE0: 5 / 472Materials Project の内部試験(237化合物):PBE系のギャップは実験の平均 1.6分の1。ずれを補正しても MAE は 0.6 eV。出典:Borlido ら(2019)の表1(実験の構造と実験のギャップが分かる472の非磁性材料。計算はコンスタントな条件)。四捨五入した値。mBJ はギャップのために作られたポテンシャルで、他の汎関数とは目的が違う。Perdew と Levy(1983):局所密度近似は半導体・絶縁体の基本ギャップを約40%過小評価する。厳密な理論でも、交換相関エネルギーの微分の不連続のため、Kohn-Sham のギャップは過小になると論じた。
図5 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。472材料の実験のバンドギャップとの差(Borlido ら 2019 の表1の値を作図)。
  • Borlido らは、実験の構造とギャップが分かる472の非磁性材料で、12の汎関数を比べました。結果の一部(四捨五入)は、PBE のギャップの平均誤差が約 −1.0 eV、絶対誤差の平均 1.1 eV、HSE06 は −0.1 eV・0.5 eV、mBJ は −0.2 eV・0.5 eV でした事実[参考資料3]。
  • PBE は、472個のうち31個(6.6%)を「金属」と誤って計算しました(ギャップが 0.01 eV 未満)。HSE06 では10個でした事実[参考資料3]。
  • mBJ は、バンドギャップのために作られたポテンシャルで、他の汎関数とは目的が違います。この研究は、mBJ が現時点で最良、HSE06 がそれに近い、と結論しました事実[参考資料3]。
  • Perdew らは、一般化 Kohn-Sham 理論では、meta-GGA やハイブリッドのバンドギャップが、GGA や厳密な Kohn-Sham のギャップより、現実的になりうる理由を説明しています事実[参考資料24]。
よくある誤解:「DFT のバンドギャップは、実測と同じ意味の値」

通常の(PBE などの)DFT のギャップは、実測のギャップの代わりには使えません。系統的に小さく、半導体・絶縁体が「金属」と出ることもあります。「バンド構造の形(バンドの分散)は、ある小さな試験で、誤差0.1〜0.4 eV 程度で実験と合う」とされますが、ギャップは別です。ギャップを使うなら、①ハイブリッド汎関数などの、より高い近似を使う、②定数のずれの補正(シザー補正)を、実験との比較で決める、③相対的な傾向(材料の間の順序)だけを使う、のいずれかを、明記してください事実[参考資料23]。

(2) 遷移金属の酸化物:自己相互作用誤差と DFT+U

遷移金属の d 電子や、酸化物では、GGA に別の誤差があります。Perdew と Zunger(1981)は、近似的な汎関数が、電子が自分自身と反発する「自己相互作用」を持ち、厳密な汎関数はそうならないことを指摘し、補正を提案しました事実[参考資料25]。Wang らは、遷移金属酸化物の酸化エネルギーに、2つの大きな誤差があるとしました。1つは、GGA での O₂ 分子の過剰な結合(酸素が分子のときだけ生じる、定数の誤差)、もう1つは、3d 軌道の相関の誤差(自己相互作用が、還元された状態を不利にする)です。前者は、単純な酸化物の生成エンタルピーのフィットで補正でき、後者は、GGA+Uで扱えて、妥当で一貫した U の値で、酸化エネルギーが実験とよく合うと報告しました事実[参考資料26]。

DFT+U は、d 電子などに、Hubbard の U(同じ軌道の2電子の反発を表すパラメータ)を足す方法で、Anisimov らが Mott 絶縁体のために、Dudarev らが NiO の電子エネルギー損失スペクトルと構造安定性のために使いました事実[参考資料27・28]。Materials Project では、Co、Cr、Fe、Mn、Mo、Ni、V、W の酸化物・フッ化物に、実験の生成エンタルピーにフィットして決めた Uを使っています(V の U は 3.25 eV)事実[参考資料29]。Jain らは、GGA と GGA+U の総エネルギーを混ぜる方法で、49種類の三元酸化物の、生成エンタルピーの平均絶対相対誤差を、GGA+U の約7.7〜21%から2%未満に減らせたと報告しています事実[参考資料30]。

つまずきやすいところ:U は「物理定数」ではなく、「調整値」です

Materials Project の U は、実験データにフィットして決めた値で、系(酸化物・フッ化物)ごとに較正されています事実[参考資料29]。ですから、U を使った計算は、「その U の値で、その種類の化合物には合うように調整された計算」です。別の物性(ギャップ、磁性など)や、別の種類の化合物(硫化物など)には、そのまま当てはまるとは限りません(本記事による解説)。

(3) その他の典型例

  • ファンデルワールス力:標準的な Kohn-Sham の DFT には、これが含まれません。Grimme らの DFT-D は、94元素に使える分散補正を、追加の項として加える方法です事実[参考資料31]。層状材料や分子結晶では、補正の有無が、結果を左右します。
  • 格子定数:PBE は、固体の構造で、多くの場合に優れた結果を与える、とされます。他の GGA 系の汎関数との間では、すべての固体で良いものはありません事実[参考資料18]。
  • データベース間の食い違い:下の「再現性と信頼性」の章で扱います。

6. 計算条件の読み方

論文やデータベースの計算値を読むときは、「計算条件」の欄を、必ず確かめます。主な項目と、読み方の注意を、次の表にまとめます。

条件の項目意味読み方の注意
汎関数交換相関エネルギーの近似(LDA、PBE、SCAN、HSE06 など)異なる汎関数の値は、そのままでは比べない。誤差の傾向が違う
DFT+U と U の値d・f 電子の自己相互作用誤差を補う調整どの元素に、いくつの U か。調整の対象(酸化物など)は何か
擬ポテンシャル・PAW内殻の電子を、計算しやすい形に置きかえる近似(PAW は Blöchl の方法)事実[参考資料32]元素ごとにいくつもの版がある。選び方で、熱力学の結果が変わる例がある
カットオフエネルギー平面波の基底の大きさ低すぎると未収束。目的の物性の許容誤差まで、上げて確かめる
k点ブリルアン帯の分割の細かさ(Monkhorst-Pack の方法など)事実[参考資料33]金属は細かくする。セルが大きいほど、少なくてよい
収束の基準SCF と構造最適化の、終わりの条件弾性やフォノンなど、厳密な構造が要る計算には、厳しくする
スピン・磁気の配置磁性の有無と、磁気モーメントの向き磁気秩序の選び方で、エネルギーが変わる。データベース間で、磁性の判定が食い違うことがある
セルの大きさ欠陥・界面・表面は、周期的な大きなセルで表すセルが小さいと、欠陥どうしが相互作用してしまう
ソフトウェアと版VASP、Quantum ESPRESSO など同じ設定でも、コードの実装の違いが出る(次章)

表の整理は本稿の計算(整理)。Materials Project の文書など、一次情報にもとづく解説。確認日 2026年10月23日。

例:Materials Project の計算条件

  • 通常の計算(PBE/PBE+U):PAW 法、平面波のカットオフ 520 eV(使う擬ポテンシャルが推奨する最大の値の1.3倍)、k点は「1000÷セル内の原子数」の基本の密度、Monkhorst-Pack の方法(六方晶は Γ中心)、四面体法で積分、構造最適化の終了条件は、1セルあたり 0.0005×(原子数)の、エネルギー差事実[参考資料14]。
  • 収束の確認:旧設定(k点 500/原子)で試した化合物の大半は、全エネルギーが 5 meV/原子以内、96%が 15 meV/原子以内に収束し、酸化物は 1 meV/原子未満が多かった、と記載されています事実[参考資料14]。
  • r²SCAN の計算:カットオフ 680 eV、k点は KSPACING 0.22〜0.44 Å⁻¹(GGA で見積もったギャップから決める)、21種の材料の試験で、生成エネルギーが約 1 meV/原子で収束するように選んだ、と記載されています事実[参考資料34]。
  • 現状(確認日):Materials Project のデータベースの最新版は v2026.09.28(2026年10月19日に公開)で、全材料の r²SCAN での再計算が進行中です(2026年4月版の記載で、非 GNoME の材料の約26%。この再計算のデータは、まだ中核の材料のデータに統合されていない)事実[参考資料35]。
計算条件の「収束」:設定を上げていくと、エネルギーが落ち着く(形の模式図)平面波のカットオフ(基底の大きさ)カットオフ エネルギー →全エネルギーの変化許容の範囲k点の細かさ(ブリルアン帯の分割)k点の細かさ →全エネルギーの変化許容の範囲左は、単調に下がる形。右は、k点の場合で、細かくしても少し上下しながら落ち着く(特に金属)。どちらも、目的の物性の許容誤差の中に入るまで上げて、結果が変わらないことを確かめる。曲線の形は説明用で、実際の値ではない。Materials Project は、k点 500/(原子数)の旧設定で、試した化合物の大半が 5 meV/原子以内、96%が15 meV/原子以内に収束したと記載している。
図6 概念図(ベクター作図)。計算条件の収束の模式図(曲線の形は説明用で、実際の値ではない)。
つまずきやすいところ:「収束した」とは

設定(カットオフ、k点)を上げても、目的の物性が、許容する範囲より大きく変わらないことです。全エネルギーそのものより、エネルギーの差(生成エネルギー、障壁など)が先に収束することが多いので、差で確かめます。目的が、ギャップやフォノンなら、その物性で確かめる必要があります(本記事による解説)。

7. コストと規模

DFT の計算量は、原子の数とともに、急に増えます。Bowler と Miyazaki の総説は、標準的な方法の計算量は、原子数の3乗で増え(線形スケーリングの方法は、原子数に比例)、原子が千個ほどで、急に重くなると説明しています。また、数百原子では、直交化が最も高価な段階になる、とも述べています事実[参考資料36]。

原子数が増えると、標準的なDFTの計算量は約3乗で増える(本稿の計算)原子数 N と、相対的な計算量(N³ の仮定)10^010^210^410^610^8101001000原子数 N×1×1,000×1,000,000k点とスーパーセルの例4原子のセル、k点 8×8×8=512個。同じ結晶を 2×2×2 倍にした32原子のセルでは、k点 4×4×4=64個で同じ細かさ。計算量 ∝ (k点の数)×(原子数)³ と仮定すると、(64÷512) × (32÷4)³ = 0.125 × 512 = 64倍。欠陥・界面・表面は大きなセルが要るため、計算量が急に増える。Bowler と Miyazaki の総説:標準的な方法の計算量は原子数の3乗で増え、原子が千個ほどで急に重くなる。数百原子では直交化が最も高価な段階になる。
図7 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。原子数と計算量(3乗の仮定)、およびスーパーセルとk点の例。
  • 3乗で増えるという仮定では、原子数が10倍(10→100)になると、計算量は1,000倍、100倍(10→1000)になると、100万倍です本稿の計算。
  • 結晶のセルを、2×2×2倍のスーパーセルにすると、原子数は8倍になりますが、k点は 8×8×8(512個)から 4×4×4(64個)に減ります。計算量を「k点の数×原子数の3乗」と仮定すると、(64÷512)×(32÷4)³=64倍です本稿の計算。欠陥・界面・表面(大きなセルが必要)の計算が、重くなる理由がここにあります。
  • この数え方は、標準的な方法の形式的なスケーリングの仮定です。実際の計算時間は、コード、並列化、材料(金属か絶縁体か)で変わります。

8. 再現性と信頼性

「同じ材料を、別の人が、別のソフトで計算したら、同じ値になるか」は、素材技術者にとって、大切な問いです。

同じ構造を3つのDBで計算しても、値は違う:AFLOW・Materials Project・OQMD(Hegde ら 2023)DB の組の間の差の中央値(相対値、%)生成エネルギー6%最大 0.105 eV/原子体積4%最大 0.65 ų/原子バンドギャップ9%最大 0.21 eV全磁気モーメント8%最大 0.15 µB/組成式判定そのものが食い違う割合金属か絶縁体か:最大 7%磁性があるか:最大 15%原因として、擬ポテンシャルの選択、DFT+U の扱い、元素の基準状態の選び方が挙げられている。生成エネルギーと体積は比較的そろい、バンドギャップと磁気は、そろいにくい。差の大きさは、DFT と実験の差と同程度とされる。参考:Lejaeghere ら(2016)は、15の計算コード・40種の擬ポテンシャル/基底で、71の単体結晶の状態方程式(PBE)を比べ、新しいコードと擬ポテンシャルは、高精度の実験どうしの差と同程度に一致すると報告した。
図8 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。同じ構造を3つのデータベースで計算したときの差(Hegde ら 2023 の値を作図)。
  • コード間の一致(検証):Lejaeghere らの共同研究は、15の固体の計算コード、40種の擬ポテンシャルや基底で、71の単体結晶の PBE の状態方程式を比べ、新しいコードと擬ポテンシャルは、高精度の実験どうしの差と同程度に、よく一致すること、古い方法は、一致が劣ることを示しました事実[参考資料37]。Bosoni らの Expert Recommendation は、この検証を、水素からキュリウム(Z=1〜96)の960の状態方程式に広げた手順を提案しています事実[参考資料38]。Prandini らは、擬ポテンシャルのライブラリを、全電子計算との比較などで検証し、高スループット向け(効率)と高精度向けの組(SSSP)を示しました事実[参考資料39]。
  • データベース間の一致:Hegde らは、AFLOW、Materials Project、OQMD で、同じ結晶構造から出発した計算を比べ、生成エネルギーと体積は比較的そろい、バンドギャップと磁気モーメントは、そろいにくいことを示しました。金属か絶縁体かの判定で最大7%、磁性の有無で最大15%の記録が食い違い、差の大きさは、DFT と実験の差と同程度でした。原因として、擬ポテンシャル、DFT+U、元素の基準状態の選び方が挙げられています事実[参考資料4]。
  • 実験との差:OQMD の検証では、DFT と実験の生成エネルギーの差(0.096 eV/原子)が、実験どうしの差(0.082 eV/原子)に近く、誤差の一部は、実験の不確かさによると考察されています事実[参考資料7]。
素材技術者の視点②:「計算値」を読むときの3つの習慣

①絶対値より、同じ条件の「差」を見る(同じ汎関数・設定で、材料Aと材料Bの比較、構造Aと構造Bの比較)。②誤差の大きさと、判断の幅を比べる(たとえば、生成エネルギーの誤差が約0.1 eV/原子なら、それより小さい差で、安定・不安定を決めない)。③ギャップ・磁性は、定性的に読む(データベース間でも食い違う量)。DFT の値は、実験値のように書かず、「計算値(PBE、○○ソフト)」と書いて区別します(本記事による解説)。

設定を変えて結果が十分に落ち着くか、参照データと合うかを確認します。計算が終了したことだけで、正しい物性が得られたとは限りません。
図9 概念画像(ImageGen生成)。設定を変えて結果が十分に落ち着くか、参照データと合うかを確認します。計算が終了したことだけで、正しい物性が得られたとは限りません。実在の製品・施設・測定結果ではありません。拡大模型、線・矢印・色は説明用です。

9. 素材技術者から見て

素材技術者の視点③:DFT に、どんな問いを出すか

DFT が得意な問いは、「Aの構造とBの構造のどちらが安定か」「この元素を入れると、結合はどう変わるか」「この欠陥は、どれくらい入りやすいか」「この経路のイオンの動きやすさ」のように、原子スケールの、エネルギーの比較です。苦手な問いは、「この材料は、実際に、この温度で、何年もつか」のように、組織・プロセス・時間が効く問いです。計算に出す問いを、①原子スケールの比較に直す、②実験で確かめる量(相の同定、容量、拡散係数)と結ぶ、と考えると、DFT を役立てやすくなります(本記事による解説)。

素材技術者の視点④:計算の結果を、実験で確かめる設計

計算で「安定」「ギャップが適当」と出た候補は、①目的の相ができたか(粉末X線回折などで、既知の化合物と区別)、②再現するか(別のロット)、③不純物・乱れの影響、④対照(既知の材料)と、同じ測定で比べたか、を順に確かめます。計算の条件(汎関数など)と、実測との差を、記録しておくと、次の計算の信頼度の判断に使えます(本記事による解説)。

10. 限界と、確認できなかったこと/まとめ

(1) 確認できなかったこと

  • Borlido らの全12汎関数の数値と、材料ごとの誤差は、本稿では、主な汎関数(LDA、PBE、SCAN、mBJ、HSE06、PBE0)の要約にとどめました。
  • Haas らの格子定数の誤差の具体的な数値は、要旨の範囲にとどめ、確認していません。
  • Materials Project の最新の再計算の進み具合は、確認日に近い版(2026年4月版)の記載にとどめ、最新の数値は確認していません。
  • 計算量の「3乗」は形式的な見積りで、各コードの実測の計算時間は、本稿では確認していません。
  • DFT の計算結果の評価や、再現性を定める国際標準(ISO/IEC など)は確認できませんでした。
この記事のまとめ
  • DFT は、電子の密度から基底状態のエネルギーを決める定理にもとづき、密度を繰り返し直して計算します。理論は厳密でも、汎関数の近似が、誤差の主な原因です事実
  • 分かること:構造・結合・生成エネルギー・フォノン・障壁。注意が要ること:バンドギャップ・励起・強相関・ファンデルワールス力。直接は分からないこと:組織・プロセス・時間。事実
  • バンドギャップは、PBE で系統的に小さく、472材料で平均約 −1.0 eV、31材料が偽の金属でした。ハイブリッドや mBJ は、誤差が小さい傾向です事実
  • 計算値は、条件つきの値です。汎関数・DFT+U・擬ポテンシャル・カットオフ・k点を確かめ、同じ条件どうしで比べます。データベース間でも、ギャップや磁性は食い違います事実
  • コストは原子数の約3乗で増えます。欠陥・界面は大きなセルが必要で、重くなります本稿の計算

11. 評価・標準の読み方

DFT の「ものさし」は、まず実験値との差(生成エネルギー、格子定数、バンドギャップ)です。次に、コードやデータベースの間の一致(検証)、収束(設定を上げても結果が変わらないか)です。実験との差は「手法の誤差」、コード間の差は「実装の精度」、というように、何を測るものさしかを分けて読みます。確認日は2026年10月23日です。

評価項目代表的なベンチマーク・評価手法(名称・出典)標準・指針(ISO/IEC・NIST など)読み方の注意
コード間の一致(検証)Δ 値などによる、71の単体結晶の状態方程式の比較(Lejaeghere ら 2016)[参考資料37]事実
960の状態方程式の検証手順(Bosoni ら 2024)[参考資料38]事実
擬ポテンシャルの検証(SSSP、Prandini ら 2018)[参考資料39]事実
確認できなかった(DFT の実装の検証を定める国際標準は確認していない)単体結晶(PBE)での検証。化合物や、他の汎関数に、そのまま当てはまるとは限らない
汎関数の精度バンドギャップ:472材料(Borlido ら 2019)[参考資料3]。固体の格子定数(Haas ら 2009)[参考資料18]。分子:約5,000点・200汎関数(Mardirossian と Head-Gordon 2017)[参考資料19]事実確認できなかったベンチマークの材料の種類(分子・固体・非磁性など)に限った結果
生成エネルギー(実験との比較)OQMD:1,670件の実験の生成エネルギーとの比較(Kirklin ら 2015)[参考資料7]事実確認できなかった実験どうしにもばらつき(0.082 eV/原子)がある
データベース間の一致AFLOW・Materials Project・OQMD の比較(Hegde ら 2023)[参考資料4]事実確認できなかったギャップ・磁性は食い違いやすい。計算条件の標準化が望まれる、と著者は述べる
計算手法の総合比較JARVIS-Leaderboard:電子構造の手法・ソフト・擬ポテンシャルを、実験と比べる枠組み(NIST、Choudhary ら 2024)[参考資料40]事実確認できなかった公開の比較の場。自社の材料系を含むかを確かめる

表の整理は本稿の計算(整理)。論文・公式ページで確認(確認日 2026年10月23日)。DFT に特化した国際標準は確認できなかったため、標準の欄は「確認できなかった」としています。

読み方の注意(素材技術者向け)

  • ベンチマークの順位と、自社の材料での実力は別です:Borlido らの材料は、実験の構造がある非磁性材料です。磁性材料や、欠陥・界面は、別の確認が要ります[参考資料3]
  • 検証(コードどうしの一致)と、妥当性(実験との一致)は別です:Lejaeghere らが示したのは、コード間の一致で、PBE が実験に合うことではありません[参考資料37]
  • 計画と達成を区別してください:Materials Project の r²SCAN の再計算は進行中で、データの統合は途中です(未確定/将来)[参考資料35]

12. 用語集

DFT(密度汎関数理論)
電子の密度から基底状態のエネルギーを決める理論と、それにもとづく計算法。
電子密度 n(r)
空間のどこに、電子がどれだけいるかの分布。
基底状態
エネルギーが最も低い状態。
Kohn-Sham 方程式
互いに影響しない電子が、有効な力の場の中を動く、という問題に置きかえた方程式。
SCF(自己無撞着)
密度と力の場を、食い違いがなくなるまで繰り返し直す計算。
交換相関汎関数
電子どうしの複雑な効果を、密度から評価する式の近似。誤差の主な原因。
LDA/GGA/meta-GGA/ハイブリッド
汎関数の近似の段。順に、使う量が増える。
PBE
広く使われる GGA の汎関数。材料データベースの標準。
SCAN/r²SCAN
meta-GGA の汎関数。厳密な条件を満たすように作られた。
HSE06
遮蔽したクーロン相互作用を使うハイブリッド汎関数。固体向け。
バンドギャップ
電子が詰まった状態と、空の状態の間のエネルギーの隔たり。
偽の金属
実際は半導体・絶縁体なのに、ギャップが 0 と計算される誤り。
自己相互作用誤差
電子が自分自身と反発してしまう、近似の誤差。d 電子で目立つ。
DFT+U
d・f 電子に、Hubbard の U を足して、自己相互作用誤差を補う方法。
擬ポテンシャル/PAW
内殻の電子を、計算しやすい形に置きかえる近似。
カットオフエネルギー
平面波の基底の大きさを決める値。
k点
ブリルアン帯の中の、積分に使う点。数が多いほど細かい。
収束
設定を上げても、結果が許容の範囲で変わらなくなること。
スーパーセル
結晶のセルを、何倍かに繰り返した大きなセル。欠陥の計算に使う。
フォノン
結晶の格子振動の量子。
NEB 法
反応や拡散の、最小エネルギー経路を求める方法。
GW 近似
励起状態(バンドギャップなど)を、DFT より高い精度で求める方法。
検証(verification)
計算コードの間で、同じ問題の答えが一致するかを確かめること。

13. 参考資料(一次情報)

  1. Medvedev M. G. ほか "Density functional theory is straying from the path toward the exact functional", Science 355, 49–52 (2017), DOI 10.1126/science.aah5975 — doi.org/10.1126/science.aah5975
  2. Kohn W. "Nobel lecture: electronic structure of matter — wave functions and density functionals", Rev. Mod. Phys. 71, 1253–1266 (1999), DOI 10.1103/RevModPhys.71.1253 — doi.org/10.1103/RevModPhys.71.1253
  3. Borlido P. ほか "Large-scale benchmark of exchange-correlation functionals for the determination of electronic band gaps of solids", J. Chem. Theory Comput. 15, 5069–5079 (2019), DOI 10.1021/acs.jctc.9b00322 — doi.org/10.1021/acs.jctc.9b00322
  4. Hegde V. I. ほか "Quantifying uncertainty in high-throughput density functional theory: a comparison of AFLOW, Materials Project, and OQMD", Phys. Rev. Mater. 7, 053805 (2023), DOI 10.1103/PhysRevMaterials.7.053805 — doi.org/10.1103/PhysRevMaterials.7.053805
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  8. Baroni S. ほか "Phonons and related crystal properties from density-functional perturbation theory", Rev. Mod. Phys. 73, 515–562 (2001), DOI 10.1103/RevModPhys.73.515 — doi.org/10.1103/RevModPhys.73.515
  9. Henkelman G., Uberuaga B. P., Jónsson H. "A climbing image nudged elastic band method for finding saddle points and minimum energy paths", J. Chem. Phys. 113, 9901–9904 (2000), DOI 10.1063/1.1329672 — doi.org/10.1063/1.1329672
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  14. Materials Project "Documentation: GGA/GGA+U calculations — Parameters and convergence", (Materials Project documentation) — docs.materialsproject.org/methodology/materials-methodology/calculation-details/gga+u-calculations/parameters-and-convergence
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  26. Wang L., Maxisch T., Ceder G. "Oxidation energies of transition metal oxides within the GGA+U framework", Phys. Rev. B 73, 195107 (2006), DOI 10.1103/PhysRevB.73.195107 — doi.org/10.1103/PhysRevB.73.195107
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  33. Monkhorst H. J., Pack J. D. "Special points for Brillouin-zone integrations", Phys. Rev. B 13, 5188–5192 (1976), DOI 10.1103/PhysRevB.13.5188 — doi.org/10.1103/PhysRevB.13.5188
  34. Materials Project "Documentation: r2SCAN calculations — Parameters and convergence", (Materials Project documentation) — docs.materialsproject.org/methodology/materials-methodology/calculation-details/r2scan-calculations/parameters-and-convergence
  35. Materials Project "Documentation: Database versions (v2026.09.28 and v2026.04.13 entries; page read on 23 October 2026)", (Materials Project documentation) — docs.materialsproject.org/changes/database-versions
  36. Bowler D. R., Miyazaki T. "O(N) methods in electronic structure calculations", Rep. Prog. Phys. 75, 036503 (2012), DOI 10.1088/0034-4885/75/3/036503 — doi.org/10.1088/0034-4885/75/3/036503
  37. Lejaeghere K. ほか "Reproducibility in density functional theory calculations of solids", Science 351, aad3000 (2016), DOI 10.1126/science.aad3000 — doi.org/10.1126/science.aad3000
  38. Bosoni E. ほか "How to verify the precision of density-functional-theory implementations via reproducible and universal workflows", Nat. Rev. Phys. 6, 45–58 (2024), DOI 10.1038/s42254-023-00655-3 — doi.org/10.1038/s42254-023-00655-3
  39. Prandini G. ほか "Precision and efficiency in solid-state pseudopotential calculations", npj Comput. Mater. 4, 72 (2018), DOI 10.1038/s41524-018-0127-2 — doi.org/10.1038/s41524-018-0127-2
  40. Choudhary K. ほか "JARVIS-Leaderboard: a large scale benchmark of materials design methods", npj Comput. Mater. 10, 93 (2024), DOI 10.1038/s41524-024-01259-w — doi.org/10.1038/s41524-024-01259-w

14. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
基底状態のエネルギーは電子密度で完全に決まること(Hohenberg-Kohn)、有効な力の場の中の独立電子の問題への置きかえ(Kohn-Sham)、Kohn のノーベル講演の構成(密度を基本の変数に、変分原理、自己無撞着な Kohn-Sham 方程式、LDA)出典5 https://doi.org/10.1103/PhysRev.136.B864
出典6 https://doi.org/10.1103/PhysRev.140.A1133
出典2 https://doi.org/10.1103/RevModPhys.71.1253
出典1 https://doi.org/10.1126/science.aah5975
事実
ヤコブの梯子(上の段ほど複雑な量を入れ、満たせる厳密な条件が増える)。PBE(パラメータが基本定数のみの GGA)。SCAN(17個の厳密な条件を満たす最初の meta-GGA、格子定数・弱い相互作用で優れた精度)。r²SCAN(rSCAN に厳密な条件の遵守を戻した)。HSE(遮蔽クーロン相互作用で厳密交換の負担を避ける)。Medvedev らの指摘(一部の汎関数が密度の正しさで後退)出典12 https://doi.org/10.1063/1.1390175
出典13 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.77.3865
出典15 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.115.036402
出典16 https://doi.org/10.1021/acs.jpclett.0c02405
出典17 https://doi.org/10.1063/1.1564060
出典1 https://doi.org/10.1126/science.aah5975
事実
Haas ら:固体の格子定数で、新しい GGA 系は LDA・PBE を改善することが多いが、すべての固体で良いものはない。Mardirossian と Head-Gordon:分子のデータベース(約5,000点)で200の汎関数を評価出典18 https://doi.org/10.1103/PhysRevB.79.085104
出典19 https://doi.org/10.1080/00268976.2017.1333644
事実
Perdew と Levy:LDA はギャップを約40%過小評価し、厳密な Kohn-Sham でも微分の不連続により過小になると予想。Sham と Schlüter:不連続による補正。Perdew ら:一般化 Kohn-Sham 理論で meta-GGA・ハイブリッドのギャップが現実的になりうる理由出典21 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.51.1884
出典22 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.51.1888
出典24 https://doi.org/10.1073/pnas.1621352114
事実
Borlido ら:472の非磁性材料、12の汎関数。LDA・PBE・SCAN・mBJ・HSE06・PBE0 の平均誤差と平均絶対誤差(四捨五入:LDA −1.2・1.2、PBE −1.0・1.1、SCAN −0.7・0.8、mBJ −0.2・0.5、HSE06 −0.1・0.5、PBE0 +0.5・0.8 eV)、偽の金属の数(35・31・19・11・10・5)、mBJ が最良で HSE06 が近いという結論出典3 https://doi.org/10.1021/acs.jctc.9b00322事実
Materials Project:Kohn-Sham 固有値と実際のエネルギーの対応は最高占有状態のみ厳密、LDA・GGA のギャップは文献で約50%過小・内部試験(237化合物)で平均約1.6分の1・補正後も MAE 0.6 eV、バンド分散の誤差 0.1〜0.4 eV(小さな試験)、シザー補正出典23 https://docs.materialsproject.org/methodology/materials-methodology/electronic-structure事実
Perdew と Zunger:自己相互作用。Wang ら:O₂ の過剰な結合と3d 相関の誤差、GGA+U。Anisimov ら・Dudarev ら:DFT+U。Materials Project:Co・Cr・Fe・Mn・Mo・Ni・V・W の酸化物・フッ化物に実験の生成エンタルピーへのフィットで決めた U(V は 3.25 eV)。Jain ら:49種の三元酸化物で誤差を約7.7〜21%から2%未満へ出典25 https://doi.org/10.1103/PhysRevB.23.5048
出典26 https://doi.org/10.1103/PhysRevB.73.195107
出典27 https://doi.org/10.1103/PhysRevB.44.943
出典28 https://doi.org/10.1103/PhysRevB.57.1505
出典29 https://docs.materialsproject.org/methodology/materials-methodology/calculation-details/gga+u-calculations/hubbard-u-values
出典30 https://doi.org/10.1103/PhysRevB.84.045115
事実
Grimme らの DFT-D(94元素)。PAW(Blöchl)。Monkhorst-Pack の k点。Materials Project の計算条件(PBE・PAW、520 eV=推奨最大の1.3倍、k点 1000/原子数、四面体法、収束の記載:旧設定で大半が5 meV/原子以内・96%が15 meV/原子以内)、r²SCAN(680 eV、KSPACING 0.22〜0.44 Å⁻¹、21材料で約1 meV/原子)、異なる汎関数のエネルギーの混合補正出典31 https://doi.org/10.1063/1.3382344
出典32 https://doi.org/10.1103/PhysRevB.50.17953
出典33 https://doi.org/10.1103/PhysRevB.13.5188
出典14 https://docs.materialsproject.org/methodology/materials-methodology/calculation-details/gga+u-calculations/parameters-and-convergence
出典34 https://docs.materialsproject.org/methodology/materials-methodology/calculation-details/r2scan-calculations/parameters-and-convergence
出典20 https://docs.materialsproject.org/methodology/materials-methodology/thermodynamic-stability/thermodynamic-stability/gga-gga+u-r2scan-mixing
事実
Materials Project のデータベース版 v2026.09.28(2026年10月19日公開)、2026年4月版の記載(r²SCAN の再計算が非 GNoME 材料の約26%、中核データには未統合)。用語集の凸包の説明(温度の軸がなく0 K の予測)出典35 https://docs.materialsproject.org/changes/database-versions
出典11 https://docs.materialsproject.org/frequently-asked-questions/glossary-of-terms
事実
OQMD:1,670件の実験の生成エネルギーとの比較(MAE 0.096 eV/原子)、実験どうしの食い違い(0.082 eV/原子)。フォノン(密度汎関数摂動論)、NEB 法、励起状態の計算(GW・Bethe-Salpeter)、標準的な方法の計算量が原子数の3乗・千原子で重くなる・数百原子で直交化が最も高価出典7 https://doi.org/10.1038/npjcompumats.2015.10
出典8 https://doi.org/10.1103/RevModPhys.73.515
出典9 https://doi.org/10.1063/1.1329672
出典10 https://doi.org/10.1103/RevModPhys.74.601
出典36 https://doi.org/10.1088/0034-4885/75/3/036503
事実
Lejaeghere ら:15コード・40の擬ポテンシャル/基底・71の単体結晶の PBE の状態方程式、新しいコードは高精度の実験どうしの差と同程度に一致。Bosoni ら:Z=1〜96、960の状態方程式。Prandini ら:SSSP。Hegde ら:AFLOW・MP・OQMD の比較(生成エネルギー 最大0.105 eV/原子・中央値6%、体積 0.65 ų/原子・4%、ギャップ 0.21 eV・9%、磁気モーメント 0.15 µB/組成式・8%、金属判定の食い違い最大7%、磁性の食い違い最大15%)。JARVIS-Leaderboard出典37 https://doi.org/10.1126/science.aad3000
出典38 https://doi.org/10.1038/s42254-023-00655-3
出典39 https://doi.org/10.1038/s41524-018-0127-2
出典4 https://doi.org/10.1103/PhysRevMaterials.7.053805
出典40 https://doi.org/10.1038/s41524-024-01259-w
事実
原子数と計算量(N³ の仮定:10→100 で1,000倍、10→1000 で100万倍)、スーパーセルの例(4原子・k点512個→32原子・k点64個で (64/512)×(32/4)³=64倍)本稿の計算(式の仮定は本文に明記)本稿の計算
Borlido らの全汎関数の数値、Haas らの格子定数の具体的な数値、Materials Project の再計算の最新の進み具合、各コードの実測の計算時間、DFT の評価・再現性を定める国際標準本稿の調査範囲でアクセスできた一次情報では確認できなかったため記載していない(解説)解説
「DFT が分かること・分からないこと」の表の整理、「どの汎関数を選ぶか」「計算条件の項目表」「計算値を読む3つの習慣」「DFT に出す問いの設計」「実験で確かめる設計」の読み取り公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各研究グループが表明した見解ではない解説
図の種類の注記:図5・図7・図8が本稿の計算を含む作図、図2・図3・図4・図6が概念図(ベクター作図)、図1・図9がImageGen生成の概念画像であること本記事による注記(解説)解説

最終更新:2026年10月23日/出典は一次情報(査読論文、arXiv の論文、Materials Project の公式文書)に限定しています。数値例(原子数と計算量、スーパーセルの例)は本稿の計算で、実際の計算時間ではありません。計算値は、計算条件(汎関数・設定)つきの値で、実測値ではありません。Borlido らの全汎関数の数値、Haas らの格子定数の具体的な数値、Materials Project の再計算の最新の進み具合、各コードの実測の計算時間、DFT の評価・再現性を定める国際標準については、確認できなかったため記載していません。図はすべて説明用の概念図または本稿の計算を含む作図で、図の枠(AI生成イメージ)は、後で画像を入れるための場所です。