主要成果
Multiply Labsは、細胞治療の製造工程を自動化するロボットシステムにより、1回あたりの投与コストを最大74%削減できることを示した。また、クリーンルームの面積あたりの患者投与量を最大100倍にまで向上させることが可能だという。これらの数値は、UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)との共同研究によるピアレビュー済みの成果に基づいている。また、手作業による製造では汚染が発生した事例があった一方、ロボットによる運用では汚染が観察されなかったことが報告されている。
技術・詳細
同社が提供するのは新薬ではなく、既存の薬局や製薬会社のクリーンルームに導入可能な「密閉型ロボットクラスター」という製造設備である。このシステムは、Universal Robots社の6軸ロボットアームを採用し、X軸およびZ軸のレールを追加することで8自由度を実現している。最大の特徴は「模倣学習(imitation learning)」の導入であり、個別のタスクをすべて手作業でコーディングするのではなく、ロボットが動作を観察することで新しいタスクを習得できる仕組みとなっている。
運用モデルは、製薬会社がハードウェアを購入し自社で運用する形態をとる。ロボットは、材料の移動やバイアルの撹拌・混合といった、時間管理が重要で反復的な工程を、メーカーが既に所有している既存設備を用いて実行する。
背景・業界の文脈
細胞・遺伝子治療は、患者自身の免疫細胞を採取して再設計し、体内に戻すことでがんを治療する画期的な手法だが、製造コストが極めて高い。1回あたり30万ドルから200万ドルに達する場合があり、その大部分は熟練した技術者がクリーンルーム内で数日かけて手作業でピペッティングを行う人件費に起因している。細胞治療はアスピリンのような大量生産ができず、一回一回がオーダーメイドのバッチ製造となるため、人手によるミスや汚染のリスクが常に付きまとっていた。
こうした状況に対し、Multiply Labsは2024年にRetro Biosciences社と最大8500万ドルの商用契約を締結した。今回の資金調達には、アストラゼネカやロボティクス大手のTeradyneなどが参加しており、製薬業界とハードウェア業界の両面から注目が集まっている。
今後の展望
調達した7500万ドルは、製造能力の拡大、製品ロードマップの推進、およびエンジニアリング、規制対応、商用チームの採用に充てられる。今後の焦点は、アストラゼネカのようなパートナー企業が投資家から実際の顧客へと移行し、臨床現場で運用されるかにある。また、医薬品製造は規制が極めて厳しいため、製造方法の変更に伴う再バリデーション(妥当性確認)をクリアし、規制当局の承認を得た状態でコスト削減効果を維持できるかが、実用化への鍵となる。
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