主要成果
末期肝疾患患者を対象に、体外(ex vivo)でCRISPR-Cas9ゲノム編集を施したドナー肝臓を移植し、その安全性と実現可能性を評価する初期段階の臨床試験が実施される。本試験の主目的は、ゲノム編集された肝臓が正常に機能し、成功裏に移植できるかを確認することにある。また、急性拒絶反応やドナーに対するT細胞の活性化といった免疫応答の減少、および経時的な移植片の機能維持についても評価を行う。
技術・詳細
本手法では、移植前にドナーの肝臓に対して以下のゲノム編集を行う。まず、主要なクラスIアロ抗原であるHLA-AおよびHLA-B遺伝子をノックアウトする。同時に、クラスII転写活性化因子であるCIITA遺伝子を標的として、HLAクラスII(HLA-DR, DQ, DP)の発現を停止させる。これにより、免疫系から回避しやすい「低免疫原性」の臓器を構築する。
特筆すべき点は、HLA-Cの発現を維持させる設計となっていることだ。これは、HLAが完全に消失した際に起こるナチュラルキラー(NK)細胞による「missing-self」応答(自己の欠損を検知して攻撃すること)を緩和するためである。編集作業は、臓器を体外で生存させるマシンパーフュージョン(機械灌流)中に、CRISPR-Cas9リボヌクレオプロテイン(Cas9酵素とガイドRNAの複合体)を灌流回路を通じて肝組織に導入することで行われる。移植前には、生検による免疫染色やフローサイトメトリーを用いて、標的遺伝子の破壊効率が90%を超える高い編集効率を達成していることを確認し、基準を満たした肝臓のみが移植に使用される。
背景・業界の文脈
臓器移植における拒絶反応は、主にドナーのHLA(ヒト白血球抗原)分子を異物として認識することによって引き起こされる。特にHLA-AおよびHLA-Bの不一致は強い免疫原性を持ち、T細胞介在性の拒絶反応を誘発しやすい。また、ドナーの抗原提示細胞に発現するHLAクラスII分子はCD4⁺ T細胞を活性化させ、拒絶に寄与する。現在の標準治療は免疫抑制剤に依存しているが、これには重大なリスクが伴う。前臨床研究では、CRISPRを用いてHLA-A、HLA-B、HLA-DRをノックアウトした細胞が、in vitroでT細胞の増殖をほとんど誘発しないことが示されており、異種移植モデルにおいてもクラスIおよびCIITAのトリプルノックアウトがヒトT細胞の活性化を弱め、移植片の生存期間を延長させたことが報告されている。
今後の展望
本試験により、ドナー臓器を体外で遺伝的に編集し、ヒトの免疫システムから大幅に回避させることが可能になれば、移植後の拒絶反応を大幅に軽減または遅延させることができる。受容者への直接的なin vivo遺伝子治療を避け、体外で編集を完結させるアプローチであるため、安全性の高い免疫回避戦略となることが期待される。
元記事: https://www.trialx.com/clinical-trials/listings/319005/crispr-edited-hla-donor-liver/
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