主要成果
ペロブスカイト太陽電池の長期安定性を阻害する要因として、透明電極として広く用いられているITO(酸化インジウムスズ)基板からの「酸素漏出」が特定されました。北テキサス大学のMritunjaya Parashar氏とBibhudutta Rout氏、およびアリゾナ州立大学のNicholas Rolston氏らの研究グループは、温度上昇に伴いITOから酸素が放出され、それがペロブスカイト層との界面に蓄積することで、デバイスの電気的接触品質を悪化させ、劣化を加速させることを明らかにしました。
技術・詳細
研究チームは、原子レベルの元素移動を定量的に測定するため、RBS(ラザフォード後方散乱分光法)を採用しました。これは高エネルギーのヘリウム核などの軽イオンを試料に照射し、跳ね返ってきたイオンのエネルギーを記録することで、深さ方向の元素濃度プロファイルを分析する手法です。
実験では、代表的な有機-無機ハイブリッドペロブスカイトであるメチルアンモニウムヨウ化鉛をITOガラス上に堆積させ、窒素雰囲気下で45度、65度、85度の3つの温度条件で96時間加熱処理を行いました。その結果、以下の現象が確認されました。
- ペロブスカイト結晶格子内の鉛とヨウ素が再分布し、特にヨウ素の移動が欠陥生成や接触層の腐食に関与していることが改めて確認された。
- 加熱後のサンプルにおいて、本来存在しないはずの酸素がペロブスカイトと電極の界面に蓄積していることが判明した。
- 非加熱のコントロールサンプルではこの蓄積は見られず、一方で加熱後のITO基板側では酸素の減少と表面の粗化が観測された。
これにより、酸素は外部環境から侵入したものではなく、熱的に活性化されたITO内部から外方拡散し、界面に溜まったものであることが証明されました。
背景・業界の文脈
ペロブスカイト太陽電池は、高い変換効率、安価な溶液プロセス、欠陥への耐性の高さから次世代太陽電池として注目されています。しかし、屋外の屋根や宇宙空間のような高温環境下で急速に劣化するという課題を抱えていました。これまで業界では、揮発性の有機成分やハロゲン化物イオンの移動など、ペロブスカイト材料自体の不安定さが主な原因であると考えられてきました。しかし本研究は、不活性な支持体だと思われていたITO基板が、実は劣化の「供給源」として機能していたことを突き止めた点に大きな意義があります。
今後の展望
研究チームは、この酸素漏出を防ぐための対策として、ITOとペロブスカイトの間に[2-(3,6-Dimethoxy-9H-carbazol-9-yl) ethyl] phosphonic acidを用いた自己組織化単分子膜(SAM)を導入しました。この分子層は、ホスホン酸基が酸化物表面に強固に結合し、カルバゾールベースのテール部分が緻密な有機バリアとして機能します。RBSによる測定の結果、この単分子膜を導入することでITOからの酸素漏出が抑制されることが確認されました。この界面制御技術は、今後の高耐久なペロブスカイトデバイス設計における重要な指針になると期待されます。
毎週の技術動向レポートを無料でお届け
各分野の分析レポートを読む価値があるかどうか一目で判断できるインフォグラフィックをメールで受け取れます。
📢 メールマガジンに無料登録(週刊・技術動向レポート)
ご登録いただくと、Troy-Technical から週刊で技術動向レポート(メールマガジン)をお届けします。
- 取得したメールアドレス・選択分野は配信目的にのみ使用します。
- 第三者へ提供することはありません。
- 配信はいつでも解除できます(各メール下部のリンクから)。
詳しくはプライバシーポリシーをご覧ください。
登録は1分・いつでも解除できます



