INSTITUTION PROFILE / 量子コンピュータ
理化学研究所(理研)
― 量子コンピュータを「作り、動かし、使わせる」国立研究機関
理化学研究所(理研)は、日本の国立研究開発法人です。政策や補助金を決める官庁ではなく、自分で量子コンピュータを開発し、設置し、研究者や企業に使わせる側です。 富士通と共同で超伝導方式の機械を作り、IBMの量子コンピュータを神戸の「富岳」のとなりに置き、 イオントラップ方式の機械を和光に置いています。 本稿では、理研が量子コンピュータにどこまで影響を持ち、何は決められないのかを、 実現した事実と、これからの計画を区別しながら整理します。内容は2026年10月16日に確認したものです。
- 30秒でわかる理化学研究所
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- 量子コンピュータで何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 関わっている企業・組織と資金の流れ
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかる理化学研究所
理化学研究所英文 RIKEN。主たる事務所は埼玉県(理研法第4条)
理研は量子コンピュータの「持ち主・使わせる場」であって、国の政策を決める側ではありません。 理研法は、理研の業務を「科学技術に関する試験・研究を行うこと」「施設や設備を研究者などの共用に供すること」などと定めています 事実。 理研の影響力は、富士通・IBM・Quantinuumなどの機械が実際に動いている場所を持っていることと、 そこへ研究者や企業を呼べることから生まれます。 政策や補助金は、文部科学省(理研の主務官庁)、経済産業省、内閣府が決めます。 理研はその資金を受けて、研究や設置を実行する側です 事実。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
量子コンピュータの記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では量子コンピュータを売りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。 理研は、「場をつくる」の型です。研究者・企業・海外の機関が実際の機械を使いながら共同研究する場所を持っているからです。 理研は資金を配る機関ではなく、資金を受ける側でもあります。
3. 量子コンピュータで何をしているか
ふつうのコンピュータは「0か1か」のビットで計算します。量子コンピュータは、0と1が重なった状態をとれる量子ビットで計算します。 方式がいくつもあり、この記事には超伝導方式(極低温に冷やした電気回路を使う)とイオントラップ方式(電気の力で捕まえた原子を使う)が出てきます。 「256量子ビット」のような数は、誤り訂正をしていない素の量子ビットの数です。 詳しくは技術解説「量子コンピュータの基礎」「超伝導量子ビット」「イオントラップ」を参照してください。
理研の量子コンピュータへの関わり方を、実現した事実と計画を分けて表にまとめます。
| 取り組み | 日付・状態 | 中身 | 区分 |
|---|---|---|---|
| 量子計算研究センター(RQC) | センター長は中村泰信氏(2026年10月確認) | 超伝導・光・半導体・冷却原子などの方式の研究チームを持ち、実際の量子コンピュータを開発し所有すると自己紹介。光方式では「世界初の汎用光量子計算プラットフォーム」を挙げる | 実施中 |
| 理研RQC-富士通連携センター | 2021年4月1日に設立 | 理研の超伝導回路技術と富士通の計算技術・応用の知見を組み合わせ、最大1,000量子ビット規模の大規模計算を目指すハードとソフトの技術と、実機を使った応用を研究開発する | 実施中 |
| 64量子ビット機(理研と富士通) | 2023年10月に稼働。文部科学省の支援 | 国産の超伝導量子コンピュータ。後述の256量子ビット機の土台になった | 実現済み |
| 256量子ビット機(理研と富士通) | 2025年4月23日に公表。和光のRQC-富士通連携センターに設置 | 高密度の実装技術と、希釈冷凍機の中の冷却設計で大型化。2025年度第1四半期から、ハイブリッド計算のプラットフォームの一部として国内外の企業・研究機関に提供する計画と発表。誤り訂正アルゴリズムの実証などを今後の応用に挙げる | 実現済み。外部提供は計画と発表 |
| 1,000量子ビット機(理研と富士通) | 2025年4月の発表では「2026年に稼働予定」。2026年10月16日時点で、稼働の発表は確認できなかった | 256量子ビット機の次の段階。経産省の審議会資料(2026年7月8日)は、富士通が2026年内に量子棟へ1,000物理量子ビットの機械を構築する予定と書く | 未確定/将来 |
| イオントラップ方式「Reimei」 | 2025年2月12日に和光キャンパスへ設置と公表 | Quantinuum社が設計したイオントラップ方式の機械を、理研が設計した施設に設置。神戸の「富岳」とつなぐ計画。NEDOの受託事業の一部 | 実現済み |
| IBM Quantum System Two(神戸) | 2025年6月24日に神戸で運用開始の式典 | 156量子ビットの超伝導プロセッサ「Heron」を載せた機械を計算科学研究センター(R-CCS)に設置し、「富岳」との連携運用を開始。北米以外では初の設置と発表。NEDOの受託事業(ソフトバンクと共同) | 実現済み |
| GPUスーパーコンピュータ「ROQUO」 | 2026年6月19日に運用開始を発表 | 量子・スパコン連携プラットフォームの計算の中心。NVIDIAのGPU 540基、ベンチマーク(HPL)で19.80ペタフロップス。富岳、IBMの機械、Reimeiとの連携実証を進める。NEDOの受託事業(JHPC-quantum) | 実現済み。連携実証はこれから |
※機械の性能(量子ビット数、ペタフロップス)は、理研が自ら公表した値です。第三者による評価ではありません。
256量子ビット機の発表は、高密度の実装技術と、希釈冷凍機(量子ビットを絶対零度近くまで冷やす装置)の中での適切な冷却の設計によって、大型化に伴う技術的な課題を乗り越えたと書いています 事実。 読み取れるのは、実装を高密度にするほど、極低温での冷却の設計がむずかしくなるということです。 材料や部品の供給側から見ると、理研のような拠点は、極低温用の部材を実際の機械で試せる場所になりうると考えられます 未確定/将来。 なお、本稿は理研が特定の部材メーカーと取引していると言っているわけではありません。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | 理化学研究所が持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 量子コンピュータを研究・開発し、設置・運用し、成果を普及させ、施設を共用に供する権限(理研法第16条)。共同研究のパートナーを選ぶこと | 国の政策・戦略を決める権限。補助金や研究費の配分を決める権限。規制や輸出管理の権限 |
| 資金 | 国からの運営費交付金や施設整備の補助金、受託事業の収入を受けて研究と設置を進めること | 他の機関に研究費を配ること(理研は配分機関ではない) |
| 標準・認証 | 研究成果の公表。機械の性能は自ら公表する | 量子コンピュータの性能評価や認証の基準を決める権限 |
| 地域 | 日本の拠点(和光・神戸)。国内外の企業・研究機関が利用できる機械(256量子ビット機は国内外への提供を計画と発表) | 他国の政策や、他国の拠点を動かす権限 |
| 規模 | 職員3,000人超、研究職員1,930人(2026年4月1日)。令和8年度の収入は合計約1,100億円(全分野) | 量子分野だけの人数・予算の公表(確認できず) |
約1,100億円は理研全体の令和8年度の収入の合計で、量子に使う額ではありません。 内訳は、国の運営費交付金が588億円、大型施設の整備などの補助金が280億円、受託事業の収入が214億円、その他が17億円です 事実。 受託事業には、経産省所管のNEDOから受けた量子・スパコン連携の事業なども含まれますが、理研の資料に量子分野だけの金額は示されていません 未確定/将来。
5. 関わっている企業・組織と資金の流れ
理研の量子コンピュータは、資金を出す国の機関、機械を作る・設計する企業、使う側の研究者・企業の間に位置します。次の図は、理研の公式ページに書かれている関係だけをまとめたものです。
経産省の審議会資料(2026年7月8日)は、理研とIBM、米クリーブランド・クリニックが最大12,635個の原子からなるタンパク質複合体のシミュレーションに成功した事例を紹介しています 事実。 同じ資料は、国の量子の拠点として産総研のG-QuATを「国家戦略上の重要生産基盤」と位置づける案を示しています。 理研と産総研の役割分担については、本稿では文書で確認できませんでした(産総研については本シリーズの産総研の記事を参照) 未確定/将来。
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 1,000量子ビット機が2026年に稼働するかは、2026年10月16日時点で確認できない | 2025年4月23日の理研のニュース(2026年に稼働予定)。経産省の2026年7月8日の資料(富士通が2026年内に構築予定) | 未確定/将来 |
| 量子コンピュータとスーパーコンピュータの連携実証が、これから本格化する | R-CCSの2026年6月19日のお知らせ(ROQUOの運用開始。連携実証は「これから」と記載) | 未確定/将来 |
| 理研の影響力は、今後も複数の方式の機械を実際に動かし、外部に使わせる場としての役割が中心になる | 量子計算研究センターが超伝導・光・半導体・冷却原子の研究を持ち、IBM(超伝導)とQuantinuum(イオントラップ)の機械も設置していること | 推測 |
| 外部への提供が実際にどの範囲で行われているか(利用者数・利用条件) | 理研の発表は提供する計画を書くのみ。利用条件の詳細は本稿で確認していない | 未確定/将来 |
7. 用語集
- 国立研究開発法人
- 国の研究開発を担う法人。省庁そのものではなく、主務大臣の監督のもとで業務を行う。理研の主務大臣は文部科学大臣。
- RQC
- 理研 量子計算研究センター。量子コンピュータの開発・所有・研究を行う。
- R-CCS
- 理研 計算科学研究センター(神戸)。スーパーコンピュータ「富岳」を運用し、量子・スパコン連携を担当する。
- 富岳
- 理研と富士通が共同開発した日本のスーパーコンピュータ。2021年3月に共用を開始した。
- JHPC-quantum
- NEDOの受託事業の通称。量子コンピュータとスーパーコンピュータを一体で使うためのソフトとプラットフォームを研究開発する。
- 希釈冷凍機
- 超伝導量子ビットを絶対零度近くまで冷やす装置。
- HPL
- スーパーコンピュータの性能を測る標準的なベンチマーク(連立一次方程式を解く速さ)。
- NEDO
- 経済産業省所管の国立研究開発法人。研究開発の資金を配分する。理研とは別の機関。
8. 出典
- 理化学研究所 About RIKEN(1917年に創設、国の研究開発法人であること)。 https://www.riken.jp/en/about/
- 理化学研究所 Facts & Figures(職員3,000人超、研究職員1,930人(2026年4月1日)、令和8年度の収入の内訳のグラフ)。 https://www.riken.jp/en/about/data/
- 理化学研究所 RIKEN Center for Quantum Computing (RQC)(センター長、研究チーム、研究成果)。 https://www.riken.jp/en/research/labs/rqc/
- 理化学研究所 RIKEN RQC-FUJITSU Collaboration Center(2021年4月1日設立、最大1,000量子ビット規模の研究開発)。 https://www.riken.jp/en/research/labs/rqc/riken_fujitsu/index.html
- 理化学研究所 ニュース「RIKEN and Fujitsu unveil world-leading 256-qubit quantum computer」(2025年4月23日。64量子ビット機、256量子ビット機、提供計画、1,000量子ビット機の計画)。 https://www.riken.jp/en/news_pubs/news/2025/20250422_1/index.html
- 理化学研究所 ニュース「Commemorative ceremony for the launch of RIKEN Fugaku - IBM Quantum System Two integration」(2025年7月1日。2025年6月24日の式典、156量子ビットのHeron、NEDO受託事業)。 https://www.riken.jp/en/news_pubs/news/2025/20250701_2/index.html
- 理化学研究所 ニュース「New quantum computer on the Wako campus」(2025年2月12日。Reimei、Quantinuum設計のイオントラップ方式、NEDO受託事業)。 https://www.riken.jp/en/news_pubs/news/2025/20250212_1/index.html
- 理化学研究所 計算科学研究センター お知らせ「New Supercomputer "ROQUO" for the Quantum-HPC Hybrid Platform Enters Operation」(2026年6月19日。GPU 540基、19.80ペタフロップス、JHPC-quantum、連携先)。 https://www.r-ccs.riken.jp/en/outreach/topics/20260619-2/index.html
- e-Gov法令検索 国立研究開発法人理化学研究所法(第3条:目的、第4条:主たる事務所、第16条:業務の範囲、第20条:主務大臣)。 https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000160
- 経済産業省 量子コンピュータ政策の今後の方向性(2026年7月8日、イノベーション・環境局。理研の事例、富士通の1,000物理量子ビット機の予定、G-QuATの位置づけ案)。 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/innovation/pdf/014_04_02.pdf
9. 主張と出典の対応表
| 本文の主張 | 区分 | 出典 |
|---|---|---|
| 理研は1917年に民間の研究財団として創設され、現在は国の研究開発法人 | 事実 | 出典1 https://www.riken.jp/en/about/ |
| 職員3,000人超、研究職員1,930人(2026年4月1日)、令和8年度の収入の内訳(運営費交付金588億円、施設整備の補助金280億円、受託事業収入214億円、その他17億円。合計約1,100億円) | 事実 | 出典2 https://www.riken.jp/en/about/data/ |
| RQCの研究チームの方式(超伝導・光・半導体・冷却原子)、センター長、実機を開発し所有するという自己紹介 | 事実 | 出典3 https://www.riken.jp/en/research/labs/rqc/ |
| RQC-富士通連携センターの設立(2021年4月1日)と研究内容 | 事実 | 出典4 https://www.riken.jp/en/research/labs/rqc/riken_fujitsu/index.html |
| 64量子ビット機(2023年10月、文部科学省の支援)、256量子ビット機(2025年4月23日公表)、国内外への提供計画、1,000量子ビット機の計画(2026年に稼働予定) | 事実 | 出典5 https://www.riken.jp/en/news_pubs/news/2025/20250422_1/index.html |
| IBM Quantum System Twoの神戸での運用開始(2025年6月24日)、156量子ビット、NEDO受託事業(ソフトバンク・東京大学・大阪大学と) | 事実 | 出典6 https://www.riken.jp/en/news_pubs/news/2025/20250701_2/index.html |
| Reimeiの和光への設置(2025年2月12日)、Quantinuum設計のイオントラップ方式、NEDO受託事業 | 事実 | 出典7 https://www.riken.jp/en/news_pubs/news/2025/20250212_1/index.html |
| ROQUOの運用開始(2026年6月19日)、GPU 540基、HPL 19.80ペタフロップス、JHPC-quantum、連携先と構築企業 | 事実 | 出典8 https://www.r-ccs.riken.jp/en/outreach/topics/20260619-2/index.html |
| 理研の目的・主たる事務所(埼玉県)・業務の範囲・主務大臣(文部科学大臣) | 事実 | 出典9 https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000160 |
| 理研・IBM・クリーブランド・クリニックの12,635原子のシミュレーション事例、富士通の1,000物理量子ビット機の予定(2026年内)、G-QuATの位置づけ案 | 事実 | 出典10 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/innovation/pdf/014_04_02.pdf |
| 機関の4つの型の区分、収入の内訳の日本語の区分名と図 | 本稿の計算 | 本稿による整理 |
| 理研の量子分野だけの人数・予算、外部提供の実際の利用範囲、理研と産総研の役割分担 | 未確定/将来 | 出典1〜10に記載なし。本稿では推計しない |
| 1,000量子ビット機の稼働、量子・スパコン連携実証の進み具合 | 未確定/将来 | 出典5・8・10。2026年10月16日時点で一次情報から確定できないため、本稿では確定しない |
| 第6章の「理研の影響力は複数方式の機械を動かし外部に使わせる場としての役割が中心」 | 推測 | 出典3・6・7の記述からの本稿の解釈 |
最終更新:2026年10月16日/Troy Technical
本稿の数値は理化学研究所と計算科学研究センターの公式ページ、e-Gov法令検索、経済産業省の審議会資料に基づきます。量子分野は変化が速く、機械の稼働状況や提供の範囲は変わりうるため、確認日(2026年10月16日)を併記しました。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。
