COMPANY PROFILE / 量子コンピュータ
ザナドゥ
― 「光」で量子コンピュータを作ろうとする、2026年3月に米国とカナダで上場したカナダの会社
量子コンピュータの量子ビット(計算の最小単位)は、ふつう極低温の回路や真空の中の原子で作られます。 Xanadu(ザナドゥ)は、それを光の粒(光子)で作ろうとしている会社です。 光は光ファイバーで運べるので、小さな計算部品を何台もつないで大きくする、という構想を掲げています。 一方で、会社自身が年次報告書に「まだ商用化の前の段階」と書いています。 本稿では、何を作り、いくら使い、誰と組み、何を目指しているかを、 確認できた一次情報だけで、量子コンピュータを知らない方にも分かるように説明します。
- 30秒でわかるXanaduと、量子コンピュータでの立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- 量子コンピュータの世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模
- 量子コンピュータにかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社は量子コンピュータで何を目指しているか
- 量子コンピュータ分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるザナドゥと、量子コンピュータでの立ち位置
Technologies Limitedカナダ・オンタリオ州法人。2025年10月2日設立の持株会社
XNDU特別買収目的会社(SPAC)との統合を2026年3月26日に完了、翌27日に取引開始
(従:ソフト)量子ビットを光で作る。ソフト(PennyLane)も提供
GKP方式室温で計算し、検出器だけ冷やす構成と説明
量子ビット(2029〜2030年)会社の目標であり、達成済みではない
量子コンピュータの会社は、量子ビットの作り方(方式)で大きく分かれます。 回路で作る(超伝導)、原子やイオンを並べる、そして光や半導体で作る、という具合です。 Xanadu は3つ目の「光」の会社で、上場している会社としては光方式の専業であると、自社の発表で説明しています 事実。 つまり、Xanadu の将来は「光で、大規模で誤りに強い量子コンピュータが本当に作れるか」にかかっています。 いま見えているのは実験装置(Aurora)と要素部品の論文までで、 商品としての量子コンピュータの出荷は、まだ始まっていません 事実。
量子ビット:量子コンピュータの計算の最小単位です。普通のコンピュータの0か1の「ビット」と違い、0と1が重なった状態を使います。
物理量子ビットと論理量子ビット:物理量子ビットは実際の部品1つ分で、ノイズ(雑音)で間違えやすいものです。 誤りを見つけて直すために、物理量子ビットを何百個もまとめて「間違えにくい1個」に見立てたものが論理量子ビットです。 数字を見るときは、必ず「物理か論理か」を確認してください。
誤り訂正:量子ビットは壊れやすいので、計算しながら間違いを見つけて直す仕組みが必須とされています。 詳しくは本シリーズの技術解説「量子誤り訂正と表面符号」「論理量子ビットと耐故障量子計算」をご覧ください。
2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:株式を上場しているのは Xanadu Quantum Technologies Limited(2025年10月設立の持株会社)で、 実際の研究開発を行うのは、2016年12月に設立された子会社 Xanadu Quantum Technologies Inc.(年次報告書では「Old Xanadu」と表記)です。 SPACは Crane Harbor Acquisition Corp. で、統合後は子会社になりました。 本稿では、特に区別が必要な場合を除き「Xanadu」と書きます。
公式サイト:https://www.xanadu.ai/(ロゴは公式サイトのヘッダーに埋め込まれた画像を取得)3. 量子コンピュータの世界で、この会社はどこにいるか
量子コンピュータを作る会社は、「量子ビットを何で作るか」によって、強みと課題が大きく違います。 下の図は、本シリーズが扱う会社を4つの類型に分けたものです。 Xanadu は、このうち3つ目の「光・シリコンほか」に入ります(ソフトウェアの面では4つ目にもまたがります)。
それぞれの特徴を、一言で言い換えておきます。
| 類型 | 量子ビットの正体 | 得意なこと | 難しいこと |
|---|---|---|---|
| 超伝導 | 極低温に冷やした電気回路 | 半導体と同じ作り方で回路を作れる | 冷凍機と大量の配線が要る |
| イオン・中性原子 | 電気や光で捕まえた原子 | 1個1個が同じ性質で、精度が高い | 数を増やすことと、動作の速さ |
| 光・シリコンほか | 光の粒(光子)、半導体の中の電子の向き、など | 光ファイバーでつなげる、半導体工場で作れる可能性 | 方式の実証がまだ途上。光は「失われやすい」 |
| 周辺・ソフト | 量子ビットは作らない | クラウド・ソフト・通信で全体を支える | 自社の装置の優位は無い |
4. 会社の規模
Xanadu は、事業のほぼすべてが量子コンピュータ関連です。年次報告書の数字を、そのまま見ていきます 事実。
| 指標(US$千) | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|
| 売上 | 2,479 | 1,589 | 4,617 |
| 研究開発費 | 35,718 | 39,223 | 55,237 |
| 純損失 | 35,592 | 45,968 | 70,667 |
| 期末の現金・現金同等物 | 117,459 | 77,619 | 16,164 |
| 2026年(US$百万) | 第1四半期(1〜3月) | 第2四半期(4〜6月) |
|---|---|---|
| 売上 | 2.8 | 1.5 |
| 研究開発費 | 17.3(本稿の計算:19.7−2.4) | 19.7 |
| 純損失 | 20.6 | 42.1 |
| 期末の現金・現金同等物 | ―(本稿では未確認) | 312.8(6月30日) |
| 項目 | 内容(2025年12月31日時点) |
|---|---|
| 従業員 | 264人(うちフルタイム240人、量子技術に携わる物理学者・技術者152人) |
| 本社の施設 | トロントに約48,000平方フィート(オフィスとナノフォトニクス設備の合計)を賃借。契約は2032年9月30日まで |
| 特許 | 70のパテントファミリー(同じ発明の特許のまとまり)。成立33件、出願中98件 |
| 売上の偏り | 2025年12月期の売上の78%が、3つの顧客に集中 |
売上の増減は、量子コンピュータが売れたかどうかを示すものではありません。 会社自身が「商用化前の段階であり、販売できる量子コンピュータはまだ提供していない」と書いており、 収入の中心は、アルゴリズム開発・概念実証・委託研究・教育と、クラウド経由の計算利用(QCaaS)です 事実。 会社も、「当面は売上が業績の信頼できる指標にはならない」と述べています。 また、2025年末の現金はUS$16.2百万まで減っており、 年次報告書は「損失の継続と追加資金の必要から、事業継続に重要な疑義が当初生じていたが、2026年3月の事業統合と同時の資金調達(総額約US$302百万)で解消した」と説明しています 事実。 研究開発型の会社で損失が出ること自体は一般的ですが、資金の持続性は、この会社を読むときの重要な観点です。
5. 量子コンピュータにかけているリソース
金額や人数が分かる項目と、分からない項目を、一覧にします。
| リソースの種類 | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人 | 従業員264人のうち152人が量子技術の物理学者・技術者(2025年12月末)。トロントの本社・研究拠点のほか、パッケージング(光チップの組み立て)施設をトロントに持つ。米国の拠点を拡大中で、2026年第2四半期の発表によれば、米国の人員は2023年比で5倍超(拠点はニューヨーク州アルバニー) | 事実 |
| 金 | 研究開発費は2025年12月期で US$55.2百万。設備投資は同じ年で US$6.2百万。事業統合と同時の資金調達は総額約 US$302百万(PIPE=上場と同時の私募増資 US$275百万と、SPACの信託口座の現金 US$27百万)。2026年5月にYorkville Advisorsとの間で、最大US$300百万の株式発行枠を設定(2026年第2四半期に US$67.2百万を調達) | 事実 |
| 外部への出資・買収・合弁 | 他社への出資・買収・合弁・事業売却は、年次報告書に記載なし(将来の買収の可能性には言及)。SPACのCrane Harborは、統合で子会社になった | 確認できず |
| 大学・研究機関・公的資金 | DARPA 量子ベンチマーキング構想(QBI)のStage A(2025年4月)とStage B(2025年11月、最大US$15百万)/米国空軍研究所と4年間の共同研究(2025年4月)/メリーランド大学と3年間の提携(2025年3月)/カナダ政府の「Canadian Quantum Champions Program」で最大C$23百万(2025年12月)/カナダ政府の戦略対応基金からC$195百万(2026年8月28日に最終契約) | 事実 |
| 製造のための投資 | トロントの光パッケージング施設(C$10百万、2025年6月開設)。さらに、トロントの158,000平方フィートの敷地を「Inception」という製造拠点に改装する計画(会社が2026年8月28日に発表) | 事実/計画は未確定/将来 |
主要なデバイス・製品の状況
| 名前 | 方式・規模 | 代表的な性能・内容(会社の公表) | 段階 | 日付・出典 |
|---|---|---|---|---|
| Borealis | 光・216個の「圧搾光」モード(ガウシアンボソンサンプリングという、特定の問題だけを解く装置) | 論文は、厳密な手法で1サンプル出すのに最良のスーパーコンピュータで9,000年超かかる計算を、36マイクロ秒で出したと報告(会社の主張) | 実証(実験) | 2022年6月 Nature論文 |
| Aurora | 光・35個の光チップ、4つのラック、84個の圧搾光源、36個の光子数識別検出器。1クロックごとに物理量子ビットのモード12個 | 86.4十億モードのクラスター状態を作成。距離2の繰り返し符号を、リアルタイムの復号で実演。論文自身が「性能は目標に届かない縮小模型」と表現 | 実証(実験) | 2025年1月22日 Nature論文 |
| GKP量子ビット光源チップ | 光・窒化シリコン(300mmウエハー) | 誤り耐性に必要な特徴の一部を持つGKP状態を、チップ上で生成 | 実証(実験) | 2025年6月4日 Nature論文 |
| 次世代システム | 光・物理最大10万個、論理最大500個の量子ビット | 会社の設計目標 | 未確定/将来 | 2029〜2030年を目標。2026年10月16日時点で達成の事実なし |
| PennyLane/Catalyst | ソフト(量子プログラミングの開発キットとコンパイラ) | オープンソース。AWSのBraketにも対応。2026年第2四半期にPennyLane 0.45とCatalyst 0.15を公開 | 提供中 | 2026年8月5日の決算発表 |
光は壊れにくい反面、どこかで少しずつ失われる(損失)のが最大の弱点です。 Aurora の論文も「光の損失が、誤り耐性の基準を超えるうえで支配的で最も難しい課題」と述べています 事実。 そのため、Xanadu が提携先に求めているのは、ほぼ材料と製造の課題です。 たとえば、GKP光源チップは300mmウエハー上に作る窒化シリコン(SiN)の導波路(光の通り道)でできており、 「損失を下げるほど良い状態を作れる」ことが論文で示されています。 ほかにも、薄膜ニオブ酸リチウム(TFLN)という電気で光を高速に切り替えられる材料(HyperLightとの共同開発で、導波路の損失を2 dB/m未満と報告)、 光ファイバーとチップの接続部の損失(2026年第2四半期の発表で、片面あたり平均0.085 dBと報告)、 光子を1個ずつ数える超伝導転移端センサー(TES)を300mmで作る工程(Applied Materialsと共同)などが並びます 事実。 材料の目で見れば、これは「量子の問題」というより、半導体・光部品の損失をどこまで下げられるかという勝負です。
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 2016年12月 | Xanadu Quantum Technologies Inc.(旧Xanadu)をカナダで設立 | 現在の事業を行う会社の出発点 |
| 2022年6月 | Nature誌に、216モードの光プロセッサ Borealis の論文 | 「量子優位性」を示したとする会社の主張。後述の議論あり |
| 2025年1月22日 | Nature誌に、複数のラックを光ファイバーでつないだ Aurora の論文 | 光方式の部品を1つの機械に組み上げた最初の例と会社が説明 |
| 2025年4月・11月 | DARPA QBI の Stage A、続いて Stage B(最大US$15百万)に選定 | 米国政府が、実用規模の計画を検証する枠組み |
| 2025年6月4日 | Nature誌に、窒化シリコンチップで作ったGKP量子ビット光源の論文 | 誤りに強い量子ビットの「材料」をチップで作れることの実験的な裏付け |
| 2025年6月23日 | トロントに C$10百万の光パッケージング施設を開設 | 光チップとファイバーをつなぐ自前の設備 |
| 2025年11月3日 | Crane Harbor Acquisition Corp.(SPAC)との事業統合契約を発表 | 株式上場の手段として、SPACとの統合を選んだ |
| 2026年3月11日 | カナダ政府・オンタリオ州と、製造拠点計画「Project OPTIMISM」への最大C$390百万の支援について協議に入ったと発表 | この時点では「検討中」で、確定していない |
| 2026年3月26日・27日 | 統合を完了(26日)。Class B従属議決権株がNasdaqとTSXで「XNDU」として取引開始(27日) | 上場の事実。総資金は約US$302百万 |
| 2026年5月 | 最大US$300百万の株式発行枠(Yorkville Advisors)を設定 | 必要なときに株式を発行して資金を得られる枠 |
| 2026年8月28日 | カナダ政府と C$195百万の支援の最終契約。製造拠点「Inception」(トロント)の計画を発表 | 連邦政府分の全額が確定。オンタリオ州分は本稿では確認できなかった |
| 2026年10月8日 | DARPAの公開ページ(同日時点)で、Xanadu は Stage B の参加企業 | Stage C へ進んだ企業の一覧には含まれていない |
7. 今後の計画
誤り耐性の要素会社が20-Fで述べた見通し
拡大と初期の実証会社の見通し
論理最大500個会社の設計目標
これらはすべて会社の目標・計画であり、達成済みの事実ではありません 未確定/将来。 会社は、20-Fで「広い用途で価値を生む水準に達する目標年は2029〜2030年」と述べています 事実。
次はいずれも、本稿で確認した一次資料に記載がありません 未確定/将来。
自社の量子コンピュータの販売価格・出荷時期・納入先/Aurora の次の機械の量子ビット数と誤り率/ オンタリオ州の支援の確定の有無と金額/Inception の完成時期と投資総額。 また、20-Fは「政府の支援には条件(雇用創出、性能目標、対象経費の発生など)が付く場合がある」と注意しています。
8. この会社は量子コンピュータで何を目指しているか
ここは、会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 目指すのは「小さな機械を光ファイバーでつないで大きくする」データセンター型の量子コンピュータ | 20-Fに「ラックを光ファイバーで接続し、モジュール式で拡張する」「データセンターに設置できる」という記述。Auroraが4つのラックを光ファイバーで接続している | 事実 |
| 当面の収入は、政府・研究契約に偏る状況が続く | 2025年12月期の売上の78%が3顧客。20-Fは、カナダ・米国政府の契約が「従来、売上の大きな割合を占めてきた」と明記 | 推測 |
| 焦点は「損失の削減=製造技術」に移っている | 20-Fが「残る課題は主に製造の最適化、とくに半導体プラットフォームでの光損失の低減」と述べ、Applied Materials・Corning・Tower Semiconductor・Inception などの製造投資が並ぶ | 推測 |
| PennyLane は、他社の装置の利用者も呼び込む「入り口」として位置づけられている | 20-Fが、PennyLaneは「業界のプラットフォームであり戦略的な経路」で、利用者の仕事が「自然に自社の光方式のハードに移る」と期待している | 事実(会社の説明) |
| 目標の達成には、大幅な桁違いの拡張が必要 | Auroraの物理量子ビット(モード)は1クロックあたり12個。目標は物理最大10万個、論理最大500個 | 推測 |
目標の「物理10万個で論理最大500個」を割り算すると、論理量子ビット1個に物理量子ビット200個以上を使う計算になります 本稿の計算(100,000÷500=200)。 これは、誤りを直すために必要な「冗長さ」の目安を、会社が200倍以上と見込んでいることを意味します。 一方、Aurora が1クロックで扱える物理量子ビットのモードは12個で、論文は自らを「性能が目標に届かない縮小模型」と呼んでいます 事実。 つまり、現在の実験機と2029〜2030年の目標の間には、規模でも性能でも大きな距離があり、 その距離を埋める主役が光の損失を下げる製造技術だと、本稿は読みます 未確定/将来。
9. 量子コンピュータ分野の提携マッピング
下の図は、年次報告書と公式発表に記載のある関係だけを、種類別に線で分けたものです。
10. 提供している技術・製品・サービス
Xanadu の技術は、「光の粒に量子ビットを載せる」ところから始まります。次の図で、全体の流れを3つの部品に分けて見ます。
光で量子ビットを作る、とはどういうことか
- 光子を使う:量子ビットを運ぶ入れ物として、光の粒を使います。光は光ファイバーで遠くまで運べるので、小さな部品を後からつなげられる、というのが利点です。
- GKP方式で情報を埋める:光の波の「山の高さ」と「ずれ」の2つの値の上に、格子状の模様を作って1ビットを埋め込みます。 小さなずれが起きても、どちらの値だったかを後から見分けやすい形です。
- 測定で計算する:まず大きな「もつれた光の列」(クラスター状態)を作っておき、それを順番に測っていくことで計算を進めます(測定ベース量子計算)。 列を時間方向に伸ばす(ファイバーで光を待たせる)ことで、計算が長くなっても光の通る長さが増えにくい、と会社は説明しています。
- 誤りは検出して直す:測定結果を専用の電子回路(FPGAやASIC)がリアルタイムで読み、誤りを判定します(qLDPC符号という、誤り訂正の方式の1つを使う計画)。
20-Fには、「光子を1個ずつ数える検出器(TESや超伝導ナノワイヤ検出器)で成功を確かめる短い段階だけは室温ではない」と明記されています 事実。 つまり「冷凍機が要らない量子コンピュータ」ではなく、冷やす部分を検出器に絞る設計です。 このため、検出器を大量に作る工程(Applied Materialsとの300mm TES工程)が重要になります。 また、光チップは窒化シリコンと薄膜ニオブ酸リチウムの2つの材料の上で作られ、 2026年第2四半期には、これらの外部ファウンドリー(半導体の受託製造会社)での試作の回数が、それぞれ約75%、約50%増えたと発表されました(比較の基準は発表に明記なし) 事実。
光の技術が量子以外にも使われている例
20-Fによれば、Xanadu は米国政府の量子センシング事業向けに、主要な防衛関連企業へ光集積回路(PIC)を供給しています。 また、低損失の光パッケージング技術を、通信分野の企業との実証にも使い始めているとのことです 事実。
会社の主張:2022年のNature論文は、Borealis が216個のモードでガウシアンボソンサンプリングを行い、 最良の古典アルゴリズムとスーパーコンピュータでは、厳密な手法で1サンプルあたり平均9,000年超かかるところを、36マイクロ秒で出せると報告しました。 2026年の年次報告書は、同じ成果を「2分間の計算が、世界のトップ5のスーパーコンピュータ『富岳』で約700万年かかる」と説明しており、 論文と年次報告書で数字の表し方が異なります(比較の基準や定義の違いによるもので、本稿では優劣を判断しません) 事実。
その後の議論:同じ「ガウシアンボソンサンプリング」の実験については、光の損失が大きいと古典コンピュータでも再現できるという研究が発表されています。 たとえば2024年のNature Physics論文は、「これまでで最大規模の実験」を、比較的小さな計算資源でシミュレーションできるアルゴリズムを示し、量子優位性の主張に疑問を投げかけています 事実。 ただし、この論文が対象とした実験が Borealis そのものかどうかは、本稿では確認できませんでした。 量子優位性の読み方は、本シリーズの技術解説「量子優位性の読み方」をご覧ください。 なお、Borealisは特定の問題を解く装置で、誤り訂正のある汎用の量子コンピュータではありません。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 商用化前の段階 | 会社自身が、販売できる量子コンピュータはまだ無く、持続的な商用売上も得ていないと明記している | 事実 |
| 技術の実証が途上 | Aurora の論文は、性能が目標に届かない縮小模型で、光の損失を下げることが最も難しい課題と述べている。目標(2029〜2030年)は将来のもの | 未確定/将来 |
| 資金の持続性 | 2025年末の現金は US$16.2百万で、年次報告書は事業継続への重要な疑義が当初生じたと説明。統合と資金調達で解消。純損失は大きく、追加資金が必要になる可能性に会社自身が言及 | 事実 |
| 株式の希薄化 | 最大US$300百万の株式発行枠があり、使えば既存株主の持ち分は薄まる。会社は「機会的に」使うと説明 | 事実 |
| 顧客・資金源の偏り | 売上の78%が3顧客。政府契約は、契約の打ち切りや予算の制約を受けうると年次報告書が記載 | 事実 |
| 製造を他社に依存 | 光チップの製造は外部のファウンドリーの工程に依存し、その知的財産の一部は他社のもの。供給元が限られる部品もある | 事実 |
| 政府支援の条件 | 支援には、雇用創出や性能目標などの条件が付く可能性がある | 事実 |
| 内部統制の弱点 | 年次報告書は、財務報告に係る内部統制に「重要な不備」を特定したと記載 | 事実 |
| 競合する方式との競争 | 超伝導・イオン・中性原子・シリコンなど、他の方式も開発が進む。どの方式が最初に実用規模に届くかは未確定 | 推測 |
| 量子優位性の主張 | Borealis の主張は、古典側の研究から疑問が示されている分野に属する(上記の囲み参照) | 事実 |
12. 用語集
- 量子ビット
- 量子コンピュータの計算の最小単位。0と1が重なった状態を使う。
- 光子
- 光の粒。Xanadu は、光子に載せた情報で量子ビットを作る。
- 物理量子ビット/論理量子ビット
- 物理は部品1つ分でノイズに弱い。論理は誤りを直すために多数の物理量子ビットをまとめたもの。
- GKP量子ビット
- 光の波の2つの値の上に格子状の模様で情報を埋め込む方式。小さなずれに強いとされる。
- 測定ベース量子計算(MBQC)
- 先に大きな「もつれた状態」を作り、それを順に測ることで計算する方式。
- クラスター状態
- 多数の量子ビットが網のようにもつれた状態。測定ベース量子計算の「材料」になる。
- 圧搾光(スクイーズド光)
- 光の波の片方の値のゆらぎを小さく絞った光。光量子コンピュータの基本の材料。
- 光子数識別検出器(PNR)
- 光の粒を1個、2個…と数える検出器。TESや超伝導ナノワイヤ検出器がある。
- 超伝導転移端センサー(TES)
- 極低温で使う、光子を数える検出器の一種。
- qLDPC符号
- 誤り訂正の符号の一種。少ない冗長さで誤りを直せる可能性があるとされる。
- ガウシアンボソンサンプリング
- 光を使って特定の確率分布を作る実験。汎用の計算はできない。
- 量子優位性
- 特定の問題で、量子コンピュータが古典コンピュータより圧倒的に速いとする主張。企業の主張として読む。
- 光集積回路(PIC)
- 光の回路を1枚のチップにまとめたもの。窒化シリコンや薄膜ニオブ酸リチウムの上に作る。
- SPAC
- 特別買収目的会社。非上場企業と合併して、上場企業にするための会社。
- Form 20-F
- 外国企業が米国SECに提出する年次報告書。
- PennyLane
- Xanadu のオープンソースの量子プログラミング開発キット。
13. 出典
- Xanadu Quantum Technologies Limited Form 20-F for the fiscal year ended December 31, 2025(米国SEC提出、2026年4月9日)。事業の概要、財務、従業員数、特許、設備、計画、リスク。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2097163/000121390026042080/ea0285152-20f_xanadu.htm
- Xanadu Quantum Technologies Limited Shell Company Report on Form 20-F(米国SEC提出、2026年4月1日。事象日 2026年3月26日)。SPACとの事業統合の完了と上場。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2097163/000121390026038614/ea0283946-20f_xanadu.htm
- Xanadu Quantum Technologies Limited Form 6-K(米国SEC提出、2026年8月5日)。第2四半期(2026年6月30日まで)の決算発表。現金、売上、研究開発費、純損失、Yorkville Advisorsの株式発行枠、第2四半期の成果。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2097163/000209716326000020/exhibit991pressrelease-aug.htm
- Xanadu Quantum Technologies Limited Form 6-K 添付のプレスリリース(2026年8月28日)。カナダ政府のC$195百万の支援の最終契約。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2097163/000121390026095089/ea030272601ex99-1.htm
- Xanadu Quantum Technologies Limited Form 6-K 添付のプレスリリース(2026年8月28日)。製造拠点「Inception」(トロント、158,000平方フィート)の計画。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2097163/000121390026095089/ea030272601ex99-2.htm
- Crane Harbor Acquisition Corp. Form 8-K 添付のプレスリリース(米国SEC提出、2025年11月3日)。Xanadu との事業統合契約の発表、PIPEの規模と投資家。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2054174/000121390025104918/ea026354401ex99-1_crane.htm
- Aghaee Rad ほか(Xanadu) “Scaling and networking a modular photonic quantum computer”, Nature 638, 912–919(2025年1月22日)。Aurora。 https://doi.org/10.1038/s41586-024-08406-9
- Larsen ほか(Xanadu) “Integrated photonic source of Gottesman–Kitaev–Preskill qubits”, Nature 642, 587–591(2025年6月4日)。 https://doi.org/10.1038/s41586-025-09044-5
- Madsen ほか(Xanadu) “Quantum computational advantage with a programmable photonic processor”, Nature 606, 75–81(2022年6月1日)。Borealis。 https://doi.org/10.1038/s41586-022-04725-x
- 米国国防高等研究計画局(DARPA) Quantum Benchmarking Initiative(QBI)の公開ページ。各段階の内容と、参加企業一覧(2026年10月8日時点)。 https://www.darpa.mil/research/programs/quantum-benchmarking-initiative
- Oh ほか “Classical algorithm for simulating experimental Gaussian boson sampling”, Nature Physics 20, 1461–1468(2024年6月25日)。ガウシアンボソンサンプリング実験の古典シミュレーション。 https://doi.org/10.1038/s41567-024-02535-8
- Xanadu 公式サイト(ロゴの取得、会社概要の確認用)。 https://www.xanadu.ai/
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月16日/Troy Technical
本稿の数値はすべて、Xanadu が米国証券取引委員会(SEC)に提出した書類、同社の公式発表、DARPAの公開ページ、査読つき論文に基づきます。調査会社の市場推計(年次報告書に引用されているIDCなどの推計)、株価・評価額、報道ベースの数値は使用していません。機器名・ロードマップ・契約・企業構造は2026年10月16日時点の確認で、この分野は変化が速いため、最新の情報は各社の開示で確認してください。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。
