COMPANY PROFILE / 量子コンピュータ
アイキューエム(IQM) Quantum Computers
― 超伝導の量子コンピュータを「顧客の施設に設置して売る」フィンランド発の企業。2026年7月にNasdaqとNasdaq Helsinkiに上場
IQM(アイキューエム)は、超伝導回路で量子ビット(量子コンピュータの計算の最小単位)を作るフィンランドの会社です。 2018年にアールト大学(フィンランド・エスポー)の研究者らが設立し、 スーパーコンピュータのセンターや大学・研究所に量子コンピュータ一式を納入して顧客が所有・運用する事業を中心にしています。 2026年6月末の時点で26台を販売、17台を納入したと会社は発表しています。 2026年7月1日には、米国の特別買収目的会社(SPAC)Real Asset Acquisition Corp.との合併を完了し、 7月2日に米国のNasdaq(ティッカー IQMX)、7月3日にNasdaq Helsinkiで取引が始まりました。 ただし事業の規模はまだ小さく、2025年12月期の売上は3,130万ユーロ、純損失は5,440万ユーロです。2026年上期の売上の98.0%は公的機関向けでした。 本稿は、この会社が何を作り、誰に売り、どんな計画を掲げているかを、SECに提出された書類と会社の公式発表の範囲で整理します。
- 30秒でわかるIQMと、量子コンピュータでの立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- 量子コンピュータの世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模
- 量子コンピュータにかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画(すべて計画です)
- この会社は量子コンピュータで何を目指しているか
- 量子コンピュータ分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるアイキューエム(IQM)と、量子コンピュータでの立ち位置
(Oyjはフィンランドの株式会社形態)2018年にフィンランドで設立。アールト大学とVTT(フィンランド技術研究センター)の研究から生まれた
Nasdaq: IQMX ほかNasdaq(米国。ADSという預託証券)とNasdaq Helsinkiに上場。2026年7月
Radiance(約20〜150量子ビット)顧客の施設に設置する量子コンピュータ。次世代のHalocene(150量子ビット超)は開発中
IQMは、量子コンピュータの会社の中でも、「ハードウェア一式を顧客が所有する形で売る」ことに重点を置く会社です。 クラウドで時間貸しするのではなく、スーパーコンピュータのセンターなどが自分の施設に置いて運用します 事実。 その結果、売上の大半(2026年上期は98.0%)が公的機関(大学・国立研究所・EUの共同調達など)向けで、 特定の少数の顧客に偏っています(2026年上期は2社の合計で売上の83%=43%+40% 本稿の計算)。 「量子優位性」についてIQMはまだ達成を主張しておらず、目論見書も「成功は量子優位性の達成にかかる」と書いています。 誤り訂正の計画(Halocene H4は2027年、H5は2029年)は会社の計画です 未確定/将来。本稿はこの区別を最後まで保ちます。
量子ビット:量子コンピュータの計算の最小単位。0と1を同時に含む状態を取れますが、壊れやすく、少しの熱や電気ノイズで間違えます。
物理量子ビットと論理量子ビット:装置上に実際にある量子ビットが「物理量子ビット」、間違いを直すために多数の物理量子ビットを束ねて作る間違えにくい仮想の量子ビットが「論理量子ビット」です。数え方がまったく違うので、本稿は必ずどちらかを書きます。
ゲートの精度(フィデリティ):量子ビットへの操作が正しく行われる確率です。「2量子ビットゲートの精度99.9%」は1,000回に1回ほど間違える、という意味です。小さなテスト用チップでの値と、大きなシステム全体での値は別物なので、条件を必ず確認します。
オンプレミス(現地設置):クラウドで借りるのではなく、顧客が自分の施設に装置を置いて所有・運用する形です。普通のコンピュータのサーバーを自社に置くのと同じ考え方です。
2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:会社名はIQM Quantum Computers。法人としてはIQM Quantum Computers Oyj(英語の発表では Plc とも書かれます)で、フィンランドの株式会社の形態です。 米国での株式は、1株を表す預託証券(ADS)の形で取引されています。ロゴはIQMの公式サイトに掲載されているものです。
混同しやすいもの:Spark(スパーク、5量子ビット)、Radiance(レイディアンス、約20〜150量子ビット)、Halocene(ハロシーン、次世代機)は製品名、Resonance(レゾナンス)はクラウドサービス名です。Crystal・Star・Constellationは量子ビットのつなぎ方(チップの配置)の名前です。
公式サイト:https://iqm.tech/3. 量子コンピュータの世界で、この会社はどこにいるか
量子コンピュータに関わる会社は、どうやって量子ビットを作るかで4つに分けると整理しやすくなります。 超伝導は「電気回路を極低温に冷やして量子ビットにする」方式、イオン・中性原子は「原子そのものを並べて量子ビットにする」方式、 光・シリコンほかは「光の粒やシリコンの中の電子のスピンを使う」方式、周辺・ソフトは「量子ビットは作らず、使いやすくする」会社です。
金属の中には、極端に冷やすと電気抵抗がゼロになる「超伝導」という状態になるものがあります。 IQMは、そうした金属で作った小さな電気回路(トランズモン型と呼ばれる型)をシリコンのウェハー上に作り、 極低温に冷やしてマイクロ波で操作します 事実。 目論見書は、超伝導の利点として、半導体の製造技術を使えること、ゲート(量子ビットへの操作)が速いことを挙げています(会社の見解)。 難点は、冷却装置の大きさ、配線の数、量子ビットを増やしても精度を保つことです。本シリーズの技術解説『超伝導量子ビット』『極低温と制御』でも扱います。
4. 会社の規模
IQMは従業員400人超で、2026年7月に上場したばかりの会社です。目論見書と2026年8月4日の発表の数字を表で示します 事実。
| 指標(百万ユーロ) | 2024年12月期 | 2025年12月期 | 2025年上期(1〜6月) | 2026年上期(1〜6月) |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 16.4 | 31.3 | 6.0 | 8.9 |
| 研究開発費 | 42.4 | 50.7 | 25.7 | 34.0 |
| 営業損失 | 50.0 | 58.1 | 31.6 | 60.5 |
| 純損失 | 54.1 | 54.4 | 34.6 | 74.9 |
| 従業員 | 400人超、55か国以上の国籍(2026年8月の会社の発表)。本社はフィンランド・エスポー、ドイツ・ミュンヘンにも主要拠点 | |||
| 現金 | 2026年6月30日:1億1,340万ユーロ。上場完了後の2026年7月2日:3億940万ユーロ(会社の発表。資金は2028年第2四半期ごろまで足りると会社は説明) | |||
2026年上期の営業損失6,050万ユーロは、会社の説明では、上場(SPAC合併と二重上場)に伴う一時的な費用と、研究開発・人員の増加が主因です。 事業の赤字幅を読むときは、この一時費用が含まれる点に注意してください。 また、2026年6月30日までの累計の赤字(累積欠損)は3億710万ユーロ(2025年12月末は2億3,220万ユーロ)です。 IQMの売上はIFRS(国際財務報告基準)にもとづく数字で、受注残高(確定した注文のうち売上にしていない額)は、IFRSの指標ではなく会社独自の指標です。 受注残高は2026年1月初に6,730万ユーロ、6月30日に6,910万ユーロ、8月3日に1億210万ユーロ超(LUMI AI Factoryの受注3,300万ユーロを加えた額)と、会社は発表しています。
5. 量子コンピュータにかけているリソース
IQMは量子専業なので、会社全体の数字がそのまま量子の数字です。4点を、確認できたかどうかで整理します。
| リソースの種類 | 確認できた内容(確認日 2026年10月16日) | 区分 |
|---|---|---|
| 人 | 従業員は400人超(55か国以上)。特許は170の特許ファミリー(出願339件・登録130件)(2026年7月31日)。2026年上期に最高技術責任者(CTO)・最高執行責任者(COO)などの経営陣と取締役会を拡充(会社の発表) | 事実 |
| 金(支出) | 研究開発費は2025年に5,070万ユーロ(2024年は4,240万ユーロ)。製造工場の拡張に4,000万ユーロ超を投じると発表(クリーンルームを倍増し、年間最大30台の生産を可能にする計画) | 事実(工場拡張は計画) |
| 金(調達) | これまでの株式発行による純収入は4億8,950万ユーロ(2026年6月末)。2025年3月にシリーズBの第1回(2億8,220万ユーロ)。2026年7月のSPAC合併で、現金は上場後に3億940万ユーロ(PIPEという上場時の追加出資は約1億4,550万US$)。2025年12月に最大5,000万ユーロの融資枠(Kreos Capital)を設定し500万ユーロを借りたが、2026年7月31日に全額返済。2022年に欧州投資銀行(EIB)から転換社債型の融資3,500万ユーロを受け、2025年に完済 | 事実 |
| 外部への出資・買収・合弁 | IQMが他社へ出資・買収した記載は、目論見書で確認できず。2025年10月に日本・イタリアに子会社を設立(ほかにドイツ・フランス・ポーランド・スペイン・シンガポール・米国・英国など)。上場のためのSPAC(Real Asset Acquisition Corp.)との合併は2026年7月1日に完了 | 事実 |
| 公的資金・政府との関係 | (1) 売上の98.0%(2026年上期)が公的機関向け。EUの共同調達制度EuroHPC Joint Undertakingの資金による案件を含む。(2) LUMI-IQは、EuroHPCとフィンランド・チェコ・ノルウェー・ポーランドが共同で出資。(3) 米エネルギー省のオークリッジ国立研究所(ORNL)が購入(2026年6月)。(4) DARPAの量子ベンチマーク計画(QBI)の公式の参加企業一覧(2025年4月のStage A、2025年11月のStage B、2026年10月8日時点)に、IQMは掲載されていない | 事実 |
| 大学・研究機関との連携 | VTT(フィンランド)とLRZ(ドイツのライプニッツ・スーパーコンピューティング・センター):超伝導チップ製造の分野での協力。CSC(フィンランド):スーパーコンピュータLUMIの運営。ミュンヘン工科大学、CEA Leti、Fraunhofer、カリフォルニア大学バークレー校、シンガポールのIMRE、欧州量子フラッグシップ計画 | 事実 |
| 製造・施設 | フィンランド・エスポーに量子チップの製造工場(200ミリのシリコンウェハーで、チップの製造・パッケージ・3次元集積を行う)。会社は年間20台のオンプレミス機を作れると説明(ロードマップのページ) | 事実(会社の説明) |
主要なデバイスの状況(確認日 2026年10月16日・すべてアイキューエム(IQM)の目論見書・提出書類・公式発表)
量子ビットの数は「物理」と「論理」を分けて示します。精度は会社の発表した条件つきの値で、小さなテストチップの値とシステム全体の値は別です。他の方式・他社の数値と並べて優劣を比べることはできません。
| デバイス | 方式 | 量子ビット数 | 代表的な精度・性能(会社公表・条件つき) | 段階 | 日付・出典 |
|---|---|---|---|---|---|
| IQM Spark | 超伝導 | 物理5 | 教育・研究向け。大学が教育や初期実験に使える価格帯と会社は説明 | 販売中(オンプレミス) | 目論見書(2026年8月) |
| IQM Radiance | 超伝導 | 物理約20〜150(構成により異なる。アップグレード可能) | スーパーコンピュータのセンター向け。ORNLの「Pathfinder」は20量子ビット機で、2026年6月16日に稼働。LRZの20量子ビット機は2024年に設置 | 販売・納入(オンプレミス) | 目論見書、ORNL向け発表 |
| Crystal型の配置 | 超伝導(正方格子) | 機種による | テスト用システムで2量子ビットゲート精度99.9%(会社の説明)。2025年に2量子ビットのテスト用チップで最大99.95%(CZゲート)。目論見書は、内部の実証で99.93%と記載 | 実証(テスト用チップ・システム) | ロードマップのページ、目論見書 |
| Star型の配置(IQM Star 24) | 超伝導 | 物理24 | 共振器で多数の量子ビットをつなぎ、高い接続性を持つ配置。Resonance(クラウド)で利用可能 | クラウドで提供 | ロードマップのページ |
| IQM Halocene(H4) | 超伝導(誤り訂正の機能つき) | 物理150 | LUMI-IQの最初の設置(2027年)。誤り訂正の初期機能を持つ。2028年に論理誤りを減らしリアルタイムの誤り訂正に対応する計画 | 計画(受注済み。2027年) | 2026年7月8日・9月10日の発表 |
| IQM Halocene(H5) | 超伝導(誤り耐性に向けた) | 論理最大9(距離3の表面符号・カラー符号) | LUMI-IQの最終段階(2029年)。論理量子ビットどうしの操作(格子手術・T ゲートのテレポーテーション)をリアルタイムの帰還で支える。距離11の表面符号、距離9のカラー符号の論理量子ビットも作れると会社は説明 | 計画(2029年) | 2026年9月10日の発表 |
6. これまでの取り組み
IQMの歩みは、「顧客の施設に装置を納める」「自社工場で作る」「誤り訂正の設計を進める」「上場して資金を得る」の4本で見ると分かりやすくなります。
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 2018年 | アールト大学(フィンランド・エスポー)から生まれた企業として設立。VTT(フィンランド技術研究センター)の研究にも由来する(目論見書) | 最初から超伝導方式に集中。量子ビットのリセット・読み出し・熱の管理の研究から始めたと会社は説明 |
| 2022年2月9日 | 欧州投資銀行(EIB)と、3,500万ユーロ(2回に分けて2,500万・1,000万ユーロ)の転換社債型の融資契約を締結 | 公的な金融機関による資金。2025年に完済と目論見書に記載 |
| 2024年 | ライプニッツ・スーパーコンピューティング・センター(LRZ、ドイツ)に20量子ビットのRadianceを設置し、スーパーコンピュータの予約システムから量子の計算を予約できる構成にした | 量子コンピュータをHPC(スーパーコンピュータ)の一部として使う、ゆるやかな統合の例 |
| 2025年 | 2量子ビットのテスト用チップでCZゲート精度が最大99.95%に到達したと会社が発表 | 小さなテストチップの値で、大きなシステム全体の値ではない |
| 2025年3月26日 | シリーズBの第1回の出資を完了(総額2億8,218万ユーロ) | 上場前の最後の大型の民間資金 |
| 2025年末 | イタリアのCINECA、フィンランド・ドイツ・ポーランドの大学に納入。日本・イタリアに子会社を設立(2025年10月) | 納入先と販売拠点の広がり |
| 2025年12月23日 | Kreos Capitalと最大5,000万ユーロの融資契約。2026年1月に500万ユーロを借り、2026年7月31日に全額返済 | 上場までのつなぎの資金 |
| 2026年2月22日 | SPAC(Real Asset Acquisition Corp.)との合併契約を締結 | 米国での上場を選んだ経路 |
| 2026年6月16日 | 米国エネルギー省のオークリッジ国立研究所(ORNL)に、20量子ビットのRadiance「Pathfinder」を納入(IQMの米国での初の設置) | ORNLが初めて商業的に調達した量子コンピュータ。ORNLが所有・運用する |
| 2026年7月1日〜3日 | 合併を完了(7月1日)。7月2日にNasdaqでADSの取引を開始、7月3日にNasdaq Helsinkiで普通株の取引を開始 | 欧州の量子コンピュータ企業として初めてNasdaqに上場と会社は説明 |
| 2026年7月8日 | LUMI AI Factory(CSC、フィンランド)がIQMのHalocene H4(150量子ビット)の納入先に選定 | 3,300万ユーロが受注残高に加わった。EuroHPCと4か国の共同出資 |
| 2026年8月4日 | 上場後最初の決算を発表(2026年上期の売上8.9百万ユーロ)。2026年通期の見通しを初めて公表 | 第7章 |
| 2026年9月10日 | LUMI-IQの3段階のアップグレード計画(2027年・2028年・2029年)を発表 | 論理量子ビットを扱える装置へ、段階的に拡張する計画(第7章) |
クラウドで量子コンピュータを使うのは、「会社のサーバーを借りる」のに近い使い方です。IQMが力を入れるオンプレミスは、「自分のデータセンターにサーバーを置く」使い方です。 IQMの発表では、顧客は装置の所有と運用だけでなく、知的財産も含めて管理できる、と説明されています。 スーパーコンピュータのセンターは、量子コンピュータを既存のスーパーコンピュータやAI基盤につないで使いたいので、設置型を選ぶ理由があります。 ただし、1台ごとに設置・保守・アップグレードが必要になり、売上が少数の大型案件に偏りやすい(第11章)という面もあります。
7. 今後の計画(すべて計画です)
以下はすべてIQMの提出書類・発表に書かれた計画・見通しです。確認日(2026年10月16日)時点で達成されたものではありません 未確定/将来。
新規受注6,500万〜7,500万ユーロ2026年8月4日に発表した通期の目標。達成を保証するものではない
Halocene H4(物理150量子ビット)誤り訂正の初期機能を持つ。CSC(フィンランド・カヤーニ)に設置
最大100万量子ビット会社の長期目標。LUMI-IQの発表は「2030年までの誤り耐性機に向けたロードマップに沿う」と記載
2026年の売上目標(4,200万〜4,700万ユーロ)に対し、上期の売上は890万ユーロでした。目標どおりになる場合、下期に3,310万〜3,810万ユーロの売上が必要になる計算です 本稿の計算(4,200万−890万、4,700万−890万)。 会社は、受注残高(2026年6月末に6,910万ユーロ、8月3日時点で1億210万ユーロ超)が売上の見通しを支えると説明しています。 この計算は見通しの妥当性を評価するものではなく、売上が下期に偏る計画であることを示すだけです。 また、会社は2026年7〜9月期の決算を2026年11月5日に発表すると、10月5日に予告しています。
IQMは「量子優位性」をまだ達成したと主張していません。目論見書は「成功は量子優位性の達成と実用例の実証にかかる」と書いています。 誤り訂正については、会社は「qLDPC符号を使うと、物理量子ビットの数を表面符号の約10分の1にできる」と書き(目論見書)、 2026年上期に「タイル符号」と、IQMの量子ビットの配置(Constellation)に合わせた「バーベル符号」を発表したと説明しています。 これらは会社の主張で、確認した資料では第三者の検証は見つかりませんでした。他社(例:IBM)も似た比率を、別の符号について主張しており、本稿は比べて優劣をつけません 未確定/将来。
IQMのロードマップのページには、市場規模の予測(2035年に720億ユーロなど)が載っていますが、出所が示されていないため、本稿は採用しません。
8. この会社は量子コンピュータで何を目指しているか
ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 「所有できる量子コンピュータ」を、欧州の技術的な自立(ソブリン)の流れに合わせて売る | 目論見書は「欧州の技術的主権を求める動きの恩恵を受けた」と記載。CEOは「主権(ソブリン)と企業の計算基盤のためのパートナーになる」と述べ、顧客が所有と制御を得る点を強調 | 事実(会社の説明)/狙いの読みは推測 |
| 誤り訂正はqLDPC符号と、星型を並べた配置(Constellation)で効率を上げる | ロードマップのページと2026年8月の発表。CrystalとStarの配置を組み合わせて誤り訂正の効率を上げると説明 | 事実(会社の方針) |
| 当面の売上は公的機関向けの大型案件が中心で、企業向けは広げている途中 | 上期売上の98.0%は公的機関向け。一方で、ドイツ鉄道(Deutsche Bahn)の列車の運行計画の実験、NVIDIA・HPE・AWSとの連携を発表 | 推測 |
| 受注残高を売上にするために、工場の拡張と納入の増加を急ぐ | 4,000万ユーロ超の工場拡張、年間最大30台への増産、6月末に26台販売・17台納入・8台製造中 | 推測 |
| HPC(スーパーコンピュータ)・AIとの統合を、差別化の軸にする | NVIDIAのAIで量子ビットの調整を自動化、HPEのCrayと統合、LUMI AI Factoryとの連携 | 事実(連携の発表)/軸としての読みは推測 |
2026年6月30日時点で、IQMは26台を売り、17台を納入し、さらに8台を製造中でした。売った台数のうち、まだ納めていないものが9台(26−17=9 本稿の計算)あり、会社はこれとは別に「さらに8台を製造中」と説明しています(内訳の詳細は確認できませんでした)。 同じ月に会社は、工場の拡張(クリーンルームの倍増)に4,000万ユーロ超を投じると発表しました。 売上は「納入して認識される」ため、製造と納入の速度が売上の伸びを決めます。2026年の売上目標(下期に3,310万〜3,810万ユーロ)も、この製造・納入の進み具合に左右されます。 会社が「製造能力の拡張」を最初に掲げているのは、この関係を踏まえたものと本稿は読みます 未確定/将来。
9. 量子コンピュータ分野の提携マッピング
10. 提供している技術・製品・サービス
IQMの商品は、「量子コンピュータ一式(オンプレミス)」「クラウド」「ソフト」「保守・教育などのサービス」「共同開発」に分けると整理できます。
| 層 | 内容(確認日 2026年10月16日) | 状況 |
|---|---|---|
| 量子コンピュータ一式(オンプレミス) | Spark(5量子ビット、教育・研究向け)、Radiance(約20〜150量子ビット、アップグレード可能、スーパーコンピュータのセンター向け)。顧客の施設に設置し、顧客が所有・運用する。2025年の売上のうち3,060万ユーロが装置の販売 | 販売中 |
| 次世代機 | Halocene(150量子ビット超。誤り訂正の機能を備える設計)。LUMI-IQの最初の設置(H4)は2027年 | 開発中(受注済み) |
| クラウド | IQM Resonance(自社のクラウド。パルスレベルのアクセスと誤り軽減の統合を提供)と、AWSのAmazon Braket。2025年の売上のうちクラウド利用は30万ユーロ | 提供 |
| ソフト | HPCセンター向けのソフト開発キット(SDK)、オープンソースのQrisp(研究パートナーと共同開発)など | 提供 |
| サービス・共同開発 | 訓練・保守・技術支援。共同開発(2025年の売上は30万ユーロ、前年は140万ユーロ) | 提供 |
| チップの設計・製造 | 自社のEDAソフトで設計し、エスポーの工場で製造(200ミリのシリコンウェハー)。クリーンルームの拡張を計画 | 稼働・拡張計画 |
IQMは、量子チップをフィンランド・エスポーの自社工場で、200ミリのシリコンウェハーから作り、パッケージし、3次元に集積して量子プロセッサにすると書いています 事実。 超伝導の量子ビットは、シリコンの上に超伝導体の薄膜で回路を描いて作ります。量子ビットを増やすには、チップの上の配線を多層にし、複数のチップを重ねて接合する必要があります。 IQMは「Star」と呼ぶ配置で、共振器(電気の振動をためる小さな回路)を使って多数の量子ビットを結び、「Constellation」ではStarの単位を格子状に並べると説明しています(会社の説明)。 これは「量子ビットの間の配線をどう引き回すか」という設計上の工夫で、冷凍機の中に引き込む配線の数と、チップ上の配線の混み具合の両方に関わります。
製造の面では、会社はエスポーのクリーンルームを倍増する投資(4,000万ユーロ超)を発表し、チップ製造でVTTとLRZに協力を得ていると目論見書に書いています。 なお、量子ビットに使う具体的な超伝導材料や基板の種類は、確認した目論見書・発表には書かれておらず、本稿は特定しません 未確定/将来。 ゲートの精度(小さなテストチップで99.95%、システムで99.9%)を決める材料・界面の質については、IQMは一般的な説明をしているだけで、具体的な数値や手法は確認できませんでした。
11. この企業が抱えるリスク
ここに書くのは、目論見書・提出書類に基づく事実と、本稿の読みです。特定の会社を評価したり、投資の判断材料を示したりするものではありません。
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 公的機関への依存 | 2026年上期の売上の98.0%(2025年上期は99.5%)が公的機関向け。目論見書は、政府・公的機関の契約を失う、または調達・財政の方針が変わると、事業に重大な影響が出うると書いている。EUの共同調達(EuroHPC)による案件も多い | 事実 |
| 少数の顧客への偏り | 2025年は1社が売上の29%、2社目が20%、3社目が19%。2026年上期は1社が43%、2社目が40%。納入の時期がずれると、売上が大きく変わる | 事実 |
| 赤字と資金 | 2025年の純損失は5,440万ユーロ、2026年上期の純損失は7,490万ユーロ(上場費用を含む)。2026年6月末の累積欠損は3億710万ユーロ。会社は現金3億940万ユーロ(上場後)で資金は2028年第2四半期ごろまで足りると説明するが、追加の資金調達が必要になる可能性があると目論見書に書かれている | 事実 |
| 売上が下期に偏る見通し | 2026年の売上目標を達成するには、下期に3,310万〜3,810万ユーロが必要(本稿の計算)。製造・納入の遅れで見通しがずれる可能性がある | 本稿の計算/達成は未確定/将来 |
| ロードマップの達成 | Halocene H4(2027年)・H5(2029年)、誤り訂正の実証機(2027〜2028年)、誤り耐性機(2030年以降)はすべて会社の計画。精度の目標(99.94%超)も、小さなテストチップではなく、大きなシステムでの達成が条件 | 未確定/将来 |
| 部品の調達 | 目論見書は、必要な部品を第三者の供給元に頼っており、すべての供給元と長期の供給契約があるわけではないと書いている(希釈冷凍機・マイクロ波部品・CPU/GPU/FPGAなど) | 事実 |
| 競合・他方式 | 他の方式の会社や、資金の大きい北米・アジアの企業との競争を、目論見書自身がリスクとして挙げている。本稿は方式どうし・会社どうしの優劣をつけない | 事実(会社の記載) |
| 新規上場会社の事情 | 米国では外国民間発行体として報告する(四半期報告書にあたるForm 10-Qではなく、Form 6-Kなどで開示)。2026年7月の上場直後で、上場後の開示の実績はまだ少ない | 事実 |
| 外部の検証 | DARPAのQBIの公式な参加企業一覧(2025年4月のStage A、2025年11月のStage B、2026年10月8日時点)に、IQMは掲載されていない。DARPAはQBIを優劣を決める競争ではないと説明しており、掲載の有無で技術の優劣は判断できない | 事実 |
12. 用語集
- 量子ビット(qubit)
- 量子コンピュータの計算の最小単位。0と1の重ね合わせの状態を取れるが、壊れやすい。
- 物理量子ビット/論理量子ビット
- 装置上に実際にある量子ビットが物理、誤り訂正のために多数の物理量子ビットを束ねて作る間違えにくい仮想の量子ビットが論理。
- 超伝導量子ビット
- 極低温で電気抵抗がゼロになる金属の回路を量子ビットにする方式。IBMやGoogleも採用。
- オンプレミス
- クラウドで借りるのではなく、顧客が自分の施設に装置を置いて所有・運用する形。
- ゲート精度(フィデリティ)
- 量子ビットへの操作が正しく行われる確率。99.9%は1,000回に1回ほど間違える。小さなテストチップとシステム全体では値が違う。
- NISQ
- 誤り訂正を使わない、ノイズのある中規模の量子コンピュータ。現在の多くの装置がここにあたる。
- 誤り訂正/qLDPC符号
- 多数の量子ビットで誤りを検出して直す仕組み。qLDPC符号は、表面符号より少ない量子ビットで守れるが、離れた量子ビットの接続が要る。
- 表面符号/カラー符号
- 誤り訂正符号の代表的な方式。符号の「距離」が大きいほど多くの誤りを直せる。
- 量子優位性
- 量子コンピュータが、ある計算で古典コンピュータの最良の方法より優れた結果を出すこと。IQMは達成を主張していない。
- EuroHPC
- EUのスーパーコンピュータの共同調達の枠組み(EuroHPC Joint Undertaking)。LUMI-IQの資金の一部。
- SPAC
- 特別買収目的会社。上場しておいて、後から事業会社と合併して上場させる仕組み。IQMはReal Asset Acquisition Corp.と合併した。
- ADS
- 米国預託証券。外国企業の株式を、米国で取引できるようにした形。IQMでは1ADSが1株にあたる。
- Form 6-K/20-F
- 外国民間発行体が米国SECに出す臨時報告書/年次報告書。
- DARPA QBI
- 米国防高等研究計画局の量子ベンチマーク計画。有用な誤り耐性量子コンピュータが2033年までに作れるかを段階的に検証する。
- IFRS
- 国際財務報告基準。IQMの財務諸表はこれにもとづく。
13. 出典
- IQM Quantum Computers Prospectus(Form 424B3、2026年8月26日)。事業内容、製品、財務、顧客、リスク要因、特許、上場の経緯。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2113060/000119312526368699/d36013d424b3.htm
- IQM Quantum Computers Form 6-K(2026年8月4日提出)。2026年上期・第2四半期の業績の提出。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2113060/000119312526331538/iqmx_6-k_q2_aug_2026_new.htm
- IQM Quantum Computers IQM Quantum Computers Reports First Earnings as Public Company(Form 6-KのExhibit 99.1、2026年8月4日)。受注残高、通期の見通し、上期のハイライト。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2113060/000119312526331538/iqmx-ex99_1.htm
- IQM Quantum Computers Half year financial report(Form 6-KのExhibit 99.2、2026年8月4日)。上期の財務、CEOレビュー、流動性。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2113060/000119312526331538/iqmx-ex99_2.htm
- IQM Quantum Computers Form 6-K(2026年7月1日提出)。SPAC合併の完了とNasdaq・Nasdaq Helsinkiでの取引開始。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2113060/000119312526292513/d61136d6k.htm
- IQM Quantum Computers Form 6-K(2026年10月5日提出)。2026年1〜9月の中間報告を2026年11月5日に発表する予告。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2113060/000119312526414493/d177718d6k.htm
- IQM IQM Deploys Its First U.S. Quantum Computer at Oak Ridge National Laboratory(公式発表、2026年6月16日)。 https://iqm.tech/press-releases/iqm-deploys-its-first-u-s-quantum-computer-at-oak-ridge-national-laboratory/
- IQM LUMI AI Factory selects IQM to deploy advanced quantum computer(公式発表、2026年7月8日)。 https://iqm.tech/press-releases/lumi-ai-factory-selects-iqm-to-deploy-advanced-quantum-computer-accelerating-hybrid-hpc-and-ai-development/
- IQM LUMI AI Factory selects IQM's staged path to Europe's first superconducting quantum computer with logical qubits(公式発表、2026年9月10日)。 https://iqm.tech/press-releases/lumi-ai-factory-selects-iqms-staged-path-to-europes-first-superconducting-quantum-computer-with-logical-qubits/
- IQM IQM 開発ロードマップ(公式サイトのページ)。製品の配置(Crystal・Star・Constellation)、精度の目標、技術マイルストーン。 https://meetiqm.com/technology/roadmap/
- DARPA Quantum Benchmarking Initiative(QBI)公式ページ。参加企業の一覧(2026年10月8日時点)。 https://www.darpa.mil/research/programs/quantum-benchmarking-initiative
- DARPA DARPA eyes companies targeting industrially useful quantum computers(2025年4月3日。QBI Stage Aの企業一覧)。 https://www.darpa.mil/news/2025/companies-targeting-quantum-computers
- DARPA Stage B selection(2025年11月6日時点の11社)。 https://www.darpa.mil/research/programs/quantum-benchmarking-initiative/stage-b-selection
- IQM IQM 公式サイト(ロゴの取得元)。 https://iqm.tech/
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月16日/Troy Technical
本稿の数値は、IQM Quantum Computers Oyjが米国証券取引委員会(SEC)に提出した目論見書・Form 6-K、同社の公式発表、DARPAの公式ページに基づきます。ゲート精度・ロードマップ・誤り訂正の効率は会社の主張・計画であり、第三者による最終確認ではありません。受注残高は会社独自の指標です。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。確認日は2026年10月16日です。
