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富士通 企業解説

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COMPANY PROFILE / 量子コンピュータ

富士通
― 理化学研究所と超伝導の量子コンピュータを共同開発し、「1,000量子ビット級」の設置を2026年度に予定している日本の会社

富士通は、理化学研究所(理研)と一緒に、超伝導方式の量子コンピュータを作っています。2023年10月に64量子ビット、2025年4月に256量子ビットの機械を発表し、256量子ビット機は2025年度第1四半期から企業・研究機関に提供しています。その次の1,000量子ビット級の機械を2026年度に設置する予定(会社の計画)で、2030年度には1万物理量子ビット超・250論理量子ビットの機械の完成を目標にしています。ただし、量子ビットの数が増えることと、実際に役に立つ計算ができることは別の話です。本稿は、量子に関わる部分だけを、法定開示書類と公式発表で確認できた範囲で整理します。

構成:富士通の有価証券報告書(2026年3月期、2026年6月26日提出)・公式プレスリリース・理研の発表を一次情報として使用/確認日 2026年10月16日/最終更新 2026年10月16日

この記事でわかること
  1. 30秒でわかる富士通と、量子コンピュータでの立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. 量子コンピュータの世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模(量子に関わる部分に絞る)
  5. 量子コンピュータにかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社は量子コンピュータで何を目指しているか
  9. 量子コンピュータ分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかる富士通と、量子コンピュータでの立ち位置

正式名称富士通株式会社英文名 Fujitsu Limited。東京証券取引所などに上場(本社は川崎市)
量子での類型超伝導(主)
周辺・ソフト(従)
ダイヤモンドスピンは研究段階の別方式
現在の機械256量子ビット(物理)
超伝導
2025年4月発表。2025年度第1四半期に提供開始
次の機械1,000量子ビット級
2026年度に設置予定
会社の計画。完成の発表は確認できなかった
2030年度の目標1万物理量子ビット超
250論理量子ビット
会社の目標。2035年度に1,000論理量子ビットを目指す
主な共同相手理化学研究所・産総研
大阪大学・NTT
研究開発・導入・設計で連携
量子の売上・投資額非公表量子分の研究開発費は有価証券報告書でも非公表
会計年度2025年度=
2026年3月期
4月1日〜翌年3月31日。本稿の「年度」はこの意味
まず押さえるべき1点

富士通の量子ビットは、超伝導方式(極低温で電気抵抗がなくなる金属の回路を量子ビットにする方式)です。この方式では、量子ビットを増やすほど、冷却装置の中の熱と配線の混み具合が大きな壁になります。富士通と理研は、「4量子ビットの小さな単位を立体的に積み上げる」構造と、冷凍機の中の実装密度を4倍にする工夫で、同じ冷却装置のまま64量子ビットから256量子ビットへ広げたと説明しています 事実。

もう1つ大事なのは、「量子ビットの数」と「役に立つ計算」の間に大きな距離があることです。富士通自身が、誤りを直しながら従来のコンピュータを上回る計算をするには、独自方式(STAR方式)でも約6万量子ビットが必要になると説明しています(2025年8月の発表。物理量子ビットの数と読めますが、発表文に明記はありません)。256量子ビットは、その約0.4%にあたります 本稿の計算。

先に覚えておく言葉を4つだけ

物理量子ビット/論理量子ビット:物理量子ビットはチップ上の実際の量子ビット。論理量子ビットは、多数の物理量子ビットを誤り訂正でまとめて作る丈夫な量子ビットで、本稿で数を書くときは必ず区別します。

希釈冷凍機:絶対零度(-273℃)にごく近い温度まで冷やす特殊な冷凍機。超伝導の量子コンピュータの心臓部を、この中に入れます。

早期耐障害量子コンピュータ(early-FTQC):誤り訂正を使えるが、まだ規模は小さい、完全な耐障害機の一歩手前の段階の機械。富士通のSTAR方式が狙っているのがここです。

量子シミュレータ:量子コンピュータの動きを、ふつうのコンピュータの上で真似する道具。誤りが出ない代わりに、量子ならではの高速化はできません(富士通の説明)。

2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:法人名は「富士通株式会社」、英文では Fujitsu Limited。共同開発の相手の理化学研究所(RIKEN)は国の研究機関で、別の組織です。共同の研究拠点は「理研RQC-富士通連携センター(RIKEN RQC-Fujitsu Collaboration Center)」と呼ばれ、理研の量子コンピュータ研究センター(RQC)の中に置かれています。次期機は、会社ページが「1,000量子ビット」、有価証券報告書が「1,024量子ビット級」と書いており、同じ2026年度の機械を指すと読めますが、両者の関係を明記した資料は確認できませんでした(本稿は両方の表記を示します)。

公式サイト:https://global.fujitsu/en-global/technology/research/quantum

3. 量子コンピュータの世界で、この会社はどこにいるか

量子コンピュータに関わる会社は、「量子ビットをどう作っているか(方式)」で、大きく4つに分けると整理しやすくなります。本稿の整理です 本稿の計算。

方式(類型)何を量子ビットにしているか(やさしい説明)
超伝導極低温(絶対零度に近い温度)で電気抵抗がなくなる金属で小さな電気回路を作り、その回路の2つの状態を0と1にあてる方式。半導体の製造に近い方法で作れる反面、極低温の冷却装置と大量の配線が必要。
イオン・中性原子真空の中で、電気を帯びた原子(イオン)や電気的に中性の原子を電磁場やレーザー光(光ピンセット)で捕まえて並べ、原子の内部状態を0と1にあてる方式。原子はどれも同じなので質のそろった量子ビットになりやすいが、操作の速度や規模の拡大が課題。
光・シリコンほか光の粒(光子)の性質や、シリコンの中の電子のスピン(小さな磁石の向き)などを0と1にあてる方式。既存の半導体工場やシリコンフォトニクス(光回路)の技術を使える可能性がある一方、実証はまだ途上の部分が多い。
周辺・ソフト量子ビットを作るのではなく、量子コンピュータを使う・動かす・つなぐ側を担う会社。クラウド、ソフトウェア、制御用の古典コンピュータ、量子通信などが入る。
量子コンピュータに関わる企業の4つの類型 同じ「量子の会社」でも、量子ビットの作り方(方式)で、強みと課題が違う 超伝導 イオン・中性原子 光・シリコンほか 周辺・ソフト 回路で量子ビットを作る 原子やイオンを並べる 光やシリコンで作る クラウド・ソフト・通信 IBM/Google Rigetti/IQM Quantinuum/IonQ QuEra/Pasqal PsiQuantum/Xanadu Diraq/Microsoft NVIDIA/AWS 富士通/東芝 製造技術と研究の蓄積 高い精度と操作性 光の技術と量産の可能性 使いやすさと連携 冷却と配線の難しさ 拡大と速度の課題 方式の実証が途上 自社のデバイスが主力ではない 富士通は左端の「超伝導」が主、右端の「周辺・ソフト」が従です 理研と超伝導の量子コンピュータを作り、シミュレータやクラウド運営の技術も提供
図1 量子コンピュータに関わる企業の4類型と、富士通の位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。富士通が超伝導方式の機械を理研と開発していること、シミュレータ・ハイブリッド・プラットフォームを提供していることは、富士通と理研の発表に基づきます(出典2・8・9)。

4. 会社の規模(量子に関わる部分に絞る)

富士通の全社規模を簡潔に示します。数字は有価証券報告書(2026年3月期、連結)によります。富士通の「2025年度」は2025年4月〜2026年3月です 事実。

指標(連結、単位:百万円)2023年度2024年度2025年度
売上収益3,476,9853,550,1163,502,971
営業利益149,326265,089348,329
項目内容
従業員(連結、2026年3月31日)99,203人(前年度末から13,540人減。子会社の株式譲渡や構造改革による、と有価証券報告書が説明)
研究開発費(継続事業、2025年度)1,373億円(サービスソリューション264億円・ハードウェアソリューション586億円・全社522億円)。量子分の内訳は非公表
本店神奈川県川崎市中原区上小田中四丁目1番1号(Fujitsu Technology Park)
上場市場東京証券取引所・名古屋証券取引所(縦覧場所として記載)。銘柄コード6702
ここで注意

上の数字は会社全体のものです。量子コンピューティングの事業規模ではありません。有価証券報告書には、量子コンピュータなどの先端研究への投資が「消去・全社」の費目(本社側で持つ先行研究)にまとめられると書かれています。量子に限った売上・研究開発費・設備投資・専任人員は公表されていません 未確定/将来。

5. 量子コンピュータにかけているリソース

人・金・出資と買収・大学や公的機関との連携の4点について、一次情報で確認できたかどうかを表にしました。「記載なし」「非公表」も確認の成果です。

リソースの種類一次情報で確認できた内容区分
人量子の専任人員数は非公表。共同研究拠点は理研RQC-富士通連携センター(2021年4月設立)で、設置期間は2029年3月まで延長(2025年4月に発表)。拠点は理研の和光キャンパス。川崎の本社敷地に量子コンピュータの専用施設(量子棟)を2025年9月に竣工(有価証券報告書)事実/人数は非公表
金量子の研究開発費・設備投資は非公表。有価証券報告書は、全社の研究開発費1,373億円と、量子を含む先行研究への投資が「消去・全社」に含まれることを説明するのみ非公表
外部への出資・買収・合弁・売却量子企業への出資・買収・合弁・事業売却は、確認した公式資料の範囲では確認できなかった確認できず
大学・研究機関・公的資金との連携理化学研究所(共同研究拠点、文部科学省のQ-LEAPの助成)/産業技術総合研究所(2024年6月に超伝導機を受注、2025年9月に量子技術の連携協定)/NEDO(2025年8月の公募事業「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」の実施者に採択、事業期間は2027年度まで)/大阪大学(STAR方式の共同研究)/NTT(64量子ビット機の制御ソフト)/QuTech(デルフト工科大学)(ダイヤモンドスピン)事実

主要なデバイス・製品の状況

量子ビット数はすべて物理量子ビットです。数字と「世界最大級」という表現は富士通の公称(2025年4月時点、外部に提供できる超伝導機の中で、と富士通が説明)で、他社の機械との優劣を示すものではありません(確認日 2026年10月16日)。

デバイス方式量子ビット数代表的な誤り率段階日付出典
64量子ビット機超伝導64(物理)確認できなかった提供中(共同研究の相手に提供)2023年10月5日出典9
256量子ビット機超伝導(4量子ビットの単位を立体に配置)256(物理)確認できなかった提供中(2025年度第1四半期から)2025年4月22日発表出典2・8
産総研向けの超伝導機超伝導数百量子ビットまで拡張可能な設計確認できなかった受注(2025年初頭の稼働予定と発表。稼働開始は確認できなかった)2024年6月18日発表出典5
1,000量子ビット級の機械超伝導1,000級(会社ページ)/1,024級(有価証券報告書)(物理)―計画(2026年度に量子棟へ設置予定)確認日 2026年10月16日出典1・8
1万量子ビット超の機械超伝導1万超(物理)・250(論理)―目標(2030年度に完成)2025年8月1日発表出典4
ダイヤモンドスピンの2量子ビットダイヤモンド中のNVセンター2(電子スピン1・窒素の核スピン1)1量子ビットゲート・2量子ビットゲートとも誤り確率0.1%未満(忠実度99.9%超)。ゲートセットトモグラフィで測定、富士通公称研究成果(論文公開)2025年3月24日発表出典6
40量子ビットの量子シミュレータ古典コンピュータ上の模擬40(模擬)誤りなし(模擬のため)提供中2023年10月から出典8・9

6. これまでの取り組み

時期できごと意味
2021年4月1日理研と「理研RQC-富士通連携センター」を設立。1,000量子ビット級の量子コンピュータの技術開発を目標に掲げる1,000量子ビットは5年前からの目標
2023年3月理研が国産初の超伝導量子コンピュータを公開(富士通を含む共同研究グループ)国産機の最初の一歩
2023年3月23日富士通と大阪大学がSTARアーキテクチャver.1を発表(ver.2は2024年8月28日)誤り訂正を効率化する独自の方式の始まり
2023年10月5日64量子ビットの超伝導機と40量子ビットのシミュレータを組み合わせたハイブリッド・プラットフォームを提供開始。NTTの制御ソフトを使用実機と、誤りのない模擬を並べて比べられる
2024年2月〜6月産総研G-QuATからABCI-Q(NVIDIAのGPUを2,020基搭載する量子・AIクラウド)を受注(2024年2月)、超伝導量子コンピュータを受注(5月15日、6月18日発表)日本のベンダーとして商用量子コンピュータの初の受注と説明
2025年3月24日QuTechとダイヤモンドスピンで、誤り確率0.1%未満の量子ゲートを実証と発表超伝導以外の方式の探索
2025年4月22日理研と256量子ビットの超伝導機を発表。理研との連携センターの設置期間を2029年3月まで延長同じ冷凍機のまま4倍の量子ビットに
2025年8月1日1万量子ビット超の超伝導機の開発開始を発表。NEDOの公募事業の実施者に採択実用に向けた規模へのロードマップを公表
2025年9月川崎の本社に量子棟を竣工。産総研と量子技術の連携協定を締結(有価証券報告書)次の機械を置く建物ができた
2026年3月25日大阪大学とSTARアーキテクチャver.3を発表(化学計算に必要な量子ビットを従来の1/15〜1/80に)誤り訂正を使う早期の段階で、薬や触媒の計算を狙う

7. 今後の計画

2026年度1,000量子ビット級を
量子棟に設置(予定)
有価証券報告書は「1,024量子ビット級」と記載
2030年度1万物理量子ビット超
250論理量子ビット
会社の目標。STAR方式を使う
2030年度以降超伝導とダイヤモンドスピンの
統合を研究
会社の計画。光でつなぐ拡張性が狙い
2035年度1,000論理量子ビット会社の目標
確認できなかったこと

次は、確認した公式資料に記載がありません 未確定/将来。

1,000量子ビット級の機械の完成・稼働の発表(2026年10月16日の時点)/256量子ビット機・64量子ビット機の誤り率・コヒーレンス時間/量子の売上・投資額/産総研向けの機械の稼働開始の発表。上の表の2026年度・2030年度・2035年度は、いずれも富士通の計画と目標であり、達成済みの事実ではありません。

8. この会社は量子コンピュータで何を目指しているか

会社が述べている部分と、本稿が読み取った推測を分けて書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
早期耐障害量子コンピュータ(early-FTQC)を、完全な耐障害機より先に実用化したい富士通は、STAR方式で約6万量子ビットの早期機を目指すと説明し、2030年度に250論理量子ビットを掲げる(出典4・7)事実
量子コンピュータを、スーパーコンピュータ(HPC)と一体で提供したい富士通のCTOが「HPCと量子の基盤を統合して提供する」と述べ、次世代プロセッサFUJITSU-MONAKAを開発する(出典4)事実(狙いの解釈は推測)
超伝導に集中しつつ、ダイヤモンドスピンを次の候補として保険にかけている会社ページが「超伝導の代わりの選択肢を探っている」と述べ、2030年度以降に超伝導との統合を研究すると記載(出典4・8)推測
国の事業・研究機関と一体で、開発費の一部を公的資金で賄っている可能性があるNEDO事業の実施者に採択され、理研・産総研と共同。ただし公的資金の金額・割合は公表されていない(出典1・4)推測
量子を2030年前後に事業の柱にする見通しを持つ会社ページに「2030年に量子コンピュータで事業をリードする」との記載。当面は先行研究として、本社側の費目で投資(出典1・8)事実(時期の読みは推測)
推測の根拠を1つだけ詳しく:なぜ「1万物理量子ビットで250論理量子ビット」なのか

富士通は、1万超の物理量子ビットで250論理量子ビットを動かすと発表しています。単純に割ると、論理量子ビット1個あたり約40の物理量子ビットです 本稿の計算(10,000÷250。「超」なので実際はこれ以上)。この割合が小さいのは、STAR方式が「位相回転ゲート」という独自のゲートで誤り訂正の手間を減らしているから、というのが富士通の説明です 事実。

ただし、この方式が成り立つには、物理量子ビットの誤りが十分に小さいこと(ver.3の発表では、誤り確率0.10%で約35日、0.01%で約10日の計算時間という見積もり)が前提です。現在の機械がその水準かどうかは、確認した資料に記載がありません。ここから、計画の鍵は「量子ビットを増やすこと」と同じくらい「1つ1つの量子ビットの質」にあると本稿は読みます 推測。

9. 量子コンピュータ分野の提携マッピング

富士通を中心とした量子コンピュータの提携関係 富士通・理研・NVIDIAなどの公式発表に記載がある関係のみ。確認日 2026年10月16日 共同開発・共同研究 納入・受注・公的事業 富士通 超伝導+周辺 理化学研究所(理研) 超伝導機を共同開発(2021〜) 大阪大学 STARアーキテクチャ QuTech(デルフト工科大) ダイヤモンドスピン 産業技術総合研究所 超伝導機・ABCI-Qを受注 NEDO(国の事業) 1万量子ビット超の機械(〜2027) NTT・NVIDIA 制御ソフト/ABCI-Qの構成
図2 富士通を中心とした量子コンピュータ分野の提携関係。出典:富士通・理研の発表、有価証券報告書、NVIDIAの発表(出典1〜7・9〜11)。産総研にはG-QuATの超伝導量子コンピュータとABCI-Qの2件の受注があり、ABCI-QのGPUはNVIDIA製(H100、2,020基)です。NTTとは64量子ビット機の制御ソフトで協力しています。図に含めたのは公式資料に記載がある関係だけで、報道のみの関係は含めていません。

10. 提供している技術・製品・サービス

富士通と理研が目指す「同じ冷却装置で量子ビットを増やす」超伝導量子コンピュータの概念図(AI生成による概念図。実際の設備や製品を写したものではありません)。
図3 概念画像(ImageGen生成)。富士通と理研が目指す「同じ冷却装置で量子ビットを増やす」超伝導量子コンピュータの概念図(AI生成による概念図。実際の設備や製品を写したものではありません)。 実際の製品・施設・寸法・測定結果ではありません。拡大模型と実物スケールの場面は区別してください。

富士通の量子の提供物は、超伝導の実機・40量子ビットのシミュレータ・両方を使えるハイブリッド・プラットフォーム・クラウドで運用するためのオープンソースのソフトの組み合わせです(会社ページの説明)。まず最初の図解でこれまでとこれからの量子ビット数を、次の図解で64から256へ増やした工夫を見ます。

富士通の量子ビット数:実績と、会社の計画・目標 実線は達成済み、点線は会社の計画・目標(未確定)。確認日 2026年10月16日 実績(達成済み) 計画・目標(未確定) 2023年10月 64量子ビット (物理) 理研と共同 2025年4月 256量子ビット (物理) 提供中 2026年度 1,000量子ビット級 (物理) 設置の予定 2030年度 物理 1万超 論理 250 STAR方式 2035年度 論理 1,000 超伝導と ダイヤモンドスピンを統合 実績 実績 予定 目標 目標 物理量子ビット=チップ上の実際の量子ビット。論理量子ビット=誤り訂正で多数をまとめた、丈夫な量子ビット。 2030年度の「論理250」は、1万超の物理量子ビットを使う前提の目標で、「物理」の数とは別のものです。 独自方式(STAR方式)の見積もりでは、従来のコンピュータを上回る計算に約6万量子ビットが必要(富士通の説明)。
図解 富士通の量子コンピュータの実績と計画。64量子ビット機は2023年10月(出典9)、256量子ビット機は2025年4月(出典2)、1,000量子ビット級は2026年度に設置予定(出典1・8)、2030年度・2035年度は会社の目標(出典4・8)です。2026年度の機械は、有価証券報告書では「1,024量子ビット級」と書かれています。
64量子ビット機から256量子ビット機へ:同じ単位、同じ冷凍機 富士通・理研の公式説明を本稿が簡略化した模式図(実際の立体配置ではない) 単位セル 4量子ビット → 立体に並べる 64量子ビット機 単位セル16個(4×16) → 密度を4倍に 256量子ビット機 単位セル64個(4×64) どちらも同じ種類の冷却装置(希釈冷凍機)の中に収まる 制御回路の発熱と冷凍機の冷却能力のつり合いを設計し、実装密度を4倍にした(富士通の説明) 単位セルの個数は、量子ビット数を4で割った本稿の計算。実際の機械は立体構造で、この図の平面の配置とは異なる。
図解 64量子ビット機から256量子ビット機への拡張の模式図。「4量子ビットの単位セルを3次元に配置する」「64量子ビット機と同じ単位セルを使う」「実装密度を4倍にして同じ冷却装置に収める」という点は、富士通・理研の発表(出典2)に基づきます。単位セルの個数(16個・64個)は量子ビット数を4で割った値で 本稿の計算、配置は説明用の模式図です。
素材技術者の視点:ジョセフソン接合のばらつきと、冷凍機の中の熱と配線

超伝導の量子ビットの心臓部はジョセフソン接合(2枚の超伝導体の間に、ごく薄い絶縁膜をはさんだ素子)です。この接合の大きさや膜の厚さが少しずれると、量子ビットごとに周波数がばらつき、制御が難しくなります。富士通は2025年8月の発表で、開発の重点の1つに「ジョセフソン接合の製造精度を上げ、周波数のばらつきを小さくする技術」を挙げています 事実。これは、量子ビットを増やすほど素材・プロセスの管理が効いてくる部分です。

2つめは配線と熱です。富士通は同じ発表で、複数の量子ビットチップをつなぐ配線・パッケージ技術(チップ間接続)と、冷凍機の中の発熱を減らすために部品数を減らす技術(高密度実装・低コストの制御)を挙げています 事実。256量子ビット機では「制御回路の発熱と冷凍機の冷却能力のつり合い」を設計することで、同じ冷凍機に収めたと説明されています 事実。

別の方式のダイヤモンドスピンでは、炭素13(スピンをもつ同位体)の濃度を1%から0.01%に減らした高純度ダイヤモンドを使うことで、周囲の雑音を減らし、誤り確率0.1%未満のゲートを得たと説明されています 事実(NVセンターを持つダイヤモンドはElement SixとTUデルフトが共同で開発したもの)。超伝導の薄膜の作り方・基板の損失・冷凍機の材料については、本シリーズの技術解説『超伝導量子ビット』『極低温と制御』『量子コンピュータの材料と製造』で扱っています。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
次の機械は「計画」の段階1,000量子ビット級の完成の発表は、2026年10月16日の時点で確認できなかった。2026年度の予定であり、時期・規模は変わりうる未確定/将来
量子ビットの数と、役に立つ計算の間の距離富士通自身が、従来のコンピュータを上回る計算には約6万量子ビットが必要と説明。256量子ビットはその0.4%(本稿の計算)で、1万超でもまだ足りない可能性がある事実
性能の中身(誤り率)が確認できない64・256量子ビット機の誤り率・コヒーレンス時間は、確認した資料では示されていない。量子ビットの数だけでは機械の質は分からない事実
STAR方式の見積もりは設計上のもの「1/15〜1/80の量子ビット」「約35日(誤り確率0.10%)」は大阪大学との設計上の見積もりで、実機で確かめたものではない。物理誤りがその水準に届くことが前提事実
ダイヤモンドスピンはまだ2量子ビット誤り確率0.1%未満はNVセンターの2量子ビット系での結果。多数を並べる段階にはない。会社は今後、量子ビット数を増やし、光でつなぐ部品と制御回路を作る研究に進むと説明事実
国の事業・提携先への依存開発の一部をNEDOの事業(2027年度まで)と理研・産総研との共同で進めている。公的資金の割合は非公表推測
「世界最大級」は会社の表現256量子ビット機を「外部に提供できる超伝導機の中で世界最大級」とするのは、2025年4月時点の富士通の説明。他社機との優劣を示すものではない事実

12. 用語集

量子ビット(qubit)
量子コンピュータの情報の最小単位。0と1の重ね合わせという状態を取れる。
物理量子ビット/論理量子ビット
物理量子ビットは実際のチップ上の量子ビット。論理量子ビットは、多数の物理量子ビットを誤り訂正でまとめて作る、丈夫な「仮想の」量子ビット。
超伝導量子ビット
極低温で電気抵抗がなくなる金属の小さな回路を量子ビットにしたもの。
希釈冷凍機
絶対零度にごく近い温度まで冷やす冷凍機。超伝導量子コンピュータを入れる。
ジョセフソン接合
2枚の超伝導体の間に薄い絶縁膜をはさんだ素子。超伝導量子ビットの要。
STARアーキテクチャ
富士通と大阪大学の独自の量子計算方式。位相回転ゲートを使い、誤り訂正の手間を減らす。ver.1(2023年3月)、ver.2(2024年8月)、ver.3(2026年3月)。
early-FTQC(早期耐障害量子コンピュータ)
誤り訂正を使えるが、規模はまだ小さい段階の機械。
ダイヤモンドスピン(NVセンター)
ダイヤモンドの結晶中の窒素と空孔の組み合わせ(NVセンター)の電子や核のスピンを量子ビットにする方式。
量子シミュレータ
量子コンピュータの動作を、ふつうのコンピュータで模擬する道具。誤りは出ないが、量子ならではの高速化はない。
ハイブリッド・プラットフォーム
量子の実機と量子シミュレータ、ふつうのコンピュータを組み合わせて使えるようにした環境。
有価証券報告書
日本の上場企業が出す年次の法定開示書類。

13. 出典

  1. 富士通株式会社 有価証券報告書 第126期(2025年4月1日〜2026年3月31日、関東財務局へ2026年6月26日提出、EDINET書類S100YM3K)。売上収益・従業員数・研究開発費・量子コンピューティングに関する記載(第11・13・21・59・66ページ)。 https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S100YM3K.pdf
  2. 富士通・理化学研究所 Fujitsu and RIKEN develop world-leading 256-qubit superconducting quantum computer(プレスリリース、2025年4月22日)。 https://info.archives.global.fujitsu/global/about/resources/news/press-releases/2025/0422-01.html
  3. 理化学研究所 RIKEN and Fujitsu unveil world-leading 256-qubit quantum computer(理研のニュース、2025年4月22日)。 https://www.riken.jp/en/news_pubs/news/2025/20250422_1/index.html
  4. 富士通 Fujitsu starts official development of plus-10,000 qubit superconducting quantum computer targeting completion in 2030(プレスリリース、2025年8月1日)。 https://global.fujitsu/en-global/pr/news/2025/08/01-01-en
  5. 富士通 Fujitsu to introduce superconducting quantum computer system at National Institute of Advanced Industrial Science and Technology(プレスリリース、2024年6月18日)。 https://info.archives.global.fujitsu/global/about/resources/news/press-releases/2024/0618-01.html
  6. 富士通 Fujitsu and QuTech realize high-precision quantum gates(プレスリリース、2025年3月24日)。ダイヤモンドスピン量子ビット。 https://info.archives.global.fujitsu/global/about/resources/news/press-releases/2025/0324-02.html
  7. 富士通・大阪大学 Fujitsu and The University of Osaka develop new technologies for chemical material energy calculations on early-FTQC quantum computers(プレスリリース、2026年3月25日)。STARアーキテクチャver.3。 https://global.fujitsu/en-global/pr/news/2026/03/25-01
  8. 富士通 Quantum Computing by Fujitsu(量子コンピューティングの公式ページ)。256量子ビット機の提供、1,000量子ビット機の予定、NEDOの国家プロジェクト、ロードマップ。2026年6月25日時点の保存版と確認日 2026年10月16日の取得。 https://global.fujitsu/en-global/technology/research/quantum
  9. 富士通・理化学研究所 Fujitsu and RIKEN develop superconducting quantum computer at the RIKEN RQC-Fujitsu Collaboration Center(プレスリリース、2023年10月5日)。64量子ビット機とハイブリッド・プラットフォーム。 https://info.archives.global.fujitsu/global/about/resources/news/press-releases/2023/1005-01.html
  10. 理化学研究所・富士通 RIKEN, Fujitsu Launch Collaborative R&D Center in Japan(プレスリリース、2021年4月1日)。 https://info.archives.global.fujitsu/global/about/resources/news/press-releases/2021/0401-01.html
  11. NVIDIA NVIDIA Powers Japan’s ABCI-Q Supercomputer for Quantum Research(プレスリリース、2024年3月18日)。構築は富士通。 https://nvidianews.nvidia.com/news/nvidia-powers-japans-abci-q-supercomputer-for-quantum-research

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
正式名称・本店・上場市場、売上収益・営業利益(2023〜2025年度)、従業員99,203人、研究開発費1,373億円とその内訳事実出典1 https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S100YM3K.pdf
量子の売上・研究開発費・設備投資・専任人員が非公表であること未確定/将来いずれも非公表。本稿では推計もしない
先端研究への投資が「消去・全社」に含まれること、256量子ビット機の提供開始、2025年9月の量子棟竣工、2026年度に1,024量子ビット級を設置予定、AIST連携協定(2025年9月)、NEDO採択事実出典1 https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S100YM3K.pdf
256量子ビット機(2025年4月22日発表):4量子ビットの単位セルを3Dに配置、実装密度4倍、同じ冷却装置、2025年度第1四半期から提供、1,000量子ビット機の予定、連携センターを2029年3月まで延長事実出典2・3 https://info.archives.global.fujitsu/global/about/resources/news/press-releases/2025/0422-01.html https://www.riken.jp/en/news_pubs/news/2025/20250422_1/index.html
64量子ビット機と40量子ビットのシミュレータによるハイブリッド・プラットフォーム(2023年10月5日)、NTTの制御ソフト事実出典9 https://info.archives.global.fujitsu/global/about/resources/news/press-releases/2023/1005-01.html
理研RQC-富士通連携センターの設立(2021年4月1日)と1,000量子ビット級の目標事実出典10 https://info.archives.global.fujitsu/global/about/resources/news/press-releases/2021/0401-01.html
1万量子ビット超・250論理量子ビット(2030年度)、1,000論理量子ビット(2035年度)、STAR方式、NEDO事業、約6万量子ビットの早期機の説明、重点技術(ジョセフソン接合の製造精度ほか)未確定/将来富士通の目標・計画 / 出典4 https://global.fujitsu/en-global/pr/news/2025/08/01-01-en
産総研からの超伝導量子コンピュータの受注(2024年5月15日、6月18日発表)とABCI-Q事実出典5 https://info.archives.global.fujitsu/global/about/resources/news/press-releases/2024/0618-01.html
ABCI-Qの構成(H100 2,020基)と富士通による構築事実出典11 https://nvidianews.nvidia.com/news/nvidia-powers-japans-abci-q-supercomputer-for-quantum-research
ダイヤモンドスピン:誤り確率0.1%未満の完全な量子ゲートセット、炭素13の濃度、2量子ビット系(2025年3月24日)事実富士通公称 / 出典6 https://info.archives.global.fujitsu/global/about/resources/news/press-releases/2025/0324-02.html
STARアーキテクチャver.3:1/15〜1/80、誤り確率0.10%で約35日・0.01%で約10日、ver.1(2023年3月23日)・ver.2(2024年8月28日)事実富士通・大阪大学の見積もり / 出典7 https://global.fujitsu/en-global/pr/news/2026/03/25-01
会社ページ:256量子ビット機の提供、1,000量子ビット機の予定、NEDO事業は2027年度まで、ロードマップ、「2030年に量子で事業をリード」事実出典8 https://global.fujitsu/en-global/technology/research/quantum
量子の会社を4類型に分ける整理本稿の計算本稿による整理。企業名は本シリーズで扱う企業から例示
256量子ビットが約6万量子ビットの約0.4%(256÷60,000)本稿の計算本稿の計算(出典4の数字から算出)
論理量子ビット1個あたり約40物理量子ビット(10,000÷250)本稿の計算本稿の計算(出典4の数字から算出)
単位セルの個数(16個・64個)本稿の計算本稿の計算(量子ビット数÷4)
量子企業への出資・買収・合弁・売却が確認できなかったこと未確定/将来確認した公式資料に記載なし。本稿では存在しないとも断定しない
1,000量子ビット級の完成発表、64・256量子ビット機の誤り率、産総研向けの機械の稼働開始未確定/将来確認できなかった。本稿では推計しない
「HPCと一体で提供したい」という狙いの読み推測本稿の解釈 / 出典4 https://global.fujitsu/en-global/pr/news/2025/08/01-01-en
「ダイヤモンドスピンを次の候補として保険にかけている」という読み推測本稿の解釈 / 出典4・8 https://global.fujitsu/en-global/pr/news/2025/08/01-01-en https://global.fujitsu/en-global/technology/research/quantum
「開発費の一部を公的資金で賄っている可能性」という読み推測本稿の解釈 / 出典1・4 https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S100YM3K.pdf https://global.fujitsu/en-global/pr/news/2025/08/01-01-en
「2030年前後に事業の柱にする見通し」という時期の読み推測本稿の解釈 / 出典1・8 https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S100YM3K.pdf https://global.fujitsu/en-global/technology/research/quantum
「計画の鍵は量子ビットの質にある」という読み推測本稿の解釈 / 出典7 https://global.fujitsu/en-global/pr/news/2026/03/25-01

最終更新:2026年10月16日/Troy Technical
本稿の数値はすべて、富士通が関東財務局に提出した有価証券報告書と、富士通・理研・大阪大学・産総研・NVIDIAの公式発表に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。性能の数値は富士通の公称で、他社製品との優劣を示すものではありません。確認日は2026年10月16日です。

図版更新:2026年10月17日。本文・出典整理表のベクター作図という表記は、保存した元SVGの由来を示します。現在の主図の形式と読み方は各図下の説明を参照してください。ImageGen画像は実測や実在製品の写真ではなく、元SVG・数値・出典は展開して確認できます。