TECHNOLOGY EXPLAINER
コヒーレンスとフィデリティ
― 量子ビットの「ものさし」の読み方:T1・T2、誤り率、ランダム化ベンチマーキング
量子コンピュータの装置の発表には、「T1が○○マイクロ秒」「2量子ビットゲートの忠実度99.9%」といった数字が並びます。ところが、これらの数字は何を測り、何を測っていないのかを知らないと、正しく読めません。 この記事は、量子力学を知らない人にも読めるように、デコヒーレンスとは何か、T1 と T2 の意味、忠実度と誤り率の関係、ランダム化ベンチマーキング(RB)の仕組みを、図と小さな計算で順に説明します。 後半では、方式の違う装置の数字を並べて優劣をつけてはいけない理由と、素材技術者から見た「寿命を縮める材料の原因」を扱います。「量子コンピュータの基礎」「量子ゲートと量子回路」編の次に読む記事です。
- 3行でわかる/読む前に知っておくこと/シリーズの中での位置
- ものさしの全体像:何を測る4つの指標があるか
- デコヒーレンスとは何か
- T1:エネルギー緩和時間
- T2:位相の保持時間(T2*・T2E・CPMG の違い)
- 時間と誤り:ゲートに時間がかかるほど、寿命による誤りが増える
- 忠実度と誤り率:「99.9%」の読み方
- 報告された値の例と、読み方の注意
- ランダム化ベンチマーキング(RB)と、その限界
- 素材技術者の視点:寿命を縮める材料の原因
- 評価・標準の読み方
- 用語集
- 参考資料(一次情報)
- 主張と出典の対応表(監査)
事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出・確認した値
未確定/将来=策定中の標準、企業の計画など、確定していない事項
このほか、素材分野への読み取りは「解説」として区別しています。推測は太字で示します。たとえ話には、必ず「たとえの限界」を書きます。
第3〜7章と第9章の曲線・表・模擬データは、本稿が計算した説明用の値(乱数の種を固定)で、実在の装置の測定結果ではありません。第5章・第8章の報告値は、各論文が個別の条件で報告した値で、方式の違う装置の優劣を示すものではありません。 規格(ISO/IEC・IEEE)は題名・適用範囲・状態の確認にとどめ、本文は確認していません。この分野は変化が速いため、標準の状態には確認日(2026年10月16日)を付けています。
1. 3行でわかる/読む前に知っておくこと/シリーズの中での位置
- 寿命のものさし(T1・T2):T1 は、量子ビットがエネルギーを失って「1」から「0」へ落ちるまでの時間、T2 は、矢印の向き(位相)がそろっていられる時間です。T2 は2×T1 を超えられません。T2 は測り方(T2*・T2E・CPMG)で値が変わるので、種類を確認します事実[参考資料1]
- 正確さのものさし(忠実度・誤り率):1回の操作が理想にどれだけ近いかを表します。「99.9%」は「1000回に1回の誤り」の目安です。ただし何の操作か、どう測ったか、平均か最良かを確認しないと読めません事実[参考資料2・3]
- ものさしは、装置の方式ごとに条件が違います:超伝導の「マイクロ秒」とイオンの「分」、シリコンの「秒」を並べて優劣をつけることはできません。ゲートの誤りは、ゲートの時間と寿命の比でおおよその下限が決まります本稿の計算
「量子コンピュータの基礎」編の矢印のたとえ(北極が0、南極が1、斜めが重ね合わせ)と干渉(波の足し算)、「量子ゲートと量子回路」編のゲート(矢印を回す操作)を使います。読んでいなくても分かるよう、必要な部分は短く説明し直します。式は最小限で、難しい話は「もっと詳しく」の折りたたみに入れています。
この記事は、「量子ゲートと量子回路」編の次に読む記事です。続いて「量子アルゴリズム」編に進むと、「ゲートを何回まで連続できるか」が、アルゴリズムにとってなぜ重要かが分かります。方式ごとの話、量子誤り訂正、極低温と制御は、本シリーズの各編で詳しく扱います。
2. ものさしの全体像:何を測る4つの指標があるか
量子コンピュータの装置の「質」を測るものさしは、1つではありません。大きく4つに分けて考えると整理しやすくなります。
この記事は、主に①(寿命)と②(操作の正確さ)を扱います。③と④は、後の章と「評価・標準の読み方」で触れます。大切なのは、それぞれのものさしが「何を測っていないか」を知っておくことです。たとえば、寿命が長くても(①)、ゲートの制御が不正確なら、操作の正確さ(②)は低くなります。逆に、②の数字が良くても、準備と読み出しの誤り(③)が大きければ、計算結果は誤ります。
自動車に例えるなら、「最高速度」だけでは、車の良し悪しは分かりません(燃費、ブレーキ、乗り心地も必要)。同じように、量子コンピュータも、「量子ビットの数」や「T1」だけでは、使えるかどうかが分かりません。たとえの限界:自動車の性能は、ほぼ独立に測れますが、量子ビットの寿命・ゲートの誤り・読み出しの誤りは、お互いに関係します(第6章)(本記事による解説)。
3. デコヒーレンスとは何か
「量子コンピュータの基礎」編で見たとおり、量子ビットの矢印は、干渉のために、向き(位相)まで正しくそろっていることが大切です。ところが、現実の量子ビットは、周りの環境(熱、電磁場のゆらぎ、材料の中の欠陥、まわりの原子核など)から、少しずつ影響を受けます。その結果、矢印が崩れていくことをデコヒーレンスといいます。
崩れ方には、大きく2つあります。
- T1(エネルギーの緩和):量子ビットが「1」(エネルギーの高い状態)から、エネルギーを失って「0」(低い状態)へ落ちる。矢印が南から北へ傾いていく
- T2(位相の緩和):矢印の傾きは変わらなくても、北極まわりの向き(位相)がそろわなくなる。赤道上の矢印が、ばらばらの方向を向き、平均の矢印が短くなる
この2つは、それぞれ別の時間(T1 と T2)で測られます。レビュー論文は、緩和を縦方向の緩和率(Γ1 = 1/T1)と横方向の緩和率(Γ2 = 1/T2)の2つで特徴づけ、横方向のほうに「純粋な位相の乱れ」の寄与が加わる、と説明しています事実[参考資料1]。
「量子の状態は、見られると崩れる」と言われますが、デコヒーレンスは、人が見ていなくても、周りの環境とのやりとりで起きます。測定(第4章の「測ると決まる」)は、人や装置が意図して状態を読み出す操作で、デコヒーレンスは、意図せず環境に状態の情報が漏れていく現象です。どちらも、矢印が元に戻らなくなる点は似ていますが、別のものです(本記事による解説)。
理屈では、環境から完全に孤立した量子ビットは崩れません。しかし、実際には、ゲートで操作し、結果を読み出すために、外とつなぐ必要があります。つなぎ口を作れば、そこから雑音も入ります。「孤立」と「操作・読み出し」のあいだの両立が、設計の難しいところです(本記事による解説。『極低温と制御』編)。
4. T1:エネルギー緩和時間
T1 は、量子ビットが「1」から「0」へ落ちていく速さを表す時間です。測り方は単純です。量子ビットを「1」にして、時間 τ だけ待ち、測ります。τ をいろいろ変えて、それぞれ何度もくり返し、「1のまま」の割合を調べます。この割合は、指数関数的に減ります。
「1のまま」の割合が 1/e(約37%)になる時間が T1 です。待ち時間が T1 の2倍で約14%、3倍で約5%まで下がります本稿の計算(e−1 = 0.368、e−2 = 0.135、e−3 = 0.050)。レビュー論文には、あるトランズモン量子ビットの測定例として、T1 = 85 µs が示されています事実[参考資料1]。
| 待ち時間 τ | T1 に対する比 | 「1のまま」の割合 |
|---|---|---|
| 0.1·T1 | 0.1 | 90.5% |
| 0.5·T1 | 0.5 | 60.7% |
| 1·T1 | 1 | 36.8% |
| 2·T1 | 2 | 13.5% |
| 5·T1 | 5 | 0.7% |
本稿の計算。指数関数 e−τ/T1 を計算しました。
T1 は「平均的な寿命」ではなく、割合が 1/e に減る時間です。T1 = 100 µs の量子ビットでも、10 µs で約10%は崩れ、100 µs でも約37%は残っています。個々の量子ビットは、いつ崩れるか分からない(確率的)という意味でも、「寿命」はたとえです(本記事による解説)。
5. T2:位相の保持時間(T2*・T2E・CPMG の違い)
T2 は、矢印の向き(位相)がそろっていられる時間です。位相は、1回の測定では見えないので、少し工夫して測ります。代表的な3つの測り方があり、それぞれ、測れる「ゆらぎ」の種類が違うため、値も変わります。
| 名前 | 手順 | 測っているもの | 値の傾向 |
|---|---|---|---|
| T2*(ラムゼー) | π/2 パルス → 待つ → π/2 パルス → 測る | ゆっくりした(静的な)ゆらぎも含めた、位相のずれ | 最も短くなりやすい |
| T2E(ハーンエコー) | π/2 → τ/2 待つ → π(反転)→ τ/2 待つ → π/2 → 測る | 遅いゆらぎは、途中の反転で打ち消される。速いゆらぎが残る | T2* より長くなる |
| CPMG・動的デカップリング | π パルスを何個も入れる | さらに多くの遅いゆらぎを打ち消す(打ち消せるゆらぎの範囲が測り方で決まる) | さらに長くなる |
各手順の説明は、レビュー論文[参考資料1]の説明にもとづきます事実。値の傾向(T2* < T2E < CPMG)は、遅いゆらぎを打ち消す効果から一般に言われる傾向で、個々の装置では必ずしもこの順にはなりません(本記事による解説)。
レビュー論文の測定例(あるトランズモン量子ビット1個)では、T1 = 85 µs、ラムゼーで測った T2* = 95 µs、ハーンエコーで測った T2E = 120 µs でした。T1 から決まる上限(2×T1 = 170 µs)には届いていません事実[参考資料1]。
T1 と T2 の関係:T2 は 2×T1 を超えられない
位相の緩和には、エネルギーの緩和(T1)による寄与が必ず含まれます。そのため、1/T2 = 1/(2·T1) + 1/Tφ の関係があります(Tφ は、位相だけが乱れる時間)。Tφ が無限に長くても、T2 = 2·T1 までです事実[参考資料1]。
| T1 | Tφ(位相だけの乱れ) | T2(計算値) | 読み方 |
|---|---|---|---|
| 100 µs | 無限(乱れなし) | 200 µs | T2 の最大値(2×T1) |
| 100 µs | 200 µs | 100 µs | 位相の乱れの分だけ短くなる |
| 100 µs | 100 µs | 67 µs | 位相の乱れが大きいと、T1 より短くなる |
本稿の計算。1/T2 = 1/(2·T1) + 1/Tφ を、説明用の値(T1 = 100 µs)で計算しました。実在の装置の値ではありません。実際の装置では、位相の乱れが、指数関数でなく別の形で減る場合もあり、この式は指数関数的な減衰を仮定します[参考資料1]。
T2 は、測り方(T2*、T2E、CPMG)で値が大きく変わるので、種類が書かれていない T2 は、比べられません。また、動的デカップリング(π パルスをくり返す)を使った値は、「待機中の量子ビットを守る」ための値で、ゲートの最中の値ではありません。ゲートに使う量子ビットの質を知りたいなら、ゲートの誤り率(第7・9章)も確認する必要があります(本記事による解説)。
6. 時間と誤り:ゲートに時間がかかるほど、寿命による誤りが増える
寿命(T1・T2)が長いことの意味は、ゲートの時間と比べて初めて分かります。ゲートの最中にも、量子ビットは寿命に従って崩れていくからです。ゲートに t の時間がかかるとき、寿命だけで決まる誤り(下限の目安)は、おおよそ次の式で表せます。
ε ≈ t/(3·T2) + t/(6·T1)(ゲートの時間 t が、T1・T2 より十分短いとき)。意味:「ゲートの時間が、寿命のどれだけの割合か」に、1/3 や 1/6 の係数をかけたものが、寿命による誤りです。T1 = T2 = 100 µs で、ゲートが 25 ns(寿命の 1/4000)なら、ε ≈ 1.3×10−4 です本稿の計算。
| 寿命(説明用の値) | ゲート 25 ns | ゲート 100 ns | ゲート 1 µs | ゲート 10 µs |
|---|---|---|---|---|
| T1 = T2 = 100 µs | 1.3×10−4 | 5.0×10−4 | 5.0×10−3 | 4.8×10−2 |
| T1 = 100 µs、T2 = 200 µs(T2 の最大) | 8.3×10−5 | 3.3×10−4 | 3.3×10−3 | 3.2×10−2 |
| T1 = T2 = 1 ms | 1.3×10−5 | 5.0×10−5 | 5.0×10−4 | 5.0×10−3 |
本稿の計算。式 ε = 1 − (3 + 2e−t/T2 + e−t/T1)/6 を計算しました。これは、振幅減衰(T1)と位相緩和(T2)を受ける量子ビットが時間 t 待ったときの平均ゲート忠実度で、1量子ビットの平均ゲート忠実度とプロセス忠実度の関係式(Nielsen、2002)[参考資料2]を使い、数値シミュレーションで確認しました。制御の誤差、状態の漏れ、クロストークは含みません。実際の誤りは、これより大きくなります。
誤りを減らすには、寿命を伸ばす(材料・環境の改善)か、ゲートを速くする(制御の改善)のどちらかです。上の表のとおり、寿命が10倍になれば、同じゲートの誤りは10分の1になります。逆に、ゲートを速くしすぎると、制御の誤りや、近くの状態への漏れが増えます。イオンの実験では、2量子ビットゲートの時間を 3.8 µs から 520 µs まで変えて、速さと忠実度の関係を調べた報告があります事実[参考資料4](本記事による解説)。
Sung らは、超伝導量子ビットの CZ ゲートと iSWAP ゲートの忠実度(99.76 ± 0.07%、99.87 ± 0.23%)が、T1 の限界に近いと述べています事実[参考資料5]。上の式でいえば、「ε がほとんど t/(3·T2) + t/(6·T1) だけで決まっている」状態です。こうなると、制御をどれだけ磨いても、それ以上は寿命(つまり材料)が決めることになります。
7. 忠実度と誤り率:「99.9%」の読み方
忠実度(フィデリティ、F)は、実際にできたものが、理想にどれだけ近いかを表す、0から1の数(%で書くことも多い)です。1に近いほど良く、誤り率 ε = 1 − F です。忠実度99.9%は、誤り率0.1%(1000回に1回)の目安になります。
「忠実度」には、少なくとも3種類があります。状態忠実度(できた状態が目標の状態にどれだけ近いか)、プロセス忠実度(操作全体が理想の操作にどれだけ近いか)、平均ゲート忠実度(あらゆる入力状態で平均した忠実度)です。Nielsen は、d 次元の系での平均ゲート忠実度とプロセス忠実度の関係を、簡単な式(F平均 = (d·Fプロセス + 1)/(d + 1))で示しました事実[参考資料2]。1量子ビット(d = 2)で Fプロセス = 0.9985 なら、F平均 = (2×0.9985 + 1)/3 = 0.9990 です本稿の計算。
同じ「99.9%」でも、何の操作の値か(1量子ビットゲートは2量子ビットゲートより良い値が出やすい)、何量子ビットの値か(量子ビットが増えると悪化しやすい)、平均か最良か最悪か、どう測ったか(RB、トモグラフィ、状態の測定)で、意味が違います。第9章で見るとおり、平均ゲート忠実度は、誤り耐性のしきい値と直接比べられません事実[参考資料6・7]。
「量子ゲートと量子回路」編で見たとおり、1回あたりの誤り率が ε なら、約 1/ε 回のゲートで、回路全体の成功確率は約37%まで下がります。誤り率が 10−2 なら約100回、10−3 なら約1000回、10−4 なら約1万回です本稿の計算。1桁の改善は、使える回路の長さの1桁の改善です。
8. 報告された値の例と、読み方の注意
ここでは、論文で報告された値の例を、測定条件とともに示します。どれも、方式・用途・条件が違う個別の報告で、方式の優劣を示すものではありません。
| 系(報告) | 報告された値 | 何の値か・条件 |
|---|---|---|
| 超伝導トランズモン Google Quantum AI、105量子ビット機(2024)[8] | T1 の平均 68 µs、T2,CPMG の平均 89 µs | 誤り訂正の実験に使った装置の量子ビットの平均値 |
| 超伝導トランズモン、タンタル膜 Place ら(2021)[9] | 寿命とコヒーレンス時間(動的デカップリング使用)が0.3 ms 超 | ニオブをタンタルに替えた2次元トランズモン。17個のデバイスで寿命が伸びた |
| 超伝導トランズモン、タンタル/高抵抗シリコン Bland ら(2025)[10] | T1 が最大 1.68 ms。T2E が T1 を超える | 最良の1個の量子ビット。45個の量子ビットの平均の品質因子は 9.7×106 |
| ダイヤモンド中の NV 電子スピン Balasubramanian ら(2009)[11] | T2 = 1.8 ms | 室温。13C を0.3% に減らした同位体制御の CVD ダイヤモンド |
| ダイヤモンド中の NV 電子スピン Abobeih ら(2018)[12] | 1 s 超 | 単一の電子スピン。周囲の核スピンの環境に合わせたデカップリング |
| 28Si 中のドナー電子スピン Tyryshkin ら(2012)[13] | T2 が最大 2 s(外挿で 1.8 K・磁場勾配のもとで 10 s) | 残留 29Si が50 ppm 未満の高純度シリコン。多数のスピン(ドナー密度 1014〜1015 cm−3) |
| 28Si 基板上の 31P 核スピン Muhonen ら(2014)[14] | CPMG 系列で30秒超。制御の忠実度が99.99% 超 | 同位体制御した 28Si 基板上のゲート電極つきナノ構造。単一の量子ビット |
| イオン 171Yb+ Wang ら(2017)[15] | 10分超 | 単一量子ビット。138Ba+ で冷却し、数千個の動的デカップリングのパルスを使用(メモリ用途) |
| 28Si 中のイオン化ドナーの核スピン Saeedi ら(2013)[16] | 室温で39分(極低温で3時間) | 動的デカップリングを使い、光で操作した、多数のスピンの値 |
事実(各論文の要旨・本文の記載)。表の整理は本稿の解説です。
| 系(報告) | 報告された操作の正確さ | 何の値か・条件 |
|---|---|---|
| イオン 43Ca+ Ballance ら(2016)[4] | 1量子ビット 99.9934(3)%、2量子ビット 99.9(1)% | 超微細準位の量子ビット。室温の trap。2量子ビットゲートの時間は 3.8〜520 µs の範囲で検討 |
| イオン 9Be+ Gaebler ら(2016)[17] | 1量子ビットゲートの誤りが1ゲートあたり 3.8(1)×10−5、2量子ビットゲートの誤りが 8(4)×10−4 | メモリのコヒーレンス時間が1 s 超の量子ビット。2量子ビットはベル状態の生成から推定 |
| イオン 40Ca+ Clark ら(2021)[18] | ベル状態の生成の非忠実度 6(3)×10−4 | 光周波数の量子ビット。35 µs。実験の誤りを差し引かずに直接測った値 |
| 超伝導 Sung ら(2021)[5] | CZ 99.76 ± 0.07%、iSWAP 99.87 ± 0.23%(2量子ビットの相互作用の忠実度) | チューナブルカプラ。T1 の限界に近いと報告 |
| 超伝導 Bland ら(2025)[10] | 1量子ビットゲート 99.994% | タンタル/高抵抗シリコンのトランズモン |
| 中性原子 Evered ら(2023)[20] | 2量子ビット 99.5% | 最大60原子を並列。繰り返しゲートに基づく複数の手法で評価 |
| シリコンスピン Xue ら(2022)[19] | 1量子ビット・2量子ビットともに 99.5% 超 | ゲートセット・トモグラフィで抽出。隣の量子ビットのクロストークと待機の誤りを含めた1量子ビットの平均忠実度は99% 超 |
事実(各論文の要旨の記載)。表の整理は本稿の解説です。測り方(RB、トモグラフィ、ベル状態からの推定など)は論文ごとに違い、直接比べられません。
上の表で、「イオンは分」「シリコンは秒」「超伝導はミリ秒」と並べると、優劣があるように見えます。しかし、次の理由で比べられません。(1)用途が違う:長い値は、ゲートに使わない待機用(メモリ)や、動的デカップリングを使った値のことがある。(2)個数が違う:多数のスピンの平均(アンサンブル)と、単一の量子ビット。(3)測り方が違う:T1・T2*・T2E・CPMG・RB・トモグラフィ。(4)ゲートの速さが違う:ゲートの時間とセットで初めて意味がある(第6章)。(5)最良と平均が違う:最良の1個と、全量子ビットの平均。 比べるなら、同じ方式・同じ測り方・同じ条件でです(本記事による解説)。
9. ランダム化ベンチマーキング(RB)と、その限界
(1) なぜ RB が必要か
ゲートの誤り率を知るには、ゲートをかけた結果の状態を細かく調べる「トモグラフィ」が考えられます。しかし、この方法には、準備と測定の誤りが混ざってしまう、量子ビットが増えると手間が急増する、といった問題があります。Knill らは、ランダム化ベンチマーキングを、準備と測定の正確さに頼らずに、計算に関係する誤りを見積もる方法として提案し、トラップイオンで、ランダムな π/2 パルス1回あたりの誤り確率 0.00482(17) を報告しました事実[参考資料21]。Emerson らは、ランダムなユニタリ操作を使う、スケールする雑音の推定法を示しています事実[参考資料22]。
(2) 仕組み:ランダムな操作と、それを打ち消す操作
- 北向き(0)から始めて、ランダムに選んだゲートを m 個かける
- 最後に、全体を打ち消す1個のゲートをかける(理想なら、全体で「何もしない」になり、北向きに戻る)
- 測って、0 が出れば「成功」。m を変えて、それぞれ多数回くり返し、成功の割合を調べる
- m が増えるほど成功の割合は、A·pm + B の形で減る。減る速さ p から、1操作あたりの平均の誤り率 r が分かる
誤り率は、次の式で求めます:r = (1 − p)(d − 1)/d(d は 2量子ビット数。1量子ビットなら d = 2、2量子ビットなら d = 4)事実[参考資料3]。たとえば、1量子ビットで p = 0.998 なら、r = (1 − 0.998)/2 = 0.1% です。本稿の模擬データでは、真の誤り率 0.1% と 0.5% の2つの場合に、あてはめで求めた誤り率は、0.1003% と 0.5046% でした本稿の計算(各 m で2万回の測定、乱数の種0)。
準備と測定の誤りは、曲線の高さ(A、B)に入るだけで、減る速さ p には影響しません。これが、RB が準備と測定の誤りに強い、と言われる理由です事実[参考資料23]。
(3) RB の仲間たち
| 手法 | 何を測るか | 出典 |
|---|---|---|
| 標準の RB | ゲート全体の平均の誤り率。準備と測定の誤りを考慮 | Emerson ら(2005)[22]、Knill ら(2008)[21]、Magesan ら(2011・2012)[3・23] |
| インターリーブ RB | 特定の1つのゲートの誤り率(ランダムなゲートの間に、調べたいゲートをはさむ) | Magesan ら(2012)[24] |
| 同時 RB | 近くの量子ビットを同時に動かしたときの、影響(クロストーク) | Gambetta ら(2012)[25] |
| ミラー回路による RB | 多数の量子ビットでの、スケールする RB | Proctor ら(2022)[26] |
| ゲートセット・トモグラフィ(GST) | ゲート全体の振る舞いを詳しく特徴づける(誤り耐性のしきい値を、ダイヤモンドノルムで評価する) | Blume-Kohout ら(2017)[7] |
事実(各論文の要旨の記載)。表の整理は本稿の解説です。
(4) RB の限界:誤り耐性のしきい値とは直接比べられない
- Blume-Kohout らは、RB が報告する「誤り率」は、すべての誤りに敏感ではなく、誤り耐性のしきい値を表すダイヤモンドノルムと直接比べられない、と述べています事実[参考資料7]。同じ論文は、ゲートセット・トモグラフィで、トラップイオンの量子ビットの操作が、ダイヤモンドノルム 6.7×10−4 以下というしきい値を95%超の信頼度で満たすことを示しています
- Sanders らは、報告された平均ゲート忠実度から、誤り耐性に関係する誤り率の上限を求める方法を示し、報告された平均忠実度と真の誤り率に、現実的なずれがありうることを示しています事実[参考資料6]
- Proctor らは、12のプロセッサで測り、現在のハードウェアでは、構造をもつプログラムが、ランダムなプログラムより最大で1桁早く失敗すること、したがって、ランダムなプログラムの挙動から求めた標準的な誤りの指標は、有用なプログラムの性能を正確には予測しない、と報告しています事実[参考資料27]
RB は、「ランダムな操作を平均して見たときの、平均的な誤り」を測ります。ある向きに少しずつ傾く(コヒーレントな)誤りや、特定の操作にだけ出る誤りは、平均に埋もれて、小さく見えることがあります。ゲートセット・トモグラフィは、それらも調べますが、手間がかかります。「RB で99.9%」と書かれていたら、「平均的な誤りの指標」として読み、誤り訂正に必要な水準との比較には、別の指標が必要になることに注意してください(本記事による解説)。
10. 素材技術者の視点:寿命を縮める材料の原因
量子ビットの寿命(T1・T2)は、材料の欠陥や不純物、界面の汚れ、周囲の環境で決まります。ここまでの数字を、素材の側から読み直します。
Martinis らは、二準位の欠陥(2つのエネルギー状態をもつ原子スケールの欠陥)による誘電損失が、超伝導量子ビットのデコヒーレンスの主要な原因であり、より良い誘電体と、面積の小さい接合(約10 µm2 以下)を使うと、損失を大幅に減らせることを示しました。位相量子ビットで、エネルギー緩和率が20倍改善した、と報告しています事実[参考資料28]。Müller らの総説は、アルミニウムやニオブで作った超伝導回路が、それらを覆うアモルファスの酸化膜の中の二準位の欠陥による損失で、根本的に制限される、と述べています事実[参考資料29]。
この流れで、Place らは、ニオブをタンタルに替えて、寿命とコヒーレンス時間を0.3 ms 超にし事実[参考資料9]、Bland らは、基板を高抵抗シリコンに替えて、最大 T1 = 1.68 ms に達しました事実[参考資料10]。素材から見ると、量子ビットは、材料の損失を測る、非常に敏感な「検出器」でもあります(Müller らの総説は、超伝導回路で個々の欠陥まで調べられるとしている[参考資料29])。Bland らが品質因子 Q で寿命を表していることからも、損失の考え方が、材料の誘電損失と同じ言葉に翻訳できることが分かります(本記事による解説)。
超伝導量子ビットの寿命は、超伝導体の中で対を壊された電子(準粒子)の影響を受けます。Vepsäläinen らは、環境の放射性物質や宇宙線による電離放射線が、観測されている準粒子の過剰な密度に寄与しているという証拠を示し、この影響が、この種の超伝導量子ビットのコヒーレンス時間を、最終的にミリ秒程度に制限すると予測しました。また、放射線の遮蔽が、その影響を減らすことを示しています(今の量子ビットでは小さな効果で、誤り耐性のある超伝導の装置を実現するには、影響を減らす工夫が重要になる、と述べています)事実[参考資料30]。素材から見ると、「装置を置く場所の放射線環境」や、「周りの材料に含まれる放射性元素」まで、寿命に関わることになります(本記事による解説)。
スピン量子ビットの寿命は、結晶中の核スピンを持つ同位体と不純物で決まります。Balasubramanian らは、13C を0.3% に減らし、他の常磁性の欠陥を 1013 cm−3 未満にした CVD ダイヤモンドで、室温での電子スピンの T2 = 1.8 ms を報告しました事実[参考資料11]。Tyryshkin らは、残留 29Si が50 ppm 未満の 28Si で、ドナー電子スピンの T2 が最大 2 s に達したと報告しました事実[参考資料13]。同位体制御の総説に Itoh と Watanabe があります[参考資料31]。素材から見ると、結晶成長で、同位体の比率と不純物の濃度を制御することが、そのまま量子ビットの寿命の改善になります(本記事による解説)。
イオントラップでは、イオンが電極の表面に近い位置に置かれるため、電極表面の電場の雑音が、イオンの加熱などの原因になります。Brownnutt らの総説は、イオンの加熱率の測定から推定された電場雑音の実験結果をまとめ、複数の雑音源の存在と、距離による変化の違いが、解釈を難しくしており、その多くの機構は、よく分かっていないと述べています事実[参考資料32]。素材から見ると、電極の材料・表面の清浄度・加工が、ゲートの誤りに関係する、ということですが、どの要因が支配的かは、まだ整理されていません(本記事による解説。材料課題の全体像の総説に de Leon らがある[参考資料33])。
11. 評価・標準の読み方
量子ビットの質は、寿命(T1・T2)と操作の正確さ(忠実度・誤り率)、そして、回路全体の性能の3つのものさしで読みます。それぞれの測り方(RB、トモグラフィ、量子ボリュームなど)と、用語や性能指標の標準の状況を、確認できた範囲で表にします(確認日 2026年10月16日)。
| 評価項目 | 代表的なベンチマーク・評価手法(名称・出典) | 標準・指針(ISO/IEC・IEEE など) | 読み方の注意 |
|---|---|---|---|
| 寿命(T1・T2) | T1 の減衰測定、ラムゼー(T2*)、ハーンエコー(T2E)、CPMG。手順はレビュー論文[1]の説明事実 | 確認できなかった(用語の標準として ISO/IEC 4879:2024 があるが、T1・T2 の定義を含むかは本文未確認)[34]事実 | T2 は種類(T2*・T2E・CPMG)で値が変わる。単一かアンサンブルか、メモリ用途か、条件を確認する |
| 操作の正確さ(誤り率・忠実度) | 標準の RB(Emerson ら、Knill ら、Magesan ら)[22・21・3]、インターリーブ RB[24]、同時 RB[25]、ゲートセット・トモグラフィ[7]事実 | 確認できなかった(IEEE P7131 は性能指標・ベンチマークの標準化を扱う作業部会が活動中で、発行済みの標準は確認できなかった)[35]未確定/将来 | 何の操作か、何量子ビットか、平均か最良か、測り方を確認する。RB の誤り率は誤り耐性のしきい値と直接比べられない[7・6] |
| 忠実度の定義 | 平均ゲート忠実度とプロセス忠実度の関係式(Nielsen、2002)[2]事実 | 確認できなかった | 状態・プロセス・平均ゲートの3種類を区別する |
| 回路全体の性能 | 量子ボリューム(Cross ら、2019)[36]、ミラー回路による RB[26]、層あたりの誤り(EPLG)を測る層忠実度(McKay ら、2023)[37]、速さの指標 CLOPS(Wack ら、2021)[38]、アプリケーション指向ベンチマーク[39]、能力の測定(Proctor ら)[27]事実 | 確認できなかった(同上) | McKay らは、量子ボリュームは最良の部分集合に注目し、多数の量子ビットの平均性能を示せないと述べて、層忠実度を提案している。指標ごとに、測っているものが違う |
| ベンチマーク全体の整理 | Lorenz ら(2025)の総説。量子ビット・ゲート、プロセッサ、ソフトウェア、応用の各レベルを整理し、標準化の必要性を述べている[40]事実 | 確認できなかった | 総説の推奨は、標準そのものではない |
| 用語 | —(評価ではなく用語) | ISO/IEC 4879:2024 "Information technology — Quantum computing — Vocabulary"(第1版、2024年5月、IEC/ISO JTC 3)[34]事実/IEEE P7130 "Standard for Quantum Technologies Definitions"(IEEE のページでは策定中の Active PAR。PAR 承認は2021年9月23日)[41]未確定/将来 | 用語集で、性能の合否を決める規格ではない。規格の本文は未確認で、定義の中身は書いていない |
表の整理は本稿の計算(整理)。ISO の番号・題名・発行年月は ISO の委員会ページで、IEEE の状態は IEEE SA のページで確認(確認日 2026年10月16日)。規格の本文は有料または未確認のため、題名・適用範囲の記載にとどめています。
読み方の注意(素材技術者向け)
- T1・T2 の数字は、種類と条件とセットで読みます:T1 か T2 か、T2* か T2E か CPMG か、単一かアンサンブルか、ゲート用かメモリ用か、温度はいくつか。条件の違う数字を並べて優劣をつけないでください
- 「忠実度」は、何の忠実度かを確認します:1量子ビット/2量子ビット、平均/最良、RB/トモグラフィ。RB の数字は、誤り耐性のしきい値と直接比べられません[参考資料7・6]
- 寿命とゲート時間は、セットで読みます:寿命が長くても、ゲートが遅ければ誤りは減りません(第6章)
- 標準は、推奨か要求かを確認します:ISO/IEC 4879 は用語集で、性能の合否を決める規格ではありません。IEEE P7130・P7131 は策定中です。「規格に準拠」という表現は、どの規格のどの項かを確認してください
12. 用語集
- コヒーレンス
- 量子の状態の、波としてのそろい(位相がそろっていること)。
- デコヒーレンス
- 周りの環境の影響で、量子の状態が崩れていくこと(矢印がぶれてしまう)。
- T1(エネルギー緩和時間)
- 「1」の割合が 1/e(約37%)に減るまでの時間。
- T2(位相緩和時間)
- 位相がそろっていられる時間。測り方で値が変わる。T2 ≦ 2×T1。
- Tφ(純粋位相緩和時間)
- エネルギーの緩和以外で、位相だけが乱れる時間。1/T2 = 1/(2T1) + 1/Tφ。
- T2*(ラムゼー)
- ラムゼー干渉で測る T2。ゆっくりしたゆらぎも含み、短くなりやすい。
- T2E(ハーンエコー)
- 途中に反転(π パルス)を入れて測る T2。遅いゆらぎを打ち消す。
- CPMG・動的デカップリング
- π パルスを何個も入れて、ゆらぎを打ち消し、位相を長く保つ方法。
- 忠実度(フィデリティ)
- 実際のものが、理想にどれだけ近いかを表す数。1に近いほど良い。
- 誤り率
- 1 − 忠実度。1回の操作で誤る確率の目安。
- 平均ゲート忠実度
- あらゆる入力状態で平均した、ゲートの忠実度。RB が報告する。
- プロセス忠実度
- 操作全体が理想の操作にどれだけ近いかを表す忠実度。
- ダイヤモンドノルム
- 最悪の入力も含めて、操作の誤りの大きさを測る尺度。誤り耐性のしきい値は、これで表される。
- SPAM 誤り
- 状態の準備(State Preparation)と測定(Measurement)の誤り。
- ランダム化ベンチマーキング(RB)
- ランダムな操作列で、1回あたりの平均の誤り率を調べる方法。
- インターリーブ RB
- 特定の1つのゲートの誤り率を調べる RB。
- ゲートセット・トモグラフィ(GST)
- ゲート全体を詳しく特徴づける測定。しきい値との比較ができる。
- 二準位系(TLS)
- 材料中の、2つのエネルギー状態をもつ原子スケールの欠陥。エネルギーを吸って寿命を縮める。
- 準粒子
- 超伝導体の中で、対が壊れてできた電子。量子ビットの寿命を縮める。
- トランズモン
- 超伝導の量子ビットの代表的な形。
- 量子ボリューム
- ランダムな回路をどれだけ正しく実行できるかで、装置全体の性能を表す指標。
- 層忠実度(EPLG)
- 多数の量子ビットの層の忠実度を、同時の RB で測る指標。
13. 参考資料(一次情報)
- Krantz P. ほか "A quantum engineer's guide to superconducting qubits", Appl. Phys. Rev. 6, 021318 (2019), DOI 10.1063/1.5089550 — doi.org/10.1063/1.5089550
- Nielsen M. A. "A simple formula for the average gate fidelity of a quantum dynamical operation", Phys. Lett. A 303, 249–252 (2002), DOI 10.1016/S0375-9601(02)01272-0 — doi.org/10.1016/S0375-9601(02)01272-0
- Magesan E., Gambetta J. M., Emerson J. "Scalable and Robust Randomized Benchmarking of Quantum Processes", Phys. Rev. Lett. 106, 180504 (2011), DOI 10.1103/PhysRevLett.106.180504 — doi.org/10.1103/PhysRevLett.106.180504
- Ballance C. J. ほか "High-Fidelity Quantum Logic Gates Using Trapped-Ion Hyperfine Qubits", Phys. Rev. Lett. 117, 060504 (2016), DOI 10.1103/PhysRevLett.117.060504 — doi.org/10.1103/PhysRevLett.117.060504
- Sung Y. ほか "Realization of High-Fidelity CZ and ZZ-Free iSWAP Gates with a Tunable Coupler", Phys. Rev. X 11, 021058 (2021), DOI 10.1103/PhysRevX.11.021058 — doi.org/10.1103/PhysRevX.11.021058
- Sanders Y. R., Wallman J. J., Sanders B. C. "Bounding quantum gate error rate based on reported average fidelity", New J. Phys. 18, 012002 (2016), DOI 10.1088/1367-2630/18/1/012002 — doi.org/10.1088/1367-2630/18/1/012002
- Blume-Kohout R. ほか "Demonstration of qubit operations below a rigorous fault tolerance threshold with gate set tomography", Nat. Commun. 8, 14485 (2017), DOI 10.1038/ncomms14485 — doi.org/10.1038/ncomms14485
- Google Quantum AI "Quantum error correction below the surface code threshold", Nature 638, 920–926 (2025), DOI 10.1038/s41586-024-08449-y (arXiv:2408.13687) — doi.org/10.1038/s41586-024-08449-y
- Place A. P. M. ほか "New material platform for superconducting transmon qubits with coherence times exceeding 0.3 milliseconds", Nat. Commun. 12, 1779 (2021), DOI 10.1038/s41467-021-22030-5 — doi.org/10.1038/s41467-021-22030-5
- Bland M. P. ほか "Millisecond lifetimes and coherence times in 2D transmon qubits", Nature 647, 343–348 (2025), DOI 10.1038/s41586-025-09687-4 — doi.org/10.1038/s41586-025-09687-4
- Balasubramanian G. ほか "Ultralong spin coherence time in isotopically engineered diamond", Nat. Mater. 8, 383–387 (2009), DOI 10.1038/nmat2420 — doi.org/10.1038/nmat2420
- Abobeih M. H. ほか "One-second coherence for a single electron spin coupled to a multi-qubit nuclear-spin environment", Nat. Commun. 9, 2552 (2018), DOI 10.1038/s41467-018-04916-z — doi.org/10.1038/s41467-018-04916-z
- Tyryshkin A. M. ほか "Electron spin coherence exceeding seconds in high-purity silicon", Nat. Mater. 11, 143–147 (2012), DOI 10.1038/nmat3182 — doi.org/10.1038/nmat3182
- Muhonen J. T. ほか "Storing quantum information for 30 seconds in a nanoelectronic device", Nat. Nanotechnol. 9, 986–991 (2014), DOI 10.1038/nnano.2014.211 — doi.org/10.1038/nnano.2014.211
- Wang Y. ほか "Single-qubit quantum memory exceeding ten-minute coherence time", Nat. Photonics 11, 646–650 (2017), DOI 10.1038/s41566-017-0007-1 — doi.org/10.1038/s41566-017-0007-1
- Saeedi K. ほか "Room-Temperature Quantum Bit Storage Exceeding 39 Minutes Using Ionized Donors in Silicon-28", Science 342, 830–833 (2013), DOI 10.1126/science.1239584 — doi.org/10.1126/science.1239584
- Gaebler J. P. ほか "High-Fidelity Universal Gate Set for 9Be+ Ion Qubits", Phys. Rev. Lett. 117, 060505 (2016), DOI 10.1103/PhysRevLett.117.060505 — doi.org/10.1103/PhysRevLett.117.060505
- Clark C. R. ほか "High-Fidelity Bell-State Preparation with 40Ca+ Optical Qubits", Phys. Rev. Lett. 127, 130505 (2021), DOI 10.1103/PhysRevLett.127.130505 — doi.org/10.1103/PhysRevLett.127.130505
- Xue X. ほか "Quantum logic with spin qubits crossing the surface code threshold", Nature 601, 343–347 (2022), DOI 10.1038/s41586-021-04273-w — doi.org/10.1038/s41586-021-04273-w
- Evered S. J. ほか "High-fidelity parallel entangling gates on a neutral-atom quantum computer", Nature 622, 268–272 (2023), DOI 10.1038/s41586-023-06481-y — doi.org/10.1038/s41586-023-06481-y
- Knill E. ほか "Randomized benchmarking of quantum gates", Phys. Rev. A 77, 012307 (2008), DOI 10.1103/PhysRevA.77.012307 — doi.org/10.1103/PhysRevA.77.012307
- Emerson J., Alicki R., Życzkowski K. "Scalable noise estimation with random unitary operators", J. Opt. B 7, S347–S352 (2005), DOI 10.1088/1464-4266/7/10/021 — doi.org/10.1088/1464-4266/7/10/021
- Magesan E., Gambetta J. M., Emerson J. "Characterizing quantum gates via randomized benchmarking", Phys. Rev. A 85, 042311 (2012), DOI 10.1103/PhysRevA.85.042311 — doi.org/10.1103/PhysRevA.85.042311
- Magesan E. ほか "Efficient Measurement of Quantum Gate Error by Interleaved Randomized Benchmarking", Phys. Rev. Lett. 109, 080505 (2012), DOI 10.1103/PhysRevLett.109.080505 — doi.org/10.1103/PhysRevLett.109.080505
- Gambetta J. M. ほか "Characterization of Addressability by Simultaneous Randomized Benchmarking", Phys. Rev. Lett. 109, 240504 (2012), DOI 10.1103/PhysRevLett.109.240504 — doi.org/10.1103/PhysRevLett.109.240504
- Proctor T. ほか "Scalable Randomized Benchmarking of Quantum Computers Using Mirror Circuits", Phys. Rev. Lett. 129, 150502 (2022), DOI 10.1103/PhysRevLett.129.150502 — doi.org/10.1103/PhysRevLett.129.150502
- Proctor T. ほか "Measuring the capabilities of quantum computers", Nat. Phys. 18, 75–79 (2022), DOI 10.1038/s41567-021-01409-7 — doi.org/10.1038/s41567-021-01409-7
- Martinis J. M. ほか "Decoherence in Josephson Qubits from Dielectric Loss", Phys. Rev. Lett. 95, 210503 (2005), DOI 10.1103/PhysRevLett.95.210503 — doi.org/10.1103/PhysRevLett.95.210503
- Müller C., Cole J. H., Lisenfeld J. "Towards understanding two-level-systems in amorphous solids: insights from quantum circuits", Rep. Prog. Phys. 82, 124501 (2019), DOI 10.1088/1361-6633/ab3a7e — doi.org/10.1088/1361-6633/ab3a7e
- Vepsäläinen A. P. ほか "Impact of ionizing radiation on superconducting qubit coherence", Nature 584, 551–556 (2020), DOI 10.1038/s41586-020-2619-8 — doi.org/10.1038/s41586-020-2619-8
- Itoh K. M., Watanabe H. "Isotope engineering of silicon and diamond for quantum computing and sensing applications", MRS Commun. 4, 143–157 (2014), DOI 10.1557/mrc.2014.32 — doi.org/10.1557/mrc.2014.32
- Brownnutt M. ほか "Ion-trap measurements of electric-field noise near surfaces", Rev. Mod. Phys. 87, 1419–1482 (2015), DOI 10.1103/RevModPhys.87.1419 — doi.org/10.1103/RevModPhys.87.1419
- de Leon N. P. ほか "Materials challenges and opportunities for quantum computing hardware", Science 372, eabb2823 (2021), DOI 10.1126/science.abb2823 — doi.org/10.1126/science.abb2823
- ISO/IEC "ISO/IEC 4879:2024 Information technology — Quantum computing — Vocabulary" (第1版、2024年5月、IEC/ISO JTC 3。ISO の委員会ページで確認) — iso.org/standard/80432.html
- IEEE SA "Quantum Benchmarking Working Group P7131" (量子コンピューティングの性能指標の標準化の作業部会のページ。確認日 2026年10月16日) — sagroups.ieee.org/7131
- Cross A. W. ほか "Validating quantum computers using randomized model circuits", Phys. Rev. A 100, 032328 (2019), DOI 10.1103/PhysRevA.100.032328 — doi.org/10.1103/PhysRevA.100.032328
- McKay D. C. ほか "Benchmarking Quantum Processor Performance at Scale", arXiv:2311.05933 (2023) — arxiv.org/abs/2311.05933
- Wack A. ほか "Quality, Speed, and Scale: three key attributes to measure the performance of near-term quantum computers", arXiv:2110.14108 (2021) — arxiv.org/abs/2110.14108
- Lubinski T. ほか "Application-Oriented Performance Benchmarks for Quantum Computing", IEEE Trans. Quantum Eng. 4, 1–32 (2023), DOI 10.1109/TQE.2023.3253761 — doi.org/10.1109/TQE.2023.3253761
- Lorenz J. M. ほか "Systematic benchmarking of quantum computers: status and recommendations", arXiv:2503.04905 (2025) — arxiv.org/abs/2503.04905
- IEEE SA "IEEE P7130 Draft Standard for Quantum Technologies Definitions" (project page) (Active PAR、PAR 承認 2021年9月23日。確認日 2026年10月16日) — standards.ieee.org/ieee/7130/10680/
14. 主張と出典の対応表(監査)
| 本文の主張 | 根拠 | 区分 |
|---|---|---|
| デコヒーレンスの2つの姿(T1 の緩和、T2 の位相緩和)。T1・T2 の測り方(T1 の減衰、ラムゼー、ハーンエコー、CPMG)。1/T2 = 1/(2T1) + 1/Tφ と T2 ≦ 2T1。測定例 T1 = 85 µs、T2* = 95 µs、T2E = 120 µs | レビュー論文(Krantz ら、2019)の本文と図5 出典1 https://doi.org/10.1063/1.5089550 | 事実 |
| 平均ゲート忠実度とプロセス忠実度の関係 F平均 = (d·Fプロセス + 1)/(d + 1) | Nielsen(2002)の要旨 出典2 https://doi.org/10.1016/S0375-9601(02)01272-0 | 事実 |
| ランダム化ベンチマーキングの提案と性質(準備・測定の誤りの考慮、平均の誤り率、ダイヤモンドノルムとの関係)。インターリーブ RB、同時 RB、ミラー回路 RB | Emerson ら、Knill ら、Magesan ら、Gambetta ら、Proctor ら の要旨 出典22 https://doi.org/10.1088/1464-4266/7/10/021 出典21 https://doi.org/10.1103/PhysRevA.77.012307 出典3 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.106.180504 出典23 https://doi.org/10.1103/PhysRevA.85.042311 出典24 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.109.080505 出典25 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.109.240504 出典26 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.129.150502 | 事実 |
| RB の誤り率が誤り耐性のしきい値(ダイヤモンドノルム)と直接比べられないこと。GST でトラップイオンの量子ビットが 6.7×10⁻⁴ のしきい値を満たしたこと。平均忠実度から誤り率の上限を求める方法。構造をもつプログラムが最大1桁早く失敗すること | Blume-Kohout ら(2017)、Sanders ら、Proctor ら(2022)の要旨 出典7 https://doi.org/10.1038/ncomms14485 出典6 https://doi.org/10.1088/1367-2630/18/1/012002 出典27 https://doi.org/10.1038/s41567-021-01409-7 | 事実 |
| 第8章の表の報告値(超伝導 T1 68 µs・T2,CPMG 89 µs、タンタル 0.3 ms 超、Ta/Si T1 最大 1.68 ms、NV 1.8 ms・1 s 超、28Si ドナー T2 最大 2 s、31P 核スピン 30 s 超、イオン 10 分超、イオン化ドナー 39 分) | 各論文の本文・要旨 出典8 https://doi.org/10.1038/s41586-024-08449-y 出典9 https://doi.org/10.1038/s41467-021-22030-5 出典10 https://doi.org/10.1038/s41586-025-09687-4 出典11 https://doi.org/10.1038/nmat2420 出典12 https://doi.org/10.1038/s41467-018-04916-z 出典13 https://doi.org/10.1038/nmat3182 出典14 https://doi.org/10.1038/nnano.2014.211 出典15 https://doi.org/10.1038/s41566-017-0007-1 出典16 https://doi.org/10.1126/science.1239584 | 事実 |
| 第8章の表の操作の正確さ(イオン 99.9934%・99.9%・3.8×10⁻⁵・8×10⁻⁴・6×10⁻⁴、超伝導 CZ 99.76%・iSWAP 99.87%・1量子ビット 99.994%、中性原子 99.5%、シリコンスピン 99.5% 超) | 各論文の要旨 出典4 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.117.060504 出典17 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.117.060505 出典18 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.127.130505 出典5 https://doi.org/10.1103/PhysRevX.11.021058 出典10 https://doi.org/10.1038/s41586-025-09687-4 出典20 https://doi.org/10.1038/s41586-023-06481-y 出典19 https://doi.org/10.1038/s41586-021-04273-w | 事実 |
| 二準位系(TLS)による誘電損失が超伝導量子ビットの主要なデコヒーレンス源であること(緩和率が20倍改善)。酸化膜中の二準位の欠陥による根本的な制限 | Martinis ら(2005)、Müller ら(2019)の要旨 出典28 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.95.210503 出典29 https://doi.org/10.1088/1361-6633/ab3a7e | 事実 |
| 電離放射線が準粒子密度を高め、コヒーレンスをミリ秒に制限しうること。遮蔽で緩和時間が伸びること | Vepsäläinen ら(2020)の要旨 出典30 https://doi.org/10.1038/s41586-020-2619-8 | 事実 |
| 同位体と純度:13C 0.3% のダイヤモンドで T2 = 1.8 ms、28Si(29Si 50 ppm 未満)で T2 最大 2 s。同位体制御の総説。材料課題の総説 | Balasubramanian ら、Tyryshkin ら、Itoh と Watanabe、de Leon ら 出典11 https://doi.org/10.1038/nmat2420 出典13 https://doi.org/10.1038/nmat3182 出典31 https://doi.org/10.1557/mrc.2014.32 出典33 https://doi.org/10.1126/science.abb2823 | 事実 |
| イオントラップの電極表面の電場雑音の測定の総説(雑音源が複数あり、機構の多くがよく分かっていない) | Brownnutt ら(2015)の要旨 出典32 https://doi.org/10.1103/RevModPhys.87.1419 | 事実 |
| ゲート時間による寿命の誤り(Sung らの CZ・iSWAP が T1 の限界に近いこと)。イオンの2量子ビットゲートの時間 3.8〜520 µs での速さと忠実度の検討 | Sung ら(2021)、Ballance ら(2016)の要旨 出典5 https://doi.org/10.1103/PhysRevX.11.021058 出典4 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.117.060504 | 事実 |
| 量子ボリューム、層忠実度(EPLG)、CLOPS、アプリケーション指向ベンチマークの提案。ベンチマーク全体の総説 | Cross ら、McKay ら、Wack ら、Lubinski ら、Lorenz ら 出典36 https://doi.org/10.1103/PhysRevA.100.032328 出典37 https://arxiv.org/abs/2311.05933 出典38 https://arxiv.org/abs/2110.14108 出典39 https://doi.org/10.1109/TQE.2023.3253761 出典40 https://arxiv.org/abs/2503.04905 | 事実 |
| ISO/IEC 4879:2024「Information technology — Quantum computing — Vocabulary」(第1版、2024年5月、IEC/ISO JTC 3)の番号・題名・発行年月。T1・T2 の定義を含むかは本文未確認 | ISO の委員会ページ 出典34 https://www.iso.org/standard/80432.html | 事実 |
| IEEE P7130 が策定中(Active PAR、2021年9月23日承認)であること。IEEE P7131 の作業部会が活動し、発行済みの標準は確認できなかったこと | IEEE SA のページ 出典41 https://standards.ieee.org/ieee/7130/10680/ 出典35 https://sagroups.ieee.org/7131 | 未確定/将来 |
| T1 の減衰表(e^−1 など)、T2 と Tφ の表、寿命による誤りの式と表(ε = 1 − (3 + 2e^(−t/T2) + e^(−t/T1))/6 の数値確認)、F平均の数値例、RB の模擬データとあてはめ(0.1003%・0.5046%) | 本稿の計算(Python・NumPy。乱数の種0)。実在の装置の結果ではない | 本稿の計算 |
| 方式の違う装置の数字の優劣、ISO/IEC 4879 の定義の本文、IEEE P7131 の発行状態、各装置の T1・T2 の平均と最良の全比較 | 本稿の調査範囲でアクセスできた一次情報では確認できなかったため記載していない | 解説 |
| 「デコヒーレンスは観測者が見たから起きる、は誤り」「T2 が長ければ良い、は誤り」「寿命が長いこととゲートが速いことは別」「RB の 99.9% は平均の指標」「方式の優劣は条件が違うので比べない」などの読み取りと、たとえ話・その限界 | 公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各機関が表明した見解ではない | 解説 |
| 図1〜図10が実データの観察ではなく説明のための作図であること。図1と図10がImageGen生成の概念画像であること | 本記事による注記 | 解説 |
最終更新:2026年10月16日/出典は一次情報(レビュー論文、査読論文、arXiv の論文、ISO・IEEE の公式ページ)に限定しています。各論文の報告値は、個別の測定条件での値として示し、方式の違う装置の優劣は論じていません。 数値例(減衰、寿命による誤り、RB の模擬データ)は本稿が作った説明用の計算で、実在の装置の結果ではありません。 規格の本文、IEEE P7131 の発行状態、各装置の値の網羅的な比較については、確認できなかったため記載していません。 図はすべて説明用の概念図または本稿の計算を含む作図で、図1と図10はImageGen生成の概念画像です。

