INSTITUTION PROFILE / AI・機械学習
国際標準化機構(ISO)
― AIの「用語・リスク管理・マネジメント」を揃える国際規格の作り手。法的拘束力はない
ISOは、各国の標準化機関が会員となる独立した非政府組織です。AIモデルを作りも、AIを規制もしません。 AI・機械学習に関わる役割は、ISOとIEC(国際電気標準会議)が共同で設けるJTC 1/SC 42が、AIの用語、リスク管理、マネジメントシステムなどを国際規格にすることです。 規格は自発的に使うもので、法令や認証制度が引用したときに、その範囲で実質的な基準になります。 本稿では、ISOがAI・機械学習にどこまで影響を持つのかに絞って整理します。規格の版と制定の段階には確認日(2026年10月15日)を添えます。
- 30秒でわかるISO
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- AI・機械学習で何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 関わっている企業・組織
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかる国際標準化機構(ISO)
ISOの規格は「守らなければならないルール」ではなく、「合意された共通の物差し」です。 ISOは、自分たちの規格は自発的で、規制や立法はしないと述べ、各国が規格を規制として採用したり、法令で引用したりすることはあるとも書いています 事実。 AIの代表的な規格ISO/IEC 42001についても、ISOは認証は任意だと説明しています 事実。 つまりISOの影響力は、規格の作成を通じて「AIをどう呼び、どう管理し、どう確認するか」の共通語を提供することから生まれます。 誰かが引用して初めて、その範囲で拘束力を持ちます。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
AI・機械学習の記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分ではAIモデルを作りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。
3. AI・機械学習で何をしているか
AIの規格は、ISOとIECの合同技術委員会JTC 1の分科委員会SC 42が担当します。SC 42の範囲は「人工知能の標準化」で、JTC 1の標準化計画の中心となり、IEC・ISOの他の委員会がAIを使う規格を作るときの助言も行うとされています 事実。 主な規格は次のとおりです(確認日 2026年10月15日。本文は有料のため、題名と公式ページの説明までを扱います)。
| 規格 | 発行 | 題名・中身(公式ページ) | 段階 |
|---|---|---|---|
| ISO/IEC 22989:2022 | 2022年7月 | AIの概念と用語。ほかの規格や関係者間の意思疎通に使える | 事実発行済み。生成AIに関する修正案(Amd 1)は最終段階の案(FDAmd) |
| ISO/IEC 23894:2023 | 2023年2月 | AIのリスク管理の指針。AIを開発・提供・利用する組織向け | 事実発行済み |
| ISO/IEC 42001:2023 | 2023年12月 | AIマネジメントシステム(AIMS)の要求事項。AIを使った製品・サービスを提供または利用する組織が、AIMSを確立・実施・維持・継続改善するための規格 | 事実発行済み。認証は任意 |
| ISO/IEC 42005:2025 | 2025年5月 | AIシステムの影響評価の指針。個人・集団・社会への影響を理解する評価を対象とする | 事実発行済み |
| ISO/IEC 42006:2025 | 2025年7月 | AIマネジメントシステムの審査・認証を行う機関の要求事項 | 事実発行済み |
| ISO/IEC 5338:2023 | 2023年 | AIシステムのライフサイクルプロセス | 事実発行済み |
| ISO/IEC 5259シリーズ | 2024年 | 分析と機械学習のためのデータ品質(第1〜4部。概要と用語、品質の測定、管理の要求事項など) | 事実発行済み |
| ISO/IEC 42007/42003/4213 | ― | 42007は適合性評価スキームの枠組みと指針、42003は42001の実装指針、4213はAIの性能測定 | 未確定/将来いずれも開発中(42007と4213は投票用の案、42003は新規提案の段階) |
ISO/IEC 42001が決めるのは、AIを扱う組織が、方針、リスクの扱い、役割、改善の回し方を整えることです。 特定のAIモデルが正確か、安全かを保証するものではありません。 AIを使う側の技術者が「42001に基づく」という表記を見たときは、その組織の管理の仕組みが対象で、個々の製品の性能の値ではないと読み分けるのが基本です。 モデルの性能は、ベンチマークと評価手法で別に確認します。 詳しくは、本シリーズの技術解説「ベンチマークと評価の読み方」「AIの安全性評価とリスク管理」を参照してください。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | ISOが持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 会員(各国の標準化機関)が推薦した専門家の合意で規格を作り、発行する仕組みの運営。AIでは、SC 42が規格案を作成し、投票で決める | 法的拘束力と強制力。ISOの規格は自発的で、国の法律が優先する。ISOは規制や立法をしない |
| 地域 | 177か国の会員(1国1会員)。SC 42は61か国が参加メンバー、24か国がオブザーバー。規格は各国が採用できる | 規格を使わせる権限。規制に引用するかは各国・各地域が決める |
| 欧州との関係 | 国際規格は、CEN-CENELECが欧州規格として採用することがある(JTC 21の目的に「国際規格の採用」がある) | EU AI法の整合規格を、ISOが直接決める権限。整合規格は欧州委員会の標準化要請にもとづき、CEN-CENELECのJTC 21が作る |
| 規模 | 規格等26,528件、技術委員会・分科委員会844(全分野)。SC 42は公表済み44件、開発中50件(更新を含む) | AIだけの予算・職員数は公表されていない。ISOの職員数も確認できなかった |
規格等26,528件や844委員会は全分野の合計で、AIだけの数字ではありません 事実。 SC 42の「公表済み44件」には更新版が含まれ、AIに直接関係する規格の数とは限りません。 また、実際に何社がISO/IEC 42001の認証を受けているかは、ISOの公式資料から確認できませんでした。 ISO/IEC 42001などがEU AI法の整合規格として引用されるかも、本稿では確認していません 未確定/将来。
5. 関わっている企業・組織
| 相手先 | 一次情報に書かれた関係 | このシリーズとの関係 |
|---|---|---|
| IEC・ANSI | SC 42はISOとIECの合同委員会JTC 1の分科委員会で、JTC 1とSC 42の事務局はANSI(米国)が担う | ― |
| CEN-CENELEC(JTC 21) | 欧州のAI規格の委員会。EU AI法を支える整合規格を作り、国際規格の採用も行う。整合規格は欧州委員会の標準化要請にもとづき、官報に掲載されると、適合の推定が働く | 本シリーズの機関解説「欧州委員会」 |
| 個別のAI企業 | 本稿が確認したISOのページには、特定企業が42001の認証を受けたという記載はない | 本シリーズの企業解説に、認証の取得を書く場合は各社の公式発表で確認すること |
※規格の採用や認証の取得は、企業の優劣や安全性を示すものではありません。個別企業の認証は、各社の公式発表と認証機関の登録で確認してください。
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| ISO/IEC 22989の生成AIに関する修正が最終段階にある | ISOのSC 42の規格一覧に、22989:2022/FDAmd 1(生成AI)が最終段階の案として載っている。発行日は未定 | 未確定/将来 |
| 42001の周辺(実装指針の42003、適合性評価スキームの42007)が整備されていく | SC 42の規格一覧に、42003が新規提案の段階、42007が投票用の案の段階で載っている | 未確定/将来 |
| EU AI法の整合規格は、ISOではなくCEN-CENELECのJTC 21が作るため、ISOの規格がそのまま法的な適合の推定になるとは限らない | JTC 21のページに、整合規格を作ること、官報掲載で適合の推定が働くことが書かれている。ISO/IEC 42001が整合規格として引用されるかは確認できなかった | 推測 |
| 42001と42006の組み合わせで、第三者認証が広がる可能性がある | 42006が2025年7月に認証機関の要求事項を発行。認証が任意であることはISOが述べている。取得組織の数は確認できなかった | 推測 |
7. 用語集
- JTC 1/SC 42
- ISOとIECの合同技術委員会JTC 1(情報技術)の分科委員会42。人工知能の標準化を担う。
- AIMS
- AI Management System。AIを扱う組織の方針、リスクの扱い、役割、改善の仕組み。42001が要求事項を定める。
- 整合規格
- EUで、欧州委員会の要請にもとづき欧州の標準化機関が作り、官報に掲載された規格。使うと法的要求への適合が推定される。
- P会員/O会員
- 委員会で投票や作業に参加するメンバーと、傍聴するオブザーバー。
- 自発的(voluntary)
- 使うかどうかを利用者が選べること。法的な義務ではない。
- 第三者認証
- 認定された認証機関が、組織の仕組みが規格に適合しているかを審査して証明すること。42001では任意。
8. 出典
- ISO About ISO(1946〜47年の発足、規格等26,528件、会員177、技術委員会・分科委員会844、本部の所在地。2026年10月15日確認)。 https://www.iso.org/about
- ISO Media kit(規格は自発的で、ISOは規制や立法をしない旨の記述)。 https://www.iso.org/media-kit.html
- ISO Foreword - Supplementary information(規格は自発的で、国の法律が優先する旨の記述)。 https://www.iso.org/foreword-supplementary-information.html
- ISO ISO/IEC JTC 1/SC 42 Artificial intelligence(範囲、事務局、参加メンバー61、オブザーバー24、公表済み44件、開発中50件。2026年10月15日確認)。 https://www.iso.org/committee/6794475.html
- ISO ISO/IEC JTC 1 Information technology(範囲、事務局ANSI)。 https://www.iso.org/committee/45020.html
- ISO ISO/IEC 42001:2023 Information technology — Artificial intelligence — Management system(2023年12月、要求事項の概要)。 https://www.iso.org/standard/42001
- ISO ISO/IEC 42001 explained(認証は任意の旨)。 https://www.iso.org/insights/iso-42001-explained
- ISO ISO/IEC 22989:2022 Information technology — Artificial intelligence — Artificial intelligence concepts and terminology(2022年7月)。 https://www.iso.org/standard/74296.html
- ISO ISO/IEC 23894:2023 Information technology — Artificial intelligence — Guidance on risk management(2023年2月)。 https://www.iso.org/standard/77304.html
- ISO ISO/IEC 42005:2025 Information technology — Artificial intelligence (AI) — AI system impact assessment(2025年5月)。 https://www.iso.org/standard/42005
- ISO ISO/IEC 42006:2025 Information technology — Artificial intelligence — Requirements for bodies providing audit and certification of artificial intelligence management systems(2025年7月)。 https://www.iso.org/standard/42006
- ISO SC 42の規格一覧(5338、5259シリーズ、22989の修正案、42003、42007、4213の段階。2026年10月15日確認)。 https://www.iso.org/committee/6794475/x/catalogue/p/1/u/0/w/0/d/0
- CEN-CENELEC Artificial Intelligence(JTC 21の目的、EU AI法の整合規格、適合の推定。2026年10月15日確認)。 https://www.cencenelec.eu/areas-of-work/cen-cenelec-topics/artificial-intelligence/
9. 主張と出典の対応表
| 本文の主張 | 区分 | 出典 |
|---|---|---|
| ISOの会員177、規格等26,528件、技術委員会・分科委員会844、非政府組織、1国1会員 | 事実 | 出典1 https://www.iso.org/about |
| 規格は自発的で、ISOは規制や立法をしない(各国が引用・採用することはある) | 事実 | 出典2 https://www.iso.org/media-kit.html |
| 規格は自発的で、国の法律が優先する | 事実 | 出典3 https://www.iso.org/foreword-supplementary-information.html |
| SC 42の範囲、事務局ANSI、参加メンバー61、オブザーバー24、公表済み44件、開発中50件 | 事実 | 出典4 https://www.iso.org/committee/6794475.html |
| JTC 1の範囲と事務局 | 事実 | 出典5 https://www.iso.org/committee/45020.html |
| ISO/IEC 42001:2023(2023年12月)の題名と要求事項の概要 | 事実 | 出典6 https://www.iso.org/standard/42001 |
| 42001の認証は任意 | 事実 | 出典7 https://www.iso.org/insights/iso-42001-explained |
| ISO/IEC 22989:2022(2022年7月)の題名と範囲 | 事実 | 出典8 https://www.iso.org/standard/74296.html |
| ISO/IEC 23894:2023(2023年2月)の題名 | 事実 | 出典9 https://www.iso.org/standard/77304.html |
| ISO/IEC 42005:2025(2025年5月)の題名と概要 | 事実 | 出典10 https://www.iso.org/standard/42005 |
| ISO/IEC 42006:2025(2025年7月)の題名 | 事実 | 出典11 https://www.iso.org/standard/42006 |
| 5338:2023、5259シリーズ(2024)の題名、22989の修正案・42003・42007・4213の段階 | 事実 | 出典12 https://www.iso.org/committee/6794475/x/catalogue/p/1/u/0/w/0/d/0 |
| CEN-CENELEC JTC 21の目的、整合規格、官報掲載による適合の推定 | 事実 | 出典13 https://www.cencenelec.eu/areas-of-work/cen-cenelec-topics/artificial-intelligence/ |
| 機関の4つの型の区分、規格の分類(基盤・リスク・マネジメント) | 本稿の計算 | 本稿による整理 |
| ISOの職員数、42001の認証取得組織の数、42001などの整合規格としての引用、修正案・開発中規格の発行日 | 未確定/将来 | 出典1〜13に記載なし。本稿では推計しない |
| 第6章の見通し(整合規格との関係、第三者認証の広がり) | 推測 | 出典7・11・13の記載からの本稿の解釈 |
最終更新:2026年10月15日/Troy Technical
本稿の数値と版はISOの公式サイトとCEN-CENELECのページに基づきます。規格の本文は有料のため、題名と公式ページの説明までを扱っています。この分野は変化が速いため、規格の段階は確認日時点のものです。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。
