COMPANY PROFILE / AI・機械学習
DeepSeek
― 大規模モデルの重みをMITライセンスで公開し、長い文脈の計算効率を技術報告書で示している中国のモデル開発会社
DeepSeekがAI・機械学習で注目されるのは、高性能のモデルを、重み・技術報告書・計算カーネルまで公開しているからです。2026年4月にDeepSeek-V4を公開し(V4-Proは総パラメータ1.6兆・活性490億、V4-Flashは2,840億・130億、いずれも100万トークンの文脈)、9月10日にはV4.1-Flash(画像理解を備える)をAPIとHugging Faceで公開しました。会社は技術報告書で、100万トークンの文脈でV4-Proの推論計算量はV3.2の27%、KVキャッシュは10%と説明しています(会社の主張)。一方、売上・従業員数・資金調達・出資者はいずれも公式資料で確認できず、非公表です。米国標準技術研究所(NIST)のCAISIは2025年9月と2026年5月に評価を公表し、イタリアのデータ保護当局は2025年1月に利用者データ処理の制限を命じました。本稿は、2026年10月15日までに確認できた公式資料(公式ドキュメント、モデルカード、論文、規約、政府機関の文書)だけで整理します。
- 30秒でわかるDeepSeekと、AI・機械学習での立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- AI・機械学習の世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模
- AI・機械学習にかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社はAI・機械学習で何を目指しているか
- AI・機械学習分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるDeepSeekと、AI・機械学習での立ち位置
Beijing DeepSeek Artificial Intelligence Co.利用規約が両社と関連会社を運営主体と記載。公式ドキュメントの著作権表記は「DeepSeek, Inc.」
(連絡先は北京市海淀区)プライバシーポリシーは「中国に登記住所を有する」と記載
V4.1-FlashV4は2026年4月、V4.1-Flashは2026年9月10日
DeepSeekは、モデルを作り、重みと作り方を公開することで存在感を持つ会社です。2025年1月のR1以来、論文・モデルカード・GitHubのコードで、学習の方法、推論の効率化、計算カーネルまで詳しく示しています。たとえばV3の技術報告書は、事前学習・文脈拡張・事後学習の合計が2.788百万H800GPU時間で、H800を1時間2ドルと仮定すると557.6万ドルと書き、「先行研究・アブレーション実験の費用は含まない」と注記しています 事実。この数字は、会社が仮定した単価での最終学習の費用であり、会社の総投資額ではありません。一方で、会社自身の規模(売上、人員、資金、設備)は一切公開されていません。公開の中身は、モデルと技術であって、事業の財務ではありません。
2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:社名はDeepSeekです。利用規約は、サービスをHangzhou DeepSeek Artificial Intelligence Co., Ltd.、Beijing DeepSeek Artificial Intelligence Co.とその関連会社が共同で所有・運営すると記載し、プライバシーポリシー(2026年2月10日更新)はデータ管理者をHangzhou DeepSeek Artificial Intelligence Co., Ltd.と記載しています。公式ドキュメントの著作権表記は「DeepSeek, Inc.」で、法人の関係(親子・資本関係)は確認した公式資料に書かれていません。モデルの名称は、DeepSeek-V4-Pro、DeepSeek-V4-Flash、DeepSeek-V4.1-Flashのように「ブランド名+世代+大きさ」で、日付つきの版(V4-Pro-0813など)もあります。ロゴ画像は、公式GitHubリポジトリ(deepseek-ai)のfigures/logo.svgで、各モデルカードの冒頭に使われているものです。
公式GitHub:https://github.com/deepseek-ai3. AI・機械学習の世界で、この会社はどこにいるか
図1のとおり、DeepSeekはモデル開発の会社です。モデルを自社のAPI・アプリ(chat.deepseek.com)で提供し、同時に重みをHugging Faceなどで公開しています。もう1つの特徴は、モデルの設計と、計算機の使い方を一体で最適化することです。V4の技術報告書は、注意機構の圧縮(長い文脈のKVキャッシュを小さくする)、専門家の通信と計算の重ね合わせ、低精度(FP4とFP8)の利用、独自カーネルを示しています。この会社は、データセンターや半導体を自社で持つ会社ではなく(確認できず)、クラウド・インフラやチップの事業は確認できません。本シリーズの技術解説「Transformerと大規模言語モデル」「推論モデル」「モデルの効率化」「推論の最適化とサービング」もあわせて参照してください。 事実
4. 会社の規模
DeepSeekは非上場で、売上・利益・従業員数・資本金・出資者を公式資料に載せていません。確認できた「規模の手がかり」を、性質ごとに分けて示します 事実.
| 項目 | 確認できた内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 売上・利益 | 非公表(API価格は公開されているが、売上は公表されていない) | 出典2 |
| 従業員数 | 非公表。V4技術報告書の著者は「DeepSeek-AI」と318名の計319名(人員の総数ではない) | 出典4 |
| 資金・出資者 | 確認できず | 公式資料に記載なし |
| 法人 | Hangzhou DeepSeek Artificial Intelligence Co., Ltd.とBeijing DeepSeek Artificial Intelligence Co.が運営(利用規約、2025年1月20日更新)。データ管理者は前者(プライバシーポリシー、2026年2月10日更新) | 出典11・12 |
| 公開コードの反響(GitHub) | 2026年10月15日の取得で、スター数はDeepSeek-V3が約10.5万、R1が約9.2万、FlashMLAが約1.3万、DeepEPが約1.0万、3FSが約1.0万。利用者数ではなく関心の指標 | 出典10 |
| モデルの公開数 | 2026年4月以降、Hugging Faceの公式組織にV4系(Pro、Flash、各Base、DSpark、Vision-Exp、0731、0813、V4.1-Flash)を公開 | 出典17 |
「DeepSeekのモデルの学習費用」と「DeepSeekの会社規模」は別のものです。論文に書かれた費用(V3は557.6万ドル、R1は29.4万ドル)は、会社が仮定した単価で換算した最終学習のGPU時間で、先行実験・設備・人件費を含みません。R1の補足資料は、R1-Zeroが64×8個のH800を約198時間、R1がその約80時間と記載しています。設備の台数・保有・調達方法は、公式資料に書かれていません未確定/将来.
5. AI・機械学習にかけているリソース
4点それぞれについて、確認できたか、できなかったかを表にします。
| リソースの種類 | 一次情報で確認できた内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人 | 人員は非公表。V4の技術報告書の著者は319名(DeepSeek-AI名義+318名)。論文の著者の所属・拠点の内訳は、本稿では確認していない。連絡先の住所は北京市海淀区(利用規約) | 事実/人員は非公表 |
| 金 | 研究開発費・設備投資・資金調達は非公表。学習費用は論文に記載:V3は2.788百万H800GPU時間(1時間2ドルの仮定で557.6万ドル。先行研究の費用は含まない)、R1は147千H800GPU時間(同294千ドル)。V4の技術報告書に学習費用の記載は確認できなかった | 事実/総額は非公表 |
| 外部への出資・買収・合弁・事業売却 | 確認できなかった。プライバシーポリシーは、企業取引(合併、資産・株式の売却、資金調達、支配権の変更など)で利用者情報が開示される場合があると一般的に記載するが、具体的な取引の記載はない | 確認できず |
| 大学・研究機関・公的資金 | 大学との共同研究、公的助成は、確認した資料に記載なし。技術面では、V4の報告書がTileLangのコミュニティと密接に協力したと記載。Nature掲載のR1論文は査読を経ている(2025年9月17日)。公的資金は確認できなかった | 確認できず/論文は査読済み |
次に、主要なモデルの状況です。段階と数字は会社の資料の表現のままで、性能は開発元の公称です。
| モデル | 規模 | 段階 | 日付 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| DeepSeek-V4-Pro | 総1.6兆・活性490億パラメータ(MoE)、文脈100万トークン、事前学習32兆トークン超。重みはFP4+FP8混合 | 公開(API・重み) | 2026年4月24日(API)、GA版V4-Pro-0813は8月13日 | 出典1・3・4 |
| DeepSeek-V4-Flash | 総2,840億・活性130億パラメータ、文脈100万トークン | 置換(廃止) | 2026年4月24日公開、7月31日に再学習版、9月10日にV4.1-Flashへ置換 | 出典1・3 |
| DeepSeek-V4.1-Flash | バックボーン5,520億パラメータ(MoE)、画像とテキストを入力、文脈100万トークン、事前学習45兆トークン。活性はプリフィルで80億・デコードで160億パラメータ | 公開(API・重み) | 2026年9月10日 | 出典1・5 |
| DeepSeek-V3.2 / V3.2-Speciale | 総6,850億パラメータ(Hugging Faceの表記)。DeepSeek Sparse Attention(DSA)を採用 | 公開(重み) | 2025年12月1日 | 出典1・6 |
| DeepSeek-R1 | 強化学習で推論能力を高めたモデル。Nature掲載。重みはMITライセンス | 公開(重み) | 2025年1月20日(論文は9月17日) | 出典1・8 |
| インフラのコード | FlashMLA、DeepEP、DeepGEMM、3FS(分散ファイルシステム)、DualPipe、DeepSeek Harness(エージェント実行基盤)のほか、Huawei Ascend向けのDeepGEMM-Ascend、DeepEP-Ascend。多くがMITライセンス | 公開 | 2026年10月15日時点 | 出典10 |
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 2024年12月26〜27日 | DeepSeek-V3をAPIで公開し、技術報告書をarXivに掲載(2.788百万H800GPU時間) | 学習費用と方法を詳しく公開 |
| 2025年1月20日 | DeepSeek-R1を公開(APIの「deepseek-reasoner」) | 強化学習による推論モデル。重みも公開 |
| 2025年1月30日 | イタリアのGarante(データ保護当局)が、利用者データの処理について即時の制限を命じる | 各国の当局の対応の始まり(詳細は第11章) |
| 2025年4月16日 | 米下院の中国共産党特別委員会が報告書「DeepSeek Unmasked」を公表 | 議会委員会の報告で、主張を含む(第11章) |
| 2025年8〜9月 | V3.1(8月21日、思考・非思考の切替を1モデルで)、Nature掲載のR1論文(9月17日)、V3.1-Terminus(9月22日)、V3.2-Exp(9月29日) | R1の手法が査読を経て公開された |
| 2025年9月30日 | NISTのCAISIが、R1・R1-0528・V3.1の評価を公表 | 米国政府機関による初の評価(第11章) |
| 2025年12月1日 | V3.2とV3.2-Speciale(会社は2025年の国際数学オリンピックと国際情報オリンピックで金メダル相当と記載) | 疎な注意機構DSAを導入 |
| 2026年4月24日 | DeepSeek-V4(Pro、Flash)をAPIと重みで公開、技術報告書を4月26日にarXivへ | 文脈100万トークンの効率化が中心 |
| 2026年5月1日 | NISTのCAISIが、V4 Proの評価を公表 | 第11章 |
| 2026年6〜7月 | 推測的デコーディングの下書きモデル(DSpark系)を公開。7月31日にV4-Flashを再学習して更新 | 推論の高速化に関する公開 |
| 2026年8月13日 | V4-ProのGA版、思考の強さを3段階に、OpenAI互換のResponses APIに対応、ピーク/オフピーク価格を8月16日から導入 | エージェント用途と価格体系の変更 |
| 2026年8月21日 | V4-Flash-Vision-Exp(実験的な画像理解モデル)をAPIで提供 | 画像理解への拡張 |
| 2026年9月10日 | V4.1-Flashを公開し、API価格を引き下げ。V4 Proは9月14日以降もAPIを継続 | 「新アーキテクチャ系列の最小モデル」と会社が説明 |
7. 今後の計画
deepseek-reasoner2026年7月24日に廃止と予告(2026年4月)。その後の扱いは本稿では確認していない
上の内容は、会社の告知にある範囲の見込みで、実績ではありません 未確定/将来。DeepSeekは、設備投資、データセンター、半導体、資金に関する計画を、確認した公式資料で公表していません。
売上・利益・従業員数/資金調達と出資者/自社の計算資源の規模・調達先/V4の学習費用/次のモデルの時期/米国の輸出管理に関するDeepSeek固有の公的措置(BIS〈米商務省産業安全保障局〉の公開資料で確認できなかった)/CAISIの評価に対する会社の見解。いずれも、確認した資料に記載がありません。
8. この会社はAI・機械学習で何を目指しているか
会社が直接書いている部分と、本稿が読み取った部分を分けます。推測は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 長い文脈を安く扱うことを技術の中心に置いている | V4の報告書の副題が「Towards Highly Efficient Million-Token Context Intelligence」。100万トークンでV4-ProはV3.2の27%の推論計算量・10%のKVキャッシュ。V4.1-Flashは1トークンあたり890バイトのKVキャッシュ(V4-Flashの約4分の1)と記載 | 事実(会社の主張) |
| 重み・手法・コードを公開する方針を続けている | V4、V4.1-Flash、V3.2のモデルカードがMITライセンス。GitHubで計算カーネル(FlashMLA、DeepEP、DeepGEMMなど)を公開 | 事実 |
| エージェント(コーディングなど)用途に力を入れている | V4-Pro GAの告知が「エージェント能力を大きく強化」と記載、Codex向けのResponses API対応、DeepSeek Harnessの公開、Anthropic形式のAPIの提供 | 事実/推測 |
| NVIDIA以外の計算機(Huawei Ascend)にも対応を広げている | V4の報告書が、専門家並列の融合カーネルをNVIDIA GPUとHuawei Ascend NPUの両方で検証したと記載。GitHubにDeepGEMM-Ascend、DeepEP-Ascend | 事実/推測 |
| 価格を下げ、時間帯で変える方向 | 2026年8月にピーク/オフピーク(オフピークはピークの半額)を導入、9月にV4.1-Flashの公開に合わせて値下げ | 事実 |
「NVIDIA以外にも広げている」という読みの根拠は、公開コードに「-Ascend」の版が並ぶことです。V4の報告書は、専門家並列の通信と計算を重ねる融合カーネルを「NVIDIA GPUとHuawei Ascend NPUの両方で検証した」と書き、GitHubではDeepGEMMとDeepEPのAscend版が2026年9〜10月に更新されています。これは、モデルが特定の計算機に依存しすぎないようにしているという読みと整合します。ただし、DeepSeekが学習に使っている計算機の種類・台数は、確認した公式資料に書かれておらず(V3とR1の論文はH800と記載)、V4をどの計算機で学習したかは確認できません 未確定/将来
9. AI・機械学習分野の提携マッピング
図に載せた関係は、技術面の対応・公開の場・計算機の利用・政府の評価です。NVIDIAについては、V3とR1の論文がH800を使ったと書いていますが、調達の経緯や契約は公式資料にありません。モデルをクラウド事業者が提供する例(Hugging Faceのモデルページにあるデプロイ先の表示など)は、事業者側の提供であり、DeepSeekとの提携を示す記載ではないため、図に含めていません 事実.
10. 提供している技術・製品・サービス
モデルの価格・性能は、開発元(会社)の公称です。ベンチマークは名称・版・設定を確認できる範囲で書き、他社のモデルとの優劣はつけません。会社の比較表は、会社が選んだ他社モデル・設定との比較で、条件が揃っている保証はありません。
| 項目 | 公式資料の記載(開発元の公称) | 確認できなかったこと |
|---|---|---|
| API価格(2026年10月15日確認) | 100万トークンあたり、出力:V4.1-Flash(deepseek-flash)はオフピーク0.60ドル/ピーク1.20ドル、V4-Pro-0813はオフピーク1.98ドル/ピーク3.96ドル。キャッシュなし入力:0.15/0.30ドル、0.66/1.32ドル。キャッシュ命中の入力:0.003/0.006ドル、0.022/0.044ドル。ピークは平日のUTC 01:00〜04:00と06:00〜10:00(中国の祝日を除く)。文脈100万トークン、最大出力384K。価格は変わりうる | 実際の収益への影響、他社との実効コスト比較 |
| ベンチマーク(会社発表) | V4-Pro-Max:GPQA Diamond 90.1、LiveCodeBench 93.5、Codeforces 3206、SWE Verified 80.6、Terminal Bench 2.0 67.9、BrowseComp 83.4(V4モデルカード。思考の強さ「Max」。会社が選んだ他社モデルとの比較表を含む)。V4.1-Flash:GPQA Diamond 90.9、HLE 36.8、Terminal-Bench 2.1 90.6、DeepSWE v1.1 74.2(Change Log、2026年9月10日) | 第三者による再現。NISTのCAISIは、DeepSeekの自己申告の評価より低いと評価(第11章) |
| アーキテクチャ(会社の説明) | V4:圧縮スパース注意(CSA)と強圧縮注意(HCA)の併用、Manifold-Constrained Hyper-Connections(mHC)、Muonオプティマイザ、混合専門家(MoE)。V4.1-Flash:因果エンコーダ・デコーダ(CED)、Engram条件付きメモリ(1,960億パラメータ)、DSpark推測的デコーディング、専門家は1つの共有+384の経路、活性は6 | 学習データの内訳、学習に使った計算機 |
| 安全性・評価 | R1のNature論文の補足資料が、安全性評価(表6〜8、脱獄耐性を含む)を記載。V4・V4.1-Flashのモデルカードに独立した安全性評価の章は確認できなかった | V4系の安全性評価、フレームワーク文書 |
| アプリ・API | chat.deepseek.com(アプリ・Web)とAPI。OpenAI互換とAnthropic互換の両方のAPI、Responses API、ツール呼び出し、JSON出力、思考モード(low/high/max) | 利用者数 |
DeepSeekの技術報告書の中心は、演算そのものより、メモリと通信の使い方です。長い文脈では、過去のトークンの情報を保持するKVキャッシュが大きくなり、GPUのメモリ容量とメモリ帯域を圧迫します。V4はこれを注意機構の圧縮で抑え、100万トークンの文脈でKVキャッシュをV3.2の10%にしたと書いています(会社の主張)。V4.1-Flashは、さらに1トークンあたり890バイトまで縮め、SSDにキャッシュを置いて再計算を避ける方式(V4報告書の「On-Disk KV Cache Storage」)を使います。専門家混合(MoE)では、専門家に振り分けるたびにGPU間の通信が生じるため、通信と計算を重ねる融合カーネルで待ち時間を隠し(DeepEP)、重みはFP4とFP8に落として容量と帯域を節約します事実。素材・設備の面では、HBM(広帯域メモリ)の容量と帯域、GPU間の相互接続、SSDの速度が、モデルの設計をそのまま左右します。ただし、DeepSeekが使う計算機の構成は非公表で、これらの工夫が実際の運用でどれだけの費用削減になるかは、公開の数字からは分かりません 推測。本シリーズの技術解説「モデルの効率化」「推論の最適化とサービング」「HBM」「学習クラスターとインターコネクト」「AIアクセラレータ」を参照してください。
11. この企業が抱えるリスク
以下は、政府機関・当局の公開文書と会社の公式資料に書かれている範囲で、中立に整理したものです。他国の機関の評価・主張は、その機関の主張として書き、本稿は結論を推測しません。
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 米国政府機関(CAISI)の評価 | 2025年9月30日、NISTのCAISIは、R1・R1-0528・V3.1を19のベンチマークで米国のモデル(GPT-5、GPT-5-mini、gpt-oss、Opus 4)と比べ、「性能・費用・安全性・普及で米国モデルを下回る」と評価。エージェント乗っ取りでR1-0528は米国モデルの平均12倍従いやすい、脱獄手法ではR1-0528が悪意ある要求の94%に応じた(米国モデルは8%)、中国共産党の主張に沿う不正確な内容を米国モデルの4倍返した、などと報告(CAISIの方法による)。2026年5月1日の評価では、V4 Proを「CAISIが評価した中国のモデルで最も能力が高い」とした上で、能力は米国の最先端から約8か月遅れ、DeepSeekの自己申告の評価はCAISIの評価より高い、費用は比較対象の7件中5件で他より効率的、と記載。ベンチマークの選び方・設定による評価で、会社の見解は確認できていない | 事実(当局の評価) |
| 欧州のデータ保護当局 | イタリアのGaranteは2025年1月30日、Hangzhou DeepSeekとBeijing DeepSeekに対し、イタリア所在の利用者の個人データ処理を即時に制限する措置を命じ、調査を開始(命令文書)。理由として、情報提供要請への回答が不十分、プライバシーポリシーが処理ごとの法的根拠を示していない、データが中華人民共和国に保存される点がGDPR第32条の安全管理に反する、EU内の代理人を指定していない、などを挙げた。両社は、イタリア市場に参入しておらずGDPRは適用されないと回答していた。その後の状況は本稿では確認していない | 事実(当局の命令) |
| 米下院の特別委員会の報告 | 2025年4月16日、下院の中国共産党特別委員会が報告書「DeepSeek Unmasked」を公表。委員会は、応答の85%超が内容を操作されている、利用者データが中国に送られる、6万個超のNVIDIA製チップを使ったと「報じられ」輸出管理の回避の可能性がある、などと主張した。これは委員会の主張・報道の引用で、本稿は事実として扱わない。DeepSeekの反論は確認できていない | 事実(議会委員会の主張) |
| EUのAI規制 | 欧州委員会の汎用AI行動規範(自主的な手段)のページの署名者一覧に、DeepSeekの名前は見当たらない(2026年10月15日確認)。署名は義務ではなく、署名していないこと自体は違反を意味しない。EU域内でモデルを提供する場合のAI法上の義務は、別の手段で示す必要がある | 事実/確認できず |
| 利用規約とデータの所在 | プライバシーポリシー(2026年2月10日更新)は、収集した個人情報を中華人民共和国にあるサーバーに保存すると記載。利用規約は、中国本土の法令に準拠し、紛争はHangzhou DeepSeekの登記上の事務所の所在地の裁判所に提起するとしている。企業・組織の利用では、自社のデータ保護・調達の方針との整合を確認する必要がある | 事実 |
| 輸出管理・半導体 | V3とR1の論文はH800を使ったと記載。DeepSeek固有の輸出管理上の公的措置は、確認した公式資料に記載なし。米国の輸出管理はNVIDIAなどのAI半導体の対中輸出を規制しており、供給条件は変わりうる(議会調査局の報告書が経過を整理。出典19) | 事実/確認できず |
| 開示の限界 | 売上・資金・出資者・設備・人員が非公表のため、事業の持続性や資本関係を外部から検証できない。論文・モデルカードの数字は会社の主張で、独立の再現は限られる | 未確定/将来 |
本稿は企業の概要を整理したもので、法的・安全上・調達上の助言ではありません。モデルの利用は、各国の法令と、所属組織の方針に従います。
12. 用語集
- オープンウェイト
- 学習済みモデルの重みを公開すること。学習データやコードの全公開(オープンソース)とは別。
- 混合専門家(MoE)
- 入力ごとに一部の「専門家」だけを動かす構造。V4-Proは総1.6兆のうち490億が活性。
- KVキャッシュ
- 生成中に過去のトークンの情報を保持するメモリ。文脈が長いほど大きくなる。
- FP4/FP8
- 4ビット・8ビットの浮動小数点。精度を下げて容量・帯域を節約する。
- GPU時間
- GPU 1個を1時間使うことを1とする単位。学習費用の目安になる。
- H800
- NVIDIAのAI向けGPU(H100の対中輸出向けの版)。V3とR1の論文が使用を記載。
- Ascend
- Huaweiの AI向けNPU(演算チップ)。
- CAISI
- 米国標準技術研究所(NIST)のAI標準・イノベーションセンター。
- GDPR
- EUの一般データ保護規則(Regulation (EU) 2016/679)。
13. 出典
- DeepSeek 公式ドキュメント「Change Log」(2026年10月15日確認)。V4・V4.1-Flashの公開日、ベンチマーク、API変更、価格変更、旧モデル名の廃止予告。 https://api-docs.deepseek.com/updates
- DeepSeek 公式ドキュメント「Models & Pricing」(2026年10月15日確認)。モデル名、文脈長、最大出力、ピーク/オフピーク価格。 https://api-docs.deepseek.com/quick_start/pricing
- DeepSeek Hugging Faceのモデルカード「DeepSeek-V4-Pro」。パラメータ数、MITライセンス、評価結果。 https://huggingface.co/deepseek-ai/DeepSeek-V4-Pro
- DeepSeek-AI 「DeepSeek-V4: Towards Highly Efficient Million-Token Context Intelligence」(arXiv:2606.19348、2026年4月26日投稿)。アーキテクチャ、長文脈の効率、NVIDIA・Ascendでの検証、著者数。 https://arxiv.org/abs/2606.19348
- DeepSeek Hugging Faceのモデルカード「DeepSeek-V4.1-Flash」。5,520億パラメータ、CED、KVキャッシュ、45兆トークン。 https://huggingface.co/deepseek-ai/DeepSeek-V4.1-Flash
- DeepSeek Hugging Faceのモデルカード「DeepSeek-V3.2」。DSA、MITライセンス。 https://huggingface.co/deepseek-ai/DeepSeek-V3.2
- DeepSeek-AI 「DeepSeek-V3 Technical Report」(arXiv:2412.19437、2024年12月27日投稿、2025年2月18日改訂)。2.788百万H800GPU時間、2,048個のH800、費用の注記。 https://arxiv.org/abs/2412.19437
- Guo, D. et al. 「DeepSeek-R1 incentivizes reasoning in LLMs through reinforcement learning」Nature 645, 633-638(2025年9月17日)。DOI 10.1038/s41586-025-09422-z。 https://www.nature.com/articles/s41586-025-09422-z
- Guo, D. et al. 同論文のSupplementary Information。2.4.4節とSupplementary Table 4(学習費用、64×8個のH800)、安全性評価。 https://media.springernature.com/original/springer-static/esm/art%3A10.1038%2Fs41586-025-09422-z/MediaObjects/41586_2025_9422_MOESM1_ESM.pdf
- DeepSeek GitHub組織「deepseek-ai」(2026年10月15日取得)。FlashMLA、DeepEP、DeepGEMM、3FS、DeepSeek Harness、Ascend版のリポジトリ、スター数。 https://github.com/deepseek-ai
- DeepSeek プライバシーポリシー(2026年2月10日更新)。データ管理者、データの保存場所。 https://cdn.deepseek.com/policies/en-US/deepseek-privacy-policy.html
- DeepSeek 利用規約(2025年1月20日更新)。運営主体、準拠法、連絡先。 https://cdn.deepseek.com/policies/en-US/deepseek-terms-of-use.html
- NIST CAISI 「CAISI Evaluation of DeepSeek AI Models Finds Shortcomings and Risks」(2025年9月30日)。 https://www.nist.gov/news-events/news/2025/09/caisi-evaluation-deepseek-ai-models-finds-shortcomings-and-risks
- NIST CAISI 「CAISI Evaluation of DeepSeek V4 Pro」(2026年5月1日)。 https://www.nist.gov/news-events/news/2026/05/caisi-evaluation-deepseek-v4-pro
- Garante per la protezione dei dati personali Provvedimento del 30 gennaio 2025 [10098477](DeepSeekの処理の制限)。 https://www.garanteprivacy.it/home/docweb/-/docweb-display/docweb/10098477
- U.S. House Select Committee on the CCP 報道発表「Moolenaar, Krishnamoorthi Unveil Explosive Report on Chinese AI Firm DeepSeek」(報告書「DeepSeek Unmasked」、2025年4月16日)。 http://selectcommitteeontheccp.house.gov/media/press-releases/moolenaar-krishnamoorthi-unveil-explosive-report-chinese-ai-firm-deepseek
- DeepSeek Hugging Faceの公式組織「deepseek-ai」(2026年10月15日取得)。モデルの公開日の確認。 https://huggingface.co/deepseek-ai
- DeepSeek 公式GitHubリポジトリのロゴ画像(figures/logo.svg)。 https://github.com/deepseek-ai/DeepSeek-V2/raw/main/figures/logo.svg
- European Commission 「The General-Purpose AI Code of Practice」(署名者の一覧、2026年10月15日確認)。 https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/contents-code-gpai
- Congressional Research Service 「U.S. Export Controls and China: Advanced Semiconductors」(R48642、2025年9月19日更新)。米国のAI半導体の対中輸出管理の経過、H800がH100の対中輸出向けの版であること。 https://www.congress.gov/crs_external_products/R/PDF/R48642/R48642.5.pdf
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月15日/Troy Technical
本稿の数値は、DeepSeekの公式ドキュメント・モデルカード・技術報告書・論文・規約と、NIST・イタリアGarante・米下院特別委員会の公開文書に基づきます。モデル名・価格・契約・企業構造は2026年10月15日時点の確認で、変わることがあります。調査会社の推計値・報道だけの数値は使用していません。会社の財務状況や製品の優劣を評価するものではありません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。
