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AIアクセラレータ 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

AIアクセラレータ
― GPU・TPU・NPUの設計の違いと、「ピーク性能」と「実効性能」の読み方

AIの計算の大半は、巨大な行列の掛け算です。それを速く、少ない電力で行うために作られたのがAIアクセラレータです。ただし、カタログの「○○ PFLOPS」は、どの精度で、疎性(スパース)を使った値か、ピーク値かによって意味がまったく変わります。さらに、現在の大規模言語モデルの推論では、演算器の速さよりメモリ帯域が速度を決めることが多くあります。 この記事では、GPU・TPU・NPU・カスタムチップ・ウェハスケールの設計の違い、演算精度(FP16・FP8・FP4)、メモリ階層とHBM、メモリ帯域が律速になる理由(ルーフライン)、ピーク性能と実効性能の違い、そして素材技術者から見たパッケージ・熱・冷却との接点を、公式資料で確認できた範囲で整理します。

構成:NVIDIA・AMD・Google Cloud・AWS・Cerebras の公式資料、MLCommons の結果発表、arXiv の論文、IEEE・OCP・JEDEC のページを使用/確認日 2026年10月15日

持ち上げた冷却板の下に演算パッケージとメモリが見えます。計算する部品だけでなく、メモリ接続と放熱もアクセラレータの設計を左右します。
図1 概念画像(ImageGenで生成)。持ち上げた冷却板の下に演算パッケージとメモリが見えます。計算する部品だけでなく、メモリ接続と放熱もアクセラレータの設計を左右します。 実際の施設・製品・測定結果ではありません。
この記事の構成
  1. AIアクセラレータとは何か(3行でつかむ)
  2. 設計の違い ― GPU・TPU・NPU・カスタムチップ・ウェハスケール
  3. 演算精度 ― FP32からFP16・FP8・FP4へ
  4. メモリ階層とHBM
  5. メモリ帯域がボトルネックになる理由 ― ルーフライン
  6. ピーク性能と実効性能 ― 仕様表とMLPerfの読み方
  7. 素材技術者の視点:パッケージ・熱・冷却
  8. 限界と、確認できなかったこと
  9. 評価・標準の読み方
  10. 用語集
  11. 参考資料(一次情報)
  12. 主張と出典の対応表(監査)
本記事の表記ルール

事実=公式の資料・論文・規格ページに記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・予告・策定中で、実績や確定した仕様が確認できていない事項
このほか、読み取りは「解説」として区別しています。推測は太字で示します。

この記事の数値の読み方(確認日 2026年10月15日)

チップの仕様はメーカー公称の値で、精度・疎性の有無・ピーク値か実効値か・出荷の状況が、値ごとに異なります。本記事は、条件を添えて載せ、異なる条件の数値を並べて優劣をつけません。「出荷中」か「予告・プレビュー」かは、公式資料と MLCommons の区分で確認できた範囲で書きます。HBM、CoWoS、チップレットなどの個別の技術は、本シリーズの別編で詳しく扱います。

1. AIアクセラレータとは何か(3行でつかむ)

  • 行列演算を大量に行う専用の演算器と、それにデータを届けるメモリの組:AIアクセラレータは、行列の掛け算(Tensor Core のような専用ユニット)を並べ、近くに高速なメモリ(HBM など)を置いたチップです。NVIDIA は Rubin GPU について、224個のストリーミングマルチプロセッサ、896個の Tensor Core、288 GBのHBM4を持つと説明します事実[参考資料1]
  • 設計の系統は複数ある:GPU、TPU、端末向けの NPU、クラウド事業者のカスタムチップ、ウェハ全体を1つのチップにするもの、など。何を中心に作るかが違います(第2章)
  • 「ピーク」と「実効」は別:仕様表のピーク性能は、演算器が全部動いた場合の上限です。実際の速さは、メモリ帯域、通信、ソフトウェアで決まります(第5・6章)
この記事でいちばん大事な一行

仕様表の数字は、「精度」「疎性」「ピークか実効か」の3つの条件を読んで初めて意味を持ちます。同じチップでも、どの値を選ぶかで「演算の速さ」が数倍に見え、メモリ帯域が足りなければ、その速さは出ません。

2. 設計の違い ― GPU・TPU・NPU・カスタムチップ・ウェハスケール

設計の系統:何を中心に作るか(概念図) 分類は本記事の整理で、境界は曖昧です。例は各社の公式資料の記載です。 GPU 多数の演算コアと 行列専用ユニット (Tensor Core) ソフト資産が厚い 例(公式資料) Rubin:224 SM、 896 Tensor Core TPU 大きな行列演算 ユニットと管理しや すいオンチップ メモリが特徴 例(公式資料) TPU7x:2 TensorCore、 4 SparseCore NPU 端末のSoCに載る 省電力の推論用 演算器 小さな電力が前提 例(公式資料) Copilot+ PC の要件: 40 TOPS超 カスタムASIC クラウド事業者が 自社の負荷向けに 設計 通信専用コアも 例(公式資料) Trainium3:8コア、 HBM3e 144 GB ウェハスケール ウェハ全体を 1つのチップに オンチップSRAM が主役 例(公式資料) WSE-3:SRAM 44 GB (同社公称) ※ 出典:NVIDIA の技術ブログ[参考資料1]、Google Cloud の資料と TPU の論文[参考資料2・3]、Microsoft の資料[参考資料4]、 AWS と Cerebras の公式ページ[参考資料5・6]。優劣を示す図ではありません。
図2 概念図(ベクター作図)。設計の系統を本記事が整理した図です。各チップの内部構成を正確に示すものではなく、例は公式資料の記載の抜粋です。
系統設計の中心(公式資料の記述)読むときの注意
GPUNVIDIA は Rubin GPU を、演算ダイ2個(レチクル限界の大きさ)を高速のダイ間リンクで1つのパッケージにまとめたものと説明します。224個の SM、896個の Tensor Core、大きな中央の L2 キャッシュ、HBM4 を備える[参考資料1]汎用の並列計算に由来し、ソフトウェアの蓄積が厚い。AI専用の機能(Tensor Core、精度の切り替え)が年々増える
TPUGoogle の初代 TPU の論文は、65,536個の8ビット積和器を持つ行列演算ユニット(ピーク92 TOPS)と28 MiB のソフトウェア管理のオンチップメモリを持つ ASIC で、決定的な実行モデルが応答時間の要件に合う、と述べます[参考資料3]。TPU7x(Ironwood)は1チップに2つの TensorCore と4つの SparseCore を持つ[参考資料2]。TPU v4 の論文は、SparseCore が埋め込みを使うモデルを5〜7倍速くしながら、ダイ面積と電力の5%しか使わないと述べる[参考資料21]行列演算に特化し、オンチップメモリの管理をソフトウェアに任せる設計。クラウドで使う前提で、フレームワークは JAX と PyTorch(TensorFlow は非対応)と同社の資料に記載[参考資料2]
NPU端末の SoC に載る、AI処理用のチップ。Microsoft は Copilot+ PC を、毎秒40兆回(TOPS)を超える演算ができる NPU を備える Windows 11 機の新しい区分と説明します[参考資料4]電力の小さい端末が前提で、データセンター用とは桁も用途も違う。端末AIは本シリーズ『エッジAIとオンデバイスAI』編で扱う
カスタムチップAWS の Trainium3 は、4つの専用エンジン(Tensor、Vector、Scalar、GPSIMD)を持つ大きなコア8つと、HBM3e 144 GB、チップごとの帯域4.9 TB/s、HBM と演算器の間の2段のオンチップ SRAM、演算から物理的に分けた通信専用コアを持つ、と説明されます[参考資料5]クラウド事業者が自社の負荷に合わせて設計する。仕様は事業者が自社サービスで公開する範囲に限られる
ウェハスケールCerebras は WSE-3 Turbo を、46,225 mm²、4兆トランジスタ、900,000コア、250 PFLOPS のAI演算を持つチップと説明します。WSE-3 は44 GBのオンチップ SRAM と43.2 PB/s の帯域を持つとされます[参考資料6]欠陥を避けるのでなく、欠陥に耐える設計(冗長なコアと配線、不良を迂回する構造)で歩留まりに対応する、と同社は説明します

すべて事実(メーカー・事業者の公称値と論文)。右の列のうち公式資料が述べていない部分は本記事の解説です。Cerebras の「19倍のトランジスタ、56倍の演算(NVIDIA B300 比)」という同社の比較は、比較の条件(精度・疎性)がページに書かれていないため、本記事では使いません。

GPU の Rubin は2個、TPU7x は2個のチップレット(それぞれ独立のメモリ空間を持つ)、AMD の MI455X は3次元の積層結合の演算ダイを使う、というように、1つのチップを大きく作る代わりに、複数のダイをパッケージの中で結ぶ方向が、複数の系統で共通して見られます[参考資料1・2・12]。詳しくは本シリーズ『チップレット』編『CoWoS』編『異種統合』編で扱います。

3. 演算精度 ― FP32からFP16・FP8・FP4へ

数値形式のビット構成:符号・指数・仮数(概念図) 1ビット=1マス。指数が多いほど範囲が広く、仮数が多いほど細かく表せます。 最大の大きさ FP32 3.40e38 FP16 6.55e4 BF16 3.38e38 FP8 E4M3 448 FP8 E5M2 57,344 FP4 E2M1 6 符号 指数 仮数 FP4(E2M1)が表せる大きさは 0, 0.5, 1, 1.5, 2, 3, 4, 6 の8通りだけ。そこで数値をブロックごとの倍率とセットで持つ(微小スケーリング)。 MXFP4:32要素ごとに8ビットの倍率 → 1要素あたり (32×4+8)÷32=4.25ビット(本稿の計算)。NVFP4:16要素ごとにFP8の倍率。 ※ ビット構成は Kalamkar らと Micikevicius らの論文[参考資料8・9]、FP4 と倍率は MX 形式と NVFP4 の論文[参考資料10・11]の記載です。
図3 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。各形式の符号・指数・仮数のビット数と最大の大きさを並べた図です。1要素あたりのビット数(4.25)は本稿の計算で、倍率の保存方法は実装で異なりえます。

AIの計算は、数値の桁(ビット数)を減らしても、結果の質が大きく落ちない部分が多くあります。ビット数を減らすと、メモリから読むデータ量が減り、同じ面積に置ける演算器が増え、電力あたりの演算量が増えます。そのため、精度は世代ごとに下がってきました。

形式ビット構成(符号・指数・仮数)確認できたこと
FP32・FP161・8・23/1・5・10IEEE 754 の浮動小数点形式。FP16 は指数が5ビットで範囲が狭く、学習では、FP32 の重みの写しを持つことと損失のスケーリングという2つの工夫を Micikevicius らは提案した(メモリ消費をほぼ半分にできると報告)[参考資料8・20・24]
BF16(bfloat16)1・8・7指数の範囲が FP32 と同じで、FP32 との変換が簡単。ハイパーパラメータの調整なしに収束させやすいと Kalamkar らは報告する。最大値 3.38e38[参考資料8]
FP8(E4M3、E5M2)1・4・3/1・5・2Micikevicius らの提案。E4M3 は重みと活性化、E5M2 は勾配に使うことを勧める。最大値は 448 と 57,344。最大175Bパラメータの言語モデルの学習で、16ビットと同等の結果品質を示したと報告[参考資料9]
FP4(E2M1)と微小スケーリング1・2・1。32要素(MX)または16要素(NVFP4)ごとに倍率を持つOCP の MX 仕様 v1.0 は MXFP8・MXFP6・MXFP4・MXINT8 を定める。MXFP4 は32要素ごとに8ビットの倍率(E8M0)で、1要素あたり4.25ビット(本稿の計算)[参考資料10・25]。NVFP4 は16要素ごとに E4M3 の倍率と、テンソル全体の FP32 の倍率を使う。NVIDIA は、120億パラメータのモデルを10兆トークンで学習した例を報告する[参考資料11]

すべて事実(各論文と OCP の発表)。「微小スケーリング」の4.25ビットは本稿の計算です。

「精度」の次に読む:疎性(スパース)とピーク値

  • 疎性(structured sparsity):行列のゼロを前提に、計算を減らす機能。NVIDIA の HGX の仕様表は、一部の値を「疎性の仕様」で示し、「密(dense)の値は、示した疎性の値の半分」と脚注に書きます[参考資料7]。AMD の MI355X のページは、密と、構造的疎性ありの値を別の行に分けて書きます(例:BF16 は 2.5 PFLOPS と 5 PFLOPS)[参考資料13]
  • 同じ資料の中でも条件が混ざる:NVIDIA の Rubin の仕様では、NVFP4「推論」の50 PFLOPS は疎性の値、NVFP4「学習」の35 PFLOPS、FP8/FP6 の17.5 PFLOPS、FP16/BF16 の4 PFLOPS は密の値と脚注で区別されています[参考資料7]。見出しの数字だけを拾うと、疎性と密を取り違えます
  • ピーク値:Google Cloud の TPU7x の表は「チップあたりのピーク演算」として BF16 2,307、FP8 4,614 TFLOPs を示しますが、疎性の条件は同じ表に書かれていません[参考資料2]。書かれていない条件は、確認できなかったと扱います
  • 規格の動き:IEEE Std 754(浮動小数点演算の規格)は2019年版があり[参考資料24]、機械学習向けの狭いビット幅の形式を定める IEEE P3109 は、IEEE SA のページで「Active PAR(承認日 2023年2月15日)」と表示される策定中のプロジェクトです未確定/将来[参考資料26]
精度を下げる代償

低い精度は、どのモデル・どの層でも安全とは限りません。FP4 の論文は、学習の安定・収束・実装に課題があるとし、無作為な回転、2次元の量子化、確率的な丸め、一部の層を高い精度に残す、といった工夫を組み合わせています[参考資料11]。精度を下げた結果の品質は、モデルとタスクごとに確かめる必要があります(本記事では特定モデルの品質を評価していません)。

4. メモリ階層とHBM

チップの中のデータは、近いほど速く、小さく、遠いほど遅く大きく置かれます。階層の例として、TPU7x の資料は、HBM(192 GB、約7.37 TB/s)、HBM より桁違いに帯域の高いオンチップ SRAM(VMEM、ソフトウェアで使う一時置き場)、ホスト側のメモリと PCIe、を挙げ、データをこの層の間で動かす管理が性能の鍵だと述べます事実[参考資料2]。

データの通り道の帯域:外へ出るほど細くなる(片対数の図) NVIDIA が Rubin について公表した値を並べたもの。1つの資料の値で、条件は各項目の定義に従います。 HBM4(GPUの隣のメモリ) 22 TB/s NVLink 6(GPU間・ラック内) 3.6 TB/s NVLink-C2C(CPUとGPU) 1.8 TB/s PCIe Gen6 x16(ホスト接続) 0.256 TB/s 0.1 1 10 TB/s 別のチップの例:Cerebras WSE-3 のオンチップSRAMは44 GB、43.2 PB/s(同社公称)。容量はHBMの約15%、帯域は桁違い。 ※ 出典は NVIDIA と Cerebras の公式資料[参考資料1・6]。PB/s=1,000 TB/s。チップごとの定義が違うため、チップ間の優劣は示しません。
図4 概念図(ベクター作図)。1つのチップ(Rubin)の公表値を、対数の目盛りで並べた図です。公称のピーク値で、実効の帯域を示すものではありません。
  • HBM は「容量と帯域を同時に稼ぐ」層:Rubin は288 GBのHBM4で最大22 TB/s、HBM4はHBM3eに対してインタフェース幅が倍になる、と NVIDIA は説明します。NVIDIA は、容量はモデルの常駐・長い文脈・KVキャッシュのためのもの、帯域はトークンを1つずつ生成する段階のためのもの、と整理しています事実[参考資料1]。HBM の構造と規格(JEDEC の HBM4 は2025年4月、2,048本の配線で1スタックあたり最大2 TB/s)は、本シリーズ『HBM』編で扱います[参考資料27・28]
  • SRAM は速いが小さい:Cerebras の WSE-3 は、44 GBのSRAM を43.2 PB/s で使うと説明します[参考資料6]。GPU の HBM 288 GB・22 TB/s と比べると、容量は約15%(約1/6.5、44÷288)、帯域は約2,000倍です(1 PB/s=1,000 TB/s として、43,200÷22。異なるチップの公称値の比較で、優劣を示すものではありません)本稿の計算
  • データの移動を減らす工夫:FlashAttention は、GPU の HBM とオンチップ SRAM の間の読み書きの回数を数えて減らす(IO を意識した)厳密なアテンションのアルゴリズムで、HBM へのアクセスを減らすことで、BERT-large の学習で15%の高速化を示したと報告されています事実[参考資料19]。同じ計算でも、メモリの使い方で速さが変わる例です

5. メモリ帯域がボトルネックになる理由 ― ルーフライン

Gholami らは、過去20年で、サーバーのピーク演算性能は2年で3.0倍のペースで伸びた一方、DRAM の帯域は1.6倍、相互接続の帯域は1.4倍にとどまったと整理し、特にデコーダ型のTransformer(文章生成)で、メモリ帯域が主な律速になると述べています事実[参考資料17]。 この関係を図にしたのがルーフラインです。縦軸に到達できる演算性能、横軸に「読んだデータ1バイトあたり何回演算するか(演算強度)」をとると、左側はメモリの帯域が天井、右側は演算器のピークが天井になります[参考資料18]。

ルーフライン:メモリが律速のうちは、速くならない(本稿の計算) 例:Google Cloud が公表する TPU7x の値(BF16 2,307 TFLOPS、FP8 4,614 TFLOPS、HBM 7,380 GB/s)。 1 1 10 10 10^2 10^2 10^3 10^3 10^4 10^4 演算強度(FLOP/byte:読んだデータ1バイトあたりの演算回数) TFLOPS FP8 の天井 4,614 BF16 の天井 2,307 メモリの天井(傾き=帯域) バッチ1: 7.4 TFLOPS (0.3%) バッチ32: 236 TFLOPS (10.2%) バッチ256: 1889 TFLOPS (81.9%) デコード(1トークンずつ生成)の演算強度は、重みをBF16で読むと「バッチ数」にほぼ等しい(重みだけを数えた理想化)。 ※ ridge(折れ点)はBF16で約313、FP8で約625 FLOP/byte。KVキャッシュや通信は含めていません。
図5 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。公表された公称のピーク値から、ルーフラインの折れ点と、バッチ数ごとの到達できる上限を計算した例です。実測値ではなく、特定の製品の優劣を示すものでもありません。

文章を1トークン生成するたびに、モデルの重みを読み出します。重みをBF16(1パラメータ2バイト)で読んで、1パラメータあたり2回の演算(掛け算と足し算)をするとき、演算強度は 2÷2=1 FLOP/byte で、バッチ(同時に処理する要求の数)が B なら、ほぼ B FLOP/byte になります(重みだけを数えた理想化)本稿の計算。

条件(TPU7xの公称値による例)到達できる上限(本稿の計算)ピークに対する割合
バッチ1(BF16、演算強度 1)7.4 TFLOPS0.3%
バッチ32(演算強度 32)236 TFLOPS10.2%
バッチ256(演算強度 256)1,889 TFLOPS81.9%
折れ点(ridge)BF16 約313、FP8 約625 FLOP/byte―

すべて本稿の計算。Google Cloud が公表する TPU7x の値(BF16 2,307 TFLOPS、FP8 4,614 TFLOPS、HBM 7,380 GB/s)[参考資料2]から、ピーク÷帯域で折れ点を、帯域×演算強度で上限を求めました。KV キャッシュ・活性化・通信を含まない理想化で、実機の速度ではありません。

もう一つの見方:トークン生成の上限

仮に、重みが700億パラメータの密なモデルがあり、すべての重みをチップのHBMに載せて、バッチ1で生成するとします。1トークンごとに全重みを1回読むので、上限は「帯域÷重みの大きさ」です本稿の計算。TPU7x の帯域7.38 TB/s を使うと、

  • BF16(重み140 GB):約52.7トークン/秒
  • FP8(重み70 GB):約105トークン/秒
  • 4ビット(重み35 GB、倍率を無視):約211トークン/秒

です。精度を下げると、読むバイト数が減るので、メモリが律速の領域の上限が精度に反比例して上がります(精度を下げた結果の品質は別に確認が要ります)。バッチを増やせば、同じ重みの読み出しを複数の要求で分け合うため、1チップの合計のトークン数は増えます。逆に、文脈が長く KV キャッシュが大きくなると、重み以外の読み出しも増え、上限は下がります(例示の仮定で、特定のモデル・実機の値ではありません)。推論の最適化は、本シリーズ『推論の最適化とサービング』編で扱います。

6. ピーク性能と実効性能 ― 仕様表とMLPerfの読み方

(1) 仕様表を、条件つきで読む

次の表は、メーカー・事業者の公式ページに載る値を、条件を添えて転記したものです。条件の違う値が並んでいるため、行どうしや列どうしの優劣を読み取ってはいけません。

チップ(状態)演算のピーク(公称。精度と疎密の別)メモリ(容量・帯域)電力この行の読み方
NVIDIA H100 SXM(Hopper。製品ページに掲載)[参考資料14]BF16 1,979 TFLOPS、FP8 3,958 TFLOPS(いずれも疎性ありの値、ページに「With sparsity」の注記)80 GB(HBM3)、3.35 TB/sTDP は最大700 W(設定可)密の値はページに書かれていない。ページの精度の一覧に FP4 はない
NVIDIA B200(Blackwell。HGX B200 は「出荷中」と同社ページに記載)[参考資料7・16]公表は8GPUの合計:FP16/BF16 36 PFLOPS、FP8/FP6 72 PFLOPS(いずれも疎性の値、密は半分)、FP4 144(疎)|72(密)PFLOPS。1GPUあたり(÷8)は BF16 4.5(疎)/2.25(密)、FP8 9/4.5、FP4 18/9 PFLOPS本稿の計算DGX B200 は8GPUで合計1,440 GB、64 TB/s(1GPUあたり180 GB、8 TB/s本稿の計算)。GB200 NVL72 のページは2GPUあたり372 GB、16 TB/s[参考資料15]DGX B200 のシステム全体で最大約14.3 kW(空冷。CPU等を含む)GPU1個の TDP は確認できなかった。システム電力の÷8は GPU単体の電力ではない
NVIDIA Rubin(HGX Rubin NVL8。MLPerf Inference v6.1 では「プレビュー」区分)[参考資料7・23]1GPUあたり:NVFP4 推論 50 PFLOPS(疎)、NVFP4 学習 35、FP8/FP6 学習 17.5、FP16/BF16 4 PFLOPS(いずれも密)288 GB(HBM4)、22 TB/sGPU単体の電力は確認できなかった。入口の液温は45 ℃(HGX ページ)同じ表の中で、推論は疎、学習は密の値。予告・プレビューの段階の値で、出荷の状況は確認できなかった未確定/将来
AMD Instinct MI355X(CDNA 4。ページの発売日は2025年6月12日)[参考資料13]BF16 2.5(密)/5(構造的疎性)、FP8 5(密)/10.1(疎性)、MXFP4 10.1 PFLOPS(疎性の区別の記載なし)288 GB(HBM3E)、8 TB/sTBP 1,400 WMXFP4 の値の疎密は、同ページに書かれていない
Google TPU7x(Ironwood。Google Cloud の資料に掲載)[参考資料2]チップあたりのピーク:BF16 2,307、FP8 4,614 TFLOPs(疎性の条件の記載なし)192 GiB(HBM)、7,380 GB/s。チップ間 1,200 GB/s(双方向)記載なし1ポッドは9,216チップ。クラウドで使う前提で、チップ単体の販売ではない
AWS Trainium3(UltraServer として提供と同社ページに記載)[参考資料5]UltraServer(144チップ)で MXFP8 362 PFLOPs。1チップあたりでは約2.5 PFLOPS本稿の計算(疎性の記載なし)1チップあたり144 GB(HBM3e)、4.9 TB/s記載なしチップ単体の演算ピークの公表は確認できなかった
Cerebras WSE-3 Turbo(同社ページ)[参考資料6]250 PFLOPS(精度・疎性の記載なし)WSE-3:オンチップSRAM 44 GB、43.2 PB/s記載なし同社の「他社比○倍」は条件の記載がなく使えない

すべて事実(メーカー・事業者の公称値)。本稿の計算と記した値(÷8、÷144)は、システム全体の値を個数で割った概算です。TDP(熱設計電力)、TBP(標準的なボード電力)、システム電力は同じ量ではありません。

この表から分かるのは、「何をピークと呼ぶか」が会社と製品で違うことです。疎性ありの値だけを出すもの、密と疎を分けるもの、推論は疎・学習は密と使い分けるもの、条件を書かないもの。本記事は、条件が書かれていない値を「確認できなかった」と扱い、行どうしの比較をしません。

条件の違う数字を並べた比較の例(NVIDIA の製品ページから)

NVIDIA の H100 のページは、第三者の SemiAnalysis の InferenceX(2026年4月時点)にもとづき、H100 の推論は100万トークンあたり約0.09ドル(GPT-OSS-120B、vLLM、1ユーザーあたり66 TPS)、B200 は約0.02ドル(同じモデル、TensorRT-LLM、1ユーザーあたり55 TPS)で、約4.5倍安いと書いています。ソフトウェア(vLLM と TensorRT-LLM)と1ユーザーあたりの速度が異なることがページ自身の記述から読み取れ、これはチップだけの差を示す比較ではありません事実[参考資料14]。メーカーのページに載る比較は、条件を確かめて読みます。

(2) 実効性能:MLPerf

ピークでなく実際に測った速さを、共通の課題で比べる取り組みが MLCommons の MLPerf です。2026年6月16日公表の MLPerf Training v6.0 では、24組織が95のシステム、13種類のアクセラレータで提出し、DeepSeek V3(総パラメータ671B、1トークンあたり活性37B)と GPT-OSS 20B(総21B、活性3.6B)の2つの課題が加わり、複数の FP4 の方式の提出があった、と発表されています事実[参考資料22]。2026年9月16日公表の MLPerf Inference v6.1 は、過去最多の30組織が参加し、最大で512個のアクセラレータの構成が提出され、RAG と端末のエージェント推論の課題が加わりました。同じ発表は、AMD Instinct MI350P などを「available」、NVIDIA の Rubin と Vera Rubin NVL72 を「preview」と区分しています事実[参考資料23]。

  • 精度の基準を満たした提出だけが比べられる:MLPerf Training の発表は、提出が精度の閾値を満たす必要があるため、ハードウェアと実装の違いによる性能差を公平に比べられる、と説明します[参考資料22]
  • 提出区分とシステム構成を読む:結果は、アクセラレータの種類、台数、ソフトウェア、「available(購入可能)」か「preview(次回までの提供見込み)」かで意味が変わります[参考資料23]。本記事は、提出区分のうち確認できた「available/preview」のみ記します(closed/open の部門の詳細は確認していません)
  • バージョンをまたいだ比較に注意:Inference v6.1 の発表の見出しの改善率(DeepSeek-R1 は1年前の v5.1 比で5.7倍、VLM は v6.0 比で2.99倍)は、異なる版の最良の結果どうしの比較です。同じ構成の同じ条件の比較ではありません(本記事の注意。数値の出典は MLCommons の発表)[参考資料23]
  • メーカー自身の比較との違い:NVIDIA は Rubin について「Blackwell に対して、エージェント推論のスループット/エネルギーが最大10倍」と述べますが、その測定は社内の2兆パラメータの MoE の負荷によるもので、条件は同社のものです[参考資料1]。MLPerf の提出結果とは別に読みます

7. 素材技術者の視点:パッケージ・熱・冷却

下から基板、接続部、パッケージ基板、インターポーザー、演算ダイとメモリ、TIM、冷却板を示しています。層間の接続と、熱が抜ける経路を区別してください。
図6 概念画像(ImageGenで生成)。下から基板、接続部、パッケージ基板、インターポーザー、演算ダイとメモリ、TIM、冷却板を示しています。層間の接続と、熱が抜ける経路を区別してください。 実際の施設・製品・測定結果ではありません。
元のSVG模式図・数値・出典注記を見る
パッケージの断面と熱の通り道(概念図、縮尺なし) 素材の目で見ると、層の数だけ「材料の境目」があり、熱はそこを通って上へ抜けます。 冷却:コールドプレート(液冷)またはヒートシンク(空冷) 熱界面材料(TIM):ダイとプレートの隙間を埋める 演算ダイ (複数のこともある) HBM スタック HBM スタック 演算ダイ (2個目) シリコンインターポーザ等(数千本の細い配線で結ぶ) パッケージ基板(有機の多層配線板) はんだボール・ソケットを経て、ボード(電源・信号)へ 熱 電力 ※ 各社の公式資料には、2個の演算ダイ(Rubin)、12段のHBM4を12スタック(MI455X)、CoWoS-L の記載があります[参考資料1・12]。 ※ HBM、CoWoS、チップレット、熱界面材料は、本シリーズの別編で詳しく扱います。層の厚みや材質は、この図では示していません。 ※ 図は一般的な構成の説明用で、特定の製品の断面ではありません。
図6 概念図(ベクター作図)。パッケージの層と熱・電力の流れを説明用に描いた図で、実在の製品の断面・寸法・材質を示すものではありません。
素材技術者の視点①:電力が上がるほど、「熱を通す層」の性能がそのまま性能になる

公称値を並べると、電力の水準が世代で大きく動いています。H100 SXM の TDP は最大700 W[参考資料14]、MI355X の TBP は1,400 W[参考資料13]で、2倍です本稿の計算(TDP と TBP は定義が違い、厳密な比較ではありません)。8GPUの空冷システム DGX B200 は最大約14.3 kW[参考資料16]で、GPU1個あたりの割り当ては約1.8 kW本稿の計算(CPU・ネットワーク・ファン等を含む上限)です。NVIDIA の Rubin のラック(Vera Rubin NVL72)は、入口の水温45 ℃の液冷を前提とすると説明されています[参考資料1・7]。

素材から見ると、これは、ダイからコールドプレートまでの熱の通り道(図6の層)の熱抵抗が、そのまま許される電力と動作温度を決めることを意味します。層ごとに材料の境目があり、熱界面材料(TIM)はダイとプレートの隙間を埋める層です。電力が上がるほど、TIM の熱抵抗と、温度サイクルによる劣化・はみ出し(ポンプアウト)などの信頼性が効いてきます(本記事による解説。具体的な材料の性能は本記事では評価しません)。TIM は本シリーズ『熱界面材料TIM』編、冷却を含むデータセンターは『AIデータセンターの電力と冷却』編で扱います。

各サーバーの往復ホースがラック側のマニホールドにつながります。色は経路の区別用で、温度や流量の測定値ではありません。
図7 概念画像(ImageGenで生成)。各サーバーの往復ホースがラック側のマニホールドにつながります。色は経路の区別用で、温度や流量の測定値ではありません。 実際の施設・製品・測定結果ではありません。
素材技術者の視点②:大きなチップを作る代わりに、複数のダイとメモリを「材料で結ぶ」

第2章のとおり、複数の系統が、1つの大きなダイでなく、複数のダイとHBMを1つのパッケージで結ぶ方向を取っています。Rubin は2個の演算ダイ[参考資料1]、TPU7x は2個のチップレット[参考資料2]、AMD の MI455X は3次元の積層結合の演算ダイと、12スタックのHBM4(432 GB、23.3 TB/s)を CoWoS-L のパッケージで結ぶと説明されます事実[参考資料12]。

これは、配線のための基板・インターポーザ、ダイの間の接合、メモリの積層、封止、熱を逃がす材料が、AIアクセラレータの性能の一部になる、ということです。層の数が増えるほど、材料の熱膨張の差による反り、接合部の信頼性、熱の通り道の抵抗が、設計の制約になります(本記事による解説。推測:どの材料がどの世代で律速になるかは、公開資料では確認できませんでした)。個別の技術は、本シリーズ『HBM』『CoWoS』『チップレット』『異種統合』の各編で扱います。

8. 限界と、確認できなかったこと

(1) 仕様の網羅

本記事は、確認日時点で公式ページに掲載された値の一部を転記したもので、全製品の網羅ではありません。ここにない製品が劣るという意味ではなく、製品間の優劣は論じていません。

(2) 条件の記載がない値

疎性・精度の条件が書かれていない値(TPU7x、Trainium3、Cerebras の一部)は、条件を推測せず「記載なし」としました。電力も、記載のない製品は確認できなかったと扱いました。

(3) 出荷・提供の状況

Rubin は、MLCommons が「preview」と区分した段階で、提供の状況は確認できませんでした。MI455X など予告の製品は、出荷の実績を確認していません。

(4) 実効性能

MLPerf の提出ごとの点数は、構成・ソフトウェア・版が異なり並べて比べられないため、掲載していません。ルーフラインの計算は、公称のピーク値からの理想化です。

(5) 素材レベルの評価

TIM・基板・インターポーザなどの材料の性能や、どの材料が律速かは、公式資料で確認できなかったため、評価していません。

(6) 規格の本文

IEEE 754、IEEE P3109、OCP の MX 仕様の本文は確認していません(題名・状態・提案の範囲のみ)。

この記事のまとめ
  • 設計の系統は複数ある:GPU、TPU、NPU、カスタムチップ、ウェハスケール。複数のダイをパッケージで結ぶ方向は共通して見られます事実
  • 精度は FP32→FP16/BF16→FP8→FP4 と下がってきました。その際、疎性とブロックごとの倍率の扱いまで読む必要があります事実
  • 文章生成はメモリ帯域が律速になりやすい。TPU7x の公称値で、バッチ1の上限はピークの約0.3%、折れ点はBF16で約313 FLOP/byte です本稿の計算
  • 仕様表の数字は、精度・疎密・ピークか実効かの条件つきで読み、条件の違う数字を並べて優劣をつけません。MLPerf は精度の閾値つきの実測ですが、版・区分・構成を読みます事実
  • 電力が上がるほど、熱を通す層の性能が性能になります。H100 の最大700 W から MI355X の1,400 W へ事実

9. 評価・標準の読み方

AIアクセラレータの性能は、①公称のピーク性能(精度・疎性の条件つき)、②共通の課題で測った実効性能(MLPerf)、③数値形式やメモリなどの規格への適合、④電力・冷却の条件に分けて評価されます。①は規格でなくメーカーの公称、②は MLCommons の結果、③は IEEE・OCP・JEDEC の規格が関わります。確認日(2026年10月15日)時点で、「ピーク性能の表記の仕方」を定めた確定の国際規格は確認できませんでした。

評価項目代表的なベンチマーク・評価手法(名称・出典)標準・指針(IEEE・OCP・JEDEC・ISO/IEC など)読み方の注意
ピーク性能の表記
事実
各社の仕様表(NVIDIA、AMD、Google Cloud、AWS、Cerebras)[参考資料2・5〜7・13〜16]表記を定めた確定の国際規格は確認できなかった精度・疎密・ピークか実効か・チップかシステムかを、値ごとに確認する(第3・6章)。メーカー公称であり、第三者の測定ではない
実効性能(学習・推論)
事実
MLPerf Training v6.0(2026年6月16日)[参考資料22]。MLPerf Inference v6.1(2026年9月16日)[参考資料23]。いずれも MLCommons の公表MLPerf は業界団体 MLCommons のベンチマークで、ISO/IEC や IEEE の規格ではない精度の閾値を満たす提出のみ比較できる。提出区分(available/preview)、台数、ソフトウェア、版を読む。版をまたぐ改善率は同条件の比較ではない。結果はハードウェアの優劣の断定に使わない
数値形式
事実未確定/将来
FP8 形式の提案(arXiv 2209.05433)[参考資料9]。BF16 の研究(arXiv 1905.12322)[参考資料8]。MX 形式の評価(arXiv 2310.10537)[参考資料10]。NVFP4 の学習(arXiv 2509.25149)[参考資料11]IEEE Std 754-2019「IEEE Standard for Floating-Point Arithmetic」[参考資料24]。OCP「Microscaling Formats (MX) Specification v1.0」(OCP の発表は2023年10月17日、MXFP8・MXFP6・MXFP4・MXINT8)[参考資料25]。IEEE P3109「Standard for Arithmetic Formats for Machine Learning」(Active PAR、承認日2023年2月15日、策定中)[参考資料26]FP8(E4M3/E5M2)や NVFP4 の細部は、メーカーや提案者の仕様が先行しうる。IEEE P3109 は策定中で、確定した要求ではない。規格の本文は未確認
メモリ(HBM)
事実
メーカーの公称値(本記事ではNVIDIA・AMD・Google の値)JEDEC の HBM4 規格 JESD270-4(2025年4月公表、2,048本の配線、1スタックあたり最大2 TB/s)。JESD270-4A(Version 1.1、2025年12月)[参考資料27・28]JEDEC の規格値は互換性の基準で、製品の値が上回ることがある。HBM の詳細は本シリーズ『HBM』編
電力・冷却
事実
TDP・TBP・システム電力の公称値[参考資料13・14・16]。NVIDIA は Rubin のラックの液冷を、入口の水温45 ℃と説明[参考資料1・7]電力の表記や液冷の条件を定めた確定の国際規格は、本記事では確認できなかったTDP、TBP、システムの最大電力は別の量。ラック・データセンターの電力と冷却は本シリーズ『AIデータセンターの電力と冷却』編

表の整理は本稿の計算(本記事による編集)。規格の本文は未確認のため、要求事項の中身は書いていません。

読み方の注意

  • ベンチマークの数値は、設定と実施主体で変わります。MLPerf の結果は、構成・ソフトウェア・版・提出区分とセットの値です。メーカー自身の「○倍」は、同社が選んだ負荷と条件の値で、MLPerf の提出結果と別に読みます
  • 飽和と汚染に注意します。MLPerf は課題を更新して(今回の版では MoE モデルや RAG・エージェントの課題が加わった)、時代の負荷に合わせています[参考資料22・23]。古い課題の結果は、最新の負荷を表さないことがあります
  • 「規格」と「業界団体の仕様」と「メーカー公称」は別です。IEEE 754 は規格、OCP MX は業界団体の仕様、IEEE P3109 は策定中、MLPerf は業界団体のベンチマーク、仕様表はメーカー公称です。どれも、それ自体が法令ではありません
  • 宣言値と実測値の違い。ピークの PFLOPS は、全部の演算器が動き、データが間に合う場合の上限です。実際の速さは、メモリ帯域、通信、ソフトウェアで決まります(第5章)

10. 用語集

GPU/TPU/NPU
汎用の並列演算に由来するチップ/Google の行列演算特化チップ/端末向けのAI演算器。
Tensor Core
NVIDIA の GPU にある、行列の積和を行う専用ユニット。
FP8/FP4
8ビット/4ビットの浮動小数点。指数と仮数のビット数で E4M3 などと表す。
BF16
指数の範囲が FP32 と同じ16ビット形式。
微小スケーリング(MX、NVFP4)
要素のブロックごとに倍率を持つことで、狭いビット幅でも範囲を保つ方式。
疎性(sparsity)
ゼロが多い行列の計算を省く機能。密の値は疎性の値の半分とされることが多い。
ピーク性能/実効性能
演算器が全部動く場合の上限/実際に測った速さ。
HBM
DRAM を縦に積んでチップの隣に置く広帯域メモリ。
SRAM/KVキャッシュ
チップ内の高速で小さいメモリ/文章生成中に溜まる過去の注意の記録。
ルーフライン
演算強度と到達できる性能の関係を示す図。メモリの天井と演算の天井がある。
演算強度
読んだデータ1バイトあたりの演算回数(FLOP/byte)。
TDP/TBP
熱設計電力/標準的なボード電力。定義はメーカーで違う。
MLPerf
MLCommons による共通課題のベンチマーク。精度の閾値つき。
TOPS/FLOPS
毎秒の演算回数(整数/浮動小数点)。

11. 参考資料(一次情報)

  1. NVIDIA "Inside NVIDIA Rubin GPU Architecture: Powering the Era of Agentic AI", NVIDIA Technical Blog (2026年7月21日) — developer.nvidia.com/blog/inside-nvidia-rubin-gpu-architecture-powering-the-era-of-agentic-ai/
  2. Google Cloud "TPU7x (Ironwood)", Cloud TPU documentation — docs.cloud.google.com/tpu/docs/tpu7x
  3. Jouppi N. P. ほか "In-Datacenter Performance Analysis of a Tensor Processing Unit", arXiv:1704.04760 — arxiv.org/abs/1704.04760
  4. Microsoft "Copilot+ PCs developer guide" (Microsoft Learn) — learn.microsoft.com/en-us/windows/ai/npu-devices/
  5. AWS "AI Accelerator - AWS Trainium" — aws.amazon.com/ai/machine-learning/trainium/
  6. Cerebras "Cerebras WSE-3 Turbo | Wafer-Scale AI Chip" — www.cerebras.ai/chip
  7. NVIDIA "NVIDIA HGX Platform" (specifications of HGX Rubin NVL8, B300 and B200) — www.nvidia.com/en-us/data-center/hgx/
  8. Kalamkar D. ほか "A Study of BFLOAT16 for Deep Learning Training", arXiv:1905.12322 — arxiv.org/abs/1905.12322
  9. Micikevicius P. ほか "FP8 Formats for Deep Learning", arXiv:2209.05433 — arxiv.org/abs/2209.05433
  10. Rouhani B. D. ほか "Microscaling Data Formats for Deep Learning", arXiv:2310.10537 — arxiv.org/abs/2310.10537
  11. NVIDIA ほか "Pretraining Large Language Models with NVFP4", arXiv:2509.25149 — arxiv.org/abs/2509.25149
  12. AMD "AMD Instinct MI400 Series GPUs" — www.amd.com/en/products/accelerators/instinct/mi400.html
  13. AMD "AMD Instinct MI355X GPUs" — www.amd.com/en/products/accelerators/instinct/mi350/mi355x.html
  14. NVIDIA "H100 GPU" — www.nvidia.com/en-us/data-center/h100/
  15. NVIDIA "GB200 NVL72" — www.nvidia.com/en-us/data-center/gb200-nvl72/
  16. NVIDIA "DGX B200: The Foundation for Your AI Factory" — www.nvidia.com/en-us/data-center/dgx-b200/
  17. Gholami A. ほか "AI and Memory Wall", arXiv:2403.14123 — arxiv.org/abs/2403.14123
  18. Williams S. ほか "Roofline: An Insightful Visual Performance Model for Multicore Architectures", Commun. ACM 52(4), 65-76 (2009), DOI 10.1145/1498765.1498785 — doi.org/10.1145/1498765.1498785
  19. Dao T. ほか "FlashAttention: Fast and Memory-Efficient Exact Attention with IO-Awareness", arXiv:2205.14135 — arxiv.org/abs/2205.14135
  20. Micikevicius P. ほか "Mixed Precision Training", arXiv:1710.03740 — arxiv.org/abs/1710.03740
  21. Jouppi N. P. ほか "TPU v4: An Optically Reconfigurable Supercomputer for Machine Learning with Hardware Support for Embeddings", arXiv:2304.01433 — arxiv.org/abs/2304.01433
  22. MLCommons "MLCommons Releases MLPerf Training v6.0 Results" (2026年6月16日) — mlcommons.org/2026/06/mlperf-training-v6-0-results/
  23. MLCommons "MLCommons Sets Participation Record with New MLPerf Inference v6.1 Benchmark Results" (2026年9月16日) — mlcommons.org/2026/09/mlperf-inference-v6-1-results/
  24. IEEE "IEEE Standard for Floating-Point Arithmetic" (IEEE Std 754-2019) — doi.org/10.1109/IEEESTD.2019.8766229
  25. Open Compute Project "AMD, Arm, Intel, Meta, Microsoft, NVIDIA, and Qualcomm Standardize Next-Generation Narrow Precision Data Formats for AI" (OCP Microscaling Formats (MX) Specification v1.0) (2023年10月17日) — opencompute.org/news/…narrow-precision-data-formats-for-ai/
  26. IEEE SA "Standard for Arithmetic Formats for Machine Learning" (P3109) (Active PAR、承認日 2023-02-15) — standards.ieee.org/ieee/3109/11165/
  27. JEDEC "JEDEC and Industry Leaders Collaborate to Release JESD270-4 HBM4 Standard" (2025年4月) — jedec.org/news/pressreleases/…jesd270-4-hbm4-standard-advancing
  28. JEDEC "High Bandwidth Memory (HBM4) DRAM", JESD270-4A (Version 1.1、2025年12月) — www.jedec.org/standards-documents/docs/jesd270-4a

12. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
Rubin GPU の構成(336B トランジスタ、224 SM、896 Tensor Core、2個のレチクル限界のダイ、HBM4 288 GB・22 TB/s、NVLink 6 の 3.6 TB/s、NVLink-C2C 1.8 TB/s、PCIe Gen6 x16 の 256 GB/s、45 ℃の液冷、容量と帯域の役割の整理、最大10倍の主張が社内の2兆パラメータ MoE の負荷によること)NVIDIA の技術ブログ(2026年7月21日)
出典1 https://developer.nvidia.com/blog/inside-nvidia-rubin-gpu-architecture-powering-the-era-of-agentic-ai/
事実
TPU7x(BF16 2,307・FP8 4,614 TFLOPs、HBM 192 GiB・7,380 GB/s、ICI 1,200 GB/s、1ポッド9,216チップ、2 TensorCore・4 SparseCore、2チップレット、メモリ階層、JAX と PyTorch に対応)、初代 TPU(65,536個の8ビット積和器、92 TOPS、28 MiB)、TPU v4 の SparseCoreGoogle Cloud の資料と TPU の論文
出典2 https://docs.cloud.google.com/tpu/docs/tpu7x
出典3 https://arxiv.org/abs/1704.04760
出典21 https://arxiv.org/abs/2304.01433
事実
Copilot+ PC の NPU の要件(40 TOPS 超)、Trainium3 の構成(8コア、144 GB HBM3e、4.9 TB/s、UltraServer 144チップで362 MXFP8 PFLOPs、20.7 TB、706 TB/s)、Cerebras WSE-3 Turbo(46,225 mm²、4兆トランジスタ、900,000コア、250 PFLOPS)と WSE-3 のSRAM 44 GB・43.2 PB/s、欠陥に耐える設計Microsoft・AWS・Cerebras の公式ページ
出典4 https://learn.microsoft.com/en-us/windows/ai/npu-devices/
出典5 https://aws.amazon.com/ai/machine-learning/trainium/
出典6 https://www.cerebras.ai/chip
事実
HGX B300/B200 の仕様(FP4 疎|密、FP8/FP16 は疎の値で密は半分、総メモリ、NVLink)、HGX Rubin NVL8 の1GPUあたりの仕様(NVFP4 推論50 PFLOPS[疎]、学習35、FP8/FP6 17.5、BF16 4 PFLOPS[密]、288 GB・22 TB/s、入口温度45 ℃)、HGX B200 が出荷中との記載NVIDIA の HGX ページ
出典7 https://www.nvidia.com/en-us/data-center/hgx/
事実
H100 SXM の仕様(BF16 1,979・FP8 3,958 TFLOPS は疎性ありの値、80 GB、3.35 TB/s、TDP 最大700 W、NVLink 900 GB/s)、およびコストの比較(ソフトウェアと1ユーザーあたりの速度が異なる記述)NVIDIA の H100 ページ
出典14 https://www.nvidia.com/en-us/data-center/h100/
事実
GB200 NVL72 のメモリ(2GPUあたり372 GB・16 TB/s)、DGX B200(8GPUで1,440 GB・64 TB/s、最大約14.3 kW)NVIDIA の製品ページ
出典15 https://www.nvidia.com/en-us/data-center/gb200-nvl72/
出典16 https://www.nvidia.com/en-us/data-center/dgx-b200/
事実
MI355X の仕様(BF16 2.5/5、FP8 5/10.1、MXFP4 10.1 PFLOPS、288 GB HBM3E、8 TB/s、TBP 1,400 W、発売日2025年6月12日)、MI455X(432 GB の HBM4、23.3 TB/s、12スタック、CoWoS-L、3次元の積層結合の演算ダイ)AMD の製品ページ
出典12 https://www.amd.com/en/products/accelerators/instinct/mi400.html
出典13 https://www.amd.com/en/products/accelerators/instinct/mi350/mi355x.html
事実
数値形式のビット構成と最大値(FP32 1・8・23、FP16 1・5・10、BF16 1・8・7、FP8 E4M3 最大448・E5M2 最大57,344、FP4 E2M1 の表せる値)、混合精度の学習(FP32の重みの写しと損失のスケーリング)各論文
出典8 https://arxiv.org/abs/1905.12322
出典9 https://arxiv.org/abs/2209.05433
出典11 https://arxiv.org/abs/2509.25149
出典20 https://arxiv.org/abs/1710.03740
事実
MX 形式(ブロック32、E8M0 の倍率、MXFP8・MXFP6・MXFP4・MXINT8)、NVFP4(16要素のブロック、E4M3 の倍率、テンソル全体の FP32 の倍率、120億パラメータを10兆トークンで学習)、IEEE Std 754-2019 の題名、OCP MX 仕様 v1.0 の発表日、IEEE P3109 の状態論文、IEEE・OCP のページ
出典10 https://arxiv.org/abs/2310.10537
出典11 https://arxiv.org/abs/2509.25149
出典24 https://doi.org/10.1109/IEEESTD.2019.8766229
出典25 http://www.opencompute.org/news/amd-arm-intel-meta-microsoft-nvidia-and-qualcomm-standardize-next-generation-narrow-precision-data-formats-for-ai/
出典26 https://standards.ieee.org/ieee/3109/11165/
事実
メモリの壁(20年でピーク演算は2年で3.0倍、DRAM 帯域は1.6倍、相互接続は1.4倍)、ルーフラインの考え方、FlashAttention(HBM と SRAM の読み書きを減らす、BERT-large で15%の高速化)各論文
出典17 https://arxiv.org/abs/2403.14123
出典18 https://doi.org/10.1145/1498765.1498785
出典19 https://arxiv.org/abs/2205.14135
事実
MLPerf Training v6.0(2026年6月16日、24組織・95システム・13種類のアクセラレータ、DeepSeek V3 と GPT-OSS 20B の追加、FP4 の複数の方式、精度の閾値)、MLPerf Inference v6.1(2026年9月16日、30組織、最大512アクセラレータ、RAG と Edge Agentic の追加、available と preview の区分)MLCommons の発表
出典22 https://mlcommons.org/2026/06/mlperf-training-v6-0-results/
出典23 https://mlcommons.org/2026/09/mlperf-inference-v6-1-results/
事実
HBM4 の JEDEC 規格(JESD270-4、2025年4月、2,048本、最大2 TB/s)と JESD270-4A(Version 1.1、2025年12月)JEDEC のページ
出典27 https://www.jedec.org/news/pressreleases/jedec%C2%AE-and-industry-leaders-collaborate-release-jesd270-4-hbm4-standard-advancing
出典28 https://www.jedec.org/standards-documents/docs/jesd270-4a
事実
TDP・TBP・システム電力の水準の比較(H100 の700 W に対し MI355X は1,400 W で2倍、DGX B200 の約14.3 kW÷8=約1.8 kW)、ルーフラインの数値(折れ点 約313・約625、バッチ別の上限 7.4・236・1,889 TFLOPS)、トークン生成の上限(52.7・105・211 トークン/秒)、43,200÷22、44÷288、MXFP4 の4.25ビット、GPUあたりへの換算(÷8、÷144)本稿の計算。公称値からの理想化で、重みだけを数え、KV キャッシュ・通信は含まない。TDP と TBP は定義が違う本稿の計算
チップ間の優劣、条件の記載のない値、出荷の実績、素材レベルの評価、MLPerf の提出ごとの点数、規格の本文本稿の調査範囲では確認していない、または優劣の断定を避けるため記載していない解説
「電力が上がるほど熱を通す層の性能が性能になる」「複数のダイとメモリを材料で結ぶ」という読み取り、TIM の信頼性の指摘、設計の系統の分類、図の整理公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各社が表明した見解ではない解説
図2〜図6が実在の製品の構造やデータではなく説明のための作図であること。図1と図7がAI生成イメージであること本記事による注記解説

最終更新:2026年10月15日/出典は一次情報(NVIDIA・AMD・Google Cloud・AWS・Cerebras・Microsoft の公式資料、MLCommons の発表、arXiv の論文、IEEE・OCP・JEDEC のページ)に限定しています。規格の本文は確認していません。 この分野は変化が速く、仕様・出荷状況・版は確認日(2026年10月15日)のものです。 チップ間の優劣、条件の記載のない値、素材レベルの評価、MLPerf の提出ごとの点数、規格の本文については、確認できなかったため、または優劣の断定を避けるため、記載していません。 図2〜図6はベクター作図、図1と図7はAI生成イメージであり、いずれも実在の施設・製品・測定結果を示すものではありません。