🌐 This site is also available in English Visit English Site →
🌐 English

Pfizer|創薬・DDS 企業解説

技術・機関・企業解説の一覧へ戻る

COMPANY PROFILE / 創薬・DDS

ファイザー
― 低分子・ADC・mRNA・ペプチドを「買って束ねる」総合製薬企業

ファイザーは、探索から承認・販売までを自社で担う製薬企業です。 創薬・DDSの観点で見ると、同社の特徴はひとつの技術基盤に賭けるのではなく、複数のモダリティを買収と導入で束ねている点にあります。 2023年12月のSeagen買収で抗体薬物複合体(ADC)を、2025年11月のMetsera買収で肥満症向けのペプチド(GLP-1受容体作動薬・アミリン類似体)を取り込み、 mRNAワクチンはBioNTechと共同で開発・販売しています。 本稿では会社全体の規模は簡潔にとどめ、どのモダリティに何を投じ、誰と組み、何を目指しているかに絞ります。

構成:ファイザーが米国SECに提出した2025年12月期 Form 10-K(2026年2月26日提出)と2026年6月期 Form 10-Q(2026年8月4日提出)、同社および提携先の公式発表を一次情報として使用/本稿は企業解説であり、医療上の助言ではありません/最終更新 2026年9月

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるファイザーと、創薬・DDSでの立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. 創薬・DDSの世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模(簡潔に)
  5. 創薬・DDSにかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社は創薬・DDSで何を目指しているか
  9. 創薬・DDS分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるファイザーと、創薬・DDSでの立ち位置

正式名称Pfizer Inc.1942年デラウェア州で設立
本社米国・ニューヨーク市66 Hudson Boulevard East
上場NYSE: PFE米国SECに10-K・10-Qを提出
この分野での区分製薬企業自社内にCDMO部門(PC1)も持つ
中心となるモダリティ低分子・ADC
多重特異性抗体
がん領域で会社が挙げる3本柱
ほかのモダリティmRNA・ペプチド
PROTAC
BioNTech、Metsera、Arvinasとの関係から
2025年の売上US$62,579百万2025年12月期。うちADC 3品目で約4.8%
最大の買収Seagen(ADC)2023年12月。対価の公正価値US$44.2 billion
まず押さえるべき1点

創薬・DDSの企業は、大きく製薬企業・創薬バイオテック・受託開発製造(CDMO・CRO)の3種類に分かれます。 ファイザーは製薬企業で、特定の技術基盤を深掘りするバイオテックとは立場が違います 事実。 同社はがん領域について「低分子、ADC、多重特異性の免疫誘導抗体」という3つの作用機序の柱を掲げており、 そのうちADCはSeagenの買収(2023年12月)で、肥満症のペプチドはMetseraの買収(2025年11月)で手に入れました。 つまりファイザーにとって新しいモダリティは自社で一から育てるより、外から買って自社の開発・製造・販売網に載せるものです。 この「買って束ねる」構造を押さえると、以下の章が読みやすくなります。

2. ロゴと社名の表記について

ファイザーのロゴは同社の商標です。本稿では生成画像による再現を行わず、 公式サイトから取得した画像を img/pfizer_logo.svg として設置しています。

表記の注意:法人名は Pfizer Inc.(デラウェア州法人)で、日本語では「ファイザー」と表記します。 日本の事業会社であるファイザー株式会社は同社のグループ会社です。 また、社内の受託開発製造部門は Pfizer CentreOne(10-Kでは「PC1」と略記)という名称で、 外部の顧客から医薬品の開発・製造を受託しています。本稿では「PC1」と表記します。

公式サイト:https://www.pfizer.com/

3. 創薬・DDSの世界で、この会社はどこにいるか

創薬・DDSに関わる企業の3つの類型 同じ「薬の会社」でも、薬づくりのどこを担うかがまったく違う 製薬企業 創薬バイオテック 受託開発製造・研究 探索から承認・販売まで自社で担う 新しいモダリティや手法で候補を作る 他社の薬の開発・製造を請け負う Eli Lilly/Novo Nordisk 第一三共/Pfizer ほか Alnylam/Arvinas Moderna/Insilico ほか Lonza/Samsung Biologics WuXi AppTec ほか 後期臨床と販売網の資金力 特定の技術基盤の深さ 設備と規制対応の量産力 特許切れで売上が急減しうる 後期開発の資金を提携に頼る 顧客の開発中止・政策の影響 ファイザーは左端の製薬企業。新しいモダリティは中央のバイオテックを買収・導入して取り込む ADCはSeagen、ペプチドはMetsera、mRNAはBioNTech、PROTACはArvinasとの関係から得ている
図1 創薬・DDSに関わる企業の3類型と、ファイザーの位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。ファイザーは社内にCDMO部門(PC1)も持ちますが、2025年の売上に占める割合は約2.1%で、主業は製薬です(PC1売上US$1,338百万÷総売上US$62,579百万)。

モダリティ別に並べると、ファイザーの手札は次のとおりです 事実。 中心は低分子とADCと多重特異性抗体(がん領域で会社自身が挙げる3本柱)で、 これにmRNA(BioNTechと共同のCOVID-19ワクチン)、ペプチド(Metsera由来の注射剤GLP-1受容体作動薬とアミリン類似体)、 標的タンパク質分解(Arvinasと共同開発したPROTAC)が加わります。 それぞれの技術的な仕組みは、本シリーズの技術解説「抗体医薬とADC」「ペプチド医薬とGLP-1」「mRNA」「標的タンパク質分解」で扱っています。

4. 会社の規模(簡潔に)

会社全体の規模は1つの表にとどめます 事実。金額は米ドル、会計年度は12月期です。

指標(US$百万)2023年2024年2025年2026年1〜6月
売上高(Total revenues)59,55363,62762,57929,484
研究開発費10,67910,82210,4375,299
取得した仕掛研究開発費(導入の一時金など)1941081,613153
有形固定資産の取得(設備投資)3,9072,9092,629―

従業員は約75,000人(2025年12月31日)。製造工場は36か所(同日、Pfizer Global Supplyの管轄分)。2026年1〜6月は10-Qの未監査値。

ここで注意

上の数字は会社全体のものです。 ファイザーは研究開発費を開発段階別にも治療領域別にも分けて開示していないと10-Kに明記しています 事実。 したがって「ADCにいくら」「mRNAにいくら」といったモダリティ別の研究開発費は分かりません 未確定/将来。 モダリティへの力の入れ方は、以下の章で買収・導入の金額と製品別売上から読み取ります。

5. 創薬・DDSにかけているリソース

手順どおり「人・金・外部への出資や買収・導入・大学や公的機関との連携」の4点で整理します。

リソースの種類内容区分
人(研究拠点)米国内の研究開発施設は延べ約700万平方フィートで大半が自社保有。米国外では英国・インド・ベルギーで研究所を賃借。研究開発は最高科学責任者が率いる単一の組織で管理事実
人(人員数)全社で約75,000人。研究開発の人員数、モダリティ別の人員数は記載なし確認できず
金(研究開発費)2025年US$10,437百万。2026年1〜6月は前年同期比13%増のUS$5,299百万で、増加は「がんと肥満症の候補品への支出増」と説明事実
金(製造設備)2025年の有形固定資産の取得US$2,629百万。モダリティ別の設備投資額は記載なし事実(内訳は確認できず)
買収Seagen(2023年12月、ADC、対価の公正価値US$44.2 billion)、Metsera(2025年11月、肥満症のペプチド、同US$8.0 billion)事実
導入(ライセンス)3SBio(PD-1×VEGF二重特異性抗体、一時金US$1.25 billion+中国オプションUS$100百万)、YaoPharma(低分子GLP-1受容体作動薬、一時金US$150百万)、Innovent(ADC・多重特異性抗体の12プログラム、一時金US$650百万)、Sciwind(ペプチドGLP-1受容体作動薬の中国での販売権)事実
出資3SBioへUS$100百万の株式投資(2025年)事実
研究開発の外部資金投資会社Abingworthから特定品目の開発費を共同負担してもらう契約(2025年9月に最大US$200百万、2026年6月に別途最大US$300百万)事実
大学・研究機関との連携10-Kは「大学、バイオテック企業などとの共同研究・提携・ライセンス契約」を結んでいると一般的に記すのみで、創薬・DDSに関する具体的な大学名・公的資金は記載なし確認できず
「記載なし」から読み取れること

ファイザーの開示は、買収・導入の金額は細かく書くが、社内の研究体制(人数・拠点ごとの役割・大学連携)はほとんど書かないという形になっています 事実。 2025年の取得仕掛研究開発費US$1,613百万は前年の約15倍で、その大半は3SBio(US$1.35 billion)とYaoPharma(US$150百万)への支払いです。 外から候補を買う比重が、2025年に一段と上がったことが数字に表れています 本稿の計算。

6. これまでの取り組み

時期できごと創薬・DDSでの意味
2021年7月Arvinasと経口のPROTAC(ER分解薬)vepdegestrantの共同開発・共同販売で提携標的タンパク質分解という新しいモダリティへの参加
2023年12月14日Seagenを買収(1株US$229、対価の公正価値US$44.2 billion)。「4つの承認済み医薬品」と候補品を取得(10-Kの記載)ADCの技術・製造・販売を丸ごと取り込む
2025年7月3SBioからPD-1×VEGF二重特異性抗体SSGJ-707(PF-08634404)を導入(中国を除く全世界)。3SBioへ株式出資多重特異性抗体の後期候補を外から獲得
2025年8月vepdegestrantを米国で承認申請(FDAの受理日)PROTACが承認審査の段階に
2025年11月13日Metseraを買収(1株US$65.60+CVR最大US$20.65、対価の公正価値US$8.0 billion)月1回注射をめざす肥満症ペプチドの取得
2025年11月Padcevとペムブロリズマブの併用が、シスプラチン不適格の筋層浸潤性膀胱がんの周術期治療として米国で承認ADCの適応拡大
2025年12月YaoPharmaから低分子の経口GLP-1受容体作動薬YP05002(フェーズ1)を導入注射ペプチドに加え経口低分子も確保
2026年2月Sciwind BiosciencesのGLP-1受容体作動薬ecnoglutideの中国本土での独占販売権を取得販売のみの提携。開発・製造はSciwind側
2026年5月1日Veppanu(vepdegestrant)が米国FDAで承認。ESR1変異のER陽性/HER2陰性進行乳がんが対象。PROTACとして初のFDA承認(Arvinasの発表)標的タンパク質分解薬が初めて承認に到達
2026年5月Arvinasと共同で、vepdegestrantの販売権をRigel Pharmaceuticalsへ導出することで合意承認を取った新モダリティでも、自社では売らない選択
2026年5月28日InnoventとADC・多重特異性抗体の初期12プログラムで提携(2026年7月10日に完了)ADCの次世代ペイロードを外部から補強
2026年6月ADCのsigvotatug vedotinのフェーズ3(SigVie-002)で、主要評価項目の全生存期間でドセタキセルに対する統計的に有意な改善を示せずADCでも後期試験の失敗は起こる

臨床試験の例:vepdegestrantのVERITAC-2

Veppanuの承認の根拠となった試験は、VERITAC-2(NCT05654623、フェーズ3、無作為化・非盲検)です。 対象は内分泌療法後に進行したER陽性/HER2陰性の進行乳がんの患者で、比較対照はフルベストラント、 主要評価項目は盲検下独立中央判定による無増悪生存期間(PFS)です 事実。 Arvinasの発表では、ESR1変異のある患者(n=270)で、PFS中央値はvepdegestrant群5か月、フルベストラント群2.1か月(ハザード比0.57)でした。 これはPFS解析時点の結果で、同じ時点の全生存期間は「未成熟」とされています 事実。 本稿はこの数値をもって薬の優劣を論じるものではありません。

7. 今後の計画

2026年の重点主要取引の価値最大化
研究開発の節目の達成
10-Kが挙げる4つの優先事項のうち2つ
2028年以降の成長そこへ向けた投資優先事項の3つ目。特許切れへの備え
AIの活用研究開発・製造・販売で拡大優先事項の4つ目
肥満症MET-097iが後期開発月1回の注射をめざす。承認見込みは未定
候補(モダリティ)開発段階・予定区分
MET-097i/PF-08653944(ペプチド、GLP-1受容体作動薬)体重管理で後期開発(10-Kの後期開発表に掲載)。Metsera買収時の発表では「フェーズ3開始間近」未確定/将来
MET-097i+MET-233i(ペプチド+アミリン類似体)買収時点でフェーズ1。フェーズ3開始がCVRの支払い条件の1つ未確定/将来
PF-08634404(二重特異性抗体)大腸がん1次治療、非小細胞肺がん1次治療で後期開発未確定/将来
disitamab vedotin(ADC、RemeGenと共同)HER2発現の転移性尿路上皮がん1次治療で後期開発未確定/将来
PF-08046054非小細胞肺がん2次治療以降で後期開発(モダリティは10-Kに記載なし)未確定/将来
Padcev(ADC)シスプラチン適格の筋層浸潤性膀胱がんでEUに申請(2026年3月)、膀胱温存で後期開発未確定/将来
Comirnaty(mRNA)2026-2027年版EUで承認(2026年7月)、米国で申請(2026年6月受理)事実(米国は未確定/将来)
確認できなかったこと

次はいずれも10-K・10-Qに記載がありません 未確定/将来。

モダリティ別の研究開発費/ADCやペプチドの製造能力(生産量・専用工場)/MET-097iの承認申請の時期/ Innovent提携の12プログラムの標的と候補名/パイプライン全体の品目数(10-Kでは表が画像のため本稿では読み取っていません)。 報道ベースの売上予想や承認時期は採用しません。

8. この会社は創薬・DDSで何を目指しているか

ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
がん領域はADCと多重特異性抗体を2本の新しい柱にしようとしている会社は「低分子・ADC・多重特異性抗体」の3本柱を掲げ、Seagen買収、3SBio導入、Innovent提携がすべて後2者に集中している推測
肥満症は注射の頻度を減らす方向で差別化を狙うMetseraのMET-097iとMET-233iはいずれも「月1回」を掲げ、買収の説明も「より少ない注射回数」を強調している推測
肥満症では注射ペプチドと経口低分子の両方を持とうとしている注射のMetsera品に加え、経口の低分子GLP-1受容体作動薬(YaoPharma)とMetseraの経口候補を確保している推測
新しいモダリティでも自社で売るかは品目ごとに選別するPROTACのvepdegestrantは承認後に販売権をRigelへ導出した事実
ADCのペイロード(薬物部分)の多様化を外部に求めているInnovent提携の説明が「新しい差別化されたペイロードを持つADC」となっている推測
推測の根拠を1つだけ詳しく:「売らない」という判断

VeppanuはPROTACとして初めてFDAに承認された薬です(Arvinasの発表)。 モダリティの「第1号」を持つことは研究開発上の大きな成果ですが、ファイザーとArvinasは承認前の2025年9月に第三者へ販売権を渡す方針を決め、 2026年5月にRigel Pharmaceuticalsへの導出で合意しました 事実。 一方で同じ時期に、ADCではInnoventに一時金US$650百万を払って12プログラムを取り込んでいます。 ここから本稿は、ファイザーがモダリティの新しさより、自社の販売網が効く疾患と市場規模で投資先を選んでいると読みます 未確定/将来。ESR1変異の乳がんという対象の狭さが、自社販売を見送った理由の一つと考えられますが、会社はその理由を開示していません。

9. 創薬・DDS分野の提携マッピング

ファイザーを中心とした創薬・DDSの提携関係 10-K・10-Qと公式発表に記載のある関係のみ。報道ベースの関係は含まない 共同開発・導入 買収・出資 製造受託(自社のCDMO部門) ファイザー 製薬企業 BioNTech mRNAワクチンを共同開発 Astellas ADCのPadcevを共同開発 Genmab/Takeda ADC 2品目を地域分担 Arvinas PROTACを共同開発 RemeGen ADCを共同開発 Seagen ADC企業を買収(2023年) Metsera 肥満症ペプチド(2025年) 3SBio 二重特異性抗体を導入+出資 Innovent ADCなど12件(2026年) YaoPharma 経口低分子GLP-1を導入 PC1(社内部門) 他社から開発・製造を受託
図2 ファイザーを中心とした創薬・DDSの提携関係。出典:2025年12月期 Form 10-K、2026年6月期 Form 10-Q、ファイザーおよびArvinasの公式発表。3SBioは導入に加えUS$100百万の株式投資があります。Arvinasとのvepdegestrantは、販売権をRigel Pharmaceuticalsへ導出することで2026年5月に合意済みです。図に含めたのは一次情報に記載のある関係だけで、報道で語られる関係は含めていません。

10. 提供している技術・製品・サービス

創薬・DDSに関係する主な製品を、モダリティ別に2025年の売上とともに示します 事実。 製品別売上は10-KのNote 17Cに開示されているものです(US$百万)。

製品モダリティ主な対象(会社の記載)2025年売上2026年1〜6月
PadcevADC(Nectin-4)尿路上皮がん、筋層浸潤性膀胱がん1,9401,258
AdcetrisADCホジキンリンパ腫など一部のリンパ腫907386
TivdakADC再発・転移性子宮頸がん14767
Elrexfio二重特異性抗体再発・難治性多発性骨髄腫304169
ComirnatymRNA(BioNTechと共同)COVID-19の予防4,367493
VeppanuPROTAC(低分子の分解誘導薬)ESR1変異のER陽性/HER2陰性進行乳がん2026年5月に米国承認―
PC1(受託)受託開発製造・原薬販売他社向け1,338―

ADC 3品目の2025年売上の合計はUS$2,994百万で、総売上の約4.8%です(本稿の計算)。

素材技術者の視点:Comirnatyの特許訴訟が示す「LNPは材料の知財」

2026年6月期の10-Qには、Comirnatyをめぐる特許訴訟が並んでいます。 Arbutus・Genevant(Comirnatyとその製造が米国特許5件を侵害と主張)、GSK(米国特許8件と欧州特許3件)、Moderna、 2026年7月に提訴したTranslate Bio・Sanofi(米国特許8件)などです 事実。 mRNAワクチンの有効成分はmRNAそのものですが、それを細胞に届けるには脂質ナノ粒子(LNP)が要ります。 Arbutus・Genevantは脂質ナノ粒子の技術で知られる会社で、訴状が「製造」も対象にしている点は、 イオン化脂質の組成や粒子の作り方といった材料・プロセスの側に権利が張られていることを示しています。 ただし各訴訟でどの特許のどの請求項が争点かは、10-Qからは読み取れません 未確定/将来。

ADCでも同様に、抗体と薬物をつなぐリンカーの化学と、毒性の高いペイロードを扱う封じ込め製造が技術の核になります。 InnoventとのADC提携が「新しい差別化されたペイロード」を掲げているのは、抗体よりも薬物部分とそのつなぎ方に差別化の余地が移っていることの表れと本稿は読みます 未確定/将来。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
特許切れによる売上減会社は2026〜2030年に特許・独占期間の満了で大幅な売上減を見込むと10-Kに記載事実
買収した資産の減損2025年に無形資産の減損US$3.9 billionを計上。買収した候補が失敗すれば同様の減損が起こりうると会社自身が記載事実
競争の激しい領域への集中10-Kは「MetseraとSeagenの買収は、肥満症とがんという極めて競争の激しい領域への大きな投資」と明記事実
ADCの後期試験の失敗sigvotatug vedotinのフェーズ3が主要評価項目を達成できなかった(2026年6月)事実
mRNA・LNPの特許紛争Comirnatyに対し複数社が特許侵害を主張。損害額は多くが「不特定」事実
COVID-19製品の縮小Comirnatyの売上は2023年US$11,220百万から2025年US$4,367百万へ減少事実
外部依存の高まり候補の獲得を買収・導入に頼るほど、一時金と減損の負担が業績を振らしやすくなる推測
中国発の候補への依存3SBio、YaoPharma、Innovent、Sciwindはいずれも中国の企業。規制や地政学の変化が開発計画に影響しうる推測

12. 用語集

モダリティ
薬の「種類・形式」。低分子、抗体、ADC、ペプチド、核酸、mRNA、細胞・遺伝子治療など。
ADC(抗体薬物複合体)
がん細胞の目印に結合する抗体に、リンカーを介して強い薬物(ペイロード)をつないだ薬。
二重特異性抗体
1分子で2つの異なる標的に結合する抗体。3つ以上なら多重特異性抗体。
PROTAC
標的タンパク質と分解の目印をつける酵素を近づけ、細胞内で標的を分解させる低分子。標的タンパク質分解誘導剤の一種。
GLP-1受容体作動薬
インスリン分泌や食欲に関わるホルモンGLP-1の受容体を刺激する薬。ペプチドと低分子がある。
アミリン類似体
膵臓から出るホルモン「アミリン」に似せたペプチド。満腹感に関わるとされる。
LNP(脂質ナノ粒子)
mRNAなどの核酸を包んで細胞に届ける、数十〜百数十nmの脂質の粒子。
CVR(条件付き価値受領権)
買収時に、将来の開発や承認の達成に応じて追加の支払いを約束する権利。
取得した仕掛研究開発費
開発中の候補を導入・取得した際の一時金などを費用計上したもの。
Form 10-K/10-Q
米国上場企業が米国SECに提出する年次・四半期の報告書。
概念図:製薬企業が外部の技術基盤(ADC・ペプチド・mRNA)を取り込み、自社の開発・製造・販売網に載せる構造AI生成による概念図
図3 ファイザーの創薬・DDSへの取り組み方の概念図(AI生成による概念図。実際の設備や製品を写したものではありません)。

13. 出典

  1. Pfizer Inc. Form 10-K for the fiscal year ended December 31, 2025(米国SEC提出、2026年2月26日)。事業構成、研究開発の体制と拠点、売上・研究開発費・製品別売上、従業員数、製造工場数、Seagen・Metsera買収、3SBio・YaoPharma導入、Abingworthとの契約、後期開発品目、リスク要因。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/78003/000007800326000026/pfe-20251231.htm
  2. Pfizer Inc. Form 10-Q for the quarterly period ended June 28, 2026(米国SEC提出、2026年8月4日)。2026年上期の売上・研究開発費・製品別売上、Sciwind・Innovent提携、Veppanu承認とRigelへの導出、sigvotatug vedotinのフェーズ3結果、Comirnatyの特許訴訟。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/78003/000007800326000095/pfe-20260628.htm
  3. Pfizer Inc. Pfizer to Acquire Metsera and its Next-Generation Obesity Portfolio(公式発表)。Metseraの候補品(MET-097i、MET-233i、経口候補)と開発段階。 https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizer-acquire-metsera-and-its-next-generation-obesity
  4. Pfizer Inc. Pfizer Completes Acquisition of Metsera(公式発表、2025年11月13日)。買収完了と取得した候補品の段階。 https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizer-completes-acquisition-metsera
  5. Pfizer Inc./Innovent Biologics Pfizer and Innovent Biologics Enter Global Strategic Collaboration to Accelerate Development of Innovative Oncology Medicines(公式発表、2026年5月28日)。ADC・多重特異性抗体の12プログラム、がん領域の3本柱。 https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizer-and-innovent-biologics-enter-global-strategic
  6. Arvinas, Inc. Arvinas Announces FDA Approval of VEPPANU (vepdegestrant)(Form 8-K Exhibit 99.1、2026年5月1日)。FDA承認、PROTACとして初の承認、VERITAC-2の結果。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1655759/000162828026029210/fdaapprovalpressrelease_.htm
  7. ClinicalTrials.gov NCT05654623(VERITAC-2)。試験デザイン、フェーズ、主要評価項目。 https://clinicaltrials.gov/study/NCT05654623
  8. Pfizer Inc. 公式サイト(ロゴ画像の取得元、会社概要の確認用)。 https://www.pfizer.com/

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
正式名称、設立年、本社所在地、上場市場事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/78003/000007800326000026/pfe-20251231.htm
2023〜2025年の売上高・研究開発費・取得仕掛研究開発費・設備投資、従業員約75,000人、製造工場36か所事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/78003/000007800326000026/pfe-20251231.htm
2026年1〜6月の売上高・研究開発費と、その増加理由事実出典2 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/78003/000007800326000095/pfe-20260628.htm
研究開発費を開発段階別・治療領域別に開示していないこと、研究拠点の規模事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/78003/000007800326000026/pfe-20251231.htm
がん領域の3本柱(低分子・ADC・多重特異性抗体)事実出典5 https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizer-and-innovent-biologics-enter-global-strategic
Seagen買収(2023年12月14日、1株US$229、US$44.2 billion、ADC技術)事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/78003/000007800326000026/pfe-20251231.htm
Metsera買収(2025年11月13日、1株US$65.60+CVR、US$8.0 billion)事実出典1・4 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/78003/000007800326000026/pfe-20251231.htm
MetseraのMET-097i(週1回・月1回注射のGLP-1受容体作動薬)とMET-233i(月1回のアミリン類似体)、経口候補事実出典3・4 https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizer-acquire-metsera-and-its-next-generation-obesity
3SBio導入(2025年7月、一時金US$1.25 billion、中国オプションUS$100百万、株式投資US$100百万)事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/78003/000007800326000026/pfe-20251231.htm
YaoPharma導入(2025年12月、YP05002、一時金US$150百万)事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/78003/000007800326000026/pfe-20251231.htm
Abingworthとの開発費共同負担契約(2025年9月、2026年6月)事実出典1・2 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/78003/000007800326000095/pfe-20260628.htm
Sciwind(2026年2月)、Innovent(2026年5月、一時金US$650百万、7月10日完了)事実出典2・5 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/78003/000007800326000095/pfe-20260628.htm
Arvinasとの提携(2021年7月)、Veppanuの米国承認(2026年5月)とPROTACとして初の承認、Rigelへの導出事実出典2・6 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1655759/000162828026029210/fdaapprovalpressrelease_.htm
VERITAC-2の試験デザインと主要評価項目事実出典7 https://clinicaltrials.gov/study/NCT05654623
VERITAC-2のESR1変異集団でのPFS中央値5か月対2.1か月(フルベストラント対照、PFS解析時点)事実出典6 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1655759/000162828026029210/fdaapprovalpressrelease_.htm
Padcev・Adcetris・Tivdak・Elrexfio・Comirnatyの製品別売上、PC1の売上事実出典1・2 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/78003/000007800326000026/pfe-20251231.htm
後期開発品目(MET-097i、PF-08634404、disitamab vedotin、PF-08046054ほか)事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/78003/000007800326000026/pfe-20251231.htm
sigvotatug vedotinのフェーズ3が主要評価項目を達成しなかったこと事実出典2 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/78003/000007800326000095/pfe-20260628.htm
Comirnatyをめぐる特許訴訟(Arbutus・Genevant、GSK、Moderna、Translate Bio・Sanofiほか)事実出典2 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/78003/000007800326000095/pfe-20260628.htm
2026年の4つの優先事項、特許切れによる2026〜2030年の売上減の見込み、減損事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/78003/000007800326000026/pfe-20251231.htm
創薬・DDS企業の3類型の区分本稿の計算本稿による整理。企業名は本シリーズの対象企業から例示
ADC 3品目の売上合計US$2,994百万と総売上比約4.8%、PC1の売上比約2.1%、取得仕掛研究開発費が前年の約15倍本稿の計算出典1の数値から本稿が計算
モダリティ別の研究開発費・製造能力、MET-097iの申請時期、Innovent提携の個別候補、パイプライン総数未確定/将来出典1・2に記載なし。報道ベースの数値は採用しない https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/78003/000007800326000095/pfe-20260628.htm
創薬・DDSに関する大学・公的資金との具体的な連携未確定/将来出典1に具体的な記載なし。本稿では存在しないとも断定しない https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/78003/000007800326000026/pfe-20251231.htm
ADCと多重特異性抗体を新しい柱にしようとしているという読み推測3本柱の記述と買収・導入の集中からの本稿の解釈
肥満症で注射頻度の削減と、注射・経口の両にらみを狙うという読み推測Metsera・YaoPharmaの候補の性質からの本稿の解釈
ADCのペイロード多様化を外部に求め、差別化の余地が薬物部分に移っているという読み推測Innovent提携の説明文からの本稿の解釈
新モダリティより販売網が効く疾患と市場規模で投資先を選んでいるという読み推測vepdegestrantの導出とInnovent提携の対比からの本稿の解釈
LNPの知財が材料・プロセス側に張られているという読み推測出典2の訴訟の記載(製造も対象)からの本稿の解釈
外部依存の高まりと中国発の候補への依存というリスク推測買収・導入の構成からの本稿の解釈

最終更新:2026年9月26日/Troy Technical
本稿の数値はすべてファイザーが米国証券取引委員会(SEC)に提出した法定開示書類、同社および提携先の公式発表、ClinicalTrials.govの登録情報に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。本稿は特定の医薬品の使用を勧めるものではなく、医療上の判断は必ず医師・薬剤師にご相談ください。