COMPANY PROFILE / 創薬・DDS
ロンザ(Lonza)
― 自社の薬を持たず、ADCの「抗体・リンカー・結合・充填」を1社で請け負う受託企業
ロンザはスイス・バーゼルに本社を置く医薬品の受託開発製造会社(CDMO)です。 自社で新薬を開発・販売することはなく、製薬会社やバイオテックの薬を代わりに開発し、作ることで売上を得ています。 創薬・DDSの視点で同社が重要なのは、抗体薬物複合体(ADC)の部品である抗体・薬物リンカー(ペイロードリンカー)・結合工程・注射剤の充填までを自社の拠点網でつなげて請け負える点と、 水に溶けにくい低分子薬を吸収されやすくする噴霧乾燥(スプレードライ)の設備を増やしている点です。 2026年3月には、経口ペプチド向けのカプセルも手がけていたカプセル・健康素材事業(CHI)の売却に合意し、受託開発製造の専業になる道を選びました。 本稿は細胞培養の話題には立ち入らず、ADC・低分子原薬・製剤化にかけているリソースと、その先の狙いに絞って整理します。
- 30秒でわかるロンザと、創薬・DDSでの立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- 創薬・DDSの世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模
- 創薬・DDSにかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社は創薬・DDSで何を目指しているか
- 創薬・DDS分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるロンザと、創薬・DDSでの立ち位置
(CDMO)自社の医薬品は持たない
創薬・DDSに関わる企業は、大きく製薬企業・創薬バイオテック・受託開発製造(研究)の3種類に分かれます。 ロンザは受託開発製造で、自社の薬の承認や臨床試験を持ちません 事実。 同社の年次報告書は、ADCの事業について「抗体(動物細胞培養)・薬物リンカー(低分子と高薬理活性原薬)・結合(コンジュゲーション)・注射剤の製造」を自社の技術基盤の組み合わせとして提供すると書き、 それぞれを担う拠点(抗体はスイスのVisp、米国のVacavilleなど8拠点、薬物リンカーはVisp・オランダのOss・中国の南沙、結合はVispとOss、充填はスイスのBaselとStein)を図で示しています。 つまりロンザの強みは特定の薬ではなく、ADCという「部品の多い薬」の工程を途切れずにつなげる能力であり、 ここが自社の薬を持つ製薬企業や、1つの技術で勝負する創薬バイオテックとは決定的に立場が違う点です。
2. ロゴと社名の表記について

Lonzaのロゴは同社の商標です。本稿では生成画像による再現を行わず、
公式サイトのページ上部に表示されているロゴ(SVG)を img/lonza_logo.svg として設置しています。
表記の注意:上場している持株会社は Lonza Group Ltd で、報告書の著作権表記などには事業会社の Lonza Ltd も登場します。 日本語では「ロンザ」と表記されます。 また、同社が2023年に買収したオランダの Synaffix B.V. は現在ロンザの一部で、その技術(GlycoConnect など)はロンザの名前で提供されています。 本シリーズの細胞培養技術の企業解説にもロンザは登場しますが、本稿は創薬・DDSの視点だけで別に書いたものです。
公式サイト:https://www.lonza.com/3. 創薬・DDSの世界で、この会社はどこにいるか
類型は受託開発製造(CDMO)です。扱うモダリティは広く、年次報告書は事業を3つの「ビジネス・プラットフォーム」に分けています 事実。
| ビジネス・プラットフォーム | 中身(技術プラットフォーム) | 創薬・DDSとの関係 |
|---|---|---|
| Integrated Biologics | 動物細胞による抗体など(Mammalian)、注射剤の製剤・充填(Drug Product) | ADCの「抗体」と「最終製剤の充填」を担う |
| Advanced Synthesis | 低分子(Small Molecules)、バイオコンジュゲート(Bioconjugates) | 本稿の中心。ADCの薬物リンカー・結合工程、高薬理活性原薬、噴霧乾燥による溶解性改善 |
| Specialized Modalities | 細胞・遺伝子治療、微生物発現、mRNA、Bioscience | mRNA・脂質ナノ粒子(LNP)の受託製造を含む |
本シリーズの技術解説「CDMO」「抗体医薬とADC」で説明した通り、ADCは抗体・リンカー・薬物(ペイロード)という性質の違う部品を化学的につないだ薬で、 それぞれに別の製造技術と封じ込め設備が要ります。ロンザはその部品をほぼすべて自社で作れる、という点で受託企業の中でも位置が明確です。
4. 会社の規模
数字はいずれも、2026年に売却が決まったカプセル・健康素材事業(CHI)を除いた継続事業のものです 事実。
| 指標(百万CHF) | 2024年12月期 | 2025年12月期 | 2026年上期(未監査) |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 5,480 | 6,531 | 3,374 |
| CORE EBITDA | 1,653 | 2,064 | 1,175 |
| うち Advanced Synthesis の売上 | ― | 1,611 | 834 |
| うち Integrated Biologics の売上 | ― | 3,649 | 1,870 |
| うち Specialized Modalities の売上 | ― | 1,034 | 553 |
| 研究開発費(注記の総額) | 218 | 169 | 半期報告に記載なし |
| 項目 | 数値 | 補足 |
|---|---|---|
| 従業員(フルタイム換算) | 約20,000人 | 2025年。CHIの従業員を含む。継続事業の年間平均は16,866人 |
| 開発・製造拠点 | 30超 | 2025年の年次報告書の概要ページ |
| 有効な特許ファミリー | 420 | 同上 |
| 設備投資(グループ) | 13億CHF | 2025年。CEOレターの記載 |
| 売却するCHIの売上 | 1,092百万CHF | 2025年12月期。非継続事業として区分 |
研究開発費169百万CHFは会社全体の研究開発の総額で、ADCや低分子に限った額ではありません。 年次報告書は、この額の一部が「研究開発の製品・サービスの売上原価」に吸収されるため、損益計算書に出る研究開発費はもっと小さいと注記しています 事実。 受託企業の研究開発費は、製薬企業の「新薬の研究開発費」とは性格がまったく違うので、金額の大小で比べないでください。 また、年次報告書にはバイオコンジュゲートの受託市場規模(2025年に21.8億米ドル、年率約15%で成長)などの数字も載っていますが、 出所が調査会社(Roots Analysis ほか)の推計のため本稿では採用しません。
5. 創薬・DDSにかけているリソース
ロンザはADC・低分子ごとの人員や投資額を分けて開示していません。そのため、確認できたこと・できなかったことを分けて示します。
| リソースの種類 | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人(拠点) | Advanced Synthesis の主な拠点はVisp(スイス):原薬・高薬理活性原薬とバイオコンジュゲートの臨床・商用製造、Oss(オランダ):探索サービスと研究開発ライセンス、Bend(米国):噴霧乾燥・錠剤・カプセル充填、南沙(中国):原薬 | 事実 |
| 人(人数) | ADC・低分子の担当人員数は開示なし。会社全体で約20,000人(CHIを含む) | 非公表 |
| 金(研究開発費) | 会社全体で169百万CHF(2025年)。ADC・低分子の内訳は開示なし | 事実 |
| 金(設備投資) | Advanced Synthesis の設備投資は2026年上期153百万CHF(前年同期145百万CHF)。個別案件(Vispの薬物リンカー増設、Steinの充填ライン、Bendの噴霧乾燥設備)の金額は開示なし | 事実 |
| 買収 | Synaffix B.V.(2023年)。売上連動の追加支払いは最大6,000万ユーロで、2025年に全額(56百万CHF相当)を支払済み | 事実 |
| 技術の導入・提供 | 「Lonza Bioconjugation Toolbox」を通じて外部の技術提供会社と組み、結合技術・リンカー・ペイロードを顧客に提供。自社技術はライセンスで提供 | 事実 |
| 売却(選択と集中) | カプセル・健康素材事業(CHI)、Monteggio(スイス)の微粉化拠点、Cocoon、MODA の売却に合意 | 事実 |
| 研究機関との連携 | 研究拠点CMAC(Centre for Continuous Manufacturing and Advanced Crystallisation)に2025年に加盟 | 事実 |
| 公的資金 | 政府補助金・研究開発税額控除等として16百万CHF(2025年、会社全体)。ADC・低分子向けかどうかは不明 | 事実 |
| 大学との共同研究 | ADC・低分子に関する大学との個別の共同研究は、年次報告書・半期報告書に記載なし | 確認できず |
ADCの薬物(ペイロード)は、抗体に載せてがん細胞の近くだけで働かせることを前提にした、非常に毒性の強い低分子です。 そのため薬物リンカーを合成する工場と、抗体に結合させる工場、そして結合後の液を瓶に詰める工場のすべてで、作業者が微量でも触れないようにする高封じ込め設備が必要になります 事実。 年次報告書は、高薬理活性化合物の製造に「特別な取り扱いと封じ込めが必要」と書き、Steinの充填ラインについても「高薬理活性の生物製剤を安全に製造するための先進的な封じ込め技術」を導入したと説明しています。 材料側から見ると、ここでは隔離装置(アイソレーター)の気密材、洗浄しやすい接液部材、溶媒に耐える樹脂・ガスケットなどが工程の律速になりやすく、 「同じ部屋で別の薬を作れるか」という切り替えの速さも設備の仕様で決まります。
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 2006年〜 | ADCのcGMP製造を開始。以後1,400超のバッチ、70超のプログラム | ADC受託の実績の起点 |
| 2023年 | Synaffix B.V. を買収。糖鎖を使った部位特異的な結合技術 GlycoConnect などを取得 | 「作る」だけでなく「結合技術そのもの」を持つ受託企業へ |
| 2024年10月 | Rocheから米国Vacavilleの大型生物製剤工場を取得 | 抗体の大型製造能力。ADCの抗体供給にもつながる |
| 2025年第1四半期 | Vispの顧客専用の薬物リンカー工場が稼働開始 | ADCの薬物リンカーを商用規模で製造 |
| 2025年4月 | 組織を3つのビジネス・プラットフォームに再編。Advanced Synthesis(低分子+バイオコンジュゲート)を新設し、Synaffixの技術をここへ移す | ADCと低分子原薬を同じ部門で扱う体制に |
| 2025年 | Ethrisと噴霧乾燥の粘膜投与mRNAワクチン、Iconovoと経鼻投与の生物製剤の噴霧乾燥製剤で協業。低分子原薬の工程開発基盤 Design2Optimize を発表。CMACに加盟 | 噴霧乾燥を低分子以外(mRNA・生物製剤)へ広げる |
| 2025年9月 | 韓国の臨床段階バイオテックQurientと、2種類の薬物を載せるデュアルペイロードADCで初の提携 | ロンザのエキサテカン系技術とQurientのCDK7阻害薬を組み合わせる |
| 2025年10月 | Steinの高薬理活性生物製剤の無菌充填ラインがSwissmedicの承認を取得 | ADCを含む注射剤の充填が可能に |
| 2025年11月 | World ADCでGlycoConnectの拡張(2種類の細胞毒性薬を載せるADC)の前臨床データを発表 | 技術の対象を広げた |
| 2025年 | ADCのバッチ数が年間約400に。Advanced Synthesis の売上は前年比+22.4%(為替一定) | 新しい設備の稼働が数字に表れた |
| 2026年3月6日 | CHIをLone Star Fundsへ売却することで合意(企業価値23億CHF、40%の持分は保持)。Monteggioの微粉化拠点なども売却へ | 受託開発製造の専業へ |
| 2026年6月30日 | Vispで高薬理活性原薬とADC用ペイロードリンカーの商用製造能力の増強を発表。2028年稼働予定 | ADCの「薬物側」の能力を増やす |
| 2026年7月22日 | SteinにADC向けの商用規模の多目的充填ラインを追加すると発表(2030年稼働予定、大手製薬との長期契約が裏付け)。大型製剤工場に低分子製剤も加え、2028年稼働予定に | ADCの「最後の工程」の能力を増やす |
| 2026年9月10日 | 米国Bendに商用規模の噴霧乾燥工場(PSD-4装置2基)の建設を発表。2029年完成予定、80人超の新規雇用 | 溶けにくい低分子薬の吸収改善を米国内で量産 |
7. 今後の計画
会社は Advanced Synthesis について「下期の売上は上期より多いが、前年同期の水準が高いため下期の伸び率は鈍る」「マージンも下期には正常化する」と書いています 事実。 2026年上期の+27.7%(為替一定)という高い伸びが、そのまま続く前提ではないということです。
次はいずれも年次報告書・半期報告書・公式リリースに記載がありません 未確定/将来。
Vispのペイロードリンカー増設・Steinの充填ライン・Bendの噴霧乾燥工場のそれぞれの投資額/各設備の生産能力(年間バッチ数や処理量)/ Steinの充填ラインを支える大手製薬の社名と契約金額/Qurientとの提携の金額と権利の配分/ ADCの受託売上が Advanced Synthesis の中でどれだけの割合か。 「ロンザがADC受託で世界シェア○%」といった数字は調査会社の推計に基づくものが多く、本稿では採用しません。
8. この会社は創薬・DDSで何を目指しているか
ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| ADCを「1社で最初から最後まで」請け負える受託先として定着させたい | 年次報告書がADCの全部品と担当拠点を1枚の図で示し、2026年だけで薬物リンカー(Visp)と充填(Stein)の増強を相次いで発表している | 推測 |
| 作るだけでなく結合技術を持つ受託企業になろうとしている | Synaffixの買収、GlycoConnect・HydraSpace・toxSYNのライセンス提供、Qurientとのデュアルペイロード提携 | 推測 |
| 経口で飲む剤形の資材ビジネス(カプセル)からは手を引く | 経口ペプチド・GLP-1向けの Enprotect カプセルを含むCHIを売却に合意。ただし40%の持分は保持 | 事実 |
| 低分子のDDSは「溶けにくい薬を吸収させる」技術に絞って伸ばす | Bendの噴霧乾燥工場の新設、噴霧乾燥分散体(SDD)と非晶質固体分散体(ASD)を前面に出した説明 | 推測 |
| 米国内での製造を増やし、地域ごとに完結する供給網に備える | Bendのリリースが「地域化された、より強靱なサプライチェーン」を挙げている。米国のVacaville取得も同じ方向 | 推測 |
| mRNAの届け方(LNP)にもADCの結合技術を持ち込む | 年次報告書が、GlycoConnectでLNPの表面に配位子を付け、T細胞を狙う標的化LNPの工程を開発したと書いている | 事実 |
売却するCHIは、年次報告書によると「世界最大のカプセル製造能力」を持ち、さらに経口ペプチドとGLP-1の投与の課題に応えると説明された Enprotect カプセルを開発していました 事実。 口から飲めるペプチド薬は、創薬・DDSの中でも注目度の高いテーマです。 それでもロンザはこの事業を切り離し、代わりにADCの薬物リンカーと充填、低分子の噴霧乾燥に投資を振り向けています。 本稿はこれを、「剤形の部材を売る商売」より「他社の薬の工程を丸ごと請け負う商売」のほうが、ロンザにとって利益率と成長の両面で有利だと判断した結果と読みます 未確定/将来。 実際、2026年上期の Advanced Synthesis のCORE EBITDAマージンは48.1%で、CHI(26.8%)を大きく上回っています 事実。 ただし会社は売却の理由を「受託開発製造の専業になるため」と説明しているだけで、経口ペプチド分野の見通しには触れていません。
9. 創薬・DDS分野の提携マッピング
10. 提供している技術・製品・サービス
| 分野 | 内容 | 主な拠点 |
|---|---|---|
| ADCの結合技術 | GlycoConnect:抗体の配列を改変せず、抗体がもともと持つ糖鎖を修飾して部位特異的に結合させる技術。HydraSpace:溶解性と安定性を高める親水性スペーサー。toxSYN:作用機序の異なる複数の薬物リンカーの品ぞろえ(デュアルペイロードの SYN-duo を含む) | Oss(探索・ライセンス) |
| ADCの製造 | 抗体の製造、薬物リンカーの合成、結合、原薬、注射剤の充填・凍結乾燥までを受託。抗体と核酸をつなぐ複合体(AOC)、多糖の結合、放射性リガンド療法向けの「コールド」結合にも対応 | Visp・Stein・Basel ほか |
| 低分子原薬 | 高薬理活性原薬(HPAPI)・細胞毒性物質の原薬、ADC用の薬物リンカー。前臨床・臨床で200超、商用で125超のプログラム | Visp・南沙 |
| 溶解性・吸収の改善 | 噴霧乾燥分散体(SDD)、非晶質固体分散体(ASD)の中間体、吸入用の乾燥粉末(DPI)、錠剤・カプセル充填。生理学的薬物動態(PBPK)モデルによる予測 | Bend(米国) |
| mRNA・LNP | mRNAと脂質ナノ粒子の工程開発・分析・cGMP製造(IND準備から小規模の商用まで)。T細胞を狙う標的化LNPの工程開発 | Geleen(オランダ) |
| 注射剤の製剤 | 静脈内・皮下・硝子体内投与の注射剤。単クローン抗体、二重特異性抗体、融合タンパク、ADCの液剤・凍結乾燥製剤の充填 | Basel・Stein |
ロンザのADC技術ページは、GlycoConnectを「抗体の配列を改変せず、抗体本来の糖鎖を修飾して部位特異的に結合する」方式と説明し、 HydraSpaceを「ADCの溶解性と安定性を高める親水性スペーサー」と位置づけています 事実。 ADCの薬物の多くは疎水性が高く、抗体1本に多く載せるほど凝集しやすくなります。 結合位置をそろえること(均一性)と、リンカーに水となじむ部分を入れること(親水性)は、どちらも「薬物を多く載せても壊れにくい」ADCを作るための材料設計です。
一方、Bendの噴霧乾燥工場の発表は、装置に加えて溶媒の取り扱いと貯蔵の設備、排出抑制の技術を併設すると書いています 事実。 噴霧乾燥分散体は、薬と高分子(ポリマー)を有機溶媒に溶かして霧状に乾かし、薬を結晶にさせずに高分子の中へ閉じ込める方法です。 どの高分子を選ぶか、溶媒をどこまで除けるかが製品の安定性を決めるため、ポリマー賦形剤と溶媒回収がこの設備の中心になります。 どの高分子や溶媒を使うかはロンザの一次情報には書かれておらず、ここは本稿による一般的な説明です。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 大口顧客への依存 | 2025年は最大の顧客が売上の11.7%(Advanced Synthesis と Integrated Biologics)、2番目が10.8%を占めた | 事実 |
| 下期の伸びの鈍化 | 会社自身が、Advanced Synthesis の下期は前年の水準が高いため伸び率が鈍り、マージンも正常化すると書いている | 事実 |
| CHI売却の完了条件 | 規制当局の承認とCHIの法的分離の完了が条件。完了は2026年下期の見込み | 事実 |
| 為替 | 2025年は主に米ドル安で、売上とCORE EBITDAに約2.5ポイントの逆風 | 事実 |
| ADC設備の稼働率 | 2026〜2030年に結合・薬物リンカー・充填の設備が順に立ち上がる。ADCの開発中止や承認の遅れが重なれば、稼働率が計画を下回る可能性がある | 推測 |
| 技術を持つことの両面性 | 自社の結合技術をライセンスする立場は、同じ技術を持つ別のADC開発会社や別の受託企業と競合しやすい | 推測 |
12. 用語集
- CDMO
- Contract Development and Manufacturing Organization。他社の医薬品の開発と製造を請け負う会社。
- ADC
- 抗体薬物複合体。がん細胞の目印に結合する抗体に、強い薬物をリンカーでつないだ薬。
- ペイロードリンカー
- ADCに載せる薬物(ペイロード)と、抗体につなぐための連結部(リンカー)を一体にした低分子。
- HPAPI
- 高薬理活性原薬。ごく微量でも強く作用するため、封じ込め設備での製造が必要な原薬。
- 部位特異的結合
- 抗体の決まった位置にだけ薬物をつなぐ方法。1本あたりの薬物数がそろいやすい。
- 噴霧乾燥分散体(SDD)
- 薬と高分子を溶媒に溶かして霧状に乾かし、薬を非晶質のまま閉じ込めた粉。溶けにくい薬の吸収を助ける。
- LNP
- 脂質ナノ粒子。mRNAなどの核酸を包み、細胞まで運ぶ微粒子。
- CORE EBITDA
- ロンザが使う利益指標。一時的な費用などを除いた利払い・税・償却前の利益。
AI生成による概念図13. 出典
- Lonza Group Ltd Annual Report 2025(2026年4月1日公表)。3つのビジネス・プラットフォーム、Advanced Synthesis の事業内容と拠点、ADCの製造実績(2006年以降1,400超のバッチ・70超のプログラム、2025年約400バッチ)、Synaffixの統合と追加支払い、Qurient・Ethris・Iconovo・CMAC、Steinの承認、mRNA・LNPと標的化LNP、CHIとEnprotect、売上・CORE EBITDA・研究開発費・従業員・拠点数・特許ファミリー数、主要顧客の比率、政府補助金等、市場推計の出所。 https://www.lonza.com/annualreport/2025/documents/LONZA_AR_2025_SCREEN_FULL.pdf
- Lonza Group Ltd Half-Year Report 2026(2026年7月22日公表、未監査)。2026年上期の売上・CORE EBITDA・設備投資・プラットフォーム別の数値、Advanced Synthesis の下期見通し、CHIの売却条件と非継続事業の数値、本社所在地と上場市場。 https://www.lonza.com/-/media/39523D97F3B24D6C9664FB75A9555D00
- Lonza Group Ltd プレスリリース「Lonza Delivered Strong H1 2026 Performance Across All Business Platforms and Upgrades Full-Year 2026 Margin Outlook」(2026年7月22日)。SteinのADC用多目的充填ライン(2030年稼働予定)と大型製剤工場の低分子対応(2028年稼働予定)、2026年の見通し、CHI売却完了の時期。 https://www.lonza.com/news/2026-07-22-06-30
- Lonza Group Ltd プレスリリース「Lonza Completes its Transformation to a Pure-Play CDMO with Agreement to Divest Capsules & Health Ingredients」(2026年3月6日)。CHIの売却先・企業価値23億CHF・前払17億CHF・40%の持分保持、Cocoon・MODA・Monteggio微粉化拠点の売却、完了の条件。 https://www.lonza.com/news/2026-03-06-18-05
- Lonza Group Ltd プレスリリース「Lonza Expands HPAPI Capacity in Visp, Further Supporting its Position in Payload-Linker Manufacturing」(2026年6月30日)。Vispのペイロードリンカー・高薬理活性原薬の商用製造能力の増強、2028年稼働予定。 https://www.lonza.com/news/2026-06-30-07-00
- Lonza Group Ltd プレスリリース「Lonza Further Strengthens US Manufacturing Presence with Addition of a Commercial Spray-Drying Facility in Bend, Oregon」(2026年9月10日)。PSD-4装置2基の噴霧乾燥工場、2029年完成予定、80人超の新規雇用、溶媒取り扱い設備、地域化されたサプライチェーン。 https://www.lonza.com/news/2026-09-10-07-00
- Lonza Group Ltd プレスリリース「Lonza Expands Strategic Collaboration with Leading US Biopharmaceutical Company」(2026年7月1日)。社名非公表の米国大手との提携拡大、生物製剤2品目の商用製造追加。 https://www.lonza.com/news/2026-07-01-07-00
- Lonza Group Ltd 公式サイト「ADC Technologies Platform」。GlycoConnect・HydraSpace・toxSYNの説明、薬物リンカーの品ぞろえ、ライセンスの考え方。 https://www.lonza.com/advanced-synthesis/adc-technologies-platform
- Lonza Group Ltd 公式サイト(ロゴ画像の取得元)。 https://www.lonza.com/
14. 主張と出典の対応表
| 本文の主張 | 区分 | 出典 |
|---|---|---|
| 正式名称、本社所在地、SIX上場とシンガポール取引所への副上場 | 事実 | 出典2 https://www.lonza.com/-/media/39523D97F3B24D6C9664FB75A9555D00 |
| 3つのビジネス・プラットフォームの構成と、Advanced Synthesis が低分子とバイオコンジュゲートから成ること | 事実 | 出典1 https://www.lonza.com/annualreport/2025/documents/LONZA_AR_2025_SCREEN_FULL.pdf |
| ADCの部品ごとの担当拠点(抗体・薬物リンカー・結合・製剤) | 事実 | 出典1 https://www.lonza.com/annualreport/2025/documents/LONZA_AR_2025_SCREEN_FULL.pdf |
| 2006年以降1,400超のcGMPバッチ・70超のプログラム、2025年に約400バッチ | 事実 | 出典1 https://www.lonza.com/annualreport/2025/documents/LONZA_AR_2025_SCREEN_FULL.pdf |
| 売上高・CORE EBITDA(2024〜2025年12月期)、プラットフォーム別売上、研究開発費169百万CHFとその注記 | 事実 | 出典1 https://www.lonza.com/annualreport/2025/documents/LONZA_AR_2025_SCREEN_FULL.pdf |
| 2026年上期の売上・CORE EBITDA・プラットフォーム別売上、Advanced Synthesis の設備投資153百万CHFとマージン48.1%、CHIのマージン26.8% | 事実 | 出典2 https://www.lonza.com/-/media/39523D97F3B24D6C9664FB75A9555D00 |
| 従業員約20,000人(CHI含む)と継続事業の年間平均16,866人、拠点30超、特許ファミリー420、設備投資13億CHF | 事実 | 出典1 https://www.lonza.com/annualreport/2025/documents/LONZA_AR_2025_SCREEN_FULL.pdf |
| Synaffixの2023年の買収と、最大6,000万ユーロの追加支払い(2025年に56百万CHFを支払済み) | 事実 | 出典1 https://www.lonza.com/annualreport/2025/documents/LONZA_AR_2025_SCREEN_FULL.pdf |
| Qurientとのデュアルペイロード提携(2025年9月)、Ethris・Iconovoとの協業、CMACへの加盟、Design2Optimize | 事実 | 出典1 https://www.lonza.com/annualreport/2025/documents/LONZA_AR_2025_SCREEN_FULL.pdf |
| Vispの顧客専用薬物リンカー工場の稼働(2025年第1四半期)、多目的結合スイート(2028年から)、Ibex Dedicateの結合設備(2026年に製造開始) | 事実 | 出典1 https://www.lonza.com/annualreport/2025/documents/LONZA_AR_2025_SCREEN_FULL.pdf |
| Steinの無菌充填ラインのSwissmedic承認(2025年10月)と封じ込め技術の説明 | 事実 | 出典1 https://www.lonza.com/annualreport/2025/documents/LONZA_AR_2025_SCREEN_FULL.pdf |
| mRNA・LNPの製造拠点(Geleen)と、GlycoConnectを使った標的化LNPの工程開発 | 事実 | 出典1 https://www.lonza.com/annualreport/2025/documents/LONZA_AR_2025_SCREEN_FULL.pdf |
| CHIが世界最大のカプセル製造能力を持ち、経口ペプチド・GLP-1向けの Enprotect カプセルを開発していたこと | 事実 | 出典1 https://www.lonza.com/annualreport/2025/documents/LONZA_AR_2025_SCREEN_FULL.pdf |
| CHIの売却合意(Lone Star Funds、企業価値23億CHF、40%保持)と、Cocoon・MODA・Monteggio微粉化拠点の売却合意 | 事実 | 出典4 https://www.lonza.com/news/2026-03-06-18-05 |
| Vispのペイロードリンカー・高薬理活性原薬の増強(2028年稼働予定) | 事実 | 出典5 https://www.lonza.com/news/2026-06-30-07-00 |
| SteinのADC用充填ライン(2030年稼働予定)、大型製剤工場の低分子対応(2028年)、2026年の見通し | 事実 | 出典3 https://www.lonza.com/news/2026-07-22-06-30 |
| Bendの噴霧乾燥工場(PSD-4装置2基、2029年完成、80人超の雇用、溶媒設備) | 事実 | 出典6 https://www.lonza.com/news/2026-09-10-07-00 |
| 社名非公表の米国大手との提携拡大 | 事実 | 出典7 https://www.lonza.com/news/2026-07-01-07-00 |
| GlycoConnect・HydraSpace・toxSYNの説明 | 事実 | 出典8 https://www.lonza.com/advanced-synthesis/adc-technologies-platform |
| 主要顧客の売上比率(11.7%・10.8%)、為替の逆風約2.5ポイント、政府補助金等16百万CHF | 事実 | 出典1 https://www.lonza.com/annualreport/2025/documents/LONZA_AR_2025_SCREEN_FULL.pdf |
| 創薬・DDSの3類型の区分(製薬/創薬バイオテック/受託開発製造) | 本稿の計算 | 本稿による整理。企業名は本シリーズで扱う企業から例示 |
| バイオコンジュゲート受託市場の規模と成長率 | 未確定/将来 | 出典1に記載はあるが出所が調査会社の推計のため、本稿では採用しない https://www.lonza.com/annualreport/2025/documents/LONZA_AR_2025_SCREEN_FULL.pdf |
| 個別の設備投資額・生産能力、充填ラインの顧客名、Qurientとの契約条件、ADC受託売上の割合 | 未確定/将来 | 出典1〜7に記載なし。本稿では推定しない https://www.lonza.com/news/2026-07-22-06-30 |
| ADC・低分子に関する大学との共同研究 | 未確定/将来 | 出典1・2に記載なし。本稿では存在しないとも断定しない https://www.lonza.com/annualreport/2025/documents/LONZA_AR_2025_SCREEN_FULL.pdf |
| ADCを1社で一貫して請け負う受託先として定着させたいという読み | 推測 | 拠点図と2026年の投資発表からの本稿の解釈 |
| 結合技術を持つ受託企業になろうとしているという読み | 推測 | Synaffix買収・技術ライセンス・Qurient提携からの本稿の解釈 |
| 低分子のDDSを溶解性・吸収改善に絞って伸ばすという読み、米国内の地域完結型供給への備えという読み | 推測 | Bendの発表内容からの本稿の解釈 |
| カプセル事業の売却を、利益率と成長の面から受託工程へ資源を移す判断と読むこと | 推測 | CHI売却と2026年上期のマージン差からの本稿の解釈。会社は理由を「専業化」とだけ説明 |
| ADC設備の稼働率リスク、結合技術のライセンスに伴う競合リスク | 推測 | 設備の立ち上げ時期と事業モデルからの本稿の解釈 |
| 噴霧乾燥でポリマー賦形剤と溶媒回収が中心になるという説明 | 推測 | 一般的な技術解説。使用する高分子・溶媒は出典に記載なし |
最終更新:2026年9月26日/Troy Technical
本稿の数値はすべてLonza Group Ltdが公表した年次報告書・半期報告書・公式リリース・公式サイトに基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。本稿は企業の事業内容を説明するもので、特定の医薬品の使用や効果を勧めるものではありません。