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ICH|創薬・DDS 機関解説

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INSTITUTION PROFILE / 創薬・DDS

ICH
― 新薬の「試験のやり方」と「申請書の形」を各国でそろえる会議体

ICH(医薬品規制調和国際会議)は、各国の医薬品規制当局と製薬業界の団体が集まり、 新薬の開発に必要な試験や申請資料の技術的な要求事項をそろえる国際組織です。 ICH自身は薬を承認しませんが、ここで合意されたガイドラインを米国・欧州・日本・中国などの当局が 自国の規則として取り入れるため、新薬の開発計画の「共通ルール」として働きます。 本稿では、ICHが創薬・DDSにどこまで影響を持つのかを、代表的なガイドラインの取り込まれ方から整理します。

構成:ICHの公式サイト(加盟者一覧、沿革、各ガイドラインの頁と実施状況、資金、2026年6月の総会の発表)と2026年度予算書を一次情報として使用/最終更新 2026年9月

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるICH
  2. どんな機関か ― 影響力の「型」
  3. 創薬・DDSで何をしているか
  4. 影響力の範囲(権限と地域)
  5. 関わっている企業・組織
  6. 今後の見通し
  7. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるICH

正式名称International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use日本語では医薬品規制調和国際会議
国・地域国際組織(スイス法の協会)事務局はスイス・ジュネーブ
機関の種類規制当局と業界団体の協会承認審査はしない
設立1990年4月に発足2015年10月23日に法人化
人数規模加盟25・オブザーバー432026年6月時点。加盟のうち規制当局は19
予算(2026年)1,850万スイスフランうち約1,380万は医学用語集MedDRAの関連費用
創薬・DDSへの関与技術ガイドラインの合意非臨床・臨床・品質・申請形式
影響が及ぶ範囲加盟当局の市場全体その市場で売りたい他国の企業にも及ぶ
まず押さえるべき1点

ICHのガイドラインは、それ自体に法的な強制力はなく、各当局が自国の規則として実施して初めて効力を持ちます。 ICHは「すべての規制当局メンバーがすべてのガイドラインを実施する」ことを目標に掲げていますが、 実施は各国・地域の規則に従って行われ、時期は当局ごとに異なります 事実。 それでも影響力が大きいのは、米国・欧州・日本・中国などの主要な当局がそろって加盟しており、 企業が同じ試験計画と共通形式の申請資料で複数の市場に申請できるようになるからです。

2. どんな機関か ― 影響力の「型」

創薬・DDSの記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では薬を売りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。

創薬・DDSを動かす「機関」の4つの型 機関は自分では薬を売らない。どの経路で業界に影響を与えるかで4つに分かれる 資金を出す 政策・規制を決める 標準を決める 場をつくる 研究開発に予算を配る 承認審査・ガイダンス 技術ガイドラインの調和 学会・臨床データ発表 NIH FDA/EMA/PMDA/NMPA ICH AACR/ASCO 何を研究させるか 何を売ってよいか どう試験し、どう申請するか どのデータを誰が見るか 届く範囲=自国の予算 届く範囲=自国の市場 届く範囲=加盟当局 届く範囲=参加者 ICHは「標準を決める」型が中心。当局と業界団体が同じ席で議論する「場」の役割も持つ ただし強制力は、加盟当局が自国の規則として取り入れたときに初めて生まれる
図1 創薬・DDSに関わる機関の4つの型と、ICHの位置。区分は本稿によるもので、機関名は本シリーズで扱う8機関から例示しています 本稿の計算。ICHはガイドラインを合意する「標準」の型と、規制当局と業界団体が議論する「場」の型の両方に入れています。

3. 創薬・DDSで何をしているか

ICHのガイドラインは、品質(Q)・安全性(S)・有効性(E)・複合領域(M)の4系統に分かれます。 創薬・DDSに特に関わる6本について、採択(Step 4)と、日米欧中の当局が自国の規則として実施した日を並べます 事実。

ガイドライン何をそろえるか採択(Step 4)欧州/米国/日本/中国の実施日実施済みの当局
M3(R2)臨床試験と承認申請を支えるために必要な非臨床安全性試験の種類・期間・時期2009年6月11日2009年12月/2010年1月/2010年2月/2021年11月19当局中15
S6(R1)バイオ医薬品(抗体など)の前臨床安全性評価。動物種の選び方、免疫原性、生殖発生毒性、がん原性の評価2011年6月12日2011年12月/2012年5月/2012年3月/2020年5月19当局中16
E9(R1)臨床試験で「何を推定するか」(推定対象=estimand)の枠組みと感度分析2019年11月20日2020年7月/2021年5月/2024年6月/2022年1月19当局中13
Q5Eバイオ医薬品の製法を変えた前後の同等性・同質性の評価2004年11月18日2005年6月/2005年6月/2005年4月/2020年7月19当局中15
Q6Bバイオ医薬品の規格と試験方法(受け入れ基準)1999年3月10日1999年9月/1999年8月/2001年5月/実施手続き中19当局中14
M4(CTD)承認申請資料の共通の形式。5つのモジュールのうち第1部だけが地域ごとに異なる2000年11月に合意
M4(R4)は2016年6月15日
必須化:欧州と日本 2003年、米国 2017年。中国は2018年2月に実施―

※実施日と当局数はICHの各ガイドラインの頁の実施状況(19の規制当局メンバー)によります。E9(R1)の欧州での実施から日本での実施まで約4年の差があるように、採択から実施までの時期は当局ごとに大きく違います。

新しいモダリティに向けて進行中の議題

議題中身状況
S13核酸医薬(オリゴヌクレオチド)の非臨床安全性試験2023年6月に総会が承認し作業部会を設置。2026年6月の総会で進捗を報告
Q6(R1)Q6A(化学合成品)とQ6B(バイオ医薬品)を同時に改訂し、すべてのモダリティに共通の規格設定の原則をつくる2021年6月に総会が承認、2024年7月に構想文書を承認
Q5E付属書細胞・遺伝子治療などの先端医療製品(ATMP)の製法変更時の同等性2025年4月に総会が承認
M18バイオシミラーの開発で比較有効性試験がどこまで必要かを判断する枠組み2025年5月に総会が承認
E23リアルワールドエビデンスを有効性の規制判断に使うときの考え方2025年5月に総会が承認
創薬の視点:ガイドラインは「開発計画の設計図」になる

M3(R2)は、臨床試験のどの段階までにどの非臨床試験を終えておくべきかを決めるので、 前臨床の予算と日程を左右します。抗体などのバイオ医薬品ではS6(R1)が動物種の選び方を、 Q5EとQ6Bが製造と品質管理の組み立てを決めます。 核酸医薬や細胞・遺伝子治療のように比較的新しいモダリティでは、専用の合意(S13、Q5E付属書)がまだ作業中で、 当局ごとの個別の相談に頼る部分が残っていることになります 未確定/将来。

4. 影響力の範囲(権限と地域)

観点ICHが持っているもの持っていないもの
権限当局と業界団体の合意として技術ガイドラインを採択する権限。規制当局メンバーはすべてのガイドラインの実施をめざす薬を承認・却下する権限。ガイドラインを企業に直接強制する権限(強制力は各当局の規則から生まれる)
地域19の規制当局メンバー(欧州、米国、日本、中国、カナダ、スイス、英国、韓国、ブラジルなど)の市場。オブザーバーにはWHO、インド、オーストラリアなどの当局も含まれる加盟していない国の規制。実施の時期と方法を当局に指示する権限
対象その市場で売りたい企業すべて。本社の国にかかわらず、申請先の当局が実施したガイドラインに従う個々の企業の加盟(加盟するのは業界団体)
規模2026年の予算1,850万スイスフラン。年会費は創設メンバーが23万3,000スイスフラン大きな常設の研究・審査組織(作業は各当局と業界の専門家が担う)
数字の読み方の注意

2026年の予算1,850万スイスフランのうち、約1,380万は規制のための医学用語集MedDRAの維持・運営費で、 MedDRAの利用料でまかなわれます。ICHの会費収入は約236万スイスフランです 事実。 ICHの影響力は予算の大きさではなく、主要な当局がそろって同じ合意に参加していることから生まれます。 また、「加盟25」は組織の数で、ICHの活動に関わる専門家の人数は公表資料では確認できませんでした 未確定/将来。

5. 関わっている企業・組織

ICHのガイドラインはどう企業に届くか 当局と業界団体が合意し(Step 4)、各当局が自国の規則として実施する(Step 5) 規制当局メンバー(19) EC/FDA/MHLW・PMDA/NMPAなど 業界団体メンバー(6) EFPIA/JPMA/PhRMA/BIOなど オブザーバー(43) WHO/IFPMA/各国当局など ICH(総会・専門家作業部会) ガイドラインを合意・採択(Step 4) 例:S6(R1)(バイオ医薬品の前臨床安全性)を各当局が実施した時期 欧州(EC) 2011年12月 日本(MHLW・PMDA) 2012年3月 米国(FDA) 2012年5月 中国(NMPA) 2020年5月 製薬企業:共通の形式(CTD)で各地域に申請できる ただし実施の時期は当局ごとに違い、地域ごとの書類(CTDの第1部)も残る
図2 ICHのガイドラインが合意され、各当局の規則として企業に届くまでの流れ。出典:ICHの加盟者一覧、2026年6月の総会の発表、安全性ガイドラインの頁(S6(R1)の実施状況)、CTDの頁。業界団体メンバーは6団体のうち4団体を、オブザーバーは43のうち3種類を抜粋しました 本稿の計算。

加盟者の内訳

区分加盟者(ICHの表記に基づく)本シリーズとの関係
創設メンバー(規制当局)EC(欧州)、FDA(米国)、MHLW/PMDA(日本)FDA・EMA・PMDAの機関解説。欧州は「EC, Europe」として加盟
創設メンバー(業界団体)EFPIA、JPMA、PhRMA個々の製薬企業は加盟者ではなく、業界団体を通じて参加する
常任・一般の規制当局メンバーHealth Canada、Swissmedic、NMPA(中国)、MHRA(英国)、MFDS(韓国)、ANVISA(ブラジル)など16当局NMPAの機関解説
一般の業界団体メンバーBIO、Global Self-Care Federation、IGBA個々の企業ではなく団体として参加
常任オブザーバーIFPMA、WHO加盟国以外への波及の経路

6. 今後の見通し

読み取れること根拠となる一次情報区分
核酸医薬の非臨床安全性試験の組み方が、日米欧中で一つの合意にそろう方向に進むS13は2023年6月に総会が承認し、2026年6月の総会で進捗が報告された。採択と各当局の実施の時期は未定推測
規格設定の考え方が、化学合成品・バイオ医薬品の区別を越えて新しいモダリティ全体に広がるQ6(R1)はQ6AとQ6Bを同時に改訂し、すべてのモダリティに共通の原則をつくることを目的に掲げる推測
ICHの合意が届く市場は、今後もオブザーバーの加盟によって広がるオブザーバーが規制当局メンバーになるには一部のガイドラインの実施が前提。2026年6月にも2当局がオブザーバーに加わった推測

7. 用語集

Step 4/Step 5
ICHの手続きの段階。Step 4でガイドラインが最終的に採択され、Step 5で各当局が自国の規則として実施する。
CTD(コモン・テクニカル・ドキュメント)
承認申請資料の共通形式。第1部は地域ごとの書類、第2〜5部は概要・品質・非臨床・臨床で各地域共通。
推定対象(estimand)
臨床試験で「どの患者集団で、どんな条件のもとで、何の効果を推定するか」を事前に定義する考え方。E9(R1)で導入。
同等性・同質性(comparability)
製法を変えても品質・安全性・有効性に悪影響がないことを示すための評価。Q5Eが原則を定める。
オブザーバー
ICHの議論に参加できるが加盟者ではない当局や組織。規制当局メンバーへの移行には一部のガイドラインの実施が前提になる。

8. 出典

  1. ICH Members & Observers(創設時の規制当局・業界団体、常任の規制当局メンバー、規制当局メンバー、業界団体メンバー、オブザーバーの一覧)。 https://www.ich.org/page/members-observers
  2. ICH History(1990年4月のブリュッセルでの発足、2015年10月23日のスイス法の協会としての法人化、品質・安全性・有効性の3区分)。 https://www.ich.org/page/history
  3. ICH Press Release: ICH Assembly Meeting, Rio de Janeiro, June 2026(加盟25・オブザーバー43、新オブザーバー2当局、S13・Q6(R1)・Q5E付属書・M18・E23などの進捗)。 https://www.ich.org/pressrelease/press-release-ich-assembly-meeting-rio-de-janeiro-june-2026
  4. ICH Guideline Implementation(Step 5での実施、全規制当局メンバーが全ガイドラインを実施する目標、各国の規則に従った実施、オブザーバーから規制当局メンバーへの条件)。 https://www.ich.org/page/ich-guideline-implementation
  5. ICH Multidisciplinary Guidelines(M3(R2)の内容・Step 4の日付・実施状況、M18)。 https://www.ich.org/page/multidisciplinary-guidelines
  6. ICH Safety Guidelines(S6(R1)の内容・Step 4の日付・実施状況、S13)。 https://www.ich.org/page/safety-guidelines
  7. ICH Efficacy Guidelines(E9(R1)の内容・Step 4の日付・実施状況、E23)。 https://www.ich.org/page/efficacy-guidelines
  8. ICH Quality Guidelines(Q5E・Q6Bの内容・Step 4の日付・実施状況、Q5E付属書、Q6(R1))。 https://www.ich.org/page/quality-guidelines
  9. ICH CTD(5つのモジュール、欧州・日本で2003年、米国で2017年に必須化、M4(R4)のStep 4と実施状況)。 https://www.ich.org/page/ctd
  10. ICH 2026 ICH & MedDRA Combined Budget(2025年11月に総会が承認。単位:千スイスフラン)。 https://admin.ich.org/sites/default/files/inline-files/2026%20ICH%20%26%20MedDRA%20Combined%20Budget.pdf
  11. ICH 2026 ICH Annual Membership Fees(区分ごとの年会費、事務局所在地ジュネーブ)。 https://admin.ich.org/sites/default/files/inline-files/2026_ICH%20Membership%20Fee.pdf

9. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
加盟者とオブザーバーの一覧、規制当局メンバー19・業界団体メンバー6の内訳事実出典1 https://www.ich.org/page/members-observers
1990年4月の発足、2015年10月23日のスイス法の協会としての法人化事実出典2 https://www.ich.org/page/history
加盟25・オブザーバー43(2026年6月)、2当局の新規オブザーバー、進行中の議題の進捗事実出典3 https://www.ich.org/pressrelease/press-release-ich-assembly-meeting-rio-de-janeiro-june-2026
全規制当局メンバーが全ガイドラインを実施する目標、各国の規則に従った実施、オブザーバーの加盟条件事実出典4 https://www.ich.org/page/ich-guideline-implementation
M3(R2)のStep 4(2009年6月11日)と日米欧中の実施日、19当局中15が実施、M18の承認時期事実出典5 https://www.ich.org/page/multidisciplinary-guidelines
S6(R1)のStep 4(2011年6月12日)と日米欧中の実施日、19当局中16が実施、S13の承認時期事実出典6 https://www.ich.org/page/safety-guidelines
E9(R1)のStep 4(2019年11月20日)と日米欧中の実施日、19当局中13が実施、E23の承認時期事実出典7 https://www.ich.org/page/efficacy-guidelines
Q5E・Q6BのStep 4と実施状況、Q5E付属書とQ6(R1)の内容と承認時期事実出典8 https://www.ich.org/page/quality-guidelines
CTDの5モジュール、欧州・日本で2003年・米国で2017年の必須化、M4(R4)のStep 4、中国の実施事実出典9 https://www.ich.org/page/ctd
2026年予算1,849.7万スイスフラン、MedDRA関連1,376.5万、会費収入235.5万事実出典10 https://admin.ich.org/sites/default/files/inline-files/2026%20ICH%20%26%20MedDRA%20Combined%20Budget.pdf
創設メンバーの年会費23万3,000スイスフラン、事務局のジュネーブ所在事実出典11 https://admin.ich.org/sites/default/files/inline-files/2026_ICH%20Membership%20Fee.pdf
機関の4つの型の区分、創薬・DDSに関わる6本の選定、図2の抜粋本稿の計算本稿による整理
核酸医薬・ATMP向けの合意の採択時期と各当局の実施時期、ICHに関わる専門家の人数未確定/将来出典3・6・8に記載なし。本稿では推計しない
第6章の見通し3項目推測出典3・4・6・8からの本稿の解釈

最終更新:2026年9月26日/Troy Technical
本稿の数値と日付はICHの公式サイトと予算書に基づきます。ガイドラインの実施状況はICHの各頁の表示(2026年9月時点)によるもので、各当局の最新の通知と異なる場合があります。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。本稿は医療上の助言ではありません。