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EMA|創薬・DDS 機関解説

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INSTITUTION PROFILE / 創薬・DDS

EMA
― 1回の審査でEU全域の新薬を決める「科学の審査役」

EMA(欧州医薬品庁)はEUの専門機関で、自分では薬を作りません。 役割は新薬の申請を科学的に評価し、承認してよいかの意見をまとめることです。 その評価を担う中心が、EMAの中に置かれた委員会CHMP(医薬品委員会)です。 ただし販売許可の最終決定を出すのはEMAではなく欧州委員会です。 本稿では、EMAが創薬・DDSにどこまで影響を持つのかに絞って整理します。

構成:EMAの年次活動報告(2025年)、中央審査・迅速審査・PRIME・CHMPの公式ページ、科学ガイドライン、EPAR(欧州公開評価報告書)を一次情報として使用/最終更新 2026年9月

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるEMA
  2. どんな機関か ― 影響力の「型」
  3. 創薬・DDSで何をしているか
  4. 影響力の範囲(権限と地域)
  5. 関わっている企業・組織
  6. 今後の見通し
  7. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるEMA

正式名称European Medicines Agency
(欧州医薬品庁)
EUの機関(an agency of the European Union)
地域EU(欧州連合)本部はオランダ・アムステルダム。1995〜2019年はロンドン
機関の種類EUの専門機関(科学的評価)販売を認める法的な決定は欧州委員会が出す
設立1995年2025年に30周年
人数規模983人2025年の一時職員・契約職員・派遣専門家などの合計。加盟国の専門家数千人が委員会や作業部会に協力
予算約6億ユーロ2025年の最終予算6億23万ユーロ。収入の91.4%は審査などの業務から
創薬・DDSへの関与CHMPによる審査意見と指針新規有効成分のがん・糖尿病薬やバイオ医薬品などは中央審査が義務
影響が及ぶ範囲EU27か国+EEA3か国アイスランド・リヒテンシュタイン・ノルウェー。1回の承認で全域に有効
まず押さえるべき1点

EMAの強みは「1回の審査でEU全域」という仕組みです。 中央審査で承認された薬は、EUの全加盟国とEEAの3か国で有効になります 事実。 一方でEU法のもとではEMA自身には販売を許可する権限がなく、 CHMPの意見を受けて欧州委員会が法的拘束力のある決定を出します(意見の受領から67日以内) 事実。 つまりEMAは「決める機関」ではなく、EU全体の判断の中身をつくる機関です。

2. どんな機関か ― 影響力の「型」

創薬・DDSの記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では薬を作りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。

創薬・DDSを動かす「機関」の4つの型 機関は自分では薬を作らない。どの経路で業界に影響を与えるかで4つに分かれる 資金を出す 政策・規制を決める 標準を決める 場をつくる 研究に予算を配る 承認・ガイドライン・査察 指針の国際調和 学会・臨床データ発表 NIH FDA/EMA/PMDA/NMPA ICH AACR/ASCO 何を研究させるか 何を市場に出してよいか どう試験し、どう申請するか 誰が誰に会うか 届く範囲=自国の予算 届く範囲=自地域の市場 届く範囲=加盟当局 届く範囲=参加者 EMAは「政策・規制を決める」型。ただし判断の中身をつくり、法的な決定は欧州委員会が出す EU27か国とEEA3か国に1回の審査で届くため、欧州で売りたい世界中の企業が対象になる
図1 創薬・DDSに関わる機関の4つの型と、EMAの位置。区分は本稿によるもので、機関名は本シリーズで扱う8機関から例示しています 本稿の計算。EMAは規制の型ですが、許可の決定権は欧州委員会にあるという点でFDAやPMDAと異なります。

3. 創薬・DDSで何をしているか

審査の中心はCHMP(Committee for Medicinal Products for Human Use、医薬品委員会)です。 CHMPはEMAの中に置かれた委員会で、EU加盟国が任命した科学の専門家で構成されます。 中央審査ではEU全域の販売申請の初回評価、承認後の変更の評価などを担当します 事実。

活動中身数字・例(EMAの公表値)
中央審査(CHMP)新薬の申請を評価し、承認してよいかの意見を出す。評価期間は最大210日(企業の回答待ちの時間を除く)2025年に104品目の承認を勧告(うち新規有効成分38)。既承認薬の適応拡大は89品目
早く届けるための手続き迅速審査(評価期間を150日に短縮)、条件付き承認、例外的状況下の承認2025年は迅速審査3、条件付き承認8、例外的状況下2
PRIME2016年3月に始めた制度。未充足の医療ニーズに向けた薬の開発者に、早い段階から助言し、迅速審査につなげる2026年7月までの累計で認定174件、却下445件(EMAの申請者別集計を本稿が合計 本稿の計算)。2025年はPRIME品目6つが承認勧告
科学的助言開発中の試験計画について、承認申請の前に助言する2025年の科学的助言・プロトコル支援の依頼は780件。うち他国の規制当局との並行助言が5件
モダリティ別のガイドライン新しい種類の薬の製造と品質管理について、申請に必要な中身を示す合成ペプチドの開発・製造ガイドライン(2025年12月公表、2026年6月1日から適用)/オリゴヌクレオチド(核酸医薬)の開発・製造ガイドライン(案。意見募集は2025年1月31日に終了)
DDSの視点:ペプチドと核酸は「製造の指針」から整備

EMAの2つのガイドラインは、どちらも品質・製造を扱うものです。 合成ペプチドのガイドラインのキーワードには固相合成・液相合成・コンジュゲーション(結合)が、 オリゴヌクレオチドのガイドラインには固相合成・ホスホロアミダイト・リンカー・コンジュゲーションが並んでいます 事実。 GLP-1などのペプチド医薬や、リガンドを結合させた核酸医薬では、 どう作り、不純物をどう管理するかが承認の条件になります。

4. 影響力の範囲(権限と地域)

観点EMAが持っているもの持っていないもの
権限CHMPによる承認してよいかの科学的な意見、迅速審査の可否の判断、PRIMEの認定、科学的助言販売を許可する法的な決定(欧州委員会が出す)
地域EU27か国+EEA3か国。新規有効成分のがん・糖尿病・神経変性疾患などの薬、バイオ医薬品、先端医療、希少疾病用医薬品は中央審査が義務多くの後発品や一般用医薬品の承認(各加盟国の当局が審査する)
加盟国との関係CHMPの委員は加盟国が任命し、加盟国の専門家数千人の協力で評価する中央審査の対象外の薬について、加盟国の審査を置き換える権限
国際的な位置FDAとPRIME・ブレークスルーセラピーの品質面の共同指針を出している。ICHではEUは創設時メンバー「EC, Europe」として参加EU域外での販売の可否を決める権限
数字の読み方の注意

983人と約6億ユーロは、動物用医薬品や安全性監視などを含むEMA全体の数字です 事実。 評価の実務の多くは加盟国の当局の専門家が担うため、EMAの職員数だけでは審査体制の規模を表せません。 創薬・DDSの審査だけに使われる人員と金額は公表されていません 未確定/将来。

5. 関わっている企業・組織

中央審査の流れ(EU) EMAのCHMPが意見をまとめ、欧州委員会が決定を出す。決定はEU全域とEEA3か国で有効 申請企業 Daiichi Sankyo Europe Alnylam Netherlands EPARに記載の承認取得者 EMA CHMP(医薬品委員会) 評価は最大210日 迅速審査なら150日 欧州委員会 法的拘束力のある決定 意見の受領から67日以内 EU加盟国の当局 CHMPの委員を任命し、評価に専門家を出す EU27か国+EEA3か国で有効 例:Datroway(ADC) CHMP意見 2025年1月30日 → 承認 2025年4月4日
図2 EMAの中央審査の流れ。出典:EMA「Authorisation of medicines」「Accelerated assessment」、CHMPの紹介ページ、DatrowayとAmvuttraのEPAR。企業は本シリーズの企業解説の候補のうち、EPARで承認取得者と確認できたものだけを載せています。
品目(モダリティ)承認取得者(EPARの記載)CHMP意見 → 承認
Datroway(datopotamab deruxtecan、ADC)Daiichi Sankyo Europe GmbH(第一三共の企業解説)2025年1月30日 → 2025年4月4日
Amvuttra(vutrisiran、siRNA)Alnylam Netherlands B.V.(Alnylamの企業解説)2022年7月21日 → 2022年9月15日

6. 今後の見通し

読み取れること根拠となる一次情報区分
EUの薬事法改正で、中央審査やCHMPなど委員会の構成を含む枠組みが2028年ごろまでに切り替わる2025年12月11日に政治合意。2026年に発効し、2028年までが移行期間。改正の対象に「科学委員会の構成」「医薬品の評価」が含まれる推測
改正後の具体的な審査期間やデータ保護期間EMAは改正の本文と変更点を2026年中に詳しく示すとしている未確定/将来
オリゴヌクレオチドのガイドラインの最終版の内容と適用日意見募集は2025年1月31日に終了。最終版はEMAのページにまだ載っていない未確定/将来

7. 用語集

CHMP
医薬品委員会。EMAの中の委員会で、加盟国が任命した専門家が新薬の申請を評価し、承認してよいかの意見を出す。
中央審査
EMAが評価し欧州委員会が決定する手続き。1回の承認でEU全域とEEA3か国に有効。
PRIME
未充足の医療ニーズに向けた薬の開発を、早期の助言で後押しするEMAの制度。迅速審査につながる。
条件付き承認
通常より少ない臨床データで早く承認し、承認後に完全なデータの提出を義務づける仕組み。
EPAR
欧州公開評価報告書。中央審査で承認された薬ごとに、評価の内容と承認取得者を公開する。

8. 出典

  1. EMA Authorisation of medicines(EMAに販売許可の権限がないこと、欧州委員会の決定は67日以内、EU全加盟国とEEA3か国で有効、中央審査が義務の範囲、後発品などの各国審査)。 https://www.ema.europa.eu/en/about-us/what-we-do/authorisation-medicines
  2. EMA Annual activity report 2025。104品目・新規有効成分38・適応拡大89、迅速審査3・条件付き承認8・例外的状況下2・PRIME品目6、科学的助言780件と並行助言5件、2025年の最終予算6億23万ユーロと収入の内訳、職員数(TA・CA・END)983人。 https://www.ema.europa.eu/en/documents/annual-report/annual-activity-report-2025_en.pdf
  3. EMA History of EMA(1995年の設立、ロンドン時代1995〜2019年、30周年、加盟国などの専門家数千人)。 https://www.ema.europa.eu/en/about-us/history-ema
  4. EMA Committee for Medicinal Products for Human Use (CHMP)(中央審査での役割、加盟国が任命した専門家による構成)。 https://www.ema.europa.eu/en/committees/committee-medicinal-products-human-use-chmp
  5. EMA Accelerated assessment(中央審査は最大210日、迅速審査で150日、PRIMEの開始は2016年3月)。 https://www.ema.europa.eu/en/human-regulatory-overview/marketing-authorisation/accelerated-assessment
  6. EMA PRIME: priority medicines(制度の目的、2026年7月までの申請者別の認定・却下数、FDAとの共同指針)。 https://www.ema.europa.eu/en/human-regulatory-overview/research-development/prime-priority-medicines
  7. EMA Development and manufacture of synthetic peptides - Scientific guideline(2025年12月9日公表、2026年6月1日から適用、キーワード)。 https://www.ema.europa.eu/en/development-manufacture-synthetic-peptides-scientific-guideline
  8. EMA Development and manufacture of oligonucleotides - Scientific guideline(案、意見募集2024年7月22日〜2025年1月31日、キーワード)。 https://www.ema.europa.eu/en/development-manufacture-oligonucleotides-scientific-guideline
  9. EMA Reform of the EU pharmaceutical legislation(2025年12月11日の政治合意、2026年の発効、2028年までの移行期間、改正の主な分野)。 https://www.ema.europa.eu/en/about-us/what-we-do/reform-eu-pharmaceutical-legislation
  10. EMA Datroway EPAR(承認取得者Daiichi Sankyo Europe GmbH、CHMP意見2025年1月30日、承認2025年4月4日、抗体と薬物を結合した構造)。 https://www.ema.europa.eu/en/medicines/human/EPAR/datroway
  11. EMA Amvuttra EPAR(承認取得者Alnylam Netherlands B.V.、CHMP意見2022年7月21日、承認2022年9月15日、siRNA)。 https://www.ema.europa.eu/en/medicines/human/EPAR/amvuttra
  12. ICH Members & Observers(創設時の規制当局メンバー:EC, Europe/FDA, United States/MHLW/PMDA, Japan)。 https://www.ich.org/page/members-observers

9. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
EMAに販売許可の権限はなく欧州委員会が67日以内に決定、EU全加盟国とEEA3か国で有効、中央審査が義務の範囲、後発品などは各国審査事実出典1 https://www.ema.europa.eu/en/about-us/what-we-do/authorisation-medicines
2025年の承認勧告104品目(新規有効成分38)、適応拡大89、迅速審査・条件付き承認・例外的状況下・PRIMEの件数、科学的助言780件・並行助言5件、予算6億23万ユーロと収入91.4%、職員983人事実出典2 https://www.ema.europa.eu/en/documents/annual-report/annual-activity-report-2025_en.pdf
1995年の設立、ロンドン時代、本部アムステルダム、専門家数千人の協力事実出典3 https://www.ema.europa.eu/en/about-us/history-ema
CHMPの役割と、加盟国が任命した専門家による構成事実出典4 https://www.ema.europa.eu/en/committees/committee-medicinal-products-human-use-chmp
評価は最大210日、迅速審査で150日、PRIMEは2016年3月開始事実出典5 https://www.ema.europa.eu/en/human-regulatory-overview/marketing-authorisation/accelerated-assessment
PRIMEの目的、申請者別の認定・却下数、FDAとの共同指針事実出典6 https://www.ema.europa.eu/en/human-regulatory-overview/research-development/prime-priority-medicines
合成ペプチドのガイドラインの公表と適用日、キーワード事実出典7 https://www.ema.europa.eu/en/development-manufacture-synthetic-peptides-scientific-guideline
オリゴヌクレオチドのガイドライン案と意見募集期間、キーワード事実出典8 https://www.ema.europa.eu/en/development-manufacture-oligonucleotides-scientific-guideline
薬事法改正の政治合意・発効・移行期間と改正の分野事実出典9 https://www.ema.europa.eu/en/about-us/what-we-do/reform-eu-pharmaceutical-legislation
Datrowayの承認取得者とCHMP意見・承認の日付事実出典10 https://www.ema.europa.eu/en/medicines/human/EPAR/datroway
Amvuttraの承認取得者とCHMP意見・承認の日付、siRNA事実出典11 https://www.ema.europa.eu/en/medicines/human/EPAR/amvuttra
ICHでEUは創設時メンバー「EC, Europe」事実出典12 https://www.ich.org/page/members-observers
PRIMEの累計認定174件・却下445件(申請者別の数の合計)本稿の計算出典6の数値を本稿が合計
機関の4つの型の区分本稿の計算本稿による整理
創薬・DDSの審査だけに使われる人員と金額未確定/将来出典2に記載なし。本稿では推計しない
第6章の見通し(推測1項目・未確定2項目)推測出典8・9の記載からの本稿の解釈

最終更新:2026年9月26日/Troy Technical
本稿の数値はEMAの公式サイト・年次活動報告・科学ガイドライン・EPAR、およびICHの公式サイトに基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。本稿は特定の薬を勧めるものではありません。