INSTITUTION PROFILE / 創薬・DDS
EMA
― 1回の審査でEU全域の新薬を決める「科学の審査役」
EMA(欧州医薬品庁)はEUの専門機関で、自分では薬を作りません。 役割は新薬の申請を科学的に評価し、承認してよいかの意見をまとめることです。 その評価を担う中心が、EMAの中に置かれた委員会CHMP(医薬品委員会)です。 ただし販売許可の最終決定を出すのはEMAではなく欧州委員会です。 本稿では、EMAが創薬・DDSにどこまで影響を持つのかに絞って整理します。
- 30秒でわかるEMA
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- 創薬・DDSで何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 関わっている企業・組織
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるEMA
(欧州医薬品庁)EUの機関(an agency of the European Union)
EMAの強みは「1回の審査でEU全域」という仕組みです。 中央審査で承認された薬は、EUの全加盟国とEEAの3か国で有効になります 事実。 一方でEU法のもとではEMA自身には販売を許可する権限がなく、 CHMPの意見を受けて欧州委員会が法的拘束力のある決定を出します(意見の受領から67日以内) 事実。 つまりEMAは「決める機関」ではなく、EU全体の判断の中身をつくる機関です。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
創薬・DDSの記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では薬を作りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。
3. 創薬・DDSで何をしているか
審査の中心はCHMP(Committee for Medicinal Products for Human Use、医薬品委員会)です。 CHMPはEMAの中に置かれた委員会で、EU加盟国が任命した科学の専門家で構成されます。 中央審査ではEU全域の販売申請の初回評価、承認後の変更の評価などを担当します 事実。
| 活動 | 中身 | 数字・例(EMAの公表値) |
|---|---|---|
| 中央審査(CHMP) | 新薬の申請を評価し、承認してよいかの意見を出す。評価期間は最大210日(企業の回答待ちの時間を除く) | 2025年に104品目の承認を勧告(うち新規有効成分38)。既承認薬の適応拡大は89品目 |
| 早く届けるための手続き | 迅速審査(評価期間を150日に短縮)、条件付き承認、例外的状況下の承認 | 2025年は迅速審査3、条件付き承認8、例外的状況下2 |
| PRIME | 2016年3月に始めた制度。未充足の医療ニーズに向けた薬の開発者に、早い段階から助言し、迅速審査につなげる | 2026年7月までの累計で認定174件、却下445件(EMAの申請者別集計を本稿が合計 本稿の計算)。2025年はPRIME品目6つが承認勧告 |
| 科学的助言 | 開発中の試験計画について、承認申請の前に助言する | 2025年の科学的助言・プロトコル支援の依頼は780件。うち他国の規制当局との並行助言が5件 |
| モダリティ別のガイドライン | 新しい種類の薬の製造と品質管理について、申請に必要な中身を示す | 合成ペプチドの開発・製造ガイドライン(2025年12月公表、2026年6月1日から適用)/オリゴヌクレオチド(核酸医薬)の開発・製造ガイドライン(案。意見募集は2025年1月31日に終了) |
EMAの2つのガイドラインは、どちらも品質・製造を扱うものです。 合成ペプチドのガイドラインのキーワードには固相合成・液相合成・コンジュゲーション(結合)が、 オリゴヌクレオチドのガイドラインには固相合成・ホスホロアミダイト・リンカー・コンジュゲーションが並んでいます 事実。 GLP-1などのペプチド医薬や、リガンドを結合させた核酸医薬では、 どう作り、不純物をどう管理するかが承認の条件になります。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | EMAが持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | CHMPによる承認してよいかの科学的な意見、迅速審査の可否の判断、PRIMEの認定、科学的助言 | 販売を許可する法的な決定(欧州委員会が出す) |
| 地域 | EU27か国+EEA3か国。新規有効成分のがん・糖尿病・神経変性疾患などの薬、バイオ医薬品、先端医療、希少疾病用医薬品は中央審査が義務 | 多くの後発品や一般用医薬品の承認(各加盟国の当局が審査する) |
| 加盟国との関係 | CHMPの委員は加盟国が任命し、加盟国の専門家数千人の協力で評価する | 中央審査の対象外の薬について、加盟国の審査を置き換える権限 |
| 国際的な位置 | FDAとPRIME・ブレークスルーセラピーの品質面の共同指針を出している。ICHではEUは創設時メンバー「EC, Europe」として参加 | EU域外での販売の可否を決める権限 |
983人と約6億ユーロは、動物用医薬品や安全性監視などを含むEMA全体の数字です 事実。 評価の実務の多くは加盟国の当局の専門家が担うため、EMAの職員数だけでは審査体制の規模を表せません。 創薬・DDSの審査だけに使われる人員と金額は公表されていません 未確定/将来。
5. 関わっている企業・組織
| 品目(モダリティ) | 承認取得者(EPARの記載) | CHMP意見 → 承認 |
|---|---|---|
| Datroway(datopotamab deruxtecan、ADC) | Daiichi Sankyo Europe GmbH(第一三共の企業解説) | 2025年1月30日 → 2025年4月4日 |
| Amvuttra(vutrisiran、siRNA) | Alnylam Netherlands B.V.(Alnylamの企業解説) | 2022年7月21日 → 2022年9月15日 |
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| EUの薬事法改正で、中央審査やCHMPなど委員会の構成を含む枠組みが2028年ごろまでに切り替わる | 2025年12月11日に政治合意。2026年に発効し、2028年までが移行期間。改正の対象に「科学委員会の構成」「医薬品の評価」が含まれる | 推測 |
| 改正後の具体的な審査期間やデータ保護期間 | EMAは改正の本文と変更点を2026年中に詳しく示すとしている | 未確定/将来 |
| オリゴヌクレオチドのガイドラインの最終版の内容と適用日 | 意見募集は2025年1月31日に終了。最終版はEMAのページにまだ載っていない | 未確定/将来 |
7. 用語集
- CHMP
- 医薬品委員会。EMAの中の委員会で、加盟国が任命した専門家が新薬の申請を評価し、承認してよいかの意見を出す。
- 中央審査
- EMAが評価し欧州委員会が決定する手続き。1回の承認でEU全域とEEA3か国に有効。
- PRIME
- 未充足の医療ニーズに向けた薬の開発を、早期の助言で後押しするEMAの制度。迅速審査につながる。
- 条件付き承認
- 通常より少ない臨床データで早く承認し、承認後に完全なデータの提出を義務づける仕組み。
- EPAR
- 欧州公開評価報告書。中央審査で承認された薬ごとに、評価の内容と承認取得者を公開する。
8. 出典
- EMA Authorisation of medicines(EMAに販売許可の権限がないこと、欧州委員会の決定は67日以内、EU全加盟国とEEA3か国で有効、中央審査が義務の範囲、後発品などの各国審査)。 https://www.ema.europa.eu/en/about-us/what-we-do/authorisation-medicines
- EMA Annual activity report 2025。104品目・新規有効成分38・適応拡大89、迅速審査3・条件付き承認8・例外的状況下2・PRIME品目6、科学的助言780件と並行助言5件、2025年の最終予算6億23万ユーロと収入の内訳、職員数(TA・CA・END)983人。 https://www.ema.europa.eu/en/documents/annual-report/annual-activity-report-2025_en.pdf
- EMA History of EMA(1995年の設立、ロンドン時代1995〜2019年、30周年、加盟国などの専門家数千人)。 https://www.ema.europa.eu/en/about-us/history-ema
- EMA Committee for Medicinal Products for Human Use (CHMP)(中央審査での役割、加盟国が任命した専門家による構成)。 https://www.ema.europa.eu/en/committees/committee-medicinal-products-human-use-chmp
- EMA Accelerated assessment(中央審査は最大210日、迅速審査で150日、PRIMEの開始は2016年3月)。 https://www.ema.europa.eu/en/human-regulatory-overview/marketing-authorisation/accelerated-assessment
- EMA PRIME: priority medicines(制度の目的、2026年7月までの申請者別の認定・却下数、FDAとの共同指針)。 https://www.ema.europa.eu/en/human-regulatory-overview/research-development/prime-priority-medicines
- EMA Development and manufacture of synthetic peptides - Scientific guideline(2025年12月9日公表、2026年6月1日から適用、キーワード)。 https://www.ema.europa.eu/en/development-manufacture-synthetic-peptides-scientific-guideline
- EMA Development and manufacture of oligonucleotides - Scientific guideline(案、意見募集2024年7月22日〜2025年1月31日、キーワード)。 https://www.ema.europa.eu/en/development-manufacture-oligonucleotides-scientific-guideline
- EMA Reform of the EU pharmaceutical legislation(2025年12月11日の政治合意、2026年の発効、2028年までの移行期間、改正の主な分野)。 https://www.ema.europa.eu/en/about-us/what-we-do/reform-eu-pharmaceutical-legislation
- EMA Datroway EPAR(承認取得者Daiichi Sankyo Europe GmbH、CHMP意見2025年1月30日、承認2025年4月4日、抗体と薬物を結合した構造)。 https://www.ema.europa.eu/en/medicines/human/EPAR/datroway
- EMA Amvuttra EPAR(承認取得者Alnylam Netherlands B.V.、CHMP意見2022年7月21日、承認2022年9月15日、siRNA)。 https://www.ema.europa.eu/en/medicines/human/EPAR/amvuttra
- ICH Members & Observers(創設時の規制当局メンバー:EC, Europe/FDA, United States/MHLW/PMDA, Japan)。 https://www.ich.org/page/members-observers
9. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年9月26日/Troy Technical
本稿の数値はEMAの公式サイト・年次活動報告・科学ガイドライン・EPAR、およびICHの公式サイトに基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。本稿は特定の薬を勧めるものではありません。