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TSMC|光通信・フォトニクス 企業解説

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COMPANY PROFILE / 光通信・フォトニクス

TSMC
― 光のチップの上に電気のチップを積む「COUPE」で、光配線の受託製造に踏み出したファウンドリ

TSMCは光モジュールも光部品も自社ブランドでは売っていません。 それでも光通信の話題で名前が出るのは、光の回路と電気の回路を1つのエンジンにまとめる製造技術「COUPE」を持ち、 2026年4月に「基板上に載せるCPO(光電融合パッケージ)の生産を2026年に始める」と公表したからです。 2026年7月の決算説明会では、会長兼CEOが「生産はいま始めたところで、これから立ち上げていく」と述べています。 本稿では会社全体の規模は1つの表にとどめ、光について何を作り、誰と組み、どこまで進んだかを、 TSMC自身の公式発表・年次報告書・決算説明会と、提携相手の公式発表だけで整理します。

構成:TSMCの技術シンポジウム発表(2024年4月・2025年4月・2026年4月)、2025年版年次報告書(第5章)、2025年12月期 Form 20-F、2026年第2四半期決算説明会の記録、NVIDIA・Ansys・Alchipの公式発表を一次情報として使用/最終更新 2026年9月

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるTSMCと、光通信・フォトニクスでの立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. 光通信・フォトニクスの世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模(会社全体は簡潔に)
  5. 光通信・フォトニクスにかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社は光通信・フォトニクスで何を目指しているか
  9. 光通信・フォトニクス分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるTSMCと、光通信・フォトニクスでの立ち位置

正式名称Taiwan Semiconductor
Manufacturing Company Limited
中国語名は台湾積体電路製造。本稿ではTSMCと表記
本社台湾・新竹新竹サイエンスパーク
上場台湾証券取引所 2330
NYSE: TSM
米国ではADRで取引
この分野での区分半導体・ファウンドリ光モジュールは売らず、光エンジンを受託製造する
光のどの領域かデータセンター内の
光インターコネクト
スイッチやAIチップのすぐ横に光の出入口を置く用途
中核技術COUPE光のチップの上に電気のチップを積む3次元の光エンジン
公表している到達点200Gbps
(複数顧客と達成)
2025年版年次報告書の記載。条件の詳細は非開示
生産開始の時期2026年
(基板上のCPO)
2026年4月発表。7月の決算説明会で「生産を開始」と発言
まず押さえるべき1点

光通信に関わる企業は、大きく光部品・光モジュールの会社/半導体・ファウンドリ/通信装置・通信事業者の3種類に分かれます。 TSMCは半導体・ファウンドリで、しかも光を扱う場所はデータセンターの中、それもスイッチやAIチップのパッケージのすぐそばです 事実。 長距離の通信網や光ファイバーそのものには関わっていません。

TSMCが提供しているのは「光のチップ(PIC)と電気のチップ(EIC)を重ねて1つのエンジンにする製造工程」であって、 光エンジンの設計や販売は顧客が行います。 2025年版年次報告書は、この光エンジンが「複数の顧客とともに200Gbpsを達成した」と書いていますが、顧客名は出していません。 光モジュールを自社ブランドで売るLumentumやInnoLightとは、同じ「光の会社」でも立場がまったく違います。

2. ロゴと社名の表記について

TSMCのロゴは同社の商標です。本稿では生成画像による再現を行わず、 TSMC公式サイトから取得した画像を img/tsmc_logo.png として設置しています(配信形式はWebPで、PNGに変換)。

表記の注意:正式名称は Taiwan Semiconductor Manufacturing Company Limited、中国語名は「台湾積体電路製造」です。 ロゴは小文字の「tsmc」ですが、本稿では一般的な表記に合わせて大文字の TSMC で統一します。 光の技術名「COUPE」はTSMCの登録商標(Compact Universal Photonic Engine の略)で、公式文書では「TSMC-COUPE™」とも書かれます。

公式サイト:https://www.tsmc.com/english

3. 光通信・フォトニクスの世界で、この会社はどこにいるか

光通信・フォトニクスに関わる企業の3つの類型 同じ「光通信の会社」でも、どこで光を扱うかがまったく違う 光部品・光モジュール 半導体・ファウンドリ 通信装置・通信事業者 光を出す・送る・受ける部品を売る 電気と光をつなぐチップを作る 光でネットワークを作り運用する Lumentum/Coherent InnoLight/Ayar Labs ほか NVIDIA/Broadcom TSMC/Intel ほか NTT/Ciena Nokia/Cisco ほか レーザーと光実装の量産力 スイッチ・GPUの出口を持つ 長距離伝送と網の運用知見 大口顧客への依存が大きい 光部品は外部に頼りがち データセンター内は変化が速い TSMCは中央の類型にいて、顧客が設計した光エンジンを積層技術で受託製造する 自社ブランドの光モジュールは持たず、光のチップと電気のチップを重ねる工程と、それをAIチップの横に置く実装を売る
図1 光通信・フォトニクスに関わる企業の3類型と、TSMCの位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。TSMCがファウンドリとしてCOUPEを提供していることは、2024〜2026年の技術シンポジウム発表と2025年版年次報告書の記載に基づきます。

同じ「半導体・ファウンドリ」の枠でも、NVIDIAやBroadcomはスイッチやGPUという光の出口(製品)を自分で持っています。 TSMCはその製品を作る側で、出口は顧客が持っています。 つまりTSMCの光の事業は、顧客がCPOを採用する速さにそのまま左右されます 未確定/将来。 光の信号を電気のチップのすぐ近くまで持ってくる考え方そのものは、本シリーズの技術解説「Co-packaged Optics」「光インターコネクトとSerDes」で扱っています。

4. 会社の規模(会社全体は簡潔に)

会社全体は本稿の主題ではないので、規模だけを押さえます 事実。

指標(百万台湾ドル)2023年12月期2024年12月期2025年12月期
売上高(Net revenue)2,161,7362,894,3083,809,054
研究開発費182,370204,182246,427
研究開発費の売上高比8.5%7.1%6.5%
正社員数(各年12月31日)76,478人83,825人90,557人
ここで注意

上の数字は会社全体のものです。光通信・フォトニクスの事業規模を示す数字ではありません。 TSMCは光関連の売上・投資額・専任人員数をいずれも公表していません 未確定/将来。 2025年12月期のForm 20-F(米国SEC提出の年次報告書)には、シリコンフォトニクスやCOUPEに関する記述自体がありません。 光の取り組みが書かれているのは、台湾向けの年次報告書(英語版)と技術シンポジウムの発表です。 2026年7月の決算説明会でも、アナリストから「COUPEが売上に意味のある貢献をするのはいつか」と問われたのに対し、 CEOは時期も金額も示していません。

5. 光通信・フォトニクスにかけているリソース

金額と人数は非公表ですが、何をリソースとして投じているかは年次報告書と公式発表から読み取れます。 手順として「人・金・外部への出資・大学や公的資金」の4点を必ず確認しました。

リソースの種類内容区分
人(専任組織・人員)光専任の組織名・人員数の記載はない。COUPEは本社の集中研究開発(SoIC・CoWoS・SoWと並ぶ3次元実装の一つ)として扱われている、と年次報告書にある非公表
金(研究開発費)会社全体で2,464億台湾ドル(2025年)。2026年の主要研究開発プロジェクト表は「2nm」「A16」「A14以降」「3DIC」「次世代露光」「長期研究」の6項目で、光は独立した項目になっていない事実
金(ライン投資)COUPE・CPO向けの設備投資額非公表
外部への出資・買収・合弁光関連の企業への出資・買収・合弁は、年次報告書・20-F・公式発表のいずれにも記載がない確認できず
大学・研究機関米国のSRC、ベルギーのIMECと長期の提携関係があると年次報告書に書かれているが、光に限定した提携ではない事実
公的資金光の研究開発に対する政府資金(台湾・米国CHIPS法など)の採択は、確認した資料に記載がない確認できず
設計エコシステム設計ツール会社と組む枠組み(OIP)にCOUPEを載せている。Ansysは2024年4月、COUPE向けの設計・解析ソフトでTSMCと協業したと発表事実
光を受ける素子の研究光I/O向けのアバランシェ・フォトダイオード(APD、画素ピッチ7μm)を開発中で、2GHz超の動作と低消費電力を確認したと年次報告書に記載事実
金額が出ない理由の読み方

TSMCは研究開発費の約89%を上の6項目に充てると書いています 事実。 COUPEは3次元実装の技術なので、「3DIC」の項目に含まれている可能性が高いと本稿は考えますが、 会社はそうとは書いていません 未確定/将来。 いずれにしても、光のためだけの予算枠を外から読み取ることはできません。

6. これまでの取り組み

時期できごと意味
2021年TSMCの研究者がCOUPE(COmpact Universal Photonic Engine)の構造を論文で提案。光のチップと電気のチップを重ね、グレーティング結合・端面結合のどちらでも挿入損失を低くできる、中空や機械的に弱い部分のない構造だと説明COUPEという名前と考え方が最初に公開された。TSMC研究サイトに掲載
2024年4月北米技術シンポジウムでCOUPEの開発を公表。「2025年に小型プラガブル向けに認定し、2026年にCoWoSへ統合してCPOにする」という計画を示す光の取り組みを製品計画として初めて公式発表
2024年4月Ansysが、COUPE向けのマルチフィジックス解析(光の入出力、光回路、電源、電磁界、熱)でTSMCと協業したと発表設計ツールの側から量産の準備が始まった
2025年3月NVIDIAがCPOスイッチ(Spectrum-X Photonics/Quantum-X Photonics)を発表。見出しに「TSMCなどとの共同発明と協業」と書き、TSMCのCEOがSoICの3次元積層で支えるとコメント最初の大口の出口が公になった
2025年4月北米技術シンポジウムで、ロジック技術を補う手段の1つとして「COUPEによるシリコンフォトニクス統合」を紹介主力のロジック・実装と並べて扱われるようになった
2025年9月AlchipとAyar Labsが、TSMCのCOUPE・SoICなどを使うCPOで提携を発表し、同月のTSMCのOIPフォーラムで縮尺模型を展示NVIDIA以外にも、COUPEを使うと公言する会社が出てきた
2025年年次報告書によれば、COUPEの光エンジンが複数の顧客とともに200Gbpsを達成。COUPEのサービスは「2026年の量産に向けて計画どおり」複数の顧客と性能を確認した段階(量産品かどうかは書かれていない)
2026年4月北米技術シンポジウムで「COUPEを基板上に載せた本当の意味でのCPOが2026年に生産開始」と発表。基板上のプラガブル品と比べて電力効率2倍・遅延10分の1、200Gbpsのマイクロリング変調器に使われていると説明量産開始の年を明言した
2026年7月第2四半期決算説明会で、C.C. Wei会長兼CEOが「生産はいま始めたところで、これから立ち上げていく」「COUPEは今後数年で相当に重要な技術になる」と発言量産が始まったことを経営トップが口頭で確認した
計画と実際のずれ

2024年の発表は「2025年に小型プラガブル向けに認定」としていましたが、その認定が済んだかどうかは、 その後の公式資料では確認できませんでした 未確定/将来。 また2024年の計画では2026年のCPOは「CoWoSへの統合」でしたが、2026年4月に生産開始とされたのは「基板上(on substrate)」のCPOです。 年次報告書では、CoWoSとCOUPEを1つのパッケージにまとめるスイッチ向けCPOは「開発中」と書かれています 事実。 2026年に始まったのは計画の全部ではなく、先に実現しやすい形からと読むのが正確です。

7. 今後の計画

基板上のCPO2026年に生産開始2026年4月発表。7月に「生産を開始」と発言
CoWoSと一体のCPO開発中スイッチ向け。量産時期は資料に記載なし
光を受ける素子APD(7μm画素)光I/O向けに開発中。量産時期は非公表
関連する実装の予定14レチクルのCoWoS
2028年
光ではないが、CPOを載せる土台の大型化

TSMCは、2026年に5.5レチクル大のCoWoSを生産中で、14レチクル版を2028年、さらに大きいものを2029年に出すと発表しています 事実。 CoWoSと一体のCPOはこの土台の上に光の出入口を載せる形になるため、パッケージの大型化の計画と光の計画は同じ線上にあると読めます 未確定/将来。

確認できなかったこと

次はいずれもTSMCの公式資料に記載がありません 未確定/将来。

COUPE・CPOの売上高と売上比率/生産能力(月産枚数など)/生産拠点/ 光向け設備投資額/200Gbpsを達成した顧客名(NVIDIAを除く)/CoWoSと一体のCPOの量産開始年/ 光源(レーザー)を誰が供給するか。 「TSMCのシリコンフォトニクス売上が○年に○億ドル」といった数字は調査会社や報道のもので、本稿では採用しません。

8. この会社は光通信・フォトニクスで何を目指しているか

ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
光は単独の事業ではなく、3次元実装サービス(3DFabric)の一部として売る年次報告書がCOUPEをSoIC・CoWoS・SoWと並べて「3DFabric」の中に置いている。独立した光の事業部門の記載はない事実
狙いはAIチップのパッケージの中まで光を引き込むこと年次報告書が「光エンジンはHPCチップと同じパッケージに入れられる」と書き、CoWoSと一体のスイッチ向けCPOを開発中としている推測
当面の主な出口はNVIDIAのCPOスイッチ顧客として社名が一次資料に出ているのはNVIDIAの発表だけ。年次報告書は「複数の顧客」と書くが社名を出していない推測
光モジュールの会社と競うのではなく、彼らにも作らせる立場を取るAlchipとAyar Labsのように、自社で光I/Oを設計する会社がCOUPEを使うと発表している。TSMC自身が光モジュールを売るという記述はない推測
COUPEを数年がかりで重要技術に育てるCEOが決算説明会で「今後数年で相当に重要な技術になる」と述べた。売上の目標値は示していない事実
推測の根拠を1つだけ詳しく

TSMCは光を「光の技術」としてではなく、チップを積み重ねる技術の応用先として説明し続けています。 2024年の発表はCOUPEを「SoIC-Xで電気のダイを光のダイの上に積む」ものと書き、 2025年版年次報告書も「SoICのCoW(チップ・オン・ウェーハ)積層を使って光のチップと電気の制御チップを統合する」と書いています 事実。 NVIDIAの発表に寄せたCEOのコメントも「最先端のチップ製造とSoICの3次元積層を組み合わせる」でした。 レーザーや光ファイバーの話はどの資料にも出てきません。 ここから、TSMCの勝ち筋は光の素子の性能競争ではなく、積層と実装の歩留まりと量産力に置かれている、と本稿は読みます 未確定/将来。

9. 光通信・フォトニクス分野の提携マッピング

TSMCを中心とした光通信・フォトニクスの提携関係 TSMCと相手企業の公式発表・年次報告書に記載のある関係のみ。報道ベースの関係は含まない 製品で組む顧客(実線・濃紺) 設計・実装の協業(実線・橙) 研究連携・光に限定しない(点線) TSMC ファウンドリ NVIDIA CPOスイッチで共同発明・協業 2025年3月 NVIDIA発表 Alchip + Ayar Labs COUPE・SoICを使うCPOを開発 2025年9月 Alchip発表 Ansys COUPE向けマルチフィジックス設計 2024年4月 Ansys発表 IMEC / SRC 長期の研究連携(光に限定しない) TSMC年次報告書 社名非開示の複数顧客 200Gbpsを達成(2025年)
図2 TSMCを中心とした光通信・フォトニクスの提携関係。出典:NVIDIA(2025年3月18日)、Ansys(2024年4月24日)、Alchip(2025年9月8日・9月26日)の各公式発表と、TSMCの2025年版年次報告書。NVIDIAの発表にはTSMC以外にも多数の光部品会社が並んでいますが、それらはNVIDIAの取引先であり、TSMCとの直接の関係は書かれていないため図に含めていません。IMEC・SRCとの関係は年次報告書に書かれた研究連携で、光に限定したものではないため点線にしています。

10. 提供している技術・製品・サービス

TSMCが公表している光関連の技術は、COUPE(光エンジンの積層)、COUPEを使ったCPO、光を受ける素子(APD)の3つです。 光を出す素子(レーザー)についての記述はありません。

項目公式資料の記述量産か開発か
COUPEの構造SoIC-Xのチップ積層で、電気のダイを光のダイの上に積む。ダイ同士の接続部のインピーダンスが最も低く、従来の積層方法より電力効率が高いと説明2026年に生産開始
COUPEの性能光エンジンとして200Gbpsを複数の顧客と達成(2025年)。何レーン・何メートルの条件かは非開示複数顧客との達成と記載(量産品かは不明)
基板上のCPO光エンジンをパッケージの中に入れることで、基板上のプラガブル品と比べ電力効率2倍、遅延10分の1(会社の主張)。200Gbpsのマイクロリング変調器に使われている2026年に生産開始
CoWoSと一体のCPOインターポーザを使うCoWモジュールと、COUPEの光I/Oを1つのパッケージにまとめる。超ハイエンドのネットワークスイッチ向け開発中
光を受ける素子光I/O向けのアバランシェ・フォトダイオード(画素ピッチ7μm)。2GHz超の動作と非常に低い消費電力で業界の要求を満たしたと記載。別にGe/Siの単一光子検出器(SPAD)で暗計数率を約10分の1に下げた(2025年IEDMで発表)開発中
設計の支援設計ツール会社と組む枠組み(OIP)でCOUPE向けの設計・解析フローを用意。AnsysはLumerical(光回路シミュレータ)の回路モデルがTSMCのPDK(設計用のプロセス情報一式)と共同設計されていると発表提供中

「電力効率2倍・遅延10分の1」はTSMC自身が示した比較で、比較の条件(伝送距離、レーン数、比較相手のプラガブル品の世代)は公表されていません 事実。 また、IEEE 802.3やOIFなどの規格への準拠を示す記述は、確認した公式資料にはありませんでした 未確定/将来。 マイクロリング変調器と光検出器の基本は、本シリーズの技術解説「波長多重とマイクロリング」「光検出器」「シリコンフォトニクス」を参照してください。

素材技術者の視点:電気のチップを光のチップの上に「直接」積むことの意味

COUPEの要点は、電気のダイと光のダイをはんだバンプではなくSoICの接合で直接重ねることにあります 事実。 変調器を駆動する回路と変調器の距離が縮むほど、配線の寄生容量が減り、1ビットを送るのに必要なエネルギーが下がります。 TSMCが「接続部のインピーダンスが最も低い」と強調しているのはこの点です。

一方で、材料と熱の側から見ると難題も増えます。 マイクロリング変調器は温度が少し変わるだけで共振波長がずれる素子なので、 発熱する電気のチップをその真上に載せる構造は、熱の管理が製品の成否を左右します 未確定/将来。 Ansysとの協業が光の入出力や電源だけでなく熱の解析を含んでいたこと、TSMCが2021年の論文で「中空や機械的に弱い部分のない構造」を強調していたことは、 積層と接合界面の信頼性が量産の鍵だという認識の表れと読めます。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
進み具合を外から検証できない光関連の売上・生産能力・投資額・顧客数がいずれも非公表。CEOも売上貢献の時期を示さなかった事実
計画の形が変わっている2024年の計画は「2026年にCoWoSへ統合したCPO」だったが、2026年に生産開始とされたのは基板上のCPO。CoWoSと一体の形は開発中のまま事実
顧客の採用ペースに依存TSMCは光の出口(スイッチ・GPU)を持たない。CPOがプラガブルに代わって広がる速さは、顧客とその先のデータセンター運用者が決める推測
特定顧客への偏り一次資料で社名が確認できる大口の光の顧客はNVIDIAだけ。複数顧客の存在は年次報告書にあるが社名は非開示推測
光源を持たない公式資料にレーザーの記述がない。光源は顧客や他社の部品に頼る構造と考えられ、CPOの信頼性や保守性の一部はTSMCの外で決まる推測
熱と接合の信頼性発熱するチップの下に温度に敏感な光の素子を置く構造であり、積層界面の信頼性が歩留まりに直結する推測
他のファウンドリとの競争本シリーズで扱うGlobalFoundries、Tower Semiconductor、UMCも、シリコンフォトニクスの受託製造を公式に打ち出している本稿による整理

12. 用語集

COUPE
Compact Universal Photonic Engine。TSMCの光エンジン技術。光のチップの上に電気のチップを積んで1つのエンジンにする。
CPO(Co-packaged Optics)
光の送受信部を、スイッチやAIチップと同じパッケージの中に入れる方式。基板上の差し込み式(プラガブル)より配線が短くなる。
PIC/EIC
PICは光の回路を作り込んだチップ、EICは電気の回路(変調器の駆動や受光信号の増幅)のチップ。
SoIC
TSMCのチップ積層技術。チップ同士を微細な接合で直接つなぎ、上下に重ねる。
CoWoS
TSMCの2.5次元実装技術。大きな中継基板(インターポーザ)の上にAIチップとHBMを並べる。
マイクロリング変調器
髪の毛より細いリング状の光の通り道を使い、電気信号で光をオン・オフする素子。小さく省電力だが温度に敏感。
APD
アバランシェ・フォトダイオード。受けた光を内部で増幅して電気信号にする受光素子。
OIP
Open Innovation Platform。TSMCが設計ツール会社・IP会社と組んで顧客の設計を支援する枠組み。
概念図:光のチップの上に電気のチップを重ねた光エンジンが、AIチップのパッケージの縁に並ぶ様子
図3 TSMCのCOUPEとCPOの概念図(AI生成による概念図。実際の設備や製品を写したものではありません)。

13. 出典

  1. TSMC プレスリリース「TSMC Debuts A13 Technology at 2026 North America Technology Symposium」(2026年4月23日発行)。COUPEを基板上に載せたCPOの2026年生産開始、電力効率2倍・遅延10分の1、200Gbpsマイクロリング変調器、CoWoSの大型化計画。 https://pr.tsmc.com/english/news/3302
  2. TSMC プレスリリース「TSMC Unveils Next-Generation A14 Process at North America Technology Symposium」(2025年4月24日発行)。COUPEによるシリコンフォトニクス統合の紹介。 https://pr.tsmc.com/english/news/3228
  3. TSMC プレスリリース「TSMC Celebrates 30th North America Technology Symposium with Innovations Powering AI with Silicon Leadership」(2024年4月24日発行)。COUPEの構造(SoIC-Xで電気のダイを光のダイの上に積む)と、2025年プラガブル向け認定・2026年CoWoS統合CPOの計画。 https://pr.tsmc.com/english/news/3136
  4. TSMC 2025 Annual Report 第5章(事業活動)。COUPEの200Gbps達成と2026年量産計画、CoWoSと一体のCPOの開発、APDとSPAD、研究開発費、主要研究開発プロジェクト、SRC・IMECとの連携。 https://investor.tsmc.com/static/annualReports/2025/english/pdf/2025_tsmc_ar_e_ch5.pdf
  5. TSMC Form 20-F for the fiscal year ended December 31, 2025(米国SEC提出)。売上高、研究開発費、研究開発費の売上高比、正社員数。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1046179/000162828026025362/tsm-20251231.htm
  6. TSMC 2026年第2四半期決算説明会の記録(2026年7月16日開催。LSEG作成の編集済み記録をTSMCが投資家向けサイトで公開)。COUPEの生産開始と今後に関するC.C. Wei会長兼CEOの発言。 https://investor.tsmc.com/english/encrypt/files/encrypt_file/reports/2026-08/3e494f0c14dd0890f897aa044415e21d93486cc4/TSMC%202Q26%20Transcript.pdf
  7. TSMC 研究サイト「Heterogeneous Integration of a Compact Universal Photonic Engine for Silicon Photonics Applications in HPC」(2021年の論文の紹介ページ)。COUPEの提案と構造上の特徴。 https://research.tsmc.com/page/on-chip-interconnect/14.html
  8. NVIDIA プレスリリース「NVIDIA Announces Spectrum-X Photonics, Co-Packaged Optics Networking Switches to Scale AI Factories to Millions of GPUs」(2025年3月18日)。TSMCなどとの共同発明・協業、TSMCのCEOのコメント、製品の提供時期。 https://nvidianews.nvidia.com/news/nvidia-spectrum-x-co-packaged-optics-networking-switches-ai-factories
  9. Ansys プレスリリース「Ansys and TSMC Enable a Multiphysics Platform for Optics and Photonics」(2024年4月24日)。COUPE向けマルチフィジックス解析での協業、TSMCの設計基盤管理部門責任者のコメント。 https://ansys.synopsys.com/news-center/press-releases/4-24-24-ansys-collaborates-with-tsmc-coupe-on-multiphysics
  10. Alchip Technologies プレスリリース「Ayar Labs and Alchip to Scale AI Infrastructure with Co-Packaged Optics」(2025年9月8日)。TSMCのCOUPE・SoICなどを使うCPOでの提携。 https://www.alchip.com/en/Newsroom/AyarLabsandAlchiptoScaleAIInfrastructure
  11. Alchip Technologies プレスリリース「Alchip and Ayar Labs Unveil Co-Packaged Optics for AI Datacenter Scale-Up」(2025年9月26日)。2025年TSMC北米OIPエコシステムフォーラムでのCPO縮尺模型の展示。 https://www.alchip.com/en/Newsroom/AlchipandAyarLabsUnveilCPOforAIDatacenterScale-Up
  12. TSMC 公式サイト(社名表記とロゴ画像の取得元)。 https://www.tsmc.com/english

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
正式名称、上場市場、売上高・研究開発費・研究開発費比率・正社員数(2023〜2025年)事実出典5 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1046179/000162828026025362/tsm-20251231.htm
2025年の研究開発費 246,427,264千台湾ドル、主要研究開発プロジェクト6項目で約89%、光が独立項目でないこと事実出典4 https://investor.tsmc.com/static/annualReports/2025/english/pdf/2025_tsmc_ar_e_ch5.pdf
20-Fにシリコンフォトニクス・COUPEの記述がないこと事実出典5(本稿が全文を検索して確認) https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1046179/000162828026025362/tsm-20251231.htm
COUPEがSoIC-Xで電気のダイを光のダイの上に積む構造で、接続部のインピーダンスが最も低いこと事実出典3 https://pr.tsmc.com/english/news/3136
2024年時点の計画(2025年プラガブル向け認定、2026年CoWoS統合CPO)事実出典3 https://pr.tsmc.com/english/news/3136
2025年のシンポジウムでCOUPEによるシリコンフォトニクス統合を紹介したこと事実出典2 https://pr.tsmc.com/english/news/3228
COUPEの光エンジンが複数の顧客と200Gbpsを達成(2025年)、2026年量産予定、CoWoSと一体のスイッチ向けCPOが開発中事実出典4 https://investor.tsmc.com/static/annualReports/2025/english/pdf/2025_tsmc_ar_e_ch5.pdf
COUPEが3DFabricの一部で、本社の集中研究開発の対象であること、SRC・IMECとの連携事実出典4 https://investor.tsmc.com/static/annualReports/2025/english/pdf/2025_tsmc_ar_e_ch5.pdf
光I/O向けAPD(7μm、2GHz超)とGe/Si SPADの暗計数率約10分の1事実出典4 https://investor.tsmc.com/static/annualReports/2025/english/pdf/2025_tsmc_ar_e_ch5.pdf
基板上のCPOの2026年生産開始、電力効率2倍・遅延10分の1、200Gbpsマイクロリング変調器事実出典1 https://pr.tsmc.com/english/news/3302
5.5レチクルCoWoSを生産中、14レチクル版が2028年、それ以上が2029年事実出典1 https://pr.tsmc.com/english/news/3302
CEOの「生産はいま始めた」「今後数年で相当に重要な技術になる」という発言、売上貢献の時期を示さなかったこと事実出典6 https://investor.tsmc.com/english/encrypt/files/encrypt_file/reports/2026-08/3e494f0c14dd0890f897aa044415e21d93486cc4/TSMC%202Q26%20Transcript.pdf
2021年の論文でCOUPEが提案され、低挿入損失で中空のない構造と説明されたこと事実出典7 https://research.tsmc.com/page/on-chip-interconnect/14.html
NVIDIAのCPOスイッチでTSMCと共同発明・協業、TSMCのCEOのコメント事実出典8 https://nvidianews.nvidia.com/news/nvidia-spectrum-x-co-packaged-optics-networking-switches-ai-factories
AnsysとのCOUPE向けマルチフィジックス解析の協業(熱の解析を含む)、LumericalのモデルとPDKの共同設計事実出典9 https://ansys.synopsys.com/news-center/press-releases/4-24-24-ansys-collaborates-with-tsmc-coupe-on-multiphysics
AlchipとAyar LabsがCOUPE・SoICを使うCPOで提携し、OIPフォーラムで模型を展示事実出典10・11 https://www.alchip.com/en/Newsroom/AyarLabsandAlchiptoScaleAIInfrastructure
光通信企業の3類型の区分本稿の計算本稿による整理。企業名は本シリーズで扱う企業から例示
光関連の売上・生産能力・生産拠点・設備投資額・専任人員・顧客名(NVIDIA以外)・光源の供給元未確定/将来出典1〜6に記載なし。調査会社・報道の数値は採用しない https://investor.tsmc.com/static/annualReports/2025/english/pdf/2025_tsmc_ar_e_ch5.pdf
2025年のプラガブル向け認定が完了したかどうか未確定/将来出典1・2・4に記載なし。本稿では完了とも未完了とも断定しない https://pr.tsmc.com/english/news/3302
光関連の出資・買収・合弁、光に限定した公的資金未確定/将来出典4・5に記載なし。本稿では存在しないとも断定しない https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1046179/000162828026025362/tsm-20251231.htm
規格(IEEE 802.3・OIF等)への準拠未確定/将来出典1〜4に記載なし https://pr.tsmc.com/english/news/3302
COUPEの予算が「3DIC」項目に含まれる可能性が高いという読み推測主要研究開発プロジェクト表からの本稿の解釈
2026年の生産開始は計画の一部で、実現しやすい形から始まったという読み推測出典3と出典1・4の計画の比較からの本稿の解釈
パッケージ大型化の計画と光の計画が同じ線上にあるという読み推測出典1・4からの本稿の解釈
AIチップのパッケージの中まで光を引き込むことが狙い、当面の主な出口はNVIDIA、光モジュール会社にも作らせる立場という読み推測出典4・8・10からの本稿の解釈
勝ち筋が光素子の性能ではなく積層と実装の量産力にあるという読み推測出典3・4・8の記述の共通点からの本稿の解釈
マイクロリングの温度感受性と、発熱チップを重ねる構造の熱管理の難しさ推測一般的な素子の性質に基づく本稿の解説。TSMCの公表内容ではない
顧客の採用ペースへの依存、特定顧客への偏り、光源を持たないこと、熱と接合の信頼性というリスク推測提携構造と公表内容からの本稿の解釈
他のファウンドリもシリコンフォトニクスの受託製造を打ち出していること本稿の計算本シリーズの各社解説による本稿の整理

最終更新:2026年9月25日/Troy Technical
本稿の数値はすべてTSMCの公式発表・年次報告書・米国SEC提出書類・決算説明会の記録、および提携相手の公式発表に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。