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光トランシーバー|光通信・フォトニクス 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

光トランシーバー(プラガブル光モジュール)
― 手のひらサイズの箱が、40 Wの熱を出す時代

データセンターのスイッチ前面に、ずらりと挿さっている金属の箱。電気信号を光に変え、光を電気に戻す部品です。 形と寸法はMSA(マルチソース・アグリーメント)という業界の取り決めで決まっており、どの会社の製品も同じ穴に挿さります。 1本あたりの容量は800 Gb/sから1.6 Tb/sへ。それに伴い、仕様書が許す最大電力は19.8 W(OSFP初版)から42.9 W(OSFP1600)まで増えました。 いま、この部品の設計を縛っているのは光ではなく熱です。

構成:QSFP-DD MSA・OSFP MSA の仕様書と技術白書、IEEE 802.3 の公開文書を一次情報として使用/最終更新 2026年9月

暗い面の上に、上面に細かな放熱フィンを持つ無地の細長い金属製モジュールが置かれ、端から細い光ファイバが伸びている概念イメージ
概念図(AI生成イメージ)。プラガブル光モジュールの雰囲気を表現したものです。特定の規格・製品の外形、寸法、フィン形状、コネクタ形状を示すものではありません。
この記事の構成
  1. 光トランシーバーとは何か(3行でつかむ)
  2. 箱の中身 ― 電気の8車線を光に載せ替える
  3. 誰が何を決めているのか ― IEEE・MSA・OIF の分担
  4. 本稿の計算:「レーン数 × レーン速度」で世代交代を読む
  5. 熱がすべてを決める ― 電力の上限はこう増えてきた
  6. 素材技術者の視点①:放熱は「こすれ合う金属面」で決まる
  7. 素材技術者の視点②:本当の温度上限はレーザーにある
  8. 課題
  9. 用語集/参考資料/出典対応表
本記事の表記ルール

事実=規格・仕様書・標準化団体の公開文書に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=策定中の規格や計画であり、確定・実績が確認できていない事項
このほか、構造の整理や材料設計上の読み取りは「解説」として区別しています。

1. 光トランシーバーとは何か(3行でつかむ)

光トランシーバーとは、「装置の電気信号を光信号に変えて光ファイバへ送り出し、届いた光を電気に戻す部品」です。 データセンターでは、スイッチやサーバーの前面パネルに抜き差しできるモジュールとして挿す形が主流で、これをプラガブル光モジュールと呼びます。

  • 何をするか:ホスト(スイッチのチップ)とは電気の複数レーンでつながり、ファイバ側では光で送受信します。OSFP の仕様書は、800G のモジュールを「8×100G PAM4」の電気レーンと8組の光送信器・光受信器の組み合わせとして図示しています事実
  • 形は誰が決めるか:外形・コネクタ・電源・放熱はMSA(複数の企業が結ぶ業界の取り決め)が定めます。代表がQSFP-DD と OSFP です事実
  • いまの主戦場:1本あたり800 Gb/s(8レーン×100 Gb/s)と、1.6 Tb/s(8レーン×200 Gb/s)です。両MSAとも1.6 Tb/s 版の仕様を公開しています事実
本シリーズの他の記事との関係

この記事は「前面パネルに挿す箱」そのものを扱います。 この箱をやめて光の変換器をチップのパッケージ内に入れる方式は「Co-packaged Optics」編で、 箱を残したまま中身を減らす方式は「NPOとLPO」編で扱います。 箱の中で使われる変調の仕組み(PAM4 など)は「光変調と変調方式」編、 光を作る部品は「半導体レーザー」編、ファイバとの接続は「光コネクタとファイバー実装」編で詳しく扱います。

2. 箱の中身 ― 電気の8車線を光に載せ替える

OSFP MSA の仕様書には、モジュールの中身を示すブロック図が多数載っています。 たとえば 800G DR8 の構成は、スイッチ側の電気インターフェース(800GAUI-8)から入った8本の電気信号を 「8 x 100G PAM4 CDR」で整えたうえで、8つの光送信器から光ファイバへ送り出し、 受信側も8つの光受信器で受ける、という形で描かれています事実。 ファイバ側のコネクタとしては MPO などが示されています事実。

800G モジュールの中身(模式図) OSFP MSA 仕様書の 800G DR8 ブロック図をもとに本記事が簡略化して描き直したもの スイッチ のチップ (ホスト側) モジュール(前面パネルに挿す) 信号を整える IC(CDR/DSP) 8 x 100G PAM4 光送信器 × 8 電気 → 光 光受信器 × 8 光 → 電気 光コネクタ (MPO など) 電気 電気 光 光 ※ 「8 x 100G PAM4 CDR」、光送信器・光受信器各8、MPO 等のコネクタという構成は OSFP MSA 仕様書 Rev 5.22 の図によります。 ※ 部品の大きさ・配置・呼び名(「信号を整えるIC」など)は本記事による簡略化です。実際の配置とは異なります。
図1 概念図(ベクター作図)。OSFP MSA 仕様書 Rev 5.22[参考資料4]に掲載された 800G DR8 のブロック図をもとに、本記事が簡略化して描き直したものです。各部品の大きさ・位置関係は模式的で、実際のモジュール内部の配置を示すものではありません。

光送信器の中身は、光を出すレーザー、光に信号を載せる変調器(レーザー自体を直接変調する方式もあります)、それを駆動するドライバ回路です。 光受信器は、光を電流に変える受光素子と、その微弱な電流を電圧に増幅するTIA(トランスインピーダンスアンプ)でできています。 つまり1つのモジュールの中に、化合物半導体(レーザー)・シリコン(IC)・ガラス(ファイバ)・金属(筐体)・樹脂(基板や接着剤)が同居しています(本記事による解説)。

「抜き差しできる」ことの意味

プラガブル方式の最大の価値は、壊れたら1本だけ抜いて交換できることです。 QSFP-DD MSA は、後方互換性を「critically important」(決定的に重要)と書き、 新しい機器でも既存の QSFP モジュールを挿して使えることが、導入リスクを大きく下げるとしています事実。 「Co-packaged Optics」編で見たとおり、CPOはこの利点を手放す代わりに電気配線を短くする方式です。 両者は優劣というより、何を優先するかの違いです(本記事による解説)。

3. 誰が何を決めているのか ― IEEE・MSA・OIF の分担

「800Gの光モジュール」という製品は、ひとつの規格だけでは決まりません。 複数の団体が、異なる層を分担して決めています。

光モジュールを決めている3つの層(本記事による整理) IEEE 802.3 MSA OIF 信号の中身:光の伝送距離・ファイバの本数・電気レーンの損失予算 例:800 Gb/s を 8 組のシングルモードファイバで 500 m・2 km(802.3df の目標) 箱の形:外形・コネクタ・電源ピン・電力クラス・放熱・温度範囲 例:QSFP-DD/QSFP-DD800/QSFP-DD1600、OSFP/OSFP-XD の仕様書 管理と電気の共通仕様:CMIS(管理インターフェース)、CEI(電気I/O) 例:QSFP-DD MSA は CMIS の今後の更新を OIF で行うと案内している ※ 各層の内容は IEEE 802.3df の目標文書、QSFP-DD/OSFP の仕様書と公式サイトの記載によります。 ※ 3層に分けたのは本記事による整理で、各団体の役割はこれに限られません。
図2 概念図(ベクター作図)。IEEE 802.3df の目標[参考資料7]、QSFP-DD 仕様書[参考資料1]と公式サイト[参考資料3]、OSFP 仕様書[参考資料4]の記載によります。3つの層に分けたのは本記事による整理であり、各団体の活動範囲を網羅したものではありません。
  • IEEE 802.3(イーサネット規格):IEEE 802.3df-2024 は、800 Gb/s の MAC パラメータと、400 Gb/s・800 Gb/s の物理層を追加した改訂です事実。目標文書では、800 Gb/s を8組のシングルモードファイバで少なくとも500 m/2 km、8組のマルチモードファイバで少なくとも50 m/100 m、銅の同軸ケーブル8レーンで少なくとも2 m伝送することが掲げられています事実
  • MSA(形の取り決め):QSFP-DD MSA は、異なるメーカーのモジュール部品の「mechanical, electrical, thermal and signal-integrity interoperability」(機械・電気・熱・信号品質の相互運用性)を確保することを目的に掲げています事実
  • OIF:QSFP-DD MSA の公式サイトは、管理インターフェース仕様 CMIS の今後の更新をOIF の組織の下で行うと案内しています事実

IEEE の規格は「どれだけの距離を、どんな光で送るか」を決めますが、箱の寸法や何ワットまで発熱してよいかは決めません。 そこを埋めているのが MSA です。素材や部品の要求の多くは、じつは MSA の仕様書に書かれています(本記事による解説)。

4. 本稿の計算:「レーン数 × レーン速度」で世代交代を読む

モジュールの容量は、電気レーンの本数 × 1レーンあたりの速度でほぼ決まります。 両MSAの仕様書を並べると、形の世代交代がこの掛け算で読めます。

形(フォームファクタ)電気レーン1レーンの速度合計仕様書の記載
QSFP-DD850 Gb/s PAM4400 Gb/sQSFP に接点を1列追加して8レーン化
QSFP-DD8008100 Gb/s PAM4800 Gb/s112 Gb/s(56 GBd)/レーンの電気動作
QSFP-DD16008200 Gb/s PAM41.6 Tb/s224 Gb/s(112 GBd)/レーン。QSFP-DD・QSFP+ と後方互換
OSFP(OSFP800)8100 Gb/s PAM4800 Gb/s800GAUI-8:112G-PAM4、53.125 GBaud
OSFP16008200 Gb/s PAM41.6 Tb/s1.6TAUI-8:224G-PAM4、106.25 GBaud
OSFP-XD16200 Gb/s PAM43.2 Tb/s3.2TAUI-16。OSFP の2倍の前面密度

すべて事実(QSFP-DD 仕様書 Rev 7.1[参考資料1]、QSFP-DD 公式サイト[参考資料3]、OSFP 仕様書 Rev 5.22[参考資料4]、OSFP-XD 仕様書 Rev 1.11[参考資料6])。「合計」列は仕様書の記載と一致します。

モジュール1本の容量 = レーン数 × 1レーンの速度(本稿の計算) 棒の長さは合計容量に比例(3.2 Tb/s を 440 px とした) QSFP-DD QSFP-DD800/OSFP DD1600/OSFP1600 OSFP-XD 8 × 50G = 400G 8 × 100G = 800G 8 × 200G = 1.6T 16 × 200G = 3.2T レーン速度を倍にするか、レーン数を倍にするか ― 世代交代はこの2択の組み合わせ ※ レーン数と速度は QSFP-DD・OSFP・OSFP-XD の仕様書によります。掛け算と棒の長さは本記事によるものです。 ※ 実際の信号にはFECなどのオーバーヘッドが含まれ、ボーレート×2ビットはこの合計と一致しません。
図3 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。レーン数と1レーンの速度は QSFP-DD 仕様書[参考資料1]、OSFP 仕様書[参考資料4]、OSFP-XD 仕様書[参考資料6]によります。掛け算・棒の長さ・最下段の一文は本記事によるもので、公表値ではありません。
本稿の計算:1Uの前面パネルに何Tb/s並ぶか

QSFP-DD 仕様書は「up to 36 modules」を19インチラックの1Uに収められるよう設計されているとし、OSFP MSA も「Up to 36 OSFP ports are supported in 1 U front panel」としています事実。

  • 36ポート × 1.6 Tb/s = 57.6 Tb/s(1Uの前面あたり)本稿の計算
  • 36ポート × 800 Gb/s = 28.8 Tb/s本稿の計算

前提と限界:36ポートは「最大で」の値で、実際の装置のポート数は設計により異なります。また光モジュールのほかに銅ケーブル(DAC/AEC)を挿す構成もあります。

5. 熱がすべてを決める ― 電力の上限はこう増えてきた

容量が上がると、モジュールの消費電力も上がります。 OSFP の仕様書には、版ごとに許される最大電力の推移が一覧で載っています事実。

OSFP 仕様書が許す最大電力の推移(3.3 V 公称) 棒の高さは電力に比例(50 W = 200 px)。数値は仕様書 Table 15-9 の記載 19.8 W 21.1 W 21.1 W 33.0 W 42.9 W Rev 1.0 Rev 2.0 Rev 3.0 Rev 4.0/5.0 Rev 5.2 6 A 6.4 A 6.4 A 10 A 13 A(OSFP1600) 約2.2倍 本稿の計算 ※ 電流・電力は OSFP 仕様書 Rev 5.22 Table 15-9 によります。Rev 5.2 の 33.0 W は OSFP/OSFP800、42.9 W は OSFP1600 の値です。 ※ 42.9 ÷ 19.8 ≒ 2.2 は本記事の計算です。これは仕様上の上限で、実際の製品の消費電力ではありません。
図4 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。各版の最大電流・最大電力は OSFP 仕様書 Rev 5.22 の Table 15-9[参考資料4]によります。「約2.2倍」は本記事の計算で、仕様上の上限どうしの比です。個々の製品の消費電力を示すものではありません。

上限が増えた理由は、仕様書にそのまま書かれています。 OSFP と OSFP800 は電源ピン4本がそれぞれ2.5 Aまで流せて合計10.0 A、30 W超を供給でき、 OSFP1600 では1本あたり3.25 A、合計13.0 Aで40 W超を供給できるとされています事実。 16レーンの OSFP-XD では電源ピンが8本になり、合計20 A、60 W超です事実。

QSFP-DD の仕様書は電力を8つのクラスに分けています。 クラス1が1.5 W、以下 3.5・7.0・8.0・10・12・14 W と続き、クラス8は「>14 W」で、実際の値は管理レジスタで読み出す方式です事実。 クラス8(「>~20 W」)に対応するホストでは、電源ピンのパッドを多数のビアで厚い銅の電源層につなぎ、伝導で冷やす設計が推奨されています事実。

本稿の計算:1ビット送るのに何ピコジュールか

QSFP-DD MSA の技術白書(2023年9月)は、QSFP-DD1600 で一般的な強度変調・直接検波(IMDD)モジュールの電力が「may be around 25W」(25 W前後になりうる)としています事実。

  • 25 W ÷ 1.6 Tb/s = 25 ÷ (1.6 × 10¹²) J/bit = 約15.6 pJ/bit本稿の計算
  • 1Uに36本挿した場合:36 × 25 W = 900 W。仕様上限の42.9 W なら 36 × 42.9 W = 約1,544 W本稿の計算

前提と限界:25 W は白書が「なりうる」とした目安で、特定製品の実測値ではありません。1Uに36本すべてを同じ電力で並べることも現実の構成とは限りません。 桁をつかむための計算であり、方式どうしの電力比較に使える値ではありません。

白書は、64ポートを持つ2Uの装置で50 Wのモジュールを冷やすことは空気流量の条件次第で可能だとしつつ、 64ポートすべてに50 Wを挿す構成は「today's power supplies」(現在の電源)では実用的でないとも書いています事実。 冷やせるかどうかより先に、装置全体の電源と熱が上限になりつつあるということです(本記事による解説)。

6. 素材技術者の視点①:放熱は「こすれ合う金属面」で決まる

プラガブルモジュールの熱は、どこから逃げていくのか。 QSFP-DD MSA の白書は、ケージに載った「riding heat sink」(ライディング・ヒートシンク)が、強制空冷の空気へ熱を捨てる主な経路だとしています事実。 モジュールを挿すと、その上面がヒートシンクの底面に押し付けられる構造です。

熱の通り道(断面の模式図) 左:熱の経路/右:仕様書が定める接触面の平面度と表面粗さ レーザー IC ヒートシンクのフィン ヒートシンク底面 接触面(乾いた金属接触/TIM) モジュール筐体の上面 内部の部品 基板 空気の流れ → フィンの間を抜けて熱を運ぶ QSFP-DD の接触面仕様 クラス1〜4 0.075 mm Ra 1.6 µm クラス5〜8 0.050 mm Ra 0.8 µm クラス8(任意) 0.025 mm Ra 0.4 µm 押し付け力(クラス5以上) 25 N 以上を推奨 ※ 平面度・表面粗さ・押し付け力は QSFP-DD 仕様書 Rev 7.1 の Table 17・18 と本文によります。 ※ ヒートシンクが熱を空気へ捨てる主経路であることは QSFP-DD MSA の技術白書(2023年)によります。 ※ 断面の層構成・部品の位置・寸法比は本記事による模式で、実際のモジュール構造ではありません。 ※ TIM=熱界面材料。白書は乾いた金属接触の代わりにTIMを使う実験結果を示しています。
図5 概念図(ベクター作図)。接触面の平面度・表面粗さ・押し付け力は QSFP-DD 仕様書 Rev 7.1[参考資料1]、熱の主経路とTIMの扱いは QSFP-DD MSA の技術白書[参考資料2]によります。層の構成・部品の位置・厚みの比は模式的なもので、実際のモジュールの断面構造ではありません。
素材技術者の読みどころ:熱界面材料(TIM)が「抜き差し」に耐えなければならない

QSFP-DD の仕様書は、モジュールの平面度と表面粗さを「riding heat sink」を使ったときの熱特性を改善するために規定していると明記しています事実。 電力クラスが上がるほど要求は厳しくなり、クラス5以上では平面度0.050 mm・表面粗さRa 0.8 µm、 任意の強化仕様ではクラス8で0.025 mm・Ra 0.4 µmです事実。

白書は、30 W のモジュールを使った風洞実験で、乾いた金属どうしの接触を基準に 「TIM with durable coating」(耐久性のあるコーティングを施したTIM)で約3℃、 別方式のヒートシンクと別のTIMの組み合わせで合計7℃、モジュールの温度が下がったと報告しています事実。 そのうえで、「addressing the wear and tear due to insertion cycles remains a consideration」 (挿抜の繰り返しによる摩耗への対処は、なお検討課題である)と書いています事実。

ここが素材として面白いところです。 CPU の放熱グリースは、一度塗ったら動きません。 ところがプラガブルモジュールの接触面は、挿すたびにヒートシンクの底面とこすれ合います。 仕様書が定める耐久回数はモジュールで50回、コネクタとケージで100回です事実。

  • 熱伝導:数十µm の平面度のすき間を埋めて、熱抵抗を下げたい
  • 耐摩耗:金属面との摺動を何十回繰り返しても、剥がれず、削れず、粉を出さない
  • 清浄性:すぐ隣に光コネクタがある。削れた粉や揮発成分が光の接続面に付けば、それ自体が損失の原因になる

熱伝導材料とトライボロジー(摩擦・摩耗)材料の要求が、1枚の膜に同時にかかる—— 放熱材料の世界でも珍しい条件です(本記事による解説)。 また白書は、QSFP-DD800 の検討で筐体材料の熱伝導率の改善、接触面の平面度、筐体の設計と厚み、TIM の改善などの比較的単純な最適化で 15〜16℃の温度低減が可能だったとも述べています事実。 筐体の金属材料そのものが、放熱部品として評価されているということです(本記事による解説)。

7. 素材技術者の視点②:本当の温度上限はレーザーにある

暗い背景の中で、平滑に仕上げられた金属ブロックの上面に、細かなフィンを持つ別の金属ブロックが静かに重ねられている様子を低い角度から見た概念イメージ
図6 概念図(AI生成イメージ)。「平滑な金属面どうしが押し当てられて熱を渡す」という状況を雰囲気として表現したものです。実際のモジュール・ヒートシンクの形状、仕上げ、寸法を示すものではありません。

QSFP-DD の仕様書は、モジュールのケース温度を測る点について、 「a point connected to an internal component with the least thermal margin, e.g., a laser diode」 (熱的な余裕が最も小さい内部部品、たとえばレーザーダイオードにつながった点)にすべきだとしています事実。 温度範囲のクラスは、標準で0〜70℃、拡張で−5〜85℃、産業用で−40〜85℃です事実。

素材技術者の読みどころ:箱の温度を測っているのに、見ているのはレーザー

白書はさらに踏み込み、ケース温度の上限(典型的には75℃)だけを目標に設計すると余裕を取りこぼす、と指摘しています事実。 白書に示された例では、ケース温度を基準にすると余裕は2.4℃しかないが、 レーザーの性能に影響が出るまでにはさらに6.2℃の余裕があったとされています事実。

つまり、モジュールの熱設計は「箱を何℃に保つか」ではなく「レーザーを何℃に保つか」の問題です。 そしてレーザーは、筐体の上面からいちばん遠いところにあるとは限りません。

  • レーザーからケースまでの内部の熱の通り道(ダイボンド材、サブマウント、内部のTIM、筐体の厚み)
  • ケースからヒートシンクへの接触面(第6章)
  • ヒートシンクから空気へ

この3段の熱抵抗が直列につながっています。 外側(ヒートシンクと空気)は装置メーカーが、内側(レーザーからケースまで)はモジュールメーカーが設計する—— その境界面をどちらが受け持つかが、MSA の仕様書で線引きされているということです(本記事による解説)。 「半導体レーザー」編で扱うとおり、レーザーは温度で波長も効率も変わります。 熱の材料は、光の性能を直接左右する材料でもあります(本記事による解説)。

8. 課題

(1) 200 Gb/s/レーンのイーサネット規格は、まだ策定の途中

1レーン200 Gb/s を使う 1.6 Tb/s イーサネットは、IEEE P802.3dj で策定が進められています。 目標文書には、1.6 Tb/s を8組のシングルモードファイバで少なくとも500 m/2 km、 8組の銅の同軸ケーブルで少なくとも1.0 m送ることなどが掲げられています事実。 2025年12月のタスクフォース資料では、最短の見通しとして2026年初めに標準化協会(SA)の投票へ進む計画が示されていました事実。 本稿の調査時点(2026年9月)で、IEEE SA の標準ページは P802.3dj を策定中(Active PAR)と表示しており、正式承認は一次情報で確認できませんでした未確定/将来。 QSFP-DD 仕様書も、QSFP-DD1600 は IEEE 802.3dj に「when published」(発行されたとき)準拠する見込み、という書き方をしています事実。

(2) 熱と電源の上限

第5章で見たとおり、仕様上の電力上限は版を重ねるごとに上がってきました事実。 しかし白書が述べるとおり、全ポートに高電力のモジュールを挿す構成は電源の側で実用的でなくなりつつあります事実。 モジュールを冷やす技術と、モジュールの電力そのものを下げる技術は、別々に進める必要があります。 後者の代表が、DSP を省くLPOや、パッケージの近くに光を寄せるNPO/CPOです(本シリーズ「NPOとLPO」編・「Co-packaged Optics」編で詳しく扱います)。

(3) 形が2系統ある

QSFP-DD と OSFP は、どちらも8レーン・1.6 Tb/s に対応していますが、互換性はありません。 OSFP MSA は、OSFP と OSFP-XD も機械的・電気的な違いから互いに挿さらないとしています事実。 QSFP-DD は既存の QSFP との後方互換を最優先に掲げ事実、 OSFP はヒートシンク一体型を標準形とし、ヒートシンクを持たない OSFP-RHS も用意しています事実。 部材メーカーから見ると、筐体・ヒートシンク・ケージの仕様が2系統並走しているということです(本記事による解説)。

(4) 本稿で扱わなかったこと

個別製品の消費電力の実測値、光部品(レーザー・変調器・受光器)ごとの電力内訳、各社のモジュール内部の実装方法は、 本稿が確認できた規格・MSA の公開文書には記載がないため扱っていません。 また調査会社の出荷数量や市場規模の推計は、本シリーズの方針により使用していません。

この記事のまとめ
  • 光トランシーバーは、電気のレーンを光に載せ替える「抜き差しできる箱」です。形は QSFP-DD と OSFP の MSA が決めています事実
  • 容量は「レーン数 × レーン速度」。8 × 200 Gb/s = 1.6 Tb/s、16 × 200 Gb/s = 3.2 Tb/s です本稿の計算
  • OSFP の最大電力は、19.8 W から42.9 W(OSFP1600)へ上がりました事実。約2.2倍です本稿の計算
  • 25 W・1.6 Tb/s なら約15.6 pJ/bitです本稿の計算
  • 放熱の要は、抜き差しでこすれ合う接触面です。平面度は最大0.025 mm(任意仕様)まで締まり、TIMには摩耗耐性が問われています事実
  • 温度の本当の上限はレーザーにあります。ケース温度の測定点もレーザーにつながった点が推奨されています事実
  • 1.6 Tb/s のイーサネット規格(802.3dj)は、本稿の調査時点で正式承認を確認できていません未確定/将来

9. 用語集

光トランシーバー
電気信号と光信号を相互に変換する送受信部品。データセンターでは抜き差しできるモジュール形が主流。
プラガブル
装置の電源を入れたまま抜き差しして交換できる形式。
MSA
Multi-Source Agreement。複数企業が外形・電気・熱などを取り決め、互換品を作れるようにする業界合意。
QSFP-DD
QSFP に接点を1列追加し8レーン化した形。800G版(DD800)、1.6T版(DD1600)がある。
OSFP
8レーンのプラガブル形。ヒートシンク一体型が標準。16レーン版が OSFP-XD。
レーン
1組の差動信号線で運ばれる1本の信号の流れ。モジュール容量はレーン数×レーン速度。
PAM4
4段階の振幅で1記号あたり2ビットを送る方式。「光変調と変調方式」編で詳しく扱う。
CDR/DSP
劣化した電気信号のタイミングを取り直したり、波形を補正したりする回路。
TIA
トランスインピーダンスアンプ。受光素子の微弱な電流を電圧に変えて増幅する回路。
ライディング・ヒートシンク
ケージ側に取り付けられ、挿したモジュールの上面に押し当てられるヒートシンク。
TIM
熱界面材料。2つの面のすき間を埋めて熱を通しやすくする材料。
ケース温度
モジュール筐体上の決められた点の温度。熱設計の管理値として使われる。
CMIS
光モジュールの管理インターフェース仕様。現在は OIF で更新されている。
pJ/bit
1ビットを送るのに使うエネルギー(ピコジュール)。電力÷通信速度で求める。

10. 参考資料(一次情報)

  1. QSFP-DD MSA「QSFP-DD/QSFP-DD800/QSFP-DD1600 Hardware Specification for QSFP Double Density 8X Pluggable Transceivers, Revision 7.1」2024年6月25日(PDF) — qsfp-dd.com
  2. QSFP-DD MSA「Enabling QSFP-DD1600 Ecosystem With Performance-Driven Thermal Innovations」技術白書 2023年9月(PDF) — qsfp-dd.com
  3. QSFP-DD MSA 公式サイト(About Us/FAQ) — qsfp-dd.com
  4. OSFP MSA「Specification for OSFP Octal Small Form Factor Pluggable Modules, Rev 5.22」2025年8月9日(PDF) — osfpmsa.org
  5. OSFP MSA 公式サイト(Frequently Asked Questions) — osfpmsa.org
  6. OSFP MSA「Specification for OSFP-XD, Octal Small Form Factor eXtra Dense Pluggable Module, Rev 1.11」2025年11月23日(PDF) — osfpmsa.org
  7. IEEE 802.3「Adopted IEEE P802.3df Objectives」2022年11月17日(PDF) — ieee802.org
  8. IEEE SA「IEEE 802.3df-2024 ― IEEE Standard for Ethernet Amendment 9: Media Access Control Parameters for 800 Gb/s and Physical Layers and Management Parameters for 400 Gb/s and 800 Gb/s Operation」 — standards.ieee.org
  9. IEEE 802.3「Adopted IEEE P802.3dj Objectives」2024年3月14日(PDF) — ieee802.org
  10. IEEE P802.3dj Task Force「Timeline Consideration」2025年12月9日(PDF) — ieee802.org
  11. IEEE SA「IEEE Draft Standard for Ethernet Amendment 13 ...(P802.3dj)」プロジェクトページ — standards.ieee.org

11. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
QSFP-DD/QSFP-DD800/QSFP-DD1600 がそれぞれ 8×50 Gb/s(または 4×100 Gb/s)で400 Gb/s、8×100 Gb/s で800 Gb/s、8×200 Gb/s で1.6 Tb/s に対応すること。DD800 が112 Gb/s(56 GBd)/レーン、DD1600 が224 Gb/s(112 GBd)/レーンの電気動作で、DD1600 は IEEE 802.3dj に「when published」準拠見込みとされていること。DD1600 が QSFP-DD・QSFP+ と後方互換であること。電力クラス1〜8(1.5/3.5/7.0/8.0/10/12/14/>14 W)とクラス8のホスト設計推奨(「>~20 W」、ビアで厚い銅電源層へ)。平面度・表面粗さ(クラス1〜4:0.075 mm・Ra 1.6 µm、クラス5〜8:0.050 mm・Ra 0.8 µm、任意強化クラス8:0.025 mm・Ra 0.4 µm)が riding heat sink 使用時の熱特性改善のためであること。クラス5以上でヒートシンク押し付け力25 N以上推奨。接点めっきが「Precious」、耐久回数がモジュール50回・コネクタ/ケージ100回。1Uに最大36モジュール。ケース温度の測定点を「least thermal margin, e.g., a laser diode」の部品につながった点とすること。温度クラス(0〜70℃、−5〜85℃、−40〜85℃)QSFP-DD MSA 仕様書 Rev 7.1出典1 http://www.qsfp-dd.com/wp-content/uploads/2024/07/QSFP-DD-Hardware-Rev7.1.pdf事実
riding heat sink が強制空冷への主な放熱経路であること。QSFP-DD1600 の一般的な IMDD モジュール電力が「may be around 25W」。ケース温度上限が典型的に75℃。ケース基準の余裕2.4℃に対しレーザーの性能影響までさらに6.2℃の余裕がある例。30 W モジュールで TIM-A(durable coating)により約3℃、DDHS+TIM-B で合計7℃低下。「addressing the wear and tear due to insertion cycles remains a consideration」。QSFP-DD800 の検討で筐体材料の熱伝導率改善などにより15〜16℃低減。64ポート2Uで50 Wモジュールは冷却可能だが全ポート50 Wは現在の電源では実用的でないこと。1600ZR などのコヒーレントモジュールに触れていることQSFP-DD MSA 技術白書(2023年9月)出典2 http://www.qsfp-dd.com/wp-content/uploads/2023/09/2023-QSFP-DD%20MSA-ThermalWhitepaper.pdf事実
QSFP-DD が QSFP に接点を1列追加して8レーン化したこと。MSA の目的が「mechanical, electrical, thermal and signal-integrity interoperability」の確保であること。後方互換性が「critically important」とされること。CMIS の今後の更新が OIF の下で行われるとの案内QSFP-DD MSA 公式サイト出典3 http://www.qsfp-dd.com/事実
800G DR8 のブロック図(8 x 100G PAM4 CDR、光送信器・光受信器各8、MPO 等のコネクタ)。800GAUI-8(112G-PAM4、53.125 GBaud)、1.6TAUI-8(224G-PAM4、106.25 GBaud)。電源ピン4本で OSFP/OSFP800 は2.5 A×4=10.0 A・30 W超、OSFP1600 は3.25 A×4=13.0 A・40 W超。版ごとの最大電力(Rev1.0 19.8 W、2.0 21.1 W、3.0 21.1 W、4.0 33.0 W、5.0 33.0 W、5.2 OSFP/OSFP800 33.0 W・OSFP1600 42.9 W)OSFP MSA 仕様書 Rev 5.22出典4 https://osfpmsa.org/assets/pdf/OSFP_Module_Specification_Rev5_22.pdf事実
OSFP が8レーンで400G/800G/1.6T に対応し「Up to 36 OSFP ports are supported in 1 U front panel」であること。標準 OSFP がヒートシンク一体型で、OSFP-RHS はヒートシンクを持たないこと。OSFP と OSFP-XD が機械的・電気的な違いから互換でないことOSFP MSA 公式サイト FAQ出典5 https://osfpmsa.org/事実
OSFP-XD が16レーンで 3.2TAUI-16(224G-PAM4、106.25 GBaud、16×200 Gb/s=3.2 Tb/s)に対応すること。電源ピン8本・合計20 A で60 W超OSFP-XD 仕様書 Rev 1.11出典6 https://osfpmsa.org/assets/pdf/OSFP-XD_Specification_Rev1.11.pdf事実
800 Gb/s を8組の SMF で少なくとも500 m/2 km、8組の MMF で少なくとも50 m/100 m、同軸銅ケーブル8レーンで少なくとも2 m 伝送する目標IEEE P802.3df 目標文書出典7 https://www.ieee802.org/3/df/proj_doc/objectives_P802d3df_221117.pdf事実
IEEE 802.3df-2024 が 800 Gb/s の MAC パラメータと 400 Gb/s・800 Gb/s の物理層を追加した改訂であり、2024年に承認・発行された有効な規格であることIEEE SA 規格ページ出典8 https://standards.ieee.org/ieee/802.3df/11107/事実
P802.3dj の目標(1.6 Tb/s を8組の SMF で少なくとも500 m/2 km、8組の同軸銅ケーブルで少なくとも1.0 m など)IEEE P802.3dj 目標文書出典9 https://www.ieee802.org/3/dj/projdoc/objectives_P802d3dj_240314.pdf事実
2025年12月時点で、最短の見通しとして2026年初めに SA 投票へ進む計画が示されていたことIEEE P802.3dj タスクフォース資料出典10 https://www.ieee802.org/3/dj/public/25_1209/dambrosia_3dj_01b_251209.pdf事実
P802.3dj の正式承認。本稿の調査時点で IEEE SA のページは策定中(Active PAR)と表示しており、承認は確認できなかった策定中の規格であり、承認時期は見通しにとどまる出典11 https://standards.ieee.org/ieee/802.3dj/11115/未確定/将来
8×200=1,600、16×200=3,200 の掛け算と図3の棒の長さ。36ポート×1.6 Tb/s=57.6 Tb/s、36×800 Gb/s=28.8 Tb/s。42.9÷19.8≒2.2。25 W÷1.6 Tb/s≒15.6 pJ/bit。36×25 W=900 W、36×42.9 W≒1,544 W本稿の計算。25 W は白書が「may be around」とした目安、36ポートは仕様上の最大値、42.9 W は仕様上の上限であり、いずれも特定製品の実測値ではない本稿の計算
送信器・受信器の内部部品(レーザー、変調器、ドライバ、受光素子、TIA)の一般的な説明。1つのモジュールに化合物半導体・シリコン・ガラス・金属・樹脂が同居するという整理。IEEE・MSA・OIF の3層分担という整理。素材の要求の多くが MSA 仕様書にあるという読み取り。TIM に熱伝導・耐摩耗・清浄性が同時に求められるという読み取り。熱抵抗3段の直列と、境界面を MSA が線引きしているという整理。2系統の形が並走することの部材メーカーにとっての意味公開文書にもとづく本記事の整理・解説。各団体・各社が表明した見解ではない解説
個別製品の消費電力の実測値、光部品ごとの電力内訳、各社の内部実装方法本稿が確認した規格・MSA の公開文書に記載がないため記載していない解説
図1・図2・図5が説明のための作図であること、図3・図4が本稿の計算を含む作図であること。ヒーロー画像と図6がAI生成イメージであること本記事による注記解説

最終更新:2026年9月25日/出典は一次情報(MSA の仕様書・技術白書・公式サイト、IEEE 802.3 の公開文書と IEEE SA の規格ページ)に限定しています。 構造の整理や材料設計上の読み取りを含むため、それらは「解説」として出典付きの事実と区別しています。 個別製品の消費電力の実測値、光部品ごとの電力内訳、各社の内部実装方法は、公開された一次情報で確認できなかったため記載していません。 IEEE P802.3dj は本稿の調査時点で策定中として扱っています。 図はすべて説明用の図です。図1・図2・図5はベクター作図、図3・図4は本稿の計算を含むベクター作図、ヒーロー画像と図6はAI生成イメージであり、いずれも実際の製品の外観・断面・寸法を示すものではありません。