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屋外試験と耐久性評価|ペロブスカイト太陽電池 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

屋外試験と耐久性評価
― 「合格」は寿命の保証ではない

太陽電池モジュールの国際規格IEC 61215は、自らの範囲の説明で「試験結果はモジュール寿命の定量的な予測とは解釈されない」と書いています。 そのうえペロブスカイトには、夜のあいだに性能が戻る「可逆な劣化」のような、シリコンにはない現象があります。 この記事では、IEC 61215、ISOSプロトコル、加速試験と屋外実証の違いを、素材技術者の目線で整理します。

構成:IECの規格(IEC webstoreの公開要約)、ISOSプロトコルの合意文書(Nature Energy)、屋外実証と加速試験の査読論文を一次情報として使用/最終更新 2026年9月

夕方の空と雲の下、平らな台の上に置かれた無地の暗い色の板に、斜めから日の光が当たっている概念イメージ
概念図(AI生成イメージ)。「実際の空の下で、光と天候にさらして確かめる」という屋外試験の考え方を雰囲気として表現したものです。実在の試験場・製品・設備を示すものではありません。
この記事の構成
  1. 耐久性評価とは何か(3行でつかむ)
  2. 3つの物差し ― IEC 61215、ISOS、屋外実証
  3. IEC 61215 ― 設計の認定であって、寿命の予測ではない
  4. 素材技術者の視点①:シリコン用の試験は、シリコンの壊れ方を探すためのもの
  5. ISOSプロトコル ― 研究室どうしで比べるための共通の手順
  6. 素材技術者の視点②:夜に戻る劣化 ― 可逆性をどう評価するか
  7. 加速試験と屋外の対応 ― UVの例
  8. 本稿の計算:試験の光量は、屋外の何年分か
  9. 屋外実証の報告
  10. 素材技術者の視点③:加速係数は材料が決める
  11. 課題と、本稿で確認できなかったこと
  12. 用語集/参考資料/出典対応表
本記事の表記ルール

事実=公表資料・査読論文・規格の公開要約に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・目標・見通しであり、実績が確認できていない事項
このほか、構造の整理や材料・評価上の読み取りは「解説」として区別しています。 規格の本文は有料のため、本記事ではIEC webstoreに公開されている名称と範囲の記載と、それを引用した査読論文の記述にとどめています。

1. 耐久性評価とは何か(3行でつかむ)

  • 求められる寿命:ISOSプロトコルの合意文書(Khenkinら、Nature Energy 2020)は、発電所のモジュールに期待される寿命を20〜25年とし、これはシリコンウエハー系モジュールの信頼性に合わせたものだと書いています事実
  • 何で確かめるか:製品の認定試験(IEC 61215など)、研究室どうしで結果を比べるための手順(ISOS)、実際の屋外での実証——の3つが使われます
  • ペロブスカイト特有の難しさ:同文書は、IEC 61215などの既存の認定試験はシリコンパネルのよく理解された劣化モードを見つけるために設計されたもので、材料とデバイス構造が根本的に異なるペロブスカイトには十分に適さない可能性が高いとしています事実
この記事でいちばん大事な一行

加速試験の「○○時間」と、屋外での「○年」は、材料ごとの仮定を通してしか結びつきません。 IEC 61215-1:2021は範囲の説明で、認定されたモジュールの実際の使用寿命は設計・環境・運転条件で決まり、 試験結果はモジュール寿命の定量的な予測とは解釈されないとしています事実。

2. 3つの物差し ― IEC 61215、ISOS、屋外実証

耐久性を確かめる3つの物差し(本記事による整理) IEC 61215 ISOSプロトコル 屋外実証(ISOS-O など) 対象:モジュール 目的:設計の認定・型式承認 判定:合格・不合格がある 試験:ダンプヒート、温度 サイクル、UV前処理など 寿命の定量予測ではない 対象:主に研究室規模のセル 目的:研究室間で比べられる 条件をそろえること 判定:合格・不合格はない 暗所・光・熱・湿度・電圧など 劣化の仕組みを調べる 対象:セル〜パネル・発電所 条件:天候・場所・季節で 変わり、再現できない 最も実運用に近い 加速係数の基準点になる 時間がかかる ※ IEC 61215 は IEC webstore の範囲の記載[参考資料2・3]、ISOS と屋外試験は Khenkin らの合意文書[参考資料1]によります。 ※ 3つに分けて並べたのは本記事による整理です。試験項目は代表例で、すべてではありません。 ※ ISOS の試験は IEC の認定試験の代わりを意図したものではない、と合意文書自身が述べています。
図1 概念図(ベクター作図)。各項目はIEC webstoreの規格ページ[参考資料2・3]とKhenkinらの合意文書[参考資料1]の記述によります。3つに分けて並べたのは本記事による整理で、試験項目は代表例です。

3. IEC 61215 ― 設計の認定であって、寿命の予測ではない

規格IEC webstoreの範囲の記載(要約)
IEC 61215-1:2021(試験要求)屋外の気候で長期に運転するのに適した地上用PVモジュールの設計認定の要求事項。認定されたモジュールの使用寿命は設計・環境・運転条件で決まり、試験結果は寿命の定量的予測とは解釈されない。結晶シリコンと薄膜を含むすべての地上用平板モジュールが対象。日よけやテントに付けるフレキシブルモジュールのような長期用途でないものには適用しない。第2版でフレキシブルモジュールの試験(曲げ試験 MQT 22)や両面受光モジュールの扱いを追加
IEC 61215-2:2021(試験手順)試験の目的は、モジュールの電気的特性を求め、費用と時間の妥当な制約の中でできる限り、屋外での長期の暴露に耐えられることを示すこと。第2版で動的機械荷重試験(MQT 20)、電圧誘起劣化の検出試験(MQT 21)、曲げ試験(MQT 22)を追加し、モノリシック集積型の薄膜向けホットスポット試験の手順を修正

すべて事実(IEC webstore[参考資料2・3])。規格の本文は有料のため、試験条件の詳細は本文で確認していません。

代表的な試験条件は、規格を引用した査読論文から読み取れます。Marianiら(2024年)は、IEC 61215のダンプヒート試験を85 ℃・相対湿度85%で1,000時間以上、温度サイクル試験を−40 ℃〜85 ℃のあいだで200サイクル以上、いずれも効率の保持80%超の目安として紹介し、湿度凍結試験にも触れています事実。 屋外実証を行ったZhangら(2025年)は、IEC 61215が定める光の照射量は15 kWh/m²にすぎず、実際の運転で受ける累積量よりはるかに少ないと指摘しています事実。

4. 素材技術者の視点①:シリコン用の試験は、シリコンの壊れ方を探すためのもの

素材技術者の読みどころ:試験は「知っている壊れ方」を見つける網

Khenkinらの合意文書は、IEC 61215のような既存の認定試験はシリコンパネルの屋外性能を念頭に、モジュールレベルの問題に結びついた「よく理解された劣化モード」を選別するために設計されたとし、 ペロブスカイトなどは材料の性質とデバイス構造が根本的に違うため適さない可能性が高い、としています事実。 同文書は、既存の手順ではこれらのデバイスの安定性を十分に評価できないことが、さまざまな報告で示されているとも書いています事実。

ペロブスカイトに特有とされるのは、たとえば次のような現象です(同文書による)事実。

  • 光照射によるイオン・欠陥の移動と相分離(光照射試験 ISOS-L で促進される)
  • 紫外光による分解や、メソポーラスTiO2を使う構造での非発光再結合の増加
  • 電場によるイオンの再配置(暗所で電圧をかける ISOS-V を新たに提案)
  • 暗所で全部または一部が戻る劣化(光暗サイクル ISOS-LC を新たに提案)
  • MAPbI3などで実用温度域に相転移があること

認定試験は、「過去の製品で起きた壊れ方」を効率よく見つけるための網です。 網の目がシリコンの壊れ方に合わせてあるなら、別の材料の壊れ方はすり抜けるかもしれないし、逆にシリコンでは問題にならない条件で過剰に落ちるかもしれない。 新材料を認定試験だけで評価するのではなく、劣化の仕組みを材料側から特定し、それに合った加速条件を設計することが必要になる、ということです(本記事による解説)。

5. ISOSプロトコル ― 研究室どうしで比べるための共通の手順

ISOSプロトコルは、2010年にデンマークのロスキレで開かれた「有機太陽電池の安定性に関する国際サミット(ISOS)」で合意され、2011年に有機薄膜太陽電池向けに発表された試験手順です。 2020年のKhenkinらの合意文書は、これをペロブスカイト向けに拡張しました事実。

  • 合否はない:IECの認定試験と違い、セルはISOSの試験に「合格」も「不合格」もしない。主に研究室規模のデバイスを対象に、異なる研究室の試験結果を比べられるようにするためのもの事実
  • 認定試験の代わりではない:既存の認定規格の置き換えを意図したものではなく、安定性評価をそろえ、故障モードを理解することが目的事実
  • 3つのレベル:各試験群に、基本(レベル1)・中級(レベル2)・上級(レベル3)がある。レベル1は一般的な装置でできるが、ストレス因子の制御は弱く、最低限の要求とされる。レベル2・3は環境試験槽や最大出力点追従(MPPT)装置が要る事実
試験群ストレス主な条件(合意文書の表より)
ISOS-D(暗所保管)大気成分・温度・湿度D-1:室内の大気。D-2:65または85 ℃。D-3:65または85 ℃・相対湿度85%(ダンプヒート)
ISOS-V(暗所での電圧印加)電気的バイアス暗所で電圧をかけ、イオン移動による劣化を調べる(ペロブスカイト向けに新たに提案)
ISOS-L(光照射)光・温度・湿度L-1:室温の大気で擬似太陽光。L-2:65または85 ℃。L-3:65または85 ℃・相対湿度約50%、MPPで保持
ISOS-O(屋外)自然の太陽光と天候O-1:定期的に擬似太陽光で測る。O-2:自然光で測る。O-3:自然光のもとでその場でMPPTし、定期的に擬似太陽光でも測る
ISOS-T(温度サイクル)温度変化T-3:−40 〜 +85 ℃(相対湿度55%未満)
ISOS-LC(光暗サイクル)光のオン・オフ周期2・8・24時間、明暗比1:1または1:2。24時間周期(12時間明・12時間暗など)は日周期をまねる

すべて事実(Khenkin ほか 2020[参考資料1])。このほか、封止の影響を除いて内部の安定性を調べる不活性雰囲気下の試験群(ISOS-I)も提案されています。

何をかけると、何が起きるか(ISOS合意文書の記述からの整理) 光(とくに紫外) 熱(65・85 ℃) 大気・湿度 電圧(電場) 光のオン・オフ イオン・欠陥の移動、相分離、分解の促進 メソポーラスTiO2 構造では紫外で非発光再結合が増える 吸収材料・輸送層の化学的・構造的な不安定化 実用温度域に相転移をもつ組成がある トラップや電荷障壁の形成、ペロブスカイトの分解 乾燥(20%RH未満)と多湿では、まったく別のストレス イオンの再配置による劣化 暗所での電圧印加試験(ISOS-V)を新たに提案 暗所で戻る劣化・光で上がる性能(準安定性) サイクルを重ねると回復が鈍る「疲労」も報告 ※ 各項目は Khenkin らの合意文書[参考資料1]の記述によります。矢印で1対1に対応させたのは本記事による整理で、実際には複数の因子が重なります。 ※ 劣化の仕組みそのものは、本シリーズ「イオン移動と劣化」編で扱います。
図2 概念図(ベクター作図)。ストレスと劣化の内容はKhenkinらの合意文書[参考資料1]の記述によります。1対1の矢印で結んだのは本記事による整理で、実際には複数のストレスと劣化の仕組みが同時に関わります。

同文書は、報告の再現性を高めるためのチェックリストも示しています。 たとえばJ-V測定なら、光源の種類・強度・スペクトル・フィルター・校正、走査速度と向き、保持時間、前処理を、MPPTならハードウェアと追従アルゴリズム・遅延時間・追従時間を、EQEなら計算したJscとJ-VのJscの比較を報告するよう求めています事実。 測定の方法そのものは、本シリーズ「変換効率と評価指標」編で扱いました。

6. 素材技術者の視点②:夜に戻る劣化 ― 可逆性をどう評価するか

素材技術者の読みどころ:「いつ測ったか」で、劣化量が変わる

Khenkinらの合意文書は、ペロブスカイトのさまざまな劣化モードが暗所で全部または一部元に戻ること(準安定性)が繰り返し示されてきたとし、 そのため光と暗をくり返す試験は、光を当て続ける試験とは大きく異なるストレスになると書いています事実。

  • 報告されている動きは2種類ある。光で効率が上がり暗所で下がるものと、光で劣化して暗所で回復するもの事実
  • 可逆な性能低下は、陽イオンの再配置、準安定な欠陥の形成、可逆な化学反応によるとされる事実
  • 暗所で下がり光で戻るセルで、光暗サイクルを重ねるごとに回復の速さが落ちていく「疲労」も報告されている事実
  • そのため、試験後に暗所に置いて回復を追跡すること、J-V測定の前の負荷と回復時間を厳密に記述することが勧められている事実

素材の信頼性評価に慣れた技術者にとって、これは「劣化量は、試験直後に測るか、一晩おいてから測るかで変わる」ということです。 屋外では毎日が光暗サイクルなので、夜の回復が昼の劣化をどれだけ打ち消すかが、年単位の発電量を左右します。 言い換えると、連続光照射の加速試験は、回復の機会を与えないぶん、厳しすぎる評価にも、回復しない劣化を見落とす評価にもなりうるということです(本記事による解説)。

7. 加速試験と屋外の対応 ― UVの例

Khenkinらの合意文書は、屋外試験(ISOS-O)の条件は天候・場所・季節に左右されて再現できないが、結果は実運用に最も関係が深く、特定の気候についての現実的な寿命の評価に直接使えるとしています。 さらに屋外試験は、研究室で見つけた故障モードの一覧が十分かどうかを確かめ、屋外での寿命と加速条件での寿命を結びつける「加速係数」の基準点になると書き、 シリコンモジュールではこの方法がIEC 61215の確立に役立ったと紹介しています事実。

この考え方をペロブスカイトで試した例が、Zhangら(2025年、Nanoscale Advances)です。 杭州のMicroquanta Semiconductor社と、中国三峡集団・中国華電集団の研究者によるもので、同じ製造ロットのサブモジュールを、屋外と紫外線の加速試験槽に分けて比べています事実。

項目論文の記載
屋外の設備2021年4月、中国浙江省衢州市(湿潤亜熱帯)に、30 cm×40 cmのサブモジュール20枚(各約13 W、計約260 W)の小さな発電所を設置。FA0.9Cs0.1PbI3系、逆型(p-i-n)構造。傾斜20°の固定架台
屋外3年の結果2021年4月〜2024年3月の連続運転で、平均の変換効率の低下は2.83%。年平均の性能比(PR)は102.10%→101.90%→101.30%(3年で0.78%の低下)。1年目の屋外での効率低下は1.6%
加速試験紫外(UVA・UVB)に加えて390〜455 nmの青紫光を強めた光源で、65 ℃・紫外線量60 kWh/m²(14日間)を照射し、効率の保持は96.86%(低下3.14%)。著者らは約2年分の屋外劣化を再現するとした
UV量の見積もりAM1.5Gスペクトルのこの紫外域は約38.8 W/m²(全体の約4.5%)。衢州の等価日照時間は年1,200〜1,600時間で、年間の紫外線量は約47〜60 kWh/m²と見積もった
封止の確認同じ設計のモジュールで85 ℃・85%RHのダンプヒート3,000時間を行い、効率の低下はわずかで、劣化は水分の侵入ではなく材料と光物理過程に由来すると結論
規格との関係ペロブスカイト固有の信頼性試験の枠組みと、策定中の国際規格IEC TS 63624-1を支持する結果だとしている

すべて事実(Zhang ほか 2025[参考資料5])。PRが100%を超えているのは、論文の定義(STC出力に対する実出力の比)にもとづく値です。IEC TS 63624-1の内容は、本稿では規格の公開情報で確認できていません。

8. 本稿の計算:試験の光量は、屋外の何年分か

本稿の計算:紫外線量を「屋外の年数」に換算する

前提(すべてZhangらの論文の数字を使う)本稿の計算

  • AM1.5Gの該当紫外域の放射照度 38.8 W/m²、等価日照時間 年1,200〜1,600時間
  • 年間紫外線量 = 38.8 W/m² × 1,200〜1,600 h = 約47〜62 kWh/m²(論文の見積もり「約47〜60」とほぼ同じ)
試験の紫外線量屋外の年数への単純換算かかった時間
15 kWh/m²(IEC 61215の照射量として論文が紹介)約0.24〜0.32年—
60 kWh/m²(論文の加速試験)約1.0〜1.3年14日(65 ℃)
180 kWh/m²(論文が追加で示した照射量)約2.9〜3.9年—
  • 時間の圧縮:60 kWh/m²を14日で当てると、紫外線量だけで見て屋外の約1.0〜1.3年分を14日に縮めたことになり、約25〜34倍の加速
  • 屋外の劣化速度:3年で2.83%の低下を一定の速さとみなすと、年あたり約0.94%

読み方:論文の要旨は、60 kWh/m²で「約2年分」の屋外劣化を再現するとしていますが、紫外線量だけで単純に換算すると約1.0〜1.3年分になります。 論文本文は、加速試験の低下(3.14%)が屋外1年目(1.6%)より大きいことを「紫外線量の増加と試験温度の上昇」で説明しています事実。 つまり「何年分」という換算は、紫外線量だけでなく、温度や青紫光の強さの効き方についての仮定に依存します。

前提と限界:単純換算は紫外線量が劣化を決めると仮定したもので、温度・湿度・光暗サイクル・可視光の影響は含めていません。この計算は論文の結論を否定するものではなく、換算に置かれた仮定を見えるようにするためのものです。

試験の紫外線量は、屋外の何年分か(本稿の計算) 年間の紫外線量を約47〜62 kWh/m²(Zhang らの数字から算出)として単純換算。帯の幅は換算の幅 0年 1年 2年 3年 4年 15 kWh/m² 約0.24〜0.32年 60 kWh/m² 約1.0〜1.3年(単純換算) 論文要旨の「約2年分」 180 kWh/m² 約2.9〜3.9年 ※ 15 kWh/m² は Zhang ら[参考資料5]が「IEC 61215 の照射量」として紹介した値、60・180 kWh/m² は同論文の加速試験の値です。 ※ 帯の位置と幅は本記事が紫外線量だけで単純換算した値で、公表値ではありません。温度・湿度・可視光の効果は含みません。 ※ 点線は論文の要旨にある換算で、温度や青紫光の効果も含めた著者らの判断です。
図3 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。紫外線量と年間の見積もりに使った数字はZhangら[参考資料5]によります。屋外年数への換算は本記事が紫外線量だけで単純に行ったもので、公表値ではありません。論文要旨の「約2年分」は、著者らが温度などの効果も含めて示した換算です。

9. 屋外実証の報告

Khenkinらの合意文書(2020年)の時点では、ペロブスカイトの屋外安定性の研究はまだ少ないとされていました。 それでも、光暗サイクルの重要性や、低照度で予想外に高い開放電圧などの知見が得られていたとしています事実。 その後、次のような報告が出ています。

報告対象と場所期間と結果
Zhang ら 202530×40 cmのサブモジュール20枚(約260 W)、中国浙江省衢州市3年間で平均効率の低下2.83%、年平均PRは102.10%→101.30%
Yang ら 2026(Nature)モジュール、屋外のリアルタイム実地試験258日後に初期のモジュール効率の85.8%を保持
Nikbakht ら 2025156 cm²モジュールをつないだ0.73 m²のパネル、ギリシャ・クレタ島の試験場屋外条件で最大12.0%の効率。屋外でのMPPTで評価

すべて事実([参考資料5・6・7])。構造・封止・気候・期間・評価方法がそれぞれ異なり、互いに比べられる数字ではありません。

本稿の計算:2つの屋外報告を「年あたり」にそろえてみると

前提:劣化が一定の速さで進むと仮定して年換算する本稿の計算

  • Zhangら:3年で2.83% → 年あたり約0.94%
  • Yangら:258日で14.2%(100 − 85.8)→ 14.2 × 365 ÷ 258 = 年あたり約20%

同じ「屋外実証」でも、年換算した劣化の速さは20倍以上違います。 前提と限界:劣化が一定の速さで進むとは限らず(初期に速く、後で遅くなるなど)、構造・封止・気候・評価の定義も違います。 この計算は、1つの屋外報告の数字を「ペロブスカイトの寿命」として一般化できないことを示すためのものです。

広い空の下、簡素な金属の台の上に無地の暗い色の小さな板がいくつか傾けて並べられている概念イメージ
図4 概念図(AI生成イメージ)。屋外に試料を並べて長期間さらす「屋外実証」の状況を雰囲気として表現したものです。実在の試験場・製品・発電所を示すものではありません。

10. 素材技術者の視点③:加速係数は材料が決める

素材技術者の読みどころ:「どの波長が効くか」は材料の性質

Zhangらの加速試験で目を引くのは、紫外(UVA・UVB)だけでなく390〜455 nmの青紫光を加え、その強さをAM1.5Gの約4倍にしている点です。 著者らは、この高エネルギー域を含めることがトラップ準位の形成やイオン移動などを通じて劣化を加速するため重要だとしています事実。

高分子の耐候性試験でも、どの波長域が効くか(作用スペクトル)は材料ごとに違い、それに合わない光源では屋外との相関が取れないことが知られています。 ペロブスカイトでも同じで、「規格の光源で何時間」ではなく「その材料を壊す波長と温度で、屋外の何倍か」を材料側から決める必要がある、ということです(本記事による解説)。

もう1つの示唆は、同論文がダンプヒート3,000時間で封止の健全性を別に確かめ、光による劣化と水分侵入による劣化を切り分けていることです事実。 加速試験で1つのストレスを強めるときは、他の壊れ方が紛れ込んでいないことを別の試験で確かめる——複合劣化を扱う材料評価の基本がここでも効いています(本記事による解説)。 封止の話は本シリーズ「封止とバリア層」編で扱いました。

11. 課題と、本稿で確認できなかったこと

(1) ペロブスカイト専用の規格

Zhangらは、策定中の国際規格としてIEC TS 63624-1に触れていますが事実、 本稿の調査では、IEC webstoreなどの公式な公開情報でその名称・範囲・発行状況を確認できなかったため、内容は記載していません未確定/将来。

(2) 20〜25年の実績はまだない

Khenkinらが示す20〜25年という期待寿命に対して、本稿で確認できた屋外実証の最長は3年(Zhangら)です事実。 20年以上の屋外実績は、技術の歴史からみてまだ存在しえません。長期の寿命は加速試験と劣化モデルからの推定に頼る段階です未確定/将来。 発電コストへの影響は、本シリーズ「均等化発電原価」編で扱います。

(3) 企業の耐久性表示

企業が「○年相当」と示す耐久性の多くは、加速試験からの換算です。 換算に使った試験条件(光・温度・湿度・サイクル)と、屋外との対応づけの根拠が公開されているかを確認して読む必要があります(本記事による解説)。

この記事のまとめ
  • IEC 61215は設計の認定で、試験結果は寿命の定量的予測ではありません事実
  • 既存の認定試験はシリコンのよく理解された劣化モードを探すためのもので、ペロブスカイトには十分に適さない可能性が高いとされています事実
  • ISOSは合否のない共通手順で、暗所・電圧・光・屋外・温度サイクル・光暗サイクルの試験群と3つのレベルがあります事実
  • ペロブスカイトには夜に戻る劣化があり、光暗サイクルは連続光照射と別のストレスです事実
  • 紫外線量だけで換算すると、60 kWh/m²は屋外の約1.0〜1.3年分。「何年分」は仮定次第です本稿の計算
  • 屋外実証の劣化速度は、報告によって年換算で20倍以上違います本稿の計算

12. 用語集

IEC 61215
地上用PVモジュールの設計認定・型式承認の国際規格。Part 1が試験要求、Part 2が試験手順。
設計認定(型式承認)
ある設計のモジュールが、決められた一連の試験に耐えることを確かめること。
ISOSプロトコル
有機太陽電池から始まり、ペロブスカイト向けに拡張された安定性試験の共通手順。合否はない。
ダンプヒート試験
高温・高湿(例:85 ℃・85%RH)に長時間置く加速試験。
温度サイクル試験
低温と高温(例:−40 ℃と85 ℃)を繰り返す試験。熱膨張の差による損傷を見る。
光暗サイクル(ISOS-LC)
光のオン・オフを繰り返して、劣化と回復を調べる試験。
準安定性(可逆な劣化)
光や電圧で性能が変わり、条件を戻すと全部または一部が元に戻る性質。
加速係数
加速試験の時間が、実際の使用環境の何倍の時間に相当するかを表す係数。
性能比(PR)
実際の発電量を、STCでの出力と日射量から見積もった理論発電量で割った比。
等価日照時間
日射量を1,000 W/m²の「1 sun」の時間に換算した値。
MPPT
最大出力点追従。負荷を調整して最大出力点で動作させ続けること。
作用スペクトル
劣化などの反応が、どの波長の光でどれだけ起きるかを表したもの。

13. 参考資料(一次情報)

  1. Khenkin MV, Katz EA, Abate A ほか「Consensus statement for stability assessment and reporting for perovskite photovoltaics based on ISOS procedures」Nature Energy 5, 35–49 (2020)(出版社PDF) https://www.nature.com/articles/s41560-019-0529-5.pdf
  2. IEC「IEC 61215-1:2021 Terrestrial photovoltaic (PV) modules - Design qualification and type approval - Part 1: Test requirements」IEC webstore https://webstore.iec.ch/en/publication/61345
  3. IEC「IEC 61215-2:2021 Terrestrial photovoltaic (PV) modules - Design qualification and type approval - Part 2: Test procedures」IEC webstore https://webstore.iec.ch/en/publication/61350
  4. Mariani P ほか「Low-temperature strain-free encapsulation for perovskite solar cells and modules passing multifaceted accelerated ageing tests」Nature Communications 15, 4552 (2024)(PMC全文) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11137052/
  5. Zhang L, Liu D, Du G ほか(Microquanta、中国三峡集団、中国華電集団)「Report on the relevance of perovskite module outdoor ageing performance and indoor UV degradation trend」Nanoscale Advances 7, 6248–6256 (2025)(PMC全文) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12380093/
  6. Yang T, Zhao E, Wu N ほか「Stereoelectronic manipulation of ligands for perovskite solar cells」Nature 654, 660–667 (2026)(PMC全文) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13275290/
  7. Nikbakht H ほか「Upscaling Perovskite Photovoltaics: from 156 cm² Modules to 0.73 m² Panels」Advanced Science 12, 2416316 (2025)(PMC全文) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12165116/

14. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
発電所のモジュールの期待寿命が20〜25年でシリコンに合わせたものであること。既存の認定試験(IEC 61215など)がシリコンのよく理解された劣化モードを選別するためのもので、ペロブスカイトなどには適さない可能性が高く、既存手順で十分に評価できないことが報告されていること。ISOSが2010年ロスキレのサミットで合意され2011年に発表されたこと、2020年にペロブスカイト向けに拡張したこと。合否がなく研究室間の比較が目的であること、認定規格の置き換えではないこと。3レベルとレベル1が最低要求であること。ISOS-D・V・L・O・T・LC・Iの内容と条件。光によるイオン・欠陥の移動と相分離、紫外による分解とTiO2構造での非発光再結合、電場によるイオン再配置、相転移、乾燥と多湿の違い。可逆劣化の2種類の動き、原因、疲労、回復の追跡と負荷・回復時間の記述の推奨。屋外試験が再現できないが最も実運用に関係し、故障モードの確認と加速係数の基準点になり、シリコンでIEC 61215の確立に役立ったこと。2020年時点で屋外研究が少なく、光暗サイクルの重要性と低照度での高いVocが分かっていたこと。報告のチェックリスト出典1 https://www.nature.com/articles/s41560-019-0529-5.pdf事実
IEC 61215-1:2021の範囲(長期運転に適したモジュールの設計認定、寿命は設計・環境・運転条件で決まり試験結果は寿命の定量的予測とは解釈されないこと、適用対象と除外、第2版での曲げ試験MQT 22と両面受光の追加)出典2 https://webstore.iec.ch/en/publication/61345事実
IEC 61215-2:2021の目的(費用と時間の制約の中で屋外の長期暴露に耐えることを示す)と、MQT 20・21・22の追加、モノリシック集積型薄膜のホットスポット試験の修正出典3 https://webstore.iec.ch/en/publication/61350事実
IEC 61215のダンプヒート(85 ℃・85%RH・1,000時間以上)と温度サイクル(−40〜85 ℃・200サイクル以上)、効率保持80%超の目安、湿度凍結試験の紹介出典4 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11137052/事実
著者の所属(Microquanta、中国三峡集団、中国華電集団)。衢州市のサブモジュール20枚(30×40 cm、各約13 W、計約260 W)、FA0.9Cs0.1PbI3系p-i-n、傾斜20°。3年で平均効率低下2.83%、年平均PR 102.10・101.90・101.30%(0.78%低下)、1年目1.6%。青紫光(390〜455 nm、AM1.5Gの約4倍)を含む光源、65 ℃・60 kWh/m²・14日で保持96.86%、約2年分とする要旨。38.8 W/m²(約4.5%)と年1,200〜1,600時間で年47〜60 kWh/m²。ダンプヒート3,000時間で劣化は材料と光物理過程由来と結論。IEC 61215の照射量15 kWh/m²が実運用より少ないとの指摘。IEC TS 63624-1への言及。トラップ形成やイオン移動で加速するとの説明出典5 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12380093/事実
モジュールが258日の屋外リアルタイム試験で初期効率の85.8%を保持したこと出典6 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13275290/事実
0.73 m²パネルがクレタ島の試験場で屋外条件で最大12.0%、屋外でのMPPTによる評価出典7 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12165116/事実
年間紫外線量 38.8×1,200〜1,600=約47〜62 kWh/m²。15・60・180 kWh/m²の屋外年数換算(約0.24〜0.32年、約1.0〜1.3年、約2.9〜3.9年)。60 kWh/m²を14日で当てたときの約25〜34倍。3年2.83%で年約0.94%。258日14.2%で年約20%本稿の計算。紫外線量のみで劣化が決まる、劣化が一定速度で進むとの仮定は本稿の前提。温度・湿度・光暗サイクル・可視光の効果は含まない本稿の計算
IEC TS 63624-1の名称・範囲・発行状況。20年以上の屋外実績公式な公開情報で確認できなかった、または技術の歴史上まだ存在しえないため、将来の事項として扱った(解説)未確定/将来
3つの物差しの整理。試験を「知っている壊れ方」を見つける網とする読み取り。可逆劣化と測定のタイミング、連続光照射試験が厳しすぎる/見落とす可能性の読み取り。作用スペクトルの考え方と、材料側から加速条件を決める必要性の読み取り。他のストレスの紛れ込みを別試験で確かめるという整理。企業の耐久性表示の読み方公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各機関・著者が表明した見解ではない解説
図1・図2・図3が実際の試験データではなく説明のための作図であること。ヒーロー画像と図4がAI生成イメージであること本記事による注記(解説)解説

最終更新:2026年9月25日/出典は一次情報(IEC webstoreの規格ページ、ISOS合意文書、査読論文)に限定しています。 規格の本文は有料のため、名称と範囲の公開要約、およびそれを引用した査読論文の記述の範囲にとどめています。 IEC TS 63624-1の内容と発行状況は、本稿では公式な公開情報で確認できなかったため記載していません。 紹介した屋外実証の数値は、構造・封止・気候・期間・評価方法が異なり、互いに直接比較できるものではありません。 図はすべて説明用の概念図です。図1・図2・図3はベクター作図、ヒーロー画像と図4はAI生成イメージであり、いずれも実際の試験場・装置・製品を示すものではありません。