TECHNOLOGY EXPLAINER
ロールツーロールと大面積化
― 面積を広げると、なぜ効率が下がるのか
ペロブスカイト太陽電池の最高効率は、1 cm²にも満たない小さなセルで出ています。 モジュールにするには、大きな膜を細い短冊に切り分けて直列につなぐ必要があり、 その切れ目と電極の抵抗が効率を削ります。この記事では、P1〜P3スクライブ、面積と効率の関係、 ロールツーロール(R2R)生産の現在地を、素材技術者の目線で整理します。

- 大面積化とは何か(3行でつかむ)
- 大きな1枚ではなく、細い短冊の直列 ― P1・P2・P3スクライブ
- 「有効面積」と「開口面積」 ― 効率の数字は面積の定義で変わる
- 面積を広げると効率が下がる4つの理由
- 本稿の計算:短冊の幅には最適値がある
- 素材技術者の視点①:透明電極のシート抵抗が、短冊の幅を決める
- 素材技術者の視点②:P2は「接触抵抗」の問題である
- ロールツーロール ― 全工程を巻きながらつくった実証
- 本稿の計算:アニール時間がラインの長さを決める
- 国内のパイロット・量産計画
- 課題と、本稿で確認できなかったこと
- 用語集/参考資料/出典対応表
事実=公表資料・査読論文に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・目標・見通しであり、実績が確認できていない事項
このほか、構造の整理や材料・プロセス上の読み取りは「解説」として区別しています。
1. 大面積化とは何か(3行でつかむ)
- 大きな1枚のセルはつくらない:NRELのレビューは、大面積の基板に1個のセルをつくるのは実用的でないとしています。透明電極の中を電流が長い距離流れると、抵抗による損失が大きくなるからです。そこで大きなセルを小さなサブセルに分け、直列につないでモジュールにします事実
- つなぎ目は発電しない:直列接続の部分はモジュール面積のおおむね3〜10%を占め、発電しないため、モジュールの大きな損失要因になるとされています事実
- R2Rは「巻きながらつくる」:フレキシブルな基材をロールから送り出し、塗工・乾燥・加工を連続で行って巻き取る方式です。2024年にはCSIROなどのグループが、全工程をR2Rの印刷装置で、大気中でつくった直列接続モジュールを初めて報告しています事実
大面積化で効率が下がるのは、「塗りムラ」だけのせいではありません。 短冊に切り分けるための発電しない面積と、透明電極の抵抗という、設計で決まる損失が必ず加わります。 ローマ・トルヴェルガタ大学などのグループは、セルからモジュールへの損失を「つなぎ目の面積の損失」「透明電極の抵抗損失」「P2接触の抵抗損失」の3つに分け、 さらに欠陥の寄与は計算とのずれとして評価しています事実。
2. 大きな1枚ではなく、細い短冊の直列 ― P1・P2・P3スクライブ
CdTeやCIGSなどの薄膜太陽電池と同じく、ペロブスカイトのモジュールも基板全面に層を積んでから、レーザーや機械的な刃で溝を切ってセルを分ける方法でつくられます。 溝は3種類あり、P1・P2・P3と呼ばれます事実。
| 溝 | 何を切るか | 目的 | 報告されている寸法の例 |
|---|---|---|---|
| P1 | 下部の透明電極(TCO) | 隣り合うセルの下部電極を絶縁する | レーザー1本・幅15 µmで十分に絶縁できた |
| P2 | 透明電極の上の層をすべて(透明電極は残す) | 後から付ける上部電極を、隣のセルの透明電極に接触させて直列につなぐ | 幅60〜300 µmで検討。平行な溝を10 µm間隔で重ねて幅を確保 |
| P3 | 上部電極(と下の層) | 隣り合うセルの上部電極を分離する | 幅90〜150 µmで良好に絶縁。上部電極の下の層がレーザーの熱で傷みやすく、P1より難しい |
すべて事実(Di Giacomo ほか 2020[参考資料3]。紫外ナノ秒レーザーによる逆型(p-i-n)構造の例)。P1〜P3の間の発電しない部分は、3本の溝と2つの安全帯でできています。
NRELのレビューは、レーザースクライブが低コスト・高速・高精度で量産に向き、全工程レーザーで幾何学的フィルファクター(GFF)94%のモジュールが示されていると紹介しています。 一方で、ペロブスカイトは他の薄膜太陽電池材料より熱に弱いため、溝の近くで材料が劣化したり、削った材料が再付着したりするおそれがあるとも指摘しています事実。
溝を切らずに、必要な場所だけに各層を印刷する方法もあります。ただし層ごとに位置合わせが要り、解像度がレーザーより低いため、発電しない面積が大きくなりやすいとされています事実。
3. 「有効面積」と「開口面積」 ― 効率の数字は面積の定義で変わる
NRELのレビューは、従来の太陽電池ではつなぎ目をすべて含む開口面積(指定照射面積)で効率を報告するのが確立した慣行だとしています。 ところがペロブスカイトのモジュール効率には、つなぎ目を除いた「有効面積」での値が報告されている例があり、その場合はGFFも併記しないと正しく比較できない、と注意を促しています事実。
| 報告 | 面積 | 有効面積の効率 | 開口面積の効率 | GFF |
|---|---|---|---|---|
| Rakocevic ら 2017 | 4 cm² | — | 最高15.3% | 最高94% |
| Yang ら 2018(NREL) | 開口 約10.36 cm² | 17.9% | 15.6%(安定化) | 約87.3% |
| Di Giacomo ら 2020 | 有効 10.2 cm² | 15.9% | 14.5% | 90.9% |
| Nikbakht ら 2025 | 開口 156 cm²(有効150.4 cm²) | 17.68% | 論文の要旨・本文の該当箇所では確認できず | 96.4% |
すべて事実([参考資料4・5・3・6])。いずれも論文内の測定値で、第三者認証の有無は各論文の要旨では示されていません。表に並べたのは本記事による整理で、構造・材料・測定条件の異なる結果です。
4. 面積を広げると効率が下がる4つの理由
Nikbakhtら(2025年)は、文献のモジュール効率を有効面積に対して並べ、一般に面積が大きくなるほど効率は下がると整理しています。 理由として、膜の被覆と均一性の不完全さによる効率のばらつき、ペロブスカイト層の欠陥密度の増加による電荷の取り出しの悪化、 そして透明電極のシート抵抗が高いことによる直列抵抗の増加を挙げ、抵抗損失を抑えるために大きなセルを小さなサブセルに分けて直列につなぐと説明しています事実。
④について、NRELのレビューは、大面積化の評価ではPL・EL(発光)イメージングやロックイン・サーモグラフィーで短絡点・弱いダイオード・高抵抗の部分を見つけることが重要だとしています。 短絡したサブセルはELで暗く見え、短絡点はジュール発熱でサーモグラフィーに明るく映ります事実。 Nikbakhtらも、面積が大きくなるとつなぐセルの数が増えて直列抵抗が上がり、フィルファクターが下がること、大きなセルではP2加工由来の欠陥も効きうることを指摘しています事実。
実例では、CSIROなどのR2Rモジュールで、小面積セル最高15.5%に対して、直列接続の大面積モジュール(有効面積約50 cm²)は11.0%でした事実。 Nikbakhtらは、大面積のセルから最大150倍の大きさのモジュールに広げても、効率の低下を19%未満に抑えたとしています事実。
5. 本稿の計算:短冊の幅には最適値がある
Di Giacomoら(2020年)は、薄膜モジュール用のモデルを使い、損失を次の式で表しています事実。 w_active=セルの発電部の幅、w_int=P1からP3までのつなぎ目の幅、R_SH=透明電極のシート抵抗、J_MPP・V_MPP=最大出力点の電流密度と電圧です。
- つなぎ目の面積の損失:f_G = w_int ÷(w_int + w_active)
- 透明電極の抵抗損失:f_TCO =(J_MPP ÷ V_MPP)×(R_SH ÷ 3)× w_active³ ÷(w_active + w_int)
同論文は計算例の前提として、R_SH=15 Ω/□、J_MPP=19 mA/cm²、V_MPP=850 mVを置いています事実。 この式と前提を使い、セルの幅を変えたときの損失を計算してみます。
前提本稿の計算
- 式と R_SH・J_MPP・V_MPP の値は Di Giacomo ら[参考資料3]のもの
- つなぎ目の幅 w_int は、同論文の試作と同じ0.5 mmと、Nikbakhtら[参考資料6]のP1〜P3間隔0.18 mmの2通り
- 2つの損失を単純に足し合わせる近似を使い、P2の接触抵抗と欠陥による損失は含めない
計算の骨格:J_MPP÷V_MPP×R_SH÷3 = 190 A/m² ÷ 0.85 V × 15 Ω ÷ 3 ≒ 1,118 /m²(=0.001118 /mm²)。これにセル幅の3乗を掛け、(セル幅+つなぎ目幅)で割ります。
| セル幅 | つなぎ目の面積損失 (w_int 0.5 mm) | 透明電極の抵抗損失 | 合計 (w_int 0.5 mm) | 合計 (w_int 0.18 mm) |
|---|---|---|---|---|
| 3 mm | 14.3% | 0.9% | 15.1% | 6.6% |
| 5 mm | 9.1% | 2.5% | 11.6% | 6.2% |
| 7 mm | 6.7% | 5.1% | 11.8% | 7.8% |
| 10 mm | 4.8% | 10.6% | 15.4% | 12.7% |
| 15 mm | 3.2% | 24.3% | 27.6% | 26.0% |
- つなぎ目0.5 mmのとき:損失が最小になるのはセル幅約5.8 mmで、合計約11.4%
- つなぎ目0.18 mmのとき:最小はセル幅約4.2 mmで、合計約6.0%
セル幅5 mm・つなぎ目0.5 mmでのGFFは 5 ÷ 5.5 = 90.9% となり、Di Giacomoらの試作モジュールのGFF(90.9%)と一致します。 同論文は、この寸法でセルからモジュールへの損失を3%程度と見込んでいます事実。これは有効面積基準の値で、本稿の計算の抵抗損失(有効面積基準で約2.8%)と整合します。
前提と限界:損失の足し合わせは近似で、P2の接触抵抗、欠陥・短絡、電極端部の集電、光の当たり方の違いは含めていません。 この計算は「短冊を細くしても太くしても損をする」という設計の構造を示すためのもので、特定のモジュールの効率を予測するものではありません。
6. 素材技術者の視点①:透明電極のシート抵抗が、短冊の幅を決める
Di Giacomoらは、透明電極(TCO)は透明性を保つために厚くできず、シート抵抗はおおむね7〜60 Ω/□の範囲に制限されると書いています事実。 さらに、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)で得やすい7 Ω/□を使えば、より幅の広いセルにでき、開口面積の損失の最小値を4.6%まで下げられると試算する一方で、 導電性の高い透明電極は透明性が下がるため、全体の効率は良くならない可能性があるとし、 7 Ω/□より下げるには集電グリッドの追加が必要で、今度はグリッドの影との釣り合いを取ることになると述べています事実。
第5章の式では、透明電極の抵抗損失はシート抵抗 × セル幅の2乗に比例します。 つまり、透明電極のシート抵抗が半分になれば、同じ損失でセル幅を約1.4倍(√2倍)にでき、つなぎ目の数を減らせるということです本稿の計算。
モジュールの設計図は、透明電極という1つの材料の物性(シート抵抗と透過率のトレードオフ)から逆算して決まっています。 透明導電膜の成膜条件やドーパントを1つ改良すると、セル幅・スクライブ本数・レーザー加工時間・GFFまで連鎖して変わる—— 材料の改良がそのまま「生産設計」の変更になる分野です(本記事による解説)。 透明電極の材料そのものは、本シリーズ「透明導電膜」編で詳しく扱います。
7. 素材技術者の視点②:P2は「接触抵抗」の問題である
NRELのYangら(2018年)は、スプレー塗工したTiO2電子輸送層と、ブレード塗工したペロブスカイト層・正孔輸送層でモジュールをつくりました。 そこで分かったのは、サブセルのつなぎ目(P2)に残ったTiO2層がモジュール性能に大きく影響することでした。 TiO2を薄くすると、つなぎ目の接触がショットキーダイオード的な挙動からオーミックな挙動に変わり、 10 nmのTiO2で主にフィルファクターが改善しました事実。
- 4セル直列のモジュールで、開口面積約10.36 cm²の安定化効率15.6%、有効面積換算で17.9%、GFF約87.3%事実
- Di Giacomoらは、P2の接触の良し悪しを転送長(L_T)で評価し、L_Tが0.06 mmなら幅10 µm以上のP2で抵抗損失は0.1%未満になると計算しています事実
- 同論文は、P2の最適化を光学顕微鏡の見た目だけで判断せず、エネルギー分散型X線分析(EDX)と転送長測定を組み合わせています事実
つまりP2は、「溝を掘る」加工の問題であると同時に、「異種材料の界面をどうつなぐか」という接触抵抗の問題です。 下層を傷めずに上の層だけを取り切るレーザーの選択除去性、溝の底に残る薄膜の電気的な性格(整流性か、オーミックか)、 削りかすの再付着——どれも材料側の設計(層の厚さ、光吸収、熱伝導、界面の化学)で大きく変わります(本記事による解説)。 電荷輸送層の選び方は、本シリーズ「電荷輸送層とセル構造」編で扱います。
8. ロールツーロール ― 全工程を巻きながらつくった実証

2024年、CSIRO(オーストラリア連邦科学産業研究機構)などのグループは、Nature Communicationsで全工程をR2Rでつくったペロブスカイト太陽電池モジュールを報告しました。 著者らは、直列接続したセルからなるモジュールを、工業用のR2R印刷装置だけで、大気中でつくった初の実証だとしています事実。
| 項目 | 論文の記載 |
|---|---|
| 基材と層構成 | PET/透明電極/SnO2/FA0.45MA0.55PbI3/HTAB/P3HT/カーボン/Ag |
| 真空工程をなくす工夫 | 高価な真空蒸着の金属電極を印刷したカーボン電極に置き換えた |
| ペロブスカイト層の塗工 | スロットダイ、ウェブ速度0.3 m/min、塗工幅13 mm。塗工ヘッドの約10 cm後ろに幅10 cmのエアブレードを置き、窒素を吹き付けた |
| 条件探索 | 20通りの条件で1,600セルの一括評価を行い、広い条件空間を短期間で最適化 |
| 効率 | 小面積セル最高15.5%、直列接続の大面積モジュール(有効面積約50 cm²)11.0% |
| コストの見通し | 年100万 m²の生産を想定すると、オーストラリアで約0.7 USD/Wと予測(論文内のコストモデル)未確定/将来 |
コストの見通し以外は事実(Weerasinghe ほか 2024[参考資料7])。0.7 USD/Wは論文著者のコストモデルによる予測で、実際の製造コストではありません。
これより前の2018年には、Douら(ACS Energy Letters)が、室温・大気中で印刷したペロブスカイト膜が塗工後1秒以内に高い結晶化度と配向を示すことを高速のその場X線回折で確かめ、 全層ブレード塗工セルで最高19.6%、スロットダイ塗工セルで17.3%、一部の工程をR2Rのスロットダイで行ったフレキシブルガラス基板のセルで14.1%を報告しています事実。
NRELのレビューは、R2Rで大きな制約になるのがアニール(加熱処理)の時間だと指摘しています。 ペロブスカイト層のアニールには通常5〜120分かかり、長いとR2Rラインが非現実的な長さになる、というものです事実。 次の章で、その意味を数字で確かめます。
9. 本稿の計算:アニール時間がラインの長さを決める
前提(本稿が置いた仮定)本稿の計算
- 炉の長さ = ウェブ速度 × 滞留時間(炉の中を通る時間)とし、ロールの往復・蛇行搬送は考えない
- 滞留時間は、NRELのレビューが示す5〜120分と、短縮例の1分を使う
| ウェブ速度 | 1分 | 5分 | 30分 | 120分 |
|---|---|---|---|---|
| 0.3 m/min(CSIROらのペロブスカイト塗工) | 0.3 m | 1.5 m | 9 m | 36 m |
| 3 m/min(=180 m/h) | 3 m | 15 m | 90 m | 360 m |
| 10 m/min | 10 m | 50 m | 300 m | 1,200 m |
180 m/hは、研究で報告されたブレード塗工の速度で、ParkとZhuのレビューは幅1 mのラインなら年236 MWの生産能力に相当すると紹介しています事実(本シリーズ「塗布製膜」編でも扱いました)。 その速度で塗れても、アニールに30分かかれば炉は90 m必要になります。 滞留時間を1分に縮めれば3 mで済みます。
前提と限界:実際の設備では、炉の中でフィルムを折り返して搬送したり、赤外線や光で加熱時間を縮めたりする工夫があり得ます。 この計算は「塗工速度を上げるほど、後工程の時間がライン長に効いてくる」ことを示すためのもので、特定の設備の寸法ではありません。
NRELのレビューは、前駆体の化学を調整してアニールを10分超から1分未満に短縮した例や、 近赤外線で45分の処理を2.5秒に縮めた例(性能の大きな低下なし)を紹介しています。 一方、キセノンフラッシュで1.5ミリ秒まで縮めた初期の試みは、膜が不均一になり性能も低かったとしています事実。
10. 国内のパイロット・量産計画
経済産業省などの官民協議会がまとめた「次世代型太陽電池戦略」(2024年11月)は、ペロブスカイト太陽電池をフィルム型・ガラス型・タンデム型に分け、 国内では一部の企業で2025年度から事業化が始まる予定であり、フィルム型は耐久性や大型化の面で技術的に世界をリードしているとの認識を示しています事実。 同戦略は、製品としての競争力は「製造装置に化体しない複雑な材料加工や成形、温度・湿度の管理など」の製造プロセスのノウハウによる部分が大きいとも書いています事実。
フィルム型の具体例として、積水化学工業が自社の開発・量産計画を公表しています。以下は同社自身の発表内容です。
| 時期 | 積水化学の公表内容 |
|---|---|
| 2025年1月(事業説明会資料) | 開発状況として、「30cm幅でのRtoR ➡ 1m 幅製造技術確立へ」、変換効率15%を達成(20%を目指す)、耐久性能10年相当を達成(20年を目指す)。課題は生産歩留まりの改善と設置・施工方法の開発 |
| 2024年12月26日 | 取締役会で量産化を決議。2027年に100 MW製造ラインの稼働を目指し、投資総額900億円(補助金込み、建物購入費と100 MW製造設備)。設備稼働開始は2027年4月1日(予定)。2030年にGW級の製造ライン構築を目指す |
| 同上 | 経済産業省のGXサプライチェーン構築支援事業に採択。補助対象経費総額3,145億円、補助金総額1,572.5億円、補助率1/2、生産能力1 GW級 |
| 2026年3月27日 | 「SOLAFIL」の事業開始を発表。現有設備による製造技術の確立と金属屋根向け製品の事業化準備が完了。2026年度は現有設備による限定的な生産量 |
すべて積水化学の発表[参考資料9・10・11]による事実。ただし、15%という効率の測定条件(セルかモジュールか、面積、第三者認証の有無)と、「10年相当」の評価方法は、資料には記載がありません。100 MWライン・GW級の生産は計画です未確定/将来。
11. 課題と、本稿で確認できなかったこと
(1) 最新の認証効率表を本稿では参照できなかった
面積区分ごとの認証効率の一覧である「Solar cell efficiency tables」(最新はVersion 68、2026年7月)は、本稿の作業環境から全文にアクセスできなかったため、本記事では面積区分ごとの最新の認証記録を記載していません。 本記事の効率の数値は、すべて個別の査読論文に記載された値です。認証効率の読み方は、本シリーズ「変換効率と評価指標」編で扱います。
(2) 量産ラインのスクライブ・塗工条件
積水化学は「発電4層精密反応性塗工(ナノレベル)」「微細加工技術(50〜100μm)」を差別化技術に挙げていますが事実、 具体的な塗工法・スクライブ方式・セル幅は、本稿が参照した公表資料では確認できなかったため記載していません。
(3) R2Rでの効率はまだ枚葉を下回る
CSIROらの全工程R2Rモジュール(有効面積約50 cm²)は11.0%で事実、 同じ論文の小面積セル(15.5%)や、ガラス基板で枚葉プロセスによってつくられたモジュールの報告値より低い水準です。 大面積・高速・全工程R2Rで、どこまで効率を保てるかは今後の課題です未確定/将来。
(4) 大面積パネルの屋外実証は始まったばかり
Nikbakhtらは、156 cm²のモジュールをつないだ0.73 m²のパネルを市販の熱可塑性フィルムで熱真空ラミネートして封止し、屋外条件で最大12.0%を得て、ギリシャ・クレタ島の試験場で評価しています事実。 同論文は、過去に1 m²級のパネルが作製後に動作しなかった例や、封止材のラミネート工程の問題で効率が出なかった例にも触れています事実。 封止とラミネートは本シリーズ「封止とバリア層」編、屋外評価は「屋外試験と耐久性評価」編で扱います。
- 大面積では1枚の大きなセルをつくらず、短冊に切ったセルを直列につなぎます事実
- P1は透明電極を分け、P2で上下の電極をつなぎ、P3で上部電極を分けます。つなぎ目は発電しません事実
- 効率は「有効面積」か「開口面積」かで変わります。比較にはGFFの併記が必要です事実
- 損失はつなぎ目の面積・透明電極の抵抗・P2の接触抵抗・欠陥の4つ。論文の前提では、セル幅約5.8 mmで損失が最小(約11.4%)になります本稿の計算
- 全工程R2Rのモジュールは2024年に実証され、有効面積約50 cm²で11.0%です事実
- 積水化学は30 cm幅のR2Rから1 m幅へ、2027年に100 MWラインの稼働を計画しています未確定/将来
12. 用語集
- ロールツーロール(R2R)
- 巻いたフレキシブル基材を送り出しながら連続で加工し、巻き取る生産方式。
- 枚葉
- 基板を1枚ずつ処理する生産方式。ガラス基板で一般的。
- サブセル
- モジュールを構成する、短冊状に分けた個々のセル。
- P1・P2・P3スクライブ
- モノリシック直列接続のための3種類の溝。下部電極の分離、上下電極の接続、上部電極の分離。
- 有効面積
- モジュールのうち、実際に発電するセル部分の面積。
- 開口面積
- つなぎ目を含め、光を当てる範囲の面積。従来の太陽電池ではこの面積で効率を報告する。
- GFF(幾何学的フィルファクター)
- 有効面積 ÷ 開口面積。つなぎ目が細いほど大きい。
- シート抵抗(Ω/□)
- 薄膜の面内の電気抵抗。正方形の大きさによらない値として表す。
- 透明電極(TCO)
- 光を通しながら電気を流す酸化物の膜。ITOやFTOなど。
- 転送長(L_T)
- 接触部で電流が電極に移り切るまでの距離。短いほど接触抵抗が小さい。
- フィルファクター(FF)
- 電流-電圧特性の「角ばり具合」を表す指標。直列抵抗が増えると下がる。
- アニール
- 塗った膜を加熱して結晶化や欠陥の修復を進める工程。
13. 参考資料(一次情報)
- Li Z, Klein TR, Kim DH, Yang M, Berry JJ, van Hest MFAM, Zhu K(NREL)「Scalable fabrication of perovskite solar cells」Nature Reviews Materials 3, 18017 (2018)(DOE Public Access の著者最終稿) https://www.osti.gov/servlets/purl/1430821
- Park NG, Zhu K「Scalable fabrication and coating methods for perovskite solar cells and solar modules」Nature Reviews Materials 5, 333–350 (2020)(DOE Public Access の著者最終稿) https://www.osti.gov/servlets/purl/1605079
- Di Giacomo F, Castriotta LA ほか「Upscaling Inverted Perovskite Solar Cells: Optimization of Laser Scribing for Highly Efficient Mini-Modules」Micromachines 11, 1127 (2020)(PMC全文) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7767295/
- Rakocevic L ほか「Interconnection Optimization for Highly Efficient Perovskite Modules」IEEE Journal of Photovoltaics 7, 404–408 (2017) https://doi.org/10.1109/jphotov.2016.2626144
- Yang M ほか(NREL)「Highly Efficient Perovskite Solar Modules by Scalable Fabrication and Interconnection Optimization」ACS Energy Letters 3, 322–328 (2018) https://doi.org/10.1021/acsenergylett.7b01221
- Nikbakht H ほか「Upscaling Perovskite Photovoltaics: from 156 cm² Modules to 0.73 m² Panels」Advanced Science 12, 2416316 (2025)(PMC全文) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12165116/
- Weerasinghe HC ほか(CSIRO ほか)「The first demonstration of entirely roll-to-roll fabricated perovskite solar cell modules under ambient room conditions」Nature Communications 15, 1656 (2024)(PMC全文) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10933357/
- Dou B ほか「Roll-to-Roll Printing of Perovskite Solar Cells」ACS Energy Letters 3, 2558–2565 (2018) https://doi.org/10.1021/acsenergylett.8b01556
- 積水化学工業「ペロブスカイト太陽電池の量産化に関するお知らせ」2024年12月26日(PDF) https://www.sekisui.co.jp/news/2024/__icsFiles/afieldfile/2024/12/26/241226.pdf
- 積水化学工業「ペロブスカイト太陽電池事業説明会」プレゼンテーション資料 2025年1月7日(PDF) https://www.sekisui.co.jp/ir/event/other/__icsFiles/afieldfile/2025/01/07/20250107PVK.pdf
- 積水化学工業・積水ソーラーフィルム「フィルム型ペロブスカイト太陽電池『SOLAFIL』事業開始のお知らせ」2026年3月27日 https://www.sekisui.co.jp/news/2026/1450530_42699.html
- 次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会(経済産業省)「次世代型太陽電池戦略」令和6年11月(PDF) https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/perovskite_solar_cell/pdf/20241128_1.pdf
14. 主張と出典の対応表(監査)
| 本文の主張 | 根拠 | 区分 |
|---|---|---|
| 大面積基板に単一セルをつくるのは透明電極の抵抗損失のため実用的でなく、サブセルに分けて直列接続すること。接続部がモジュール面積の約3〜10%を占め大きな損失要因であること。GFFの定義。従来は開口面積(指定照射面積)で効率を報告する慣行で、有効面積の報告にはGFF併記が必要なこと、15%・GFF 80%で12%の例。P1〜P3の役割。レーザースクライブが低コスト・高速・高精度で、全レーザーでGFF 94%の例があること。ペロブスカイトは熱に弱く溝付近の劣化・再付着のおそれ。印刷による部分成膜は位置合わせが要りGFFが低くなりやすいこと。PL・EL・ロックインサーモグラフィーで短絡や高抵抗部を見つけること。アニール5〜120分でR2Rラインが非現実的な長さになること、10分超から1分未満への短縮、近赤外で45分から2.5秒、キセノンフラッシュ1.5 msの初期例が不均一で性能が低かったこと | 出典1 https://www.osti.gov/servlets/purl/1430821 | 事実 |
| ブレード塗工で報告された180 m/hという速度と、それが幅1 mのラインなら年236 MWの生産能力に相当するという紹介 | 出典2 https://www.osti.gov/servlets/purl/1605079 | 事実 |
| P1〜P3の定義と、発電しない部分が3本の溝と2つの安全帯でできること。P1が幅15 µmで絶縁できたこと、P2幅60〜300 µm・10 µm間隔の平行溝、P3幅90〜150 µmでP1より難しいこと。損失を幾何・TCO・P2の3つに分ける式、欠陥は計算とのずれで評価すること。R_SH 15 Ω/□、J_MPP 19 mA/cm²、V_MPP 850 mVの前提。セル幅5 mm・つなぎ目500 µmでセルからモジュールへの損失約3%。有効面積15.9%、開口面積14.5%、GFF 90.9%、10.2 cm²。TCOのシート抵抗が約7〜60 Ω/□に制限されること、7 Ω/□で最小損失4.6%、透明性低下で全体効率が良くならない可能性、7 Ω/□未満はグリッドが必要なこと。L_T 0.06 mmで幅10 µm以上のP2なら損失0.1%未満。EDXと転送長測定の併用 | 出典3 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7767295/ | 事実 |
| 4 cm²モジュールで開口面積効率最高15.3%、GFF最高94%。P2接続の最適化 | 出典4 https://doi.org/10.1109/jphotov.2016.2626144 | 事実 |
| スプレーTiO2・ブレード塗工のペロブスカイトと正孔輸送層でモジュール作製。つなぎ目に残るTiO2が性能に大きく影響し、薄くするとショットキーからオーミックに変わること。10 nmでFF改善。4セルで開口約10.36 cm²の安定化15.6%、有効17.9%、GFF約87.3% | 出典5 https://doi.org/10.1021/acsenergylett.7b01221 | 事実 |
| 面積が大きいほど効率が下がる傾向と、その要因(被覆・均一性、欠陥密度、TCEのシート抵抗による直列抵抗)。24セル・セル幅0.5 cm・開口156 cm²・有効150.4 cm²、P1〜P3間隔180 µm、GFF 96.4%。有効面積17.68%(Spiro-OMeTAD)・16.32%(PTAA)。150倍の面積で低下19%未満。セル数増加で直列抵抗が上がりFFが下がること、P2由来の欠陥。0.73 m²パネルを熱可塑性フィルムの熱真空ラミネートで封止、屋外で最大12.0%、クレタ島で評価。過去の1 m²級パネルの不具合例 | 出典6 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12165116/ | 事実 |
| 全工程を工業用R2R印刷装置で大気中につくった直列接続モジュールの初の実証。層構成、カーボン電極への置き換え、スロットダイ0.3 m/min・幅13 mm、エアブレード、20条件1,600セルの評価、小面積15.5%・モジュール(有効約50 cm²)11.0%。著者のコストモデルで年100万 m²生産時に約0.7 USD/Wと予測したこと | 出典7 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10933357/ | 事実 |
| 室温・大気中で印刷した膜が1秒以内に高い結晶化度と配向を示したこと。全層ブレード19.6%、スロットダイ17.3%、一部R2Rのフレキシブルガラス基板セル14.1% | 出典8 https://doi.org/10.1021/acsenergylett.8b01556 | 事実 |
| 量産化の決議、2027年の100 MWライン、投資総額900億円、2027年4月1日稼働予定、2030年GW級、GXサプライチェーン構築支援事業の補助対象経費3,145億円・補助金1,572.5億円・補助率1/2・1 GW級 | 出典9 https://www.sekisui.co.jp/news/2024/__icsFiles/afieldfile/2024/12/26/241226.pdf | 事実 |
| 「30cm幅でのRtoR ➡ 1m 幅製造技術確立へ」、変換効率15%達成(20%を目指す)、耐久性能10年相当達成(20年を目指す)、課題が歩留まりと施工方法。「発電4層精密反応性塗工(ナノレベル)」「微細加工技術(50〜100μm)」 | 出典10 https://www.sekisui.co.jp/ir/event/other/__icsFiles/afieldfile/2025/01/07/20250107PVK.pdf | 事実 |
| SOLAFILの事業開始、現有設備での製造技術確立と金属屋根向け製品の準備完了、2026年度は限定的な生産量、2027年度の100 MWライン立ち上げを最優先 | 出典11 https://www.sekisui.co.jp/news/2026/1450530_42699.html | 事実 |
| フィルム型・ガラス型・タンデム型の分類、一部企業で2025年度から事業化予定、フィルム型が耐久性や大型化で世界をリードとの認識、競争力が製造プロセスのノウハウによる部分が大きいこと | 出典12 https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/perovskite_solar_cell/pdf/20241128_1.pdf | 事実 |
| 100 MWラインの稼働、GW級の製造ライン、R2Rで効率をどこまで保てるか、CSIROらのコスト予測 | 計画・予測であり実績ではない。本稿の調査時点(2026年9月)で100 MWラインの稼働を示す一次情報は確認していない(解説) | 未確定/将来 |
| セル幅と損失の表・曲線(最小約5.8 mm・約11.4%、つなぎ目0.18 mmで約4.2 mm・約6.0%)。GFF 5÷5.5=90.9%の照合。シート抵抗半分でセル幅√2倍。炉の長さ=ウェブ速度×滞留時間の表 | 本稿の計算。式と前提値は出典3、つなぎ目0.18 mmは出典6、滞留時間は出典1、速度は出典7と出典2による。損失の単純和、P2接触・欠陥を含めないことは本稿の前提 | 本稿の計算 |
| 最新の効率表(Version 68)の面積区分別の認証記録。積水化学の15%の測定条件・10年相当の評価方法。量産ラインの塗工法・スクライブ方式・セル幅 | 本稿の作業環境から全文にアクセスできなかった、または公表資料に記載がなかったため記載していない(解説) | 解説 |
| 損失を4つに整理したこと、欠陥に当たる確率が面積とともに増えるという読み取り。材料の改良がそのまま生産設計の変更になるという読み取り。P2を接触抵抗の問題とする整理 | 公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各機関・著者が表明した見解ではない | 解説 |
| 図1・図2・図3・図4・図6が実際の断面・装置・測定データではなく説明のための作図であること。ヒーロー画像と図5がAI生成イメージであること | 本記事による注記(解説) | 解説 |
最終更新:2026年9月25日/出典は一次情報(査読論文、NRELのDOE Public Access著者最終稿、経済産業省の戦略文書、積水化学工業の公表資料)に限定しています。 構造の整理や材料・プロセス上の読み取りを含むため、それらは「解説」として出典付きの事実と区別しています。 最新の効率表(Version 68)の面積区分別の認証記録、積水化学の効率の測定条件と耐久性の評価方法、量産ラインの具体的な工程条件は、本稿では確認できなかったため記載していません。 本記事で紹介した効率は、面積の定義・認証の有無・測定方法が論文ごとに異なり、互いに直接比較できるものではありません。 図はすべて説明用の概念図です。図1・図2・図3・図4・図6はベクター作図、ヒーロー画像と図5はAI生成イメージであり、いずれも実際の断面写真・装置・製品の実物を示すものではありません。