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フレキシブル太陽電池|ペロブスカイト太陽電池 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

フレキシブルなペロブスカイト太陽電池
― 軽さと引き換えに、温度と曲げの制約を背負う

樹脂フィルムなどの曲がる基板の上に作るペロブスカイト太陽電池です。 経済産業省の戦略は、フィルム型の重量を一般的なシリコン太陽電池の1/10とし、 耐荷重の小さい屋根などへの導入を掲げています。 ただしフィルムの上では、高温の工程が使えず、曲げで膜が割れ、水分が通りやすくなります。

構成:経済産業省「次世代型太陽電池戦略」(2024年11月)、査読論文(Nature・Nature Materials・Nature Communications・Science Advances・Nano-Micro Letters ほか)、LONGi の公式発表を一次情報として使用/最終更新 2026年9月

暗い背景の中で、濃い色の無地の薄いフィルムが一枚、ゆるやかな弧を描いて置かれ、表面に柔らかな光が流れている概念イメージ
概念図(AI生成イメージ)。「薄く、軽く、曲げられる太陽電池」という性質を雰囲気として表現したものです。実際の製品・構造・電極・色を示すものではありません。
この記事の構成
  1. フレキシブル太陽電池とは(3行でつかむ)
  2. 何がうれしいか ― 軽さと設置場所
  3. 効率の現在地 ― 単接合とシリコンタンデム
  4. 工程温度の天井 ― フィルムの上で使える温度
  5. 素材技術者の視点①:「低温で緻密」を材料側で実現する
  6. 曲げとひずみ ― 膜はどこで割れるか
  7. 素材技術者の視点②:割れを止めるのは「接着」と「応力の逃がし方」
  8. 本稿の計算:重さあたりの出力
  9. 強みと課題
  10. 用語集/参考資料/出典対応表
本記事の表記ルール

事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・目標・見通しであり、実績が確認できていない事項
このほか、構造の整理や材料設計上の読み取りは「解説」として区別しています。 変換効率には認証の有無・セル/モジュールの別・面積を必ず併記します。

1. フレキシブル太陽電池とは(3行でつかむ)

フレキシブルなペロブスカイト太陽電池(フィルム型)とは、ガラスの代わりに、樹脂フィルムなどの曲がる基板の上に作るペロブスカイト太陽電池です。 ペロブスカイトの層は溶液から低温で作れるため、樹脂の上にも載せられます。

  • なぜ注目されるか:経済産業省の「次世代型太陽電池戦略」(2024年11月)は、フィルム型を低温で製造でき、軽量かつ柔軟で、自由度の高い設置形態に対応できると位置づけています事実
  • どれくらい軽いか:同戦略は、ペロブスカイト太陽電池の重量を一般的なシリコン太陽電池の1/10、容積を1/20とし、フィルム型は1.5 kg/m²として試算しています事実
  • 何が難しいか:Nano-Micro Letters の総説(Xu ら, 2022)は、フレキシブル基板に繰り返しの曲げに耐える柔軟性、高い透明性、後の成膜のアニールに耐える熱安定性、水分の侵入を防ぐ気密性が求められるとしています事実
この記事でいちばん大事な一行

フレキシブル化とは、「基板をガラスからフィルムに替えること」ではなく、「すべての層の工程温度・機械特性・バリア性を、フィルムに合わせて設計し直すこと」です。 ガラスの上で使えた 500℃ の焼成も、350℃ 超の FTO も、フィルムの上では使えません事実。 曲げれば透明電極が割れます事実。

2. 何がうれしいか ― 軽さと設置場所

次世代型太陽電池戦略は、ペロブスカイト太陽電池の特徴を「軽量で柔軟という特徴を有し、建物壁面など、これまで設置が困難であった場所にも導入が可能」と説明しています事実。 そのうえで、次のような方針を示しています。

項目次世代型太陽電池戦略(2024年11月)の記載
導入目標2040年に約20GWの導入を目指す(大幅なコスト低減等が進んだ場合は約40GW〜)
発電コストGI基金で2025年までに20円/kWh、2030年までに14円/kWhが可能となる技術を確立。2040年には自立化が可能な発電コスト(10円/kWh〜14円/kWh以下)の実現を目指す
生産体制2030年を待たずにGW級の生産体制の構築を目指す
公共部門従来型の太陽電池では設置が困難であった耐荷重の小さい屋根等への率先導入を政府実行計画に位置付ける
重量・容積一般的なシリコン太陽電池の1/10(重量)、1/20(容積)。フィルム型は1.5 kg/m²として試算
需要見込みの前提屋根・壁面は 150 W/m²(変換効率15%)、窓は 75 W/m²(同7.5%)と設定

導入目標・コスト・生産体制は未確定/将来(政府の目標・見通し)。重量・容積・需要見込みの前提は戦略文書が置いた試算条件です。出典はいずれも経済産業省「次世代型太陽電池戦略」[参考資料1]。

なお同戦略は、フィルム型では材料の加工・成形、製造プロセスに係るノウハウが競争力を左右するとも述べています事実。 材料と工程の知恵がそのまま競争力になる分野だ、ということです(本記事による解説)。

3. 効率の現在地 ― 単接合とシリコンタンデム

区分効率面積・条件報告
単接合セル(フレキシブル)認証 25.55%面積は本稿が確認した本文に記載なし。論文内の最高値は25.88%Zhong ら(Science Advances, 2026)
単接合モジュール(フレキシブル)21.77%/19.23%5 cm × 5 cm/10 cm × 10 cm。論文の報告値Zhong ら(2026)
単接合モジュール(フレキシブル)22.22%57.6 cm²。論文の報告値Tang ら(Nature Communications, 2026)
シリコンタンデム(フレキシブル)認証 33.6%開放電圧 2.015 V。面積は要旨に記載なしWang ら(Nature, 2025)
シリコンタンデム(フレキシブル)認証 33.4%/29.8%1 cm²/260 cm²。厚さ60 µm のシリコンを使用Fang ら・LONGi(Nature, 2025)
シリコンタンデム(フレキシブル)認証 29.88%開口面積 1.04 cm²(定常値29.2%)Sun ら(Nature Communications, 2025)

すべて事実(Zhong ら[参考資料7]、Tang ら[参考資料8]、Wang ら[参考資料10]、Fang ら[参考資料11]、Sun ら[参考資料9])。論文ごとに認証機関・面積・測定条件が異なり、効率表のような統一基準の一覧ではありません。

LONGi は自社の発表で、260 cm² の 29.8% を Fraunhofer ISE が認証し、1 cm² 級の値は米国 NREL が認証したとしています事実。 同社は用途として宇宙用や車載など、軽量・フレキシブルで高出力が求められる分野を挙げています未確定/将来。

4. 工程温度の天井 ― フィルムの上で使える温度

工程の温度と、フィルム上での変化点(文献の値を並べたもの) 棒の長さは温度(℃)。1℃ = 0.7 px の比例尺。条件は文献ごとに異なる NiOのスプレー熱分解(ガラス上) FTOの成膜 PEN上ITOの抵抗が上がる温度 PET上ITOの抵抗が上がる温度 SnO2ナノ粒子の電子輸送層 ペロブスカイト(低温逐次成膜) IZOの成膜 500℃ 350℃超 235℃ 180℃超 150℃ 110℃ 100℃ ※ NiO 500℃とペロブスカイト110℃はChenら[参考資料4]、FTO・IZOはXuら[参考資料2]、PEN・PET上のITOはChavanら[参考資料3]、   SnO2はJiangら[参考資料5]によります。赤い破線はPET上ITOの変化点(180℃)の位置です。 ※ PET・PENの抵抗の値は基板そのものの耐熱温度ではなく、その上のITOのシート抵抗が上がり始めた温度です。 ※ 7項目を選んで並べたのは本記事によるもので、網羅的な比較ではありません。
図1 概念図(ベクター作図)。各温度は Chen ら[参考資料4]、Xu らの総説[参考資料2]、Chavan らの総説[参考資料3]、Jiang ら[参考資料5]の記載によります。7項目を並べたのは本記事による整理で、装置・時間・雰囲気などの条件は文献ごとに異なります。PET・PEN の値は、その上の ITO のシート抵抗が上がった温度であり、フィルム自体の耐熱温度ではありません。

図1から読めるのは、ガラスの上で当たり前に使われていた高温工程の多くが、フィルムの上では使えないことです(本記事による解説)。

  • Xu らによると、FTO は350℃超の基板温度で成膜され、高分子基板には使えません。一方、IZO は100℃、ITO・AZO・IWO は室温で作製できます事実
  • Chavan らの総説は、PET 上の ITO は180℃超、PEN 上の ITO は235℃でシート抵抗が上がったという報告を紹介しています事実
  • 2015年の Fu ら(Nature Communications)は、従来の高効率セルが約500℃で作る TiO2 を電子輸送層に使っていたことが、プラスチック上のフレキシブルセルと両立しないと指摘しています事実

5. 素材技術者の視点①:「低温で緻密」を材料側で実現する

素材技術者の読みどころ:焼かずに良い膜を作る、という課題

ガラスの上なら、酸化物は焼いて結晶化・緻密化させればよい。フィルムの上ではそれができません。 そこで効いてくるのが、最初から結晶として出来上がった材料を、低温で膜にする発想です。

2016年の Jiang ら(Nature Energy)は、低温の溶液プロセスで作る SnO2 ナノ粒子を電子輸送層に使い、 150℃で作製できるセルで認証効率 19.9 ± 0.6% を得て、大規模生産に向く方法だとしています事実。 結晶化を粒子を作る段階(合成)に前倒しし、膜にする段階では並べて乾かすだけにする——ナノ粒子分散液の技術がそのまま効く場面です(本記事による解説)。

透明電極でも同じ構図があります。Xu らは、室温の DC スパッタで作った ITO が非晶質で、シート抵抗が高く、透過率が低く、表面が粗く、柔軟性も不十分になると述べ、 プラズマアーク式イオンプレーティングで作った ITO が PET 上でシート抵抗 15.75 Ω/□・透過率 85.88% の平滑な膜になった例、 無色ポリイミド上では300℃までのアニールで結晶化とドーパントの活性化が進み、PET 上より低いシート抵抗になった例を紹介しています事実。

つまり選択肢は2つです。耐熱性の高いフィルム(無色ポリイミドなど)を使って温度の天井を上げるか、 成膜法や材料を工夫して、低い天井の下で良い膜を作るか。 前者はフィルムメーカーの、後者はインク・ターゲット・成膜装置のメーカーの領分です(本記事による解説)。

6. 曲げとひずみ ― 膜はどこで割れるか

Xu らは、フレキシブルなペロブスカイト太陽電池が満たすべき目安として、半径4 mm で1,000回曲げた後に初期効率の約90%を保つことを挙げ、 ITO を使ったセルでこれに近づくのは難しいとしています。曲げの繰り返しでITO 膜にひびが入り、シート抵抗が上がるためです事実。 ITO の厚さを約400 nm から160 nm に減らすことで、曲げ半径4 mmでも良好な機械的耐久性を得た例もあります事実。

曲げたとき、表面はどれだけ伸びるか(本稿の計算) 表面ひずみ ε ≒ 厚さ t ÷(2 × 曲げ半径 R)。厚さの中央で曲がると仮定した単純な式 外側の表面は伸びる 内側の表面は縮む 黄色の破線:伸び縮みしない中立面 薄いほど、同じ半径でも伸びは小さい 計算例(本稿の計算) ① 厚さ60 µm・半径40 mm 約0.075% Fangらの薄型シリコンと曲げ試験の条件に相当 ② 厚さ3 µm・半径1 mm(仮定) 約0.15% Kaltenbrunnerらの3 µmのセルを想定した仮の条件 ③ 厚さ125 µm・半径4 mm(仮定) 約1.6% 125 µmは本稿の仮定。半径4 mmはXuらが挙げた目安 ※ 60 µm・40 mmはFangら[参考資料11]、3 µmはKaltenbrunnerら[参考資料6]、4 mmはXuら[参考資料2]によります。 ※ ②の半径1 mmと③の厚さ125 µmは本稿の仮定です。ひずみの値はすべて本記事の計算で、公表値ではありません。 ※ 実際の積層体では、層ごとの弾性率の違いで中立面がずれるため、この単純な式どおりにはなりません。 ※ 図の曲がり方・厚みは模式です。
図2 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。厚さ60 µm と半径約40 mm は Fang ら[参考資料11]、厚さ3 µm は Kaltenbrunner ら[参考資料6]、半径4 mm は Xu ら[参考資料2]によります。ひずみの値(約0.075%・0.15%・1.6%)は本記事が算出したもので、公表値ではありません。②の半径1 mm、③の厚さ125 µm は本稿の仮定です。
本稿の計算:厚さと半径で決まる表面の伸び
  • 式(仮定):厚さの中央が伸び縮みしない中立面になると仮定すると、表面ひずみ ε ≒ t ÷(2R)
  • ① t = 60 µm、R = 40 mm:60×10⁻⁶ ÷(2 × 0.040)= 7.5×10⁻⁴ = 約0.075%本稿の計算
  • ② t = 3 µm、R = 1 mm(仮定):3×10⁻⁶ ÷(2 × 0.001)= 1.5×10⁻³ = 約0.15%本稿の計算
  • ③ t = 125 µm(仮定)、R = 4 mm:125×10⁻⁶ ÷(2 × 0.004)= 1.56×10⁻² = 約1.6%本稿の計算

読み取り:同じ「曲がる」でも、厚さが40倍違えば、同じ半径での表面の伸びも40倍違います。 厚い基板の表面に載った脆い酸化物膜(ITO など)にとって、小さな半径の曲げは厳しい条件になりえます(本記事による解説)。 前提と限界:実際の積層体では各層の弾性率が違い、中立面の位置もずれます。どのひずみで ITO が割れるかは、本記事の参考資料では確認していません。

7. 素材技術者の視点②:割れを止めるのは「接着」と「応力の逃がし方」

暗い背景の中で、濃い色の薄い膜がゆるやかに湾曲し、その縁に沿って柔らかな光の筋が走っている概念イメージ
図3 概念図(AI生成イメージ)。「曲げても割れず、はがれない薄膜」を雰囲気として表現したものです。実際の製品・層構成・曲げ半径を示すものではありません。
素材技術者の読みどころ:わざと「ゆるい層」を入れて、ひずみエネルギーを吸わせる

2025年の Nature 論文(Fang ら、LONGi など)は、フレキシブルなシリコンタンデムの課題を、 環境ストレスの繰り返しで生じる機械的応力が界面のはく離と劣化を招くことだと述べています事実。 対策は2層のバッファ層です。ALD のパージ時間を調整して作った「ゆるい」SnOx 層がひずみエネルギーを散逸させ、 緻密な SnOx 層が確かな電気的接触を保つ。同時に、後のスパッタでのイオン衝撃も和らげます事実。 その結果、曲率半径約40 mm で43,000回曲げた後も初期効率の97%超、−40〜85℃ の熱サイクル250回後も約97%を保ったとしています事実。

これは、接着や複合材料の技術者にはなじみのある設計です。 硬い層どうしを直接つなぐと、界面に応力が集中してはがれる。間に「柔らかい層」を入れて応力を逃がす—— 塗膜のプライマー、接着剤の応力緩和層、多層フィルムの中間層と同じ考え方です(本記事による解説)。 違うのは、その層が数十 nm の酸化物で、しかも電気を通さなければならないことです。

接着そのものを強くする方向もあります。2025年の Nature Communications 論文(Li ら)は、 ムール貝の水中接着に学び、ドーパミン基を多く持つ多分岐の高分子でペロブスカイトの粒と基板を多方向から結びつけ、 フレキシブルセルで 24.43%、湿度65%・曲げ半径3 mm で10,000回曲げた後も初期効率の 94.1% を保ったと報告しています事実。 「湿った環境でもはがれない接着」は、まさに接着剤の研究テーマです(本記事による解説)。

透明電極の側でも工夫があります。Wang ら(Nature, 2025)は、その場でアニールした IZO を前面の透明電極に使い、光電特性と機械特性の両方を大きく改善したと報告しています。 半径17.6 mm で5,000回曲げた後に初期効率の91%を保ち、1,000時間の高温高湿試験後も90%を保ったとしています事実。

8. 本稿の計算:重さあたりの出力

フレキシブル太陽電池の価値を測る物差しのひとつが、重さあたりの出力(W/g)です。 一次情報に出てくる3つの数字を、同じ単位にそろえてみます。

重さあたりの出力 ― セルとモジュールで桁が違う 単位はW/g。左の2つは論文の報告値、右は戦略文書の試算条件から本稿が換算した値 23 W/g 厚さ3 µmの超薄型セル 安定化効率12%(2015年) Kaltenbrunnerらの報告値 1.77 W/g 60 µmシリコンのタンデム フレキシブル(2025年) Fangらの報告値(最大) 約0.1 W/g フィルム型モジュール 150 W/m² ÷ 1.5 kg/m² 本稿の計算(戦略の試算条件) 23 ÷ 0.1 = 約230倍。重さの大半は、発電層ではなく「包むもの」 基板・バリアフィルム・封止材・配線などがモジュールの重さを決める(本記事の読み取り) ※ 23 W/gはKaltenbrunnerら[参考資料6]、1.77 W/gはFangら[参考資料11]の報告値です。 ※ 約0.1 W/gは、戦略文書[参考資料1]の試算条件(150 W/m²、1.5 kg/m²)から本記事が換算した値です。 ※ 3つは対象(セル/モジュール)も測定条件も異なります。重さの内訳は参考資料では確認していません。 ※ 「包むもの」が重さを決めるという読み取りは本記事による解説です。
図4 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。23 W/g は Kaltenbrunner ら[参考資料6]、1.77 W/g は Fang ら[参考資料11]の報告値です。約0.1 W/g と約230倍は、経済産業省の戦略文書[参考資料1]の試算条件から本記事が算出した値で、公表値ではありません。セルとモジュールでは対象が異なるため、直接の性能比較ではありません。
本稿の計算:3つの数字をそろえる
  • フィルム型モジュール:戦略文書の試算条件 150 W/m²(効率15%)÷ 1.5 kg/m² = 100 W/kg = 約0.1 W/g本稿の計算
  • 一般的なシリコン太陽電池の重さ(戦略文書の比から逆算):1.5 kg/m² × 10 = 約15 kg/m²本稿の計算(戦略文書が示した「1/10」から逆算した目安で、実測値ではありません)
  • 60 µm のシリコンウェハだけの重さ:シリコンの密度を 2.33 g/cm³(本稿の仮定)とすると、60 µm × 1 m² = 60 cm³ → 約140 g/m²本稿の計算
  • このウェハで効率29.8%(入射1,000 W/m²)なら 298 W ÷ 140 g = 約2.1 W/g。報告値の最大1.77 W/g に近く、セルの重さの大半はシリコンウェハだと読めます本稿の計算

前提と限界:150 W/m² と 1.5 kg/m² は戦略文書が需要見込みなどの試算に置いた条件で、特定製品の実測値ではありません。 Fang らの 1.77 W/g がどの面積・構成で算出されたかは、本稿が確認した要旨の範囲では分かりません。

この計算から見えるのは、モジュールの軽さを決めるのは発電層ではなく、それを包む材料だということです(本記事による解説)。 Xu らが挙げた水分の侵入を防ぐ気密性を、ガラスではなくフィルムで実現しなければなりません事実。 バリアフィルムと封止材の設計は、本シリーズ「封止とバリア層」編で扱います。

9. 強みと課題

フレキシブルなペロブスカイト太陽電池の強みと課題(本記事による整理) 強み 課題 重さはシリコンの1/10(戦略の試算) 耐荷重の小さい屋根や曲面に置ける 低温の溶液プロセスで作れる 単接合で認証25%台の報告 Siタンデムで認証33%台の報告 セル単体では23 W/gの報告 高温の焼成・成膜が使えない 曲げでITOなどの酸化物膜が割れる 界面のはく離と応力の集中 フィルムで水分を止める必要 効率の統一基準の一覧が乏しい 導入目標・コストは未確定 ※ 各項目は戦略文書[参考資料1]、各論文[参考資料2〜11]の記載と、本稿の計算(第6章・第8章)によります。 ※ 2つに整理したのは本記事によるもので、業界で定まった評価ではありません。
図5 概念図(ベクター作図)。各項目は経済産業省の戦略文書[参考資料1]、各論文[参考資料2〜11]の記載と、本記事の計算(第6章・第8章)によります。強みと課題の2つに整理したのは本記事によるもので、業界で定まった評価ではありません。

(1) 導入目標とコストは、まだ目標の段階

2040年約20GW、2030年14円/kWh、2030年を待たずに GW 級の生産体制——いずれも政府の目標です未確定/将来。 本稿の調査時点(2026年9月)で、これらの達成状況を一次情報で確認することはできませんでした。 発電コストの考え方は、本シリーズ「均等化発電原価」編で扱います。

(2) 長期の耐久性

この記事で紹介した耐久性の数字(10,000回・43,000回の曲げ、1,000時間の高温高湿など)は、いずれも実験室での加速試験です事実。 フィルム型が屋外で何年もつかは、本稿の調査範囲の一次情報では確認できませんでした未確定/将来。

(3) 効率の比べ方

フレキシブルのセル・モジュールの効率は、論文ごとに認証機関・面積・測定条件が異なり、効率表のような統一基準の一覧で横並びに比べることは難しい状況です(本記事による解説)。 評価指標については本シリーズ「変換効率と評価指標」編で扱います。

この記事のまとめ
  • フィルム型はシリコンの1/10の重さ(1.5 kg/m² として試算)で、耐荷重の小さい屋根などへの導入が掲げられています事実
  • 2040年約20GW などの導入目標・コスト目標は、まだ目標の段階です未確定/将来
  • フィルムの上では 350℃ 超の FTO も 500℃ の焼成も使えません。PET 上の ITO は 180℃ 超で抵抗が上がった報告があります事実
  • 表面の伸びは厚さ ÷(2 × 半径)で決まり、厚さ125 µm・半径4 mm なら約1.6%本稿の計算
  • 「ゆるい」バッファ層でひずみを逃がし、ムール貝に学んだ接着で湿気に耐える——接着・応力緩和の技術が効いています事実
  • セル単体では 23 W/g、モジュールでは約0.1 W/g。重さを決めるのは「包むもの」です本稿の計算

10. 用語集

フレキシブル太陽電池(フィルム型)
樹脂フィルムなど曲がる基板の上に作る太陽電池。軽く、曲面にも置ける。
PET/PEN
ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンナフタレート。透明な樹脂フィルム基板。
無色ポリイミド(CPI)
耐熱性の高い透明なポリイミドフィルム。PET より高い温度に耐える。
曲げ半径(曲率半径)
曲げたときの円弧の半径。小さいほど強く曲げている。
表面ひずみ
曲げたときに表面が伸び縮みする割合。厚さに比例し、曲げ半径に反比例する。
中立面
曲げたときに伸びも縮みもしない面。単純な板では厚さの中央。
重さあたりの出力(W/g)
太陽電池の出力を重さで割った値。軽さの指標。
はく離
積層した層どうしの界面がはがれること。応力の集中で起こる。
バッファ層(応力緩和層)
層の間に入れて、応力や後の工程の損傷を和らげる薄い層。
ドーパミン基
ムール貝の接着たんぱく質に含まれるカテコール構造。湿った面にも付く。
イオンプレーティング
プラズマでイオン化した材料を基板に当てて成膜する方法。
GI基金
グリーンイノベーション基金。政府が技術開発を支援する基金事業。

11. 参考資料(一次情報)

  1. 経済産業省(次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会)「次世代型太陽電池戦略」2024年11月(PDF) https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/perovskite_solar_cell/pdf/20241128_1.pdf
  2. Xu, Y. ほか「Recent Progress of Electrode Materials for Flexible Perovskite Solar Cells」Nano-Micro Letters 14, 117(2022年、オープンアクセス) https://doi.org/10.1007/s40820-022-00859-9
  3. Chavan, G.T. ほか「A Brief Review of Transparent Conducting Oxides (TCO): The Influence of Different Deposition Techniques on the Efficiency of Solar Cells」Nanomaterials 13, 1226(2023年、オープンアクセス) https://doi.org/10.3390/nano13071226
  4. Chen, M. ほか「Low-temperature sequential deposition for efficient inverted perovskite solar cells」Nature Communications 16, 5746(2025年、オープンアクセス) https://doi.org/10.1038/s41467-025-61144-y
  5. Jiang, Q. ほか「Enhanced electron extraction using SnO2 for high-efficiency planar-structure HC(NH2)2PbI3-based perovskite solar cells」Nature Energy 2, 16177(2016年) https://doi.org/10.1038/nenergy.2016.177
  6. Kaltenbrunner, M. ほか「Flexible high power-per-weight perovskite solar cells with chromium oxide–metal contacts for improved stability in air」Nature Materials 14, 1032–1039(2015年) https://doi.org/10.1038/nmat4388
  7. Zhong, Y. ほか「Homogenizing out-of-plane strain distribution for high-performance flexible perovskite photovoltaics」Science Advances 12, eaec3238(2026年、オープンアクセス) https://doi.org/10.1126/sciadv.aec3238
  8. Tang, Q. ほか「Buried-interface homogenization by asymmetric polymeric self-assembled layers powers efficient, durable flexible perovskite photovoltaics」Nature Communications 17(2026年、オープンアクセス) https://doi.org/10.1038/s41467-026-73276-w
  9. Sun, Y. ほか「Flexible perovskite/silicon monolithic tandem solar cells approaching 30% efficiency」Nature Communications 16, 5733(2025年、オープンアクセス) https://doi.org/10.1038/s41467-025-61081-w
  10. Wang, S. ほか「Flexible perovskite/silicon tandem solar cells with 33.6% efficiency」Nature 649, 59(2025年オンライン公開) https://doi.org/10.1038/s41586-025-09849-4
  11. Fang, Z. ほか(LONGi など)「Flexible perovskite/silicon tandem solar cell with a dual-buffer layer」Nature 649, 65(2025年オンライン公開) https://doi.org/10.1038/s41586-025-09835-w
  12. LONGi「Nature Consecutively Publishes LONGi's Breakthroughs in HIBC and Flexible Silicon-Based Tandem Solar Cells」2025年11月13日 https://www.longi.com/en/news/breakthroughs-in-hibc-and-flexible-silicon-based-tandem-solar-cells-nature/
  13. Li, Z. ほか「Boosting mechanical durability under high humidity by bioinspired multisite polymer for high-efficiency flexible perovskite solar cells」Nature Communications 16, 1771(2025年、オープンアクセス) https://doi.org/10.1038/s41467-025-57102-3
  14. Fu, F. ほか「Low-temperature-processed efficient semi-transparent planar perovskite solar cells for bifacial and tandem applications」Nature Communications 6, 8932(2015年、オープンアクセス) https://doi.org/10.1038/ncomms9932

12. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
フィルム型が低温で製造でき、軽量かつ柔軟で、自由度の高い設置形態に対応できること。「軽量で柔軟という特徴を有し、建物壁面など、これまで設置が困難であった場所にも導入が可能」。重量は一般的なシリコン太陽電池の1/10、容積は1/20、フィルム型は1.5 kg/m² として試算。耐荷重の小さい屋根等への率先導入を政府実行計画に位置付けること。需要見込みで屋根・壁面150 W/m²(効率15%)、窓75 W/m² と設定したこと。フィルム型では材料の加工・成形と製造プロセスのノウハウが競争力を左右すること経済産業省「次世代型太陽電池戦略」(2024年11月)出典1 https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/perovskite_solar_cell/pdf/20241128_1.pdf事実
2040年約20GW(大幅なコスト低減等で約40GW〜)の導入目標。2025年20円/kWh・2030年14円/kWh の技術確立、2040年10〜14円/kWh 以下の目標。2030年を待たずに GW 級の生産体制の構築政府の目標・見通しであり、実績ではない。出典1 https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/perovskite_solar_cell/pdf/20241128_1.pdf未確定/将来
フレキシブル基板に求められる性質(柔軟性・透明性・熱安定性・気密性)。FTO は350℃超で高分子基板に使えず、IZO は100℃、ITO・AZO・IWO は室温で作製できること。半径4 mm・1,000回で約90%という目安と ITO での困難、ひびとシート抵抗の上昇。ITO を約400 nm から160 nm に薄くして半径4 mm で良好な耐久性を得た例。室温 DC スパッタの ITO が非晶質で性能が劣ること。イオンプレーティングの ITO が PET 上で15.75 Ω/□・85.88%。無色ポリイミド上で300℃までのアニールにより結晶化とドーパント活性化が進み PET 上より低いシート抵抗になった例Xu ら(Nano-Micro Letters, 2022)出典2 https://doi.org/10.1007/s40820-022-00859-9事実
PET 上の ITO は180℃超、PEN 上の ITO は235℃でシート抵抗が上がったという報告Chavan ら(Nanomaterials, 2023)出典3 https://doi.org/10.3390/nano13071226事実
ガラス上の NiO を500℃のスプレー熱分解で作製、ペロブスカイトを110℃の低温逐次成膜で作製したことChen ら(Nature Communications, 2025)出典4 https://doi.org/10.1038/s41467-025-61144-y事実
低温溶液プロセスの SnO2 ナノ粒子を電子輸送層とし、150℃で作製でき、認証効率19.9 ± 0.6%、大規模生産に向くとしたことJiang ら(Nature Energy, 2016)出典5 https://doi.org/10.1038/nenergy.2016.177事実
厚さ3 µm の超薄型フレキシブルセル、安定化効率12%、重さあたりの出力23 W/gKaltenbrunner ら(Nature Materials, 2015)出典6 https://doi.org/10.1038/nmat4388事実
フレキシブルセルで最高25.88%、認証25.55%、5 cm角・10 cm角のモジュールで21.77%・19.23%Zhong ら(Science Advances, 2026)出典7 https://doi.org/10.1126/sciadv.aec3238事実
57.6 cm² のフレキシブルモジュールで22.22%Tang ら(Nature Communications, 2026)出典8 https://doi.org/10.1038/s41467-026-73276-w事実
フレキシブルなシリコンタンデムで認証29.88%(定常29.2%、開口面積1.04 cm²)Sun ら(Nature Communications, 2025)出典9 https://doi.org/10.1038/s41467-025-61081-w事実
フレキシブルなシリコンタンデムで認証33.6%、開放電圧2.015 V。半径17.6 mm・5,000回の曲げ後に91%、1,000時間の高温高湿試験後に90%。その場アニールの IZO 前面電極で光電特性と機械特性を改善Wang ら(Nature, 2025)出典10 https://doi.org/10.1038/s41586-025-09849-4事実
機械的応力による界面のはく離と劣化の課題。ALD のパージ時間を調整した「ゆるい」SnOx 層がひずみエネルギーを散逸し、緻密な SnOx 層が電気的接触を保つ2層バッファ。スパッタのイオン衝撃の緩和。厚さ60 µm のシリコン、1 cm² で認証33.4%、260 cm² で認証29.8%、重さあたり最大1.77 W/g。曲率半径約40 mm・43,000回で97%超、−40〜85℃・250回で約97%Fang ら(Nature, 2025)出典11 https://doi.org/10.1038/s41586-025-09835-w事実
260 cm² の29.8% を Fraunhofer ISE が、小面積の値を NREL が認証したこと。用途として宇宙用・車載などを挙げたこと(用途は同社の見通し)LONGi ニュースリリース(2025年11月13日)出典12 https://www.longi.com/en/news/breakthroughs-in-hibc-and-flexible-silicon-based-tandem-solar-cells-nature/事実
ムール貝の水中接着に学んだドーパミン基の多分岐高分子、フレキシブルセルで24.43%、湿度65%・半径3 mm・10,000回で94.1%Li ら(Nature Communications, 2025)出典13 https://doi.org/10.1038/s41467-025-57102-3事実
従来の高効率セルが約500℃で作る TiO2 を使っており、プラスチック上のフレキシブルセルと両立しないことFu ら(Nature Communications, 2015)出典14 https://doi.org/10.1038/ncomms9932事実
表面ひずみ(約0.075%・0.15%・1.6%)。フィルム型モジュールの約0.1 W/g、シリコン約15 kg/m²(1/10からの逆算)、60 µm ウェハの約140 g/m² と約2.1 W/g、23 ÷ 0.1 = 約230倍。図1の比例尺本稿の計算。ε ≒ t/(2R) は中立面が厚さの中央にあると仮定した単純式。半径1 mm・厚さ125 µm・シリコン密度2.33 g/cm³ は本稿の仮定。150 W/m² と 1.5 kg/m² は戦略文書の試算条件で実測値ではない。セルとモジュールは対象が異なる本稿の計算
フィルム型の屋外での長期耐久性、導入目標・コスト目標の達成状況、ITO が割れるひずみの値本稿の調査範囲の一次情報では確認できなかったため記載していない(解説)未確定/将来
フレキシブル化を「すべての層の再設計」とみなす整理。結晶化を合成段階に前倒しするというナノ粒子の読み取り。耐熱フィルムか低温成膜かという2つの選択肢の整理。「ゆるい」バッファ層をプライマー・応力緩和層・中間層と同じ発想とみなす読み取り。湿潤接着を接着剤の研究テーマとみなす読み取り。モジュールの重さは「包むもの」が決めるという読み取り。効率の統一基準の一覧が乏しいという整理。強みと課題の2分類公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各機関・各研究者が表明した見解ではない解説
図1・図2・図4・図5が説明のための作図であること。ヒーロー画像と図3がAI生成イメージであること本記事による注記(解説)解説

最終更新:2026年9月25日/出典は一次情報(経済産業省の戦略文書、査読論文、企業の公式発表)に限定しています。調査会社の市場推計は使っていません。 効率の値には、認証の有無と、確認できた範囲で面積を併記しました。 Zhong らの認証25.55% と Wang らの認証33.6% のセル面積、Fang らの 1.77 W/g の算出条件、ITO が割れるひずみの値、フィルム型の屋外での長期耐久性については、公開された一次情報で確認できなかったため記載していません。 図はすべて説明用です。図1・図2・図4・図5はベクター作図、ヒーロー画像と図3はAI生成イメージであり、いずれも実際の断面写真・顕微鏡像・製品の実物を示すものではありません。