COMPANY PROFILE / 細胞培養技術
リプロセル
― iPS細胞の研究用試薬と受託で稼ぎ、再生医療等製品の承認に賭ける
リプロセルは、京都大学・東京大学の技術を基に2003年に設立された、iPS細胞に特化したバイオ企業です。 山中伸弥教授が世界で初めてヒトiPS細胞を作ったときに使われた培養液「Primate ES Cell Medium」の会社、と同社は説明しています。 売上の約87%は研究用の試薬・細胞・受託サービスで、残りが再生医療等製品の開発と臨床用iPS細胞の受託製造です。 2026年6月24日には、台湾企業から導入した幹細胞製品「ステムカイマル」の製造販売承認申請を行いました。 本稿では、細胞培養の分野に何を投じ、誰と組み、何を目指しているかを、法定開示と会社の公式発表だけで整理します。
- 30秒でわかるリプロセルと、細胞培養技術での立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- 細胞培養技術の世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模
- 細胞培養にかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社は細胞培養技術で何を目指しているか
- 細胞培養分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるリプロセルと、細胞培養技術での立ち位置
再生医療の開発(従)臨床用iPS細胞の受託製造も行う
DMFに登録済み2025年7月に登録完了と会社が公表
細胞培養技術に関わる企業は、受託開発製造(CDMO)・装置や消耗品や培地のサプライヤー・細胞治療や再生医療の開発企業の3種類に分けられます。 リプロセルの主たる類型はサプライヤー(iPS細胞用の培養液・試薬・細胞、研究受託サービス)で、 従たる類型が細胞治療・再生医療の開発です 事実。 有価証券報告書は売上の約87%が「研究支援事業」だと書いています。 また「細胞培養」には、①抗体などのバイオ医薬品を作るための動物細胞培養(CHO細胞など)と、②細胞そのものが製品になる細胞治療・再生医療の2つがありますが、 リプロセルが関わるのは②と、その手前の研究用途です。有価証券報告書には①(抗体医薬の生産用培養)に関する事業の記載はありません。
2. ロゴと社名の表記について
リプロセルのロゴは同社の商標です。本稿では生成画像による再現を行わず、
公式サイトから取得した画像を img/reprocell_logo.png として設置しています。
表記の注意:法人名は「株式会社リプロセル」、英文名は ReproCELL Incorporated です。 ロゴと海外子会社名は大文字の REPROCELL(REPROCELL USA Inc.、REPROCELL Europe Ltd.)を使っています。 本稿では日本語の「リプロセル」に統一します。 再生医療等製品「ステムカイマル(Stemchymal®)」は台湾のSteminent Biotherapeutics社が開発・製造する製品で、リプロセルは日本での独占的な開発・販売の権利を持つ立場です。
公式サイト:https://reprocell.co.jp/3. 細胞培養技術の世界で、この会社はどこにいるか
リプロセルの事業は、有価証券報告書上、次の2つのセグメントに分かれています 事実。
| セグメント | 中身 | 細胞培養との関係 | 本稿での類型 |
|---|---|---|---|
| 研究支援事業 | iPS細胞用の培養液・抗体・リプログラミング試薬・成長因子、ヒト生体試料(約60万検体のバンク)、iPS細胞の作製・分化誘導・遺伝子編集の受託、ヒト組織を使う創薬試験の受託、細胞測定機器の販売 | 研究用の細胞培養に使う材料と技術サービス | サプライヤー(主) |
| メディカル事業 | 再生医療等製品4品目の研究開発、臨床用iPS細胞とその関連の受託製造、臨床検査の受託 | 細胞そのものを製品にする開発と、その出発材料の製造受託 | 細胞治療・再生医療(従)+小規模なCDMO |
4. 会社の規模
リプロセルは連結従業員101人、売上高22億円規模の会社です。会社全体がほぼ細胞関連の事業なので、会社の数字がそのまま「細胞培養にかかわる事業の規模」に近いと考えてよい会社です 事実。
| 指標(連結) | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高(千円) | 2,234,568 | 2,953,272 | 2,426,817 | 2,978,627 | 2,233,519 |
| 経常損益(千円) | △507,409 | △119,670 | 40,191 | 45,053 | △581,333 |
| 親会社株主に帰属する当期純損益(千円) | △575,094 | △305,313 | △31,415 | 103,245 | △591,693 |
| 従業員数(人) | 98 | 92 | 96 | 99 | 101 |
セグメントと地域(2026年3月期)
| セグメント | 売上高 | 前期比 | セグメント損益 |
|---|---|---|---|
| 研究支援事業 | 1,952,479千円 | 19.1%減 | 利益 96百万円(前期比84.5%減) |
| メディカル事業 | 281,039千円 | 50.2%減 | 損失 43百万円(前期は158百万円の利益) |
| 全社費用(配分しない費用) | ― | ― | 633百万円 |
| 地域(顧客の所在地) | 日本 | 米国 | 欧州 | その他 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高(千円) | 517,610 | 1,189,341 | 443,232 | 83,334 | 2,233,519 |
| 構成比 | 23.2% | 53.2% | 19.8% | 3.7% | 100% |
構成比は有価証券報告書の金額から本稿が計算したもの 本稿の計算。海外(日本以外)の合計は76.8%で、有価証券報告書の「海外売上比率は約7割」という記載と整合します。
2026年3月期の営業損失は860百万円(前期は130百万円の損失)でした。会社は減収の理由を「米国のバイオ関連予算の縮減による受注停滞」と説明しています 事実。 直近の2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)は売上高546百万円(前年同期比14.9%増)、営業損失310百万円で、通期は売上高2,629百万円、営業損失630百万円を予想しています 未確定/将来。
有価証券報告書の「事業等のリスク」には、研究開発費や治験費用が収益に先行して継続的な営業損失が出ていることから、 「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象または状況が存在」すると書かれています 事実。 同時に会社は、現金及び預金2,603百万円と短期運用の有価証券3,904百万円があり「財務基盤については安定」とも書いています。 「疑義を生じさせる事象がある」ことと「疑義がある(注記が付く)」ことは別の段階であり、本稿は後者とは書きません。
5. 細胞培養にかけているリソース
小さな会社なので、人・金・出資・大学連携の4点すべてについて、法定開示に具体的な記載があります。
| リソース | 一次情報で確認できた内容 | 確認 |
|---|---|---|
| 人(組織・拠点・人数) | 連結101人(研究支援事業70人、メディカル事業7人、全社24人)。研究開発従事人員は21名。拠点は本社(新横浜)、殿町・リプロセル再生医療センター(川崎市。特定細胞加工物製造許可 FA3200006)、REPROCELL USA(米国メリーランド州。GMP製造施設)、REPROCELL Europe(英国グラスゴー。GLP準拠施設)、Bioserve Biotechnologies India(インド) | 確認できた |
| 金(研究開発費・設備投資) | 研究開発費627百万円(研究支援事業401百万円、メディカル事業225百万円)。販売費及び一般管理費の約33%。設備投資は98,389千円(研究支援36,530千円、メディカル55,350千円。主に研究機器)。重要な設備の新設計画は「ありません」 | 確認できた |
| 資金調達 | 2026年5月27日、CVI Investments, Inc.を割当先とする株式・新株予約権の発行プログラムを決議。最大約50億円(差引手取概算4,961百万円)を見込み、TIL療法に1,000百万円、GPC-1 CAR-T療法に2,000百万円、新規パイプラインに1,521百万円、運転資金等に440百万円を充てる計画。新株は6月・7月・9月の3回で計1,111百万円を払込済み 本稿の計算 | 確認できた |
| 外部への出資・買収 | 買収:Reinnervate(英国・3次元培養デバイス、2014年)、BioServe(米国・生体試料バンク、2014年)、Stemgent のiPS細胞事業部門(米国、2014年)、Biopta(英国・創薬受託、2015年)。出資:Steminent(台湾)、Histocell(スペイン)、GenAhead Bio(「投資先」と記載)。合弁:MAGiQセラピューティクス(米Q Therapeuticsと2018年設立、持分50%) | 確認できた |
| 大学・研究機関との連携 | 慶應義塾大学医学部産婦人科学教室(TIL療法の技術移転・共同研究)、京都大学大学院医学研究科・国際医療福祉大学医学部(GPC-1 CAR-T療法の共同研究)、AMEDの公募事業に2件採択、カリフォルニア州再生医療機構(CIRM)と臨床用iPS細胞の提供で協力 | 確認できた |
| 出資額・持分比率 | Steminent・Histocell・GenAhead Bioへの出資額と持分比率 | 確認できず |
リプロセルが臨床用iPS細胞で売っているのは、完成した治療用細胞ではなく、その出発材料(シードクローンとマスターセルバンク)です 事実。 同社はRNAを使ってiPS細胞を作る方法(RNAリプログラミング)を採り、「遺伝子変異リスクや外来遺伝子・ウイルス残存リスクを最小限に抑えた」と説明しています。 材料の立場からいえば、細胞治療では一度出発材料を決めて治験に入ると、あとから取り替えるのが非常に難しいという性質があります。 出発材料を替えると、同等性を示すデータを取り直す必要があるためです。 リプロセルが米国FDAのドラッグマスターファイル(DMF)に登録したのは、顧客が申請時にその細胞の品質データを参照できるようにするためで、 採用されれば長く使われる材料になるという構図を狙っていると読めます 未確定/将来。
ただし、採用した顧客の数や、それによる売上は開示されていません。確認できたのは、米国Gameto社がこの細胞を使った技術で2025年2月にFDAから第III相試験のIND(治験届)クリアランスを得た、という会社の記載だけです。
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 2003年2月 | 京都大学(中辻憲夫教授)と東京大学(中内啓光教授)の技術シーズを基に設立 | 大学発の幹細胞ベンチャーとして出発 |
| 2005年4月 | ヒトES細胞用の培養液・剥離液・凍結保存液の製造販売を開始 | 培養液の会社としての出発点 |
| 2012年6月 | ヒトiPS細胞由来肝細胞などの細胞製品の製造販売を開始 | 試薬から「細胞そのもの」の販売へ |
| 2013年6月 | 大阪証券取引所JASDAQ(グロース)に上場 | 現在は東証グロース市場 |
| 2014〜2015年 | Reinnervate(英国)、BioServe(米国)、StemgentのiPS細胞事業部門(米国)、Biopta(英国)を買収 | 海外拠点と研究支援事業の骨格を買収で作った |
| 2016年11月 | 台湾Steminent社とステムカイマルの日本での共同開発・販売契約を締結 | 再生医療等製品の開発に参入 |
| 2018年4月 | 米Q Therapeuticsと合弁会社MAGiQセラピューティクスを設立 | iPS細胞由来神経グリア細胞の開発を開始 |
| 2018年12月 | ステムカイマルが希少疾病用再生医療等製品に指定 | 優先審査などの支援措置の対象に |
| 2019年5月/2021年3月 | 殿町・リプロセル再生医療センター開設/特定細胞加工物製造許可を取得 | 国内の細胞加工拠点 |
| 2021年6月 | 米国メリーランド州に臨床用iPS細胞の製造施設「SiMS」を開設 | 米国での臨床用iPS細胞製造 |
| 2022年5月 | ステムカイマルの国内第II相臨床試験が完了 | 承認申請の前提データ |
| 2022年10〜11月 | CIRMと臨床用iPS細胞事業の協力で基本合意。Histocell(スペイン)、BioBridge Global(米国)との提携でiPS細胞由来製品の受託製造事業を開始 | CDMO事業の開始 |
| 2023年6月 | 慶應義塾大学とTIL療法の共同研究契約 | 2024年11月に同社製造のTILで2例目の投与 |
| 2025年7月 | 臨床グレードiPS細胞がFDAのDMFに登録完了 | 米国の顧客が申請で参照できる状態に |
| 2025年10月 | Histocellが同社の臨床用iPS細胞によるMCB・WCB製造でスペイン当局のGMP認証を取得 | 日米欧の3拠点体制(スペインは提携先) |
| 2026年1月/3月 | 臨床用遺伝子編集サービス「StemEdit」開始/米国でGMPマスターセルバンク製造サービス開始 | ドナー選定からセルバンクまでを一貫受託 |
| 2026年6月 | 18日に再生医療等製品製造販売業許可を神奈川県に申請。24日にステムカイマルの製造販売承認を申請(脊髄小脳変性症SCA3型・SCA6型の運動失調の進行抑制) | 自社が製造販売元になるための手続き |
| 2026年7月 | 中国WEIPU社と臨床用iPS細胞事業の戦略的協業契約。TIL療法の製造プロセス開発がAMED事業に採択 | 中国市場とTIL商用製造への準備 |
7. 今後の計画
販売・出荷:リプロセル承認申請の開示に明記
会社は2027年3月期に売上高2,629百万円(前期比17.7%増)、営業損失630百万円を見込んでいます 未確定/将来。 中長期については「研究支援事業及び再生医療受託製造で安定的な収益を確保し、再生医療製品4品目の上市により飛躍的な成長を実現」という方針を示していますが、年次の数値目標は示していません。
次はいずれも一次情報に記載がありません 未確定/将来。
ステムカイマルの承認時期と承認の種類(通常承認か、条件及び期限付承認か)/薬価/発売後の販売目標/ TIL療法とGPC-1 CAR-T療法の治験開始時期/臨床用iPS細胞の受託件数と売上/iPS神経グリア細胞の治験開始時期。 なお「事業計画及び成長可能性に関する事項」にはステムカイマルの薬価を「~14百万円」とする試算が載っていますが、これは会社の仮定に基づく試算で、薬価収載された価格ではありません。本稿では採用しません。
8. この会社は細胞培養技術で何を目指しているか
ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 研究支援事業で稼ぎ、再生医療は株式発行と公的補助金で賄う構造 | 有価証券報告書は「事業収益がこれらの資金需要を賄うには十分ではないことから、公的助成金、第三者割当増資による調達資金を利用」と記載 | 事実 |
| 大手製薬と競合しない希少疾患に的を絞る | 成長可能性資料が「希少疾患を対象とした再生医療等製品に特化し、大手製薬企業とは異なる領域で」事業を進めると明記 | 事実 |
| 再生医療では完成品の製造より「出発材料の供給者」として地位を取りにいく | DMF登録、MCB製造サービス、StemEdit、中国WEIPU社との協業がすべて臨床用iPS細胞という「材料」の外販に向いている。ステムカイマルも製造はSteminent社 | 推測 |
| 開発の重心がステムカイマルからTIL・CAR-Tへ移っている | 約50億円の調達資金のうち3,000百万円がTILとGPC-1 CAR-Tに充てられ、ステムカイマルへの充当は資金使途に書かれていない | 推測 |
| ステムカイマルが承認されれば、同社は初めて自社名義の製品を持つ | 製造販売業許可を申請し「販売・出荷は当社が行う予定」と開示。現時点で承認された再生医療等製品は同社にない | 推測 |
2026年5月27日の資金調達の開示では、調達資金の使い道が①TIL療法1,000百万円、②GPC-1 CAR-T療法2,000百万円、③新規パイプライン1,521百万円、④運転資金等440百万円と並んでいます 事実。 さらに「調達額が減った場合の優先順位」も①→②→④→③と明記されています。 一方、承認申請を目前にしていたステムカイマルは、この使途に項目がありません。 ステムカイマルは製造をSteminent社が担うため、リプロセル側で大きな設備投資が要らないことが理由の1つと考えられます。 つまり「ステムカイマルは申請まで来たので、次の成長をTILとCAR-Tに賭ける」という配分に見えます 未確定/将来。 TILもCAR-Tも患者自身の細胞を体外で増やす治療であり、同社の「細胞を培養する技術」が最も直接的に問われる領域です。
9. 細胞培養分野の提携マッピング
10. 提供している技術・製品・サービス
| 区分 | 製品・サービス | 会社の説明 |
|---|---|---|
| 研究用試薬 | iPS細胞用の培養液、抗体、リプログラミング試薬、成長因子(Stemgentブランドを含む) | 「Primate ES Cell Medium」は山中教授が世界初のヒトiPS細胞作製で使った培養液、と説明 |
| 研究用細胞 | iPS細胞由来の分化細胞、HLAノックアウトiPS細胞株「StemEdit Human iPSC non-HLA」(2025年4月発売)、約60万検体のヒト生体試料 | 免疫拒絶を避ける「ユニバーサルドナー細胞」の研究用 |
| 研究受託 | iPS細胞の作製・分化誘導・ゲノム編集、ヒト組織を使う薬効薬理試験(英国のGLP準拠施設) | 「動物実験からヒト細胞実験へ」の流れを取り込むと説明 |
| 研究機器(代理店) | ナニオンテクノロジーズ(独)の電気生理測定機器、インターサイエンス(仏)の微生物検査機器、イノメ(独)のライブイメージング | 自社の細胞・試薬と組み合わせて提案 |
| 臨床用iPS細胞 | RNAリプログラミングで作ったGMPグレードのシードクローン(FDA DMF登録済み)、マスターセルバンク製造、臨床用遺伝子編集「StemEdit」 | ドナー選定からGMPセルバンキングまでを一貫して提供 |
| 再生医療等製品(開発中) | ステムカイマル(脂肪由来間葉系幹細胞、承認申請済み)、iPS神経グリア細胞(ALS、治験準備)、TIL療法(子宮頸がん、先進医療Bで臨床研究)、GPC-1 CAR-T療法(食道がん、治験準備) | 4品目とも希少疾患・難治がんが対象 |
| その他 | パーソナルiPS(個人のiPS細胞の作製・保管)、iPSエクソソーム、臨床検査(HLAタイピング、郵送検査「ウェルミル」) | メディカル事業に含まれる |
TIL療法は、患者のがん組織から取り出したリンパ球を体外で大量に培養して戻す治療です 事実。 完成品が低分子の薬のように分析だけで規格を決められるものではないので、どんな培地で、どんな容器で、何日培養したかという工程そのものが品質を決めます。 リプロセルは慶應義塾大学から培養法の技術移転を受け、先進医療B用のTILを製造してきたと開示しており、 2026年7月には「薬事規制に適合した商用製造プロセスの構築」がAMED事業に採択されました(補助対象経費の上限92,300千円)。 臨床研究用の培養を、企業治験と承認に耐える工程に作り直す段階に入った、というのが材料側から見た現在地です。 本シリーズの技術解説『培地』『CAR-T細胞』『GMP』もあわせて読むと、この工程移行がなぜ難しいかがわかります。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 継続的な営業損失 | 有価証券報告書に「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象または状況が存在」と記載。2026年3月期の営業損失は860百万円 | 事実 |
| 米国の研究予算への依存 | 売上の53.2%が米国の顧客。2026年3月期の減収理由を会社は「米国のバイオ関連予算の縮減による受注停滞」と説明 | 事実 |
| 承認審査の結果と時期 | ステムカイマルは申請済みだが、会社自身が「承認が得られないリスク」「審査の過程で遅延が起こるリスク」を挙げている | 未確定/将来 |
| ライセンス契約の期間 | 有価証券報告書に記載されたSteminent社との契約期間は2016年11月11日から2026年11月10日まで。延長・更新の有無は一次情報で確認できなかった | 未確定/将来 |
| 株式の希薄化 | CVIとの発行プログラムは4回すべて実行されると、普通株式と新株予約権でそれぞれ12.3%(累計)の希薄化になると会社が説明 | 事実 |
| 為替 | 海外売上比率が約7割で、米ドル・英ポンドに対する円高は減収と為替差損につながる | 事実 |
| 大手の参入 | 会社は「新規参入は大手企業を含めて増加」と書いており、臨床用iPS細胞の供給で資金力の大きい企業と競う可能性がある | 推測 |
12. 用語集
- iPS細胞
- 体の細胞に遺伝子を働かせて作る、さまざまな細胞に変われる幹細胞。本シリーズの技術解説『iPS細胞』で詳しく説明しています。
- RNAリプログラミング
- iPS細胞を作る際に、ウイルスやDNAではなくRNAで遺伝子を働かせる方法。細胞のゲノムに外来遺伝子が入り込まない。
- マスターセルバンク(MCB)
- 製品の出発材料として品質を確認し、凍結保存した細胞の一群。ここから作業用のワーキングセルバンク(WCB)を作る。
- ドラッグマスターファイル(DMF)
- 米国FDAに原材料の品質情報を登録しておく制度。顧客は申請時にその情報を参照できる。
- 条件及び期限付承認
- 再生医療等製品で、有効性が推定され安全性が確認されれば、条件と期限を付けて早期に承認する日本独自の制度。期限内に有効性を確認する必要がある。
- 希少疾病用再生医療等製品
- 国内の対象患者が5万人未満などの基準を満たし、厚生労働大臣が指定した製品。優先審査などの支援を受けられる。
- 特定細胞加工物製造許可
- 再生医療等安全性確保法にもとづき、医療機関の依頼で細胞を加工する施設に与えられる許可。
- TIL療法
- 腫瘍に入り込んだリンパ球(TIL)を取り出して体外で大量に培養し、患者に戻すがん免疫療法。
- CAR-T療法
- 患者のT細胞に、がんの目印を認識する受容体の遺伝子を入れて戻す治療。本シリーズの技術解説『CAR-T細胞』で詳しく説明しています。
- 間葉系幹細胞
- 脂肪や骨髄などから取れる幹細胞。炎症を抑える物質などを出す働きが治療に使われる。ステムカイマルは脂肪由来。
- 先進医療B
- 未承認の医療技術を、国が認めた医療機関で保険診療と併用して行える制度の区分の1つ。
- GMP
- 医薬品などの製造管理と品質管理の基準。本シリーズの技術解説『GMP』で詳しく説明しています。

13. 出典
- 株式会社リプロセル 有価証券報告書 第24期(2025年4月1日〜2026年3月31日、2026年6月26日提出)。会社概要・沿革・事業の内容・セグメント・地域別売上・従業員・研究開発費・設備投資・重要な契約・事業等のリスク・重要な後発事象。 https://reprocell.co.jp/wp-content/uploads/2026/07/25308932_E27585_yuho_260626122114.pdf
- 株式会社リプロセル 事業計画及び成長可能性に関する事項(2026年6月29日)。拠点別人員、パイプラインの状況、日米欧の製造拠点、希少疾患に特化する方針、中長期の成長イメージ、資金調達の概要。 https://reprocell.co.jp/wp-content/uploads/2026/07/b8a99726c2c83484a132c2e1f56c1849.pdf
- 株式会社リプロセル 日本国内における脊髄小脳変性症(SCA3型及びSCA6型)を対象とした幹細胞製品「Stemchymal®」の製造販売承認申請に関するお知らせ(2026年6月24日)。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4978/tdnet/2840077/00.pdf
- 株式会社リプロセル 再生医療等製品製造販売業許可の申請に関するお知らせ(2026年6月18日)。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4978/tdnet/2837414/00.pdf
- 株式会社リプロセル 株式及び新株予約権発行プログラム設定契約締結に係る発行登録並びに第三者割当による新株式及び新株予約権の発行に関するお知らせ(2026年5月27日)。調達資金の使途と優先順位。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4978/tdnet/2823657/00.pdf
- 株式会社リプロセル 第2回第三者割当の払込完了に関するお知らせ(2026年7月16日)。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4978/tdnet/2853149/00.pdf
- 株式会社リプロセル 第3回第三者割当の払込完了に関するお知らせ(2026年9月3日)。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4978/tdnet/2881466/00.pdf
- 株式会社リプロセル 臨床用iPS細胞のGMPマスターセルバンク(MCB)製造サービス開始のお知らせ(2026年3月2日)。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4978/tdnet/2770442/00.pdf
- 株式会社リプロセル 臨床用iPS細胞ビジネスの中国市場展開に向けた戦略的協業契約締結のお知らせ(2026年7月27日)。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4978/tdnet/2856238/00.pdf
- 株式会社リプロセル AMED公募事業に係る提案の採択に関するお知らせ(TIL再生医療等製品の製造プロセス開発、2026年7月24日)。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4978/tdnet/2855971/00.pdf
- 株式会社リプロセル AMED公募事業の採択に関するお知らせ(GPC-1 CAR-T療法の開発、2026年4月2日)。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4978/tdnet/2786299/00.pdf
- 株式会社リプロセル 連結子会社(REPROCELL USA Inc.)に対する補助金の交付決定に関するお知らせ(2026年5月22日)。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4978/tdnet/2820623/00.pdf
- 株式会社リプロセル 当社出資先(Steminent Biotherapeutics Inc.)による幹細胞新薬「Stemchymal®」の米国フェーズ2臨床試験開始およびグローバル展開に関するお知らせ(2026年3月11日)。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4978/tdnet/2774745/00.pdf
- 株式会社リプロセル 2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)(2026年8月13日)。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4978/tdnet/2872458/00.pdf
- 株式会社リプロセル 公式サイト(会社概要・ロゴの確認用)。 https://reprocell.co.jp/
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年9月23日/Troy Technical
本稿の数値はすべて株式会社リプロセルの有価証券報告書、決算短信、事業計画及び成長可能性に関する事項、東京証券取引所への適時開示に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。会社資料に掲載された市場規模の数値(官公庁の報告書を出所とする将来推計)や、会社自身による薬価・売上の試算も採用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。